グレテル・アーリック
グレテル・アーリック | |
|---|---|
| Gretel Ehrlich | |
| 生誕 |
1946年1月21日(80歳) |
| 住居 | ワイオミング州、カリフォルニア州 |
| 国籍 |
|
| 出身校 | ベニントン大学、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)映画学科 |
| 職業 | 作家、エッセイスト、詩人 |
| 活動期間 | 1978年 - |
| 著名な実績 | ネイチャーライティング、アメリカ西部やグリーンランドを題材とするエッセイ |
| 代表作 |
『やすらかな大地』(The Solace of Open Spaces, 1985年) 『This Cold Heaven: Seven Seasons in Greenland』(2001年) |
| 影響を受けたもの | ヘンリー・デイヴィッド・ソロー、ウォルト・ホイットマン、ウォレス・ステグナー |
| 活動拠点 | ワイオミング州、カリフォルニア州 |
| 配偶者 | プレス・スティーヴンス(離婚)、ニール・コナン(2019年 - 2021年、死別) |
| 受賞 | ハロルド・D・ヴァーセル記念賞(1986年)、ホワイティング賞(1987年)、グッゲンハイム・フェローシップ、ソロー賞(2010年) |
グレテル・アーリック(en:Gretel Ehrlich、1946年1月21日 - )は、アメリカ合衆国の作家、エッセイスト、詩人。ワイオミング州での牧場暮らしを描いた1985年のエッセイ集『やすらかな大地』(The Solace of Open Spaces)で知られ、以後もグリーンランドや中国、日本など世界各地の風土と人間の関わりを主題とする作品を発表し続けている、現代アメリカにおける代表的なネイチャーライティング作家の一人である[1][2]。
生涯・経歴
アーリックは1946年1月21日、カリフォルニア州サンタバーバラ近郊の牧場で生まれた[1]。ベニントン大学とカリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)の映画学科で学び、卒業後は10年近くにわたりPBS向けのドキュメンタリー映画制作に携わった[2][3]。
1976年、羊飼いたちを描いたPBSのドキュメンタリー撮影のためニューヨークからワイオミング州ビッグホーン山地へ赴いたが、その間に交際相手が病を得て急逝した[4]。悲しみの中でアーリックはワイオミングを離れられず、牧場労働者・羊飼いとして働きながら定住し、1978年から本格的に文筆活動に専念するようになった[4][3]。
この時期の体験をもとに5年をかけて執筆したのが、日記や友人への手紙を土台とする12編のエッセイからなる『やすらかな大地』(The Solace of Open Spaces、1985年)であり、これが実質的な作家デビュー作となった[5][4]。
同書はアメリカ文学芸術アカデミー(en:American Academy of Arts and Letters)よりハロルド・D・ヴァーセル記念賞を受け、翌1987年にはホワイティング賞(en:Whiting Awards)のノンフィクション部門を受賞するなど高く評価された[4]。同書は1993年に明石三世の翻訳により『やすらかな大地』の邦題で東京書籍「シリーズ・ナチュラリストの本棚」の一冊として日本語版が刊行されている[6]。
1988年には、第二次世界大戦中に日系人が強制収容されたワイオミング州ハートマウンテンの収容所を題材とする初の長編小説『Heart Mountain』を発表した[7]。
1991年には、科学的観察と精神的・神秘的な視点とを織り交ぜたエッセイ集『Islands, the Universe, Home』を刊行し、代表作の一つとなった[8]。
同じ1991年、アーリックはワイオミングの自宅牧場を歩いている最中に落雷に遭い重傷を負い、以後数年間にわたり療養生活を送ることになった[3]。 この経験は1994年の回想録『A Match to the Heart: One Woman's Story of Being Struck by Lightning』に綴られている[3]。
1993年以降、アーリックはグリーンランドへ繰り返し渡航するようになり、デンマーク系イヌイットの探検家クヌート・ラスムッセンの探検記録も参照しながら、現地イヌイットの狩猟生活や文化を描いた『This Cold Heaven: Seven Seasons in Greenland』を2001年に発表した[9][10]。同書はPENニューイングランド支部よりソロー賞(2010年、優れたネイチャーライティング作家を対象とする賞)を受けている[3]。
アーリックは英国の芸術家・気候変動プロジェクト「Cape Farewell」の設立メンバーの一人でもあり、振付家シオバン・デイヴィスとの共同制作による詩劇をロンドンのサウスバンク・センターで上演するなど、他分野の芸術家との協働も行ってきた[11][3]。
2011年の東日本大震災後の日本を取材した『Facing the Wave: A Journey in the Wake of the Tsunami』(2013年)は全米図書賞ノンフィクション部門のロングリストに選ばれ、PEN USA賞(ノンフィクション部門)を受賞した[3]。
私生活では、NPRの看板番組「Talk of the Nation」の司会者を長年務めたジャーナリスト、ニール・コナンと晩年をともにし、2019年に結婚した[12]。コナンは2021年8月、脳腫瘍のため71歳で死去した[12]。
2021年には、自身初のエッセイ集『やすらかな大地』の「対になる書物("bookend")」と位置づけた回想録『Unsolaced: Along the Way to All That Is』を発表し、四十年近くに及ぶワイオミング州、グリーンランド、アフリカなどでの経験を振り返りながら、気候変動によって失われつつある風景と人々の営みを描いた[13][14]。
文学的活動
アーリックはノンフィクション・エッセイのほか、小説、詩、伝記、児童書など幅広いジャンルで著書を発表しており、『ハーパーズ・マガジン』『アトランティック』『タイム』『ライフ』『ナショナルジオグラフィック』『アウトサイド』など多数の雑誌に寄稿してきた[1]。
その文体は、「動植物や気象、地質といった具体的で科学的な自然観察と、瞑想的・時に神秘的とも評される個人的な語りとを融合」させる点に特徴があるとされ[8]、批評家からはしばしばヘンリー・デイヴィッド・ソローやウォルト・ホイットマンの系譜に連なるネイチャーライターとして紹介される[15]。
またアーリックは、スタンフォード大学で教鞭を執った作家ウォレス・ステグナー(en:Wallace Stegner)が薫陶を与えた作家の一人でもあり、同じくステグナーの影響下にあるとされるテリー・テンペスト・ウィリアムスやエドワード・アビーらと並び称されることがある[16]。
主な著書
- The Solace of Open Spaces
- (邦訳:『やすらかな大地』、明石三世訳、東京書籍、1993年)、Viking、1985年
- Heart Mountain、Viking、1988年
- Islands, the Universe, Home、Viking、1991年
- A Match to the Heart: One Woman's Story of Being Struck by Lightning、Pantheon、1994年
- Questions of Heaven: The Chinese Journeys of an American Buddhist、Beacon Press、1997年
- A Blizzard Year: Timmy's Almanac of the Seasons、Hyperion、2000年
- John Muir: Nature's Visionary、National Geographic Society、2000年
- This Cold Heaven: Seven Seasons in Greenland、Pantheon、2001年
- The Future of Ice: A Journey Into Cold、Pantheon、2004年
- In the Empire of Ice: Encounters in a Changing Landscape、National Geographic Society、2010年
- Facing the Wave: A Journey in the Wake of the Tsunami、Pantheon、2013年
- Unsolaced: Along the Way to All That Is、Pantheon、2021年
受賞・栄誉
思想・考え方
アーリックの文学的な核にあるのは、人間の内面と外部の風土とのあいだに明確な境界を認めない世界観である。
彼女の代表作『やすらかな大地』は、ワイオミングの牧童や羊飼いといった人々の暮らしを描きながら、都市的な性別役割分担とは異なる、環境の過酷さによって形づくられた両性具有的な労働倫理を浮かび上がらせており、批評家からは西部の男性中心的なネイチャーライティングの系譜に新たな視点を持ち込んだ作品として位置づけられている[5]。
続く『Islands, the Universe, Home』では、負傷や喪失からの回復といった個人的な経験を、季節の巡りや動物の営みといった自然界の秩序と重ね合わせる手法がとられており、科学的な観察眼と瞑想的・宗教的な感受性とを同居させる作風がいっそう明確になった[8][17]。
1991年の落雷事故とその後の療養体験を経て、アーリックの関心は東洋思想や仏教的な視点へも広がり、日本や中国を舞台とする紀行的作品にもつながっていった[3]。
1990年代以降、グリーンランドのイヌイット社会との長年にわたる関わりのなかで、アーリックは近代化以前からの伝統的な生活様式と、外部の視線がしばしば見落としてきたその知恵とを対比的に描くようになった。彼女は、集団としての助け合いを前提とするイヌイット社会の倫理を、都市生活における個人主義的な価値観と対比させながら論じている[18]。
2000年代以降の著作では、こうした土地に根ざした生の営みへの関心が、気候変動によって失われつつある景観や生活様式への危機感と結びつくようになる。『Unsolaced』では、氷に依存して生きる人々や乾燥化の進むアフリカの牧畜民の姿を通じて、環境の激変が人間社会に及ぼす影響を描き出しており、評者からは自然描写の巧みさが評価される一方、気候変動そのものの分析については踏み込みが浅いとする指摘もなされている[14][13]。
関連項目
外部リンク
脚注
- 1 2 3 “Gretel Ehrlich | List of Writers | Sowell Collection”. Texas Tech University. 2026年9月6日閲覧。
- 1 2 3 “Gretel Ehrlich | Whiting Foundation”. Whiting Foundation. 2026年9月6日閲覧。
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 “Gretel Ehrlich '67”. Bennington College. 2026年9月6日閲覧。
- 1 2 3 4 5 6 “Ehrlich, Gretel 1946-”. Encyclopedia.com. 2026年9月6日閲覧。
- 1 2 “The Solace of Open Spaces by Gretel Ehrlich”. EBSCO Research Starters. 2026年9月6日閲覧。
- ↑ “やすらかな大地(シリーズ・ナチュラリストの本棚 ; 5)”. 国立国会図書館サーチ. 2026年9月6日閲覧。
- ↑ “The Solace of Open Spaces: Essays by Gretel Ehrlich — Book Review + Discussion”. 2026年9月6日閲覧。
- 1 2 3 “Gretel Ehrlich | The Marginalian”. 2026年9月6日閲覧。
- ↑ “Gretel Ehrlich - Powell's Books”. 2026年9月6日閲覧。
- ↑ “'This Cold Heaven'”. NPR (2001年12月21日). 2026年9月6日閲覧。
- ↑ “GRETEL EHRLICH — Darhansoff & Verrill Literary Agents”. 2026年9月6日閲覧。
- 1 2 “Neal Conan, who talked (and listened) to the nation on NPR and contributed to Hawaii Public Radio, dies at 71”. Honolulu Star-Advertiser. 2026年9月6日閲覧。
- 1 2 “UNSOLACED | Kirkus Reviews”. 2026年9月6日閲覧。
- 1 2 “What Gretel Ehrlich Gets Wrong About Climate Change”. Outside Online (2022年5月12日). 2026年9月6日閲覧。
- ↑ “Gretel Ehrlich, Interviewed by Pico Iyer”. Tricycle. 2026年9月6日閲覧。
- ↑ “Wallace Stegner and the American West”. Rain Taxi (2014年4月18日). 2026年9月6日閲覧。
- ↑ “Islands, the Universe, Home”. Publishers Weekly. 2026年9月6日閲覧。
- ↑ “Gretel Ehrlich Interview (This Cold Heaven)”. Identity Theory (2001年12月28日). 2026年9月6日閲覧。