ハマース
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組織旗 | |
| 略称 | ハマス |
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| 前身 | |
| 設立 | 1987年12月 |
| 設立者 | |
| 種類 | イスラム原理主義組織[3] |
| 目的 | |
| 本部 |
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| 所在地 | ガザ |
| 公用語 |
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| 指導者 |
政治局長 ハリル・アルハヤ シュラ評議会議長 アブ・オマル・ハサン |
| 関連組織 | ムスリム同胞団 |
職員数 |
15,000~40,000 (2023/10/7前の推定戦闘員数) |
ハマース(アラビア語: حماس Ḥamās, ハマース、英語: Hamas)あるいはハマース運動(アラビア語: حركة حماس Ḥarakat Ḥamās, ハラカト・ハマース、英語: Hamas Movement)は、スンナ派イスラム主義とパレスチナ民族主義を掲げる武装勢力[5]、テロ組織[3]。
1987年にアフマド・ヤースィーンにより設立されて以来、イスラエルなどに対して、自爆テロ、銃撃、誘拐、爆破、ロケット攻撃などのテロリズムを繰り返しているため[6]、イスラエルからはもちろん、アメリカ合衆国、イギリス、欧州連合、カナダ、オーストラリア、日本などからテロ組織に認定されている[3]。
イランから多年にわたり資金・武器・訓練などの支援を受け、ヒズボラやフーシ派などとともに、イランが支援する「抵抗の枢軸」の一角を構成する[7]。2007年にはパレスチナ自治政府の治安施設・政府施設を奪取してガザ地区を武力掌握し、国際社会から政権の正統性を認められないまま同地区を実効支配してきた[8]。
名称については、公安調査庁[9]や多くの日本メディア[注釈 1]はハマスと表記。組織の性質を添えた「イスラム原理主義組織ハマス」「イスラム組織ハマス」といった記載もなされている。
概要
正式名称はイスラーム抵抗運動(アラビア語: حركة المقاومة الإسلامية Ḥarakat al-Muqāwama al-Islāmīya, ハラカト・アル=ムカーワマ・アル=イスラーミーヤ, 実際の発音:ハラカトゥ・ル=ムカーワマティ・ル=イスラーミーヤ)で、アラビア文字表記の語頭や途中に含まれる文字を合わせて「ハマース」 (حماس, Ḥamās) と通称される[9]。
ハマースは1987年12月に、ガザ地区のムスリム同胞団最高指導者アフマド・ヤースィーンによって、武装闘争によりパレスチナ全土にイスラム国家を樹立することを目的とする武装集団として設立された[15]。
イスラエルの存在を一切認めず、ユダヤ人に対する一切の権利を認めていない。そして、パレスチナの解放はアッラーのためのジハードを通じてのみ達成できると信じている。その方針は『ハマース憲章』にて規定されている[16]。同憲章は、反ユダヤ主義的なユダヤ陰謀論を展開しているほか、「終末の日はムスリムがユダヤ人と戦い殺害するまで到来せず、ユダヤ人が石や木の背後に隠れると、石や木がムスリムにその居場所を告げ、『来て彼を殺せ』と呼びかける」とするハディースを引用している[17]。
2006年のパレスチナ立法評議会選挙では、ハマース系の「変革と改革」が過半数を占め、パレスチナ自治政府にハマースのイスマーイール・ハニーヤを首相とする政権が発足した[18]。しかし、2007年6月にパレスチナ自治政府やファタハの治安部隊を攻撃して内乱を起こし、政府・治安施設を制圧してファタハ勢力をガザ地区から排除、ガザ地区を武力掌握した[19]。これによりパレスチナは、ハマースが実効支配するガザ地区と、パレスチナ自治政府が統治するヨルダン川西岸地区に分裂し、パレスチナ立法評議会も定足数を満たせなくなって2007年以降実質的に機能停止した[6]。
2023年10月7日、ハマースはイスラエル南部で大規模テロを実行し、約1,200人を殺害し、約250人を人質としてガザ地区へ連行した[20]。これを受けてイスラエルはハマースに宣戦布告し、ガザ戦争へと発展した[21]。
これ以降、イスラエル軍によるハマース幹部への標的攻撃も相次ぎ、最高指導者ヤヒヤ・シンワル、政治局長イスマーイール・ハニーヤ、軍事部門最高司令官ムハンマド・デイフ[22]、ガザ地区指導者・軍事部門最高司令官ムハンマド・シンワル[23]、軍事部門最高司令官イズ・アルディン・アル・ハダド、その後任ムハンマド・オデ[24]、政治局副議長サレハ・アル=アルーリ、軍事部門副司令官マルワーン・イーサー[22]、ガザ地区統治機構最高幹部ラウヒ・ムシュタハ、諮問評議会議長オサマ・マジニ、政治局治安担当サメフ・アル=シラージ、総合治安機構司令官サミ・オデ[25]、軍事部門報道官アブー・ウバイダ[23]、北部ガザ旅団司令官アハメド・ガンドゥール[26]、ハーン・ユーニス旅団司令官ラファ・サラマ[27]、中央ガザ旅団司令官アイマン・ノーファル[28]ら主要幹部が死亡した。
ガザ地区内指導者がほぼ全滅したことで、国外在住指導者の比重が増している。ヤヒヤ・シンワルの戦死後はカタールなど国外を拠点とする指導部が組織運営を担い、2026年7月にはドーハを拠点とするハリル・アルハヤが最高指導者に就任している[29]。
ハマースのガザ支配機構と軍事部門イッズッディーン・アル=カッサーム旅団は壊滅的打撃を受けており、2026年9月現在イスラエル軍がガザ地区の約3分の2を直接支配・立入制限下に置いている。カッサーム旅団は組織・指揮系統・作戦能力を大幅に失っているが、一部の戦闘員や指揮官はなお生き残り、散発的な戦闘行為を続けている[30]。
ガザ地区の3分の1前後の地域では、ハマースの支配機構や武装勢力がなお一定の影響力を保持している[31]。2026年7月、ハマースはガザ地区の事実上の支配機構を解散する意向を表明したものの、職員は存続させ、治安・警察への関与を続けるとした[32]。
戦闘員数の正確な規模は明らかになっていない。2026年に公表されたアメリカ国務省の資料では2万人未満と推計され[33]、同年7月の議会調査局(CRS)はイスラエル当局による推計として約2万人としている[34]。ただし、戦争で指揮系統や熟練戦闘員を大量に失っていることから、2026年7月にイスラエル国防当局者は、実際にイスラエル軍との戦闘に投入可能な戦闘員は数千人程度だろうとの見解を示している[35]。
正式名称と略称
正式名称はイスラーム抵抗運動(アラビア語: حركة المقاومة الإسلامية、Ḥarakat al-Muqāwama al-Islāmīya、ハラカト・アル=ムカーワマ・アル=イスラーミーヤ)である[36]。
「ハマース」(アラビア語: حماس、Ḥamās)は、このアラビア語名称から形成された頭字語(アクロニム)である。また、「ハマース」(حماس)自体もアラビア語で「熱意」「熱情」などを意味する語である[37]。
活動
ガザ地区
ガザ地区はハマースの主要な活動拠点である。ハマースは2007年の武力衝突でファタハ勢力を排除して同地区を武力で掌握し、以後実効支配を続けてきた[6]。
しかしガザ戦争でハマースの支配機構と軍事部門は甚大な打撃を受け、2026年6月にはイスラエル軍がガザ地区の64.9%をより直接的な支配・立入制限下に置くに至った[38]。
一方、ハマースも残る地域で支配機構への関与を続けている[32]。2026年7月、ハマースはガザ地区の事実上の支配機構を解散する意向を表明したものの、職員は存続させ、治安・警察への関与を続けるとした[32]。
ヨルダン川西岸地区
パレスチナ自治政府とイスラエルが分担して統治しているヨルダン川西岸地区でもハマースは地下組織や武装セルを通じてテロ活動を続けているが[39]、イスラエル軍・治安機関やパレスチナ自治政府による継続的な掃討・逮捕によって強い圧力を受けている[40][41]。
イスラエル軍の掃討作戦や空爆によって、ジェニンのハマース司令官ワセム・ハゼム[42]、トゥールカリムのハマース組織責任者ザヒ・ヤセル・アブド・アル=ラゼク・ウフィ[43]、同地の組織責任者イハブ・アブ・アティウィ[44]、ジェニンのハマース組織責任者アイサル・アル=サアディ[41]、カイス・ビタウィ[45]らヨルダン川西岸地域幹部が相次いで死亡している。
イスラエル総保安庁は2026年6月、国外ハマース要員が西岸での数十件の攻撃計画について要員募集、資金・武器の供給などを行っていたと発表した[46]。同年9月にも西岸アカバ村でハマースのセルとされる10人が拘束され、ロケット、突撃銃、爆発物が押収された[47]。
レバノン
ハマースはレバノン国内、特にパレスチナ難民キャンプでも活動しており、軍事部門カッサーム旅団はレバノン領内からイスラエルへのロケット攻撃などを行ってきた。一方、レバノン政府はハマースを含む非国家組織による武器保有や軍事活動を認めておらず、2025年5月には最高国防評議会がハマースを名指しして、レバノン領を国家安全保障や主権を害する活動に利用しないよう警告した。政府はこうした武器を「非合法な武器」と位置づけ、その引き渡しを要求している[48]。
イスラエル軍もレバノン内ハマース勢力からの攻撃に対して反撃を行っており、サレハ・アル=アルーリ[49]、サメル・アル=ハッジ[50]、ファテフ・シェリフ・アブー・アル=アミン[51]、サイード・アタッラー[52]、ムハンマド・シャヒーン[53]らレバノンにおけるハマース主要幹部が相次いでイスラエル軍の攻撃で死亡している。
レバノン政府もハマースを含むレバノン国内のパレスチナ武装勢力の取り締まりと武装解除を進めている。2025年3月22日と28日にレバノン領からイスラエルへのロケット発射が発生すると、レバノン軍は関係が疑われるレバノン人やパレスチナ人を拘束した。同年5月には最高国防評議会がハマースを名指しし、レバノン領内で国家安全保障を害する活動を行わないよう警告するとともに、レバノンの主権を侵害する行為には最大限の措置を取る方針を示した。また、ナワーフ・サラーム首相は非合法の武器を引き渡す必要性を表明し、ハマースなどの武装勢力による国内の安定を損なう活動を認めない方針を示した[48]。
同年5月、レバノン政府とパレスチナ自治政府はパレスチナ難民キャンプ内の武器をレバノン国家の管理下に置くことで合意し、レバノン軍による武器回収が開始された[54]。パレスチナ自治政府系勢力は12か所の難民キャンプのうち8か所で武器をレバノン軍に引き渡したが、ハマースとイスラーム聖戦は武装解除に応じていない[55]。
歴史
ムスリム同胞団の浸透と前身となる組織の活動
パレスチナではエジプトで生まれたムスリム同胞団が1930年代から活動を拡大させており、イギリスの委任統治やシオニズムを攻撃する運動を展開していた。ムスリム同胞団は、1945年にエルサレムに最初の支部を設置し、1947年までにパレスチナ各地に25の支部を展開、会員数は1万2,000人から2万人に達したとされる[56]。
1948年の第一次中東戦争ではエジプトのムスリム同胞団からも義勇兵が送り込まれ、同胞団の3個大隊がエジプト軍に加わって戦闘に参加した[57]。同胞団は1948年12月にエジプトで禁止され、ガザ地区でも活動を禁止されたが、その後も別組織を通じて活動を継続し、特に難民キャンプを中心に組織網を拡大した[58]。
ガザ出身でムスリム同胞団のガザ地区指導者であった宗教活動家アフマド・ヤースィーンは、ハマースに先立って1973年にムスリム同胞団系組織アル=ムジャンマア・アル=イスラーミー(المجمع الإسلامي, al-Mujammaʿ al-Islāmī, 「イスラミック・センター」の意、英訳:Islamic Center)を設立した[6]。同組織は宗教活動に加えて社会・医療・文化・教育・スポーツなどの活動を展開し、モスク、診療所、看護学校、スポーツクラブ、女性活動センター、ザカート委員会などを運営するとともに、学校や宗教教育を通じてムスリム同胞団の思想と組織網をガザ地区に拡大した[59]。1970年代にはアル=ムジャンマアを中心としてムスリム同胞団系の宗教・社会組織が統合され、ガザ・イスラム大学を含む多数の関連機関にもその影響力を及ぼすようになった[56]。
この組織の事業は現在のハマースの社会奉仕事業部門の元となっており、ムスリム同胞団の活動を普及する場として機能するものでもあったが、パレスチナ解放機構(PLO)に対抗する組織として期待されたことからイスラエル当局の認可を得て活動していた[6][60]。
ハマース設立

ハマースは1980年代の第1次インティファーダ勃発時に、パレスチナのムスリム同胞団が設立したイスラエルに対する武装闘争を掲げるイスラム主義武装組織として登場した。ヤーセル・アラファト率いるパレスチナ解放機構(PLO)とは別個に活動し、のちにPLO・ファタハに対抗する主要なイスラム主義勢力へと成長した[6]。
アフマド・ヤースィーンと、アブドゥルアズィーズ・アッ=ランティースィー、イブラーヒーム・アル=ヤーズーリー、サラーフ・シェハーデ、イーサー・アン=ナッシャール、ムハンマド・シャマア、アブドゥルファッターフ・ドゥハーンの計7人のムスリム同胞団指導者が、1987年12月にハマースを結成した[56]。
同年12月14日には住民にイスラエルに対する闘争への参加を呼びかける最初の声明を発表し、これがハマースの最初の公式声明となった[17]。
1988年1月にはヨルダン川西岸地区にも活動を拡大し、同年8月には「ハマース憲章」を発表した。同憲章はパレスチナ全土をイスラムのワクフとして恒久的にイスラム教徒に属する土地と位置づけ、イスラエルの消滅と歴史的パレスチナ全域におけるイスラム国家の樹立を掲げた。また、和平構想や国際会議による解決を否定し、パレスチナ問題にはジハード以外の解決手段はないとして武装闘争を主張した[6][17]。さらに、ユダヤ人が金融・メディアなどを支配し、フランス革命やロシア革命、第一次・第二次世界大戦などを背後で引き起こしたとするユダヤ陰謀論を展開し、反ユダヤ主義的偽書『シオン賢者の議定書』にも言及したほか、「終末の日はムスリムがユダヤ人と戦い殺害するまで到来せず、ユダヤ人が石や木の背後に隠れると石や木がその居場所を告げ、殺すよう呼びかける」とするハディースを引用している[17]。
その後、テロ活動を拡大させていく中で、1991年には軍事部門としてイッズッディーン・アル=カッサーム旅団(كتائب عز الدين القسام, Katāʾib ʿIzz al-Dīn al-Qassām, カターイブ・イッズッディーン・アル=カッサーム)が正式に設立された[61]。
ハマースに対する援助と勢力の拡大
ハマースは国外からも多額の資金を獲得し、湾岸諸国の富裕な個人やイスラム系慈善団体などが主要な資金源となった。また1990年代からイランとの関係を深め、資金・武器・軍事訓練などの支援を受けるようになった[62][63]。
ハマースは教育、医療、福祉などの社会サービス網を運営し、こうした活動を通じてパレスチナ社会に組織基盤と支持を拡大した[6]。また、ハマースは慈善団体や社会福祉ネットワークを資金調達にも利用し、慈善寄付の一部をハマース構成員やテロ実行者の家族への支援、ハマース系組織への資金移転などに充てた[64]。
中東和平交渉の妨害
1990年代にパレスチナ解放機構(PLO)がイスラエルとの和平交渉を進め、1993年にオスロ合意を締結すると、ハマースはイスラエルとの和平および共存に強く反対し、和平プロセスを妨害するため自爆テロ、爆破、銃撃などのテロ攻撃を繰り返した[65]。
こうしたハマースのテロ活動を受け、アメリカ合衆国のビル・クリントン大統領は1995年1月23日に大統領令12947号を発令し、中東和平プロセスを妨害する暴力行為を行うテロ組織としてハマースを特別指定テロリスト(Specially Designated Terrorist, SDT)に指定した。これにより、ハマースの米国管轄下の資産が凍結され、米国人による資金提供や取引が禁止された[66]。
それでもハマースはテロ攻撃を継続し、1996年2月から3月にはエルサレム、アシュケロン、テルアビブで相次いで大規模な自爆テロを実行した。2月25日のエルサレムのバス爆破では26人が死亡し、3月3日のエルサレムのバス爆破では19人、翌4日のテルアビブのディゼンゴフ・センター前での自爆テロでは20人が死亡した。これらの攻撃は中東和平プロセスを破壊することを目的とした一連のテロ攻撃であった[67]。
1997年にもハマースなどの過激派は和平交渉を妨害するためイスラエル民間人を狙った自爆テロを継続し、3月にはテルアビブのカフェ、7月にはエルサレムの市場、9月にはエルサレムの歩行者街で相次いで攻撃を行った[68]。
第2次インティファーダとイスラエルとの戦闘
2000年に第2次インティファーダが始まると、ハマースはイスラエル国内や占領地域で自爆テロ、爆破、銃撃、迫撃砲・ロケット攻撃などを激化させた。2001年6月1日にはテルアビブのナイトクラブ前で自爆テロを実行して22人を殺害し、同年8月9日にはエルサレムのピザ店で自爆テロを実行して15人を殺害、60人以上を負傷させた[70]。
2002年には50件を超える攻撃を行い、民間人と軍人を標的とする自爆テロ、銃撃、迫撃砲・ロケット攻撃を繰り返した。同年3月27日には過越祭の夕食会が開かれていたネタニヤのパーク・ホテルで自爆テロを実行し29人を殺害、約140人を負傷させた。7月にはヘブライ大学のカフェテリアを爆破し9人を殺害した[71][72]。
2004年にもイスラエルの民間人・軍人を標的とする多数のテロ攻撃に関与した[73]。
これに対抗し、イスラエルはハマース指導部に対する標的攻撃を強化し、2004年3月22日には創設者・最高指導者アフマド・ヤースィーンをガザ市での空爆により排除した。後継者となったアブドゥルアズィーズ・アッ=ランティースィーも同年4月17日にイスラエル軍の空爆で排除された[74]。
2005年2月、ハマースはパレスチナ自治政府の仲介による一時的な停戦に参加し、同年にテロ攻撃を大幅に減少させたものの、軍事組織は維持した[75]。
同年9月には軍事部門カッサーム旅団が、それまで秘匿していた主要指揮官7人の氏名を公表し、ムハンマド・デイフを最高司令官として初めて公式に明らかにした[76]。
ハニーヤ政権

2006年1月25日に行われたパレスチナ立法評議会選挙で、ハマース系の「変革と改革」は定数132議席中74議席を獲得して単独過半数を占め、長年パレスチナ政治を統治してきたファタハは45議席にとどまった[77]。
ハマースはイスマーイール・ハニーヤを首相候補に選出し、同年2月にマフムード・アッバース大統領から組閣の大命を受けた。ハニーヤを首相とするハマース主導内閣は同年3月29日に発足した[77]。
これに先立ち、国際連合、欧州連合(EU)、アメリカ合衆国、ロシアで構成される「中東カルテット」は、ハマースを含んだパレスチナ新政府に対し、暴力の放棄、イスラエルの承認、ロードマップを含む過去のイスラエル・パレスチナ間合意および義務の受け入れを要求した[78]。しかし、3月28日に承認されたハマース主導政府の政治綱領はこれらの条件を受け入れず、カルテットは翌30日に新政府が条件を履行していないことへの重大な懸念を表明した[79]。
これを受けてアメリカ合衆国は同年4月7日、ハマース主導政府の閣僚および各省庁への援助を停止した[80]。欧州連合も同月10日、ハマース主導政府への直接支払いと技術支援を停止した[81]。カナダも3月29日にパレスチナ自治政府への直接援助を停止し、ハマース主導政府との接触を制限した[82]。
イスラエルもパレスチナ自治政府に代わって徴収していた関税・付加価値税収入の送金を停止した。これらの税収はパレスチナ自治政府歳入の大きな割合を占めており、主要援助国による直接支援停止と重なって深刻な財政危機を引き起こした[83]。
一方、中東カルテットはパレスチナ住民への人道支援そのものの停止は求めず、2006年5月にはハマース主導政府を経由せずにパレスチナ住民へ直接援助を届ける一時的国際メカニズムの創設を支持した[84]。
ファタハとの武力衝突

ハニーヤ政権の発足後、ハマースはマフムード・アッバース大統領およびファタハが掌握する既存のパレスチナ自治政府治安機構と激しく対立した。2006年5月7日には、ハマース活動家がファタハ系予防治安部隊の車両に肩撃ち式ロケットを発射し、乗員2人を殺害する事件が起きている[85]。
ハマースは内務省を掌握したものの、総合情報局や大統領警護隊などは引き続きアッバース大統領の指揮下にあり、既存治安機構の多くもファタハ系幹部が掌握していたため、ハマースは治安機構を実効的に掌握できていなかった。このためハマース主導政府は2006年4月、内務省直属の新たな武装治安組織「執行部隊」(Executive Force)の創設を発表した[86]。
アッバース大統領は、「執行部隊」の創設に対し、2006年に大統領令第28号を発して取り消した。同令は、新たな治安部隊は法定された既存の治安機関の一部として設置されなければならず、内相による独自部隊の創設は2005年治安部隊法第3条に違反すると明記し、関係機関にその決定へ従わないよう命じた[87]。
しかしハマース主導の内務省はこの大統領令に従わず、同年5月17日、約3,000人の武装した「執行部隊」をガザ地区の街頭に強行展開した[88]。ハマースの「執行部隊」は、政権弾圧にも投入された。2006年5月には、失業中の教員らによる平和的な抗議活動をライフルと棍棒を用いて解散させている[89]。
ハマースの大統領令無視と独自武装部隊の強行展開によって既存のパレスチナ自治政府警察との軋轢が生じ、アッバース大統領は治安維持のため警察部隊の増強展開を命令した[88]。
しかし、ハマースは「執行部隊」と軍事部門カッサーム旅団を独自の武装組織として保持し、ファタハ系治安機関への武力攻撃を本格化させた。2006年5月にはファタハ系治安部隊幹部ナビール・ホドホドが爆殺され、ファタハ側はハマースの関与を非難した。ホドホドの遺体がガザ市のシファ病院に運ばれた後、病院ではハマースとファタハの銃撃戦が発生し、内戦への懸念が強まった[90]。6月6日にはハマース支持者がガザ市タル・アル=ハワ地区の予防治安部隊本部をロケット推進擲弾(RPG)で攻撃している[91]。
2006年6月25日には、ハマース軍事部門カッサーム旅団が他のパレスチナ過激派部隊と共同で、ガザ地区から地下トンネルを通ってイスラエル領内へ侵入し、ケレム・シャローム付近のイスラエル軍陣地を攻撃した。ハマースなどの戦闘員は対戦車ロケットなどを使用してイスラエル兵2人を殺害、3人を負傷させ、ギルアド・シャリート伍長を拉致してガザ地区へ連行する事件を起こした(2006年パレスチナ過激派越境テロ攻撃事件)[92][93]。
アッバース大統領はこの攻撃を直ちに非難し、パレスチナ側の国家的合意に反してパレスチナ人の利益を損なうものだと批判した。また、拉致されたシャリートの即時解放と、パレスチナ自治政府治安機関に大規模な捜索を開始するよう命令した。さらにイスマーイール・ハニーヤ首相、サイード・シヤーム内相、各治安機関司令官に対し、シャリートの所在を捜索して解放するため直ちに行動するよう指示し、ハニーヤとの協議や関係国への働き掛けも行った[94][95]。
しかしハニーヤはアッバースのシャリートの即時解放の指示に従わず、武装勢力にシャリートを傷つけないよう求めるにとどまり、その解放を要求しなかった。その後もハマース政権は、シャリートの解放をパレスチナ人収監者との交換によって行う立場を取った[94]。
さらに2006年10月20日には、ハマース構成員に殺害されたファタハ構成員の親族による発砲でハニーヤの車列が攻撃され、車列を護衛していたハマース主導警察の車両1台が放火された。ハニーヤは負傷しなかったが、この事件はハマースとファタハの抗争がハニーヤ本人の車列にまで及ぶほど激化していたことを示した[96]。
同年12月には、国外から持ち帰ろうとした多額の資金のガザ地区への持ち込みを阻止されたことに反発したハマース戦闘員がラファ検問所に突入し、発砲してアッバース大統領の大統領警護隊との間で銃撃戦を引き起こしている。ハマース戦闘員は検問所内のコンピューターや家具を破壊して施設を一時占拠し、検問所を監視していた欧州連合(EU)の要員は退避を余儀なくされた[97][98]。しかし同日遅く、アッバース大統領直属の大統領警護隊がハマースから検問所を奪回し、EU監視要員も施設へ復帰した[97]。
2007年1月にはハマースの「執行部隊」の隊員がファタハ系治安機関の幹部を殺害したのを受けて、アッバース大統領は「執行部隊」を非合法と宣言した[86]。
しかしハマースは大統領の命令に従わず、2007年1月から2月初めだけでも内乱による死者は86人に達し、2月1日から3日までの3日間には33人が死亡、242人が負傷し、負傷者の約半数は戦闘に参加していない民間人だった[99]。
メッカ合意と挙国一致内閣の組閣
2007年2月8日、サウジアラビアの仲介により、アッバース大統領と、ハマース政治局長ハーリド・マシャアル・ハマースのパレスチナ首相ハニーヤらはメッカで会談し、ハマースとファタハの武力衝突の停止と挙国一致内閣の樹立で合意した(メッカ合意)[100][101]。
合意は流血停止と対話による政治的対立の解決、挙国一致内閣の樹立、PLO改革などを掲げたが、ハマースはイスラエル承認やテロ放棄を明確に受け入れず、過去のイスラエルとの和平合意についても「遵守する」ではなく「尊重する」とするにとどまった[102][103]。
中東カルテットも同月21日、メッカ合意と挙国一致内閣成立を評価する一方、新たな挙国一致内閣に対して非暴力、イスラエル承認、過去の合意およびロードマップの受諾を改めて要求し、これらへの取り組みは政府の綱領だけでなく実際の行動によって判断すると表明した[104]。
メッカ合意を受け、ハニーヤは同年2月15日、ハマース単独内閣を終わらせてファタハとの連立政府を作るため、いったん首相を辞任。その後に改めてアッバース大統領から次期内閣の組閣担当者に再任命され、ハニーヤは連立内閣の組閣を進めた[105]。
2007年3月17日、ハニーヤはパレスチナ立法評議会に「挙国一致内閣」としてこれを提示し、同内閣は承認された。アッバースは同日、ハマースとファタハを含む25人の閣僚を宣誓させ、ハニーヤは首相として新内閣を率いた[106][107]。
しかし、新内閣の綱領はイスラエル承認、暴力放棄、過去の和平合意受け入れというイスラエル・米国・欧州の要求を満たさなかった[108]。ハニーヤ自身も政策演説の中で、ハマースがテロ放棄とイスラエル承認を拒否する立場を改めて示し、銃撃攻撃や自爆テロを含む「全ての手段」による「抵抗」の権利を主張した[109]。
米国は、ハマースが暴力放棄、イスラエル承認、過去の和平合意遵守を受け入れるまでパレスチナ新政府とは取引しないとの立場を改めて示し、イスラエルも新政府を承認せず、国際社会に制裁維持を求めると表明した[109][110]。欧州連合も、新政権がテロ放棄とイスラエル承認を受け入れるまでパレスチナ自治政府への資金凍結を解除しない姿勢を示した[111]。
ファタハへの攻撃再開とガザ武力奪取
挙国一致内閣は2007年3月17日に発足したが、ハニーヤ率いるハマースはテロ放棄とイスラエル承認を拒否して武力闘争を継続したので、ファタハとの緊張は収まらず、早くも同月22日にはガザ北部でハマースによるファタハへのテロ攻撃があり、死者が発生した[109][112]。
その後もハマースはファタハ系治安機関への攻撃、警察官殺害、拠点制圧、イスラエル南部へのロケット攻撃を繰り返した[113][114][115][116][117]。
5月15日にはハマースの「執行部隊」とカッサーム旅団が、カルニ検問所付近にあるファタハ系大統領警護隊の訓練基地をロケット弾、ロケット推進擲弾、迫撃砲などで攻撃した。さらに救援に向かったファタハ系治安要員を待ち伏せし、車両に至近距離から銃撃を加えて複数人を殺害した[113]。同日、ハマースはガザ地区からイスラエル南部のスデロットに向けてロケット弾5発を発射したことも認め、このうち1発が住宅に着弾して住民1人が重傷を負った[118]。
翌16日には、ハマース武装員がファタハ系治安機関幹部ラシード・アブ・シュバクの自宅を迫撃砲で攻撃した後に突入し、警護員5人を殺害している[113]。
内戦激化の中、停戦合意が繰り返されたが、いずれも破綻した。5月19日の停戦はガザのエジプト代表部でハニーヤ出席のもと合意されたが、停戦発表直後にもファタハ系情報機関幹部ムハンマド・アル=マスリーの車列がハマースに銃撃されるなど、ハマースは停戦後も暴力を収束させなかった[119]。
同年6月、ハマースは軍事部門カッサーム旅団と執行部隊を投入し、ファタハおよびパレスチナ自治政府の治安機関に対する大規模な武力攻撃を開始した。国連はこの攻撃を、大統領府とパレスチナ自治政府治安部隊に対するハマースの「暴力的な反乱」と認定している[120]。ハマースのカッサーム旅団は、拘束したファタハ治安要員を至近距離から繰り返し脚部に銃撃し、少なくとも1人が建物から投げ落とされて殺害された事例も国連は記録している[86][120]。
6月14日までにハマースはガザ地区の主要な政府・治安施設を制圧して同地区を武力掌握した。この戦闘では161人が死亡し、うち41人が民間人で、少なくとも700人が負傷した[86]。目撃証言では、降伏後のガザ地区のファタハ要員数人がハマースに処刑されたと報じられた[121][122]。
ハマースは大統領親衛隊司令官らファタハ側の上級軍事指揮官を拘束し、ハマース側幹部は「ガザにおける世俗主義と異端の終わりだ」と宣言した[123]。
これに対し、アッバース大統領は2007年6月14日にハニーヤを首相から解任して挙国一致内閣を解散し、非常事態を宣言した。さらにサラーム・ファイヤードを首相とする非常事態政府をヨルダン川西岸地区に設置した。しかしハニーヤは解任を拒否し、ハマースが実効支配したガザ地区を拠点に「首相」を自称し続けた[124][125]。
以降パレスチナは、パレスチナ自治政府が統治を続けるヨルダン川西岸地区と、ハマースが実効支配するガザ地区に分裂した[126]。
ガザ制圧後もハマースはファタハ活動家の摘発を続け、同年11月にはガザ地区でファタハ活動家多数を拘束した。ハマース側は約50人を拘束したとしたが、ファタハ側は約400人が拘束され、ハマースが恐怖によってガザの支配を固めようとしていると非難した[127]。
ガザ地区の実効支配とイスラエルへの攻撃
ガザ地区を実効支配下においたハマースはファタハへの弾圧を進め、誘拐、拷問、恣意的拘束などによって対抗勢力を弱体化させるとともに、ガザ地区からイスラエルへのロケット弾・迫撃砲攻撃も続けた[128]。
特に2008年には、ハマースのカッサーム旅団およびガザ地区の武装組織によるイスラエルへのロケット弾・迫撃砲攻撃が繰り返された。米国務省によれば、同年中にガザ地区からイスラエルへ約1,750発のロケット弾と1,528発の迫撃砲弾が発射され、前年の896発、749発から大幅に増加した。6月19日にイスラエルとハマースの間で6か月間の停戦が開始された後も攻撃は完全には停止せず、停戦末期には再び急増した[129]。
同年12月中にガザ地区からイスラエルへ発射されたロケット弾は計361発に達し、スデロットでは8歳男児がロケット攻撃で片脚を失う重傷を負い、アシュケロンでは女性や子供を含む民間人5人が負傷する被害があった[129][8][130]。
こうしたロケット弾・迫撃砲攻撃の急増を受け、イスラエル軍は同年12月27日、キャストレッド作戦を開始した。イスラエル空軍と海軍はハマースの治安施設、軍事施設、訓練施設、武器庫、ロケット・迫撃砲発射部隊などを攻撃し、2009年1月3日には地上部隊もガザ地区へ進攻した[129][131]。
イスラエル軍はキャストレッド作戦で約700人の武装要員を排除[132]、2009年1月1日にはハマース幹部ニザール・ラヤーンがイスラエル軍の空爆で死亡し[133]、同月15日にはハマース政府内相サイード・スィヤームも空爆で死亡した[134]。
また、戦闘中から戦闘後にかけ、ハマース治安部隊やハマース系とみられる武装員は、ガザ地区内でファタハ支持者を中心にイスラエルへの協力を疑われた者や政治的対立者への超法規的殺害、拷問、暴行を行った。2008年12月末から2009年3月までに少なくとも32人が殺害された[135]。
ファタハとの統一構想と破綻
2011年4月27日、ハマースとファタハはエジプトの仲介によるカイロでの協議で、2007年以来続いていた政治的分裂を解消するための和解について基本合意した。合意では暫定政府を樹立し、1年以内に大統領選挙と立法評議会選挙を実施することなどが定められ、同年5月4日に正式な署名式が行われた[136][137]。
イスラエルはハマースとの和解を批判し、ベンヤミン・ネタニヤフ首相はアッバース大統領に対して「イスラエルとの和平かハマースとの和平かを選ばなければならない」と表明した。イスラエル政府はさらに、ハマースが参加する政府とは和平交渉を行わない方針を決定した[138]。アメリカ合衆国も、ハマースが政治過程に参加するためには暴力を放棄し、イスラエルを承認し、過去のイスラエル・パレスチナ間合意を受け入れなければならないとの立場を維持した[139]。
しかし、2011年和解合意は直ちには実施されなかった。暫定政府の首相人事をめぐって両派が対立し、ファタハ側が当時のパレスチナ自治政府首相サラーム・ファイヤードの続投を支持したのに対し、ハマースはこれを拒否した。これにより同年6月に予定されていたアッバース大統領とハマース政治局長ハーリド・マシャアルの会談は延期され、11月に両者が再び会談した時点でも、暫定政府の発足や選挙準備にはほとんど進展がみられなかった[140][141]。
2012年2月6日には、アッバース大統領とマシャアルがドーハで再び合意し、アッバース自身を首相とする無所属の専門家による暫定政府を樹立して選挙を準備することを決めた。しかし、この合意に対してハニーヤやマフムード・アッ=ザハールらハマースのガザ地区指導部が反発し、アッバースが大統領と首相を兼任する案への反対がハマース内部で表面化した。ハマース内部の対立もあって暫定政府は結局発足せず、2011年の和解合意は再び実施されないままとなった[142][143]。
両派はその後も別々の統治体制を維持したが、2014年4月23日、ガザ地区で再び和解合意を締結し、5週間以内に国民合意政府を発足させ、6か月以内に選挙を実施することで合意した[144]。同年6月2日、ラーミー・ハムダッラーを首相とする17人の無所属専門家からなる国民合意政府が発足した。ハマースまたはファタハに所属する閣僚は置かれず、アッバースは新政府が非暴力、イスラエル承認、過去の合意の受け入れ、イスラエルとの治安協力を維持すると表明した。アメリカ政府も、閣僚にハマース所属者がいないことを確認したうえで、新政府と実務関係を維持する方針を示した[145][146]。
しかし、国民合意政府の発足によってガザ地区の実効支配がハマースからパレスチナ自治政府へ移ったわけではなかった。ハマースの治安機構はガザ地区に残り、ハマース支配下で採用された公務員の給与や治安部隊の統合、検問所の管理などをめぐって対立が続いた。ハムダッラー首相が初めて国民合意政府の閣議をガザ地区で開催できたのも発足から4か月後の同年10月9日であり、その時点でもハマースはガザ地区の実効支配を維持していた[147]。
国民合意政府はその後もガザ地区で十分な統治権を行使できず、選挙も実施されなかった。2015年6月17日、ハムダッラーは内閣の辞表をアッバース大統領に提出した。政府解消の理由として、数か月にわたってガザ地区で政府が実質的に活動できない状態が続いていたことが挙げられた。これによって2014年の国民合意政府による統治統合も行き詰まり、ヨルダン川西岸地区をパレスチナ自治政府、ガザ地区をハマースが実効支配する政治的分裂は解消されなかった[148]。
アラブの春と対外関係の再編
2011年にアラブの春が各国へ波及すると、ハマースは地域情勢の変化に対応して従来の同盟関係を見直した。同年8月、リビアの反カダフィ勢力が首都トリポリへ進攻すると、ハマース報道官サミ・アブー・ズフリーは反体制派の勝利を歓迎し、リビア国民に祝意を表明した[149]。
一方、長年ハマース国外指導部の拠点となっていたシリアでは、バッシャール・アル=アサド政権に対する反政府運動が拡大した。当初ハマースは公然といずれかの側を支持することを避け、約10か月にわたりシリア情勢について沈黙を保った。しかし、アサド政権による反政府運動への弾圧が激化すると、スンナ派イスラム主義組織であるハマース内部では同政権を支持し続けることへの反発が強まり、ムスリム同胞団など他の地域イスラム主義勢力からもアサド政権と距離を置くよう圧力を受けた[150]。
2012年1月には政治局長ハーリド・マシャアルがダマスカスのハマース本部を事実上離れ、他の国外指導者もカタール、ヨルダン、エジプトなどへ移った。ハマースのダマスカス事務所自体はしばらく存続したものの、シリアを国外指導部の主要拠点とする体制は崩壊した[151]。翌2月にはガザ地区政府首相イスマーイール・ハニーヤがカイロで、自由と改革を求める「シリアの英雄的な人民」への支持を公然と表明し、ハマースとアサド政権との亀裂が明確となった[152]。
2012年11月にはシリア治安当局が、ダマスカスにあった政治局長ハーリド・マシャアルの事務所兼ハマース本部を捜索して封鎖した。他のハマース幹部の事務所も閉鎖された[153]。これによって長年続いたハマースとアサド政権の協力関係は事実上終結した[154]。
アサド政権を支援していたイランはハマースの方針転換に反発し、長年供与してきた資金などの支援を大幅に縮小した。これによりハマースとイランの関係は急速に悪化したが、完全に断絶したわけではなかった[155]。2012年3月にはハマース政治局員サラーフ・アル=バルダウィールらが、イスラエルとイランの間で戦争が起きてもハマースはイランの要請に従って参戦することはないと表明し、イランとの関係は共通利益に基づくもので軍事同盟ではないとの立場を示した[156]。
これに対しエジプトでは、2011年の革命によってホスニー・ムバーラク政権が崩壊し、2012年にムスリム同胞団出身のムハンマド・ムルシーが大統領に就任すると、ハマースとエジプト政府の関係は改善した。ハニーヤは同年7月にカイロでムルシーと会談し、その後エジプトはラファ検問所の開放時間を延長し、ガザ地区との人の往来を拡大した[157]。
同年11月にイスラエルとハマースの戦闘が激化した際にも、エジプト政府は停戦仲介を進めた[158]。
ハマースの財政悪化
2013年7月のエジプト軍による政変で、ハマースと関係が深いムルシーが失脚すると、ハマースを取り巻く環境は急速に悪化した。エジプト軍はシナイ半島とガザ地区を結ぶ密輸トンネルの大規模な破壊を進め、ハマースによる武器、現金、物資などの密輸を大幅に制限した。米国務省によれば、エジプト政府による取り締まりによって2013年後半にはガザへの密輸が著しく減少し、ハマースによる武器や密輸品、建設資材の調達にも大きな影響が生じた[159]。
トンネルはハマース政府にとって物資・武器の搬入経路であると同時に重要な税収源でもあったため、その破壊はハマースの財政に打撃を与えた。2013年10月にはトンネル取引から得ていた税収がほぼ消滅し、ハマース政府は約5万人の職員に対する8月分給与の77%しか支払えない状態となった[160]。その後も財政難は続き、2014年3月には約4か月にわたり約4万6000人の政府職員への給与が一部しか支払われていないことが明らかになった[161]。
ムルシー政権の崩壊によるエジプトからの後ろ盾の喪失、シリアからの撤退、イランからの支援縮小が重なり、ハマースは2013年に財政的苦境を深めた[162]。
その後ハマースはイランとの関係修復を進め、2014年12月にはハマース副政治局長ムーサ・アブー・マルズークが、イランとの政治・軍事関係が再び軌道に戻ったと表明した[163]。
2014年ガザ紛争とハマースの弾圧激化
2014年6月12日、ハマース構成員はヨルダン川西岸地区でイスラエル人少年3人を拉致して殺害した。犠牲者のうちナフタリ・フレンケルはアメリカ・イスラエル二重国籍の16歳だった[164]。ハマース指導部は当初、組織としての関与を否定していたが、同年8月にはハマース幹部サーレハ・アル=アルーリが、軍事部門カッサーム旅団が拉致を実行したと公言し、この事件を称賛した[165]。
イスラエル軍は少年らの捜索と実行犯の摘発を目的としてヨルダン川西岸地区で大規模な作戦を実施した。その後ガザ地区からイスラエルへのロケット攻撃が急増し、7月7日にはハマース軍事部門が約1時間に数十発のロケット弾を発射した。イスラエル軍によれば同日だけで40発以上が発射され、約30発がイスラエル領内に着弾し、残りは迎撃された[166]。
ロケット攻撃の急増を受け、イスラエルは7月8日、攻撃停止を目的としてプロテクティブ・エッジ作戦を開始し、ハマースの軍事インフラへの空爆を開始した[167]。
戦闘が拡大すると、ハマースなどの武装組織はイスラエル各地へのロケット弾・迫撃砲攻撃を続け、作戦期間中に4,500発以上を発射した。しかし、人口密集地域への着弾が予測されたロケット弾のうち692発はアイアンドームによって迎撃された[168]。またハマースは地下トンネルを利用してイスラエル領内への侵入攻撃を繰り返したが、イスラエル軍は同年7月17日に地上作戦を開始し、ガザ地区で32本の地下トンネルを発見・破壊した。このうち14本はイスラエル領内まで達しており、ハマースによるトンネルを利用した侵入攻撃も5回行われた[168][169]。
イスラエル軍はハマースのロケット発射施設、武器製造・保管施設、指揮統制施設、訓練施設、地下トンネルなどを攻撃し、ハマースの軍事組織は大きな損害を受けた。イスラエル政府が戦闘後に行った身元調査では、死亡した武装組織要員として特定された936人のうち631人がハマース所属とされた[170]。
8月21日にはイスラエル軍とイスラエル総保安庁の作戦により、カッサーム旅団の上級指揮官ではラエド・アル=アッタール、ムハンマド・アブー・シャマラ、ムハンマド・バルフームの3人が空爆で排除された。アッタールとアブー・シャマラはシャリート拉致作戦にも関与していた[171]。イスラエル軍は作戦終了時までにハマースの武装要員数百人を排除し、多数を負傷させたと発表した[168]。
この戦闘中、ハマースはガザ地区内部でファタハ関係者やイスラエルへの協力を疑ったパレスチナ人に対する弾圧を行った。アムネスティ・インターナショナルの調査では、ハマース部隊は2014年7月から8月にかけて少なくとも23人のパレスチナ人を裁判によらず処刑し、ファタハの構成員・支持者を含む多数のパレスチナ人を拉致、拘束、拷問した[172]。
特に8月22日には、ハマース主導の武装要員がイスラエルへの「協力者」とされたパレスチナ人18人を処刑した。このうち7人は頭部を覆われ、手を縛られた状態でガザ市中心部のモスク前に並べられ、金曜礼拝を終えた群衆の前で銃殺された。翌23日にも4人が処刑され、8月21日から23日までの3日間だけで計25人が処刑された[173][174]。
同年10月末までに、ハマースの内部治安機関と警察による拷問または虐待について338件の訴えがパレスチナ独立人権委員会に寄せられた。ハマース治安部隊は市民活動家、大学教授、ファタハ構成員らを恣意的に拘束するなど、ガザ地区における政治的反対勢力への弾圧も続けた[175]。
2017年の「政治文書」
2017年5月1日、ハマースは2017年ハマース政治文書を発表し、1988年のハマース憲章から一部の政治的立場を変更した。1988年憲章ではハマースをムスリム同胞団のパレスチナ支部と位置付けていたが、新文書では同胞団への言及を削除し、ハマースを「パレスチナのイスラム民族解放・抵抗運動」と定義した[176][177]。
領土問題でも、1988年憲章がパレスチナ全土を不可分のイスラムの土地とし、和平による領土問題の解決を拒否していたのに対し、2017年文書は1967年6月4日の境界線に基づき、東エルサレムを首都とする独立したパレスチナ国家の樹立を「国民的合意の公式」として初めて正式に受け入れた[178]。
ただし、イスラエルそのものを承認する立場には転じなかった。新文書でも「川から海までのパレスチナ全土に対する権利」を放棄せず、1967年境界での国家樹立をイスラエル承認とはしないことを明記した。また、イスラエルとの武力闘争を放棄せず、武装闘争をパレスチナの権利を守るための「戦略的選択」と位置付けた[178]。
この文書は1988年憲章を正式に廃止したものではなく、ハマース指導部も従来の基本原則を放棄したものではないと説明した[179]。
2021年のロケット攻撃とイスラエル軍の反撃
2021年5月10日、ハマース軍事部門カッサーム旅団などガザ地区の武装組織が、エルサレムを含むイスラエルの人口密集地域に向けてロケット弾攻撃を開始した。その後もハマースはイスラエル南部・中部の都市に対する大規模なロケット弾・迫撃砲攻撃を継続した。これらの攻撃では5歳男児と16歳少女を含む13人が死亡し、インド人介護職員やタイ人労働者も犠牲となった[180][181]。
ハマースによるロケット攻撃を受け、イスラエル軍は同日、ガザ地区のハマースおよびイスラーム聖戦の軍事拠点、ロケット発射施設、武器庫、指揮施設などへの空爆を開始した[182]。ハマースの軍事指揮系統への標的攻撃も行われ、5月12日にはカッサーム旅団ガザ市旅団長バッセム・イッサをはじめ、ミサイル開発、兵器製造、サイバー部門などに関与していたハマース上級要員16人が排除された[183]。
それでもハマースと他のガザ地区武装組織はロケット攻撃を続け、11日間の戦闘中にイスラエルへ4,400発以上のロケット弾・迫撃砲弾を発射したが、イスラエルの防空システム「アイアンドーム」は人口密集地域への着弾が予測されたロケット弾の大半を迎撃した[180][184]。イスラエル側の発表では、攻撃に使用されたロケット弾はシリア製のM-302(原型は中国製の「衛士」)とされている[185]。
イスラエル軍はさらに、ハマースがガザ地区地下に構築していた大規模な地下トンネル網「メトロ」への集中攻撃を実施した。戦闘終了までに100キロメートル以上の地下トンネルが破壊され、数百か所のロケット発射設備や関連軍事施設も攻撃された[186]。
5月21日、エジプトの仲介による停戦が発効し、11日間の戦闘は終了した。ハマース指導部は停戦後にイスラエルに対する「勝利」と一方的に宣言していたが[187]、イスラエル軍は作戦終了時、ハマースとイスラーム聖戦の武装要員約225人を排除し、このうち25人が上級指揮官だったこと、またハマースのロケット製造能力、発射施設、地下施設、指揮統制能力にも大きな打撃を与えたことを発表した[188]。
住民の生活苦への抗議運動とハマースによる弾圧
2023年、戦争前の段階でガザ地区では慢性的な停電、高い失業率、貧困、生活費の上昇などによる住民の疲弊が深刻化していた。世界銀行によれば、同年半ばのガザ地区の貧困率は63.7%に達し、9月時点の失業率は45.1%、若年失業率は59.5%だった[189]。また、国際連合貿易開発会議(UNCTAD)によれば、戦争開始前にはガザ住民の約80%が国際援助に依存していた[190]。
一方でハマースは巨大な武装部隊カッサーム旅団を維持し、ロケット弾、無人機、広大な地下トンネル網などに多額の資金を投入していた。2023年時点でハマースの年間軍事予算は1億~3億5,000万ドルに達すると推計されていた[191]。
こうした状況を背景に、7月30日にはSNS上の「私たちは生きたい」(We Want to Live)運動の呼び掛けに応じ、ガザ市、ハーン・ユーニスなどガザ地区各地で数千人がハマース統治への抗議デモを行った。参加者は停電、失業、生活環境の悪化などに抗議し、一部ではハマースの旗が焼かれた。これはハマース統治下のガザ地区では異例の大規模な反政府抗議となった[192]。
ハマース治安部隊はこれらの抗議行動を強制的に解散させ、参加者を殴打・拘束した。パレスチナ独立人権委員会の記録では、7月30日のデモで43人が拘束され、15人が重傷を負った。8月4日に再び数百人が抗議集会を行うと、治安部隊は集会場所へ向かう道路を封鎖し、参加者を殴打して多数を拘束したほか、取材中の記者も拘束し、機材を押収した[193][194]。
ハマースによる弾圧はこのデモだけに限られなかった。ヒューマン・ライツ・ウォッチによれば、2023年1月から8月までにハマース当局を対象とする恣意的拘束の訴えが56件、拷問・虐待の訴えが81件寄せられた。米国務省も、同年1月から9月までにハマースが政権批判者60人を拘束、尋問、嫌がらせ、財産押収などの対象とし、少なくとも13人のジャーナリストが嫌がらせ、機材没収、拘束などを受けたと記録している[195][193]。
国際人権団体もハマース当局による弾圧を批判した。アムネスティ・インターナショナルは7月30日と8月4日のデモが暴力的に解散され、数十人が拘束されたと報告した[196]。国境なき記者団(RSF)も、8月4日の平和的抗議を取材していた記者に対する拘束、脅迫、機材押収などを「重大な報道の自由への侵害」として非難し、ハマース系治安部隊に対して記者の活動を妨害しないよう要求した[197]。
2023年10月7日のイスラエル南部での大規模テロ
2023年10月7日、ハマースは軍事部門カッサーム旅団を中心に、イスラーム聖戦など複数のパレスチナ武装組織とともにイスラエルへの大規模テロ攻撃「アル=アクサーの洪水作戦」を開始した。攻撃はガザ地区からイスラエルに向けて3,000発以上のロケット弾を一斉に発射することから始まり、多数の武装要員が陸路、海路、パラグライダーなどを使用してガザ地区との境界を突破し、イスラエル南部へ侵入した[198][199]。
侵入したハマースなどの武装要員はイスラエル軍基地を襲撃すると同時に、国境付近の20か所以上の民間人居住地域へ侵入した。ベエリ、クファルアザ、ニル・オズなどのキブツで住民を殺害したほか、レイム近郊の音楽祭を襲撃して多数の参加者を殺害・負傷させた。米国務省は、攻撃者が男性、女性、子供、乳児、高齢者を殺害し、強姦、性的暴行、遺体損壊などの行為も行ったと記録している[198]。
この攻撃によりイスラエル人および外国人約1,200人が殺害された。米国務省によれば少なくとも843人が民間人で、36人の子供を含んでいた。また外国人にも多数の死者が生じ、アメリカ人44人をはじめ、フランス、タイ、ネパール、フィリピンなど多数の国の国民が犠牲となった[200]。国際連合人権理事会の独立調査委員会も、民間人、女性、子供、高齢者を含む約1,200人がこの攻撃で死亡したと認定している[199]。
ハマースなどはさらに、乳幼児、子供、女性、高齢者、外国人、イスラエル兵を含む約250人を拘束してガザ地区へ連行した。米国務省は253人、後の米政府発表では254人が人質として連行されたとしており、アメリカ人12人も含まれていた[201]。
この攻撃はイスラエル建国以来最悪規模の民間人殺害事件となり、イスラエル政府は同日中に戦争状態に突入したことを宣言した。イスラエル軍は侵入した武装要員を排除して領土奪還した後、ガザ地区のハマース軍事組織に対する大規模な反撃作戦を開始した[202]。
ガザ戦争
テロ攻撃後、イスラエル政府はハマースへの全面反撃を開始し、同月27日にはガザ地区北部へ地上部隊を投入し、本格的にハマースの指揮施設、ロケット発射施設、武器庫、地下トンネル網などを攻撃した[203]。
ハマース最高幹部の大量死
ハマースは軍事部門の指揮官を戦争初期から相次いで失っていった。2023年10月17日にはカッサーム旅団中央ガザ旅団司令官アイマン・ノーファルが死亡、同時期にはハマース諮問評議会議長オサマ・マジニもイスラエル軍の攻撃で死亡した。11月にはカッサーム旅団軍事評議会メンバーで北部ガザ旅団司令官のアハメド・ガンドゥールも死亡した[26]。
2024年1月2日には、ハマース政治局副議長でカッサーム旅団創設者の一人でもあったサレハ・アル=アルーリがベイルートで殺害。3月にはカッサーム旅団副司令官で、ヤヒヤ・シンワル、ムハンマド・デイフとともに2023年10月7日の攻撃を計画した軍事指導部の中心人物マルワーン・イーサーもイスラエル軍の空爆で死亡した[22][204]。
イスラエル軍はガザ地区各地でハマースの旅団・大隊指揮系統への攻撃も継続した。2024年7月までにイスラエル側は、ハマース戦闘員少なくとも1万4,000人を殺害または拘束し、軍事指導部のおよそ半数を排除したとしている。ハマースは多数の指揮官と軍事施設を失い、大規模部隊による戦闘から、小規模部隊による待ち伏せ、即席爆発装置、地下トンネルを利用した攻撃へ比重を移した[205]。
7月13日、イスラエル軍はハーン・ユーニス地区を空爆し、カッサーム旅団最高司令官ムハンマド・デイフとハーン・ユーニス旅団司令官ラファ・サラマがその空爆で死亡している[27][22]。
7月31日にはハマース政治局長イスマーイール・ハニーヤが訪問先のイラン・テヘランで暗殺された。これによりハマースは国外政治部門の最高指導者も失い、後任には10月7日の攻撃を主導したガザ地区指導者ヤヒヤ・シンワルが選出された[22]。
イスラエル軍は同年、ハマースのガザ地区統治機構にも攻撃を加えた。ガザ地区統治機構最高幹部ラウヒ・ムシュタハ、政治局治安担当サメフ・アル=シラージ、総合治安機構司令官サミ・オデの3人が、ガザ地区北部の地下施設に対するイスラエル軍の空爆で死亡している[25]。
そしてついに、10月16日にはハマース最高指導者ヤヒヤ・シンワルもガザ地区南部ラファフでイスラエル軍部隊との戦闘で戦死した[206]。
シンワル死亡後は弟のムハンマド・シンワルがガザ地区に残る軍事指導部の中心となったが、彼も2025年5月13日にイスラエル軍の空爆で死亡。同年には長年カッサーム旅団の声明を発表してきた軍事部門報道官アブー・ウバイダもイスラエル軍の攻撃で死亡している[23]。
ムハンマド・シンワルの死亡後には、ガザ市旅団を長く指揮していたイズ・アルディン・アル・ハダドがカッサーム旅団の最高指揮を引き継いだ。しかし2026年5月15日、ハダドもガザ市へのイスラエル軍の空爆で死亡した[207]。後任として軍事部門最高司令官となったムハンマド・オデも、わずか11日後の5月26日にガザ地区北部へのイスラエル軍の攻撃で死亡した[24]。
ハマース軍事インフラの破壊
人的損失と並行して、ハマースの軍事インフラも壊滅的な打撃を被った。イスラエル軍によれば、2024年4月2日までにガザ地区で約3万2,000か所を空爆し、ロケット弾・ロケット発射装置約3,250点を押収または破壊したほか、地下施設、指揮所、武器庫、軍事拠点など約4,250か所の軍事インフラを破壊した[208]。
特に大規模な破壊を受けたのがハマースの地下トンネル網である。『ワシントン・ポスト』が2024年1月に報じた情報関係者の説明では、イスラエル軍はこの時点までに5,600か所を超えるトンネル坑口を発見し、その多くを破壊していた[209]。中央ガザを南北に分ける回廊周辺だけでも、同年4月までに20キロメートル以上の地下トンネルが破壊された[210]。さらに5月以降のラファフ攻勢では、ガザ地区とエジプトの境界付近で確認された20本の越境トンネルのうち14本が破壊され、ラファフ周辺では総延長24マイル(約39キロメートル)を超える地下施設が破壊された[211]。7月のシュジャイヤでの作戦でも、総延長約6キロメートルに及ぶ6本の地下トンネルが破壊され、内部から指揮統制施設、武器、情報資料などが発見された[212]。
こうした施設の破壊はハマースの部隊編制や作戦能力にも影響した。2024年1月、戦争開始時に存在したハマース戦闘部門カッサーム旅団の24個大隊のうち17個大隊が、組織的な軍事部隊としての能力を大きく失い、小規模なゲリラ集団に近い状態まで弱体化した[209]。
アメリカ合衆国国務省も同年5月から6月にかけ、イスラエル軍の作戦によってハマースの地下兵器製造施設が破壊され、ガザ地区北部および中部では大隊指導部の大半が失われたとして、ハマースには2023年10月7日と同規模のテロ攻撃を再び実行する能力はもうないだろうとの評価を示した[213][214]。
同年10月には、『ワシントン・ポスト』が地域の情報当局者の推計として、約1万5,000人のハマース戦闘員が死亡し、推定約5,700か所あったトンネル坑口の多くが破壊されたほか、武器・現金の備蓄も減少したことを報じている[215]。
ガザ地区の支配領域の大幅な喪失
戦争以前、ハマースは2007年の武力掌握以降、ガザ地区のほぼ全域を事実上統治していたが、イスラエル軍の地上作戦によって支配領域も大幅に縮小した。イスラエル軍はガザ地区北部から地上作戦を拡大し、中央部を横断する回廊、ガザ・エジプト国境沿い、ラファフなどを順次掌握した。2025年5月時点で、イスラエル軍はすでにガザ地区のおよそ3分の1を直接支配し、確保した地域に監視塔や軍事拠点を設置していた[216]。
これに先立つ4月には、イスラエル軍がガザ地区南部でラファフとハーン・ユーニスの間を横断する「モラグ回廊」を確保し、すでに掌握していたエジプト国境沿いの「フィラデルフィ回廊」と合わせて、ラファフをガザ地区の他地域から軍事的に分断した[217]。
5月中旬にはイスラエル軍が大規模地上作戦「ギデオンの戦車作戦」を開始した。従来のようにハマース拠点を攻撃した後に撤収する方式から、戦略的地域を占領してそのまま保持する方式へ作戦方針を転換し、ガザ地区北部・南部の双方から支配地域を拡大した[218]。これにより、8月までにイスラエル軍はガザ地区全体の約75%を実効支配し、ハマースの支配領域はガザ市、デイル・アル=バラ、ハーン・ユーニス西部などを中心とする分断された地域へ縮小した[219]。
2025年10月、ハマースの武装解除やガザ地区の非軍事化などを盛り込んだアメリカの20項目和平計画に基づき、イスラエルとハマースの停戦が成立。その第1段階としてイスラエル軍は「イエローライン」まで撤退し、直接支配地域はいったんガザ地区の約53%まで縮小した。イスラエル軍はラファフの大部分、ガザ地区東部・北部の広い地域、ガザ市の一部などを引き続き保持した。この和平合意では、ハマースの武装解除、国際治安部隊の展開、暫定統治機構の設置という動きと並行して、イスラエル軍が都度追加撤退していくことが予定されていた[220]。
ところが、ハマースが停戦合意を違えて武装解除を拒否し、国際治安部隊の展開なども進まなかったため、イスラエル軍の追加撤退は実現しなかった[220]。
ハマースが武装解除に応じない中、イスラエル軍はイエローライン沿いの軍事拠点を強化し、複数地域で境界線をハマース側へ前進させた。そのため、2026年3月に公表された軍の地図などを基にした分析では、イスラエル軍の支配・立入制限地域はガザ地区の約64%に拡大したと推計された[221]。
このため、ハマースは戦争前に保持していたガザ地区の広大な支配地域の大半を失い、イスラエル軍非占領地域のうち沿岸部の狭い地域を支配するのみとなっている[222]。
ただし、イスラエル軍は占領地域の拡大に際し、戦闘地域から住民を退避させたうえで、確保した地域を軍事的に保持し、ハマースが再び進出することを阻止する方針を取っている。戦闘地域から民間人を遠ざけて人的被害を減らすとともに、民間人が密集する地域に展開するハマース戦闘員や軍事施設と住民を可能な限り分離し、軍事作戦を実施できる環境を確保するためであり、退避命令に際しては電話、携帯電話へのメッセージ、ビラ、音声放送などが使用された[223]。
この結果、多数の住民はイスラエル軍支配地域の外側へ移動し、ガザ市西部、ヌセイラト、デイル・アル=バラ、ハーン・ユーニス西部、アル=マワシなどの地中海沿岸地域に集中するようになった。ハマースは広大な支配領域を失った一方、住民の多くはハマースの影響力が残るこれらの地域に居住しているので、支配領域の縮小に比べれば、支配下にある人口の減少は限定的とみられる[224]。
ガザ支配機構の解散表明
2026年7月6日、ハマースはガザ地区で省庁を統括してきた事実上の統治機構である「政府緊急委員会」を解散し、行政権をパレスチナ人テクノクラートで構成される「ガザ行政国家委員会」に移譲する用意があると発表した。これはアメリカが主導する戦後ガザ統治計画の一環であり、ハマースが2007年以来維持してきた直接的な行政統治を終了させるための措置とされた[32]。
ただし、ハマースは各省庁そのものやハマース政権が任命した職員を解散せず、イスラエル軍支配地域の外側に残る地域では治安・警察への関与も継続するとした。このため、行政機構の解散表明後もハマースの統治能力が完全に消滅したわけではない[32]。
移譲先とされた「ガザ行政国家委員会」は15人のパレスチナ人テクノクラートで構成され、アリー・シャアスが委員長を務めた。シャアスは、委員会が実際に統治を開始するには必要な資金や活動条件に加え、「一つの権力、一つの法律、一つの武器」の確立が必要だと表明した[32]。
一方、イスラエル政府はハマースの発表を実質的な権力放棄とは認めていない。ギドン・サール外相は、ハマースが武装を維持したままテクノクラート政府に行政を委ねる姿勢を示すのは、和平計画で要求されている武装解除を回避するための措置であると批判し、ハマースが武器を保持する限り民間政府も同組織の影響下に置かれるとの見解を示した。アメリカ主導の「平和評議会」も、ハマースの発表について「約束ではなく行動」で判断するとした[32]。
思想
「ハマース憲章」から見える思想
1988年の『ハマース憲章』は冒頭から、イスラエルはイスラムによって消滅させられるまで存在すると宣言しており、現在のイスラエル領を含む「パレスチナ全土」にイスラムの支配を確立することを最終目標としている[4]。
同憲章は単なる領土・外交政策にとどまらず、宗教を個人と社会のあらゆる領域を規定する絶対的な原理として位置付ける。第1条はイスラムを、組織の思想だけでなく「宇宙、人生、人間」を理解する基準であり、あらゆる行動を裁定する原理と定める。第3条では構成員をアッラーに忠誠を誓い、アッラーを畏れ、ジハードの旗を掲げる者と規定し、第4条では組織の信仰と思想に従い、その秘密を守る者を構成員として受け入れるとしている。第5条はハマースの理念を世界中のムスリムに及ぶものとし、第6条ではパレスチナの「一寸ごと」にアッラーの旗を掲げることを目標としている[4]。
第8条は組織の標語として、アッラーを目的、ムハンマドを模範、クルアーンを憲法、ジハードを道としたうえで、「アッラーのための死は最高の願い」と明記している[4]。さらに第7条では、終末の日にムスリムがユダヤ人と戦い、ユダヤ人が石や木の背後に隠れると、それらがムスリムに居場所を知らせて殺害を促すというハディースを引用し、この宗教的終末論をイスラエルとの闘争に結び付けている[4]。
第11条は「パレスチナ全土」を「審判の日まで将来のムスリム世代のために聖別されたワクフ」と規定し、国王、大統領、国家、パレスチナ組織を含め、いかなる人間にもその一部を放棄する権限はないとしている。領土問題を政治的交渉によって変更可能な問題ではなく、将来の全ムスリムを拘束する宗教上の絶対命令として扱っている[4]。
このため第13条は和平案、国際会議、政治的妥協そのものをハマースの宗教原則に反するとし、パレスチナの一部を譲歩することを「宗教の一部を放棄すること」と同一視している。そのうえで、パレスチナ問題にはジハード以外の解決策はなく、和平提案や国際会議は無駄であると宣言している[4]。第27条でも世俗主義は宗教思想と完全に相容れないとし、イスラムを採用しない世俗的なパレスチナ国家構想を否定している[4]。
また憲章は、この思想を次世代へ体系的に継承することまで要求している。第15条はパレスチナ解放のためのジハードを世界のすべてのムスリムの「個人的義務」とし、学者、教師、教育者、報道・メディア関係者、知識人、若者、宗教指導者を動員して「ジハードの精神」を社会に浸透させるよう要求する。さらに学校教育から西洋・キリスト教などの「思想的侵略」の影響を除去し、パレスチナ問題が政治問題ではなく宗教問題であるとの認識を子供たちに植え付ける必要があるとしている[4]。
第16条は、子供たちにクルアーン、スンナ、イスラム史を体系的に学ばせるだけでなく、敵の人的・財政的能力、その弱点・強み、支援勢力についても教育し、明確な目的と進路を自覚した「戦うムスリム」を育成することを求めている。第17条・第18条では女性を次世代の戦闘員を育てる「人間を作る者」と位置付け、家庭と女子教育にも「解放の戦い」のための役割を与えている[4]。第19条では文学、詩、歌、演劇、説教などの芸術まで「思想的動員」の手段として位置付けている[4]。
同憲章には典型的な反ユダヤ主義的陰謀論も組み込まれている。第22条は、ユダヤ人または「シオニスト」が財力によって世界の新聞、通信社、出版、放送を支配し、フランス革命、共産主義革命、第一次世界大戦、第二次世界大戦を引き起こし、世界支配のために国際連盟や国際連合を設立したと主張する。またフリーメイソン、ロータリークラブ、ライオンズクラブなどを社会破壊のための秘密組織として描き、第28条ではこれらの組織が社会の価値観を破壊し、麻薬やアルコールまで利用してイスラム社会を腐敗させていると主張している[4]。
このようにイスラエルとの紛争は単なる政治・外交上の対立に留まるものではなく、イスラムとその敵との宗教的・終末論的闘争として構成されているのであり、個人の信仰、死生観、家庭、女性、教育、学校教材、報道、芸術、外交、領土政策までをその闘争のために動員する包括的な思想体系が示されている[4]。
2017年文書に見える思想
2017年5月1日に発表された「一般原則・政策文書」は、1988年憲章にあった「イスラエルの破壊」を直接的に掲げる表現や、ユダヤ人による世界支配などの露骨な反ユダヤ主義的陰謀論は姿を消した。しかし、イスラエルを国家として承認せず、現在のイスラエル領を含む「パレスチナ全土」の「解放」という最終目標を放棄せず、武装闘争の方針を維持している。また、ハマースの政治的・軍事的目標をイスラム、神意、聖地、ウンマ、ジハードなどの宗教概念と結び付ける思想も明確に残された[225]。
文書は「慈悲深く慈愛あまねきアッラーの御名において」で始まり、ムハンマドを「使徒たちの長」「ムジャーヒディーンの指導者」と称して祝福を祈る。前文ではパレスチナについて、イスラムによって地位を高められた土地であり、その信仰がパレスチナに「精神」を吹き込み、防衛の教義を築いたとする。さらにパレスチナを「ウンマの精神」、その中心的課題であり、「人類の魂と生きた良心」であると表現している[225]。
第1項はハマースを「パレスチナのイスラム的民族解放・抵抗運動」と定義し、イスラムを単なる宗教的背景ではなく、組織の原則、目的、手段を決定する「準拠枠」と規定する。第3項もパレスチナを単なる民族的領土ではなく「アラブ・イスラムの土地」「祝福された聖なる土地」と定義し、すべてのアラブ人・ムスリムの心に特別な位置を占めるとしている[225]。
第7項では、パレスチナを「アラブ・イスラムのウンマの中心」に位置付け、エルサレムを「アッラーによって祝福された」場所、パレスチナ全体を「アッラーが人類のために祝福した聖地」とする。また、その土には「何千もの預言者、教友、ムジャーヒディーン」の遺骸が眠っているとし、この地を守る者は反対者や「裏切る者」にひるむことなく、「アッラーの約束が成就するまで」使命を続けると宣言している[225]。
第8項ではイスラムを、特定の宗教儀礼に限定されない「あらゆる時代、あらゆる場所に適合する包括的な生活様式と秩序」と位置付け、政治、社会、抵抗運動を含むハマースの活動全体をその枠内に置いている[225]。
第10項はエルサレムのイスラム教・キリスト教の聖地がパレスチナ人とアラブ・イスラムのウンマに属するとし、「エルサレムの石一つたりとも放棄できない」とする。第11項ではアル=アクサー・モスクについてもパレスチナ人とウンマに属し、イスラエルには権利がないとする[225]。
また、イスラエルについて文書は、単なる領土紛争の相手国としてではなく、アッラーによって祝福され、ウンマに託された「聖なるパレスチナ」から排除されるべき「シオニスト計画」として位置付けている。時間がどれほど経過しようとも、政治状況がどのように変化しようとも、また外部からどのような圧力を受けようとも、パレスチナの土地は一部たりとも放棄できないと宣言し、「川から海までのパレスチナの完全な解放」を最終目標とする[225]。
1967年6月4日の境界線に基づくパレスチナ国家については、これを「民族的合意の公式」として受け入れてはいるが、イスラエルの承認も、パレスチナ全土に対する権利の放棄も拒否している。すなわち文書の論理では、1967年線は「祝福された聖地」の一部を永久に譲り渡す境界ではなく、「アッラーの約束が成就するまで」全土の解放を追求し続けるという宗教的使命を保持したまま受け入れ得る一時的な政治的枠組みにすぎない[225]。
この土地への要求は第23項以降でさらに宗教的義務へと転化される。文書は「パレスチナ解放のための抵抗とジハード」を「権利、義務、名誉」と呼び、その責任をパレスチナ人だけでなくアラブ・イスラムのウンマ全体に負わせている。武装抵抗も一時的な戦術ではなく「戦略的選択」とされ、パレスチナ全土の「解放」は、世代交代や国際政治によって消滅する要求ではなく、聖地を取り戻すまで継承される宗教的・共同体的使命として描かれている[225]。
殉教思想と終末論的死生観
ハマースの思想では、戦闘による死が単なる犠牲ではなく「殉教」として宗教的に意味付けされ、死後の楽園、神による勝利、終末におけるイスラムの勝利と結び付けて語られてきた。こうした死生観は1988年憲章だけに限られず、指導者の言動やハマース系メディアにも繰り返し現れている。
ハマース最高指導者ヤヒヤ・シンワルは2021年5月、イスラエルによって自身が暗殺されることについて「イスラエルが私に与えられる最大の贈り物」と表現し、病気や自然死ではなく、イスラエル軍のF-16やミサイルによって「殉教者」として死ぬことを望んでいると公言した[226]。
また、シンワルは、自らが掲げる政治的・軍事的目標のためには、イスラエル人だけでなくパレスチナ人を含む多数の民間人が死亡することも受け入れる姿勢を以前から示していた。イスラエルの刑務所で長年シンワルと接触し、数百時間にわたって会話した元刑務所職員ユヴァル・ビットンは、シンワルに対し、その目標を達成することは多数の無実のイスラエル人・パレスチナ人の命に値するのかと尋ねたという。これに対してシンワルは、「われわれは2万人、3万人、10万人を犠牲にする用意がある」と答えたとされる[227]。
ハマース政治局長イスマーイール・ハニーヤも2006年12月、ハマース創設19周年の大規模集会で、自分たちは政府の閣僚になるためにハマースを選んだのではなく、「殉教者(シャヒード)」となり「アッラーのために命を犠牲にする」ために運動を選んだと述べた[228]。
この死生観は自身の家族の死についても示された。2024年4月10日、イスラエル軍の空爆で息子3人と孫らが死亡した際、ハニーヤはアルジャジーラの取材に対し、「3人の息子と孫たちの殉教という名誉を授けてくださった神に感謝する」と述べている。さらに、「彼らの純粋な血はエルサレムとアル=アクサー解放のためのもの」とし、その血によって「希望、未来、自由」を生み出すと語った[229]。
ハマース系のアル=アクサTVでも、殉教、ジハード、イスラムの勝利といった思想が児童向け番組にも持ち込まれている。2007年3月には、自爆攻撃でイスラエル人4人を殺害した女性自爆テロ犯リーム・アル=リヤシの幼い子供2人を番組に出演させ、司会者が母親について「どこへ行ったのか」と尋ねると娘に「楽園へ」と答えさせ、「何をしたのか」と尋ねると「殉教した」と答えさせている。さらに司会者は子供たちに、母親が何人のユダヤ人を殺したかを数えさせた[230]。
同年には児童番組『明日の開拓者』で、ミッキーマウスに酷似した着ぐるみキャラクター「ファルフール」(فرفور, Farfūr、英字表記例:Farfur、Farfour、Farfoor)が登場し、子供たちにイスラムによる世界的支配、イスラエルとの戦い、殉教を説いた。番組内でファルフールがイスラエル人を演じる人物に殺害されると、司会者はファルフールが土地を守って「殉教した」と説明した[231]。
組織

ハマースは、政治指導部、軍事部門、地域別の指導機構、ガザ地区の行政・治安機構、社会・慈善事業網、資金調達・投資組織、国外組織、広報機構などから構成される。政治活動、武装活動、社会事業はそれぞれ独自の機構を持つ一方、最高指導部の下で同一の運動を構成している。軍事部門イッズッディーン・アル=カッサーム旅団について、オーストラリア政府は政治指導部に従属しながら独自の指揮系統と一定の作戦上の自律性を有すると評価している[232]。
2023年以降のガザ戦争では政治・軍事双方の最高幹部が相次いで死亡し、従来の指揮系統は大きく再編された。イスマーイール・ハニーヤとヤヒヤ・シンワルの死後は国外の複数幹部による暫定的な集団指導体制が置かれ、2026年7月にカタール・ドーハに在住するハリル・アルハヤが政治局長・全体指導者に選出された[29]。
指導・意思決定機構
シュラ評議会
ハマースの最高レベルの諮問・選出機関がシュラ評議会(諮問評議会)である。ガザ地区、ヨルダン川西岸地区、国外居住者、イスラエル国内の収監者を基盤とする地域別シュラ評議会があり、それぞれが地域政治局を選出するとともに、中央のシュラ評議会を構成する。評議員の多くは秘密とされている[233]。
中央シュラ評議会は政治局を選出し、組織全体の基本方針の形成に関与する。2026年の政治局長選出は約50人からなる評議会によって行われ、ハリル・アルハヤが新たな全体指導者に選出された[29]。シュラ評議会議長はムハンマド・イスマーイル・ダルウィーシュ(別名アブ・オマル・ハサン)で、政治局員および2024年以降の暫定指導委員会の一員でもある[234]。
政治局
政治局はハマースの主要な意思決定機関であり、シュラ評議会の支持を基盤として政治、社会、軍事に関する組織全体の政策を決定する。中央政治局は原則として15人で構成され、シュラ評議会によって4年ごとに選出される。これとは別にガザ地区、ヨルダン川西岸地区、国外、収監者の各部門に地域政治局が置かれている[235]。
2024年7月に政治局長イスマーイール・ハニーヤが死亡し、後任のヤヒヤ・シンワルも同年10月に死亡したため、ハマースは最高指導者を1人に集中させる従来の体制を一時停止し、アブ・オマル・ハサン、ハーリド・マシャアル、ハリル・アルハヤ、ザーヘル・ジャバーリン、ニザール・アワダッラーらからなる暫定的な集団指導体制を採用した[235]。その後、2026年7月にアルハヤが政治局長に選出され、単独の全体指導者を置く体制に復帰した[29]。
軍事部門

ハマースの軍事部門はイッズッディーン・アル=カッサーム旅団である。ハマース創設以前からアフマド・ヤースィーン周辺では武器の調達や武装細胞の組織化が進められ、1980年代には対イスラエル攻撃を目的とする秘密武装組織が活動していた。ハマース結成後にこれらの武装組織が再編され、1991年にカッサーム旅団が正式に設立された[232]。
カッサーム旅団はロケット弾・迫撃砲による攻撃、銃撃、爆破、自爆攻撃、イスラエル兵・民間人の拉致などを実行してきた。組織上は政治指導部の下に置かれるが、個々の軍事作戦については独自に計画・実行する能力を持つ。ハマースの政治指導者らも過去に政治部門と軍事部門が同一組織の構成部分であることを公言している[232]。
2023年以降のガザ戦争で、軍事部門の最高指導部はイスラエル軍の攻撃によってほぼ全滅した。最高司令官ムハンマド・デイフ、副司令官マルワーン・イーサー、デイフの死後に軍事部門を指揮したムハンマド・シンワルらが死亡し[22][23]、ムハンマド・シンワルの後任となったイズ・アルディン・アル・ハダドも2026年5月に死亡した。その後任ムハンマド・オデも就任直後の同月27日に殺害され、ハマース関係筋はロイターに対し、オデが軍事部門最高指導評議会の最後まで生存していた主要メンバーだった可能性があると述べた[236]。
旅団司令官も相次いで死亡している。ガザ地区の軍事組織は、北部ガザ旅団、ガザ市旅団、中部旅団、ハーン・ユーニス旅団、ラファ旅団の5個地域旅団に区分され、主要司令官には北部ガザ旅団のアハメド・ガンドゥール、ガザ市旅団のイズ・アルディン・アル・ハダド、中部旅団のアイマン・ノーファル、ハーン・ユーニス旅団のラファ・サラマ、ラファ旅団のムハンマド・シャバナがいたが、ノーファルは2023年10月、ガンドゥールは同年11月、サラマは2024年7月、シャバナは2025年、ハダドは2026年5月までにそれぞれ死亡した。2026年9月には、ハーン・ユーニス旅団司令官で軍事部門最高指導評議会メンバーでもあったムハンマド・アブデル・サラム・アル=ヤズーリがイスラエル軍の攻撃で死亡し[237]、同月15日にはラファ旅団司令官ナエル・アブ・オベイドもイスラエルの攻撃で死亡している[30]。
治安・情報機構
ハマースは軍事部門とは別に、組織内部の防諜、情報収集、反対派の監視などを行う治安機構を発達させてきた。その起源はハマース創設前後の1980年代後半にヤヒヤ・シンワルとラウヒ・ムシュタハらが設立した最初期の治安組織にあり、後にマジュド(al-Majd)として知られるようになった。同組織はイスラエルへの協力を疑われたパレスチナ人を追跡し、殺害する活動にも従事した[238]。
最高指導者のヤヒヤ・シンワル自身もマジュドの責任者となり、イスラエル兵2人の拉致・殺害と、イスラエルへの協力者と疑ったパレスチナ人4人の殺害に関与したとしてイスラエルで有罪判決を受けて服役した経歴がある[239]。
ガザ地区の統治機構
2007年にハマースがガザ地区を武力制圧すると、運動組織とは別にガザ地区を統治する事実上の政府機構を構築した。警察、国内治安・情報機関、国境警備、民間防衛、国家治安部隊、軍事警察、刑務所、司法機構などを掌握し、省庁を通じて行政を行った。アメリカ国務省の人権報告書は、ハマースの国内治安機関と警察が政治的反対者、ファタハ支持者、市民活動家、ジャーナリスト、ハマース批判者らを恣意的に拘束し、拷問や虐待を行ったとの人権団体の報告を記録している[193]。また、ハマース当局が軍事部門を国内反対派の弾圧に使用した事例も報告されている[240]。
2023年以降の戦争によって行政機構も大きな損害を受けたが、ハマースは残された支配地域で警察・治安組織に影響力を及ぼしている。2026年3月時点でハマース系警察は約1万人規模とされ、市場、避難民居住地域などで警備・治安維持に従事していた[241]。
2026年7月6日、ハマースはガザ地区の政府を解散し、行政権をパレスチナ人テクノクラートによる統治機構へ引き渡すと発表した。ただし、省庁とその職員は直ちに消滅したわけではなく、ハマースは自らの支配地域における治安・警察機構への関与を維持した[32]。
2026年現在のハマースは2023年ガザ戦争前のようなガザ地区全域の統治機構を保持してはいないものの、残された支配地域では独自の武装・治安組織を維持している。
社会事業・慈善事業網
ハマースの社会・慈善事業は一般にダアワと呼ばれ、その起源はハマース結成以前にムスリム同胞団系活動家がガザ地区で築いた宗教・社会事業網にある。アフマド・ヤースィーンらはモスクを基盤として慈善団体、学校、宗教教育機関、診療所、孤児・貧困家庭への援助組織などを発展させ、ハマース結成後はこれらが組織の社会的基盤となった[242]。
ダアワには教育、医療、孤児・貧困家庭への援助、宗教活動、女性団体、スポーツクラブ、学生組織などが含まれ、行政サービスの不足を補う一方、ハマースの思想の普及、支持者獲得、構成員の勧誘および組織基盤の拡大にも利用されてきた。
慈善活動を行う団体のすべてが軍事部門に属するわけではないが、アメリカ財務省は、慈善・人道支援を装ってカッサーム旅団へ資金を提供していた複数の団体をハマースの資金ネットワークとして制裁対象に指定している。2025年には国外の5団体、2026年3月にはさらに4団体が、軍事部門への資金提供に関与したとして制裁対象となった[243][244]。
資金・投資組織
ハマースは寄付や国外支援だけでなく、企業への投資を通じて収益を得る国際的な資金ネットワークも構築してきた。アメリカ財務省は2022年、ハマースの投資事務所(Investment Office)がスーダン、トルコ、サウジアラビア、アルジェリア、アラブ首長国連邦などで企業を保有・運営し、その国際投資資産を5億ドル以上と推定した。財務省によれば、投資ポートフォリオはシュラ評議会と執行委員会の監督下に置かれ、投資事務所が日常的な管理を担当していた[245]。
これとは別に、国外の支援者、慈善団体、両替業者、企業、非公式送金網などを利用した資金調達網も存在し、アメリカ、欧州連合などはこれらの個人・団体をハマースへの資金提供を理由として相次いで制裁対象としてきた。
国外組織
ハマースはガザ地区とヨルダン川西岸地区のほか、中東各地に国外指導部・代表部を置いてきた。政治局はかつてヨルダン、次いでシリアのダマスカスを主要拠点としたが、シリア内戦をめぐってアサド政権と対立した後にダマスカスを離れ、カタールなどへ活動拠点を移した。
2026年現在、政治指導部の主要拠点の一つはドーハで、政治局長ハリル・アルハヤをはじめとする複数の最高幹部が国外を拠点としている[29]。ハーリド・マシャアルは国外部門の指導者を務め、ヨルダン川西岸地区、国外、収監者にも独自の地域指導組織が存在する[235]。
レバノンにも政治・軍事要員を配置しており、オーストラリア政府はハマースが同国で軍事的な活動能力を拡大してきたとしている[232]。2024年1月にはベイルート南部に置かれていたハマース拠点への攻撃で政治局副議長サレハ・アル=アルーリとカッサーム旅団幹部らが死亡するなど、国外組織もイスラエルによる攻撃対象となっている。
広報・宣伝機構

ハマースは設立当初からビラ、ポスター、新聞、カセットテープ、映像などを政治宣伝と構成員・支持者の動員に利用し、その後ラジオ、衛星テレビ、ウェブサイト、SNSへ活動を拡大した。主要な媒体としてアッ=リサーラ紙、アル=アクサー・ラジオ、アル=アクサー・テレビなどが設立された。
2006年に開局したアル=アクサー・テレビはハマースの主要な放送媒体となった。アメリカ財務省は2010年、同局がハマースによって資金提供・支配されているとして大統領令13224号に基づく制裁対象に指定し、子供を将来の武装戦闘員や自爆攻撃実行者として勧誘することを目的とした番組や音楽映像を放送していたとした[246]。
その代表例として、2007年から2009年に放送された子供番組『明日の開拓者』では、ミッキーマウスに酷似した「ファルフール」などのキャラクターを使用し、殉教や対イスラエル闘争を子供向け番組の中で宣伝したことが国際的な批判を受けた[247]。
軍事部門も独自の広報機構を持ち、戦闘映像、声明、軍事訓練映像、ロケット発射映像、宗教歌・戦闘歌などを制作・配信してきた。カッサーム旅団の報道官は長年アブ・オベイダが務めたが、イスラエル軍の空爆で死亡している[23]。
幹部
歴代の最高指導者
| 肖像 | 名前 | 役職 | 期間 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| アフマド・ヤースィーン | 創設者・最高指導者 | 1987年 - 2004年3月22日 | ハマース創設以来の最高指導者。2004年3月22日、イスラエル軍の攻撃で死亡。 | |
| アブドゥルアズィーズ・アッ=ランティースィー | ガザ地区指導者 | 2004年3月23日 - 4月17日 | ヤースィーンの死後、その後継者としてガザ地区の指導者に就任した。一方、国外ではハーリド・マシャアルが政治局を率いた。2004年4月17日、イスラエル軍の攻撃で死亡。 | |
| ハーリド・マシャアル | 政治局長・最高指導者 | 2004年4月 - 2017年5月6日 | 1996年から政治局長を務め、ヤースィーンとランティースィーの死後に最高指導者[248]。2017年に退任。 | |
| イスマーイール・ハニーヤ | 政治局長・最高指導者 | 2017年5月6日 - 2024年7月31日 | 2017年にマシャアルの後任として就任。2024年7月31日、訪問先のテヘランで暗殺された。 | |
| ヤヒヤ・シンワル | 政治局長・最高指導者 | 2024年8月6日 - 10月16日 | ハニーヤの死後に就任[249]。2024年10月16日、ガザ地区南部でイスラエル軍との戦闘で戦死。 | |
| — | 5人制指導評議会 | 集団指導体制 | 2024年10月 - 2026年7月20日 | シンワルの死後、単独の最高指導者を選出せず、ハリル・アルハヤ、ハーリド・マシャアルら5人による集団指導体制が組織運営を担った。 |
| ハリル・アルハヤ | 政治局長・最高指導者 | 2026年7月20日 - | シンワルの死後空席となっていた最高指導者に就任[29]。 |
その他の主要幹部
- ムハンマド・イスマーイール・ダルウィーシュ - シュラ評議会議長、政治局員[234]。
- ムーサー・アブー・マルズーク - 政治局員、国際関係部門責任者、初代政治局長[234]。
- ザーヘル・ジャバーリーン - 政治局員、ヨルダン川西岸地区地域局長[234][22]。
- サレハ・アル=アルーリ - 政治局副議長、ヨルダン川西岸地区部門元責任者。2024年1月2日空爆死[22]。
- オサマ・マジニ - 元シュラ評議会議長。2023年10月16日空爆死。
- ムハンマド・デイフ - イッズッディーン・アル=カッサーム旅団最高司令官。2024年7月13日空爆死[250]。
- マルワーン・イーサー - カッサーム旅団副司令官。2024年3月空爆死[250]。
- ムハンマド・シンワル - ガザ地区指導者、カッサーム旅団最高司令官。2025年5月13日空爆死[251]。
- イズ・アルディン・アル・ハダド - カッサーム旅団最高司令官。2026年5月15日空爆死[236]。
- ムハンマド・オデ - カッサーム旅団最高司令官。2026年5月26日空爆死[236]。
- アフマド・アル=ジャアバリー - カッサーム旅団参謀長。2012年11月14日空爆死。
- ムハンマド・アブドゥルサラーム・アル=ヤーズーリー - カッサーム旅団最高指導評議会メンバー、ハーン・ユーニス旅団司令官。2026年9月10日空爆死[237]。
- ムラード・アブー・ムラード - カッサーム旅団航空部門責任者。2023年10月13日空爆死。
- アハメド・ガンドゥール - カッサーム旅団北部ガザ旅団司令官。2023年11月空爆死。
- アイマン・ノーファル - カッサーム旅団中央ガザ旅団司令官、軍事評議会メンバー。2023年10月17日空爆死。
- ラファ・サラマ - カッサーム旅団ハーン・ユーニス旅団司令官。2024年7月13日空爆死[27]。
- ムハンマド・シャバーナ - カッサーム旅団ラファ旅団司令官。2025年5月13日空爆死[251]。
- ナーイル・アブー・ウバイド - カッサーム旅団ラファ旅団司令官。2026年9月15日空爆死[30]。
- ウィサーム・ファルハト - カッサーム旅団シュジャイヤ大隊司令官。2023年12月2日空爆死。
- ファルサーン・ハリーファ - カッサーム旅団西岸地区部門上級司令官。2023年11月25日空爆死。
- アリー・カーディー - カッサーム旅団ヌフバ部隊司令官。2023年10月14日空爆死。
- ムハンマド・アブー・シャンマーラ - カッサーム旅団ガザ地区南部司令官。2014年8月21日空爆死。
- ラーイド・アル=アッタール - カッサーム旅団ラファ地区司令官。2014年8月21日空爆死。
- アブー・ウバイダ - カッサーム旅団報道官。2025年8月29日空爆死[23]。
- サミール・ファンディー - カッサーム旅団レバノン南部司令官、西岸地区政治局員。2024年1月2日空爆死。
- アッザーム・アル=アクラア - カッサーム旅団幹部、西岸地区政治局員。2024年1月2日空爆死。
- マフムード・アル=マブフーフ - カッサーム旅団兵站・武器調達部門幹部。2010年1月19日殺害。
- ヤヒヤ・アヤシュ - カッサーム旅団爆発物製造・作戦担当幹部。1996年1月5日殺害。
- ムハンマド・バルフーム - カッサーム旅団ガザ地区南部幹部。2014年8月21日空爆死。
- イサーム・アッ=ダーリス - ガザ地区政府行政委員会議長。2025年3月18日空爆死。
- ラウヒ・ムシュタハ - ガザ地区統治部門最高幹部。2024年空爆死[25]。
- サイード・スィヤーム - ガザ地区内相、治安部門幹部。2009年1月15日空爆死[252]。
- サメフ・アル=シラージ - 政治・治安部門幹部。2024年空爆死[25]。
- サミ・オデ - 総合治安機構司令官。2024年空爆死[25]。
- ファトヒ・ハマド - 政治局員、元ガザ地区内相[234]。
- イーハーブ・アル=グサイン - ガザ地区労働副大臣、元内務省報道官。2024年7月7日空爆死。
- マフムード・ザッハール - 古参政治幹部、元パレスチナ自治政府外相。
- アズィーズ・アッ=ドゥワイク - ハマース系議員、元パレスチナ立法評議会議長。
- ジャミーラ・アル=シャンティ - 政治局員、元パレスチナ立法評議会議員。2023年10月19日空爆死。
- サラーフ・アル=バルダウィール - 政治局員、元パレスチナ立法評議会議員。2025年3月23日空爆死。
- ファテフ・シェリフ・アブー・アル=アミン - レバノンにおけるハマース指導者。2024年9月29日空爆死。
- ウサーマ・ハムダーン - 政治部門幹部。
- アフマド・アブドゥルハーディー - レバノン代表。
- ガーズィー・ハマド - 政治局員、停戦交渉団メンバー。
- バーセム・ナイーム - 政治部門幹部、アラブ・イスラム関係部門副責任者。
- サーミー・アブー・ズフリー - 政治部門幹部、報道担当。
- ファウズィー・バルフーム - 政治・広報部門幹部。
- ハサン・ユースフ - ヨルダン川西岸地区指導者。
- ユーニス・アル=アスタル - ハマース所属のパレスチナ立法評議会議員、宗教指導者。
- ムシール・アル=マスリー - ハマース報道官、パレスチナ立法評議会議員。
- ニザール・ラヤーン - ジャバリヤ地区指導者。2009年1月1日空爆死[252]。
- アブデル・ラティフ・アル・カノア - ハマース報道官。2025年3月27日空爆死。
- ニザール・アワダッラー - 政治局員[234]。
- フサーム・バドラーン - 政治局員[234]。
- イッズァト・アッ=リシュク - 政治局員。
- ムハンマド・ナッザール - 政治局員[234]。
- マーヒル・オベイド - 政治局員、ヨルダン川西岸地区組織幹部[253]。
- サーミー・ハーティル - 元政治局員。
旗とロゴマーク

ハマースの組織旗
緑の地に白い文字でイスラームにおける信仰告白の文言であるシャハーダの言葉
لَا إِلَٰهَ إِلَّا ٱللَّٰهُ مُحَمَّدٌ رَسُولُ ٱللَّٰهِ(lā ʾilāha ʾilla-llāhu Muḥammad(un) rasūlu-llāh, ラー・イラーハ・イッラッラーフ ムハンマド(ゥン)・ラスールッラー(フ), アッラーの他に神はなし。ムハンマドはアッラーの使徒である。)」がアラビア書道の書体にてデザインされている。
右側+中央上半分:لَا إِلَٰهَ إِلَّا ٱللَّٰهُ(lā ʾilāha ʾilla-llāhu, ラー・イラーハ・イッラッラーフ, アッラーの他に神はなし)
中央下半分+左側:مُحَمَّدٌ رَسُولُ ٱللَّٰهِ(Muḥammad(un) rasūlu-llāh, ムハンマド(ゥン)・ラスールッラー(フ), ムハンマドはアッラーの使徒である)
ロゴマーク

交差した剣の上に岩のドーム、さらにその上にパレスチナ国の形がデザインされている。左右のリボン状の部分はパレスチナの国旗で、右側に組織旗にも用いられているイスラーム信仰告白の文言(シャハーダ)が書かれている。
右側国旗部分:لَا إِلَٰهَ إِلَّا ٱللَّٰهُ(lā ʾilāha ʾilla-llāhu, ラー・イラーハ・イッラッラーフ, アッラーの他に神はなし)
左側国旗部分:مُحَمَّدٌ رَسُولُ ٱللَّٰهِ(Muḥammad(un) rasūlu-llāh, ムハンマド(ゥン)・ラスールッラー(フ), ムハンマドはアッラーの使徒である)
交差した剣の柄の間にはパレスチナのアラビア語名称 فلسطين(Filasṭīn, フィラスティーン)、一番下には組織の正式名称と略称が並べられ「حركة المقاومة الإسلامية ـ حماس」(Ḥarakat al-Muqāwama al-Islāmīya _ Ḥamās, ハラカト・アル=ムカーワマ・アル=イスラーミーヤ _ ハマース)と印字されている。
テロリスト指定と制裁
ハマースは多数の国家・国際機構からテロ組織として指定されており、指定に伴って資産凍結、資金提供の禁止、構成員・支援者に対する刑事罰、入国禁止などが課されている。一方、各国の法制度は異なり、「テロ組織への指定」「禁止団体への指定」「資産凍結対象への指定」など、その法的形式と効果は一様ではない。
アメリカ合衆国
アメリカ合衆国では、ハマースには複数のテロ指定・制裁制度が重ねて適用されてきた。
1995年1月、ビル・クリントン大統領は、中東和平プロセスを妨害するテロリストを対象とした大統領令12947号を発令し、ハマースを附属書に掲載し、特別指定テロリスト(Specially Designated Terrorist、SDT)に指定した[254]。これにより、アメリカの管轄下にあるハマースの財産および財産上の利益が凍結され、アメリカ人はハマースとの取引や寄付などを禁止された[255]。
1997年10月8日には、国務長官が移民国籍法第219条に基づきハマースを外国テロ組織(Foreign Terrorist Organization、FTO)に指定した[69]。同指定により、米国内または米国の管轄に服する者が、資金、金融サービス、宿泊、訓練、専門的助言、施設、武器、爆発物、人員、輸送などの「物的支援または資源」(material support or resources)をハマースに故意に提供することが禁止される。また、外国人であるハマースの代表者・構成員はアメリカへの入国を拒否され、一定の場合には国外退去の対象となるほか、アメリカの金融機関はハマースまたはその代理人の利益が含まれる資金を保有した場合、これを凍結して財務省外国資産管理局(OFAC)へ報告しなければならない[256]。外国テロ組織への物的支援を禁止する合衆国法典第18編2339B条に違反した場合、原則として20年以下の拘禁刑または罰金が科され、支援の結果として人が死亡した場合には終身刑を含む刑を科すことができる[257]。
さらに2001年11月2日、ハマースは大統領令13224号に基づく特別指定国際テロリスト(Specially Designated Global Terrorist、SDGT)に指定された[258]。これにより、アメリカ国内またはアメリカ人の所有・管理下にあるハマースの財産・財産上の利益は凍結され、原則としてアメリカ人による取引が禁止される。ハマースが直接・間接に50%以上所有する団体も資産凍結の対象となり、ハマースを支援する個人・企業・金融業者なども大統領令13224号に基づき追加指定することができる[245]。
2019年9月に特別指定テロリスト(SDT)制度が特別指定国際テロリスト(SDGT)制度に統合されたため、現在ハマースのSDNリストには「FTO」および「SDGT」の制裁プログラムタグが付されている[259][260]。
改正後の大統領令13224号では、特別指定国際テロリストのために重大な取引を行った外国金融機関について、アメリカ国内のコルレス口座やペイヤブル・スルー口座の開設・維持を禁止または厳しく制限することもできる[245]。
2024年4月24日にはハマースその他パレスチナ・テロ組織国際資金供与防止法(Hamas and Other Palestinian Terrorist Groups International Financing Prevention Act)が成立した。同法は、ハマース、イスラーム聖戦 (パレスチナ)、アル・アクサ殉教者旅団などに重大な資金的・物質的・技術的支援を提供する外国人や、これらの組織の上級構成員との重大な取引に関与する外国人に対して、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく資産凍結等を課すことを定めている。また、ハマースなどを重大に支援する外国政府に対しては、一定の例外・免除規定の下で、少なくとも1年間のアメリカ政府援助の停止、国際金融機関による融資・金融・技術援助へのアメリカの反対、米国軍需品リストおよび商務省規制品リスト掲載品の輸出禁止を課すことを定めている[261]。
カナダ
カナダは2002年11月27日、刑法(Criminal Code)に基づくテロ組織一覧にハマースを掲載した。指定はその後も維持され、2026年6月4日の定期審査でも掲載が継続された[262]。
刑法上、指定されたテロ組織の所有・管理する財産を故意に取り扱うこと、その財産に関する取引を直接・間接に行いまたは仲介すること、およびテロ組織の利益のため金融その他の関連サービスを提供することは禁止される[263]。指定団体の財産は凍結のほか、差押え・保全・没収の対象となり、テロ活動を実行する能力を高める目的でその活動に故意に参加・貢献することも犯罪となる。また、指定団体の構成員である外国人は移民・難民保護法に基づきカナダへの入国不許可の対象となる[264]。
2024年以降にはこれとは別に、特別経済措置法に基づく「ハマース・テロ攻撃特別経済措置規則(Special Economic Measures (Hamas Terrorist Attacks) Regulations)」によりハマース幹部・資金提供者・関連企業が相次いで制裁対象とされ、カナダ国内の資産凍結、取引禁止、対象個人の入国禁止などが課されている[265]。
欧州連合
欧州連合(EU)は、国際連合安全保障理事会決議1373を実施するため、2001年12月27日に共通外交・安全保障政策上の共通の立場2001/931/CFSPおよび理事会規則(EC)2580/2001による「EUテロリスト・リスト」を創設した。当初はハマースの軍事部門「イッズッディーン・アル=カッサーム旅団」のみが掲載されたが[266]、2003年9月12日に指定は「ハマース(イッズッディーン・アル=カッサーム旅団を含む)」へ変更され、ハマース全体に拡大された[267]。
EUテロリスト・リストに掲載された団体は、資金その他の金融資産・経済資源が凍結され、指定団体に対して直接・間接に資金または経済資源を利用可能にすることが禁止される[268]。
さらにEU理事会は2024年1月19日、ハマースおよびパレスチナ・イスラム聖戦による暴力行為を支援・促進・可能にする者を対象とする独立した制裁枠組みを設置した。この制度では、両組織に物質的・金融的支援を与える者、武器を供給する者、暴力行為の計画・準備・実行を支援する者などを追加指定し、資産凍結、資金・経済資源の提供禁止および個人へのEU域内渡航禁止を課すことができる[269]。
イギリス
イギリスでは、ハマースの軍事部門イッズッディーン・アル=カッサーム旅団が2001年から2000年テロリズム法に基づく禁止組織とされていた。2021年11月26日、禁止対象がハマース全体に拡大された[270][271]。
同法第11条から第13条により、禁止組織への所属、所属していると称すること、支援を勧誘すること、一定の支援集会を開催・運営すること、他者による支援を促す危険を認識しながら支持を表明することなどが犯罪となる。第11条・第12条の犯罪には最高14年の拘禁刑または罰金が科される。また、禁止組織の構成員または支持者であるとの合理的疑いを生じさせる態様で旗・標章・衣服などを公衆の面前で掲示する行為なども第13条の犯罪となり、最高6か月の拘禁刑または5,000ポンド以下の罰金の対象となる。禁止組織の資産はテロリスト財産として押収の対象となり、入国排除などの移民法上の措置にも指定を利用できる[272]。
禁止組織指定とは別に、ハマースは「2019年対テロリズム(国際制裁)(EU離脱)規則」(Counter-Terrorism (International Sanctions) (EU Exit) Regulations 2019)に基づく制裁対象にも指定されている。2020年12月31日に「ハマース(イッズッディーン・アル=カッサーム旅団を含む)」の名称でイギリス制裁リストに指定されており、ハマースが所有・保有・管理する資金および経済的資源の凍結、資金・経済的資源の提供禁止、武器禁輸が課されている。2025年4月9日には取締役就任禁止措置も追加された[273]。
2023年10月7日のイスラエル南部へのテロ攻撃後、イギリス政府はハマースの幹部や資金提供者に対する追加制裁を相次いで実施した。同年11月にはヤヒヤ・シンワル、ムハンマド・デイフ、マルワーン・イーサーらハマース幹部・資金提供者を資産凍結、渡航禁止、武器禁輸の対象とし[274]、12月にもハマースの指導者・資金提供者を追加指定した[275]。2024年1月にはアメリカ、オーストラリアと協調し、ハマースおよびイパレスチナ・イスラーム聖戦の資金ネットワークに関与する個人・団体を追加で資産凍結等の対象とした[276]。
フランス
フランスはEU加盟国としてハマースに対するEUの制裁措置が適用されるほか、国内法に基づく独自の対テロ資産凍結制度をハマース幹部や関連団体に適用している。フランス通貨金融法典(Code monétaire et financier)第L.562-2条では、テロ行為を実行、企図、促進、資金提供、扇動またはこれに参加する個人・法人・団体について、経済担当大臣と内務大臣が共同で6か月間、更新可能な資金・経済的資源の凍結を命じることができる。対象者への資金・経済的資源の直接・間接の提供や利用も禁止される。この制度は国連安保理決議1373号を履行するための国内制度でもある[277]。
2023年11月30日、フランス政府はこの制度に基づき、当時ハマースのガザ地区指導者であったヤヒヤ・シンワルが所有・保有・管理する資金および経済的資源を6か月間凍結し、シンワルが所有・支配する、またはその指示や代理で活動する法人・団体の資産についても同様の措置を課した。また、シンワルおよびこれらの法人・団体への資金・経済的資源の直接・間接の提供や利用を禁止した[278]。フランス政府は、この措置についてハマースの資金源を断つ取り組みの一環であり、シンワル自身にはフランス国内の資産が確認されていなかったものの、欧州連合レベルで対テロ資産凍結措置を導入するための前提となる国内指定であったと説明した[279]。
2024年6月5日、フランス政府は同制度に基づき、ユマニテール支援(Soutien humani'Terre、旧パレスチナ人慈善救援委員会、CBSP)およびユマニテールなどの資産を凍結した[280]。フランス政府は後に、旧CBSPが長年にわたりハマースと関係する組織のために資金を集め、数百万ユーロをハマースの関連団体へ送金していたと説明した。また、ユマニテールについても、ハマースとの関係を理由として2024年6月5日から資産凍結の対象としたと説明している[281]。
両団体を含む資産凍結措置はその後も更新され、2026年6月にも延長された[282]。
ドイツ
ドイツはEU加盟国であるため、EUテロリスト・リストと資産凍結措置が適用されるが、それと別にハマースへの独自の制裁措置も持っている。
2023年11月2日、連邦内務・国土省は結社法第3条、第14条、第15条などに基づき、ハマースについてドイツ国内での活動禁止(Betätigungsverbot)を発令した。禁止命令は、ハマースの活動が刑法に反し、諸国民間の相互理解の理念に反するとともに、ドイツ連邦共和国の重大な利益を害し、危険にさらしていると認定している[283]。これによりハマースはドイツ国内で活動・集会を組織することはできなくなり、ハマースへの支援や一定の標章の使用などについても刑事法上の措置を適用できるようになった[284]。
オーストリア
オーストリアはEU加盟国として、EUテロリスト・リストに掲載されたハマースに対する資産凍結および資金・経済的資源の提供禁止を適用している[285]。
これとは別に、オーストリアは国内法によってハマースの標章の使用を独自に禁止している。2019年3月1日に施行された「標章法」(Symbole-Gesetz)の改正により、ハマースが同法第1条の対象団体として名指しで追加され、ハマースの標章を公共の場で表示・掲示・着用・頒布することが禁止された。禁止はインターネットなど電子通信手段を用いた場合にも適用され、標章には記章やエンブレム、ジェスチャーも含まれる[286][287]。内務省令の「標章指定規則」(Symbole-BezeichnungsV)は、禁止対象となるハマースの具体的な標章を指定している[288]。
標章禁止に故意に違反した場合は行政違反となり、2024年1月1日以降、1万ユーロ以下の罰金または1か月以下の拘禁の対象となる。すでに同規定による処分を受けた者が再び違反した場合は、2万ユーロ以下の罰金または6週間以下の拘禁が科される。また、違反に使用された標章は没収の対象となり、未遂も処罰される[289]。一方、報道・芸術・展示などについては、対象団体の思想を肯定または宣伝するものでない場合などに適用除外が設けられている[290]。
スイス
スイスでは、2024年12月20日に連邦議会が「ハマースおよび関連組織の禁止に関する連邦法」(Bundesgesetz über das Verbot der Hamas sowie verwandter Organisationen)を可決し、2025年5月15日に施行された。同法により、ハマース、その偽装・後継組織、およびハマースの命令または名義で活動する組織・団体は禁止され、ハマースはスイス刑法第260ter条にいうテロ組織の指定を受けた[291]。ハマースへの参加や支援は同条に基づく処罰の対象となり、10年以下の拘禁刑、組織内で決定的な影響力を有する者については20年以下の拘禁刑を科すことができる[292]。
これに先立つ2024年4月10日、スイス連邦参事会は、欧州連合が導入したハマースおよびパレスチナ・イスラム聖戦の支援者に対する制裁に同調し、関連する個人・団体を対象とする制裁措置を導入した。対象者の資産および経済的資源の凍結、資金・経済的資源の提供禁止、凍結資産の届出義務、渡航制限などが課されている[293]。
オーストラリア
オーストラリアでは、ハマースの軍事部門イッズッディーン・アル=カッサーム旅団が2003年11月5日からテロ組織に指定されていたが、2022年3月4日に刑法(Criminal Code)上の指定がハマース全体へ拡大された[294]。ハマース全体はテロ資金供与制裁の対象にも指定されている。
刑法第102部は、指定テロ組織の活動を指揮する行為、構成員となる行為、構成員を勧誘する行為、訓練を提供・受講する行為、資金を提供・受領・収集する行為、組織のテロ活動を助ける支援・資源を提供する行為などを犯罪としている。指定テロ組織への所属には最高10年、組織の活動の指揮、勧誘、資金提供・収集、テロ活動を助ける支援の提供などには要件に応じて最高25年の拘禁刑を科すことができる[295]。
ニュージーランド
ニュージーランドは2010年からハマースの軍事部門を2002年テロ抑圧法(Terrorism Suppression Act 2002)上のテロ主体に指定し、2013年、2016年、2019年、2022年に更新していた。2024年2月、政府は指定をハマース全体へ拡大した[296]。
指定によりニュージーランド国内のハマースの資産は凍結され、指定団体の財産を取り扱うこと、金融その他の関連サービスを提供すること、物質的支援を提供すること、構成員を募集すること、テロ行為を実行する能力を高める目的で組織に参加することなどが犯罪となる。また、指定団体の構成員は査証または入国許可を得ることができない。一方、同国法では指定団体の構成員であることそれ自体だけでは犯罪とはならない[296]。
イスラエル
イスラエルではハマースはテロ組織として認定されており、現在の主要な法的枠組みは2016年反テロ法(Counter-Terrorism Law, 5776-2016)である。同法は国防相に、治安機関の理由を付した申請と司法長官の同意を経て団体をテロ組織に指定する権限を与えている。指定は暫定指定を経て、異議申立てがなければ恒久指定となる[297]。
同法の下では、テロ組織の指定に加えて、テロ関連資産の差押え・没収・凍結命令を国防相が発することができる。イスラエル国防省のテロ資金対策国家局(NBCTF)はテロ組織としてハマースの資金調達網、投資企業、フロント団体、資金提供者などに対する指定と資産差押えを実施している[298]。
日本
日本では、国家公安委員会が、2015年(平成27年)10月30日に国際テロリスト財産凍結法第4条に基づいて、ハマースを国際テロリストに指定している。警察庁の国際テロリスト公告リストでは、「ハマス(ハマス・イッザッディーン・アル・カッサームを含む)」の名称で記載されている[299]。
国際テロリスト等財産凍結法は、財産凍結等対象者による国内取引等を規制している。規制対象財産の贈与・貸付けを受けること、財産の売却・貸付け等の対価の支払を受けること、預貯金の払戻し等を受けることなどには、都道府県公安委員会の許可が必要となる。また、都道府県公安委員会は、一定の規制対象財産について提出を命じ、これを仮領置することができる[300]。
日本政府はこれに先立つ2003年(平成15年)9月30日から、ハマースを「テロリスト等に対する資産凍結等の措置」の対象としていた。外国為替及び外国貿易法に基づき、ハマースなどの対象者への支払や一定の資本取引を規制し、資金移転を防止する措置が講じられている[301]。
2023年(令和5年)12月にも外務大臣は、ハマースがこの資産凍結措置の対象であることを確認するとともに、同年10月7日のハマースがイスラエル南部で起こしたテロについて、民間人の殺害・誘拐を伴う攻撃を「テロ攻撃」として非難している[302]。
韓国
韓国では、金融委員会が「公衆等脅迫目的及び大量殺傷武器拡散のための資金調達行為の禁止に関する法律」に基づき、テロ資金調達などの規制が必要な個人・法人・団体を「金融取引等制限対象者」に指定している。指定対象者が金融機関との金融取引やこれに伴う支払・受領、動産・不動産・債権その他の財産・財産権の譲渡、贈与その他の処分を行う場合には金融委員会の許可が必要となる[303]。
金融委員会の金融取引等制限対象者リストには、ハーリド・マシャアル、ウサーマ・ハムダーン、ムーサ・アブー・マルズーク、イマード・アル=アラミ、アフマド・ヤースィーン、アブドゥルアズィーズ・アッ=ランティースィーなどのハマース幹部が掲載されており、いずれもアメリカの大統領令13224号による特別指定国際テロリスト(SDGT)への指定を示す「E.O.13224」の表示が付されている。また、パレスチナ人慈善救援委員会(CBSP)、パレスチナ救援開発基金、パレスチナ救援協会(Association de Secours Palestinien、ASP)、オーストリア・パレスチナ協会(Palestinian Association in Austria、PVOE)、サナビル救援開発協会(Sanabil Association for Relief and Development)など、アメリカ財務省がハマースへの資金支援に関与したとして指定した団体も同リストに掲載されている[304][305]。
台湾
台湾では、ハマースは経済部国際貿易署が運用する「戦略性高科技貨品出口実体管理名簿」(SHTC Entity List)に掲載されている。2023年12月26日版の同名簿では「HAMAS」の名称で記載されている[306]。
経済部国際貿易署は、同名簿を国連安全保障理事会や友好国の制裁・輸出管理リストなどを参考に作成しており、名簿掲載者への輸出には事前に戦略性高科技貨品輸出許可証を取得する必要がある。無許可で輸出しようとした場合、税関は貨物を通関させない[307]。また、掲載対象から台湾企業への送金や、掲載対象への貨物関連サービスについても名簿との照合が求められ、政府への通知と許可を得ない限り取引を中止することとされている[308]。
アルゼンチン
アルゼンチン政府は2024年7月12日、ハマースを「国際テロ組織」と宣言した[309]。ハマースはテロ行為およびテロ資金供与に関連する個人・団体の公的登録簿(Registro Público de Personas y Entidades vinculadas a Actos de Terrorismo y su Financiamiento、RePET)に掲載された。
アルゼンチンでは法律第26,734号および政令918/2012などにより、テロ活動に関連する資産を行政的に凍結する制度が設けられている。2024年の政令942号も、ハマースがRePETに掲載されていることと、同制度がテロ関連資産の行政的凍結を可能としていることを明記している[310]。金融機関その他の報告義務者には、テロ資金供与が疑われる取引を金融情報部(UIF)へ報告する義務が課される。
コロンビア
コロンビアでは、2020年1月17日、国家安全保障会議がアメリカ合衆国および欧州連合のテロリスト・リストを国内で採用することを決定しているため、欧州連合のテロ組織リストに「Hamas, including Hamas-Izz al-Din al-Qassem」として掲載されているハマース全体をテロ組織として扱っている[311]。
この措置により、ハマース構成員の移動を阻止し、コロンビアへの入国・通過・滞在を防止するとともに、情報機関による監視、司法による追及およびテロ資金供与対策の対象となる[311]。また、2006年法律第1121号第20条により、関係当局はテロ関連リストの掲載者の国内所在・通過および関連する財産・資金の有無をデータベースで照合し、該当情報を検察庁へ通知する[312]。UIAFも、対象リストとの一致を確認した報告義務者にUIAFへの通報を求めている[313]。
パラグアイ
パラグアイは2019年8月、政令2307号によりハマースを国際テロ組織として認定した。この指定に伴い、警察によるテロ防止活動の強化、資金の流れに対する監視、資金洗浄・テロ資金供与対策機関や銀行監督機関などによる連携強化が行われた[314]。
当初の指定はハマースの武装部門を対象としていたが、2025年4月24日、パラグアイ政府は指定を政治・軍事・社会部門を含むハマースの全構成部門へ拡大した[315]。
エクアドル
エクアドルでは、2025年9月15日の大統領令第128号により、ハマース、ヒズボラ、イランのイスラム革命防衛隊は「組織犯罪に属するテロリスト集団」(grupos terroristas de crimen organizado)に認定された。同令は、これらの組織がエクアドル国民、憲法秩序、国家の主権および領土的一体性に対する脅威であるとしている[316]。
大統領令は国家情報センター(Centro Nacional de Inteligencia)に対し、ハマースなどがエクアドル国内で認定されている武装組織に及ぼす影響を分析し、その関与を分類するよう命じ、必要に応じて外国の情報機関と連携することも定めた[317]。
これに先立つ2025年9月10日、大統領令第118号は、ハマースおよびヒズボラがエクアドル国内で行われる可能性のあるテロ行為・攻撃に関与することを非難していたが、大統領令第128号によって廃止され、両組織を明示的にテロリスト集団と認定する措置に置き換えられた経緯があった[318]。
コスタリカ
コスタリカでは、2026年4月6日、国家安全保障会議がハマースをヒズボラ、イスラム革命防衛隊、アンサール・アッラーとともに正式にテロ組織と認定した。政府は、この指定により、国内でこれらの組織を支援する可能性のある物流・資金ネットワークに対する情報機関および司法機関の予防、捜査、刑事訴追能力を強化するとしている[319]。
コスタリカ法では、テロ組織に使用されることを知りながら、資金、金融商品、資源、その他の資産・手段・サービスを直接または間接に収集、提供、促進、仲介するなどのテロ資金供与行為には、5年以上15年以下の拘禁刑が科される[320]。
EUテロリスト・リストに基づく制裁を科している国
脚注
注釈
出典
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関連項目
外部リンク
- 公式ウェブサイト
- ハマス(HAMAS)[リンク切れ] - 公安調査庁
- イスラエル及びパレスチナ - 公安調査庁
- 2017年ハマース憲章 全文 - Middle East Eye .NET





