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2022年9月イギリスの大規模減税政策

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

本項目では、2022年9月に発表された『成長計画 (The Growth Plan)』と題する予算声明(英語版)と、その計画に関する騒動(日本においてはトラス・ショックとして知られる[1][2][3][4])について記述している。

概説

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2022年9月23日、クワシ・クワーテン財務大臣は下院で『成長計画 (The Growth Plan)』と題する予算声明(英語版)を発表した[5][6]。(公式な予算声明ではないものの)メディアでは広く「ミニ・バジェット (mini-budget)[注釈 1]」と呼ばれているこの計画(以下同名で表記)には、

  • 所得税の基本税率を20%から19%に引き下げる計画の前倒し、
  • イングランド、ウェールズ、北アイルランドの所得税の最高税率(45%)の廃止、
  • 2021年3月に発表された2023年4月からの法人税の19%から25%への引き上げ計画の撤回
  • 2022年4月の国民保険の引き上げの撤回、医療・介護負担金(Health and Social Care Levy)案の中止

など、一連の経済政策と減税が盛り込まれた[9][10][11]。ミニ・バジェットへの否定的な反応が広まったことを受け、予定されていた45%税率の廃止は10日後に撤回され、法人税の増税中止計画は21日後に撤回された。

このミニ・バジェットは、9月6日に発足したトラス政権の最初の施策のひとつであった。声明はイギリスの生活費危機(英語版)を背景に発表されたが、その直後、借り入れの増加に世界市場が否定的な反応を示したため、ポンド価値は対米ドルで急落した。また、予算責任局 (OBR)による独自の見通しが示されなかったことも懸念された。翌日の取引では、ポンドは対米ドルで史上最安値を記録した。ミニ・バジェットはエコノミストから広く批判を浴び、その中には、過去50年間で最大の減税を行うために政府借入を増やすというその依存性が、イギリスが国際通貨基金(IMF)に財政救済を要請せざるを得なかった1976年ポンド危機(英語版)のような事態を招くのではないかと懸念する者もいた。IMFは、予算案が「不平等を拡大させる可能性が高い」と公然と批判的な回答を発表するという異例の措置をとった[12]。IMFはイギリス政府に対し、減税案を「再検討 (re-evaluate)」するよう求めた[13]。イギリス財務省は、この減税案の費用算定方法の概要を11月に示す計画であると発表していたが、発表時期はその後、独立機関であるOBRによる予測と併せて、10月31日に前倒しされた。

市場の混乱が続き、保守党議員を含む国会議員から政策転換を求める声が上がったにもかかわらず、リズ・トラス首相とクワーテン財務大臣は、ミニ・バジェットに示された提案の実行を堅持した。トラスの首相としての将来をめぐる憶測が高まり始め、10月14日、トラスはワシントンD.C.で開かれていたIMF年次総会からクワーテンをイギリスに呼び戻し、辞任を求めた[14]。その後、トラスはジェレミー・ハントを後任の財務大臣に指名した。ハントはミニ・バジェットに盛り込まれていた減税策の大部分を撤回した[15]。この決定は市場から好意的に受け止められた。10月25日のトラス首相の辞任後も、後任のリシ・スナク首相はハントを財務大臣に留任させている。10月31日に予定されていた秋季予算声明 (autumn statement)は、「可能な限り正確な」経済予測に基づいて行うべく11月17日に延期され、併せて正式な秋季予算声明(英語版)へと格上げされた。

ミニ・バジェットに対する当初の反応は様々だった。『デイリー・メール』紙は「真の保守党予算案」と評した[16] 一方、労働組合会議のフランシス・オグレディ(英語版)書記長は「ロビン・フッドの真逆だ (Robin Hood in reverse)[注釈 2]」と烙印を押した。BBCの経済担当編集者であるファイサル・イスラムは、ミニ・バジェットの撤回を「イギリス経済史上最大のUターン」と評した[18]。『オブザーバー』紙の元経済担当編集者であるウィリアム・キーガンは、声明で概説された計画は、サッチャリズムとその税制に対する姿勢についての誤解を露呈していると書いた[19]。

このミニ・バジェット発表が引き金となって発生したイギリス金融市場の混乱のことを、とくに日本では「トラス・ショック」と呼ぶ場合がある[1][2][3]。

背景

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ミニ・バジェットは、高水準のインフレが続き、特にエネルギー価格が急騰する生活費危機(英語版)のさなかに策定された。2022年7月から9月にかけて行われた保守党党首選挙において、リズ・トラスは、トラス含め5人の保守党議員による共著書『ブリタニア解放:成長と繁栄のための世界的な教訓(Britannia Unchained: Global Lessons for Growth and Prosperity)』(2012年出版)において以前に概説されていたところの[20]、大幅な減税の実施と急進的な自由市場政策の採用を含む緊急予算を主張した。『ブリタニア解放』は、右派系シンクタンク、とりわけタフトン・ストリート55番地(英語版)に拠点を置くシンクタンクによって支持されていた。こうした政策の実現可能性については、対立候補であったリシ・スナクや政治評論家から批判が寄せられていたが、トラスは党首選に勝利し、2022年9月に首相に就任した。トラスはその後、『ブリタニア解放』の共著者の一人であるクワシ・クワーテンを財務大臣に任命した。

2022年9月15日、クワーテンが9月23日に緊急予算を発表する予定であると報じられた。当時、女王エリザベス2世の崩御を受けて議会は休会中であり、葬儀の後まで政府の通常業務は停止されていた[21][22][23]。トラスの首席経済顧問はマシュー・シンクレア (Matthew Sinclair)であった[24]。

ミニ・バジェットは、クワシ・クワーテン財務大臣によって、下院に提出された。

9月21日、予算発表に先立ち、また家庭向けエネルギー料金の上限を2年間設定する計画をすでに発表していたことを踏まえ、イギリス政府は、10月1日から6か月間、企業向けのガスおよび電力の卸売価格を動かさない制度を導入すると発表した[25] 。これに続き翌22日には、2022年4月から実施されていた国民保険料(National Insurance)の1.25%引き上げを、11月6日から撤回すると発表した[26]。同日、2023年4月に医療・介護負担金(Health and Social Care Levy)を導入する計画が撤回されることも発表された[26]。

イングランド銀行は、インフレ抑制を目的として、イギリスの政策金利を1.75%から2.25%へと引き上げた。これは27年ぶりの大幅な利上げであった[27]。景気後退入りの可能性に対する懸念が続く中、イングランド銀行が、イギリス経済はすでに景気後退に入っている可能性があるとの見解を示したことで、その懸念はいっそう強まった[22]。

前述の通りミニ・バジェットは、2022年9月23日に財務大臣のクワシ・クワーテンが行った予算声明(英語版)において発表された。この声明に先立ち、公共財政について独立した分析を行う機関である予算責任局 (OBR)は、ミニ・バジェットが経済に与える影響に関する即時予測を作成することを申し出たが、政府に拒否された[28][29]。トラスは、政府にはOBRの報告書を待つ時間がなかったと主張したが、OBRは9月23日までに作成する用意があったと述べている[30]。その後の報道によれば、トラスが首相に就任して間もなく、財務省および内閣府の上級官僚らは、OBRによる独立した成長予測なしに(借金で財源を賄う)大規模減税を行うことは、高リスクで経済に過度のショックを与えかねない戦略であるとして、慎重になるようトラスに対し助言していた[31]。特筆すべき点として、財務次官(英語版)であったトム・スカラー(英語版)は、この役職に6年間就いていたが、トラスが就任した直後に解任された[32]。

予算声明が行われる前日の22日夜、『ガーディアン』紙の経済担当編集者ラリー・エリオット(英語版)はミニ・バジェットの重大性について言及し、「正式な予算案のほとんどは重要視されず、すぐに忘れ去られる」が「今回の予算案は実に重大な意味を持つ」と述べた。というのもこれは、従前政府の帳簿を合わせることを重視し、マーガレット・サッチャー元首相が「主婦が家計をやりくりすること」になぞらえていたイギリス経済運営に対するアプローチに、大きな変化をもたらすからである[33]。

トラスとクワーテンが採用した経済哲学は、減税によって経済成長が促され、その結果として減税分の財源は最終的に自ら賄われるようになる、という考え方に基づくものであった。この理論はサプライサイド経済学として知られ、批判者からはトリクルダウン経済学とも呼ばれている。この路線は「トラスノミクス(Trussonomics)」と名付けられ、経済運営の方法を異にすることで「財務省的正統 (Treasury orthodoxy)に挑戦」しようとした[33][34]。トラス首相が辞任しリシ・スナクが首相に就任した後、クワーテンは2022年11月のインタビューで、失敗に終わった経済政策について「進め方があまりに速すぎる」とトラスに警告していたことを明らかにした[35][36][37]。

2022年12月12日、財務省の官僚は、ミニ・バジェットが金融市場で反発を招く可能性があるとの警告をクワーテンが顧みていなかったと下院議員らに説明した。財務次官のジェームズ・ボウラー (James Bowler)は、財務省官僚がクワーテンに対して「正しい助言を提示したことには完全に自信がある」と述べた一方で、方針変更を説得することはできなかったとし、「官僚は助言するが、決定するのは大臣である(officials advise but ministers decide)」と語った[38]。また、財務省の公務員ベス・ラッセル (Beth Russell)は、下院財務特別委員会(英語版)に対し、自身ともう一人の官僚は、経済・財政の背景、想定される影響、市場の状況、そして特に、施策のコストにより大きな問題となっていた資金調達の必要性について、「大臣に対してすべての助言を行ったと確信している」と証言した。ラッセルは、官僚として最善の助言は行ったが、最終的な判断を下すのは大臣であると強調した[38]。

ミニ・バジェットの内容

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主要政策を5年間の財政コスト順に示したグラフ[39][40]
単位:100万ポンド
国民保険料引き上げの撤回
  
76,965
法人税引き上げの中止 dagger
  
63,175
エネルギー料金支援(2022–23年)
  
60,000[注釈 3]
生活費支援(2022年5月発表)
  
15,350
印紙税 (Stamp Duty) 減税
  
7,030
所得税45%税率区分の廃止 dagger
  
6,790
IR35(英語版)規制の緩和 double-dagger
  
6,190
所得税の基本税率を20%→19%へ引き下げ double-dagger
  
5,480
年間投資控除 (Annual Investment Allowance) の上限引き上げ
  
5,315
VAT免税 double-dagger
  
5,280
過去に実施されたエネルギー支援について、返還 (clawback) を求めない
  
4,780
酒税の据え置き/制度改革 double-dagger
  
2,520
配当税引き上げの撤回 double-dagger
  
2,420
ベンチャー/従業員株式制度の改革
  
280
dagger 10月14日までに撤回された政策は水色で表示。
double-dagger 首相の交代までに撤回された政策は紫色で表示。

『成長計画 (The Growth Plan)』として発表されたミニ・バジェットは[39][41]、減税を通じて経済成長を促進することを目的としており、その財源は国債残高の増加によって賄われることになっていた[42]。この政策パッケージは、5年間で1,610億ポンド、2022~2023年のエネルギー料金支援策だけでも600億ポンドにのぼり[39]、仮に実現していれば、1972年にアンソニー・バーバー(英語版)が打ち出した「成長への突進 (dash for growth)」予算(英語版)以来、イギリス最大規模の減税となっていた[43][44]。またこの予算案では、年率2.5%の経済成長目標が設定されていた[45]。

イギリスの独立系シンクタンクであるレゾリューション財団(英語版)は、このミニ・バジェットがイギリス財務省に300億ポンドの損失をもたらしたと試算している。この試算に基づけば、財務省が600億ポンドと見積もっているイギリスの財政赤字のうち、約300億ポンドはトラス政権に起因するものであると解される[46]。レゾリューション財団のエコノミストは、トラス首相の在任期間(7週間)中に、国民保険料および印紙税の財源なき減税によって、トラスおよびクワシ・クワーテンの下で約200億ポンドが浪費されたと推計している。さらに、市場がトラス首相の成長戦略に幻滅したため、金利と政府の借入コストが上昇したことで、追加で100億ポンドの損失が生じたと推定している[46]。

要点

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ミニ・バジェットで発表された事柄の要点は以下の通りである[9][10]。

  • 所得税の基本税率を(当初予定されていた2024年4月ではなく)2023年4月から19%に引き下げ (22年10月17日に撤回)
  • イングランド、ウェールズ、北アイルランドにおいて、高所得者に適用される所得税の45%追加税率を2023年4月から廃止(10月3日に撤回)
  • 2022年4月に導入された国民保険料の1.25%引き上げを、11月6日から撤廃
  • 2023年4月から導入予定であった医療・介護負担金(en:Health and Social Care Levy)の導入計画を撤回
  • 2023年4月に予定されていた法人税率を19%から25%へ引き上げる計画を中止(10月14日に撤回)
  • ユニバーサル・クレジット(英語版)受給者の約12万人に対し、より多くの就労活動を行うよう求め、応じない場合には給付制裁の対象とする
  • 50歳以上の求職者に対し、就職支援のためジョブコーチとの面談時間を拡充
  • オフペイロール労働を規律するIR35(英語版)(租税回避防止法)について、2017年および2021年改正を撤回する措置(10月17日に撤回)
  • 法人向けの年間非課税投資控除 (Annual tax-free corporate investment allowance) の上限を100万ポンドとし、恒久化
  • 関連規制を変更し、年金基金 (pension fund) が英国国内への投資を拡大できるようにする
  • 投資家向け税制優遇を拡充し、設立から間もない企業やスタートアップ企業 (new and start-up companies) が最大25万ポンドまで資金調達できるようにする
  • 従業員に付与できる自社株株式購入権 (share option) の上限額を、3万ポンドから6万ポンドへ引き上げ
  • 印紙税が非課税となる基準を即時に25万ポンドへ引き上げ(初回住宅購入者は42万5,000ポンド)[47]
  • エネルギー料金を2年間据え置く措置(10月17日に期間が6か月へ短縮)[48]
  • 銀行員の賞与(ボーナス)に対する上限規制を撤廃
  • 海外からの訪問者に対するVAT免除を再導入し、EUからの訪問者にも拡大[49] (10月17日に撤回)
  • ビール、シードル、ワイン、蒸留酒に対する酒税引き上げ計画を撤回
  • イングランドに投資ゾーン (investment zones) を設置する計画[50]。当初38か所を提案
  • 都市利用関連法制 (planning laws) の規制緩和、およびEU由来の都市利用規制の撤廃

クワシ・クワーテン財務大臣はまた、次の財政法案が国王裁可を受けた時点で、税制簡素化局 (en:Office of Tax Simplification)を閉鎖すると発表した[51]。

反応

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ミニ・バジェットの中核をなす『成長計画』の表紙。

通貨・金利

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9月23日、ミニ・バジェットの発表後、政府が計画している歳出増と減税を受けてポンドは急落し、米ドルに対して3%下落して1.09ドルを下回った[52]。また、ユーロに対しても0.75%下落した[53]。9月26日、英ポンドは対ドルで史上最安値を記録し、1ポンド=1.0327ドルまで下落した。これは1971年にイギリスの通貨単位が現在の10進法に移行(英語版)して以来の最低水準であった[54]。その結果、2022年末までにポンドとドルが等価(すなわち1ポンド=1ドル)になる確率が60%に上昇した[55]。わずかな回復の後[56]、9月28日に再び下落し、1ポンド=1.05ドルとなった[57]。9月30日、再びわずかに回復したが、その後トラス、クワーテン、予算責任局の緊急会議の後、財務省が予算責任局の予測の早期公表の要請に抵抗したことで、ポンドは再び下落し、1.1082ドルとなった[58][59]。10月3日、クワーテンが高所得者向け所得税の最高税率を廃止する計画を撤回すると発表したことを受け、英ポンドはミニ・バジェット発表前の水準まで回復し、1ポンド=1.13ドルに達した後、やや下落して1.12ドルとなった[60]。翌日には、クワーテンが予算責任局の報告書を「近く」公表すると発表したことを受け、1ポンド=1.14ドルまで上昇した[61]。 10月11日、イングランド銀行総裁のアンドリュー・ベイリー(英語版)が国債購入計画の終了を表明した後、ポンドは再び下落し、2週間ぶりの安値を記録した後、1ポンド=1.10ドル前後で落ち着いた[62][63] 。10月13日、財政計画の変更の可能性について政府内で協議が行われているとスカイ・ニュースが報じたことを受け、ポンドは回復し、1週間ぶりの高値となる1ポンド=1.12540ドルに達した。これらの報道を受けて、株式および債券も回復した[64][65]。翌日には、政策が撤回される可能性があるとの観測を背景に、英ポンドは1ポンド=1.13ドルまで上昇したが[66]、トラスが急きょ開いた記者会見で、法人税引き上げ中止計画を撤回すると発表した後、再び1.12ドルまで下落した[67]。 その後10月17日に、新たに財務大臣に就任したジェレミー・ハントが、予定されていた減税措置の大半を撤回したことを受け、1ポンド=1.13ドルまで上昇し[68]、同日の終値は1.14ドルとなった[69] 。さらに、10月25日にリシ・スナクが首相に就任すると、1ポンド=1.149ドルまで上昇し、9月中旬以来の高値となった[70]。

9月26日、市場を落ち着かせる狙いから、財務省は、クワーテンが11月23日に中期財政計画を公表し、併せて英国の財政監視機関である予算責任局が予測を示す予定であると発表した。これらはいずれも、諸施策の財源や費用見積もりの詳細を明らかにするものとされた[71]。 同日、イングランド銀行は、必要とあらば金利を引き上げることを「ためらわない」とし、「情勢を注視している」と述べたが、政策金利を決定する次回会合は11月まで開かれないとも表明した[72] 。 翌日には、イングランド銀行のチーフエコノミストであるヒュー・ピル(英語版) が、「重大な金融政策上の対応 (significant monetary policy response) 」が必要になるだろうと述べた[73]。

9月27日、金利上昇への懸念を背景に、銀行や住宅金融組合は、一部の住宅ローン商品を市場から引き揚げた。ヴァージン・マネー(英語版)とスキプトン・ビルディング・ソサエティ(英語版)は新規顧客向けの住宅ローンの提供を停止し、アイルランド銀行はすべての新規住宅ローンの提供を中止した[74]。また、ネーションワイド・ビルディング・ソサエティ(英語版)は、翌日から固定金利型住宅ローンの金利を0.90%から1.20%の範囲で引き上げると発表した[75]。

9月29日までに、住宅ローン商品の40%がイギリス市場から撤退した[76][77]。10月5日には、一般的な2年固定金利型住宅ローンの金利が、2008年以来初めて6%を超えた[78]。さらに11月1日、ネーションワイド・ビルディング・ソサエティは、ミニ・バジェットによる混乱の結果、10月の住宅価格が前月比0.9%下落したと報告した。これはイギリスの住宅価格としては15か月ぶりの下落であり、新型コロナウイルス感染症パンデミックの最中であった2020年6月以来、最大の下落幅であった[79]。

10月2日、『サンデー・タイムズ』紙は、クワシ・クワーテン財務大臣が9月23日の夜に出席したパーティーにおいて、ポンドの急落から利益を得る可能性のあるヘッジファンド運用者らと経済政策について議論したと報じた。ヘッジファンド運用者らは「(クワーテンを)そそのかした」と報じられている。同パーティーに出席していた保守党のジェイク・ベリー(英語版)は、そのような会話があったという主張を否定した[80]。

10月18日、イングランド銀行副総裁のジョン・カンリフ(英語版)は、下院財務特別委員会(英語版)で、イングランド銀行はミニ・バジェットの内容について事前に知らされておらず、「前夜に政策パッケージ全体について十分な説明を受けてはいなかった。もし市場の反応がどうなるかについて我々に意見を求めていれば、政府と協議していたはずだ」と下院議員らに述べた[81]。 11月29日、貴族院の経済問題委員会(英語版)に出席したアンドリュー・ベイリー(英語版)総裁も、イングランド銀行はミニ・バジェットの内容を事前に把握していなかったと説明した。ベイリーは貴族院構成員らに対し、前日に財務省の職員が金融政策委員会前日の金融政策委員会の会合に出席していたにもかかわらず、「財務省の官僚自身が、(ミニ・バジェットに)何が盛り込まれるのかを明確に理解していなかったのだと思う」と語った[82]。

債券市場

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スカイ・ニュースのイアン・キング(英語版)は、政府借入額の大幅な増加が見込まれることから債券市場が急騰し、英国債の利回りが即座に大幅に上昇したと指摘した[53]。トレーダーが英国資産を売却したため、5年物国債の借入コストは、単日としては過去最大の上昇を記録した[43]。財務省は、2022年中に英国債の追加発行額を720億ポンド増やすよう、債務管理局(英語版)に要請すると発表した。キングは、クワーテン財務大臣の戦略を「ハイリスク・ハイリターン」で「成長追求を臆することなく前面に押し出したもの」と評した一方で、イングランド銀行が金融引き締めを進めている最中に、これほどの財政緩和が行われることに対して、債券市場が強い懸念を抱いていたと述べた[53]。

この債券市場の変動を受け、イングランド銀行は9月28日、市場を落ち着かせるため、10月14日までの2週間、英国債を一時的に買い入れると発表した[83] 。これは、特定の種類の年金基金が破綻の危機に直面していたためであり[84]、イングランド銀行の副総裁であるジョン・カンリフ(英語版)は後に、解散まで「数時間」という状況にあったと述べている[85]。

『フィナンシャル・タイムズ』紙は、多くの年金基金が、将来の金利変動リスクを管理するために債務連動型運用(英語版)(LDI)[86] のデリバティブを用いており、国債価格が急落すると、追加担保として現金の差し入れを迫られたと報じた。その結果、資金捻出のための投売り (forced selling) が起こり、イングランド銀行が介入するまで、債券価格はさらに押し下げられた[87]。

イングランド銀行は9月28日に、元本を償還するまでの期間が20年以上 (maturity of at least 20 years)の長期国債を1日あたり最大50億ポンド購入する計画を立て、10月14日までに総額で最大400億ポンド分の国債を購入する用意があるとしていたが、実際に購入したのは50億ポンド分にとどまった[88][89][90]。一方、クワーテン財務大臣は10月10日、歳出計画を発表する予定日を11月23日から10月31日に前倒しすることを表明したが、これによって市場が安定することはなく、政府の借入コストは急上昇した[91]。

また同じ10月10日、イングランド銀行は、10月14日に終了予定の緊急国債購入プログラムを「秩序立って終了させる (orderly end)」ことを目的とした新たな措置を発表した。これには、プログラム実施最終週における1日あたりの国債購入額の上限を50億ポンドから100億ポンドへ倍増することや、年金に対する将来的な圧力を緩和するための追加支援策を講じることが含まれていた[89][92]。年金・生涯貯蓄協会(英語版)によれば、同協会に加盟する多くの基金は、クワーテンが新たな歳出計画を公表する10月31日まで、国債購入プログラムを延長するよう求めていた[93]。しかし、10月11日にイングランド銀行がさらなる国債の買い入れに踏み切った一方で、アンドリュー・ベイリー(英語版)総裁は、この措置は当初の予定どおり終了すると改めて強調した。イングランド銀行はさらに、市場の混乱が続くなかで、金融安定に対する「重大なリスク(material risk)」が存在すると警告した[94]。

10月14日、クワーテン財務大臣が解任され、トラス首相が法人税減税計画の撤回を発表した後、複数の国債における政府の借入コストが上昇した[95]。10月17日には、後任のジェレミー・ハント財務大臣がミニ・バジェットで打ち出された減税策の大部分を撤回すると発表したことを受け、国債利回りは低下したが、トラス首相就任時と比べると依然として高い水準にとどまっていた[68][96]。10月25日にスナクが首相に就任すると、国債利回りはミニ・バジェット以前の水準に戻り、30年国債の利回りは3.68%まで低下した[97]。

国際社会の反応

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9月27日、国際通貨基金(IMF)は、異例の対応として声明を発表し、その中でミニ・バジェットを公然と批判し、「英国の措置の性質は、不平等を拡大させる可能性が高い」と述べた。世界経済の安定化を担い、健全な経済運営に対して警鐘を鳴らす役割をもつIMFは、当時11月23日に公表予定であった政府の財政計画について、税制措置、とりわけ「高所得者に有利なもの」を「再検討(re-evaluate)」する契機を与えるものだとの見解を示した[98]。

9月28日、世界的な信用格付け機関であるムーディーズは、これらの計画について「信用にとってマイナス(credit negative)」であると評価し、「イギリスの債務負担能力(debt affordability)をより恒常的に弱める可能性がある」と警告した[99]。その後ムーディーズは、10月21日、イギリスの経済見通しを「ネガティブ(negative)」に引き下げたが、その理由として「イギリスの債務返済能力に対するリスク」[100] や「成長見通しの弱まりと高インフレの中で、政策運営の予測不能性が高まっていること」、そして「借入額の増加が見込まれることと政策の信認が持続的に弱まるリスクに起因する、イギリスの債務返済能力に対するリスク」を挙げている[101]。

10月16日、アメリカ合衆国大統領のジョー・バイデンは「それが誤りだと考えたのは私だけではなかった。超富裕層に対する減税という発想については……私はその政策に賛成しないが、判断を下すのはイギリスであって、私ではない」と述べた[102]。他の各国の指導者や世界のメディアも、ミニ・バジェットおよびトラスの経済政策を批判した[103]。9月下旬、フランスの経済・財務大臣であるブルーノ・ル・メール(英語版、フランス語版)は、英国債の金利が急上昇したことは、イギリスのEU離脱によって市場における財政的信用が失われたことによる影響が大きいと指摘した[104]。

ビジネス・経済界

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この声明は、アダム・スミス研究所(英語版)、政策研究センター(英語版)、経済問題研究所(英語版)といった右派系シンクタンクを含む経済団体から概ね歓迎されたが、経済学者の間では、これらの計画が財政的に実現可能かどうかについて疑問が呈された[43][105]。IAEの事務局長マーク・リトルウッド(英語版)は、これを「景気押しあげ型予算(boost-up budget)」と称賛し「財務大臣が経済成長の重要性について情熱的に語るのを聞くのは新鮮だ」と述べた[106]。イギリス産業連盟(英語版)の事務局長トニー・ダンカー(英語版)は、政府の経済計画およびインフラ改革を歓迎し[107]、「今日はイギリスの新たな成長アプローチの第一日だ。この機会を有効活用し、イギリスの隅々まで成長をもたらさねばならない」と述べた[108]。また、英国経営者協会(英語版)のチーフ・エコノミストであるキティ・アッシャー(英語版)も、ミニ・バジェットを「イギリスのビジネスにとって朗報の日」と評価した[108]。プライスウォーターハウスクーパースの消費者市場部門責任者であるリサ・フッカー (Lisa Hooker) は、減税が「長期的には消費者を支えるはずだ」としつつ、「短期的なエネルギー費用支援も重要だ」と述べた[108]。

経済界には懸念の声もあった。英国パブ協会(英語版) (BII) のCEOであるスティーブン・オールトン (Steven Alton) は、声明は「各地域に存在する小規模パブ事業の脆弱性」に対処していないと批判した[108]。製造業団体Make UK(英語版)のCEOスティーブン・フィプソン (Stephen Phipson) は、ミニ・バジェットには多くの「前向きな施策」が盛り込まれていると述べつつも、これは過去10年間で6回目の成長戦略であり、その結果、企業にとって「確実性がゼロになっている」と警告した[108]。

独立系シンクタンクである財政研究所(英語版) (IFS) の所長ポール・ジョンソン(英語版)は、高インフレが続く中で経済に資金を注入するこの計画を「大きな賭け(big gamble)」と評した[42]。『ガーディアン』紙の論評記事は、この声明を「富を上方へ再分配する露骨な試み」と表現し、「政府のアプローチを支持する経済学者や、それを正当化できる経済モデルを見つけることはほぼ不可能だ」と述べた[10]。アクサ・インベストメント・マネージャーズのマクロ調査責任者であるデイヴィッド・ペイジ (David Page) は、この声明は「明らかに大規模な国債追加発行を示唆するものだが、同時に、イングランド銀行が総需要が高すぎることを懸念している局面での財政刺激であり、結果としてイングランド銀行に想定以上の利上げを強いる可能性が高い」と述べた[53]。

ドイツ銀行の為替調査グローバル責任者ジョージ・サラベロス (George Saravelos) は、イギリスの通貨は「危険にさらされている」と警告し、市場がイギリスを新興国のように扱っていると述べた[43]。元米財務長官ローレンス・サマーズは、イギリスは「新興国市場が没落市場へとなりつつある (emerging market turning into a submerging market) 」と表現した[109]。こうした見解は、金融危機を予測した経済学者の一人であるヌリエル・ルービニにも共有されており、ルービニはイギリスの資産が「新興国のように取引されている」と警告し、1976年に英国が国際通貨基金 (IMF) に金融支援を要請した1976年ポンド危機(英語版)との類似性を指摘した[110]。調査会社パンテオン・エコノミクス (Pantheon Economic) のサミュエル・トムズ (Samuel Tombs) は、ポンド安が2023年の生活費を0.5%押し上げる可能性があると提起した[111]。

一連の施策に支持を表明した経済学者としては、トラスが自身の着想源として挙げていたマーガレット・サッチャー元首相の経済顧問であったパトリック・ミンフォード(英語版)と、トラスの対外経済顧問であるジェラルド・ライオンズ(英語版)の2人が挙げられる。ミンフォードは、一連の施策によって既にインフレの安定、適度な金利、そして高い成長がもたらされていると主張し、トラスとクワーテンは「もっと強く訴えるべきだった(could have banged the drum harder)」とも述べた。ライオンズは、9月25日付で『サンデー・エクスプレス』紙に掲載された論考の中で、「すべての政府がより高い成長を望んでいるが、それを実現するために必要な行動を実際に取る政府はほとんどない。トラスは違う」と述べている。しかしその後、ミンフォードは、市場を安心させるためには、ミニ・バジェットの策定に際して予算責任局 (OBR) が関与すべきだったとの考えを示した。またライオンズも、計画の潜在的影響について、トラスおよびクワーテンの双方に対して「非常に明確に」警告していたと、後に述べている[112][113][114]。

財政研究所(英語版)は、財務大臣が政府債務を「持続不可能な上昇軌道」に乗せることによって、「全財産を賭ける(betting the house)」に等しい行為を行っていると指摘した。クワーテンは、自身が経済を賭けに出ているとの見方を否定し、むしろ第2次ジョンソン内閣が追求してきた経済政策のほうが賭けだったと主張し、「私の考えでは、賭けだったのは、これまでの路線に固執することだった。だから我々がすべきことは、再起動、再考だったのだ」と語った[42][115]。イングランド銀行の金融政策委員会の委員を3年間務めたデビッド・ブランチフラワー(英語版)は、トラスとクワーテン双方の信認に疑問を呈し、彼らの行動を「甚だしく無能 (raging incompetence) 」と表現した[116]。予算責任局の元委員であり、イングランド銀行副総裁も務めたチャーリー・ビーン (Charlie Bean) は、政府が示した対GDP比での債務削減に向けた3か年計画について、600億〜700億ポンドの財源不足が生じる可能性があると指摘した[117][118]。しかしトラスは、これらの政策は支出削減を伴わずとも導入可能であるとの立場を維持した[119]。国際通貨基金は、ミニ・バジェットで示された諸計画は短期的には成長を押し上げるものの、物価上昇との闘いを「より困難にする(complicate the fight)」と述べた[120]。

トラス首相が首相辞任を発表した後、『オブザーバー』紙の元経済担当編集者ウィリアム・キーガン (William Keegan) は、トラス首相の計画は「サッチャー主義とその税制に対する姿勢に対する誤解」に一部基づいていると指摘した。キーガンは、サッチャー首相就任後間もない時期にジェフリー・ハウ財務大臣が提出した1979年度予算(英語版)を例に挙げた。この予算では、個人所得税の最高税率を83%から60%に、基礎税率を33%から30%に引き下げるという大幅な減税が実施されたが、その一方で、付加価値税を8%から15%に引き上げることで相殺がなされていた。キーガンは「トラスらに向けられた衝撃と怒りの理由は、単に財源の裏付けのない減税を計画したことだけではなく、減税のために借金を行い、その恩恵が最もそれを必要としない人々に向けられていた点にあった。10年に及ぶ緊縮財政の後では、これは最後の一押しとなり、本来その恩恵を受けるはずだった人々にさえも反感を抱かせた」と述べた[19]。

メディア

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ミニ・バジェットは当初、右派系メディアからは広く好感を得た一方で、他のメディアの評価はそれほど肯定的ではなかった。9月24日付の『デイリー・メール』紙は、一面で「ついに来た!真の保守党予算(At last! A true Tory budget)」という見出しを掲げ、「成長を目指すほかに選択肢はない」とするイギリス産業連盟(英語版) (CBI) の見解を引用した。『デイリー・エクスプレス』紙はこれを「並外れた政策パッケージ」と評し、クワーテンがイギリスに「大きく賭ける勇気を持ったこと」について謝罪することは決してないだろうと述べ、この予算によってイギリスは「再び頂点に立つ」ことになると論じた。これに対し、『i(英語版)』紙は、ポンド安を市場による「厳しい初期判断(punishing early verdict)」だと評し、保守党内での反発が起こる可能性を警告した。『インデペンデント』紙は労働組合会議書記長のフランシス・オグレディ(英語版)の発言を引用し、この予算を「ロビン・フッドの真逆 (Robin Hood in reverse) 」だと断じた。また、『ガーディアン』紙は、これを「富裕層のための予算」と表現した[121][122]。

『サンデー・テレグラフ』の編集者アリスター・ヒース(英語版)はこれを「私が今まで聞いた中で、イギリスの財務大臣が打ち出した予算としては最高のものだ」と書いた。その内容について彼は、「減税はあまりにも巨大かつ大胆で、言葉遣いもあまりに異例だったため、時折、自分が夢を見ているのではないか、ミルトン・フリードマンやF・A・ハイエクの経済学を本気で信じている遠い国に連れて行かれてしまったのではないかと、思わず身をつねって確かめたほどだ」と述べている[106][123]。彼はさらに、「金融街における新たなビッグバン」や、「ステロイドを打ったかのような新しいカナリー・ワーフが何十も出現する」だろうと予測した[112]。その後、彼は市場の否定的な反応を「意気消沈させられるもの(dispiriting)」と評し、問題は「提示の仕方と文脈にあった」と主張した[123]。『デイリー・メール』紙のロンドン金融街(シティ)担当編集者アレックス・ブルマー(英語版)はこれを「地殻変動級の」ものと呼び、「減税に大ナタを振るい、経済政策の最前面に成長を据えることで、財務大臣は財務省の財政保守主義を脇へ押しのけた、真に保守党らしい政策パッケージを打ち出した」と述べた[106][112]。しかし『フィナンシャル・タイムズ』紙のマーティン・ウルフ(英語版)は、この予算について「中期的な成長を押し上げる効果はほとんど期待できない一方で、深刻なマクロ経済的不安定性を招くリスクがある」と考えた。彼はまた、政府がその影響について予算責任局に評価を求めなかった決定に対して批判的であり、それを「まったくもって言語道断だ (simply scandalous) 」と評したうえで、「この政府は、痛みを伴う現実に無関心なのかもしれない。しかし最終的には、たいてい現実のほうが勝つものだ」と述べた[106]。

政界

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労働党はこの声明を「カジノ的経済政策 (casino economics) 」だと批判し、中間所得層よりも富裕層により大きな利益をもたらす予算だと指摘した[43]。労働党議員、そして一部の保守党議員もまた、減税は誤りであるとの見方を示した[42][124]。労働党の副党首アンジェラ・レイナーは、この予算案は所得上位1%の層に有利になるとの考えを示した[125]。2022年の労働党大会(英語版)において党首キア・スターマーは、2024年の総選挙で労働党が勝利した場合、所得税の最高税率の引き下げを撤回すると述べた[126]。イギリスでは秋に主要政党が党大会を開き、議会が伝統的に休会となる[127] が、この危機はその最中に起きたため、労働党と自由民主党の両党から議会召集を求める声が上がった[128][129]。スコットランド民族党の下院院内代表イアン・ブラックフォード(英語版)は同党の党大会において、トラスとクワーテンは「イギリス史上最悪の第一印象を与えた」と述べ、さらにこの予算は「近代史における最悪の財政介入の一つとして伝えられるだろう」と述べた[130]。スコットランド首相のニコラ・スタージョンは、自身がスコットランドにおいて高所得者向け所得税減税を(イギリス政府と歩調を合わせて)実施する考えはないことをほのめかし、ミニ・バジェットを「無謀(reckless)」だと評した[131]。ウェールズ政府(英語版)の財務相レベッカ・エヴァンズ(英語版)は、可能であれば、年収15万ポンドを超える高所得者に対する45%の最高税率を維持するとの考えを示した[132]。

下院での声明から2日後に発言したクワーテンは、この予算が富裕層により有利だとする主張を退け、さらなる減税を行う計画だと述べた。「我々は実際に、人々の手元により多くのお金を残している。我々は(所得税の)基礎税率の引き下げを前倒しで実施する方向で動いており、今後もさらなる措置を予定している。今後1年間で、人々が自分の所得をより多く手元に残せるようにしたい。なぜなら、この経済を牽引するのは英国民だと私は考えているからだ」[133]。保守党所属で元財務大臣のケネス・クラーク(英語版)は、この戦略について、経済成長を促進しないままインフレを悪化させるおそれがあると述べ、「最も裕福な5%の人々に減税を行えば、彼らがより懸命に働くようになり、投資に殺到するようになり、それ自体が利益を生み、さらには国外からの投資まで呼び込むようになる」とする考え方を否定した[133]。トラス政権で教育大臣に任命されたキット・モルトハウス(英語版)は、トラスは党首選時に事前に政策転換を「予告(advertise)」していたと述べ、そのためミニ・バジェットに対する市場の反応には「驚いた」と述べた[134]。バーミンガムで開かれた保守党の年次大会(英語版)において、党員のマイケル・ゴーヴは、この計画は深刻な懸念を抱かせるものであり「保守的ではない (not conservative) 」と述べた[135]。

BBCニュースは9月26日、複数の保守党議員が、今回の予算声明に対する反応が保守党の経済運営に関する評判に悪影響を与えるのではないかと懸念していると報じた[136]。Sky Newsは、元閣僚の保守党議員の発言を匿名で引用し、トラスに対する不信任を表明する書簡が、党内の「1922年委員会」の委員長宛てに送付されており、再度の党首選挙を引き起こそうとする動きがあると報じた[137][138]。『インデペンデント』は、匿名の保守党議員の発言を引用し、もしトラスがこれらの計画を撤回しなければ、クリスマスまでに彼女が交代させられる可能性があるとの見方を伝えた[23][139]。ジャーナリストで放送司会者のアンドリュー・マー(英語版)は、これほど短期間で再び党首選挙が行われる可能性は低いとの見解を示した[140]。保守党の重鎮議員で下院教育特別委員会(英語版)の委員長であるロバート・ハルフォン(英語版)は、クワーテンが解任された後『サンデー・タイムズ』紙に寄稿し、保守党が「リバタリアンジハード主義者 (libertarian jihadists) のように振る舞っている」と述べたうえで、同党に対して、自分たちに投票したブルーカラーの保守層との結び付きを取り戻すよう強く求めた[141]。また彼は、政策の「抜本的な再出発(dramatic reset)」を要求した[142]。

ミニ・バジェットを支持する発言を行った政治家には、イギリス独立党の元党首ナイジェル・ファラージが含まれており、彼は最も早く支持を表明した人物の一人だった。ファラージはこの声明を「1986年以来、最高の保守党予算だ」と評した(1986年には、サッチャー政権が所得税率を30%から29%へ引き下げている)[106][143]。また、民主統一党のサミー・ウィルソン(英語版)もこの予算案を歓迎し、声明の中で「人々がより多くのお金を手元に残せるようにするという方針は歓迎すべきものであり、経済成長を促進するだろう」と述べた[144]。さらに彼は、この政策が「生活水準の向上、雇用の促進、公共サービスの収益増加につながるだろう」と主張した[145]。

いくつかの報道は、「複数の」保守党議員がミニ・バジェットの一部措置に反対票を投じる用意があると伝えた[146]。また、党の有力議員であるマイケル・ゴーヴは、所得税の最高税率45%の撤廃について、「誤った価値観の表れ(a display of the wrong values)」だと述べた[147]。対して、保守党幹事長 (chairman) のジェイク・ベリー(英語版)は、ミニ・バジェットに反対票を投じた議員は党の院内幹事(英語版)(whip)の地位を失うことになるだろうと示唆した[148]。政府が最高税率の廃止計画を撤回した後、元閣僚のグラント・シャップス(英語版)は、この政策は「筋が通っていなかった」と述べた[149]。一方で、内務大臣のスエラ・ブレイバーマン(英語版)は、保守党議員らが政府に対して「クーデター」を仕掛けたと非難した[150]。

『ザ・テレグラフ』のエドワード・マルニック (Edward Malnick) による回顧記事によれば、ミニ・バジェットの失敗は、トラス首相がチームに任命した人材の経験不足と、その目的の説明が不十分だったこと、とくにトラスとクワーテンが政策推進にあたって用いた表現に起因するという。マルニックは、ある匿名の政府高官の言葉を引用し、「サプライサイド改革」や「成長」といった言葉は、多くの人々が用語を理解できないため、一般の受け止め方に影響を与えなかったうえ、理解できるように説明しようとする試みもなされなかったと述べた。「『成長』といった言葉を持ち出す代わりに、政府は、有権者に対して、子どもたちを自分たちよりも豊かにしたいのだと語るべきだった」 [114]。

世論調査

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YouGov(英語版)が行った世論調査(2022年9月26日に『タイムズ』紙が報道[151])では、労働党の支持率が保守党を17%上回った。これは2001年以降で最大の労働党のリードとなっている。『タイムズ』紙は、この結果について「有権者がクワシ・クワーテンの減税予算に反対に転じた」ためだとしている。ミニ・バジェットが「公平」であると考えていたのは、調査対象者のわずか19%であった[151][152]。9月28~29日に実施されたYouGovの世論調査では、労働党が保守党を33%リードし、1990年代後半以来最大のリードとなった。労働党は54ポイント、保守党は21ポイントであった[153][154][155]。2022年の保守党大会において、政治世論調査の専門家であるジョン・カーティス(英語版)は、仮に世論調査における労働党のリードが縮小したとしても、次期総選挙で労働党が「極めて明確に本命(very clearly the favourites)」であると代議員らに述べた。また、トラスは辞任前の時点の前任者ボリス・ジョンソンと同じくらい有権者に不人気であると語った[156]。トラスが党首になって初めて行われた保守党大会の後、10月8日に発表された『オブザーバー』紙の世論調査では、彼女の支持率は-47となり、現職首相としては史上最悪の評価となった[157]。「ピープルポーリング (PeoplePolling) 」が10月14日に発表した世論調査では、保守党の支持率が19ポイント、労働党の支持率は53ポイントで、トラスに好意的な見方をする人は9%だった[158]。10月16日に「オピニウム・リサーチ (en:Opinium Research) 」が公表した世論調査は、総選挙が行われた場合に各党が獲得すると見込まれる下院議席数を試算し、労働党が411議席、保守党が137議席を獲得すると予測した。これは保守党にとって219議席の減少を意味し、1997年の総選挙に匹敵する労働党の地滑り的勝利となる予測であった[159]。

政府の対応

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当初の対応

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労働党は、減税措置がポンドの下落と借入コストの急騰を引き起こしたとして政策の撤回を求めたが、政府はこうした要求を退けた[57]。BBCニュースは、財務省首席政務官(英語版)のクリス・フィリップ(英語版)が、政府各省に対し、支出の効率化策を見出すよう求める書簡を送る予定であると報じた[57]。

9月29日、ミニ・バジェットの公表以降初めて公の場に姿を見せたトラスは、BBCのローカルラジオ局(英語版)に対して一連のインタビューに応じた。その中で彼女は、政府が「緊急に行動を取ったことは正しかった」と述べたほか、財務省はイングランド銀行と「緊密に連携している」とも述べ、自らの政策を擁護しようとした。彼女は、政府による介入の「主要部分 (biggest part) 」はエネルギー料金の上限設定にあると説明し、問題はイギリスだけに限られたものではなく、2022年のロシアのウクライナ侵攻の影響により、「世界各地の市場が困難な状況にある」と述べた[128]。トラスはまた「物議を醸す難しい」決断を下す覚悟もあると語った[160]。同日遅く、クワーテンは下院議員に対し、ミニ・バジェットは個人消費の急激な落ち込みを防ぐために必要であり、政府は経済を守ったのだと述べた[154]。

9月30日、トラスとクワーテンはダウニング街11番地において、予算責任局 (OBR)と48分間にわたる緊急会合を行った。予算責任局はその後、10月7日に暫定的な経済予測を提示すると発表した[58]。しかし政府はその後、予算責任局の予測を、他の経済政策とあわせて11月23日に公表すると発表した。財務特別委員会(英語版)委員長のメル・ストライド(英語版)を含む一部の保守党議員は、報告書をより早期に公表するよう求めていたが、トラスは11月23日の公表日程を「堅持する」と述べた[161][162]。

トラスは10月1日付の『ザ・サン』紙に寄稿し、ミニ・バジェットが「混乱」を引き起こしたことを認めたが、政府は生活費の負担を軽減するために「断固たる行動をとった」と述べた[163]。10月2日放送のBBC Oneの番組『Sunday with Laura Kuenssberg』に出演したトラスは、自身の政府が経済政策のための「地ならし(lay the ground)」を十分に行うべきだったことを認めたものの、これまでの計画は継続する考えを示した[164][165]。翌日、クワーテンは45%の最高税率を廃止する計画を撤回すると発表し、この件が「本来は強力な政策パッケージであったものから気をそらす巨大な要因(massive distraction on what was a strong package)となってしまった」と述べた[166]。彼はまた、政府が新たな予算声明(英語版)、および独立機関である予算責任局の経済予測を、当初予定されていた11月23日よりも前倒しして公表すると発表した[167]。 その後、この公表日は10月31日になることが発表された[91]。トラスも自身のTwitterアカウントを通じてこの方針転換を改めて強調し、「私たちは状況を理解し、国民の声に耳を傾けた」と述べた[168]。10月4日、BBCの政治編集長クリス・メイソン(英語版)に対し、トラスは、富裕層に対する減税には依然として賛成していると述べたものの、現時点ではその実施を検討しておらず、優先課題は「この冬を乗り切ること」にあると語った[169]。

トラスは、党首として初めて臨んだ10月5日の党大会演説において、イギリスを「高税・低成長の悪循環(high-tax, low-growth cycle)」から脱却させると述べた。トラスはこの演説において、労働党・自由民主党・スコットランド民族党などの野党勢力に加え、闘争的労働組合、「シンクタンクを装った既得権益層 (vested interests dressed up as think-tanks) 」、ブレグジット否定派、環境運動団体エクスティンクション・レベリオン、さらには一部の評論家などをまとめて「反成長連合(anti-growth coalition)」と呼び、非難した[170][171][172]。

10月4日、クワーテンはGBニュースに対し、ミニ・バジェットは女王の崩御直後という「緊迫した状況」の中で提示されたものだったと述べた。また彼は、最高税率の廃止については、単に「延期された」にすぎないと述べた[173]。元財務大臣のナディム・ザハウィは、BBC Oneの討論番組『Question Time』の放送回において、ミニ・バジェットによって生じた混乱について謝罪した一方、市場の混乱はロシア大統領ウラジーミル・プーチンの責任だと述べ、観客から嘲笑を浴びた[174][175]。

クワーテンは10月7日に予算責任局の経済予測を受け取った[117]。10月10日、クワーテンは、「中期財政計画(medium-term fiscal plan)」の公表日を、11月23日から10月31日へ前倒しした。予算責任局の報告書も同日に公表されることが発表された[91][176]。

10月12日の首相質疑 (PMQs)(英語版)において、トラスは、党首選で掲げていた「公共支出を削減しない」との公約について質問を受けた。トラスは議会に対して、「我々が確実に実現するのは、中期的に債務を減少させることである。しかしそれは公共支出を削減することによってではなく、公的資金をうまく使うことによって達成する」と説明した[119]。同日夕方、ウェストミンスターで開催された1922年委員会の会合において、トラスは、自身の政策が経済面および政治面の双方に損害を及ぼしているとして、複数の保守党議員から繰り返し警告を受けたと報じられている[177]。

財務大臣の解任

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ジェレミー・ハントは10月14日にクワーテンの後任として財務大臣に就任し、ミニ・バジェットで提示されていた減税の大部分を撤回した。

トラスとクワーテンの今後に対する憶測は続き、チャンネル4ニュースのゲイリー・ギボン (Gary Gibbon)は、トラスの同僚の間で「彼女はもうダメだ」と考える人が増えていると指摘した[178]。10月13日にはSky Newsが、ダウニング街ではミニ・バジェットで発表された措置の一部を撤回する方向で協議が行われていると報じた[179]。

10月14日、トラスは、ワシントンD.C.で開かれていた国際通貨基金 (IMF) 年次総会からクワーテンをイギリスへ呼び戻したうえで、在任38日で彼を財務大臣から解任した[180][181][182]。クワーテンの後任として、ジェレミー・ハントが財務大臣となった[183]。また、財務省首席政務官を務めていたクリス・フィリップ(英語版)も同職を解任され、後任としてエドワード・アーガー(英語版)が任命された[184]。

同日遅くにダウニング街で開かれた記者会見において、トラスは、法人税の引き上げについては前政権の方針を維持する計画を発表し、「我々のミニ・バジェットの一部は、市場が予想していたよりも踏み込みすぎ、かつ拙速であったことは明らかだ」と認めた[185][186][187]。トラスはまた、政府支出は「以前の計画よりも増加のペースが緩やかになるだろう」と述べた[188]。しかしこうした行動も、トラスの信頼性に対する疑念を払拭することはなかった。ノース・ウェスト・レスターシャー(英語版)選出の保守党議員アンドリュー・ブリッゲン(英語版)は、トラスが数週間以内に「党首の座に対する挑戦(leadership challenge)」に直面する可能性があるとの考えを示し、クワーテンの解任について「クワシ・クワーテンはトラスの要請した政策を実行に移したにもかかわらず、彼を解任してしまえば、トラスへの忠誠心は生まれないだろう (Removing Kwasi Kwarteng when he implemented the policies she asked him to do won't engender loyalty to her) 」と述べた[95]。またBBCニュースは、匿名の議員の発言を引用し、彼女の記者会見は「大惨事(mega-disaster)」であり、「コービンよりひどい」と評されたと報じた[95]。

『インデペンデント』紙のショーン・オグレイディ (Sean O'Grady) は、ハントが財務大臣に就任したことで、事実上、彼が実質的な首相(de facto prime minister)となったと指摘した[189]。同紙の政治編集長ジョン・レントール(英語版)もこの見方を共有していた[190]。しかしハント本人は、トラスが依然として政府の指導権を握っていると強調した[191]。BBCの経済編集者ファイサル・イスラム(英語版)は、ハントの財務大臣就任によって、「トラスノミクス」の経済哲学は死んだと書いた[34]。『テレグラフ』紙のエドワード・マルニック (Edward Malnick) もまた、その将来性に疑問を呈し、「彼女の自由市場路線の支持者たちは、それが今や一世代にわたって消し去られてしまったのではないかと懸念している」と述べた[114]。

トラスが政策の一部を撤回すると発表した翌日の10月15日、アメリカ合衆国大統領ジョー・バイデンは、イギリスの内政政策を批判するという異例の対応を取り、トラスの減税計画を「誤り」であると評した。また、「世界的なインフレ」のなかで、他国の財政政策が米国経済に影響を及ぼす可能性があることに懸念を示した[192]。

財務大臣に就任した翌日、BBC Radio 4の番組『Today』に出演したジェレミー・ハントは、ミニ・バジェットをめぐって誤りがあったことを認め、とりわけクワーテンが最高税率を引き下げた判断は誤っており、また予算責任局の見解を求めずに「手探りのまま(fly blind)」政策を進めたことも誤りだったと述べた。さらに彼は、今後は厳しい時期が続き、一部の税は引き上げざるを得ないだろうとも語った[190][193]。この出演を受けて、BBCのローラ・クンスバーグ (Laura Kuenssberg)は、ハントが「わずか24時間余りで、(トラスの)減税と公共支出を削減しないという公約から成る経済戦略を放棄した」と書いた[194]。翌日、ハントとトラスはチェッカーズで3時間にわたる会談を行ったが、その後、両者は『成長計画』で示された減税措置の大部分を撤回することに「激しく同意 (violent agreement) 」したと伝えられた[195][196][197]。

減税の撤回

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10月17日、ハントは予定されていた緊急声明の発表を前倒しし[198][199]、クワーテンによる減税措置の大半を撤回すると発表し、「市場が当然のことながら持続可能な財政へのコミットメントを要求しているときに、この減税を賄うために借入を行うのは適切ではない」と述べた。ハントが発表した措置により、年間320億ポンドの節約が見込まれる[200]。ミニ・バジェットによる減税措置のうち維持されるのは、国民保険料の引き下げと印紙税の課税最低額の引き上げのみとなった。また、医療・介護負担金 (Health and Social Care Levy) の廃止については、関連法案がすでに議会で審議中であったため、そのまま実施されることになった[200][201]。ハントはまた、エネルギー料金に対する価格上限措置について、当初予定されていた2年間から6か月間へと期間を短縮することを発表した。さらに政府は、政府財政への負担がより小さい形でエネルギー費用の支援を行う代替策を検討するため、財務省主導の見直しを開始すると発表した[48]。最後にハントは、10月31日公表の中期財政計画においては公共支出が削減されると通知した[197][202]。その後、ハントは下院で行った声明でこれらの変更点を概説し、政府はイギリスの財政への信頼と信用を回復するために「涙が出るような (eye-watering) 」決定を下すと議員たちに伝えた[203]。この発表に対し、影の財務大臣であるレイチェル・リーヴスは、「たとえバケツの水を持って燃えている建物に駆け戻ったとしても、放火犯は放火犯であることに変わりはない」と述べた[204]。ファイサル・イスラムはこの発表を「イギリス経済史上最大のUターン」と評した[205]。

トラスの首相辞任

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自身の辞職を発表したリズ・トラス(2022年10月20日)

複数の保守党議員が、政府の政策に対する国民の信頼が失われたことを理由に、トラスの辞任を公然と求めた[206]。『デイリー・テレグラフ』紙は、10月17日時点で、こうした議員としてクリスピン・ブラント(英語版)、アンドリュー・ブリッゲン(英語版)、アンジェラ・リチャードソン(英語版)、チャールズ・ウォーカー(英語版)、ジェイミー・ウォリス(英語版)の名を挙げている[207]。また同時期に、ブックメーカーは、トラスの辞任日に関するオッズを出していた[208]。

保守党の規則は、党首選挙の後12か月間、現職党首を信任投票に付すことを禁じている。トラスが自発的に辞任しない場合、彼女を権力の座から退かせる手段としては、党規則を変更するか、党首選を強行することなどが考えられていた[209][210]。これを受けて、労働党は総選挙の実施を訴える広告キャンペーンを開始し、トラス政権がこれまで行ってきた政策や対応を批判することに重点を置いた[211]。民間調査会社レッドフィールド・アンド・ウィルトン・ストラテジーズ (Redfield and Wilton Strategies) が10月17日に公表した世論調査では、労働党の支持率が保守党を36ポイント上回った。この結果が総選挙に反映された場合、保守党の議席数は下院でわずか22議席程度にまで減少し、政治勢力としての影響力を失う可能性があるとされた。選挙予測などを専門とする政治コンサルティング会社のElectoral Calculus(英語版)は、ウェブサイト上で、同党の議席数が最少で1議席にまで減少する可能性があるとの予測を提示した[204][212]。翌日発表されたYouGov(英語版)の世論調査では、トラスの個人評価は-70となった[213]。

10月17日、下院議長のリンジー・ホイルは、労働党党首キア・スターマーに、トラスへの緊急質問を許可した。しかしダウニング街すなわち首相官邸は、トラス首相に代わって下院院内総務のペニー・モーダントが答弁すると発表した[214]。トラスの欠席は、スターマーを含む複数の議員からの批判を招いた。もっとも、その後、彼女は短時間ながら下院に姿を見せており、さらに後に、1922年委員会委員長グラハム・ブレイディ(英語版)との事前に予定されていた会談に出席していたことが報じられた[215]。同日夜、BBCの政治担当編集者クリス・メイソン(英語版)のインタビューにおいて、トラスは「犯した過ちを謝罪する」としながらも、「ビジョンへのコミットメントは変わらない」と述べた。また、次期総選挙でも保守党を率いる意向も表明した[216]。

YouGovが10月18日に発表した保守党員への調査では、大多数の党員がトラスの辞任を望んでいることが示された。また、後任として支持されていた有力候補は、ボリス・ジョンソンが最も人気で、以下ベン・ウォレス、リシ・スナク、ペニー・モーダント、ケミ・ベーデノック、ジェレミー・ハント、スエラ・ブレイバーマン(英語版)の順に続いた[217][218]。ブックメーカー各社は、保守党の次期首相候補としてスナクを第一位に挙げ、以下、ハント、モーダント、ウォレス、ジョンソンの順に挙げていた[219]。

スターマー、ニコラ・スタージョン、および多数の有権者は総選挙の実施を求めた。こうした要求は、トラスの辞任後、さらに強まった[220][221]。

10月19日、首相質疑 (PMQs)(英語版)において、トラスは減税撤回以降で初めて議会で答弁した。スターマーが、なぜトラスが引き続き国を率いるべきなのかと質問したのに対し、トラスは『私は闘う人間であり、逃げる人間ではない。私は、経済の安定を確保するため、国益にかなう形で行動してきた (I am a fighter and not a quitter. I have acted in the national interest to make sure that we have economic stability.) 』と答えた[222][223]。同日、スエラ・ブレイバーマン(英語版)は、個人の電子メールアカウントを用いて公的文書を送信したことによる安全保障上の違反を理由に内務大臣を辞任した。また、ブレイバーマンは辞任書簡の中で、トラス政権の政策転換を批判し、次のように述べた。「私はこの政権の方向性に懸念を抱いている。私たちは支持者に約束した重要な公約を破っただけでなく、移民総数の削減や不法移民 (illegal migration) の阻止、とりわけ危険な小型ボートによる渡航の阻止といった、マニフェストに掲げた公約をこの政府が守ろうとしているのかについて、深刻な懸念を抱いてきた」。ブレイバーマンの後任として、グラント・シャップス(英語版)が内務大臣に任命された[224]。その後、イギリスにおけるフラッキング禁止をめぐる議会採決の際、保守党議員が政府支持票を投じるよう「力ずくで誘導された (had been manhandled) 」との報道が相次いだほか、この採決が信任投票に当たるのかどうかをめぐる不確実性が生じ、さらに保守党の院内幹事ウェンディ・モートン(英語版)および院内幹事補クレイグ・ホイッタカー(英語版)が辞任したとの報道もなされたが、首相官邸 (Downing Street) はこれを否定した[225][226][227]。

トラスは10月20日、1922年委員会の委員長であるグラハム・ブレイディ(英語版)と会談し、その直後に辞意を表明した。トラスは以下のように述べた。「私たちは、ブレグジットによって得られた自由を活用する、低税率かつ高成長の経済というビジョンを掲げた。しかし、現在の状況に鑑みれば、私は保守党によって選出された際に負託された使命を果たすことができないと認識している。したがって私は、国王陛下に対し、保守党党首を辞任する意向を伝えた」。トラスはさらに、後任の党首を選ぶ選挙が翌週中に行われることを明言した[228][229]。党首選ではリシ・スナクが無投票当選し[230]、10月25日に首相に就任した[231]。首相就任後の最初の演説でスナクは、自らが「深刻な経済危機」と表現した状況に対処するにあたり、困難な決断が待ち受けていると指摘するとともに、前任者によって生じた誤りを是正すると述べた[232]。トラス首相は就任45日目に辞任を発表し、就任49日後に辞任したため、歴代のイギリス首相のなかでは在任期間が最短となった[233]。

その後

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トラスの辞任後

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リズ・トラスの後任に首相に就任したリシ・スナク

ジェレミー・ハントはスナク内閣においても財務大臣として留任した[234]。10月26日、ハントは中期財政報告の発表日を10月31日から11月17日に延期し、これについて「可能な限り最も正確な」経済予測に基づくものとするためであると説明した。また、同報告を正式な秋季予算声明 (autumn statement) へ格上げすることも明言した[235]。

マイケル・ゴーヴは後に、保守党はトラスを選出したことで「誤った選択をした」と述べ、富裕層向け減税計画については「現実逃避 (a holiday from reality) 」であったと評した[236]。またクワシ・クワーテンは、財務大臣を解任されて以降初めてのメディア・インタビューにおいて、無料広告型ストリーミングテレビであるTalkTV(英語版)に対し、自身はトラスに対して経済改革の進行が速すぎると警告していたが、彼女はその助言に耳を貸さなかったと語った。「彼女は『私には2年しかないの (Well, I've only got two years) 』と言い、私は『このまま続ければ、あなたにあるのは2か月だけになる (You will have two months if you carry on like this) 』と答えた。そして残念ながら、その通りの結果になった」とクワーテンは述べた[35]。

その後の出来事

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2023年3月にBBCニュースの取材に応じた際、トラスは自身の計画について「私はすべてを完璧にこなしたわけではなく、その点は全面的に認める。しかし、私たちが直面していた現実の問題に取り組もうとはしていたと思っている」と述べ、より効果的に伝えることができたはずだとしつつも、深刻な問題への対処に努めていたとした[237]。しかし、2024年2月に米国で開催された保守政治活動会議での演説では、トラスは自らの失脚の原因を、体制側からの「敵対行為 (antagonism) 」のせいだと非難した[238]。

2023年3月24日、トラス首相在任中に彼女へインタビューを行ったBBCローカルラジオの8人のジャーナリストが、2023年放送記者組合賞(Broadcasting Press Guild Awards)において権威あるBPG審査員賞を受賞した。BPG会長グラント・タッカー (Grant Tucker) は、これらのインタビューを「リズ・トラスと彼女の破綻した政権にとって、情勢を一変させるもの (game-changing) だった」と評した[239][240]。

2023年10月24日、金融行動監視機構(英語版)は、2014年に導入された銀行員のボーナスの上限が、ブレグジット後の金融改革の一環として10月31日から撤廃されることを発表した。これはミニ・バジェットのうち存続した数少ない措置の一つとなった[241]。さらに2024年1月31日、影の財務大臣レイチェル・リーヴスは、次の総選挙後に労働党が政権を樹立した場合でも、この上限を再導入しないことを発表した[242]。

2024年7月4日に実施された総選挙では、保守党が労働党に大敗し、250議席以上を失った。これには、ペニー・モーダント、グラント・シャップス(英語版)、ジェイコブ・リース=モグなど、著名な保守党議員や閣僚が保持していた議席も含まれていた[243][244]。トラスも、選挙区サウスウェスト・ノーフォーク(英語版)で労働党に敗北した[245]。保守党は121議席にとどまり、同党の議会史上最悪の結果となった[244]。

最大野党となった保守党は、ミニ・バジェットから距離を置こうとした。2025年6月の演説で、影の財務大臣メル・ストライド(英語版)は、保守党は「もう二度と」、「実現不可能な約束」をしてイギリスの経済的安定を危険にさらすことはないと述べた[246]。

2025年8月13日、マネーファクト (en:Moneyfacts) が発表したデータによると、2年住宅ローンの金利の平均は4.99%となり、ミニ・バジェット以来初めて5%を下回った[247]。

関連項目

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脚注

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注釈

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  1. ↑ mini-budgetという語は、毎年編成される政府の本予算とは別に、その合間の時期に政府が提案する、特別な経済政策を盛り込んだ予算声明のことを指す[7][8]。
  2. ↑ ロビン・フッドはイギリスの伝説上の義賊であり、貪欲な僧侶や富裕な貴族らを襲い、略奪品を貧しい者に施したと伝えられている[17]。
  3. ↑ 国内のエネルギー支援は2024年9月まで続くが、本グラフには最初の6か月分のみが費用として反映されている。

出典

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