ドゥームスクロール

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スマートフォンでニュースをスクロールする人の手の写真
スマートフォンでニュースをスクロールしている様子

ドゥームスクロール(英: doomscrolling)またはドゥームサーフィン(英: doomsurfing)とは、否定的な感情を喚起するデジタルコンテンツ(短尺コンテンツ(英語版)、ユーザー生成コンテンツ、AI生成コンテンツ、ニュースなど)の閲覧・視聴に過度の時間を費やす行為を指す[1]。この用語は2018年頃に登場し、新型コロナウイルス感染症 (COVID-19) のパンデミックを背景に広く知られるようになった。世界保健機関 (WHO) は、パンデミックに伴って誤解を招く情報、陰謀論、虚偽の情報が広範に流布したことを指摘し、これを「インフォデミック」と称した[2]。

調査や研究によると、ドゥームスクロールは特に若年層に多く見られ[3][4]、とりわけ男性、政治的な出来事を積極的に追っている人々に多い傾向がある[5]。インターネット依存症の一形態とみなされることもある。この行動の背景には、ネガティビティ・バイアス、FOMO(fear of missing out、取り残されることへの恐れ)、不安の高まり、不確実な状況をコントロールしたいという欲求などがあるとされる。

歴史

起源

「ドゥームスクロール」という行為は、1970年代に注目されたミーンワールド症候群と比較される。この現象は「テレビで暴力的な映像を長時間視聴することによって、世界を実際よりも危険で敵対的な場所だと感じるようになる」というものである[6]。研究によれば、否定的なニュースを目にすると人はさらに情報を求めて検索や閲覧を繰り返す傾向があり、これが自己増幅的なサイクルを生むとされている[7]。

"doom" は「破滅」や「運命」を意味し、日常的な語感としては暗闇や邪悪さを含意する。"surfing" はインターネット黎明期においてウェブ閲覧を指す一般的な動詞であり、"scrolling" も同様に、オンラインコンテンツを連続して閲覧する行為を指す[1]。「doomscrolling」はメリアム=ウェブスターの「ウォッチリスト」に3年間掲載されたのち、2023年9月に正式な英単語として採録された[8]。Dictionary.comも2020年8月に同語を月間トレンドの首位に選出し[9]、『マッコーリー辞典(英語版)』も同年の編集委員会選定ワード・オブ・ザ・イヤーに選んでいる[10]。

普及

この用語の起源は定かではない。記録上最も古い使用例は、2018年10月7日にカラ・マウンケスが投稿したツイートである[11][12]。翌8日にはアシク・シディク(英語版)も別の投稿で使用しており[12]、シディクがこの語の考案者とされることもあるが[13]、実際の造語者は特定されていない[12]。この語は2020年代初頭にかけて[14]、COVID-19のパンデミック、ジョージ・フロイド抗議運動、2020年のアメリカ大統領選挙、2021年のアメリカ合衆国議会議事堂襲撃事件、2022年に始まったロシアによるウクライナ侵攻[15]、2023年に始まり後に中東危機へと発展したガザ戦争[16][17]といった出来事を通じて広まっていった。これらの出来事はいずれも、ドゥームスクロールを助長したと指摘されている[1][18][19]。ドゥームスクロールはCOVID-19のパンデミック中にTwitter利用者の間で広く見られるようになり[20]、気候危機との関連でも論じられている[21]。

COVID-19のパンデミック中には、モバイル端末が主要な通信手段となり、「社会にとって主要な、しかも依存性を伴うライフライン」と呼ばれるほど重要な存在になったとする見方がある。モバイル端末は、「警察による暴力、誤情報、政治的不安」に関するニュースを得る手段としても利用された[22]。こうしたニュースの消費には、最新情報を速やかに入手したいという欲求と、ときには情報から距離を置きたいという欲求との相反が表れていた。利用者は、情報を素早く得る必要がある一方で、ニュースに接する量を自ら調整するために、あえて情報を避けることもあるというジレンマに直面したのである[23]。

モーニング・コンサルトが2024年に実施した調査では、アメリカの成人の約31%が定期的にドゥームスクロールを行っているという結果が出た。この割合は若年層ほど高く、ミレニアル世代(1980年代〜1990年代初頭生まれ)で46%、Z世代(1990年代後半〜2010年代初頭生まれ)で51%に上る[3]。一方、ドゥームスクロールに関する研究では、当初この用語を知らなかった参加者の中にも、自分自身や周囲の人々の行動に当てはまると認識した人がいたことが報告されている。このことから、用語や概念に対する認識と実際の行動との間に乖離があることがうかがえる[5]。

無限スクロール

無限スクロールとは、利用者が下方向にスクロールするのに合わせてコンテンツを連続的に読み込む設計手法であり、ページネーション(英語版)(ページ分割)を不要にするものである。そのため、利用者が手を止めるきっかけとなる自然な区切りがなくなり、ドゥームスクロールを助長する可能性がある[24]。また、ソーシャルメディアのプラットフォームが否定的なコンテンツを増幅させる傾向によって、スクロールを続ける行動がさらに強まり、利用者が否定的なニュースに長時間接し続ける可能性も研究で指摘されている[25]。さらに、ドゥームスクロールは、デジタルニュースを提供するプラットフォームの運営上のインセンティブとも関連づけられている。こうしたプラットフォームでは、ゲーム的な要素を取り入れたインタフェースや、自動化された、あるいはアルゴリズムに基づく推薦システムなどを用いて利用者の関心を維持し、サービスの利用時間を延ばそうとしている[23]。

エイザ・ラスキンは、ウェブページのページ分割に代えて、下方向にスクロールするにつれてコンテンツを連続的に読み込む方式を導入したことから、無限スクロールの考案者とされることがある[26]。ラスキンは後にこの発明を後悔していると表明し、「単に利用者を助けるためだけでなく、意図的に利用者を可能な限り長くオンラインに留まらせるために設計された最初期の製品の一つ」と述べている[27]。ユーザビリティに関する研究では、無限スクロールがアクセシビリティ上の問題を引き起こす可能性も指摘されている[26]。また、利用者が操作を中断するきっかけとなる手がかりの欠如は、スマートフォン依存症やソーシャルメディアの問題のある使用につながる要因の一つとして論じられている[28][29]。

ソーシャルメディアの役割

ソーシャルメディア企業は、利用者のエンゲージメントを最大化するよう設計されたアルゴリズムを活用することで、ドゥームスクロールが続くことに大きな役割を果たしている。これらのアルゴリズムは感情を刺激するコンテンツを優先し、利用者にスクロールを続けさせるため、否定的なニュースや扇情的な見出しを優先的に表示する傾向がある。研究者らはまた、ドゥームスクロールを、危機が絶え間なく続いているという感覚「パーマクライシス(英語版)」とも関連づけている。苦痛を伴うニュースに絶えずさらされることで、否定的な情報を繰り返し閲覧する循環が生じるとされる[5]。キプロス工科大学(英語版)による2022年の研究では、プラットフォーム主導のニュース環境が、急速に展開する影響の大きいニュースをますます重視するようになっており、それによって情報を繰り返し確認する行動や長時間のスクロールが強まっていると指摘された[30]。

多くのソーシャルメディアプラットフォームのビジネスモデルは、利用者のエンゲージメントに大きく依存している。利用者の滞在時間が長いほど、表示される広告が増え、行動に関するデータも多く収集される。その結果、否定的な情報や不安を喚起する情報など、強い感情を引き起こすコンテンツが繰り返し表示され、利用者が閲覧を続けるよう促される循環が生じる。ドゥームスクロールがメンタルヘルスに及ぼす悪影響は広く報告されているものの、ソーシャルメディア企業にはこうした方法で利用者のエンゲージメントを維持する誘因があり、利用者がこの習慣を断ち切ることを難しくしている[31]。また、ニュースを多く扱うソーシャルメディアやコンテンツを閲覧する際には、プラットフォーム上での利用者の関与の仕組みと相まって、意図せずドゥームスクロールを続けてしまうことがある[32]。

説明

ネガティビティ・バイアス

ドゥームスクロールという行動は、人間が情報に接する際に示すネガティビティ・バイアスによって、部分的に説明できる[14]。ネガティビティ・バイアスとは、否定的な出来事が肯定的な出来事よりも精神的な幸福感に強い影響を及ぼすという心理学的概念である[33]。カンザス大学のコミュニケーション学教授ジェフリー・ホールは、人は通常、満ち足りた状態にあるため、潜在的な脅威が注意を引くと指摘している[34]。また、オハイオ州立大学ウェクスナー医療センター(英語版)の精神科医は、「人間は生まれつき、否定的なものに目を向け、引きつけられるようにできている。それが身体に危害を及ぼす可能性があるからだ」と述べている[35] 。この精神科医は、人間が否定的な情報を求める傾向には進化的な背景があるとし、例えば、祖先がある生物によってどのような危害を受けるかを知っていれば、その危険を回避できたと説明している[36]。

これに対し、現代人の多くは、自分が否定的な情報を求めていること自体に気づいていない。ソーシャルメディアのアルゴリズムは、利用者が反応したコンテンツに応じて類似する投稿を表示するため、ドゥームスクロールを助長することがある[34]。ペレルマン医学部の不安治療・研究センターの臨床部長は、「人は疑問を抱くと答えを求め、答えが得られれば気分がよくなると思っている。(中略)スクロールを何度も繰り返す。それが役立つと考える人は多いが、結局はかえって気分が悪くなる」と述べている[36]。

2019年に『米国科学アカデミー紀要』に掲載された研究では、17か国の参加者を対象にニュース映像に対する心理生理学的反応を調査した結果、平均的には肯定的なニュースよりも否定的なニュースに対して強い生理的反応が見られた。ただし、その反応には大きな個人差が認められた[37]。

FOMO(取り残されることへの恐れ)

ドゥームスクロールは、FOMO(fear of missing out、取り残されることへの恐れ)によっても説明できる。FOMOとは、必ずしも自分に利益をもたらすわけではない活動にも、参加しなければ何かを逃してしまうという恐れから加わろうとする心理である[38]。こうした恐れは、ニュースやソーシャルメディアの利用にも見られる。2013年にStatista(英語版)が実施した調査では、アメリカ人の半数以上がソーシャルメディア上でFOMOを経験していることが示された。その後の調査では、2017年にはイタリアの利用者の67%、2021年にはポーランドの10代の若者の59%がFOMOの影響を受けていたと報告されている[39]。マンドリヤらによる2024年のデジタル行動に関する研究では、多くの利用者が急速に展開する出来事を見逃さないよう、ニュースサイトやソーシャルメディアの情報を繰り返し更新して確認していたことが示され、FOMOが否定的なコンテンツへの継続的な接触につながりうると指摘された[2]。バージニア大学の心理学教授ベサニー・ティーチマンは、重要な否定的な情報を見逃すことへの恐れから、FOMOはドゥームスクロールと相関している可能性が高いと述べている[40]。

コントロール欲求

否定的なニュースをオンラインで強迫的に閲覧する行動は、部分的には、状況をコントロールしたいという心理的欲求によっても説明できる。研究ではまた、ドゥームスクロールが、終わりなく続くフィードやアルゴリズムによる推薦といったプラットフォームの機能によって強化され、最新の否定的な情報を習慣的に探す行動が促される可能性も指摘されている[5]。その理由の一つとして、不確実な状況において、人々が情報を集め、状況に対処できるという感覚を得るためにドゥームスクロールを行いやすくなることが考えられる。こうした行動は、情報を得続けることで困難な状況から身を守れるという信念を強めるために行われる[41]。2022年の研究では、問題のあるニュース消費の程度が高い人ほど、心身の健康状態が悪い傾向にあることが示された[42]。

脳の構造

否定的なニュースに没頭するドゥームスクロールの傾向は、人類が危険を察知し予測するように進化してきた神経メカニズムに起因する可能性がある[43]。否定的な見出しを頻繁に監視することで、状況への備えがより万全であるという感覚を得られるかもしれないが、長時間にわたる閲覧は恐怖心を高め、気分やメンタルヘルスを悪化させる可能性がある[43]。下前頭回 (inferior frontal gyrus, IFG) は、情報処理や新しい情報を既存の信念に統合するうえで重要な役割を担う脳領域である[43][44]。IFGにおいて脳は新しい情報が提示された際、信念を更新する過程で「悪いニュースを選択的にフィルタリング」する働きを持つ[43]。しかし、ドゥームスクロールを行うと脳が脅威を感じ、この「悪いニュースフィルター」が抑制または停止されることがあるとされる[43]。

ある研究では、研究者が経頭蓋磁気刺激法 (transcranial magnetic stimulation, TMS) を用いて左IFGを操作したところ、被験者は信念を更新する際に否定的な情報を取り込みやすくなる傾向が見られた[44]。この結果は、左IFGが否定的な情報による信念の変化を抑制する役割を担っている可能性を示唆している。被験者に好ましい情報が提示され、TMSを施した場合でも、脳は肯定的なニュースに反応して信念を更新した[44]。この研究はまた、脳が情報を選択的にフィルタリングし、肯定的なニュースをより重視して処理することでストレスや不安を軽減するように信念を更新することを示唆している(楽観主義バイアス(英語版)を参照)[44]。ドゥームスクロールの増加により、脳はより多くの否定的な情報にさらされ、肯定的な情報を受け入れ、否定的な情報を軽視する能力が低下する可能性がある[44]。その結果、不安・抑うつ・孤立感といったネガティブ感情が生じやすくなる[36]。

健康への影響

心理的影響

医療専門家らは、ドゥームスクロールが既存のメンタルヘルス上の問題に悪影響を及ぼす可能性を指摘している[43][45][46]。個人差はあるものの[47]、不安、ストレス、恐怖、抑うつ、孤立感といった感情を引き起こすことが多いとされる[43]。

研究

サセックス大学の心理学教授らによる研究では、参加者に「肯定的」「中立的」「否定的」な内容で構成されたニュース番組を視聴させた[48][49]。その結果、否定的なニュースを視聴した参加者は、個人的な心配事に対する不安や悲しみが増し、悲観的な思考に陥りやすい傾向が示された[48]。また、心理学研究者が『ハフィントンポスト』と共同で実施した別の調査では、朝に3分間の否定的なニュースを視聴した参加者は、6〜8時間後に「悪い一日だった」と報告する可能性が27%高いことが分かった[49]。一方、解決策に焦点を当てたニュースを視聴したグループでは、88%が「よい一日だった」と回答している[49]。

ドゥームスクロール診断法

ハリコフ地域公共団体「健康文化」科学研究所心理学研究室の教授Y・B・メルニクと、ウジホロド国立大学准教授A・V・スタドニクは、ドゥームスクロールを研究するための簡便な診断法を開発した。この質問票は12項目から構成されており、著者らが提唱する4つの基準(依存 (addiction)、固執 (rigidity)、メンタルヘルス (mental health)、内省 (reflection))に基づいている。さらに、著者らは独自に開発した「ドゥームスクロール症状スケール」の重症度(最小・軽度・中等度・中等度重症・重症)を解釈するための指針も提示している。この診断法により、ドゥームスクロールに関する質的・量的研究の両面からの分析が可能となっている[50]。

ニュース回避

否定的なニュースの氾濫に対処するため、ニュースそのものを避けるようになった人々もいる。2017年から2022年にかけての調査では、ニュース回避の傾向が強まっていることが示され、2022年には、ときどき、あるいは頻繁に意図的にニュースを避けていると答えた人の割合が38%となり、2017年の29%から上昇した[51]。ジャーナリストの中にもニュースを避けていると認める人がおり、アマンダ・リプリー(英語版)は、自身も長年ニュースを意図的に避けてきたことを明かしている。リプリーは、ニュースの作り手自身が苦境にあり、それを認めることは少ないものの、その苦境が報道のあり方を歪めていると指摘した[52]。また、読者が無力感からニュースを完全に避けることのないよう、記事に希望、主体性、尊厳をより意識的に盛り込むことなどを提案している[52]。研究では、ドゥームスクロールとニュース回避が、否定的な内容の反復的な報道や情報過多といった共通の状況から生じうることも指摘されている。こうした状況によって、ニュースへの接触を減らしたり、ニュースを避けたりする人もいる[30]。

2024年にオックスフォード大学のロイター・ジャーナリズム研究所(英語版)が公表した調査では、ニュースを避ける人の割合が増加していることが示された[53]。調査対象となった国や市場では、2024年に回答者の39%が、ときどき、あるいは頻繁に意図的にニュースを避けていると答え、2017年の29%から上昇した。報告書は、ウクライナや中東で長期化している紛争が、この傾向の一因となっている可能性を指摘している。報道業界の幹部らも、これらの紛争に関するニュース疲れとニュース回避を問題として挙げている[54]。イギリスでは、ニュースへの関心が2015年以降、ほぼ半減した[55]。一部の研究者は、ニュースへの関心の低下は、受け手の無関心によるものではなく、従来の報道と、受け手が魅力的だと感じる内容との間にずれがあるためだと指摘している[56]。また、研究者らはドゥームスクロールを、ニュース回避とは対照的な反応として説明している。両者は同じメディア環境から生じながらも、一方はニュースの過剰な消費、もう一方はニュースからの離脱という、正反対の行動につながるとされる[30]。

関連項目

出典

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外部リンク

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