蝶湯
ナビタン(朝鮮語: 나비탕)は、韓国で猫を材料として作られる煎じ物・食品を指す俗称である[1][2]。猫が関節炎や神経痛に効くという俗説を背景に、健康院(건강원)などで製造・販売され、民間療法として摂取されてきた[3][1][2]。大韓韓医師協会の広報理事は2024年、関節炎や神経痛への効能について医学的にも韓医学的にも検証されたことはなく、根拠のない民間療法であると述べている[2]。
概要
韓国国立国語院の『韓国語基礎辞典』では、「나비(ナビ)」について、猫をかわいく指したり呼んだりする語と、「蝶」を意味する語がそれぞれ掲載されている[4]。聯合ニュースは2017年、猫を煮て毛を除去したうえで服用するものについて、一般に「ナビタン」または「コヤンイタン」(朝鮮語: 고양이탕)と呼ばれると報じている[5]。
2013年、Channel Aの番組『이영돈PD의 먹거리 X파일』は約4か月にわたって猫を用いた煎じ物の流通を取材した[3]。同番組によれば、一部の健康院では『東医宝鑑』に猫の薬効が記されているとして宣伝していたが、取材した専門家は、同書に猫についての記述があること自体は事実であるものの、関節炎とは無関係であり、関節炎への効能は民間で伝えられてきた俗説であると説明した[3]。
同番組は、野良猫を罠で捕獲する業者に同行し、捕獲された猫が健康院だけでなく地方の在来市場にも供給され、その場で屠殺・販売されていたと報じた[3]。
MBCは2015年5月、猫を用いた「ナビタン」が、関節炎に良いという根拠のない話を信じる人々を背景として秘密裏に取引されていると報じた[1]。また、同年12月にも、健康院が猫を屠殺して煮たものを「ナビタン」として販売し、関節炎に効くという俗説を利用していた事例を報じている[6]。
2017年3月にも聯合ニュースは、猫が関節炎や神経痛に良いという俗説を背景として、猫を煮て服用する事例が続いていると報じた[5]。同記事は、2015年に約600匹の野良猫を捕獲し、ナビタンの材料として健康院へ販売した事件にも言及している[5]。
2024年11月、TV朝鮮は江原道と首都圏の健康院を取材し、ナビタンがなお秘密裏に注文・販売されていると報じた[2]。取材対象となった健康院の一つは、1か月分の価格として40万ウォンを提示し、製造には猫5匹が必要で、48時間から50時間程度煮ると説明していた[2]。
捕獲・流通をめぐる事件
2015年5月、釜山・慶尚南道一帯で野良猫約600匹を捕獲し、殺したうえで健康院などへ販売していた男性が警察に摘発された[1]。MBCによれば、男性は2014年2月ごろから住宅街や山などに餌を入れた捕獲器を設置して猫を捕らえ、1匹当たり約1万ウォンで在来市場の健康院などへ販売していた[1]。
この事件で動物保護法違反の罪に問われた男性について、昌原地方法院は2016年4月、懲役10か月、執行猶予2年を言い渡し、80時間の社会奉仕を命じた[7]。聯合ニュースによれば、男性は2015年2月から5月までに釜山・慶尚南道の住宅街で野良猫約600匹を捕獲して殺し、処理・冷凍保存した後、「ナビタン」の材料として健康院に1匹当たり1万5000ウォンで販売していた[7]。
2015年12月には、ソウル市内で野良猫5匹を捕獲して健康院へ販売した男性と、購入した猫を屠殺して販売した健康院経営者が警察に摘発された[8]。健康院経営者は警察に対し、関節炎に良いという俗説のため猫肉を求める客がいたと供述した[8]。
効能と衛生上の問題
Channel Aは2013年、市中で処理・流通していた猫を入手して検査を依頼した結果、猫から条虫と回虫が検出されたと報じた[3]。同番組は、これらの寄生虫によって神経症状や眼の混濁、重い場合には失明につながる可能性があると報じている[3]。
MBCも2015年、猫の体内にいる寄生虫が人間へ移った場合には健康被害が生じ得ると報じるとともに、取材した韓医師が、猫を食べても関節炎への効果はないと説明した[1]。
2024年のTV朝鮮の取材に対し、大韓韓医師協会の金錫熙広報理事は、ナビタンが関節炎や神経痛に効くという主張は医学的にも韓医学的にも検証されておらず、根拠のない民間療法であると述べた[2]。
法的扱い
2015年5月のMBCの報道によれば、当時の動物保護法では野良猫は捕獲・売買の禁止対象とはされておらず、約600匹の野良猫を捕獲した事件でも、警察は猫を残忍な方法で殺害した業者を立件した一方、猫を購入した健康院の経営者については処罰できなかったとして、法令の補完が必要であると説明していた[1]。
この事件では、2016年4月に昌原地方法院が、猫を残忍な方法で殺害し、許可を受けていない場所で死体を加工したことなどを踏まえ、業者に懲役10か月、執行猶予2年、80時間の社会奉仕を命じた[7]。東亜日報は、この判決が動物保護法および食品衛生法違反によるものだったと報じている[9]。
2017年3月21日に公布された改正動物保護法では、遺失・遺棄動物などを捕獲して販売または殺害する行為、販売または殺害を目的として捕獲する行為などが禁止行為として追加された[10]。この改正法は2018年3月22日に施行された[11]。
TV朝鮮は2024年、猫を材料とするナビタンについて、生産・販売はいずれも違法であり、食品衛生法および動物保護法に違反すると報じた[2]。同社の取材では、健康院側も政府によって禁止されているため秘密裏に製造している旨を述べていた[2]。
関連項目
脚注
- 1 2 3 4 5 6 7 “길고양이 600마리 '나비탕'으로…잔혹하게 도살해 건강원에 팔아” (朝鮮語). MBC NEWS (2015年5月21日). 2026年10月6日閲覧。
- 1 2 3 4 5 6 7 8 “"신경통에 효과" 속설에 총까지 동원…나비탕 불법거래 현장” (朝鮮語). TV朝鮮 (2024年11月16日). 2026年10月6日閲覧。
- 1 2 3 4 5 6 “신경 이상·실명까지 유발하는 ‘불법 고양이탕’ 유통실태” (朝鮮語). Channel A (2013年4月5日). 2026年10月6日閲覧。
- ↑ “「나비」の検索結果” (朝鮮語). 韓国語基礎辞典. 国立国語院. 2026年10月6日閲覧。
- 1 2 3 “사라진 길고양이들과 불탄 꼬리뼈…일산에서 무슨 일이” (朝鮮語). 聯合ニュース (2017年3月27日). 2026年10月6日閲覧。
- ↑ “'관절염 특효?' 헛소문에 길고양이 건강원 유통” (朝鮮語). MBC NEWS (2015年12月17日). 2026年10月6日閲覧。
- 1 2 3 “길고양이 수백마리 잔인하게 도살한 업자 집행유예” (朝鮮語). 聯合ニュース (2016年4月6日). 2026年10月6日閲覧。
- 1 2 “'불법 포획' 길고양이 건강원에 판 20대 입건” (朝鮮語). MBC NEWS (2015年12月17日). 2026年10月6日閲覧。
- ↑ “"길고양이 600마리 살해범 집행유예 유감"” (朝鮮語). 東亜日報 (2016年4月6日). 2026年10月6日閲覧。
- ↑ “동물보호법 일부개정법률” (朝鮮語). 国家法令情報センター (2017年3月21日). 2026年10月6日閲覧。
- ↑ “동물보호법” (朝鮮語). 国家法令情報センター (2018年3月22日). 2026年10月6日閲覧。