逆境的小児期体験

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逆境的小児期体験(ぎゃっきょうてきしょうにきたいけん、英語: Adverse Childhood Experiences、ACEs)とは、18歳未満で遭遇した心的外傷を引き起こす可能性のある体験[1]。単に「逆境的体験」と呼称することもある。

1998年のヴィンセント・フェリッティらによる研究(ACE study)に端を発する[2]。身体医学の分野でこのような指摘がなされることはそれまでほぼ皆無であった[3]。アダルトチルドレンや毒親の概念に似た部分はあるが、これらは被害者の主観的認識を重視するのに対し、ACEの概念はあくまで出来事そのものに着目するという違いがある[4]。

Web of Scienceにおける検索結果によれば、2022年10月時点で「Adverse Childhood Experiences」について扱った論文は2500編以上に達した[5]。

概念誕生に至る経緯

1980年代に医者として肥満を担当していたフェリッティは、自らが担当している患者の中に、近親姦の経験者がいることを発見した[6]。そこで、アンケート調査を行って性的虐待と肥満の関連について1990年に学会で発表したところ[7]、出席者からフェリッティの発表に対し激しい反発が巻き起こった[8]。しかし、そこにいたアメリカ疾病予防管理センターの研究員がフェリッティの研究に興味を示したことから、そちらで研究を発表させてもらえることになり[7]、さらにそこで出会ったロバート・アンダとより疫学的な新しい研究をすることにもなり[9][10]、この結果1995年より1997年に至るまでの期間に行われた研究が後にACE研究と呼ばれることになったものである[11]。

種類

古典的なACEの項目

逆境的小児期体験として、以下のような項目が挙げられる。当初は7項目であったが、これに身体的及び心理的なネグレクト及び家族の機能不全として親との離別も含めて10項目とするものが一般に流布している[12]。

児童虐待

親もしくは他の大人からよく罵られたり、非難されたり、嫌がらせを言われたりすること[2]。
親もしくは他の大人からよく押されたり、掴まれたり、突き飛ばされたり、叩かれたりすること[2]。
親もしくは他の大人から性的虐待を受けたり、性犯罪の被害者となること。

機能不全家族

家族内に、アルコール依存症や薬物依存を患っている者がいること[2]。
家族内に、精神疾患を患っている者がいる、または、自殺未遂をした者がいること[2]。
家族内に、ドメスティック・バイオレンス (DV) を受けている者がいること。
家族内に、犯罪により収監されている者がいること[2]。

国際基準における追加項目

2009年に世界保健機関で会議が行われ、アメリカのみならず中国やサウジアラビアなど世界各国の専門家らによる議論の結果、地域によってACEに当たる行為が異なる可能性があることについて合意があった[13]。もともとACEは家庭内で起こるような種類のものに限定して研究が行われていたのだが[14]、世界保健機関が採用しているACE-IQ(逆境的小児期体験国際質問票、Adverse Childhood Experiences International Questionnaire)は、本来のACEの10項目に加え、いじめ、共同体暴力及び集合的暴力の3つを加えた13項目で評価するものとなっている[15]。

影響

ヴィンセント・フェリッティらは1998年に発表した論文において「ACEのピラミッド」と呼ばれるモデルを提唱し、従来考えられていた上二段の構造の下に様々な誘発要因があることを示した[16]。

逆境的小児期体験の影響として、社会的・情動的・認知的な歪みから不健康な行動に及び、病気や障害、社会的な問題を抱えてしまうことによって、最終的に早死にすることになる[2]。

また、自殺企図のリスクと逆境的小児期体験のスコアの高さとの関連も複数の研究で認められている[17]。

脚注

  1. ↑ Adverse Childhood Experiences (ACEs) Centers for Disease Control and Prevention (CDC, アメリカ疾病予防管理センター)
  2. 1 2 3 4 5 6 7 Felitti, V. J., Anda, R. F., Nordenberg, D., Williamson, D. F.,Spitz, A. M., Edwards, V., Koss, M. P., & Marks, J. S. (1998)."Relationship of childhood abuse and household dysfunction to many of the leading causes of death in adults: The Adverse Childhood Experiences (ACE) Study."American Journal of Preventive Medicine, 14, 245-258.
  3. ↑ 三谷 2023, p. 40.
  4. ↑ 三谷 2023, p. 25.
  5. ↑ 三谷 2023, p. 16.
  6. ↑ 若林 2024, p. 70.
  7. 1 2 若林 2024, p. 71.
  8. ↑ 三谷 2023, p. 33.
  9. ↑ 三谷 2023, pp. 33–34.
  10. ↑ 若林 2024, pp. 71–72.
  11. ↑ 三谷 2023, p. 34.
  12. ↑ 若林 2024, p. 72.
  13. ↑ 若林 2024, pp. 40–41.
  14. ↑ 若林 2024, p. 21.
  15. ↑ Kascakova, Natalia; Furstova, Jana; Hasto, Jozef; Tavel, Peter (2025). “Associations of multiple adverse childhood experiences, attachment insecurity and loneliness with physical and mental health difficulties in a representative Slovak sample”. Preventive Medicine Reports. 50 102982. doi:10.1016/j.pmedr.2025.102982. PMID 39901935.
  16. ↑ 若林 2024, p. 77.
  17. ↑ 若林 2024, p. 76.

参考文献

  • 若林巴子『子どもの「逆境」を救え ACE(小児期逆境体験)を乗り越える科学とケア』日本評論社、2024年。ISBN 978-4-535-56426-8。 
  • 三谷はるよ『ACEサバイバー――子ども期の逆境に苦しむ人々』筑摩書房、2023年。ISBN 978-4-480-07551-2。 

関連項目

外部リンク