低価格入札
低価格入札(ていかかくにゅうさつ)は、日本の公共事業の競争入札におけるダンピングの一種。採算が合わない価格帯の入札および落札をいう。
概要
[編集]2000年代前半、公共工事の調達において談合の疑いの高い(予定価格と差がない)落札率の実態が指摘されるようになり、一般競争入札の拡大(総合評価方式などの導入)や指名競争入札の指名要件の緩和などが行われた。この結果、一部では過度の競争が生じ、採算が採れない価格での落札が相次いだ。
また、IT分野の調達では、本来複数年度に渡って開発・調達されるシステムの入札に関し「初年度は入札で業者を選定し、次年度以降は同業者と随意契約する」契約モデルが半ば慣習化しており、その結果初年度の入札を取るため極端な低価格入札が行われることが多く、1989年の長野県立図書館の情報システム調達では「1円入札」が行われた。このような入札行動が行われる要因として、ソフトの納入で損をしてもハードの納入で儲ける、あるいは、いわゆるベンダーロックインにより中長期的な利益確保を図るという企業戦略があるとされる[1]。このような調達構造がITゼネコンを生み出す一因となったともと言われている(詳細はITゼネコン#ITゼネコン登場の背景を参照)[2]。
過去には、ゆうちょ銀行の債券管理業務について、管理受託側の日本トラスティ・サービス信託銀行が約10億円を委託側のゆうちょ銀行に支払う「マイナス落札」すら行われた事例もある[3]。
他には、建設省(現国土交通省)で担当した件で、1958年(昭和33年)12月22日に、当時の皇太子殿下(現上皇陛下)と美智子妃殿下(現上皇后陛下)のご成婚に伴い、新居として、港区赤坂の大宮御所跡に建設が決まった新東宮御所新築の指名入札の事件がある。このとき大手建設業者7社の中で、当時の間組がケタはずれの「1万円」で札を入れた。最低額での落札制をとる当時の会計法からすると、1万円の落札は適法と認められたが、全国のマスコミがニュースとして報道し、事件は津々浦々まで知れわたり、社会的事件となった。明らかなご祝儀請負に対し、建設省は局長を間組に派遣して問題解決を図った。ところが社長の神田確治は「入札の前、神意を承るべく、久能山詣でをしたとき天啓がひらめいた。新発行の1万円札の聖徳太子の図柄から、皇太子殿下へと連想がつながり、 金1万円に到達したのである。決していいかげんな思いつきではない」と主張して正統性をゆずらなかった。
苦心の末、建設省が編み出した妥協案は、7社による共同企業体(JV)方式であった。実はJV方式は、当時としてはまだ前例がなく、JVの契約方式が建設省次官通達で公式化するのは、この入札の4年後、1962年(昭和37年)のことである。各社ともこの案に合意したが、請負金額は、各社入札額中から最高額 (7200万円)と、最低額(1万円)を除外した残り5社の入札額平均の5,670万円で、JV側にとって必ずしも満足すべき価額ではなかった。
こうして、工事は1959年(昭和34年)1月に着工し、翌1960年(昭和35年)4月に竣工した。本工事全体の竣工金額は、最終的には1億4千80万円と記録されている。
この工事は、初のJV工事というだけでなく、価格による競争のみの結果、とにかく一番安い価格を出した業者が当選、ということが、必ずしも国民にとって最適な契約の相手方を特定するということができないことを示すこととなり、当時の会計法の仕組みが、必ずしも適正な契約を保証しないことを証明した歴史的な教訓ともなった。
問題と対応
[編集]一般に落札率の基準になる予定価格は、平均的な労務費や資材費などを積み上げる積算により決定されるが、低価格入札で落札された工事では、建設作業員の賃金や福利厚生を切りつめる、規格や性能が指定されていない資材の品質を落とす行為は避けられず、結果的に労働災害の発生や質の劣る工事、手抜き工事が生じやすい状況となる。
このため、国では2005年に公共工事の品質確保の促進に関する法律を制定し、最低レベルの品質の確保を図っている。地方自治体も、増加する低価格入札に対処するため、2006年以降には国の法令や対応マニュアルに倣う形で、低価格入札発生時の調査等を取りまとめた要綱・要領を定めている。
なお、調査の結果等で合理的なコスト削減であると認められたときは落札になる。調査等に応じなかったときは、不誠実な対応として指名停止処分される。
調査
[編集]低価格入札の調査方法については、競争入札#低入札価格調査制度を参照のこと。
外部リンク
[編集]- もっと知りたい - 低価格入札(北海道新聞ホームページ) - ウェイバックマシン(2011年4月30日アーカイブ分)
- 公共建設工事に係る低価格入札問題への取組について(公正取引委員会 平成16年9月15日)
関連項目
[編集]脚注
[編集]- ↑ 福井秀樹 (2004). “官公庁による情報システム調達入札”. 会計検査研究 (会計検査院) (29号): 25-35.
- ↑ 岸本周平 (2003). “政府調達制度とITシステム “ITゼネコン”を育てたのは誰か”. RIETI政策シンポジウム発表資料.
- ↑ 10億円で「マイナス落札」 ゆうちょ銀の債券管理業務 - 47News・2007年9月1日