JOG工法
JOG工法(ジェイオージーこうほう、英: Jacking on Grout)は、不同沈下により傾いたり沈下したりした既設構造物の基礎下にグラウト(注入材)を注入し、注入に伴う地盤の隆起を制御して構造物を元の姿勢に戻す沈下修正工法である[1]。ジャッキング注入工法とも呼ばれる[2][3]。開発当初は「Jacking of Grout」と表記されていた[1][4]が、ニュージーランドでの施工を報告した論文では「Jack on Grout」と表記されている[5]。
概要
一般の地盤注入工事では、注入による地盤の隆起は周辺に悪影響を与えるため、できるだけ抑えるべきものとされる。JOG工法は逆にこの隆起を精密に制御し、傾いた構造物を持ち上げて修復する技術である[1]。大阪府東大阪市で開発された[1]。開発者は平成テクノス株式会社代表取締役社長の有馬重治で[1]、工法の基本となる特許「不等沈下構築物の復元工法」(特許第3126896号、1995年出願)の発明者である(特許権者は同社)[6][7]。また、「JOG工法」の文字商標(商標登録第5268100号、2009年登録)と「JOG」の図形商標(商標登録第5929081号、2017年登録)は、いずれも平成テクノスを権利者として第37類(建設工事などの役務)で登録されている[8][9]。2003年時点で、阪神・淡路大震災や台湾の集集地震で傾いた建物から、モニュメント、カルバートまで、100件以上の修復実績があるとされた[1]。平成15年度(2003年度)には、「注入による構造物の修復技術 -JOG工法-」として平成テクノスが地盤工学会関西支部の関西支部賞(地盤技術賞)を受賞している[10]。
従来、傾いた構造物を修復するには、周辺地盤と基礎下部を掘削して反力工を構築し、油圧ジャッキで持ち上げたあとに充填するという工程が多く採られ、工期とコストがかさんだ[1][4]。JOG工法は基礎に注入管を設置して注入するだけで修復でき、構造物の外周や下部を掘削する必要がない[1]。そのため、次のような特徴がある[1][4]。
- 隣接する構造物への影響がほとんどなく、対象の構造物だけを修復できる
- 基礎に局所的な荷重がかからず、安全に作業できる
- 振動や騒音がほとんど発生しない
- 工期が短い(通常1~2週間程度)
- ミリ単位の精度で復元できる
原理と施工手順
地盤にセメントミルクなどの注入材を圧入すると、浸透できる地盤では土粒子の構造を変えずに浸透する。浸透しにくい地盤では、地盤を割り広げながら割裂状に広がるため、地盤の隆起を引き起こす。JOG工法はこの性質を利用する[1]。施工手順は次のとおりである[1][3]。
- 構造物の基礎を貫通して削孔し、先端が基礎下面に位置するように二重管の注入管を挿入する。二重管を使うのは、ゲルタイム(固結時間)が非常に短い注入材が管の中で固まるのを防ぐためで、2種類の液は別々に送られ、管の出口で混合されて固結する[1]。
- ゲルタイムが数十秒(40~60秒)の中結注入材を注入する。注入材はおおむね半球状の範囲に浸透・割裂を繰り返しながら固結領域を広げ、この部分がジャッキングの反力を受け持つ[1][3]。
- ゲルタイムが数秒以内(1秒前後)の瞬結注入材を注入する。新たな注入材は固結した反力領域に浸透できないため、基礎底面と固結部の境界をくさび効果で割裂しながら薄い膜状の層となって広がり、基礎を持ち上げる[1][3]。
- 3の操作を繰り返し、基礎を少しずつ持ち上げていく[1]。
インターバル注入と計測管理

1か所の孔から注入できる範囲は限られるため、通常は基礎に複数の注入孔を設け、全体のバランスをとりながら持ち上げる[1]。注入孔の間隔はおおむね2~3mとされる[3][4]。注入配管には分岐バルブが取り付けられ、あらかじめ設定した注入順序と注入時間に従って各孔へ短時間ずつ注入し、これを一定の時間間隔で繰り返す(インターバル方式、多点インターバル方式)[1][2]。
複数の注入孔を一巡して同じ孔に戻るまでの時間(サイクルタイム)を注入材のゲルタイムと比べてどう設定するかで、注入の形態を選ぶことができる。サイクルタイムがゲルタイムより短いと地盤の隆起は起きにくいが、注入材が所定の範囲からあふれやすくなる。長いと、あふれにくい一方で地盤の隆起が起きやすくなる[1]。注入時間は注入管ごとに1/10秒単位で調整される[1]。
施工中は変位センサーや傾斜センサー、トータルステーションなどで構造物の挙動を計測し、そのデータに基づいて自動切替バルブと集中制御用コンピュータで各注入管への注入を制御する[1][3]。
注入材
注入材にはA液とB液の2液からなるグラウトが使われる[4]。2003年時点では、JOG工法用の注入材として「パーマロック・JOG」が使われていた。この注入材は、急速に高強度を発現する恒久性の瞬結グラウトとして、新技術情報提供システム(NETIS)に登録されていた(登録番号KT-980710)[4]。構成成分はすべて無機質で、硬化物は収縮やシリカの溶脱がなく化学的に安定しており、強度低下がないとされる[4]。その後、JOG工法用の耐久性グラウトとして「JOGロック1号」が用いられている[7]。
適用条件
十分な剛性と強度をもつ基礎で支えられた、直接基礎の構造物に適している[1][2]。一方、次の場合には適さない[1]。
- 構造物が杭基礎、特に先端支持形式の杭で支えられている場合(杭先端への注入が現実的でないため)
- 柱や壁などの主要部材に座屈などの損傷がある場合
- 基礎の強度や剛性が十分でない場合
支持地盤が砂や砂礫など圧縮性の小さい土で構成されていれば、ほとんど問題はない。圧密が終わっていない粘土地盤など圧縮性の高い地盤では、施工後に時間遅れの沈下が生じて最終的な精度が落ちることがあるため、慎重な検討が必要とされる[1][2]。
主な施工事例
阪神・淡路大震災の被災建物
1995年の阪神・淡路大震災では、海岸部にある鉄筋コンクリート造のマンション(総重量約1,100t、ベタ基礎)が地盤の液状化により傾き、最大410mmの沈下が計測された。1階の居室内から基礎を貫通して19か所に注入管を設置し、レーザーレベルで建物の4隅と中央の挙動を計測しながら注入を制御した結果、19日間で元の状態に復元された[1]。
神戸市のポートアイランドの市民広場に立つ時計塔(RC造、高さ20m、重量250t)は、液状化により約2度傾き、頂部が最大650mm移動した。フーチング基礎の4隅に注入管を設置し、6日間で元の姿勢に修復された[1]。
ボックスカルバート
建設後に支持地盤の沈下により傾いた、RC造のボックスカルバート5基(最大沈下量116mm)について、基礎部の45点に注入を行い、23日間ですべてを設計時の姿勢に修復した例がある[1]。
国道27号金山バイパスの敦賀市莇生野地区では、軟弱地盤上の盛土の沈下に伴い、盛土を横断する3基のボックスカルバート(道路用1基、水路用2基)が不同沈下を起こし、道路や水路として機能しなくなっていた[2][4]。注入による復元、機械的なジャッキアップ、再構築の3案を比較した結果、経済性と施工性から注入による復元(ジャッキング注入工法)が採用された[2]。工事は国土交通省の試験フィールド事業として2003年7月から11月にかけて注入が行われ、同年12月に竣工した[2][3]。最大で1.2m相当の沈下があったボックスを約1m嵩上げし、今後の二次圧密沈下も見込んで復元量が設定された[2][3][4]。自動追尾式のトータルステーションによる計測管理を行い、施工後の沈下はほとんど見られなかったと報告されている[3]。
四国横断自動車道の阿南 - 徳島東間では、小松島IC(仮称)付近の盛土部に設けたランプ函渠(延長44.2m、高さ9.3m、全幅19.3m)で、局所的な軟弱地盤が原因とされる不同沈下が起き、2020年7月までに最大160mmの沈下と45mmの目地の開きが確認された[11]。この函渠には、施工性と経済性に優れることからJOG工法が採用され、軟弱な埋戻し層を注入で固結改良したうえで瞬結注入を繰り返し、函渠を持ち上げて復元する計画とされた[11]。あわせて、盛土部の地震時の液状化対策として鋼矢板工法が採用された[11]。
鉄道軌道
東日本旅客鉄道(JR東日本)と平成テクノスは、省力化軌道(TC型)の沈下を修繕する工法として、インターバル式の圧力注入を応用した工法を開発した[12]。JR東日本の新宿保線技術センターが管理する線区では、列車が通過するときに軌道があおられる箇所があり、パッキンの挿入や再填充で修繕していた。しかし、路盤の不良が原因とみられる繰り返し修繕箇所や、狭くて重機を使う従来工法が適用できない箇所があり、新たな修繕工法が求められていた[12]。
延長10mのモデル軌道を使った実験では、レールの軌間内に二重注入管を軌道方向1.5m間隔で設置し、12孔にインターバル注入を行った。全18計測点を+45mm扛上する設定に対し、146分後に全点が±3mmの範囲に収まった[12]。注入によって路盤が改良される効果も確認された[12]。また、実物大の軌道試験装置で列車荷重を模した繰り返し載荷試験を行ったところ、通過トン数1億トンに対して沈下量は最大1.5mm(初期沈下を除く)にとどまり、高い耐久性が確認された[12]。
その後、実物大の湿潤路盤を模した実験で、注入材がてん充層下部の泥水を押し出しながら軌道を40mm扛上できることが確認された[13]。延長75mの省力化試験軌道での扛上試験では、おおむね計画どおりに扛上できたものの、注入管の間隔が近いため注入材の影響が反対側のレールにも及び、水準変位が残った[13]。そこで注入管をレール近傍に軌間内外で千鳥状に配置し、瞬結型の注入材で水準変位を、緩結型の注入材で高低変位を解消する2段階の扛上方法に改めたところ、施工前に7mmあった水準変位は1mmとなった[13]。また、保守間合いの短い線区や作業空間が限られる箇所での施工に向けて、自動切換ユニットを注入孔8か所に1台へ集約するなど、プラント設備が小型化された[13]。
近接掘削工事に伴う沈下対策
大阪市北区の西梅田プロジェクト(ブリーゼタワー、鹿島建設施工、2006年 - 2008年)では、軟弱な沖積粘土が厚く堆積する地盤で地下を掘削するにあたり、敷地に近接する築40年・4階建ての建物(杭のない基礎)の沈下対策として「ジャッキアップJOG工法」が採用された[14]。隣接建物の床から地盤まで穴を開けて管を通し、地盤改良材を注入して足元の地盤を固めると同時に、注入圧力を利用して建物を約5mm上昇させた[14]。
海外での施工
JOG工法は日本で1995年に開発されたと紹介されており[15]、海外でも施工されている。
ニュージーランド
ニュージーランドのクライストチャーチ美術館(Te Puna o Waiwhetu、2003年開館)は、ベタ基礎(コンクリートのラフト基礎)で支持された建物である[15]。2010年と2011年のカンタベリー地震による地盤の液状化で不同沈下を起こし[5][15]、沈下量は場所によって40mmから182mmと不均一だった[15]。クライストチャーチ市議会の国際入札により、Mainmark Ground Engineering社がジャッキアップと沈下修正を受注し、2013年8月に工事が始まった[15]。
この工事では、まず地下駐車場から基礎を貫通して削孔し、基礎の下にジェットグラウトの改良柱(直径3.0m、外周部は4.0m)を造成して、ジャッキアップの反力盤とした[5]。そのうえで、コンピュータで制御しながら多数の注入点に少量ずつ繰り返しグラウトを注入するJOG工法により、建物を持ち上げた[5][15]。延床面積は6,500m2で、この規模まで沈下修正・リフトアップした建物としては世界最大とされた[15]。施工中は自動追尾式のトータルステーション6台と、約290か所のプリズムで建物の挙動を監視した[15]。沈下修正は3か月未満で完了した[15]。この沈下修正プロジェクト(Christchurch Art Gallery Re-Level Project)は、英国の地盤工学専門誌『Ground Engineering』のGE Awards 2016で、International Project of the Year(国際プロジェクト賞)を受賞した[16]。
ニュージーランドへは、Mainmark社が2012年ごろに日本から技術を導入した[17]。クライストチャーチ美術館は、同国でJOG工法が使われた最初の工事とされる[18]。このほかにもカンタベリー地震で沈下した建物の修復に用いられた。カイアポイにある歴史的建造物の旧BNZ銀行(重さ約250トン、北東隅で200mm以上沈下)では、直径40mm以下の注入器100本を設置し、準備作業を含めて35日で沈下を修正した[19]。クライストチャーチのフェリーミード・ロードにある商業・オフィス施設2棟(後方に153mm傾斜、67mm沈下)では、84か所の注入口を用い、樹脂注入と併用して22日で修復した[17]。
韓国(D-ROG工法)
韓国では、2002年に平成テクノスと技術提携した지승구조건설(現・지승유지스)が[20]、多点注入により沈下構造物を復元する工法を「D-ROG(Digitalized Restoring on Grout)工法」として施工している[21]。同工法は2005年に韓国の建設新技術第470号に指定された[20][21]。 2017年には、釜山広域市沙下区で隣接する工事の影響により傾き、頂部が最大105.8cmずれたオフィステルが、D-ROG工法で復元され、安全等級がE等級からA等級に回復したと報じられた[22][23]。復元後の傾きは1/1066で、A等級の基準(1/750以内)を満たした[23]。
台湾
台湾では、中國技術學院の宋永鑾が業界誌『營造天下』でJOG工法を紹介しており、台湾・日本・韓国で計120棟以上の修正実績があるとしている[24]。同記事で紹介された板橋市(現・新北市板橋区)の建物は、隣接建物の地下掘削工事の影響で不同沈下を起こし、1999年の集集地震で傾斜が増し、南北方向の傾斜が1/149に達していた[24]。JOG工法による修正の結果、4隅の測点の相対高低差は最大113mmから1mm以内となり、北側の隣接建物との間隔は55mmから300mmに広がった[24]。
台北市では、MRT松山線の工事の影響で約50cm沈下した台北市体育局の行政大楼(RC造地上7階・地下1階)について[25][26]、施工業者の責任で日本の技術者による注入・持ち上げ工事を行うことが報じられ[25][27]、2014年11月からJOG工法による沈下修正が行われた。総重量約6,500t、平面積467m2の建物を36か所の注入点から持ち上げ、施工期間は60日間だった[26]。2015年には、同大楼が「扶正工法」で持ち上げられたことが報じられている[28]。
オーストラリア
オーストラリアでもMainmark社が施工している。2017年には、メルボルン郊外のキャロライン・スプリングスにある商業施設2棟で、基礎の沈下や隆起をJOG工法と樹脂注入の併用で修正した[29]。2018年には、炭鉱跡の地盤沈下で最大220mm沈下した平屋住宅を、最大183mm持ち上げた[30]。
イギリス
イギリスでも、Mainmark社がJOG工法を用いている。シェフィールドの大型倉庫では、最大156mmの不同沈下を起こした部分をJOG工法で水平に戻し、続けて低圧の深層グラウトで深部の地盤を処理した[31]。2018年には、ミルトン・キーンズの商業オフィスビル(最も低い角で94mm沈下)を86mm持ち上げた[32]。
関連技術
脚注
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 建山和由・有馬重治「注入による傾斜構造物の修復技術」『土木学会誌』第88巻第8号、土木学会、2003年、51-53頁。
- 1 2 3 4 5 6 7 8 小山彰「不同沈下を生じたボックスカルバートにおける復元工法の事例」『近畿地方整備局管内技術研究発表会』議事録国土交通省近畿地方整備局、2005年。
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 小西昭裕・森田浩二・大川尚哉・小林勝則・山本憲明・有馬重治「不等沈下した構造物のグラウト注入による高精度復元工事における計測管理」『土木学会第59回年次学術講演会』議事録土木学会、2004年9月、407-408頁。
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 小西昭裕「先進事例紹介 恒久性グラウト注入による沈下構造物の復元 パーマロック・JOG」『近畿技報 繋(ケイ)』第5巻、国土交通省近畿地方整備局近畿技術事務所、2003年、8-11頁。
- 1 2 3 4 Cristóvão, António; Nogueira, A.; Hutchinson, R.; Brito, D.; Tomásio, R.; Pinto, A. (2014年9月). Jet Grouting Columns operating as reaction platform for building uplift and soil induced liquefaction mitigation. XVII Congresso Brasileiro de Mecânica dos Solos e Engenharia Geotécnica (COBRAMSEG 2014) (英語).
- ↑ JP patent 3126896, 有馬重治, "不等沈下構築物の復元工法", published 2001-01-22, assigned to 平成テクノス株式会社
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- ↑ “関西支部賞受賞者一覧” (PDF). 地盤工学会関西支部. 2026年10月9日閲覧。
- 1 2 3 瀬尾朋弘・横田直紀・松尾怜「四国横断自動車道における軟弱地盤対策について」(PDF)『令和4年度 四国地方整備局管内技術・業務研究発表会』議事録国土交通省四国地方整備局、2022年。2026年10月10日閲覧。
- 1 2 3 4 5 堀雄一郎・萩尾泰弘・岩田誠・有馬重治「インターバル式圧力注入による軌道の沈下修繕工法の開発」『土木学会第65回年次学術講演会講演概要集』議事録土木学会、2010年、499-500頁。
- 1 2 3 4 柿崎慎介・松本和真・嘉嶋崇志・有馬重治「インターバル式圧力注入法による省力化軌道修繕工法の試行」『土木学会第67回年次学術講演会』議事録土木学会、2012年9月。
- 1 2 “ザ・サイト 西梅田の新たなランドマークをつくる 西梅田プロジェクト”. KAJIMAダイジェスト. 鹿島建設 (2007年12月). 2026年10月9日閲覧。
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