2025年香港立法会選挙における議員の大量引退
2025年香港立法会選挙における議員の大量引退(中国語: 2025年香港立法會不尋求連任風波、棄選潮、英語: 2025 Hong Kong Legislative Council Election Retirement Wave)とは、2025年香港立法会選挙の立候補受付開始を前に、複数の議員が公然と、あるいは最終的な判断として、再選を目指さないことを表明した現象のことである。この動きは、中国共産党中央委員会および中華人民共和国国務院が香港特別行政区立法会の若返りを望んでいることと関係していると指摘され、香港社会および政界で広く注目を集めた[1]。
背景
[編集]民主派の議会離脱と立法会の高齢化
[編集]2016年から2017年にかけての2016年香港立法会宣誓問題を受け、民主派の梁国雄、姚松炎、劉小麗、羅冠聡、游蕙禎及梁頌恆は相次いで第6期立法会議員の資格を失った。
さらに2020年11月11日、香港特別行政区政府は、中華人民共和国第13期全国人民代表大会常務委員会が『香港特別行政区立法会議員の資格問題に関する決定[注 1]』を採択したことを受け、梁継昌、楊岳橋、郭栄鏗、郭家麒の4名の議員資格を直ちに剝奪すると発表した[3]。これに抗議するため、他の民主派議員も集団辞職を表明した[4]。
民主派議員が全面的に議会から姿を消したことに加え、2021年香港政治制度改革の影響もあり、香港立法会では2021年以降、高齢化が進む傾向がみられる。そのことは、40歳未満の議員の割合が大きく低下したことにも表れている。
第6期立法会では、70名の議員のうち就任時40歳未満の議員は17名であり、このうち民主派は羅冠聡、游蕙禎、許智峯ら10名、一方建制派は容海恩、劉国勲、何啓明ら7名であった。これに対し、第7期立法会では、90名の議員のうち就任時40歳未満の議員は顔汶羽、張欣宇、陳穎欣、梁毓偉ら12名にとどまった。
中央による立法会若返り方針と相次ぐ議員の不出馬表明
[編集]2025年10月9日、『明報』社説は、政界で「中央は次期立法会の若返りを望んでおり、70歳を超える議員の半数以上が2025年立法会選挙に立候補できなくなる見込みである」との見方が広がっていると報じ、これらの議員は、10月24日から11月6日までの立候補受付期間終了前に、再選を目指さない意向を表明する可能性があると伝えた[5][6]。BBCも、中央には植民地時代から活動してきた建制派議員を世代交代させる意図があると分析した[7]。
10月15日までに、15名の議員が相次いで再選不出馬を表明した。このうち8名は70歳を超え、さらに2名も68歳に達していた[8]。分析では、このほかにも70歳前後あるいは70歳を超える議員が順次不出馬を表明すると予想され、また、行政会議召集人を兼ねる葉劉淑儀と黎棟国は、新民党の中心的人物であり、いずれも70歳を超えていることから、両者が出馬を見送れば同党への影響は大きいとみられた。この点について葉劉淑儀は、「新民党が適切な時期に発表するので、これ以上取材しないでほしい」と記者に応じ、その後、自らも再選不出馬を表明した。
同様に、70歳を超えながら当時は去就を明らかにしていなかった香港経済民生聯盟主席の盧偉国は、記者の取材に対し「適当な時期になれば分かる(繁体字広東語: 適當時候自有分曉)」と回答し[9]、その後、再選不出馬を発表した[10]。
行政長官の李家超は、任期満了に伴う人事の交代はあらゆる組織において自然なことであり、さまざまな年齢層の立法会議員が家庭、仕事、学業、あるいは世代交代などを理由として次回選挙に立候補しないことは、個人の選択として尊重すると述べた。また、政府は一貫して立法会議員の意見を重視し、毎年の『施政報告』にもその提言を反映させてきたとしたうえで、今期議員の尽力と香港への貢献に謝意を示した。さらに、現立法会は実務的かつ効率的に機能し、4年間で約130本の法案を可決し、前期同期より約60%多い実績を挙げたほか、『国家安全維持条例』を全会一致で可決するなど、香港が長年果たせずにいた憲制上の責務を政府と共に果たしたと評価した[11]。
斯界の反応
[編集]立法会議員
[編集]第7期立法会主席の梁君彦は、10月17日に「行政と立法が一体となって香港を治め、未来を切り開く(中国語: 行政立法同心治港創未來)」と題するシンポジウムに出席し、「第6期立法会では、一部議員の資格剝奪や多数の反対派議員が再選を目指さなかったという特殊事情を除けば、これまでの改選では平均して3割を超える議員が再選されておらず、第4期および第5期では4割を超えていた」と述べた。そのうえで、改選に伴い相当数の議員が入れ替わることは「健全で自然な現象(中国語: 健康自然常態)」であるとの認識を示した[12]。
また、江玉歓、盧偉國、廖長江ら現職議員はいずれも、出馬を見送ることについて圧力を受けた事実はなく、再選を目指さないのはそれぞれの事情や判断によるものであると述べた[13][14][15]。
特区政府
[編集]行政長官の李家超は、10月14日の行政会議前の記者会見で、一部の立法会議員が次期立法会選挙に立候補しない意向を表明していることを承知しており、その決定を尊重すると述べた[16]。
不出馬を表明した議員
[編集]| 席位 | 選挙区/功能界別 | 所属政党 | 議員 | 不出馬表明時の年齢 | 不出馬の原因やコメント | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 地區直選 | 新界東南 | 民建連 | 李世栄 | 42歲 | 民建聯から発表 | |
| 新界北 | 劉国勲 | 44歲 | 役割を変えたい。都市計画家・サーベイヤーとして、北都建設に自ら参加したい[17] | |||
| 香港島東 | 梁熙 | 40歲 | 民建聯から発表 | |||
| 香港島西 | 新民党 | 葉劉淑儀 | 75歲 | 若い人にバトンタッチする時が来た[18] | ||
| 新界東南 | 林素蔚 | 37歲 | ソーシャルワーカーとしての仕事に戻り、また博士学位を取得したい[19] | |||
| 新界北 | 香港新方向 | 張欣宇 | 36歲 | 家庭原因[20] | ||
| 新界西北 | 実政円卓 | 田北辰 | 75歲 | やり方を変えて国家、香港に貢献したい[21] | ||
| 功能界別 | 工程界 | 経民聯 | 盧偉国 | 71歲 | 議会の若返りを支持[10] | |
| 地産及建造界 | 龍漢標 | 74歲 | 商会の会務に専念[22] | |||
| 商界(第一) | 林健鋒 | 73歲 | 経済界の事務に専念し、経済界と連携して外部からの投資誘致を推進する[23] | |||
| 工業界(第一) | 梁君彦 | 74歲 | 引退する時期である[24] | |||
| 航運交通界 | 自由党 | 易志明 | 72歲 | 熱意と能力のある若者を、より多く議会へ送り込む[25] | ||
| 飲食界 | 張宇人 | 76歲 | 一国二制度の発展と飲食界の需要を考慮した結果[26] | |||
| 進出口界 | 民建連、(新論壇) | 黄英豪 | 62歲 | 次世代の育成と引き継ぎを行う時期に来ており、今後は港区全人大代表や香港浸会大学理事会主席などの公職活動に全力を注ぐ[27] | ||
| 教育界 | 教聯会 | 朱国強 | 51歲 | 教育分野に専念 | ||
| 社会福利界 | 新思維 | 狄志遠 | 68歲 | しっかりと引き継ぎの任務を果たし、確かな資質を備えた若者たちが選挙に挑戦できるようにしていく[28] | ||
| 保険界 | 無所属(建制派) | 陳健波 | 71歲 | 適切な時期に、保険業界および香港への奉仕に熱意と志を抱く、有能な人材へとバトンを渡す[29] | ||
| 建築、測量、都市規劃及園境界 | 謝偉銓 | 70歲 | 家庭の事情があり、95歳になる父親が家族と過ごす時間を増やしてほしいと望んでいること、また、自身が健康で動けるうちに人生を楽しみたいと考えたため[30][31] | |||
| 商界(第二) | 廖長江 | 68歲 | 険しい道のりは大方乗り越え、地盤は整った。今こそバトンを渡すのにふさわしい時期[32] | |||
| 法律界 | 林新強 | 64歲 | 今後は、より多くの時間と労力を法律事務所の業務に注力したい。国家の示す明確な発展ビジョンの下、世界一流の法律事務所を構築することを目指すとともに、コモン・ローという香港独自の強みを十分に活かし、国家の発展に向けてより大きな貢献を果たしていく[33] | |||
| 選挙委員会界別 | 周文港 | 44歲 | より質の高い政策研究を行うためには、さらなる時間と多大なエネルギーを投入する必要がある[34] | |||
| 林順潮 | 65歲 | バイオ医薬テクノロジーや臨床医学などの領域に注力[35] | ||||
| 蘇長荣 | 65歲 | 今後は他の公職活動に全力を注ぐとともに、自社グループのビジネスにより深く参画していきたい[36] | ||||
| 謝偉俊 | 66歲 | 公にはその理由を明らかにしておらず、取材に対しては「時には声が無い方が声があるのに勝ることもある(中国語: 此時無聲勝有聲)[注 2]」と述べるにとどまる[38] | ||||
| 洪雯 | 50歲 | 自身の議員キャリアの締めくくりとして「縁の巡り合わせには始まりと終わりがあり、出会いと別れにはそれぞれの時がある(中国語: 縁来縁去、散聚有時)」という言葉を引用したが、出馬を見送る具体的な理由についてはそれ以上言及せず[39] | ||||
| 梁毓偉 | 41歲 | これからは家族のこれまでの苦労に報いる時であり、今後は家業に戻り、家族、特に父親の重荷を分担していきたい[40] | ||||
| 陳月明 | 53歲 | 家族や打鼓嶺の長老・親族たちと相談した結果、キャリアの進路を切り替え、新たな立場で北都建設を継続的に推進し、香港に奉仕し、国家へ貢献していく[41] | ||||
| 譚岳衡 | 63歲 | 議会の職務に身を投じることができたのはこの上ない光栄。今後は熱意を胸に抱きながら、異なる立場から国家と香港のために引き続き貢献し、「一国二制度」の着実な実践と長期的な安定を推進していく[42] | ||||
| 新論壇 | 馬逢国 | 70歲 | 年齢問題[43] | |||
| 民建連 | 郭玲麗 | 46歲 | 「原因はない」[17] | |||
| 新民党 | 黎棟国 | 73歲 | 新民党からの発表 | |||
| 容海恩 | 48歲 | 2期にわたり議員を務められたことを大変嬉しく思うとした上で、新たな潮流のもとで自身の法律の専門知識やポテンシャルを発揮し、引き続き市民に奉仕していきたい。また、次期選挙への不出馬はあくまで個人的な決定であり、香港国家安全法違反の容疑で指名手配されている義父・袁弓夷とは無関係であることを強調[44] | ||||
| 江玉歓 | 55歲 | 現在は「下山」に最も適した時期であり、これまでに学んだことを活かして「人々の間へ入っていく」意向。また、専門のキャリアを考慮した時に、過去4年間にわたり法律事務所の業務を離れていたことに触れ、これ以上長期間にわたって法律事務所の仕事から離れたくはない[45] | ||||
| 経民聯 | 陸瀚民 | 41歲 | 慎重な検討を重ね、経民連の同志や妻とも相談した上で、今回の決断に至った。今後は新たな立場で、引き続き各界とのつながりを強化し、皆様と手を携えながら、経済発展の促進、文化・スポーツ・観光事業の推進、若者の社会的地位向上の支援に尽力し、国家および香港特区の発展に貢献していく[46] | |||
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ↑ 中央通訊社 (2025年10月9日). “港媒:北京冀香港議會年輕化 70歲議員逾半不能留” (中国語). 中央社 CNA. 2026年2月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年10月14日閲覧。
- ↑ Inc, Nikkei (2020年11月11日). “香港、民主派4議員排除 15人辞職へ 中国統制強化で”. 日本経済新聞. 2026年8月8日閲覧。
- ↑ “特區政府根據全國人大常委會就香港特區立法會議員資格問題所作出決定而宣布喪失立法會議員資格的人士”. www.info.gov.hk. 2020年11月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年11月11日閲覧。 アーカイブ 2020年11月16日 - ウェイバックマシン
- ↑ “香港立法会:中国人大常委会决议打击民主派 四议员即时撤职 民主派集体辞任抗议”. BBC. 2020年12月14日時点のオリジナルよりアーカイブ. 2020年11月11日閲覧.
{{cite news}}: 不明な引数|dead-url=は無視されます。(もしかして:|url-status=) (説明) アーカイブ 2020年12月14日 - ウェイバックマシン - ↑ “聞風筆動:立選期望下周「開綠燈」 七旬議員最後游說 /文:李先知 - 20251009 - 觀點” (中国語). 明報新聞網 - 每日明報 daily news. 2025年10月9日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年10月14日閲覧。
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- ↑ 選委界陳月明宣布棄選
- ↑ 選委界譚岳衡不競逐連任
- ↑ 消息:馬逢國不競逐連任立法會議員
- ↑ “不連任因涉違國安法老爺袁弓夷? 容海恩:純粹係個人決定”. 2026年4月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年10月26日閲覧。
- ↑ 江玉歡宣布不爭取連任
- ↑ 立法會選舉2025持續更新選委界陸瀚民宣布不競逐連任-累計28現任議員棄選