ファアファフィネ

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ファアファフィネ([faʔafafine]、サモア語での意味は「女性のような[1]」)あるいはファファフィネはサモア諸島(サモア独立国やアメリカ領サモア)において、生まれた時は男性と見なされていたが、第3の性別や女性の性役割を引き受けている人々である[2]。サモア社会における認知度は比較的高く、社会のいたるところでファアファフィネを見かけることができる。一方で19世紀に伝来したキリスト教の影響による差別や偏見を受ける対象ともなっている。西洋文化のジェンダー観とは異なる文化体系から生まれたジェンダー分類であるが、現代においてはドラァグ文化など、西洋のLGBTQ+文化からの影響も受けている。

語源

「ファアファフィネ」 (faʻafāfine) という言葉は接頭辞で「~のような」を意味する "faʻa–" と「女性」を意味する言葉 "fafine" からなる[3]。サモア語で「女性のような」という意味になる[1]。

サモアのスラングである「マラ」("mala"、荒廃)は "faʻafāfine" と同じ意味だが使われる機会は少ない言葉で、キリスト教原理主義の影響を受けたホモフォビアやトランスフォビアに起源がある言葉である[4]。

歴史

ヨーロッパ人と接触する前の数世紀の間、サモアは母権的な社会であったことを示唆する強力な証拠がある[5]。サラマシナ女王をはじめとする女性の支配者がおり、女性や第3の性別に属する人々のリーダーシップが尊重されていた。首長の称号が女性やファアファフィネにわたることに関する制限はなく、過去から現在にいたるまで、かなりの数のファアファフィネの首長がいたと考えられている[6]。

ファアファフィネの歴史は追うのが困難である。女性の戦士で昔のサモアの首長であったナファヌアがファアファフィネのアイコンとされることがある[7]。

19世紀初め頃まではファアファフィネはとくに社会的に特別視されておらず、振る舞いに関して固定的なジェンダーに基づく規範を要求されたり、特定の役割を期待されたりすることもあまりなかったが、1830年頃からサモアでキリスト教の宣教が盛んになり、急速なキリスト教化によって同性愛が異端視されるようになってから状況が変化したと言われている[8]。キリスト教会の保守的な道徳観によって「存在を否定」されるようになり、信心深い親は子どもがファアファフィネであることを認めなくなった[9]。

ファアファフィネは家族やコミュニティのケアをするような仕事が得意であるという考えが存在したが、21世紀においてはキャリア志向で都市部で専門職につくようなファアファフィネも増えている[10]。ファアファフィネだけの美人コンテストであるミス・サモア・ファアファフィネ・パジェントもアピアで開催されている[9]。

アイデンティティと性的指向

トランスジェンダーやゲイなどの西洋のLGBTQ+文化に照らした用語で形容されることもあるが、「西洋社会で言う『性的少数者』とは一線を画す」「サモアの伝統的な文化に根ざした独自のアイデンティティー[9]」であると言われる。

ファアファフィネのほとんどは自分が男性ではなくファアファフィネであると考えているが、自分が女性だと考える者も少しはいる。しかしながら多くは自分が女性とは区別される存在であるとも見なしている[11]。西洋のメディアで時として主張されているのとは異なり、ファアファフィネは出生時に割り振られる役割ではなく、娘がいないために女の子として育てられるわけでもない。小さな子どもの頃に女性的とされる振る舞いがあらわれ、サモア人はこうした子どもたちを典型的な男の子とは違うと認識する[12][13][11]。

ファアファフィネたちによると、多くは子どもの頃から女友達と遊んだり、ごっこ遊びで女性の役をつとめたり、女性の服を着たり、女性のものとされるおもちゃで遊んだりするなど、女性らしいとされる活動を「愛好」していた。幼い時から女の子だったと述べているファアファフィネもいる。サモアにおいては、生まれた時は男児とみなされていたが自分が女児だと言う子どもに対してからかいや不快の念が示されることはあまり多くない。研究によると、ファアファフィネである子どもが女性らしいとされる行動を行うのを止めようとした親は20%程度で、比較的少数派であると言える。男性としてのジェンダーを押しつけられるのは多くのファアファフィネにとって腹立たしいことであり、相当な数のファアファフィネは、出生時から女児だとされている子どもに比べても、荒っぽいゲームやスポーツなど、男らしいとされる遊びが「嫌い」であったと述べている[14]。

ファアファフィネの多くは男性愛者であり、女性らしいとされる特質を備えていることが多い[11]。ほとんどの場合、自分はファアファフィネだと考えていない男性と性的関係を持つが、女性と性的関係を持つファアファフィネもいる[15]。しかしながら出生時に男児だとされていた人々の間での性交渉はサモア独立国では犯罪である[16]。ファアファフィネは女性と結婚し、子どもを作る場合もある[9]。

出生時に男性と見なされた人の3.5%ほどを占めているという調査があり、これは西洋における出生時に男性と見なされて男性愛者となった人の割合と類似している[17]。一方でサモア独立国の人口の5%程度がファアファフィネであるという推定もある[9]。ファアファフィネの中には性別適合手術などの医療的支援を求める者もいれば、必要としない者もいる[9]。

社会における役割

ファアファフィネは「サモア文化の一部[18]」と見なされている。社会における認知度は比較的高く、広く受け入れられていると言える[2][11]。サモア社会のいたるところでファアファフィネを見かけることができる。サモアの前首相トゥイラエパ・サイレレ・マリエレガオイはサモア社会におけるファアファフィネの価値について公の場で語ったことがある[2]。

サモアの大衆文化においては、ファアファフィネは働き者で、サモアの「タウトゥア」(tautua)、すなわち家族に奉仕する伝統に従う家族思いな人々だという固定観念が見受けられる。サモアやポリネシアにおける家族の概念は「サ」(sā)、すなわちファアマタイ (faʻamatai) の家族システムの中に位置づけられる共同体メンバー全員を含む[19]。伝統的にファアファフィネはサモアの家族集団であるアイガ (aiga) の中で女性のものとされる日常的な仕事の訓練を受ける[14][20]。

レスブリッジ大学心理学教授であるポール・L・ヴェイシーは、ファアファフィネの存在は親族に対する利他主義を指向する遺伝子があると考える進化心理学の仮説を支えるものであると考えており、この仮説は非伝統的な役割を果たすことには社会的な利点があるため男性愛が次世代に伝えられる可能性があるということを提案している[21]。この仮説によると、男性愛の存在は親類におじやおばがサポートを行うという進化の目的に役立っているかもしれず、つまりファアファフィネや未婚のおじおばなど非伝統的役割を果たすメンバーを含む家族は親類の成功に対してより多くの時間や資源を割くことができるということになる[21]。

組織と権利運動

ファアファフィネ協会のリーダーたちと、オープンリーゲイのアメリカ合衆国大使デイヴィッド・ヒューブナー(前列中央)

アメリカ領サモアファアファフィネ協会(サモア語: Le Sosaiete o Faʻafafine i Amerika Samoa、略称SOFIAS) はサモアの価値観と西洋の影響の間でバランスをとり、サモアのファアファフィネコミュニティに対する肯定的な受容を推進する団体として自らを位置づけている。アメリカ領サモア、アジア太平洋地域、世界のファアファフィネ及びLGBTQI+コミュニティとの協力をすすめている[22]。

アピアにあるサモアファアファフィネ協会 (SFA) は2006年に設立された。政府、協会、青少年団体と密接に協力し、ファアファフィネのコミュニティのためのプロジェクトを支援している。SFAは国際的にも活動しており、太平洋の島々のファアファフィネ、トランスジェンダー、LGBTコミュニティを代表して国連や太平洋地域のNGOと協力している。ファアファフィネの公正なメディア表象をすすめるべくメディア機関にも働きかけている[23]

SFAはファアファフィネの弁護士であるアレックス・スアやフィニアス・ハートソン・マタウティアとともにサモア独立国におけるLGBTの権利問題について法的な働きかけを開始した。ニュージーランドの植民地支配を受けていた際に施行されたホモフォビア的でトランスフォビア的な法律の撤廃を目指す努力は部分的には成功している[24]。2013年にサモア独立国政府は性犯罪に関する法規を含む2013年刑事法によって刑法を改正した。2013年の改正により、女性の「真似をすること」は非犯罪化され、ファアファフィネの権利に進展があった。「性的結び付き」という用語は第50条で口腔性交や肛門性交を含む幅広い形で定義され、ジェンダーニュートラルに記述されている。しかしながら第67条は引き続き「ソドミー」を犯罪だとしており、つまり目に見える形でファアファフィネとして振る舞うのはもはや犯罪ではないが、出生時に男性とされた2人の人間が性交渉を行うのは犯罪となる[25]。両者とも16歳以上の男性によるソドミーの最高刑は5年の拘禁刑である[16]。男性同性愛者が性交渉をする場所を提供した場合の最高刑は7年の拘禁刑である[16]。

同性間性交渉同様、サモア独立国では同性婚はできず、アメリカ合衆国では合法化されたもののアメリカ領サモアでもいまだに認められていない[25]。

著名なファアファフィネ

オークランドプライドパレードに出演するバックウィート

作品への登場

シア・フィギエルの小説 Where We Once Belonged (1996) にはシュガー・シャーリーというファアファフィネのキャラクターが登場する[34]。

オスカー・ナイトリー、デイヴィッド・フェイン、ナサニエル・リーが太平洋を舞台に執筆した戯曲 A Frigate Bird Sings (1996) にはヴィリ・アタファというファアファフィネのキャラクターが登場する[35]

1999年にヘザー・クロールが監督及び共同製作をつとめたオーストラリアのドキュメンタリー映画 Paradise Bent: Boys will be Girls in Samoa が作られた[36]。この作品は伝統的なサモアのファアファフィネの物語を描いている[37]。さらに新しい西洋のドラァグクイーンが地元の文化に及ぼした影響も取り上げている[36]。1999年から2002年まで複数の国際映画祭で上映された[36]。シカゴ国際映画祭でシルヴァー・プラークを受賞している[38]。

ダン・タウラパパ・マクマリンは2001年にファアファフィネをタイトルキャラクターとするシンデレラ物語の翻案である「シナレラ」という短編映画を製作し、ホノルルレインボー映画祭で最優秀短編映画賞を受賞した[39]。

ニュージーランドのアニメシリーズ『ブロタウン』(2004–2009) にはファアファフィネの校長であるブラザー・ケンが登場する[40]。

サモア系ニュージーランド人でオープンリークィアなアーティストであるタヌ・ガゴは2011年に「ファアファフィネのジェリー」という写真のシリーズを発表した[41]。

2013年の『ネクスト・ゴール!世界最弱のサッカー代表チーム0対31からの挑戦』はサッカーアメリカ領サモア代表を描いたドキュメンタリー映画であり、ファアファフィネのサッカー選手であるジャイヤ・サエルアが登場している[1]。2023年にこの経緯をタイカ・ワイティティ監督が劇映画化した『ネクスト・ゴール・ウィンズ(英語版)』ではファアファフィネの役者であるカイマナがジャイヤ・サエルアを演じた[1]。

脚注

  1. 1 2 3 4 5 6 “FIFA初のトランスジェンダー女性選手を演じて”. GINZA (2026年8月3日). 2026年8月11日閲覧。
  2. 1 2 3 Vasey, Paul L.; VanderLaan, Doug P. (2021), Shackelford, Todd K.; Weekes-Shackelford, Viviana A., eds. (英語), Fa'afafine, Springer, pp. 2875–2876, doi:10.1007/978-3-319-19650-3_46, ISBN 978-3-319-19650-3
  3. ↑ Milner, G.B. 1966. Samoan-English Dictionary. "Faʻafafine" entry pg. 52 under "Fafine"
  4. ↑ Taulapapa McMullin, Dan (2011). “Faʻafafine Notes: On Tagaloa, Jesus, and Nafanua”. Queer Indigenous Studies: Critical Interventions in Theory, Politics, and Literature. Tucson: University of Arizona Press: 81–94.
  5. ↑ Silia Pa'usisi Finau (2017). Women's Leadership in Traditional Villages in Samoa: the Cultural, Social, and Religious Challenges (PDF) (PhD). Victoria University of Wellington. 2022年4月17日閲覧.
  6. ↑ Kanemasu, Yoko; Liki, Asenati (2021-12-01). “'Let fa'afafine shine like diamonds': Balancing accommodation, negotiation and resistance in gender-nonconforming Samoans' counter-hegemony” (英語). Journal of Sociology 57 (4): 806–824. doi:10.1177/1440783320964538. ISSN 1440-7833.
  7. ↑ Dolgoy, Reevan (2000). The Search for Recognition and Social Movement Emergence, Towards an Understanding of the Transformation of the Faafafine of Samoa. University of Alberta (PDF) (Thesis). University of Alberta Library. p. 151. doi:10.7939/r3-ke80-tf82.
  8. ↑ 倉光ミナ子 (2016). “ファアファフィネ:南太平洋・サモアの多様な性”. 天理大学人権問題研究室紀要 19: 49-57、p. 52.
  9. 1 2 3 4 5 6 “伝統文化に根ざす第3の性 男女間を行き来、社会貢献 サモア”. 47NEWS. 2026年8月11日閲覧。
  10. ↑ 倉光ミナ子 (2016). “ファアファフィネ:南太平洋・サモアの多様な性”. 天理大学人権問題研究室紀要 19: 49-57、p. 53.
  11. 1 2 3 4 Vasey, Paul L; Bartlett, Nancy H (2007). “What Can the Samoan "Fa'afafine" Teach Us about the Western Concept of Gender Identity Disorder in Childhood?” (英語). Perspectives in Biology and Medicine 50 (4): 481–490. doi:10.1353/pbm.2007.0056. ISSN 1529-8795. PMID 17951883.
  12. ↑ Professor, Paul L. Vasey (2022年5月11日). “Stop Imposing Western LGBTQ+ Identities on Non-Westerners. It's Colonialism” (英語). Newsweek. 2026年7月25日閲覧。
  13. ↑ “Fa'afafine claim is a myth, it's offensive” (英語). Yuki Kihara. 2024年4月27日閲覧。
  14. 1 2 Bartlett, N. H.; Vasey, P. L. (2006). “A Retrospective Study of Childhood Gender-Atypical Behavior in Samoan Faʻafafine”. Archives of Sexual Behavior 35 (6): 659–66. doi:10.1007/s10508-006-9055-1. PMID 16909317.
  15. ↑ Perkins, Roberta (March 1994). “Like a Lady in Polynesia”. Polare Magazine (gendercentre.org.au). オリジナルの2013-09-27時点におけるアーカイブ。.
  16. 1 2 3 “Samoa Crimes Act 2013”. www.paclii.org. 2024年12月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2026年4月6日閲覧。
  17. ↑ Semenyna, Scott W.; VanderLaan, Doug P.; Petterson, Lanna J.; Vasey, Paul L. (2017-10-13). “Familial Patterning and Prevalence of Male Androphilia in Samoa” (英語) (PDF). The Journal of Sex Research 54 (8): 1077–1084. doi:10.1080/00224499.2016.1218416. ISSN 0022-4499. PMID 27593894.
  18. ↑ 倉光ミナ子 (2016). “ファアファフィネ:南太平洋・サモアの多様な性”. 天理大学人権問題研究室紀要 19: 49-57、p. 51.
  19. ↑ Saleimoa Vaai, Samoa Faa-matai and the Rule of Law (Apia: The National University of Samoa Le Papa-I-Galagala, 1999).
  20. ↑ Danielsson, B., T. Danielsson, and R. Pierson. 1978. Polynesia's third sex: The gay life starts in the kitchen. Pacific Islands Monthly 49:10–13.
  21. 1 2 Vasey, Paul L.; VanderLaan, Doug P. (2010-08-01). “Avuncular Tendencies and the Evolution of Male Androphilia in Samoan Fa'afafine” (英語). Archives of Sexual Behavior 39 (4): 821–830. doi:10.1007/s10508-008-9404-3. ISSN 1573-2800. PMID 18810630.
  22. ↑ “Shevon Kaio Matai passes away”. Samoa News. 2015年5月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年6月6日閲覧。
  23. ↑ “Faʻafafine want fair and inclusive reporting”. Samoa Observer. 2026年8月11日閲覧。
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  25. 1 2 “Samoa” (2024年12月16日). 2026年8月11日閲覧。
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  40. ↑ Schmidt, Johanna (2021年). “Brother Ken, bro'Town (1st of 3)” (英語). Te Ara: The Encyclopedia of New Zealand. New Zealand Ministry for Culture and Heritage. 2019年2月8日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年10月8日閲覧。
  41. ↑ “Jerry The Fa'afafine”. PIMPI KNOWS. 2026年8月11日閲覧。

参考文献

外部リンク