チャネルロドプシン

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チャネルロドプシン[1](英語: channelrhodopsin)は光によって作動する光駆動型イオンチャネル(英語版)の一つである。緑藻のクラミドモナスから初めて発見された。通常のロドプシンとは光に応答して機能するという共通点があるが、それが生体膜を超えてイオンを透過させるイオンチャネルとしての機能も有するという点で異なる。2005年にはチャネルロドプシンを細胞や組織に導入することで光に応じて細胞の膜電位を操作できるような研究手法が開発され、光によって細胞の機能を操作する光遺伝学の基礎となった。このチャネルロドプシンを用いて光遺伝学を初めて実現したカール・ダイセロスとチャネルロドプシンが光応答性のイオンチャネルであることを突き止めたペーター・ヘーゲマン、ゲオルク・ナーゲルの3人は2026年にノーベル生理学・医学賞を受賞した。

発見

1991年、ペーター・ヘーゲマンらはクラミドモナスに光を照射しながら電気生理学的測定を行うと細胞膜をイオンが透過することを発見した[2]。これはクラミドモナスが移動する際に走光性を示すことに着想を得たものであった[3]。その際、彼らはロドプシンに似た分子が光を受け、更にイオンチャネルとしての機能も有すると考えた[2]。その後2002年、ヘーゲマンと同じ研究室のゲオルク・ナーゲルらが緑色光を受容するロドプシンに似た分子でありイオンチャネルの中でもH+チャネル(プロトンチャネル)として機能するチャネルロドプシン1(ChR1)の同定に至った[2]。2003年にもナーゲルらは青色光を受容するロドプシンに似た分子で非選択的陽イオンチャネルとして機能するチャネルロドプシン2(ChR2)を新たに発見した[2]。同様の分子は光受容分子としてナーゲル、ヘーゲマンらの研究室以外においても報告されていたが、それが同時にイオンチャネルとしても機能することを明らかにしたのは彼らが初めてであった[注釈 1][2]。なお、後になってこれらのロドプシンはヒトなどが有するロドプシンとは相同性が低い微生物特有のものであることが明らかになり、微生物ロドプシンと呼ばれるタンパク質ファミリーに含まれることになった[3]。

その後もクラミドモナス以外からもボルボックスやStigeoclonium halveticumといった緑藻から複数のチャネルロドプシンが発見されてきている[2]。

構造

レチナールが結合した状態のチャネルロドプシン。構造解析においては細胞質ドメインが除かれている。

チャネルロドプシンは膜貫通ドメインと細胞質ドメインで構成されており、N末端側に膜貫通ドメインが、C末端側に細胞質ドメインがある[2]。二量体として存在しており、細胞外側に存在するジスルフィド結合で各サブユニットがつながっている[5]。かつては二量体の界面にポアが一つ存在する構造が想定されていたが、構造解析により各サブユニットに1つずつイオンを透過させる経路(ポア)が存在することが明らかになった[6]。

チャネルロドプシンのゲーティングに重要な残基を色付けした。オレンジがレチナール、黄色はレチナールと結合するリシン残基、紫はリシン-レチナールのシッフ塩基のプロトン/脱プロトン化に重要な対イオンとなるグルタミン酸残基、青はDC gateに寄与する残基、ピンクはH2に存在するグルタミン酸およびリシン残基である。

膜貫通ドメインは7回膜を貫通しており、発色団としての機能もイオンチャネルとしての機能もこのドメインが主である[2]。膜を貫通する部分はN末端側からH1-H7と順に呼ばれる[5]。発色団としての機能のために重要なのはH7に存在するリシンというアミノ酸で、ここにレチナールが結合するとシッフ塩基(-C=N-)が形成される[7]。そのため、H7の構造によってリシンの局在も変化し、吸収波長の特性などが変化する[8]。レチナールとリシンが結合した部分(-C=N-のNに相当する部分)ではプロトン化が起こっているが、付近にある酸性アミノ酸のグルタミン酸残基によって塩橋が形成されている[9]。このようなグルタミン酸残基はチャネルロドプシンでは通常2つ存在し、対イオン(英語版)(Counterion)よりCi1、Ci2という[9]。

膜貫通ドメインにはチャネルの開閉に非常に重要なアミノ酸残基も含まれている。特に、DC gateと呼ばれるアスパラギン酸(D)とシステイン(C)残基からなる部分は変異を起こすと光に対する応答が遅延することから開閉の調節に重要と考えられている[10]。

膜貫通ドメインのうちイオンが透過するポアの側面を形成するのは、主にH1-H3とH7である[10]。特にH2には5つのグルタミン酸(E)残基とリシン(K)残基という極性を持ったアミノ酸残基が含まれており、それぞれE1-E5、K1と呼ばれている[10]。E1やE3はチャネルロドプシンの中で保存されている酸性アミノ酸であるため、陽イオンを選択するのに重要であると考えられている[10]。また、E3はH7に存在するレチナールと結合するリシン残基の隣のアスパラギン(N)残基と塩橋を形成しており、レチナールの異性化が起こると構造変化によりH2ヘリックスが傾くことが開口のために必要と考えられている[11]。

生物物理学的性質

光反応サイクル

チャネルロドプシンの光反応サイクルとチャネルゲーティングのモデルを表した図。

チャネルロドプシンは光を受けると様々な状態を遷移していく。このときの光を受けていない状態を暗状態(D)、光を受けて一瞬ピークに達した後の中間状態をphotointermediateよりPとする。暗状態で光を受けると100 fsのオーダーで励起状態に移ったのち基底状態に移行するという反応が起こる[12]。この光反応の中間体はその吸収波長からP500と呼ばれており、ここでチャネルロドプシンに結合しているレチナールは全トランス型から13-シス型へ異性化する[13]。その後、時間経過に伴ってレチナール・リシンの結合部にあるシッフ塩基が脱プロトン化され、Ciにプロトンが受け渡されると吸収波長が390 nmという青方にシフトした中間状態が生まれ、これをP390という[13][12]。このP390は、シッフ塩基の部分がプロトン化されているがP500とは異なる状態のP520と平衡状態にあり[12]、P520においてイオンチャネルの開状態になるものと考えられている[13][12]。P520からP480という中間状態になるとイオンチャネルでいう閉状態に移行し、更に数秒程度で元の暗状態に戻っていくと考えられている[12]。

電流の特性

チャネルロドプシンの電流特性を表した図。

チャネルロドプシンを流れる電流は光を与えるとまずすぐに一過性に大きい電流を出した後、不活性化(英語: inactivation)を起こして定常状態に戻るという特徴を示す[14]。照射している光を止めると指数関数的に減衰しながら閉状態となる[14]。チャネルロドプシンに十分な時間間隔をおかずに何度も光刺激を繰り返し与えると光を与えた直後のピーク電流の大きさが減少していく[15]。これを光順応といい、暗状態で数分おくことで元のピーク電流の大きさに戻ることができる[14]。

このような電流を示すのを説明するモデルとしては四状態モデルが考案されている。四状態モデルの四状態とは閉状態2つ(C1、C2)と開状態2つ(O1、O2)である。暗状態をC1とし、光によって活性化されるとO1になる。そしてO1はO2と平衡状態にある。その後、O1はC1へ、O2はC2へ戻るのであるがC2からC1へ戻るには数秒ほどの時間を要するものと考える。光刺激によってC1はO1に、C2はO2になることができるが、O1はコンダクタンスが高いが短命であり、O2はコンダクタンスが低いが長く持続するとすると大部分が整合する[15]。このようなO1・O2という2つの開状態は構造的にもレチナールの13位の炭素原子のcis/transを考えるだけでなく15位の炭素原子のC=N間二重結合においてanti/synを考えることで導入できる[注釈 2][17]。なお、これは単純化したモデルであってチャネルロドプシンによっては受ける色や光を受ける時間などによって更に複雑化する[15]。

チャネルロドプシンの膜電位に対するゲーティング特性としては内向き整流性である、という特徴がある[18]。つまり、平衡電位よりもプラスの膜電位のときに出る外向き電流よりも平衡電位よりマイナスの膜電位で出る内向き電流の方が大きい[18]。このような内向き整流性という特徴はKir2.1などの内向き整流性カリウムチャネルにおいてはMg2+による細胞内側からの阻害が原因であるが、チャネルロドプシンではMg2+濃度を変化させても影響しなかったゆえそれ以外が原因である[18]。

チャネルロドプシンの一チャネルあたりのコンダクタンスは非常に低いことが分かっている[14]。イオンチャネルにおいては大きいものでBKチャネルのような約250 pS、通常の電位依存性カリウムチャネルで12 pSなどと計測されている[19]が、チャネルロドプシンではノイズ解析以外での測定は困難であり、約10-100 fSのオーダーと推定されている[14]。

チャネルロドプシンによってどのイオンを通すか、というイオン選択性は異なるが、多くの場合プロトン(H+)を透過する[20]。イオン選択性についてはパッチクランプ法などで細胞内外の溶液条件を変更し、そのときの平衡電位を詳細に見ることで推定することができるが、これによりチャネルロドプシンでは比較的通す金属イオンであるNa+の105-106倍のオーダーでH+が透過すると推定されている[20]。それ以外のイオンについてはNa+ > K+ > Cs+ >> Ca2+ > Mg2+と推定されている[21]。

生理的機能

クラミドモナスのような藻類においてはチャネルロドプシンは眼点という構造に存在している[22]。この眼点は2-3層の色素顆粒層と細胞膜で構成されており、色素顆粒層にβ-カロテンやルテインといった色素が含まれるために顕微鏡では赤く見える[23]。この眼点の細胞膜においてチャネルロドプシンが発現しており、光を受容する[23]。

クラミドモナスには光合成に必要な光を求めるために、光に応じて鞭毛を動かして移動する走光性という性質がある[24]。クラミドモナスは遊泳の際におおよそ1秒に2回転しており、これによって眼の位置を変えて光をとらえることができるようにしている[24]。チャネルロドプシンを流れる電流によって生じた脱分極刺激が鞭毛膜にまで到達すると、これが鞭毛の運動制御へとつながる[25]。なお、眼点に色素がないような変異を導入したクラミドモナスでは色素顆粒層による遮光効果が得られないため、眼点でない方の光刺激を受けるどころかその方向からの光刺激の方を強く受けてしまい、チャネルロドプシンは本来の走光性とは誤った光受容を行ってしまう[26]。

応用

チャネルロドプシンはクラミドモナスに存在するタンパク質であるものの培養細胞などに導入して光駆動型イオンチャネルとしての機能を発揮させることができることが明らかになっている[2]。例えば、神経細胞にチャネルロドプシンを導入すると、光によって神経細胞の活動電位を制御できる[2]。これを黎明期(2005年ごろ)から行っていたのがカール・ダイセロスや八尾寛で、チャネルロドプシン2が発現した神経細胞に青色光を照射すると神経細胞を制御できることを明らかにした[4]。このような光を用いてタンパク質の機能を制御するような手法は今日では光遺伝学(オプトジェネティクス、英語: optogenetics)と呼ばれており、チャネルロドプシンがその先駆けとなった[4]。このような光で細胞を操ろうというアイデアはDNAの二重らせん構造を発見したことで知られるフランシス・クリックが初めて提唱したことであるが、当時はどのようにすれば実現可能であるかは考えられておらず、可能性は低いものと思われていた[27]。

また、人工チャネルの生成もチャネルロドプシンを元に行われている。例えば、チャネルロドプシン1とチャネルロドプシン2のアミノ酸配列を組み換えたキメラ分子であるC1C2を更に改変することで陰イオンを通すことのできるようなチャネルロドプシンの生成に至っている[4]。陽イオンの中ではCa2+を選択的に通すものが開発されている[28]。他にも従来のチャネルロドプシン1/2のような緑色光・青色光による制御だけでなく、赤色光により制御されるチャネルロドプシンが作成されるなど、さまざまな人工チャネルロドプシンが開発されてきている[29]。

研究における実用性のあるチャネルロドプシンとしてステップ関数型オプシン[30](英語: step-function opsin、略:SFO)がある[17]。SFOは光刺激をやめることで生じる電流の脱活性化を非常に遅くすることで一度光刺激を与えると電流の流れる開状態が持続するようになるので、開状態を維持するのに光を与え続けずに済むという利点がある[17]。

チャネルロドプシンに関連する受賞

ノーベル生理学・医学賞

2026年10月、チャネルロドプシンを神経細胞に発現させ光遺伝学を初めて実現したカール・ダイセロスとチャネルロドプシンの発見に貢献したゲオルク・ナーゲル、ペーター・ヘーゲマンの3人がノーベル生理学・医学賞を受賞した[31]。なお、同年1月には日本でロドプシンについて研究している神取秀樹が日本生物物理学会誌(『生物物理』)に『光遺伝学とノーベル賞』という題でノーベル賞候補となるかについて考察している最中であった[32]。神取はノーベル賞受賞を受けて所属する名古屋工業大学でのニュース[33]や朝日新聞の記事[34]などにコメントを残している。

脚注

注釈

  1. ↑ なお、これよりも前にもロドプシンのような構造を持ち、イオンを通すという点ではプロトンポンプであるバクテリオロドプシンが既に1971年に発見されており、初めてであったのはあくまで光により作動するイオンチャネル、という点である[4]。
  2. ↑ 13-cis/15-antiがO1、13-trans/15-synがO2と考えられる[16]。

出典

  1. ↑ 角田 2016, p. 451.
  2. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 角田 2016, p. 452.
  3. 1 2 井上 2022, p. 420.
  4. 1 2 3 4 井上 2022, p. 421.
  5. 1 2 Schneider 2015, p. 169.
  6. ↑ Deisseroth & Hegemann 2017, p. 5.
  7. ↑ Schneider 2015, pp. 169–170.
  8. ↑ Schneider 2015, p. 174.
  9. 1 2 Schneider 2015, p. 170.
  10. 1 2 3 4 Schneider 2015, p. 171.
  11. ↑ Schneider 2015, pp. 180–181.
  12. 1 2 3 4 5 Schneider 2015, p. 172.
  13. 1 2 3 角田 2016, p. 454.
  14. 1 2 3 4 5 角田 2016, p. 455.
  15. 1 2 3 Schneider 2015, p. 176.
  16. ↑ Deisseroth & Hegemann 2017, p. 2.
  17. 1 2 3 Deisseroth & Hegemann 2017, p. 3.
  18. 1 2 3 Schneider 2015, p. 179.
  19. ↑ Latorre, Ramon; Castillo, Karen; Carrasquel-Ursulaez, Willy; Sepulveda, Romina V.; Gonzalez-Nilo, Fernando; Gonzalez, Carlos; Alvarez, Osvaldo (2017). “Molecular Determinants of BK Channel Functional Diversity and Functioning”. Physiological Reviews 97 (1): 39-87. doi:10.1152/physrev.00001.2016. PMID 27807200.
  20. 1 2 Schneider 2015, p. 177.
  21. ↑ Deisseroth & Hegemann 2017, p. 6.
  22. ↑ Schneider 2015, p. 168.
  23. 1 2 若林ら 2018, p. 91.
  24. 1 2 Deisseroth & Hegemann 2017, p. 1.
  25. ↑ Govorunova & Sineshchekov 2023, p. 1556.
  26. ↑ 若林ら 2018, p. 96.
  27. ↑ Deisseroth & Hegemann 2017, pp. 1–2.
  28. ↑ Schneider 2015, p. 181.
  29. ↑ 井上 2022, pp. 421–422.
  30. ↑ 五十嵐敬幸 (2018-11-08). “コネクトミクス/オプトジェネティクス研究を推進する新規トランスジェニックラット系統の開発”. 東北大学医学系研究科・医学部 博士学位論文 (東北大学機関リポジトリ) 2026年10月10日閲覧。.
  31. ↑ “ノーベル生理学・医学賞にカール・ダイセロス氏ら3人 脳の謎解明に寄与する技術の開発で”. Cable New Network (2026年10月5日). 2026年10月11日閲覧。
  32. ↑ 神取秀樹「光遺伝学とノーベル賞」『生物物理』第66巻第3号、2026年、172-173頁、doi:10.2142/biophys.66.172。
  33. ↑ “本学大学院で特別演習を担当したPeter Hegemann博士のノーベル生理学・医学賞受賞をお祝いします”. 名古屋工業大学 (2026年10月6日). 2026年10月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2026年10月8日閲覧。
  34. ↑ 桜井林太郎、矢田文、水戸部六美、黒沢大陸「ノーベル賞の光遺伝学、「脳科学者の夢を実現」 日本の研究者も喜び」『朝日新聞』2026年10月6日。オリジナルの2026年10月6日時点におけるアーカイブ。2026年10月8日閲覧。

参考文献

関連項目