サイクロン・セニャール

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サイクロン・セニャール
(BOB04・セニャール・Cenyar)
トロピカル・ストーム (SSHWS)
サイクロン・セニャール
サイクロン・セニャール
発生期間 2025年11月25日
- 2025年11月30日
寿命 5日
最低気圧 1008hPa (日気象庁解析)
998 hPa (IMDインド気象局解析)
最大風速
(日気象庁解析)
18m/s (35 kt)
最大風速
(米海軍解析)
20m/s,40kt
被害総額 5兆2000億円(熱帯低気圧の災害史上最大の被害額)
平均速度 -
移動距離 -
上陸地点 インドネシアアチェ州
死傷者数 死者2011名、行方不明者276名、負傷者5011名
被害地域 インドネシアの旗 インドネシア,タイ王国の旗 タイ,マレーシアの旗 マレーシア, ベトナム,シンガポールの旗 シンガポール
プロジェクト : 気象と気候/災害
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サイクロン・セニャール(Cyclonic Storm Senyar)は、2025年11月下旬にマラッカ海峡およびその周辺で発生した熱帯低気圧である。インド気象局(IMD)は11月25日に発生した低気圧が発達したことを受け、26日にセニャールと命名した。セニャールはスマトラ島北東部に上陸した後、マラッカ海峡周辺を移動し、27日には深い熱帯低気圧(Deep Depression)に弱まった。[1][2]

セニャールは、赤道に近いマラッカ海峡で発生した点で注目された。また、同時期にインドネシアのスマトラ島、タイ南部、マレーシアなどでは豪雨による洪水や土砂災害が発生し、多数の死者と大規模な物的被害が報告された。ただし、これらの災害には季節風など複数の気象要因が関係している。[3]

気象史

発生と発達

2025年11月下旬、マラッカ海峡周辺に低気圧が形成された。インド気象局によると、11月25日には同海峡上の低気圧が発達し、深い熱帯低気圧となった。その後、さらに発達してサイクロン・ストームに分類され、11月26日に「セニャール」と命名された。[1]

セニャールは赤道に近い海域で発生した。熱帯低気圧の形成には一般に、対流活動に加え、地球の自転に由来するコリオリの力が重要な役割を果たす。赤道付近ではこの力が弱いため、熱帯低気圧が発生しにくいとされる。

上陸と衰弱

2025年11月26日、セニャールはインドネシアのスマトラ島北東部に上陸した。インド気象局の発表によれば、上陸時の中心位置は北緯4.9度付近、東経97.8度付近で、風速は時速70~80 km、最大瞬間風速は時速約90 kmと推定された。[1]

陸地との相互作用などによりセニャールは次第に弱まり、11月27日には深い熱帯低気圧に分類された。マレーシア気象局は同日、セニャールが北スマトラ沖に位置し、東南東へ移動してマレー半島西岸付近の海域に向かっていると発表した。同局は、マレー半島の西部および中部を中心に、継続的な大雨、強風、海上の荒天に注意を呼びかけた。[4]

影響

スマトラ

セニャールはスマトラ島に壊滅的な被害をもたらした。150万人以上が被災し、約50万人が避難した[5]。インドネシア政府の11月末の発表によれば、3つの州における洪水被害は68兆6,700億ルピア(約41億3,000万米ドル)と推定される。

北スマトラ州では、11月末時点の報告で少なくとも283人が死亡、169人が行方不明となった[5][6] 中部タパヌリ県で47人死亡・51人行方不明、南部タパヌリ県で47人死亡、シボルガで33人死亡・56人行方不明、北部タパヌリ県で15人、ランカット県で11人、フンバン・ハスンドゥタン県で7人死亡・11人行方不明、メダンで3人、パクパク・バラット県で2人、ニアスとパダンシディンプアンでそれぞれ1人が死亡した。同州では929人が負傷した。

西スマトラ州では、11月末時点で少なくとも165人が死亡した 。アガム県で120人が鉄砲水により死亡し、パダンパンジャンの入口ゲートでの地滑りで30人が死亡した。州都パダンとブキティンギを結ぶ主要道路は、バタン・アナイ川の氾濫により寸断された。

アチェ州では、11月末時点で156人が死亡、1,614人が負傷、116人が行方不明となった。 約46,000戸の住宅が被害を受けた。鉄砲水により150 KVの送電塔が倒壊し、アチェの一部で停電が発生した。マリクサレ気象観測所(アチェ北部)では302.2ミリ、ベラワン海洋気象観測所(メダン)では262.2ミリの極端な降水量が記録された[7]。

タイ南部

タイでは360万人が120万世帯で被災し、南部を含む20県で洪水が発生した。そのうち14県で263人が死亡、102人が負傷した[1]。災害地域として特定されたのは南部の10県である[8]。

もっとも深刻な被害を受けたのはソンクラー県である。11月19日から降り出した豪雨は21日にハジャイ(Hat Yai)で1日あたり372ミリという記録的な降水量を観測した。これは同地の11月平均降水量317ミリを大幅に上回り、「300年に一度」という記録的な豪雨となった[9]。 この時点でソンクラーは既に深刻な洪水に見舞われており、その後セニャール本体の暴風雨が追い討ちをかけた。ソンクラー県だけで200人が死亡した。

ハジャイでは水深が2メートルを超え、7,000人を越す外国人観光客が取り残された。 ソンクラー県は災害地域(非常事態宣言に相当)に指定された。 タイ海軍は14隻の船艇と空母チャクリ・ナルエベトを救援活動に投入した。

マレーシア

マレーシアでは、セニャールが熱帯暴風雨として11月27日深夜に上陸した後、2人が死亡した。マレーシア気象局は11月27日、西方から接近するセニャールに対して熱帯暴風雨警報を発表した。 マレーシアでは10州で21,000人が避難した。

気象学的意義

赤道に近い海域での発生

セニャールは、赤道に近いマラッカ海峡で発生した熱帯低気圧として注目された。熱帯低気圧の形成には、暖かい海面、十分な水蒸気、対流活動、低い鉛直ウィンドシアーなど、複数の条件が関係する。また、低層の風の収束や大気の渦度も発生・発達に重要である。

コリオリの力は赤道上でゼロとなり、赤道に近づくほど小さくなる。このため、赤道付近では熱帯低気圧の形成に必要な回転構造が生じにくい。ただし、赤道近傍の低気圧性循環や渦の発生を一律に不可能とみなすことはできず、地域の風系や大気の擾乱なども考慮する必要がある。

ボルネオ渦との関係

ボルネオ渦(Borneo vortex)は、ボルネオ島周辺の南シナ海などで、主に北東モンスーン期に形成される低層の低気圧性循環を指す。こうした循環は降雨の強化に関係することがあるが、通常のボルネオ渦がそのまま熱帯低気圧へ発達するとは限らない。

セニャールの形成過程を説明する際には、ボルネオ渦、季節風、海面水温、対流活動などの関係を検討する必要がある。ただし、特定の要因がセニャールの発生を直接引き起こしたと断定するには、気象解析などの根拠が必要である。

脚注

注釈

出典

  1. 1 2 3 India Meteorological Department, Press Release dated 26 November 2025.
  2. ↑ India Meteorological Department, Press Release dated 27 November 2025: Cyclonic Storm Senyar weakened into Deep Depression.
  3. ↑ Reuters, Southeast Asia storm deaths near 800 as scale of disaster revealed, 2025年12月1日。
  4. ↑ マレーシア気象局、Tropical Storm Warning (Senyar), 2025年11月27日。
  5. ↑ “Floods in Indonesia, Sri Lanka, Thailand leave more than 1,140 dead”. Al Jazeera. 2025年12月1日。
  6. ↑ “Hundreds dead in Indonesia, Thailand in Southeast Asia floods”. The Washington Post. 2025年11月30日。
  7. ↑ “Cyclone Senyar: The Beginning of the ‘New Normal’”. Kompas.id. 2025年12月3日。
  8. ↑ “Thailand: Floods - Nov 2025”. ReliefWeb. 2025年12月3日閲覧。
  9. ↑ “Asia floods: a visual guide to the extreme weather that’s killed more than 1,000 people”. The Guardian. 2025年12月1日。https://www.theguardian.com/world/2025/dec/01/asia-floods-visual-guide-flooding-extreme-weather-cyclones-monsoon

参考文献

  • [1] “2025 Southeast Asia floods and landslides”. Wikipedia. 2025年12月3日閲覧。
  • [2] “Thailand: Floods - Nov 2025”. ReliefWeb. 2025年12月3日閲覧。
  • [3] “Asia floods: a visual guide to the extreme weather that’s killed more than 1,000 people”. The Guardian. 2025年12月1日。https://www.theguardian.com/world/2025/dec/01/asia-floods-visual-guide-flooding-extreme-weather-cyclones-monsoon
  • [4] “2025 Thailand–Malaysia floods”. Wikipedia. 2025年12月3日閲覧。
  • [5] “Exceptionally rare Tropical Cyclone Senyar kills more than 300 across Indonesia, Malaysia and Thailand”. The Watchers. 2025年11月28日。
  • [6] India Meteorological Department (IMD). “Tropical Weather Outlook”. 2025年11月。
  • [7] Joint Typhoon Warning Center (JTWC). “Tropical Cyclone Formation Alert 04B”. 2025年11月25日。
  • [8] Japan Meteorological Agency (JMA). “Tropical Depression Tracking”. 2025年11月28日。
  • [9] “Floods in Indonesia, Sri Lanka, Thailand leave more than 1,140 dead”. Al Jazeera. 2025年12月1日。
  • [10] “More than 1,100 killed as deadly storms cause flooding and landslides across Asia”. CNN. 2025年11月30日。
  • [11] “Hundreds dead in Indonesia, Thailand in Southeast Asia floods”. The Washington Post. 2025年11月30日。
  • [12] “Storm Senyar set to hit 10 locations”. The Star. 2025年11月28日。
  • [13] “Tropical Cyclone 33W (Koto) / Tropical Cyclone 04B (Senyar) / Tropical Cyclone 05B”. Pacific Disaster Center. 2025年11月26日。
  • [14] “Cyclone Senyar: The Beginning of the ‘New Normal’”. Kompas.id. 2025年12月3日。