地層処分
地層処分(ちそうしょぶん)とは、原子力発電や核兵器の開発に伴い発生する高レベル放射性廃棄物やTRU廃棄物の最終処分方法である[1][2]。強い放射能を持つ放射性物質や半減期の長い放射性物質を、人が触れるおそれのない深部地下に埋設することであり、低レベル放射性廃棄物の処分方法である「浅地中処分」とは区別される[注釈 1]。なお重金属や毒性の高い産業廃棄物を地下深部に埋設する処分場が世界に複数存在するが、放射性廃棄物の処分のみを扱う。
概要
[編集]原子力発電、核兵器開発などの工程で生じた高レベル放射性廃棄物は人間にとって極めて有害なレベルの放射能を持つ[注釈 2][3]。高レベル放射性廃棄物がその原料である天然ウラン鉱石全量と同等の放射能に減衰するのに数万年かかり[注釈 3]、数万年にわたる危険性を考慮する必要がある[4]。数万年にわたり人類が廃棄物を保管、管理し続けることは現実的ではなく、人の手に頼らず長期間隔離する処分方法が求められる[5]。その唯一の実用的手段と考えられているのが地層処分である[5]。
日本、フランスを主とした使用済み核燃料の再処理を行う国では地層処分の対象はガラス固化体になるが、再処理を行わない国においては使用済み核燃料そのものが地層処分の対象となる[6]。
地層処分においてはいかに人類を含む生物生活環境からこれら廃棄物を遠ざけるかが考慮され、何段階にもおよぶ防御(バリア)を施したうえで地下300m以深への埋設が行われる[注釈 4][5]。高レベル放射性廃棄物はガラスによって固化し(ガラス固化体)、30年から50年における冷却[注釈 5]を経た後に、オーバーパックと呼ばれる金属などの容器に封入され地下深部に埋設される[5]。これらの多重バリアによって、地表への放射性量は最大となる数十万年後であっても自然放射線の10万分の1以下になるとされる[5]。
2026年9月現在高レベル放射性廃棄物の最終処分施設は稼働していないが、フィンランドのオンカロ使用済み核燃料処分場 (英語版)は2026年にも運用が開始される見込みである。
多重防御(バリア)
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ガラス固化体の地層処分において以下の4段階の遮蔽措置(バリア)が検討されている。人工バリアは放射性物質を生物環境から隔離するために設けられる障壁のうち、最も内側にある第一から第三の機能である。
- 第一バリア ステンレス容器に封入したガラス固化体
高レベル放射性廃棄物は濃縮後ガラスに融解させステンレス製のキャニスターの中で固化する。これをガラス固化体と呼ぶ。30~50年間冷却の為に地上施設で管理貯蔵された後に地層処分される[7]。
- 第二バリア オーバーパック
ガラス固化体の入ったキャニスターは直径約80cm、高さ約170cm、壁厚約20cm、重さ6トンのオーバーパックと呼ばれる金属容器に収納・密閉される。材料には炭素鋼、チタン、銅が検討されているが、炭素鋼が最有力候補である[8]。このオーバーパックにより1000年間の閉じ込めを目指している[8]。
- 第三バリア 緩衝材
オーバーパックの周りを厚さ約70cm粘土製の緩衝材ブロックで囲み、地下水や放射性物質の漏出を遅延させる。粘土はベントナイトを用いる[9]。
- 第四バリア 天然バリア
最後のバリアが天然の岩盤による遮蔽である[10]。地下深部の腐食が起こりにくい性質と地下水の流れの遅さを利用して放射性物質を封じ込める[10]。第一・第二バリアが腐食・破損し放射性物質の漏洩が始まってからも地層により地上への拡散を何万年も押さえ込めるという想定である。
使用済み核燃料を直接処分する場合、人工バリアは使用済み核燃料を封入した金属容器と緩衝材の二つになる[6]。
最終処分場の建設
[編集]最終処分場は、火山活動、断層、隆起・浸食といった将来の地殻変動リスクが少ない場所に建設される[5][11]。また将来人間が接近する可能性が高い鉱物資源のある場所や、地下水の流れが速い場所も避けられる[5][11]。
処分場を建設する地層に関して世界で様々な検討がおこなわれてきた[12]。
- 花崗岩層
岩塩層や泥岩層に比べその堅牢性、安定性が評価されている。一方亀裂の修復は期待できない。
- 粘土質地層
粘土、泥岩層など。展延性(Ductility)による亀裂修復効果が期待されている。
- 岩塩層
岩塩層はその可塑性による亀裂自動修復効果が期待されているが、同時にその可塑性による不安定性が弱点となる。米国のWIPPは岩塩層に建設[12]。ドイツ、オランダで岩塩ドームへの処分が検討された[12]。
- 火山起源地層
遠い将来に向けた警告
[編集]高レベル放射性廃棄物の放射能は時間とともに減衰するが無害のレベルまで崩壊するには数万年以上の時間が必要であり、できる限り長期にわたり処分場の存在、危険性を伝え続けることが望ましい。地層処分は管理や警告を必要とせずとも安全を確保できるとされているが、偶発的な接触や将来世代の意思決定に資するために、情報を残すことが有益、倫理的であるとされる[13]。
社会の劇的な変化により文書等による記録が意味をなさなくなることも考慮し、マーカー・モニュメントを利用した記録の保存も検討されている[13]。
保存されるべき情報のレベルは以下のように区分される[13]。
- 初歩的情報(「何らかの人造物がそこに存在する」)
- 警告情報 (「何らかの人造物が存在し、それは危険なものである」)
- 処分場に関する基本情報 (5W1Hに関する情報)
- 処分場に関する総合情報 (詳細な記述、図表、グラフ、地図、ダイヤグラム等)
- さらに詳細な情報
日本における地層処分
[編集]日本国内に高レベル放射性廃棄物は2022年時点でガラス固化体約26,000本相当が存在している。これらとTRU廃棄物を最終処分するために、ガラス固化体40,000本とTRU廃棄物19,000㎥を埋設できる最終処分場を国内に一か所建設する予定であり[14]、2026年現在候補地を検討中の段階である。
最終処分場は廃棄物の受け入れ、検査、オーバーパックへの封入等を行う地上施設と、地下へのアクセス路となる立坑、斜坑、そして処分坑道が密集した処分パネルからなる地下施設に分けられる[15]。地上施設は1~2㎢の面積を予定しており、その大部分が掘削した土砂を保管するスペースとなる[15]。地下施設は6~10㎢を予定しており、200kmから300kmに及ぶ坑道が掘られる計画である[15]。廃棄物の埋設完了後は地下施設はすべて埋め戻し、地上施設もほとんどが解体され[15]、一定期間保安施設等が残されることになる[16]。
地層処分の研究開発は、日本原子力研究開発機構(JAEA)により1976年より実施されている。JAEAは実際の日本の地下深部に関わる研究を実施するため、2001年に幌延深地層研究センターでの研究、2002年に瑞浪超深地層研究所(岐阜県瑞浪市)の建設を開始し、地層処分や深部地下環境に関わる研究を実施している[17]。
処分地の選定
[編集]2000年、核のごみを地層処分すると定めた最終処分法(特定放射性廃棄物の最終処分に関する法律)が施行された。最終処分場選定の事業を担う原子力発電環境整備機構(NUMO)が発足した。
地層処分場の建設地は、自然災害の影響を受けない、地盤が安定している、有力な鉱物資源が存在しないなどの条件がそろっていることが必要であり、これを調べるため、約20年かけて、文献調査、概要調査、精密調査の3段階の調査をおこなう[18]。
- 文献調査(2年程度)は、自治体が応募するか、国からの申し入れを自治体が受け入れた場合に始まる。電源立地交付金は最大20億円を受け取ることができる。地質に関する文献・データの分析であり、工事は行わない。対話活動の一環とも位置付けられる。
- 概要調査(4年程度)は、ボーリング調査等によって岩石の分布や地下水の流れ方などを調べる。交付金は最大70億円を受け取ることができる。
- 精密調査(14年程度)は、地下300mまでトンネルを掘り、調査試験を行う。
調査、精密調査、処分場の建設では、事前に経産相が調査地の市町村長と知事に意見を聞くことになっており、どちらか一方でも反対すれば先には進めない。施設建設地の選定は、これら3つの調査の後に行われることとなっている。
2017年7月28日、経済産業省資源エネルギー庁は文献調査に先立ち、地層処分の適・不適の別、最終処分場の適地を記した「科学的特性マップ」を公表した[19]。活断層や火山、地下資源を避け、輸送に有利な沿岸部を好ましい地域とした。
2020年、北海道の寿都町と神恵内村で文献調査が開始。2024年、佐賀県玄海町で文献調査が開始[20]。2026年、東京都小笠原村南鳥島における文献調査が開始[21]。
各国の施設
[編集]深地層への放射性廃棄物の保管は20世紀後半から各国で研究・試験がおこなわれてきた。主な施設を以下にあげる。
アメリカ合衆国
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- ニューメキシコ州カールズバッド核廃棄物隔離試験施設(WIPP)は、1999年に操業が始まった米国唯一の地層処分施設[22]。同施設は核兵器の製造工程で生じた放射性廃棄物を受け入れている[23]。TRU廃棄物は含まれるものの、商業原子炉や核燃料由来の高レベル放射性廃棄物は含まれない[23]。2024年までに13,843件のTRU廃棄物を受け入れている[23]。アメリカ合衆国環境保護庁(EPA)は、受動的制度的管理(Passive institutional controls)として、処分施設の場所とその危険性を一万年にわたり伝えるための方法を研究している[24]。
- ユッカマウンテン放射性廃棄物処分場(英版、ネバダ州)は、2002年米国唯一の高レベル放射性廃棄物の処分場として定められたが、オバマ政権下で計画は凍結された[25]。
フィンランド
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- オンカロ廃棄物貯蔵施設(Onkalo waste repository)を最終処分地として決定。2004年に掘削を開始し、2026年現在試験操業中である。花崗岩に囲まれた地下520メートルの場所に100年分の廃棄物の保管を可能にする施設で2026年に操業を開始する予定である。100年後の2120年には施設は埋没処理され、閉鎖される予定となっている。
ドイツ
[編集]一時は処分場とされたが、放射性廃棄物の回収、廃止が決定された。岩塩の坑道跡であり、1967年から1978年にわたり中・低レベル放射性廃棄物約47,000㎥が埋設された[26]。鉱山の地圧による不安定化、地下水の流入が確認されており、長期的な安全のために鉱山から放射性廃棄物を回収することが決定された[26][27]。回収は埋設当初想定されていなかった[28]。回収開始は2033年以降になり、回収の準備費用は約47億ユーロと見積もられている[26]。
岩塩坑道を流用した施設であり、1986年に貯蔵施設として操業許可を受けている[29]。1971年から1998年にかけて約37,000㎥の中・低レベル放射性廃棄物が貯蔵された[29]。封じ込め構造物の建設と鉱山の塩コンクリートによる埋め立てを行い、放射性廃棄物を残したまま閉鎖される予定である[29]。廃止の長期的な安全性を検証している段階である[29]。
ゴアレーベンに存在する岩塩ドームは、1979年以来放射性廃棄物の貯蔵施設の候補地とされ、様々な調査が行われてきた[30]。2020年、長期的な安全性を確保できないとして貯蔵施設候補地から外れた[30]。2030年代初頭に閉鎖予定[30]。
閉鎖された鉄鉱石の坑道跡で、現在建設中。2030年代初頭から処理が開始される見込みである。最大303,000 m³の低・中レベル放射性廃棄物の貯蔵が認可されている[31]。
フランス
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- ムーズ・オート=マルヌ地層研究所の地下試験施設で地下約500メートルの泥岩層にトンネルを掘削し、中・高レベルの放射性廃棄物の処分場とする計画が進行中。2023年に処分場の設置許可を申請しており、2035~2040年に操業許可を得る計画である[32]。
スウェーデン
[編集]エストハンマル自治体のフォルスマルクの地下500mに使用済み核燃料を処分する計画である。2025年着工[33]。操業開始は2030年代の見込み。
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ↑ “原子力発電に伴って生じる「放射性廃棄物」とは何ですか?”. NUMO. 2026年5月20日閲覧。
- ↑ “「地層処分」とは何ですか?”. NUMO. 2026年5月20日閲覧。
- ↑ “わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性”. 2026年5月24日閲覧。
- ↑ “わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性”. p. 1-4. 2026年5月24日閲覧。
- 1 2 3 4 5 6 7 “高レベル放射性廃棄物の処分について一緒に考えてみませんか?”. NUMO. 2026年5月20日閲覧。
- 1 2 “わが国における使用済燃料の地層処分システムに関する概括的評価”. 2026年5月24日閲覧。
- ↑ “ガラス固化体”. 電気事業連合会. 2026年4月6日閲覧。
- 1 2 “オーバーパックとはどのようなものですか?”. NUMO. 2026年4月6日閲覧。
- ↑ “ベントナイトとはどのようなものですか?”. NUMO. 2026年4月6日閲覧。
- 1 2 “天然バリアとは何ですか?”. NUMO. 2026年4月6日閲覧。
- 1 2 “高レベル放射性廃棄物”. 経済産業省資源エネルギー庁. 2026年5月21日閲覧。
- 1 2 3 4 5 “Potential Benefits and Impacts of Advanced Nuclear Fuel Cycles with Actinide Partitioning and Transmutation”. NEA. p. 13. 2026年5月23日閲覧。
- 1 2 3 “地層処分に関わる記録保存の研究”. (財)原子力環境整備促進・資金管理センター. 2026年5月21日閲覧。
- ↑ “わが国における高レベル放射性廃棄物の地層処分の現状・課題について”. NUMO. 2025年5月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2026年4月6日閲覧。
- 1 2 3 4 “地層処分 安全確保の考えかた”. NUMO. 2026年5月21日閲覧。
- ↑ “地層処分施設は最終的にどうなりますか?”. NUMO. 2026年5月21日閲覧。
- ↑ “最終処分事業に係る年表”. NUMO. 2026年4月7日閲覧。
- ↑ エネルギー政策の動向と 文献調査について p11, 経済産業省資源エネルギー庁
- ↑ “科学的特性マップ公表用サイト”. 資源エネルギー庁 電力・ガス事業部 放射性廃棄物対策課 (2017年7月28日). 2017年7月28日閲覧。
- ↑ “放射性廃棄物について> 国内の状況について”. 経済産業省資源エネルギー庁. 2026年4月6日閲覧。
- ↑ “南鳥島(東京都小笠原村)における文献調査の実施について”. NUMO. 2026年5月21日閲覧。
- ↑ “Waste Isolation Pilot Plant (WIPP)”. 米国エネルギー省. 2026年5月21日閲覧。
- 1 2 3 “The Waste Isolation Pilot Plant Completes 25 Years of Operation”. Center on Global Energy Policy. 2026年5月21日閲覧。
- ↑ “Permanent Markers Implementation Plan”. 2026年5月21日閲覧。
- ↑ “米国における高レベル放射性廃棄物処分”. 2026年5月21日閲覧。
- 1 2 3 “Asse II mine”. ドイツ連邦放射性廃棄物機関. 2026年5月20日閲覧。
- ↑ “History of the Asse II mine”. ドイツ連邦放射性廃棄物機関. 2026年5月20日閲覧。
- ↑ “Radioactive waste in the Asse II mine”. ドイツ連邦放射性廃棄物機関. 2026年5月20日閲覧。
- 1 2 3 4 “Morsleben repository”. ドイツ連邦放射性廃棄物機関. 2026年5月21日閲覧。
- 1 2 3 “The Gorleben mine”. ドイツ連邦放射性廃棄物機関. 2026年5月21日閲覧。
- ↑ “Konrad repository”. 連邦放射性廃棄物処分安全庁. 2026年5月20日閲覧。
- ↑ “高レベル放射性廃棄物の地層処分について”. p. 69. 2026年5月20日閲覧。
- ↑ “スウェーデン 使用済み燃料最終処分場が着工”. 2026年5月20日閲覧。
参考文献
[編集]- 島崎英彦・吉田鎮男・新藤静夫編『放射性廃棄物と地質科学 - 地層処分の現状と課題』東京大学出版会、1996年。ISBN 978-4130667029。
- 鳥井 弘之『どう見る、どう考える、放射性廃棄物』エネルギーフォーラム、2007年。
- 土井 和巳『そこが知りたい 放射性廃棄物 −用語解説付−』日刊工業新聞社、1993年。
関連項目
[編集]- 原子力発電
- 放射性廃棄物
- 中間貯蔵施設
- ドライキャスク
- 核燃料サイクル
- 再処理工場
- 六ヶ所低レベル放射性廃棄物埋設センター
- 100,000年後の安全 - ドキュメンタリー