25式高速滑空弾

25式高速滑空弾(にいごしきこうそくかっくうだん)とは、陸上自衛隊向けに開発された地対地ミサイル[1]。別称は25HGP[2]。
概要
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開発名称は島嶼防衛用高速滑空弾(とうしょぼうえいようこうそくかっくうだん、英: Hyper Velocity Gliding Projectile: HVGP)であった。早期装備型のブロック1、能力向上型のブロック2Bの2段階で開発する方針であり、2026年3月にブロック1が25式高速滑空弾と命名された。
事実上の弾道ミサイル[3][4]、極超音速滑空体(HGV)であり、島嶼防衛用との名が付くが敵基地攻撃能力にもなり得ると考えられている[5]。
2026年(令和8年)3月から射程数百キロのブロック1の配備を開始予定とし、2030年代からは射程3,000キロで極超音速飛行が可能なブロック2Bの配備を開始する予定である[6][7]。また対艦用途を視野に入れた性能向上型や[8]、潜水艦発射型の開発も検討されている[9]。
設計
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本ミサイルは、離島などへの侵攻に対して敵兵器の脅威圏外から攻撃ができるスタンドオフ能力の獲得を目的としたとされている[1]。まずは既存技術をベースとした早期装備型としてのブロック1を開発したのち、性能向上型のブロック2Bを開発することとなっている[1]。
ロケットによって打ち上げたのちに滑空体が切り離され、弾道飛行を経て滑空飛行に移り、終末航程では急降下(ダイブ)によって目標に突入する[10]。滑空体のみで飛翔させることでレーダー反射断面積(RCS)を極小化させられるほか、特に滑空飛行の段階では、GPSなど衛星測位システム(GNSS)の誘導を受けて複雑な軌道で飛行することも可能であり、高速度と相まって、従来のミサイルよりも迎撃が困難とされる[10]。これはアメリカ合衆国や中華人民共和国などで開発が進められている極超音速滑空体と同様の手法である[11]。ブロック2では、超音速飛翔に伴う衝撃波によって圧縮された空気により揚力を得るというウェイブライダー (Waverider) 技術を導入して、更に性能を向上させることとなっており[1][10]、ブロック2Bでは第1段目の大型ロケットモータを極超音速誘導弾と共通化して、高高度での極超音速飛行を実現する[7]。
ブロック1は射程300-500キロ程度の短距離弾道ミサイルになると推測されており[1][3](900kmという報道もある[12][13])、ブロック2は射程2,000キロ-3,000キロの準中距離弾道ミサイルとなる予定である[3][6]。また対艦用途を視野に入れた性能向上や[8]、潜水艦発射型の開発も検討されている[9]。
開発史
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ブロック1の開発は2018年(平成30年)度から着手されており[10]、本来は2025年(令和7年)度から配備される予定だったが[15]、2022年(令和4年)12月に発表された2023年(令和5年)度防衛予算の政府案において同年度から量産を開始することが示され[16]、2023年(令和5年)4月6日に三菱重工業と契約した[17]。2026年(令和8年)度から配備が開始される予定である[6]。またブロック2も、当初は2028年(令和10年)度以降の装備化が予定されていたが[1]、2022年(令和4年)12月に公表された事前の事業評価において、比較的早期に装備化可能なブロック2Aをスピンオフさせて2027年(令和9年)度までに開発を完了させたのち、2030年(令和12年)度までにブロック2Bの開発を完了させることが示され[7]、2030年代に装備化を目指すことになっている[6]。陸上自衛隊では、MLRSの後継として、高速滑空弾大隊2個の編成が決定しており[1]、九州と北海道の駐屯地への配備を検討していた[18]。一方で、富士学校特科部長の中村雄久陸将補によれば、ウクライナにおけるロシアの侵攻にて、双方の多連装ロケット砲が活躍していることから、本邦におけるMLRSの廃止および島嶼防衛用高速滑空弾の具体的な配備計画に関して、結論が得られていないという[19]。なお、2025年(令和7年)度予算概算要求では、新式装備への更新に伴い退役するMLRS等をモスボール保管する方針が示された[20]。
2024年(令和6年)7月4日、防衛省は島嶼防衛用高速滑空弾(早期装備型)について、2024年(令和6年)3月23日に第1回、4月7日に第2回の事前発射試験をアメリカ合衆国カリフォルニア州で実施したことを発表した[21]。この事前発射試験は、じ後の発射試験に向けた計測系の確認等を目的とするものである[21]。
2025年(令和7年)2月7日、防衛省は島嶼防衛用高速滑空弾について、研究に必要なデータの取得を目的とした発射試験を行い、飛しょう等が予定どおり確認されたと発表した[22]。発射試験は2024年(令和6年)8月から2025年(令和7年)1月にかけて、アメリカ合衆国カリフォルニア州において計4回行われた[22]。
2025年(令和7年)8月29日、防衛省は島嶼防衛用高速滑空弾について、最終発射試験(第2次発射試験)を行い、滑空して飛しょうを確認する等、研究開発の完了に目途を得られたと発表した[23]。発射試験は2025年(令和7年)6月から同年8月にかけて、アメリカ合衆国カリフォルニア州において計5回行われた[23]。
2025年(令和7年)8月29日の防衛省の発表では、2025年度(令和7年度)中に、特科教導隊に配備の上での実証実験を開始[24]。2026年度(令和8年度)に上富良野駐屯地およびえびの駐屯地に部隊新編の上での配備の方針となった[24]。
2026年(令和8年)3月31日、防衛省はブロック1の研究開発が完了し部隊使用承認が下りた。「25式高速滑空弾」と名称が発表され、陸上自衛隊富士駐屯地に配備したと発表した[25][26]。
同月25日にアメリカ政府は、高速滑空弾の射程の延長や極超音速化など改良型の開発を支援するため、アメリカ国内の射場での試験で使用する機器とその役務の売却に関する対外有償軍事援助(FMS)の承認と議会への通知を明らかにした。日本政府の要望によるもので、総額3億4000万ドル(約540億円)が支払われる[27][28]。
配備部隊
[編集]2026年3月現在。配置数として2個大隊を想定している。
配備予定部隊
脚注
[編集]出典
[編集]- 1 2 3 4 5 6 7 布施 2020, pp. 216–217.
- ↑ Japan Ministry of Defense/JGSDF [@Japan_GSDF] (2026年3月31日). “In response to the increasingly severe...”. X(旧Twitter)より2026年4月5日閲覧.
- 1 2 3 内閣府『シンクタンク機能の試行事業の成果物 資料6 広範囲調査分析』2023年3月17日。p. 240
- ↑ Hypersonic Cruise Missile (HCM) Hyper Velocity Gliding Projectile (HVGP), GlobalSecurity.org
- ↑ 高橋浩祐「日本の極超音速巡航ミサイルの模型が公開(動画付き)」『Yahoo!ニュース』2023年3月17日。
- 1 2 3 4 松山 2022.
- 1 2 3 防衛省『令和4年度 政策評価書(事前の事業評価) - 島嶼防衛用高速滑空弾(能力向上型)』2022年。
- 1 2 「離島防衛用「高速滑空弾」 対空母も検討 防衛省、速度や射程向上へ」『毎日新聞』2020年2月24日。
- 1 2 「「反撃能力」保有へ、長射程ミサイル同時開発を検討…極超音速など10種類以上」『読売新聞』2022年12月1日。
- 1 2 3 4 福田 2019.
- ↑ 布施 2020, pp. 194–196.
- ↑ “日本射程900公里極音速飛彈試射畫面曝光 最快後年服役”. 自由日報.
- ↑ 発射試験を公開! 自衛隊初の長射程弾道ミサイル「島嶼防衛用高速滑空弾」とは何か? MotorFan
- ↑ 武若雅哉 (2026年6月8日). “事実上の弾道ミサイル「マッハ5で飛ぶ高速滑空弾」総火演で発射姿勢を初披露! 改良型は2000km飛びます”. 乗りものニュース. メディア・ヴァーグ. 2026年9月16日閲覧。
- ↑ JSF「島嶼防衛用高速滑空弾ブロック1が量産開始予定」『Yahoo!ニュース』2022年9月1日。
- ↑ 我が国の防衛と予算(案) 令和5年度予算の概要 防衛省
- ↑ スタンド・オフ防衛能力に関する事業の進捗状況について2023年4月11日、防衛省。2023年10月24日閲覧。
- ↑ 「防衛省「高速滑空弾」部隊新設へ 九州と北海道に配備を検討」『NHKニュース』2022年12月10日。
- ↑ 竹田純一『軍事研究 2024年7月号』700号、ジャパン・ミリタリー・レビュー、2024年7月1日、34頁。
- ↑ 「防衛省、74式戦車など「退役装備品」を有事に備え保管へ 長期化でも継戦能力を保つ狙い」『産経新聞』2024年9月14日。2024年10月4日閲覧。
- 1 2 “「スタンド・オフ防衛能力に関する事業の進捗状況について」”. 防衛省. 2024年7月5日閲覧。
- 1 2 “スタンド・オフ防衛能力に関する事業の進捗状況について”. 防衛省 (2025年2月7日). 2025年8月5日閲覧。
- 1 2 “スタンド・オフ防衛能力に関する事業の進捗状況について”. 防衛省 (2025年8月29日). 2026年2月2日閲覧。
- 1 2 “【お知らせ】国産スタンド・オフ・ミサイルの早期整備等について”. www.mod.go.jp. 2025年8月29日閲覧。
- ↑ “防衛省 長距離ミサイル「島しょ防衛高速滑空弾」を静岡県の富士駐屯地に配備へ”. TBS NEWS DIG (2026年3月10日). 2026年3月11日閲覧。
- ↑ 『12式地対艦誘導弾能力向上型(地発型)及び島嶼防衛用高速滑空弾の研究開発の完了に伴う名称決定等について』(プレスリリース)陸上幕僚監部、2026年3月31日。2026年3月31日閲覧。
- ↑ 「日本の高速滑空弾開発を支援 改良型、540億円で―米」『時事ドットコム』時事通信社、2026年3月26日。2026年4月3日閲覧。
- ↑ 坂本一之「トランプ米政権、日本開発の高速滑空弾の試験支援承認 機器や役務など540億円規模」『産経ニュース』産経デジタル、2026年3月26日。2026年4月2日閲覧。
- ↑ “部隊配備したばかり 自衛隊の新顔「25式高速滑空弾」眼前で動いた! 未来の“戦闘車両”も登場”. 乗りものニュース (2026年10月4日). 2026年10月4日閲覧。
参考文献
[編集]- 福田浩一「島嶼防衛用高速滑空弾の現状と今後の展望」『防衛装備庁技術シンポジウム2019』防衛装備庁、2019年11月12日。オリジナルの2020年3月28日時点におけるアーカイブ。
- 布施哲『先端技術と米中戦略戦争-宇宙、AI、極超音速兵器が変える戦い方』秀和システム、2020年。ISBN 978-4798062242。
- 松山尚幹「敵基地攻撃の長射程ミサイル、「5年後」「10年後」と段階的に配備」『朝日新聞』2022年12月27日。オリジナルの2022年12月27日時点におけるアーカイブ。2022年12月27日閲覧。