クルトガン
クルトガン(モンゴル語: Qul Tuγan、? - 1217年)は、13世紀前半に活躍したメルキト部族の王族。日本語書籍ではクル・テギン(Külu tegin)、クルトゥカンとも表記される。
メルゲン(弓の名手)として知られ、モンゴル帝国のジョチがその腕を惜しんで助命しようとしたが、最後には殺されたことで知られる。
概要
クルトガンについては『元朝秘史』などであまり言及されないが、ペルシア語史料の『集史』メルキト部族志で詳しく語られている。
メルキト部とチンギス・カンの属するモンゴル部キヤト氏には代々の因縁があり、トクトア・ベキとチンギス・カンは何度も戦いを繰り広げていた。まず、1202年(壬戌)秋にはコイテンの戦いでメルキトを含む連合軍が大敗し、同年冬にはチンギス・カンの同盟相手であるオン・カンによってメルキト部は襲撃された[1]。この時、オン・カンはメルキト部をバルグジン谷に追い詰め、トクトア・ベキの長子トグス・ベキを殺し、クトクタイとチャアルンという二人の妃を奪い、クドゥとチラウンらトクトア・ベキの息子達を捕虜としたという[2][3]。しかしその後、ナイマン部のコクセウ・サブラクがオン・カンを奇襲し、この混乱に乗じてクドゥとチラウンら兄弟は脱走し、セレンゲ川を下って父と合流した[4]。
一連の戦闘を経てチンギス・カンはモンゴル高原を統一し、1206年(丙寅)には大モンゴル帝国が成立した。しかし、モンゴル高原から逃れた反チンギス・カンがまだ各地に残存しており、その中でも大きな勢力であったメルキト部のトクトア・ベキとナイマンのグチュルク・カンは合流し、エルティシ川の支流ブグドルマ川の水源で陣容を整えた[5]。そこで1209年(己巳)にチンギス・カンが討伐軍派遣したところ、トクトア・ベキは流れ矢に当たって死んでしまったため、クドゥらはやむなくトクトアの首を断ち切って持ち去っていった[5](イルティシュ川の戦い)。敗走したナイマン部とメルキト部は以後合流することなく、ナイマンはカラキタイに逃れ込み、新たにクドゥが族長となったメルキトは「カンクリン・キムチャウト」方面に逃れていった[5]。
1211年(辛未)よりチンギス・カンは金朝侵攻を開始し、モンゴル高原は手薄となったため、クドゥらメルキト部残党は態勢を立て直すことができた。1216年(丙子)、金朝領華北からモンゴル高原に帰還したチンギス・カンは、かつて滅ぼしたメルキト部・ナイマン部の残党が西方で復興をたくらんでいることを知り、翌1217年(丁丑)にはスブタイ(「四狗」の一人)率いる軍団をケム・ケムジュートのメルキト部の下に派遣した[6]。『集史』チンギス・カン紀はヒジュラ暦612年(1217年)に、ジョチ配下のスブタイとトクチャル率いる部隊が「クドゥと交戦し、メルキト族を壊滅させ、全てを殺戮した」と伝えており、この時クドゥも殺されたようである[7]。なお、この殺戮から逃れた一部隊の追撃から、モンゴル軍とホラズム・シャー朝軍の最初の遭遇戦(カラ・クムの戦い)が起こるに至っている。
『集史』メルキト部族志は一連の戦闘において「トクトア・ベキの末の息子で非常に良く正確に矢を射たクルトガン=メルゲン」のみが生き残り、ジョチがクルトガンを捕虜としたとする。ジョチはクルトガンの射撃が正確である事を耳にしていたので、的を据えて矢を射るよう命じた。クルトガンはまず的に矢を射て、更に次の矢を放ち、最初の矢羽根の切れ込みに当ててそれを断ち割った。そこでジョチはクルトガンを気に入り、チンギス・カンに助命を願う使者を送ったが、チンギス・カンはこれを拒否し、ジョチはやむなくクルトガンを処刑した。
関連作品
- アニメ『天幕のジャードゥーガル』(2026年 - 、テレビ朝日、声:千葉翔也)[8]
脚注
注釈
出典
- ↑ 村上 1972, pp. 750–71.
- ↑ 『聖武親征録』「壬戌冬……又曰『父汪可汗、曩汝征滅里乞、陳於不剌川、遣使覘候部長脱脱、不待陣而先戦、獲忽都台・察魯渾二哈敦、因招其二子火都・赤剌温、尽收兀都夷部。汝以懷此釁、故我秋豪不及。又汝与乃蛮戦於拝塔剌辺只児之野。時火都、赤剌温合部叛帰、汝又為曲薛兀撒八剌追襲、掠汝人民、使来告我。我遣四将領兵戦敗之、尽帰所掠於汝。是我有造於汝四也』」
- ↑ 村上 1972, pp. 70–71.
- ↑ 村上 1972, pp. 73–74.
- 1 2 3 村上 1972, pp. 307–308.
- ↑ 杉山 2010, pp. 40–41.
- ↑ 杉山 2010, pp. 38–39.
- ↑ “天幕のジャードゥーガル:メルキト族の長ダイル役に石田彰 水瀬いのり、千葉翔也も出演 テレビアニメ新キャスト”. MANTANWEB(まんたんウェブ) (2026年7月30日). 2026年10月18日閲覧。
参考資料
- 村上正二(訳注)『モンゴル秘史 チンギス・カン物語』 2巻、平凡社〈東洋文庫209〉、1972年4月。ISBN 978-4582802092。
- C.M.ドーソン『モンゴル帝国史』 1巻、佐口透訳注、平凡社〈東洋文庫110〉、1968年3月。ISBN 4582801102。
- 志茂碩敏『モンゴル帝国史研究 正篇』東京大学出版会、2013年7月4日。ISBN 978-4130210775。