ゴナ
特徴

写研からの依頼を受け、ナールを手掛けた書体デザイナーの中村征宏がデザインした。書体名は「ナカムラ」の「ゴシック」が由来とされる[1]。
伝統的なゴシックでは線の端をやや太くする処理(角立て)を施したり、縦画の起筆にセリフ・打ち込みと呼ばれるアクセントを付けたりしているが、ゴナの場合は線がすべて均等で幾何学的なラインが特徴である。これは欧文書体のUniversやHelveticaと混植・併用しても違和感が少ない文字という発想から来ている[2]。
超極太のゴナUからスタートしていることもあり、ボディいっぱいに字面を大きくしているため、字間を詰める必要のないデザインになっている[2]。このため従来のゴシック体と比較して同じサイズの文字でも大きく見え、字間・行間が狭く見える。
他の書体と異なる特徴は、平仮名の「な」に顕著である。すなわち「な」の右部分(「ナ」以外の部分)の初筆が水平で、その線の左端が縦棒の上端に接続している。この形状は先行するタイポスにも見られる[3]が、「ナ」の横画とそれ以外の初筆の部分の高さが異なる。後発のモリサワ「新ゴ」は高さがそろい、接続もしているが、右上の横画が水平でなく右上がりに見えるようになっている[4]。
略史
1975年、写植文字で最も太い超極太ゴシックとしてゴナUが発表された。従来最も太かった(石井)特太ゴシックよりももっと太い書体を写研から求められた中村が提案したもので、倍以上の太さになった[2]。
1979年にUより若干細い「ゴナE」が発売された。その後「ゴナM」と「ゴナDB」の試作文字が三菱銀行の制定書体と決まったことから書体ファミリー展開が決定し、写研の書体デザイナーの主力であった鈴木勉をリーダーとするチームに、中村が監修を行う形でラインナップをそろえた[5]。また、白抜きの「ゴナO」、影付きの「ゴナOS」などの装飾書体のほか、組み替え用の仮名などがリリースされた。モリサワの「新ゴシック体(現在の新ゴ)」、リョービイマジクスの「ナウG」(2011年にモリサワに譲渡)、フォントワークスの「ロダン」などに多大な影響を与えたといわれる。
モリサワやフォントワークス、それに鈴木勉らが写研を退職して設立した字游工房などが日本語PostScriptフォントを供給することで普及が始まったDTPにより、1992年から写研の経営悪化が始まった矢先の1993年1月、モリサワは前年立ち上げたパッケージブランド「モリサワ・フォント・ライブラリー」で、PostScriptフォント化を終えた「新ゴ」ファミリー4書体の販売を開始した。「新ゴ」のPostScriptフォントは、写研機でしか使用できない「ゴナ」に代わるDTP用のモダンサンセリフ書体としてグラフィックデザイナーらの人気を集め[6]、DTPの普及に拍車をかけた。
これをみた写研は同年3月、モリサワのPostScriptフォントの元になった「新ゴシック体U」「新ゴシック体L」は、自社の「ゴナU」「ゴナM」の複製である、として訴えを起こし、7年間にわたって係争した。しかし最高裁判決では「ゴシック体の範疇を抜けない範囲で制作されたものであるため、ゴナと新ゴシック体が結果的に似てしまうことは避けられない」とし、請求は退けられた[7][8]。この訴訟は現代日本において、書体作家の地位や位置づけを考える上で重要な転換点になったとされている。
DTPの普及は新ゴの隆盛を生み、逆に写植が衰退したことでゴナをはじめとした写研の書体はその活躍の場を失うこととなった。サイン分野では都市高速道路の標識のほか、JR東海の駅構内サインに使用されたが、首都高速道路の標識に関してはモリサワの書体を用いたものへと置き換えが進んでいる。
長らく写研製の手動写植機・電算写植機等のみの対応であったが、2024年10月15日からは、モリサワのクラウド型フォントサービス「Morisawa Fonts」に搭載されたOpenTypeフォント30書体の「写研クラシックス」で、約4000文字の限定的な文字セットながらゴナファミリーのうち「ゴナE」のみ提供が開始された[9][10]。
ファミリー構成
- ゴナL (LNAG)
- ゴナM (MNAG)
- ゴナD (DNAG)
- ゴナDB (DBNAG)
- ゴナB (BNAG)
- ゴナE (ENAG)
- ゴナH (HNAG)
- ゴナU (UNAG)
- ゴナO (ONAG) - アウトライン
- ゴナOS (OSNAG) - アウトライン影付き
- ゴナIN (INNAG) - インライン(白線入り)
- ゴナLB (LBNAG)
- ゴナかなO
- ゴナかなW
- ゴナかなC
脚注
- ↑ Fontdasu (2019年4月23日). “ゴナ、ナールの作者の中村征宏さん✕フォントダス対談”. FONTDASU.COM. 2023年3月9日閲覧。
- 1 2 3 中村征宏「「ナール」「ゴナ」「デジタル書体」の発想から仕上げまで」女子美術大学編『タイポグラフィ・タイプフェイスの現在 : 5人の書体設計家と3人のタイポグラファーの思い』女子美術大学、2007年 ISBN 978-4-88888-833-2 109ページ
- ↑ 亮月製作所 書体のはなし タイポス漢字タイポス
- ↑ 外部サイト亮月製作所 書体のはなし ゴナなどでゴナと新ゴを比較できる。
- ↑ 『鈴木勉の本』 - ウェイバックマシン(2016年3月4日アーカイブ分)
- ↑ フォント関連の知的財産権(5)─フォント千夜一夜物語(20)
- ↑ 事件番号・平成10年(受)332号
- ↑ モリサワ側は写研側の訴えに対抗する形でゴナこそ自社の書体「ツデイ」の複製である、と反訴したが、これも同様の理由で棄却された。
- ↑ “モリサワ 写研書体のOpenTypeフォント開発で今後100フォントをリリースすることを発表 邦文写真植字機発明100周年を皮切りに”. モリサワ (2024年2月13日). 2025年5月5日閲覧。
- ↑ “フォント提供アプリ「MORISAWA PASSPORT for iPad」Ver1.8.0をリリース Morisawa Fonts Packに2024年度新書体を追加”. 株式会社モリサワ (2024年10月15日). 2025年5月5日閲覧。
外部リンク
- ゴナ U UNAG(写研アーカイブサイト)
- 書体見本 ゴナ E(モリサワ公式サイト)
- 中村書体室
- もじマガ 文字の巨人 中村征宏さん その3 - ウェイバックマシン(2007年2月20日アーカイブ分)
- 亮月製作所 書体のはなし ゴナ
- 中村書体室 Instagram