コンテンツにスキップ

バルドル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
バルドル
光の神
盲目のヘズの手で刺殺されるバルドル。18世紀のアイスランドの写本『SÁM 66』より。
住処 ブレイザブリク
配偶神 ナンナ
親 オーディン, フリッグ
子供 フォルセティ
テンプレートを表示

バルドル(古ノルド語: Baldr、Baldur、英語: Balder)は、北欧神話の光の神である。

後述の『スノッリのエッダ』では、最も賢明で、美しく光り輝く美貌と白いまつ毛を持ち、雄弁で優しいとされ、やや優柔不断な面もあったが彼の裁きは不変であるといわれる[1]。

両親はオージン(オーディン)とフリッグ[2]、妻はネプの娘ナンナで、彼女との間に息子フォルセティがいる[3]。ブレイザブリク(ブレイダブリク、ブレイザブクリク)という館に住み[1]フリングホルニという船を所有している[4]。

両『エッダ』においては、ロキの奸計により異母弟ヘズにより殺されるが、ラグナロクで世界が滅びた後に現れる新世界に甦り、ヘズと共に暮らすとされている。罪なくして一度死んだ後に復活するという神話は、キリスト教の伝播に伴ってその影響を受けたものとも考えられている[5]。山室静によれば、バルドルはサガなどでは戦士とみなされており、彼が神として崇拝されていた形跡はないという[6]。

『エッダ』

[編集]

『古エッダ』

[編集]

『古エッダ』の詩『バルドルの夢』では、バルドルが悪夢を見たことを心配したオージンが自らニヴルヘル(英語版)に下り、死んだ巫女を目覚めさせて、バルドルの運命を尋ねる。詩は、バルドルがヘズに殺されること、ヘズに対し復讐をするのがリンドとオージンの間の子として生まれ1夜で武器をとるヴァーリであることを伝え、互いの正体を知った後に巫女がオージンに帰郷を勧めるところで終わる[7]。

ヴァーリによるヘズへの復讐は、『古エッダ』の『巫女の予言』[8]、および『ヒュンドラの歌』第29節[9]において説明されている。

『ギュルヴィたぶらかし』

[編集]
ロキにそそのかされたヘズに射られて倒れたバルドル。アーサー・ラッカムによる(1901年)。
ヘルモーズを迎えるバルドルとヘル。18世紀のアイスランドの写本『NKS 1867 4to』より。

『スノッリのエッダ』第一部『ギュルヴィたぶらかし』[4]では、『古エッダ』とはまた異なるエピソードが語られている。

バルドルは神々の中でもっとも美しく万人に愛された。ある日から悪夢を見るようになると、これを心配した母フリッグは世界中の生物・無生物に彼を傷つけないよう約束させた。そのため、いかなる武器でも彼を傷つけることは出来なくなった。だがこのとき実は、たった一つ、ヤドリギだけは若すぎて契約が出来ていなかった。

傷つかなくなったバルドルを祝い、神々はバルドルに様々なものを投げつけるという娯楽にふけっていた。だが、ヤドリギのことを知ったロキが、バルドルの兄弟で盲目のために遊戯の輪から外れていた神ヘズをたぶらかし、ヤドリギ(ミスティルテイン)を投げさせた。これによりバルドルは命を落としてしまった。

これを嘆いたフリッグに応えて、バルドルの弟のヘルモーズが死の国ヘルヘイムへ向かい、女王ヘルに彼を生き返らせてくれと頼んだ。ヘルは「本当に、全世界の者が彼のために泣いているというならば生き返らせてやろう」と約束した。

フリッグの頼みで、本当に全世界のあらゆる生物・無生物が彼のために泣いた。ところが、たった一人、巨人の女セック(ソック)が泣かなかったのでバルドルは戻ってこなかった。このセックの正体は実はロキで、このことから彼は神々に捕らえられ罰を受けることになった。

バルドルの死によって光を失った世界は、やがてラグナロクを迎える。『ギュルヴィたぶらかし』[10]及び『古エッダ』の『巫女の予言』[11]の伝えるところでは、オージンをはじめとして多くの神が死に、世界は滅ぶ。やがて新しい大地が浮かんでくると、バルドルはヘズと共によみがえってくる。

『詩語法』

[編集]

『詩語法』ではバルドルを表すケニングとして、「オーディンとフリッグの子」、「フリングホルニとドラウプニルの所有者」、「ホズの敵」、「ヘルの友」などを紹介している[2]。

『ユングリング家のサガ』

[編集]

スノッリ・ストゥルルソンは、『ヘイムスクリングラ』の『ユングリング家のサガ』第5章においても、バルドルがブレイザブリクに居住したとしている。それはログ湖(現在のスウェーデン・メーラレン湖)のほとりの古シグトゥーナ(英語版、wikidata)にあり、バルドルは神殿のゴジとして、オージンからその地を与えられた[12]。

『デンマーク人の事績』

[編集]
ナンナをめぐってホテルスと戦うバルデルス。ヨハネス・ヴィーデヴェルトによる(1775年)。

サクソ・グラマティクスが著した歴史書『デンマーク人の事績』において、バルドルはオーティヌス(オーディン)の息子である半神の戦士・バルデルス[13](またはバルデル[14])として登場し、性格も勇猛に描かれている。その肉体はどんな武器も貫けないが、森に住む神サチュルンであるミミングが持つ剣ならば傷つけることができるとされる。バルデルスはまた、3匹の蛇の毒を混ぜた特殊な食料を食べて力を得ている。ホテルス(ヘズ)の乳兄妹のナンナをめぐってホテルスと争い、オーティヌスやトールの助力の甲斐なくホテルスとの海戦で敗れる。その後も幾度かの対決でバルデルスが優位に立つが、ナンナがホテルスと結婚すると、彼女の幻影に悩まされて病気になり、歩行ができなくなり馬車で移動するようになる。ホテルスにスウェーデンとデンマークを支配されたため、デンマークを回復すべく双方の軍勢をぶつけ合う。そのさなか、洞窟に住む3人の乙女たちから勝利の帯を与えられたホテルスによって剣で脇腹を刺される。自分の死を覚悟しつつバルデルはホテルスとの争いを続けたが、傷の痛みが増して3日後に落命する。死体はデンマーク人によって大きな塚に葬られる[15]。

備考

[編集]

小惑星(4059) Balder(ドイツ語版、wikidata)はバルドルにちなんで命名された[16]。

脚注

[編集]
『ヴァフスルーズニルの言葉』では、オージンがバルドルの遺体の耳元で何かをささやいたとされる。コリングウッドによる(1908年)。
  1. 1 2 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.244(「ギュルヴィたぶらかし」第22章)
  2. 1 2 谷口幸男「スノリ『エッダ』「詩語法」訳注」『広島大学文学部紀要』第43巻No.特輯号3、1983年、p.20
  3. ↑ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.248(「ギュルヴィたぶらかし」第32章)
  4. 1 2 『エッダ 古代北欧歌謡集』pp.270-273(「ギュルヴィたぶらかし」第49章)
  5. ↑ 『北欧の神話』p.143、p.206
  6. ↑ 『北欧の神話』p.143
  7. ↑ 『エッダ 古代北欧歌謡集』pp.199-200(「バルドルの夢」)
  8. ↑ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.12(「巫女の予言」)、p.22(「巫女の予言」訳注115)
  9. ↑ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.210(「ヒュンドラの歌」)
  10. ↑ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.279(「ギュルヴィたぶらかし」第53章)
  11. ↑ 『エッダ 古代北欧歌謡集』p.15(「巫女の予言」)
  12. ↑ 『ヘイムスクリングラ - 北欧王朝史 - (一)』pp.41-42(「ユングリング家のサガ」第5章)
  13. ↑ 『北欧神話』(菅原邦城著、東京書籍、1984年、ISBN 978-4-487-75047-4)で確認できる表記。
  14. ↑ 『デンマーク人の事績』(谷口)で確認できる表記。
  15. ↑ 『デンマーク人の事績』pp.95-110(第三の書1 - 4章)
  16. ↑ “(4059) Balder = 1956 XQ = 1977 TC4 = 1977 TM7 = 1977 VG2 = 1983 XW1 = 1987 SB5”. MPC. 2021年10月3日閲覧。

参考文献

[編集]

関連項目

[編集]
⌬ Phoenix Mesh CID: 未登録 IPFS未登録 📡 0ピア N=1 CRITICAL PQS A100