上訴

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上訴(じょうそ)とは、訴訟法上の法律用語で、裁判に対する不服を理由として当該裁判の確定を遮断して(確定遮断効)上級の裁判所に新たな裁判を求める(移審効)不服申立てのことを言う。

憲法の裁判を受ける権利を具体化した制度の一つであるが、必ずしも常に認められるわけではなく、上訴の利益などの実体的要件や期間などの形式的要件を遵守することが必要であり、濫用的な行使には過料などの制裁が加えられることがある。また、前述の定義上、最上級の裁判所の裁判に対する上訴は観念し得ない。

上訴に似て非なるもの

異議
移審効を有しないので上訴ではない。
特別上訴(特別上告及び特別抗告)及び非常上告
確定遮断効を有しないので上訴ではない。
再審の請求
確定遮断効を有せず、(そもそも完全に別の手続であるという意味で)移審効も有しないので上訴ではない[1]。
準抗告
簡易裁判所の裁判官の命令に対するものは上訴であるが、検察官、検察事務官又は司法警察職員の処分に対するものは、裁判に対して為されるものではないから上訴ではない[2]。地方裁判所の裁判官の命令に対する準抗告は上級裁判所に対するものではないことから、上訴には該らない(あたらない、あてはまらない)ということになるのであろうか。

上訴の種類

第一審判決に対する上訴

控訴審判決に対する上訴

決定又は命令に対する上訴

  • 抗告(ただし抗告を認めず、事実上は一審制となっている手続もある。なお、日本国憲法は裁判に少なくとも二審制、あるいは三審制を保障していると言われている。)
  • 準抗告(前述のように上訴の性質を有するのはその一部だけ)
  • (許可抗告について、確定遮断効がないとするのが実務の取り扱いであり上訴でないと、確定遮断効を肯定する説に立つ場合は上訴といえる。)
  • (前述のように特別抗告は上訴ではない)

上訴の構造

審判の方法

上級審と下級審(原審)との間の関係(特に事実審における証拠の取り扱い)から以下のように分類される。

  • 覆審制
    上級審で、下級審とは無関係に訴訟資料を集め、これに基づいて事件の審理をやりなおすこと[3]。下級審における証拠採用などはリセットされ、原則として、全ての証拠は再提出の扱いとなるため、下級審での審判の意味がなくなることから、純粋な覆審制は近代の訴訟制度ではほとんど採用されていない。
  • 続審制
    下級審の審理を基礎としながら、上級審においても新たな訴訟資料の提出を認めて事件の審理を続行して判決をすること[4]。下級審における訴訟資料を上級審がその訴訟資料として承継した上、更に新しい訴訟資料も補充して審理される。ただし、この場合、新たな証拠等の提出は下級審から通算し、内容によっては「時宜に遅れた攻撃防御方法」と評価されうる。日本の民事訴訟の控訴審において採用されている。
  • 事後審(審査審)制
    原判決の当否を事後的に審理すること。通常、法令違反、事実誤認の有無などについて審査する[5]。すなわち、上訴審が自ら審理を継続して新しく心証を形成するのではなく、原審の記録を基に、原則として原裁判時を標準に原裁判の当否を事後的に審査する。したがって、新たな証拠等は裁判官が必要と判断した場合のみに求められ、上訴者による新たな主張は制限される。日本の民事訴訟の上告審、刑事訴訟の控訴審及び上告審において採用されている。

上訴審判決又は決定

上訴審においては以下のとおりの判決又は決定がなされる。

民事訴訟

控訴審
  • 控訴却下判決
    控訴の要件が欠け、控訴が不適法な場合は、控訴を却下する判決をする(民訴290条)。訴訟判決である。
  • 控訴棄却判決
    原判決が相当であって、控訴に理由がないときは、控訴を棄却する判決をする(民訴302条)。本案判決である。
  • 控訴認容判決
    原判決が不当であるとき(民訴305条)及び第1審の判決の手続が法律に違反したとき(民訴306条)は、控訴に理由があるから、原判決を取り消さなければならない。控訴を認容する本案判決である。
    その上で、控訴裁判所は、続審であるので下級審における訴訟資料に加え新しい訴訟資料も補充して事実関係を判定し、原則として自ら訴えに対する判断をする(取消自判)。
    ただし、原判決が訴え却下判決であった場合は、事件を原裁判所に差し戻さなければならない(民訴307条)。その他、例外的に第1審から審理しなおす必要があるときは原裁判所に差し戻すことができる(民訴308条①)。
上告審
  • 上告却下決定
    上告の要件が欠け、上告が不適法な場合は、上告を却下する決定をする
    • 原裁判所の決定による場合(民訴316条)。主に上告手続きに不備がある場合であるが、同決定に対しては即時抗告が可能である。
    • 上告裁判所の決定による場合(民訴317条)。現裁判所における決定同様、上告手続きに不備がある場合であるが、その他、明らかに上告理由がない場合(民訴312条)も却下できる(民訴326条②の類推解釈)。
  • 上告棄却判決
    上告を理由がないと認めるときは、判決で上告を棄却する(民訴319条)。
  • 上告認容判決
    上告裁判所は、上告理由があるときは、原判決を破棄。事後審であって事実関係に関して十分な審議を行なっていないため、原則として事件を原裁判所に差し戻す(破棄差戻し、民訴325条①)。上告理由がない場合であっても、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反があるときも同様である(同条②)。
    ただし、原審が確定した事実は適法であるが、原審の法令解釈を誤りを理由に原判決を破棄する場合であって、さらに事実審理をする必要がない場合(民訴326条①)、裁判権がないことを理由に原判決を破棄し、訴えを却下する場合(同②)、破棄自判をしなければならない。

刑事訴訟

控訴審
  • 控訴棄却決定
    控訴裁判所は、控訴の申立てが法令上の方式に違反するとき若しくは控訴権の消滅後にされたとき、又は控訴理由がないときは、決定で控訴を棄却する(刑訴385条・386条)。これら決定に対しては、刑訴法第428条②の異議の申立(即時抗告に準じる)をすることができる。
  • 控訴棄却判決
    控訴裁判所は、本案を判断した後、控訴申立てが法令上の方式に違反する場合または控訴権消滅後の申立てである場合(刑訴395条)、控訴理由を審理した結果、刑訴法377条から383条までの法定控訴理由が認められないとき(刑訴396条)、判決で控訴を棄却する。
  • 破棄判決
    控訴裁判所は、刑事訴訟法377条から382条及び388条に定められた控訴理由があるときは、判決で原判決を破棄する(刑訴397条①)。これを「1項破棄」という。
    控訴裁判所が、職権で、第1審判決後の情状について事実の取調べをした結果、原判決を破棄しなければ明らかに正義に反すると認めるときは、判決で原判決を破棄することができる(同条②)。これを「2項破棄」という。
    刑事訴訟の控訴裁判所は、事後審であって事実関係に関して十分な審議を行なっていないため、原判決を破棄するときは、原則として原裁判所に差し戻す(破棄差戻し)。ただし、訴訟記録及び既に取り調べた証拠によって直ちに判決することができるときは、自ら判決することができる(破棄自判。刑訴400条)。
上告審
  • 上告棄却決定及び判決
    上告棄却については、刑訴414条により控訴審に準じ決定又は判決をもって行う。また、弁論を経ないで、判決で上告を棄却することができる(刑訴408条)。
  • 破棄判決
    刑訴410条に破棄すべき事由、同411条に破棄可能である事由が列挙されており、これに該当する場合は原審に差し戻すか移送することになるが、直ちに判決を下せる場合は自判もできる(破棄自判。刑訴413条)。

審判におけるルール

  • 差戻し判決において下級裁判所は上級裁判所の判断に従わなければならない(裁判所法4条、民訴法325条③、刑訴法413条)。
    拘束の範囲
    拘束されるのは、破棄の理由とした判断、およびそれの論理的前提として明らかに考慮された事項。したがって、破棄理由と無関係な争点については、差戻しを受けた下級審は原則として自由に審理・判断できる。この拘束力の根拠については、既判力と構成する見解が有力とされる[6]。
  • 不利益変更禁止の原則
    • 刑事裁判の場合、原判決の刑より重くしてはならない(被告人や弁護人が上訴した場合。検察官が上訴したときは重くしてもよい)。
    • 民事事件の場合、損害賠償判決の棄却又は減額を求める上訴に増額する判決や、損害賠償額の増額を求める上訴に減額する判決は、相手方の対抗する上訴がない限りすることはできない。

検察官の控訴・上告

検察官も被告人と同じく控訴又は上告をすることができる。

無罪判決に対する検察官の上訴は日本国憲法第39条の一事不再理ないし二重の危険により禁止されるとの見解があるが、日本の判例・通説では一審も控訴審も上告審も継続する一つの危険として禁止されないとの立場をとっている[7]。

英米法においては古くから事実審の公判審理を一つの危険と考えており、無罪の評決は事件に対する最終判断であり、それに対して上訴はできないとしている。

冤罪疑惑があったことで、検察官の上訴が問題となった事件

弘前大学教授夫人殺人事件
一審で無罪。検察が上訴し、最高裁で懲役15年が確定。その後、別人が真犯人だと名乗り出たため、再審無罪となった。
八海事件
第二次二審で無罪。検察が上訴し、第三次二審で有罪になるも、第三次最高裁で無罪が確定。
名張毒ぶどう酒事件
一審で無罪[8]。検察が上訴し、最高裁で死刑が確定[9][10]。
甲山事件
一審で無罪[11][12]。検察が上訴するも、無罪が確定[13][14]。
東電OL殺人事件
一審で無罪[15]。検察が上訴し、最高裁で無期懲役が確定[16]。後に再審無罪となった[17][18][19]。

下級審の無罪判決が世論、マスコミなどから問題視され、検察官の上訴が余り問題視されなかった事件

森永ヒ素ミルク中毒事件
一審では企業関係者全員無罪。検察が上訴し、工場元製造課長1人のみ有罪確定。
リクルート事件
元官房長官に対して一審で無罪。検察が上訴し、最高裁で有罪確定[20]。
薬害エイズ事件
元大学医学部長に対して一審で無罪[21][22]。検察が上訴するも、公判中に認知症を患い公判停止となった後で被告人が死亡して公訴棄却[23][24][25]。
ルーシー・ブラックマン事件
一審では他9件の類似事件を有罪とするも当事件で無罪[26]。検察が上訴し、当事件について最高裁で一部有罪確定[27][28]。
羽賀研二未公開株詐欺事件
羽賀研二らに対して一審で無罪[29][30]。検察が上訴し、二審で有罪判決[31]。最高裁で有罪確定[32]。

また、付審判制度や検察審査会強制起訴制度で下級審が無罪判決について上訴することは同様に余り問題視されていない。

参考文献

  • 高野隆 (2007年5月14日). “二重の危険”. 刑事裁判を考える:高野隆@ブログ. 2008年10月5日閲覧。

脚注

  1. ↑ 「18年前の殺人事件で再審請求 福井の元受刑者の男性」『朝日新聞』朝日新聞社、2004年7月15日。オリジナルの2004年7月15日時点におけるアーカイブ。2026年2月14日閲覧。
  2. ↑ “(5)裁判官による処分に対する準抗告認容件数” (PDF). 日本弁護士連合会. 2026年2月14日閲覧。
  3. ↑ デジタル大辞泉『覆審』 - コトバンク
  4. ↑ デジタル大辞泉『続審』 - コトバンク
  5. ↑ 精選版 日本国語大辞典『事後審』 - コトバンク
  6. ↑ ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典『差戻し』 - コトバンク
  7. ↑ 最高裁判所大法廷判決 1950年9月27日 、昭和24(新れ)22、『昭和二二年勅令第一号違反、衆議院議員選挙法違反』。
  8. ↑ 『朝日新聞』1964年12月23日名古屋夕刊第5版第一総合面1頁「【津】毒ブドウ酒事件 津地裁 奥西被告に無罪判決 “証拠が不十分”」「どの証拠にも疑問」「真犯人わからぬ 奥西さん記者会見」(朝日新聞名古屋本社)
  9. ↑ 『朝日新聞』1969年9月10日名古屋夕刊第5版第一総合面1頁「名張毒ブドウ酒事件控訴審 “無罪”破棄、奥西に死刑 名高裁判決 自供、信用できる 証拠の取捨に誤り 「歯型」を黒と断定」「毒物混入 検察主張認める」(朝日新聞名古屋本社)
  10. ↑ 『朝日新聞』1972年6月15日名古屋夕刊第3版第一総合面1頁「名張毒ブドウ酒事件 奥西の死刑確定 最高裁判決」(朝日新聞名古屋本社)
  11. ↑ 『朝日新聞』1985年10月17日 夕刊 1総1頁「甲山学園園児殺害、保母に無罪判決 疑わしい園児証言、自白も不自然 神戸地裁」(朝日新聞東京本社)
  12. ↑ 『朝日新聞』1985年10月17日 夕刊 1社19頁「甲山事件無罪判決 汚名11年、やっと区切り」(朝日新聞東京本社)
  13. ↑ 「甲山事件:大阪高検が上告を断念 元保母・山田さん無罪確定へ」『毎日新聞』毎日新聞社、1999年10月7日。オリジナルの2001年2月23日時点におけるアーカイブ。2025年6月3日閲覧。
  14. ↑ 「甲山事件:山田さんの無罪確定 大阪高検が上訴権を放棄」『毎日新聞』毎日新聞社、1999年10月8日。オリジナルの2001年2月18日時点におけるアーカイブ。2025年6月3日閲覧。
  15. ↑ 「東電OL殺人事件:ネパール人の被告に無罪 東京地裁」『毎日新聞』毎日新聞社、2000年4月14日。オリジナルの2001年4月17日時点におけるアーカイブ。2026年2月14日閲覧。
  16. ↑ 「東電社員殺害事件:マイナリ被告に逆転有罪判決 東京高裁」『毎日新聞』毎日新聞社、2000年12月22日。オリジナルの2001年1月26日時点におけるアーカイブ。2026年2月14日閲覧。
  17. ↑ 「ネパール人受刑者、高裁に再審請求…東電OL殺害事件」『読売新聞』読売新聞社、2005年3月24日。オリジナルの2005年3月24日時点におけるアーカイブ。2026年2月14日閲覧。
  18. ↑ 「マイナリさんの再審無罪確定 検察側が上訴権を放棄」『朝日新聞』朝日新聞社、2012年11月7日。オリジナルの2012年11月8日時点におけるアーカイブ。2026年2月14日閲覧。
  19. ↑ 「「僕とネパール人に謝って」無罪確定のマイナリさん会見」『朝日新聞』朝日新聞社、2012年11月8日。オリジナルの2012年11月8日時点におけるアーカイブ。2026年2月14日閲覧。
  20. ↑ 「リクルート事件:政界ルートで受託収賄罪の藤波被告、上告棄却」『毎日新聞』毎日新聞社、1999年10月21日。オリジナルの2001年2月18日時点におけるアーカイブ。2026年2月14日閲覧。
  21. ↑ 「薬害エイズ裁判:安部被告に無罪 過失責任不問 東京地裁」『毎日新聞』毎日新聞社、2001年3月28日。オリジナルの2001年8月3日時点におけるアーカイブ。2025年6月19日閲覧。
  22. ↑ 「薬害エイズ裁判:安部被告に安どの色 傍聴席からは怒声飛ぶ」『毎日新聞』毎日新聞社、2001年3月28日。オリジナルの2002年4月14日時点におけるアーカイブ。2025年6月19日閲覧。
  23. ↑ 「特報・薬害エイズ:安部被告の無罪判決 東京地検が控訴方針」『毎日新聞』毎日新聞社、2001年3月29日。オリジナルの2001年11月9日時点におけるアーカイブ。2025年6月19日閲覧。
  24. ↑ 「薬害エイズ1審無罪の安部英・元帝京大副学長が死去」『読売新聞』読売新聞社、2005年4月28日。オリジナルの2005年4月29日時点におけるアーカイブ。2025年6月19日閲覧。
  25. ↑ 「薬害エイズ事件 安部英被告が死亡」『東京新聞』中日新聞東京本社、2005年4月28日。オリジナルの2005年4月28日時点におけるアーカイブ。2025年7月8日閲覧。
  26. ↑ “ルーシー・ブラックマンさん事件の○○被告に無期懲役 - 東京”. AFPBB. フランス通信社. 2007年4月24日. 2019年2月18日時点のオリジナルよりアーカイブ. 2019年2月18日閲覧.
  27. ↑ “ルーシーさん事件控訴審、○○被告に無期懲役 「致死」は認めず”. AFPBB. フランス通信社. 2008年12月16日. 2019年2月18日時点のオリジナルよりアーカイブ. 2019年2月18日閲覧.
  28. ↑ 伊藤一郎「ルーシーさん事件:○○被告の無期懲役確定へ」『毎日新聞』毎日新聞社、2010年12月9日。オリジナルの2010年12月15日時点におけるアーカイブ。2019年2月18日閲覧。
  29. ↑ 「羽賀研二、渡辺二郎両被告に無罪判決 詐欺と恐喝未遂罪で 大阪地裁 (1/2ページ)」『MSN産経ニュース』産業経済新聞社、2008年11月28日。オリジナルの2008年12月1日時点におけるアーカイブ。2011年7月6日閲覧。
  30. ↑ 「羽賀研二、渡辺二郎両被告に無罪判決 詐欺と恐喝未遂罪で 大阪地裁 (2/2ページ)」『MSN産経ニュース』産業経済新聞社、2008年11月28日。オリジナルの2008年12月1日時点におけるアーカイブ。2011年7月6日閲覧。
  31. ↑ 「羽賀研二被告に逆転有罪、懲役6年 大阪高裁」『日本経済新聞』日本経済新聞社、2011年6月17日。オリジナルの2025年5月22日時点におけるアーカイブ。2025年5月22日閲覧。
  32. ↑ 「羽賀研二・渡辺二郎両被告の実刑確定へ 上告棄却」『日本経済新聞』日本経済新聞社、2013年4月1日。オリジナルの2024年9月25日時点におけるアーカイブ。2025年1月15日閲覧。

関連項目

外部リンク