エピタキシャル成長

エピタキシャル成長(エピタキシャルせいちょう、英語: Epitaxial growth)ないしエピタキシー(英語: Epitaxy)、配向重複成長(はいこうじゅうふくせいちょう)は薄膜結晶成長および物質堆積の様式の一つである。基板となる結晶の上に結晶成長を行い、下地の基板の結晶面に揃うように配列する成長を指す[1]。基板となる結晶と成長によって生じるエピタキシャル層の結晶軸がほぼ合致した状態で成長し、二結晶の相互に一致する方向の許容併進周期差(格子定数)が最大で15%程度である必要がある[2]。1950年代から1970年代にかけて開拓された技術であり、今日では多くの電気・電子・光デバイスの作製に欠かせない存在となり、特に化合物半導体合成の過程において重要な地位を占める[1]。
歴史
エピタキシャル成長の技術は150年以上前から研究されていた。その結晶成長技術が"epitaxy"(エピタキシー)と名付けられたのは1928年(昭和3年)のことで、フランスのLouis Royerによる命名であった[3]。"epitaxy"の語源はギリシャ語の"epi"(「上にある」という意味)と"taxis"(「秩序」という意味)を組み合わせたものである[3]。なお、当時はエピタキシーが意図して行われていたというわけではなく、人工的にはっきりとした意図を持ってエピタキシャル薄膜が製造されるようになったのは20世紀からであるとされる[4]。
1950年代になると半導体の生産技法としてエピタキシーが注目され、1960年(昭和35年)にはベル電話研究所のHenry TheurerがSiCl4の水素還元法によって、シリコン基板上に新たにシリコン層が成長(化学気相成長)できることを明らかにした[3][5]。初期のエピタキシャル成長の装置は、縦型の石英管にシリコンウェハーを乗せたグラファイト基板を入れ、これを高周波誘導加熱し、SiCl4と水素ガスを導入する機構であった[5]。この技術は気相エピタキシーである。フェアチャイルドセミコンダクターやテキサス・インスツルメンツなどの半導体会社はTheurerの気相エピタキシー技術を模倣し、以降、エピタキシャル成長は様々なMOS製品や集積回路の製造に用いられた[3]。日本においては、国際電気が、日本の半導体デバイスメーカーの要請の下で、1962年(昭和37年)に縦型石英管方式の研究開発用枚葉エピタキシャル装置を開発し、翌1963年(昭和38年)に25mmウェハを6枚装着する生産用装置を販売した[5]。
かくして1960年代には、半導体のエピタキシャル成長の開発が盛んに行われるようになり、液相エピタキシー、Cloride気相エピタキシー、Hydride気相エピタキシー、有機金属気相エピタキシー、分子線エピタキシーが開発されていった[6]。半導体のエピタキシャル成長の黎明期に当たる1960年代、1970年代初頭においては、液相エピタキシーと気相エピタキシーが主流であったが、1979年(昭和54年)に分子線エピタキシーを用いる手法で高電子移動度トランジスタが発明されると、分子線エピタキシー黄金時代が到来した[7][8]。こういった手法は、III-V族化合物半導体を用いた発光デバイスの製作技術として応用された[6]。1962年(昭和37年)にはGaAs pnホモ接合による極低温条件下でのレーザー発振が実証され、1970年(昭和45年)にはAlGaAs/GaAsダブルヘテロ構造レーザーによる常温連続発振が実証された[9]。しかし、青色や紫外域の発光デバイスは材料開発の困難から20世紀内の開発は困難とまで言われていた[9]。青色LEDの材料となる窒化ガリウム(GaN、III-V族半導体)にはエピタキシャル成長のための自立基板は存在せず、約15%もの大きな格子定数差にも関わらずサファイア基板が成長に用いられていた[10]。これでは結晶性が悪く、実用化はされなかった[10]。そんななか、1986年(昭和61年)、赤﨑勇・天野浩らによって、分子線エピタキシー、金属有機気相エピタキシーを用いて窒化アルミニウム(AlN)ないしはGaNの低温堆積緩衝層(非晶質)をサファイア基板上に成長させ、その上にGaNのエピタキシャル層を成長させることで、GaNの結晶性・表面モフォロジーが飛躍的に向上することが発見された[11][10][12]。赤崎・天野らが開発した低温堆積緩衝層の技術のもと、中村修二らは高輝度青色LEDの発明に成功した[13]。
種類
ホモエピタキシー
ホモエピタキシーは、基板結晶とエピタキシャル結晶の化学種が同じで、両者の間で格子定数が一致するエピタキシーである[14]。ホモエピタキシーの具体例として、シリコン基板上へのシリコン層の成長やガリウムヒ素基板上へのガリウムヒ素層の成長などが挙げられる[14]。半導体製造においては、ヘテロエピタキシーよりホモエピタキシーのほうがありふれているため、単に「エピタキシー」といえば一般的にはホモエピタキシーのことを指す[15]。
ヘテロエピタキシー
ヘテロエピタキシーは、基板結晶とエピタキシャル結晶の間で、格子定数や結晶方位が異なるエピタキシーである[16]。接合界面における格子不整合が小さいとき(一般には0.1%以下)には欠陥の少ない良質の結晶が得られるとされるが、格子不整合が大きくなると界面からミスフィット転位と呼ばれる欠陥が生じる[16][17]。この欠陥を防ぐにはバッファ層と呼ばれる中間層を入れて格子不整合の影響を減らすことが効果的である[16][18]。ただし、サファイアと窒化ガリウムなど格子不整合の大きい結晶間でエピタキシーを行う際、バッファー層を高温(1,100 ℃程度)で導入すると、欠陥やひび割れが生じやすくなる[19][20]。これを防ぐために、低温(数百℃)でバッファー層(低温緩衝層)を導入する手法が開発された[20]。ヘテロエピタキシーを用いて、薄膜の結晶層を多層に積層することで組成、不純物濃度、材料を変化させた複雑な構造のデバイスを作製したり、基板より純度が良く欠陥の少ない良質の結晶を合成したりすることができる[14]。
成長のキネティクス

超高真空を用いた分子線エピタキシー(MBE)の開発により、エピタキシャル成長のキネティクスはRHEEDなどの成長表面観測技術を用いて原子層単位での成長過程が実時間観測できるようになった[21]。MBEの解析により、結晶成長には核生成とステップの前進という二つの過程があることがわかった[21]。基板との相互作用(化学結合やファンデルワールス力)により基板表面に吸着した原子は、有限温度では表面上を拡散しうる[21][22]。吸着原子同士が集合すると、安定な二次元核を形成する(核生成)[22]。臨界半径を下回る核はやがて消滅することが知られているが、臨界半径を上回ると消滅しないとされる[22]。形成核密度は低温であるほど、また基板表面上の吸着原子密度が高いほど、 高くなることが定性的にわかっている[22]。臨界半径以上の二次元核は吸着原子や他の核を取り込み、二次元島へと発達する(ステップの前進)[23]。ステップ(島の縁)の前進速度は、ステップの平均間隔に対して拡散距離(後述)が十分短いとき、
で記述される[24]。なお、拡散距離は原子が基板表面に吸着してから再度蒸発するまでの距離を、は単位時間あたりに環境相から表面に吸着する原子の面密度を、は表面での平衡原子密度を、は吸着原子の平均寿命を表す[24]。
エピタキシーによる薄膜成長は次の3種に分類できる[25][26]。
- Volmer–Weber型(VW、三次元核成長型)
- Frank-van der Merwe型(FM、単層成長型)
- Stranski–Krastanov型(SK、単層上核成長型)
Volmer–Weber型膜成長は、薄膜成長の大部分を占める[25]。基板面に複数の吸着原子からなる核が成長し、それらが結合して島構造を形成し、さらに島同士が合体することで最終的に連続した結晶膜を形作る成長様式である[25]。Frank-van der Merwe型膜成長は、沈着原子同士の結合力と蒸着原子基板間の結合力が同程度の場合に起こるもので、沈着原子が基板表面を一様に覆って単原子層を形成し、その後一層ずつ段階的に単原子層が順次堆積することで結晶膜を形作る[25]。Stranski–Krastanov型膜成長はVWとFMを組み合わせたもので、蒸着原子と基板との結合力が特に強い場合に起こるプロセスである[25]。SKでは、蒸着原子が基板表面を一様に覆って1,2層の単原子層を形成したのち、VWのような三次元核成長が起こる[25]。
方法と原理
液相エピタキシー
液相エピタキシー(Liquid Phase Epitaxy; LPE)では、溶媒である液体金属中に成長させるべき結晶の原料を溶質として溶解させ、冷却して過飽和となった溶質を固体基板上に析出させる[27][28]。1961年(昭和36年)に開発され、1960年代に盛んに研究された[6][29]。液相エピタキシーは熱平衡(液相-固相間)からのずれ(過飽和度)を駆動力として新たな結晶を析出させている[28]。液相エピタキシーは熱平衡に近い状態で進行するが、一般に結晶は熱平衡に近いほど構造欠陥が少ないとされているため、液相エピタキシーは完全性の高い結晶層を生成することができる[30][18]。ただし、設備の大規模化が困難で量産性が低いという欠点も持ち合わせている[31][6]。冷却法としては、温度を一定速度で下げながら過飽和状態を作るランプ冷却法、一気に温度を下げて作るステップ冷却法、一定量の過冷却をつけた状態から成長を開始しその後は一定速度で成長を行うスーパー法の三種がある[32]。
遠心液相エピタキシーは、シリコン、ゲルマニウム、ヒ化ガリウムの薄膜を製造するために商業的に用いられている[33][34]。遠心力を利用した膜成長は、遠心分離機を用いて材料の薄層を形成するプロセスである[35][36]。このプロセスは、薄膜太陽電池や遠赤外光検出器用のシリコンを製造するために利用されてきた[37]。層の成長制御には、温度と遠心分離機の回転数が用いられる[34]。遠心LPEは、溶液を一定温度に保持したままドーパント濃度勾配を形成することが可能である[38]。
気相エピタキシー
気相エピタキシー(Vapor Phase Epitaxy; VPE)は、キャリアガスを用いて結晶原料を基板まで移動させて成長を行う方法である[30][39][40]。成長領域への反応物の輸送、バルクガスから表面への反応物の拡散、表面における吸着、表面における反応、反応生成物の表面からの脱離、生成物の拡散、成長領域からの生成物の輸送というプロセスを経て進行する[41]。物質輸送を律速段階とする場合を物質輸送律速、表面での反応を律速段階とする場合を表面反応律速と呼び、高温領域では前者、低温領域では後者となる[41][42]。
アルシン、ホスフィン、ジボランなどの不純物を原料ガスに添加することで、ドーピングすることができる[43][44][45]。表面の蒸発やウェットエッチングによって放出されたドーパントもエピタキシャル層内へと拡散し、オートドーピング(自己ドーピング)を引き起こすことがある[43][44][45]。気相中の不純物濃度により、堆積膜における不純物濃度が決定される[43][44][45]。また、ドーピングはサイトコンペティション法によっても行うことができ、この手法では成長前駆体の比率を調整することで、格子中への空孔、特定のドーパント種、または空孔-ドーパントクラスタの取り込みを促進させる[43][44][45]。さらに、エピタキシーが行われる際の高温により、ウェハ内の他の層から成長中の層へとドーパントが拡散(外方拡散)することがある。
気相エピタキシーは、大きく分けて、化学的な手法をとる化学気相成長と物理気相成長に区別される。
化学気相成長

- 有機金属気相エピタキシー
有機金属気相エピタキシー(Metalorganic Vapour-Phase Epitaxy; MOVPE)は、有機金属材料の熱分解によってエピタキシャル結晶の堆積を行う[46]。すなわち、その原理は、通常の気相エピタキシーのように気相-固相の熱平衡関係によるものではなく、非可逆的な分解反応によるものである[46]。このため制御性と量産性に優れており、その上、ほとんどの金属元素に対して有機金属の合成が可能であるため、MOVPEは2023年(令和5年)現在において半導体デバイスの製造の中心的手法となっている[46][47]。GaAsの成長を例として挙げると、ガリウム源としてGa(CH
3)
3を、ヒ素源としてAsH
3を用いた場合、
- xAl(CH
3)
3 + (−
1x)Ga(CH
3)
3 AsH
3 → Al
xGa
1-xAs + 3CH
4
の反応が進行する[46]。HOVPEでは、AsH
3やPH
3のような毒性の高いガスや引火性の高い有機金属材料など危険な材料が多用されるため、ガスの供給側・排出側の両方に厳重な処理設備が設置されている[48][47]。1968年(昭和43年)に開発されたとされる[49]。
- プラズマ化学気相成長
プラズマ化学気相成長(Plasma-enhanced Chemical Vapor Deposition; PECVD)もしくはプラズマCVDは、低温プラズマ(グロー放電)を援用した化学気相成長法の一つである。プラズマCVDの手法を用いたエピタキシャル成長は特に、epi-PECVDと呼ばれる[50]。epi-PECVDでは、基板温度が低く設定されているため、熱エネルギー以外のエネルギーが駆動力となる[50]。エピタキシャル成長の成長速度は、基板温度、圧力、電極間距離、ラジオ波プラズマ電力、およびガス流量を含む複数の実験パラメータに依存するが、これらのパラメータの中でも特に重要なのがイオン照射エネルギー(Ion Bombardment Energy; IBE)であり、これはプラズマ電位に比例する[50]。ただし、IBEには許容される閾値があることがわかっている[50]。Bruneau et al.によれば、0.85 Torr下のH2/SiH4混合ガスを用いた低温epi-PECVDの場合、175 °Cの基板温度に対する臨界IBEが30 eVであり、これを超えるとエピタキシーが破綻するとされる[51][50]。
近年、epi-PECVDは、太陽光発電やフレキシブルエレクトロニクスの材料として用いられている単結晶シリコン薄膜のエピタキシャルな成膜方法として注目を集めている[52][53]。epi-PECVDでは、プラズマ中の水素量を制御することで、エピタキシャル結晶の深さ方向に脆化領域を形成して、エピタキシャル層と高価なシリコン基板の分離を可能にすることができる[52][53]。低水素流量時には、基板とシームレスにつながる高品質なエピタキシャル層が成長し、高水素流量時には、界面に微細空洞を局所形成させ機械的に脆化領域を作り出すことができる[52][53]。脆化領域により、剥離されたエピタキシャル層は安価な異種基板へと転写することで、太陽光発電やフレキシブルエレクトロニクスの低コスト化につながることが期待されている[52][53]。
物理気相成長

- 分子線エピタキシー
分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy; MBE)では、10-9 Torr以下の超高真空中でガス状の原子・分子から化合物が生成され、その際の自由エネルギーが駆動力となって結晶が成長する[54]。原料となる物質はクヌーセンセルもしくはエフュージョンセルと呼ばれる電気炉から蒸発させられ、基板へと移動し、結晶成長を行う[55]。単原子レベルの層厚制御と高純度材料の成長が可能であり高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transfer; HEMT)の製造や電子物性の研究に供する高い電子移動度を持つ結晶の成長に用いられる[56]。1960年代に、従来の真空蒸着法を発展させる形で、ベル研究所のChoによって開発された[57][58][59]。1979年(昭和54年)にMBEを用いて高電子移動度トランジスタが発明されると、エピタキシャル薄膜生成の有力な手法として注目された[7][8]。従来の気相エピタキシーや液相エピタキシーといった手法と比べて、精緻かつ洗練された方法である一方、高速・大面積・大量生産という現代社会の要求にマッチしないことから、生産用としては最近ではあまり用いられず、装置の進展は停滞気味であると、金原, 2007は述べている[60]。
MBEはエピタキシャル成長のメカニズムを解明する上でも利用された[56]。反射高エネルギー電子回折や低エネルギーイオン散乱、反射率差分光法、表面光吸収法、エリプソメトリー、二次電子顕微鏡などの成長表面を直接評価する手法と、二次イオン質量分析やオージェ電子分光法、光電子分光法といった間接的[注 1]に評価する手法が存在する[56]。
ただし、MBEではリン化合物の成長が困難であるという難点もある[55]。リンを含むIII-V族化合物は光素子に多い[55]。
固相エピタキシー
固相エピタキシー(Solid Phase Epitaxy; SPE)とは、結晶基板上に堆積された非晶質材料を加熱により基板との界面から徐々に単結晶化して成長させるエピタキシーである[61]。通常、結晶基板上に非晶質材料の薄膜を堆積させ、それを加熱して結晶化させることで行われる[61]。イオン注入の過程で非晶質化したシリコン層を再結晶化または修復するために用いられるアニーリング工程も、固相エピタキシーの一種とされる[61]。この過程において、成長する結晶-非晶質層の界面で起こる不純物の偏析および再分配は、金属やシリコンに固溶度の低いドーパントを取り込むために利用される[61]。
応用例
リモートエピタキシー
窒化ガリウム半導体(GaN半導体)は、LEDディスプレイや電気自動車の充電デバイスに広く使われており、次世代電気自動車のパワー半導体材料として注目されている[62]。GaN半導体の製造に用いられるGaNウェハが必要だが、非常に高価であることから、結晶の質が悪いサファイアウェハが使われてきた[62]。この高価なGaNウェハの再利用を可能にする技術として期待されているのが、ウェハの上にグラフェンなどの極薄2D材料(バッファ層)を形成して下地ウェハの静電ポテンシャルを透過させ、半導体材料を成長させるリモートエピタキシーと呼ばれる技術である[62]。リモートエピタキシーにおいて、基板とエピタキシャル層はバッファ層を介したファンデルワールス結合によって間接的に結合しており、基板を破壊することなく剥離することができ、基板を再利用することができる[62][63]。なお、リモートエピタキシーにおけるエピタキシャル成長は有機金属気相成長法や分子線エピタキシーなどによって行われる[62][63]。
完全結晶のポテンシャルは距離に応じて指数関数的に減衰することから1 nm程度のリモートエピタキシーが限界であるとされていたが、基板内部の欠陥(転位など)に起因する局所的な電界などは長距離まで到達することが判明し、R.Jiaらは2∼7 nmのリモートエピタキシーに成功したと報告している[64]。
ドメインマッチングエピタキシー
従来のエピタキシーは、基板とエピタキシャル薄膜の各結晶格子を1対1に対応させており、両者の格子不整合が7,8%以下となるときに成長が可能となっていた[65][66]。2003年(平成15年)にJ.Narayanらが発表したドメインマッチングエピタキシー(Domain Matching Epitaxy; DME)では、類似した結晶対称性を有する薄膜と基板の間で格子面を整合させることで、格子不整合が大きな場合でもエピタキシャル成長が可能である[65][66]。通常のエピタキシーとの違いは、格子を1対1対応させるのではなく、格子面の整数倍が界面を挟んで一致するドメインの整合によってエピタキシャル成長を行っている点である[65]。DMEを行うことができる基板・薄膜の組み合わせはドメインの不整合について
を満足している必要があるとされる[66]。なお、は薄膜の格子面間隔を、は基板の格子面間隔を表し、は基板・薄膜のマッチング比(薄膜/基板)を表す[66]。J.Narayan et al.によれば、TiN/Si (100)の3/4マッチング、AlN/Si (111)の4/5マッチング、ZnO/Al2O3(0001)の6/7マッチングが報告されているとされる[65][66]。
強誘電体のエピタキシー
強誘電体の薄膜技術は不揮発性メモリやダイナミック・ランダム・アクセス・メモリ(Dynamic Random Access Memories; DRAM)などの分野で大きな役割を果たす[67][68]。不揮発性メモリの一種である強誘電体メモリでは、強誘電体のヒステリシスループの2つの残留分極()をデジタル信号(0と1)に対応させて、情報を記録する[69]。強誘電体として用いるのはチタン酸ジルコン酸鉛((Zr, Ti)O3; PZT)などの強誘電体の薄膜である[69][67][68]。一方、DRAM用としてはチタン酸バリウム・ストロンチウム((Ba, Sr)TiO3; BST)などの高誘電率薄膜が注目されている[67]。
現在、強誘電体薄膜は微細ペロブスカイト結晶の集合体である多結晶誘電体膜が主流であるが、エピタキシーによって生成した強誘電体薄膜(エピタキシャル誘電体膜)は以下の点で優れている[70]。
- 粒境がない。
- 結晶方位がそろっている。
- 基板(下部電極)に対して結晶が連続的である。
- 膜の表面が平滑である。
そのため、エピタキシャル誘電体膜は高性能で均一性に優れた薄膜キャパシタ素材となることができ、半導体メモリーを高集積化する上で重要な役割を担うことが期待されている[70][71]。また、エピタキシャル成長させた誘電体膜では、格子不整合を利用して強誘電特性を制御することができる[71]。すなわち、格子不整合を利用すると二次元圧縮応力を加えることができ、これによりキュリー温度を制御することができる[72][73]。ゆえにエピタキシャル誘電体膜では基板・薄膜材料の選択により、格子不整合を適当な大きさに制御し、応用上望ましい強誘電特性を得ることができる[72]。
磁性半導体のエピタキシー
磁性半導体のうち、磁性原子と非磁性半導体の混晶(非磁性体半導体の結晶格子の一部を磁性原子が置換したもの)を希薄磁性半導体と呼ぶ[74]。希薄磁性半導体は半導体としての性質と磁石としての性質を持ち合わせ、スピントロニクスの分野で注目を集めている物質である[75][76]。
II-VI族希薄磁性半導体
II-VI族希薄磁性半導体の母体となる二元化合物半導体は、II族元素(第12族元素と第2族元素)とVI族元素(第16族元素)の間であらゆる組み合わせが知られている[77]。そのバンドギャップは紫外域から赤外域までの広範囲にわたるエネルギー域をカバーしている[77]。結晶成長の段階でII-VI族希薄磁性半導体中に含まれる磁性不純物の濃度を高精度に制御し、目的のバンドギャップへと調整をするには分子線エピタキシーを用いることで実現される[78]。例えば、バルク結晶成長法では、II-VI族希薄磁性半導体の一種であるCd1-xMnxTeやZn1-xMnxTeについて、限られた範囲の組成のものしか得られなかったが、分子線エピタキシーによる結晶成長法では全組成域での結晶成長が実現されている[78]。ただし、II族元素の分子線[注 2]とVI族元素の分子線[注 3]を交互に供給する方法の分子線エピタキシーでは、金属クラスターが生じやすいというデメリットがある[79]。これを防ぐにはII族元素、VI型元素の分子線を同時に供給して成長させる原子層エピタキシーが有効である[79]。原子層エピタキシーでは、原子層単位で成長が行われ、金属クラスターの生成を抑制することができる[79]。
III-V族希薄磁性半導体
通常のIII-V族半導体(GaAsやInPなど)は非磁性であるが、III-V族希薄磁性半導体では、sp-d交換相互作用によってバンドのキャリアと磁性スピンが相互作用し、電気的特性や光学的特性が外部磁場に大きく依存する[80][81]。交換相互作用の大きさは磁性原子の濃度に比例する[82]。ただし、III-V族半導体の磁性不純物の固溶度は低く、多量のドープにより表面偏析しうる[82]。この解決策として、1989年(平成元年)、低温成長MBEを用いる手法が提案された[83]。実際、InAsについて、基板温度を200~300℃の低温でMBEを行うと、偏析を抑制できることがわかり、GaAsとMnの混晶についても有効であることが判明している[83][84]。
IV-VI族希薄磁性半導体
II-VI族半導体はバンドギャップが中赤外域にあるナローギャップ半導体であり、2~30 μm赤外領域の発光・検出材料として古くから研究されている物質である[85][86]。IV-VI族希薄磁性半導体はIV族サイトをマンガン、ユーロピウム、イッテルビウム、カドミウムなどで置換することによって得られる[85]。最も研究されているのは、VI族元素としてカルコゲンを用いた(Pb,Mn)X、(Pb,Eu)Xなどの鉛カルコゲナイトのMn, Eu液晶である[85]。そのエピタキシャル成長は分子線エピタキシーのほか、ホットウォールエピタキシー(Hot Wall Epitaxy; HWE)と呼ばれる手法が用いられる[87]。MBEでは、フラックスとして非平衡状態で分子線が基板へと到達するのに対し、HWEではホットウォールと呼ばれる加熱された壁面に囲まれた閉管内で熱平衡状態を経由して基板へと到達する[87]。MBEに対して、HWEは、膜厚制御性が落ちることやRHEEDなどを用いたリアルタイム評価ができないことといったデメリットがあるが、低コストであることや原料分子の散逸が少なく高分圧での原料供給が可能であること、速い成長速度での成長が可能であることなどのメリットが存在する[87][88]。HWEはMBEほどの超高真空を必要としないため、II-VI族半導体など蒸気圧の高い半導体の合成に多用される[88]。
鉱物におけるエピタキシー

鉱物学におけるエピタキシーとは、2種の鉱物の特定の結晶方向が揃うように、一方の鉱物が他方の鉱物の表面で規則正しく成長する現象である[89]。これは成長する鉱物と基板鉱物の結晶格子において特定の面における原子間距離間隔がほぼ同じである場合に生じる[89]。双方の鉱物の結晶が十分に発達しており、結晶軸の方向が明確であれば、目視だけでもエピタキシー関係を推定することができる[89]。単一の基底鉱物上に多数の独立した結晶が成長することがあるが、エピタキシーが存在する場合、成長した結晶はすべて同様の配向を持つ[89]。しかし、その逆が必ずしも成り立つとは限らない。成長した結晶が同様の配向を示していれば、エピタキシー関係が存在する可能性は高いが、確実ではない[89]。
同一の鉱物種における第2世代の過成長もエピタキシーとみなすべきだという見解もあるが、これは同種の半導体基板上にドーピング濃度の異なる薄膜をエピタキシャル成長させる半導体科学者の間では一般的な用語(ホモエピタキシー)となっている[89]。しかし、天然に産出する鉱物については、国際鉱物学連合(IMA)の定義により、2つの鉱物が異なる種である場合のみをエピタキシーと呼ぶ[90]。
同一の化学組成を持ちながら異なる結晶構造を持つ多形性鉱物(英語: Polymorphic minerals)も、エピタキシー関係を持つことがある。例としては、ともにFeS2である黄鉄鉱と白鉄鉱、およびともにZnSである閃亜鉛鉱とウルツ鉱(繊維亜鉛鉱)が挙げられる[89]。
構造的にも組成的にも関連のない鉱物の組み合わせであっても、エピタキシーを示すことがある[89][91]。典型的な例は、赤鉄鉱(Fe2O3)上の金紅石(TiO2)である[91]。金紅石は正方晶系であり、赤鉄鉱は三方晶系である[89][91]。それでも、ルチルの(100)面(a軸に垂直)とヘマタイトの(001)面(c軸に垂直)には、原子間距離が類似した方向が存在する[89][91]。エピタキシーにおいてはこれらの方向が互いに揃う傾向があり、その結果、成長したルチルのa軸はヘマタイトのc軸と平行になり、ルチルのc軸はヘマタイトのa軸のいずれかと平行になる[89][91]。もう一つの例は、磁鉄鉱( Fe2+Fe3+
2O4)上の赤鉄鉱(Fe3+
2O3)である。磁鉄鉱の構造は、ABC-ABCの順序で積層された最密充填酸素イオンに基づいている[92]。この構造において、最密面は(111)面(立方体の角を対称に「切り落とす」面)に平行である[92]。一方、赤鉄鉱の構造は、AB-ABの順序で積層された最密充填酸素イオンに基づいており、これにより六方対称性を持つ結晶が生じる[92]。仮に陽イオンが十分に小さく、酸素イオンの理想的な最密充填構造に収まるのであれば、最隣接酸素サイト間の距離は両鉱物種で同一になるはずである[93]。しかしながら、酸素イオン半径は1.36 Åであり、鉄イオンは多少の変動を引き起こすのに十分な大きさを持つ[93]。鉄イオンの半径は、電荷(+2または+3)や配位数(4または8)に応じて0.49 Åから0.92 Åまで変化する[94]。それにもかかわらず、両鉱物の酸素間距離は類似しているため、ヘマタイトの(001)面がマグネタイトの(111)面に平行となる形で、マグネタイトの(111)面上にヘマタイトが容易に成長することができる[92]。
関連項目
脚注
注釈
出典
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