大説

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大説(だいせつ、大達)とは、国際、政治、経済、社会問題について議論する文章だとして現代日本で用いられている言葉である。

古代中国の諸子百家の中に「小説家」があったが、これは日常の出来事に関する意見・主張(村里の多少の知恵者=閭里小知者)、巷の噂話(街談巷語)、または虚構・空想の話(芻蕘狂夫之議)を書いた書物小説を編むものであった[注釈 1]。その対義語は後述の金原瑞人によれば本来存在しなかった。古代中国における小説を英語のノベルと混同して「フィクションの小説」と「四書五経のような文章」が対になるものだと考えた現代日本人が創作した言葉と考えられる。

実は古代中国における小説は現代日本の小説の概念とかなり異なるものであり、中国文学者の高島俊男は「古代中国の小説ではウソを書いてはいけなかったのだが、現代日本人にとって小説とは司馬遼太郎が書いたような面白い作り話を意味するので混乱するであろう」と述べている[1]。

古代中国の小説の概念をまとめた『四庫全書総目提要』小説家類叙では「屈原の『天問』の詩には多くの奇怪な神話が載せられているが、小説家類はそういう奇妙な話や、『世説新語』のような歴史上の人物の細かい逸話を記したものである」「雑史と小説は混ざりやすいが、本来は別物である。雑史とは政治や軍事に関する実録風の読み物、例えば項羽と劉邦の争いを描いた『楚漢春秋』、チンギス・カンの戦いの記録『元朝秘史』など[注釈 2]であり、こういう政治や軍事の読み物や松漠紀聞』のような見聞記は、歴史を書く時の参考になるのだから、いい加減な(原文:庸常)小説と一緒にすべきではない。」と述べている[2]。

『字源』『佩文韻府』などの中国古典の語句を集めた辞書には「大説」という言葉は掲載されておらず、小説の対義語としてごく最近創作された言葉と見られる。法政大学名誉教授で翻訳家の金原瑞人は2020年6月22日の時点で、「小説に対して「大説」という言葉はありません」と述べ、前述の小説に対して四書五経のような経書を「(大説という言葉がもし)あるとしたら、こういう書物のことになるのだと思います。」と述べた[3]。こういう定義が独り歩きし、いつしか「大説」という言葉が古代中国に存在したかのように語られるに至ったが、金原がいうように古代中国にそのような言葉は存在しない。漢文における「大説」は『墨子』非儒下編の「富人有喪乃大說喜曰此衣食之端也。」のように「大喜びする」という意味しか存在しない[注釈 3]。

現代日本では、誉田哲也のように、「小説の対義語」として「大説=四書五経や『日本列島改造論』のような政治家の文章」を取り上げる作家も存在する[4][注釈 4]。

考古学者の吉村作治は「大説とは国家や社会のことを、ひとくくりで評価、評論することで、個々の事情や個人の感情を勘案せずに高い位置から言うものなので、当たらず、さわらずの生ぬるい、生活観のない文章」と定義している[5]。

日本の推理作家である清涼院流水は、「従来のジャンルにおさまりきらない物語」という意味合いで使っており、「小説家」ならぬ「大説家」を自称しているが、これは一般には小説に分類されるものである。

脚注

注釈

  1. ↑ 班固『漢書』芸文志に基づく定義である。「芻蕘狂夫之議」は「木こりや草刈りの合間に語られたホラ話」の意味。花田清輝は『随筆三国志』で「芻蕘狂夫之議」を「愚かな人々の創作話」と考えている。
  2. ↑ 雑史の例は張之洞『書目答問』により現代日本でも良く読まれているものにしている。四庫全書総目提要原文ではもっとマニアックな例が挙げられている。
  3. ↑ 当該箇所は句読の切り方に2説が存在する。1つ目の説は孫詒讓『墨子閒詁』(驚声文物供応公司、民国59年初版)のように「大說、喜曰」(孫は書き下しを付さないが、仮に孫の句読をもとに書き下しにすれば大いに説(よろこ)び、喜びて曰く)と切る説と、明治の通釈書(『漢文大系』『漢籍国字解全書』等)のように「大いに說喜して曰く」と連ねる句読の切り方がある。いずれの読みであっても「大説(悦)=大いに喜ぶ」、野村岳陽訳『墨子・揚子 : 現代語訳 (支那哲学叢書 ; 第8)』(支那哲学叢書刊行会, 大正14)のように「(儒者は)富人の家に不幸が有れば小躍りして喜び、飯の種が見つかったと言って悦んでいる」という意味であり、「小説に対する大説」ではない。
  4. ↑ ただし、中国の目録学では政治家が自己の政治公約について語った文章は史書の一ジャンル「政書」「奏議」とされるため、四書五経の分類(経部)には属さない。

出典

  1. ↑ 高島『本と中国と日本人と』ちくま文庫
  2. ↑ 張舜徽『四庫提要叙講疏』雲南人民出版社、P60およびP119
  3. ↑ 金原瑞人『番外編』note、2020年6月22日
  4. ↑ 「「警察小説大賞」連動企画 ◇ 誉田哲也が明かす「警察小説の極意」後編」小学館『小説丸』、2021/04/22
  5. ↑ 吉村「大説ではなく小説を『教授のお仕事』 (吉村作治 著)」本の話、2012.02.20、2025年1月19日閲覧