翻訳
翻訳(ほんやく、英: translation)は、ある国の言語の文章を、同じ意味の、他国語の文章におきかえること[1]、あるいは、分かりにくい言葉、特殊な言葉、符号などを一般的で平易な言葉に言いかえること[2]。
特に、自然言語において、起点言語(source language、原言語)による文章を、別の目標言語(target language、目的言語)による文章に変換する行為をさす[3]。例えば、英語文から日本語文へ翻訳された場合は、起点言語が英語であり、目標言語が日本語である。起点言語による文を原文といい、目標言語による文を訳文・翻訳文と言う。なお、文字による文ではなく発話(音声)を翻訳する行為は、通訳とも呼ばれる[3]。
歴史

古代ギリシア語の翻訳は、文化に大きな影響を与えた例として挙げられる。古代ギリシアで花開いた文化はローマ帝国へと継承され、ローマの上流階級のほとんどはギリシア語も解したためその知識はそのまま継承されたが、西ローマ帝国の衰退と命運を共にして、ギリシア語使用者がラテン語圏で減ったため、西ヨーロッパにおけるギリシアの知識の多くは中世初頭までに失われた[4]。
ただし、その文献はローマの継承国家でありギリシア語圏である東ローマ帝国において保持され、ギリシア語の文献として残った。また、5世紀から6世紀にかけてはネストリウス派によってこうしたギリシャ語文献をシリア語に訳した[5]。複数の文献は8世紀以降アッバース朝統治下においてアラビア語に訳す翻訳事業の成果であり、医学のヒポクラテスやガレノス、哲学のアリストテレスの知識がイスラム世界にもたらされ、イスラム科学の隆盛をもたらした[6]。さらにこれらのアラビア語文献は、12世紀に入るとシチリア王国の首都パレルモやカスティーリャ王国のトレドといった、イスラム文化圏と接するキリスト教都市においてラテン語へと翻訳されるようになる[7]。これは古いギリシア科学だけでなく、フワーリズミーやイブン・スィーナーといったイスラムの大学者の文献も含まれており、「大翻訳時代」とも呼ばれるこの翻訳活動を通じて、一度は失われていた古代世界の知識が西ヨーロッパに再び流入し、12世紀ルネサンスを引き起こすこととなった[8]。また15世紀に入るとアラビア語だけでなく東ローマなどから入手したギリシア語の文献の直接翻訳も行われ[9]、マルシリオ・フィチーノによってプラトンのラテン語への全訳がなされて、ルネサンスを大きく進展させることとなった[10]。
言語自体に影響を与えた例として、マルティン・ルターによる聖書のドイツ語訳が挙げられる。それまでもドイツ語訳聖書は存在したものの、ルターは日常言語を元にした理解しやすい表現を心がけ、出版されたルター聖書はドイツ人に広く読まれ、ルター聖書の文章はドイツ語そのものにも大きな影響を与えた[11]。
日本でも翻訳は重要な役割を果たした。日本は古代以来、隣接する大国の中国や、かなたのインドの文献を翻訳してそれを日本の文化に取り込んできた。飛鳥時代、奈良時代にはインドや中国から伝来した梵語あるいはそれを漢訳(中国語へ翻訳)した仏教聖典(経典)を、日本人が母語である日本語(和語、大和言葉)の語順に合わせて理解・講読するために訓読法(漢文の脇に返り点をつけて、日本語の統語規則に沿って読み替えるシステム)が生み出し、平安時代以降に発達させた。これが翻訳作業の原点となった。奈良時代に唐律令などの中国の法律文書を輸入した際は、そのまま直訳せず、当時の日本の社会実態に合わない部分は意図的に除去し、日本の身分秩序に合うよう用語や規定が意訳、あるいは翻案された。例えば、中国の「天子・皇帝」概念を日本の「天皇」へと置き換え、中国の官僚制のシステムを日本の姓(かばね)制度と折衷させた。
安土桃山時代に、イエズス会宣教師が日本に持ち込んだラテン語などのイソップ寓話集(シュタインヘーベル本など)を底本としてローマ字への翻訳作業が行われ、1593年(文禄2年)にイエズス会により天草版『エソポのハブラス』 (ESOPO NO FABVLAS)が出版された。
1774年の『解体新書』の翻訳出版を一つのきっかけとして、18世紀後半以降、盛んにヨーロッパの科学文献が翻訳されるようになった[12]。この翻訳はヨーロッパ諸国のうちで唯一、日本との通商関係のあったオランダ語からおこなわれており、そのためこうした翻訳者、さらに転じて西洋科学を身につけた学者たちは蘭学(オランダ学、らんがく)者と呼ばれるようになった。

『ターヘル・アナトミア』は、解剖学の教科書のドイツ語原本をオランダ語に翻訳したものの日本での通称で、日本でそれを底本として日本語へ翻訳して『解体新書』が出版された。江戸幕府の江戸でこの翻訳が行われた。
このように日本国内で海外の科学書が翻訳される動きは明治維新が起きるとより加速され、オランダ語のみならず英語、フランス語、ドイツ語など西洋の諸言語から膨大な翻訳が行われるようになった。この翻訳においてはさまざまな訳語が漢語の形で考案され、いわゆる和製漢語として盛んに流通するようになった[12]。この新漢語は西洋由来の新概念を表すのに好都合であったため、1895年の日清戦争後に中国への逆輸入が始まり[13]、1919年頃をピークとして、第二次世界大戦終了までは徐々に数量を減じながらも大量の新漢語が中国語へと流入した[14]。
種類、分類
翻訳にはさまざまな分類法がある。
まず単語をひとつひとつ変換してゆく逐語訳、語句には多少配慮するが意味への配慮が足りない直訳、意味を重視する意訳などと分類する方法がある。
Aという言語からBという言語に直接翻訳する以外に、まずAから第三の言語Xに翻訳された版を使い、XからBへ翻訳する方法を重訳という。
その専門分野によって、文学翻訳、産業翻訳、法務翻訳、特許翻訳、医学翻訳、行政翻訳などに分類されることもある[15]。
誤った翻訳、翻訳を誤ることは誤訳と分類する。
逐語訳、直訳、意訳、自由訳
翻訳の分類方法はいくつもあるが、 ひとつの分類方法として、逐語訳、直訳、意訳、自由訳の4つに分類する方法もある。
- 逐語訳 ─ 原文中の一語一語(ひと単語、ひと単語)を忠実にたどって訳すことである[16]。起点言語の単語を1語づつ目標言語に置き換えるやり方であり、目標言語の話者にとっては不自然な文章となり、また文法構造が大きく異なる2つの言語間ではそもそも逐語訳は不可能である。たとえば英語と日本語では文法構造が大きく異なっており、英語の It rains cats and dogs.は「土砂降りだ」という意味の英文だが、それを日本語へ逐語訳すると、たとえば「それは降ってるネコと犬。」という訳文になってしまい、日本語話者にとっては意味不明の文でしかなく、誤訳と呼ぶほうが妥当となる。
- 直訳 ─ 直訳には次のように2つの意味がある。
- 外国語を、その音を漢字や仮名を用いて表わすこと[17]。
- 外国語を、その字句・語法に忠実に従って一語一語をたどるように翻訳すること[18]。逐語訳とほぼ同義語と扱われることもあるが、「その字句・語法に忠実に従って」とあるように、語法には配慮するものの、逐語訳ほどではないがやはり目標言語の話者にとっては不自然な訳文となりがちである。たとえば、英語のIt rains cats and dogs.を直訳すると、It rainsという句はItに対応する日本語を示そうとすべきではなく「雨が降っている」と訳す、ということくらいは配慮する。そして直訳では、「雨が降っている、ネコと犬」あるいは語順の入れ替えをすることまで認めても「ネコと犬の雨が降っている。」などの訳文を作ることになり、できた訳文はいずれも日本語話者にとっては不自然、あるいは意味不明な訳文になってしまう。
- 意訳 ─ 原文の一語一語にとらわれないで、全体の意味をくみ取って訳すこと[19]。あるいは全体の意味やニュアンスをくみとって翻訳すること[20]。たとえば英語の It rains cats and dogs.を意訳する場合、「ネコ」だの「イヌ」だのといった単語にはこだわらず、文の意味を重視し、It rains cats and dogsは慣用句(慣用表現)であり、日本人なら「土砂降りだ」とか「豪雨だ」と言う状況(天気)で英語話者はIt rains cats and dogsと言う、という経験的事実を踏まえて、「土砂降りだ」あるいは「豪雨だ」と翻訳する。この意訳なら、日本語話者に意味や意図が理解できる。
- 自由訳 ─ 起点言語の語順や文体を重視しないもの、目標言語の語順や文体を重視しないもの、どちらの訳についても使用される表現である[21]。
逐語訳や直訳では不十分あるいは不適切だと指摘されることが多く、主に意訳が使われるようになった理由のひとつは、異なる言語の単語と単語は必ずしも1対1に対応するわけではないという理由である。例えば、起点言語で1語で表される概念が目標言語では複数の語(複数語の語からなる用語や、慣用句や熟語)で表現されたり、逆に起点言語では複数の語で表現される概念が目標言語では1語となる場合がある[22]。
逐語訳や直訳が基本的に不適切だと指摘されることが多い理由は、各言語にはそれぞれ、独自のルールや習慣があるためである。
- (すでに説明したように)意味や意図が、ある言語では1単語で表現されるが別の言語では複数の単語の組み合わせで表現されることは多い
- ある言語では特定の意味を単語で明示するのに、別の言語ではそれを単語で示さない。─ 例えば英語ではほぼ必ず主語を明示するが、スペイン語では省略することが多く、日本語ではさらに主語を省略する傾向が強い。たとえばスペイン語では動詞の活用形で主語が特定できるため Hablo español. (スペイン語を話します)のように主語(私=Yo)を省略するのが一般的だが、英語に翻訳する際は I speak Spanish. のように主語を必ず明示しなければならない。たとえば英語から日本語へ翻訳する場合は、一人称や二人称を示す単語は消去する必要があり、逆に日本語から英語へ翻訳する場合は、日本語で言われていない一人称や二人称(Iやyou)を足してやらなければならないことが多い。たとえば英語の I love you. を直訳すると「私はあなたを愛している」となるが、これは日本語としてはきわめて不自然であり、日本語の日常会話では代名詞(私・あなた)は言わないので、「大好きだよ」と翻訳すべきである。
- ある言語で受動態で表現されることが、別の言語では能動態で表現される ─ 英語の He was given a book. をもし仮に受動態のまま逐語訳すると「彼は本を与えられた」となり、日本語話者にとってきわめて不自然な文になるので、意訳して、日本語の標準的な習慣に合わせて「彼は本をもらった」と翻訳することが妥当である。
- ある言語で形容詞と名詞の組み合わせで表現されることが、別の言語では形容詞と名詞の組み合わせでは表現されない ─ たとえば英語で自然な文である He is a fast runnerを直訳すると「彼は速い走者です」だが、この言い方は日本語としてはかなり不自然なので、翻訳者は日本語の標準的な表現構造を用いている慣用表現を記憶から呼び起こして、「(彼は)足が速い」と翻訳することが妥当である。[注 1]
- 人間関係についての根本的な理解の相違やその表示習慣の有無 ─ 英語話者では、人間関係はできるだけ平等であることが素晴らしいという前提が置かれており、 You said と表現されていても、日本語話者の頭脳内では(英語話者とは真逆で)上下の区別(英語話者から見れば差別)がある人間関係が良いのだ、という前提が置かれた言語構造になっており、英語から日本語に翻訳する場合、前後の文脈から人間関係を推定して(英文には全く存在していない要素を、翻訳者がわざわざ生み出して)、その状況で日本人なら尊敬語、謙譲語(あるいはどちらでもない表現)のいずれを使うかを判断して、「おっしゃった」「話された」「言った」などと翻訳表現を使い分ける必要がある。つまり逐語訳ではなく、前後の大量の文章や、話者二人の人間関係や、両者の立場・主従関係や雇用関係・職業なども含めた意味も汲み取った意訳をする必要がある。通訳をする場面でも、人間関係の日本的な意味に配慮せず、英語のYou saidを逐語訳(単語から単語への単純な変換)をして「お前は言った」などと訳すと、その瞬間に、そういう言いかたをされたと感じた日本人の心に怒りが湧き、(通訳者から見て眼の前の)二人の人間関係が破壊されることが多いなど、かなり不適切である。
重訳
重訳とは、たとえるならA言語→X言語→B言語と、いったん他の言語に翻訳された版を参照し、さらに他の言語へ重ねて翻訳する方法である。何らかの事情[注釈 1]により、起点言語であるA言語から直接、目標言語であるB言語へ訳すことが困難な場合に行われる。N対Nの複数言語間の変換をおこなう場合、いったん軸(ピボット)となる言語に変換し、またそこから多言語へ変換する、いわゆるピボット翻訳を行うことが多い[24]。ピボット言語には通常は英語が用いられる[24]。
宗教書を例にとると、仏典の場合はサンスクリット・パーリ語の版から漢訳し、さらに日本語へ重訳されている[要出典][注釈 2]。
機械翻訳と自動翻訳
機械翻訳は、実用的な汎用コンピュータ開発が始まった1960年前後から研究を続けてきた分野であるが、近年は[注釈 3]一般の利用が可能になったこともあり、機械翻訳に対して人による翻訳を「人力翻訳」や「人手翻訳」と呼ぶ場合もある[30]。
GoogleやDeepLなど各社が機械翻訳(自動翻訳)を提供しているが、その精度は言語のペアによってまちまちである。日本語と英語のように文法が大きく異なる言語間では難易度が高くなる[要出典]。機械翻訳の精度は高まりつつあるが、完全な自動翻訳は難しく、似通った言語間においても利用者による修正は、ある程度必要となっている。機械翻訳の修正の方法としては、予め翻訳元言語を翻訳しやすい語彙に変換しておく方法と、出力された訳文を翻訳者が適切に修正する方法が存在する[31]。
生成AI翻訳
LLM(大規模言語モデル)やGPTを用いた生成AIによる翻訳は、従来の機械翻訳とは区別すべきものだ(性能が異なるものだ、異次元の性能だ)として生成AI翻訳(Generative AI Translation 、略語:GAIT)と呼ばれる[32]ことが増えてきている。2022年11月末にChatGPTが登場し、それを模倣したGoogle Geminiなど他社の生成AIが増え、性能上の競争が行われ翻訳の性能も向上するにつれ、そう区別されることが次第に増えてきている。
誤訳
誤訳とは、誤った翻訳、あるいは誤って翻訳することである[33]。
- →「誤訳」も参照
翻訳の評価
翻訳は通常、それぞれの目的に応じて、多様な尺度で、評価されている。
たとえば次のような評価基準やガイドラインや規格がある
- MQM(Multidimensional Quality Metrics) ─ 多次元品質指標。欧州のプロジェクトから生まれた、世界の主要企業や言語サービスプロバイダー(LSP)で広く採用されているエラー分類法であり、翻訳の誤りを「正確性(Accuracy)」「流暢さ(Fluency)」「用語(Terminology)」「スタイル(Style)」などのカテゴリーに分類し、重大度(Critical / Major / Minorなど)に応じて減点し、品質を1つの数値スコア(合格・不合格など)として算出する。
- TAUS DQF(Dynamic Quality Framework) ─ 翻訳の自動化を推進する国際団体「TAUS」が開発したフレームワークであり、コンテンツの種類(マーケティング文書、技術文書、法務文書など)や、翻訳目的、想定読者に応じて評価基準を動的に変えるのが特徴である。
- SAE J2450 ─ アメリカ合衆国の自動車技術会向けに作られた、エラーの重大度を数値化して評価する古典的な品質指標。
- 国際標準化機構(ISO)による規格
- ISO 5060:2024 ─ 翻訳結果に含まれる問題を分析的に客観評価(TQE: Translation Quality Evaluation)するための一般指針であり、人手による翻訳、事後編集済みの機械翻訳、未編集の機械翻訳すべてを対象とし、エラーの数だけでなく、読者や製品に与える影響(重大度)を考慮してペナルティポイントを用いて評価する
- ISO 17100 ─ 翻訳成果物そのものの点数ではなく、高品質な翻訳を提供するためのプロセス、リソース(翻訳者の資格など)の要件を規定した国際規格
- ISO 18587 ─ 機械翻訳のアウトプットを人間が修正する「ポストエディット」のプロセスに関する国際規格
- 機械翻訳の自動評価指標
- BLEU(Bilingual Evaluation Understudy) ─ 正解とされる「参照訳」と機械翻訳のテキスト情報を比較し、どれだけ一致しているかを0%〜100%(または0〜1)の数値で算出する世界で最も普及している自動評価指標
- COMET / COMET-QE ─ テキストの文字情報だけでなく、ニューラルネットワークを用いてより高度に品質を自動測定する最新の指標
- 日本国内
- 産業翻訳向けのJTF翻訳品質評価ガイドライン
- 特許文献機械翻訳の品質評価手順
- 機械翻訳向けのBLEUスコア
- プロセスを規定するISO 17100
なお、取扱説明書の翻訳では、1980年代や1990年代にすでに、取扱説明書に必要な要件を設定して、翻訳を受注した翻訳会社側がそれぞれの基準(尺度)を設定して自己評価したり自己修正を行っており、また取扱説明書を発注したメーカー側も社内に独自の基準を設けて基準に満たない翻訳についてはやり直しを命じたりしている。
普通の人々は、こんな設問(客観的な答えが無いと、最初から分かりきっている問い[注 2]を設定したりしないが、「翻訳の品質には客観的尺度があるか?」という問いを設定する人も、一部にいた。
翻訳の学習、翻訳者の養成施設など
翻訳の学習は、次のような施設で行われている。
- 大学の外国語学部 ─ 語学力そのものを高度に高めることや、翻訳に必要な、コミュニケーションや国際関係の理解力を高めるのに適している。一部の大学の大学院には翻訳・通訳を、実践的、専門的に学ぶコースやプログラムが設置されている。
- 大学の文学部 ─ 小説や詩などの文学翻訳をしたい場合、文学理解および日本語の表現力を磨く土壌として文学部(英米文学科、仏文学科、ドイツ文学科、ロシア文学科など)が選ばれることがある。ただし、大学の文学部や外国語学部は基本の語学力および文献を読み解く基礎教養を身につける場所という側面が強く、翻訳の実践的技術(ノウハウ)を直接的に教えてはくれないことは多いので、文学翻訳の仕事(実務)をするには、まだ足りないものがあり、実践的な翻訳スクールで訓練を積む必要があると感じる人も多い。[注 3]
- 外国語の専門学校
- 民間の翻訳スクール
- 通信講座
- 産業翻訳者の養成施設
翻訳業界のメインストリームである産業翻訳は、ビジネス文書、技術マニュアル、契約書、医療・ITなどの実務文書の翻訳を行う業務であるが、こうした産業翻訳のプロの翻訳者へなるコースとしては、外国語学部や、あるいは経済・ビジネス系学部で基礎的な知識や語学を身につけて卒業した後に翻訳会社直営の専門スクールや通信講座へ通うのが王道である。[注 4] 産業翻訳も専門ごとに分かれており(どの専門の翻訳もできるというわけではなく)、得意分野に特化して翻訳スキルを磨いてゆくことになる。
- 他
なお、学問的に翻訳という行為自体を研究する学問としては、翻訳学(翻訳研究、英語: translation studies)がある[34]。
翻訳業界の構造、傾向
- 翻訳業界の売上構造と業界構造
日本国内の翻訳業界の、2009年度の売上の、翻訳の種類別の構成は次のとおり。
- 産業翻訳(技術やコンピュータ関連の文書、ビジネス文書など)が約69%で圧倒的に主流[35]
- 特許翻訳が15%[36]。
- 文学翻訳などの出版はわずか1%にすぎない[37]。 ─ 翻訳文学は文学ジャンルとして確立しているが、社会的評価とは裏腹に、経済的な成功は伴わない[38]。
- 傾向の変化
2010年代には「グローバリゼーションの進展により多言語間の交流が増大し、それにともなって交わされる文書なども増大したため、翻訳の重要性は高まっている」と言われていた[39]。そして2010年代は翻訳業界の総売上高は上昇傾向にあった。
ところが2022年11月に生成AIのChatGPTが公開され、生成AIによる翻訳により、2023年以降は、翻訳業界(翻訳会社)の売上および利益額が下降トレンドに入った [40]。つまり、生成AI翻訳が出現したことで明らかに翻訳業界の売上や利益額に悪影響が出ている。
(Google翻訳などの機械翻訳が登場したころから翻訳業界にいくらか変化が生じていたが、)さらに、2022年暮れ以降、翻訳 AI が自然な下訳をわずか数秒で生成するようになったことで、翻訳業界で仕事をしている人々の仕事内容にも変化が起きている。2026年現在、多くの企業が翻訳AIを、もはや試験的な補助ツールではなく、コンテンツ運用を支える基盤の一部として扱っている。AIが翻訳プロセスに組み込まれ、翻訳業務の進め方が変化しつつある。翻訳業界における「翻訳の仕事」というのは、従来のような、各文を翻訳する仕事ではなく、「翻訳の業務プロセスを設計し、管理すること(翻訳の品質を管理すること)」へと移行してきている[41]。[注 5]
支払われる報酬の基準も、従来は単純に単語数や分量(ページ数など)だったのに対して、生成AI翻訳登場以降は、成果物の品質や「利用文脈との適合度」(文書の利用目的にどれくらい合致した翻訳になっているか)へと変化してきている。[41]
プログラミング用語での「翻訳」
この節には独自研究が含まれているおそれがあります。 |
脚注
注釈
- ↑ 現代の事例では、サダム・フセインの小説を和訳する際に戦下の版権所有者と連絡がとれず、フランス語版からフランス文学者が翻訳した例がある[23]。
- ↑ 梶山雄一、赤松明彦らは大智度論を引き、漢訳に取り組んだ龍樹と鳩摩羅什に着目した[25]。 大乗仏典の日本語化の歴史を見つめ翻訳を取り上げた頼富本宏らの考察[26]がある。 言語学では宮澤大三郎らが『法句経』の全訳に取り組み、文字の適用や訓読みの採用の過程を考察した[27]。 また城生佰太郎らによる実験音声学の考察[28]、仏教文明の表現を中国語と日本語、英語で照らす新川登亀男らの研究[29]がある。
- ↑ 最初のウェブ機械翻訳であるBabel Fishは1997年12月9日、Google翻訳は2006年4月28日、DeepL翻訳は2017年8月28日にサービスを開始している。
- ↑ プログラミング言語におけるコンパイルなど、形式言語における変換を指して「翻訳」という語をあて、特に、以前は多出するカタカナ語の言い換え語を指した。自然言語の翻訳と、形式言語の変換は本質的に異なる。言い換え語では、読者は理解したと誤解した状態にとどまる。[要出典]
- ↑ なお、意訳ができる翻訳者が慣用表現を翻訳する場合、実人生を生きて頭脳に記憶されている膨大な量の自然な母語(この場合、日本語)から、同じ意図や意味で使われている日本語文をまるごとワンセットで思い出して訳文として提示しているだけである。つまり、慣用表現を意訳する場合、ひとつひとつの単語を頭脳内でこねくりまわしたり、対応する単語を探したり、特定単語を消去したり特定単語を足したりするような作業をして翻訳しているわけではない。
- ↑ 普通の人々は、翻訳の品質に「客観的な尺度」、特に「ただひとつの尺度」などというものは無い、あるはずがない、ということは、最初から直感的に理解している。
- ↑ なお、文学翻訳では大抵の場合、ほとんど収入にならない。結局は、産業翻訳などをメインの仕事として食いつなぎ、副業というより、趣味(投入した時間に収入が見合わない行為)のように文学翻訳をする、というパターンになる人が多い。
- ↑ 翻訳会社が運営する翻訳スクールの多くが、修了時や特定の試験(トライアル試験)に合格した優秀な受講生を、運営元の翻訳会社や提携企業の登録翻訳者(フリーランス。歩合制の翻訳者)として迎え、実際に仕事を発注するシステムをとっている。
- ↑ なぜ、翻訳会社の人間から見るとこういう変化が起きているかというと、「品質は二の次でいいから、とりあえず意味が通じるように翻訳してくれ」というような仕事は翻訳会社には依頼されなくなったからである。人々は、そういう単純な、意味が大まかに分かればいいというような翻訳は、生成AI登場後は翻訳会社に依頼せず生成AIにまかせるようになってしまったからである。翻訳会社にその仕事が回ってこなくなった結果、翻訳会社から見ると、それ以外の仕事の重要性が増し、高品質が求められる翻訳へと軸足を移さざるをえなくなってきている。
出典
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参考文献
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関連項目
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外部リンク
- 日本通訳翻訳学会
- 一般社団法人日本翻訳協会
- 一般社団法人日本翻訳連盟
- NPO法人日本翻訳家協会
- NPO法人日本翻訳者協会
- 翻訳家(翻訳者)の仕事内容・なり方・年収・資格を解説 - キャリアガーデン
- 出版翻訳データベース - 日本人翻訳家のデータベースサイト
- 『翻訳』 - コトバンク