緊縛

ウィキペディアから、無料の百科事典

緊縛(きんばく)とは、

  1. 縄等でしっかりと縛るという意。
  2. 主として麻縄、綿ロープなど用い、人体を縛ること。日本においてSM、フェティシズムの一ジャンルとして誕生し、海外ではKinbaku、Shibari、Japanese Bondageなどと呼ばれる。現在はSMの枠にとどまらず、禅、ヨガ、現代アートの中にも取り入れられている。ここで詳説する。

文化的背景

緊縛の起源は江戸時代の捕縄術にさかのぼり、日本の伝統文化と結びついて形成されたという俗説があり、欧米を中心に普及しているが、事実無根である[1][2]。戦後に活躍した緊縛師のなかには、捕縛術を参照し技術として取り入れている者がいることは事実であるが、それは捕縄術が緊縛の起源であることを意味しない。江戸時代には、月岡芳年など、緊縛された人物を描いた無残絵が流行するが、これらはあくまで絵画であり、緊縛の実践とは直接的系譜関係を示唆する史料は発見されていない。大正~昭和にかけて「責め絵」を描いた絵師・伊藤晴雨は、自身の妻をモデルとして妊婦の逆さ吊り実験を行ない、月岡芳年の著名な「奥州安達がはらひとつ家の図」が想像で描かれたものであると結論づけている。

緊縛は、伊藤晴雨を先駆とし、本格的には、1950年代以降、雑誌『奇譚クラブ』を中心に文化として形成された。その担い手は、伊藤晴雨と同じく絵師でもあった須磨利之、『奇譚クラブ』で長らく緊縛グラビアを担当した辻村隆らである。加えて、『読切ロマンス』の編集者であり、同誌に『奇譚クラブ』よりも早く緊縛グラビアを掲載した上田青柿郎がいる[3]。

日本のSMにおいて緊縛は必須プレイとなっており、亀甲縛りなどのさまざまな縛り方が考案されている。これは、第二次世界大戦後のSM雑誌の発展に起因する。1968年(昭和43年)に発刊した『SMマガジン』における編集者・飯田豊一らを中心に次第に縄目の美しさなどへのこだわりから、より複雑なものに発展していった[4]。

緊縛は日本国外にも広まり、ヨーロッパでも実演や指導が行われるようになった[5]。少なくとも1998年にはオランダでの実演が記録されており、その後、ヨーロッパ各地や北米、オーストラリアでもワークショップや指導活動が行われている[6]。

近年では、縄で体をきつく縛る緊縛文化を題材にした作品が、様々な形で登場している。 例えば、2013年には映画自縄自縛の私が公開された。また、SMマンガナナとカオルの劇場版2作目もこの年に公開された。さらに、可愛いマスコットを 亀甲縛りにした「緊縛ストラップ」などがデザインフェスタに置かれた[7]。「自分を縛ることで自分を解き放つ」――「自縄自縛の私」と公式サイトには記されていた[7]。

縛りの技術

人体のように形状に個体差があり柔軟な対象は、縛るだけでは拘束力を維持するのが難しい。両手首を重ねて縛るのみでは容易に脱出されてしまうが、これは関節の可動域を考慮せずに縄をかけたためであり、効果的な拘束には一定の技術や捕縄術が必要となる。ただし、緊縛の目的は拘束状態の維持であり、過剰な圧迫による血流障害から壊死や死に至る事態は避けなければならない。そのため、技術の習得は不可欠である。可動域を奪うために関節部分を固定する、身体の動きによる結び目の緩みを防ぐために体を強固に固定する、といった工夫が求められる。かつて捕縛に従事した役人が学んだ柔術の各流派には、こうした知見に基づく独自の捕縄技法が伝承されていた。

縛る縄

一般的には麻縄と綿製のロープが存在する。一般に緊縛で使用される麻縄はジュート縄が主流となっており、ジュート縄は伸縮が少なく緊縛には向く素材である。表面にケバが立つため“なめし”と呼ばれる処理または手入れが必要となり、手入れを怠るとパートナーに掻痒感を与えることとなる。ジュート縄は比較的滑りにくい自然素材であるため細かなざらつきが皮膚を受け止め、大きな力がかからない限りは皮膚を傷める心配はない。綿ロープはやや伸縮性があり、見た目にはソフト感があり鮮やかであるが力をかけた場合皮膚との摩擦が少ないためズレが生じやすく結果擦過傷を起こす可能性もある。

主な縛り方

手首・足首の縛り方

  • 手錠縛り

上半身(主に腕)主体の縛り方

緊縛の例
緊縛の例2
乳房縛り
乳房縛り
  • 高手小手縛り・後手胸縄縛り(その他、様々な名称がある):最も一般的な縛り方の一つ。後ろ手に組んだ腕の手首を肘より上に縛り、胸の上下に胸縄を巻く。2本の縄を使う。1本目は手首と胸の上側を縛り、2本目は胸の下側を縛る。3本目を使い梁などに釣ることもできる。
  • 片手小手縛り:一方の腕のみを背後に回し固定、首縄と胸に回した縄で上半身を縛る。片手が自由になるために何かさせるための縛り方。
  • 合掌縛り:背後に回した手を合掌させて固定する縛り方。体が柔軟でないと難しい。
  • 鉄砲縛り:片腕を肩の上から、もう一方を側面から背中にまわして縛る方法。鉄砲を背負う形に見立てている。
  • 後頭両手縛り:両手を頭の後ろで組んだ状態で縛る縛り方。西洋では服従のポーズ。
  • 乳房縛り:乳房を上下から潰すようにして縛る縛り方。

全身の縛り方

  • 海老責め:足は座禅を組ませ、そのまま正面から頭を足に近づけ固定する縛り方。一説では体を海老のように曲げるためこう呼ばれる(海老責めをされると顔が茹でた海老のように赤くなるからという説もある)。元は江戸時代の拷問。
  • 逆海老:上半身を縛り上げ、足は背中から頭に近づける縛り方。エビとは逆に背中を反らせるためこの名がある。英語ではhogtie(豚を吊るす縛りの意)という。
  • 座禅縛り:座禅を組んだ状態で足を縛る方法。通常手は背中側に固定する。足首と首を近づけて縛れば海老責めとなる。また、前に倒せば座禅転がしになる。
  • 蟹縛り:左の手首と左の足首、右の手首と右の足首をそれぞれ別々に束ねて縛り、四つんばいにする縛り方。
  • 亀甲縛り:もっとも有名な縛り方。首にかけた二つに束ねた縄を股間から背中に回し、余った縄で手首を固定し、正面の縄を開くように固定する。その際に胸のあたりに六角形を作る。縄目が美しいので見栄えがする。故に手首を縛らずに飾り縄として用いられることもある。
  • 菱縄縛り:亀甲縛りと似ているが、正面の縄目が六角形ではなく菱形を作るように縛る。
  • ホグタイ
乳房縛り

関連人物

緊縛師・調教師
作家・画家
写真家

脚注

  1. ↑ “京大・緊縛シンポの研究不正と学術的問題を告発します②剽窃について|河原梓水|note”. note(ノート). 2022年5月10日閲覧。
  2. ↑ “緊縛の捕縄術起源説』を考える”. 2022年5月10日閲覧。
  3. ↑ “上田青柿郎”. 2022年5月11日閲覧。
  4. ↑ 下川耿史、「変態の総合デパート『奇譚クラブ』から『SMセレクト』が産声を上げるまで」『性メディアの50年 欲望の戦後史ここにご開帳!』(1995)宝島社、別冊宝島240号,p.54
  5. ↑ Bergborg (2017年7月3日). “Akechi Denki visiting Europe (1998)” (スウェーデン語). Kinbaku Books. 2026年10月17日閲覧。
  6. ↑ “Osada Steve Coming to Japan: 1980”. 2026年10月17日閲覧。
  7. 1 2 “なぜいま「緊縛」がキてるのか? 「縛られたい私」の気持ちを体験してきた”. ねとらぼ (2012年12月7日). 2026年8月28日閲覧。
  8. ↑ “緊縛師、「一鬼のこ」が見せるロープアートの可能性”. www.afpbb.com (2016年6月1日). 2021年6月6日閲覧。

関連項目