プライベート・クレジット

ウィキペディアから、無料の百科事典

プライベート・クレジット(英: Private credit)とは、シャドーバンキングシステム[1]の一側面であり、ノンバンクによる融資によって定義される資産を指す。この場合、債務は公開市場で発行または取引されない。「プライベート・クレジット」は、「ダイレクト・レンディング(英語版)」または「プライベート・レンディング」とも呼ばれ、実物資産などのキャッシュフローを基礎とする「アセット・ベースド・ファイナンス」なども含む。「オルタナティブ・クレジット(英語版)」の一種である。

歴史

プライベート・クレジットは、実業家同士が互いに資金を貸し借りし始めて以来、古くから存在していたが、今日ほど規模が大きかったわけではない。ここ数十年の間に、プライベート・クレジット市場は銀行から離れていった。1994年、米国銀行による融資引受は、ミドルマーケット向け融資の70%以上を占めていた[2]。2020年までに、米国の銀行が発行・保有するミドルマーケット向け融資の割合は約10%となった[3]。2008年の金融危機後、米国証券取引委員会が上場銀行に対する規制や資本要件を強化したことで、ダイレクトレンディング市場は急速に拡大した。銀行の融資活動が縮小する中、非銀行系貸し手がその役割を引き継ぎ、企業借り手からの継続的な債務融資需要に対応した[4]。

最近の傾向

最近の傾向として、コベナント・ライト・ローン(英語版)の台頭が挙げられ、上場投資適格債やハイイールド債にとっても課題となっている[5]。これは、他の投資対象に比べて比較的高い利回りを求める投資家の需要と、保護条項の緩和を受け入れる姿勢によって推進されてきた。その結果、企業に対する制約が緩和され、企業が経営難に陥った場合の投資家の権利も縮小することになった。とはいえ、投資会社にとっては、ポートフォリオ企業(英語版)が債務不履行に陥った場合のイメージ悪化を避けるため、また制約が少ないほど企業が債務不履行に陥る可能性が低くなるという点で、コベナント・ライト・ローンも有益となり得る[6]。

規模

プライベート・クレジットは、最も急速に成長している資産クラスの一つである[7]。2017年までに、プライベート・デットの資金調達額は1,000億ドルを超えた[8]。2024年、プライベート・デット・ファンドは、世界のレバレッジド・バイアウト(LBO)向け債務ファイナンスの77%を供給し、これは2015年以来の最高シェアとなった。銀行が残りの23%を供給したが、これは同期間において銀行のシェアとしては著しく低い水準であった[9]。

この急速な成長の一因は、投資家の需要にある。2018年時点で、すべてのプライベート・クレジット戦略における平均内部収益率は8.1%であり、一部の戦略では14%もの内部収益率を達成していた[10]。2000年以降、リターンは毎年S&P 500指数のリターンを上回っている[11]。同時に、2008年の金融危機後、融資要件の厳格化により企業がノンバンク系貸し手に頼るようになったことで、供給も増加した[12]。新興国および発展途上市場におけるプライベート・クレジット投資額は、2022年に89%増加し、108億米ドルに達した[13]。

世界のプライベート・クレジット業界の規模に関する推計は様々である。2024年4月時点で、国際通貨基金(IMF)は2兆ドル強と主張している[14]一方、JPモルガンは3.14兆ドルと主張している[15]。2025年、ブルームバーグは1.8兆ドルであったと報じた[16]。

大手プライベート・クレジット運用会社

プライベート・クレジット投資向けの資金調達額で上位10社をまとめたものである(集計期間は2025年までの5年間)。運用資産残高による順位ではない[17]。

順位会社本社所在地資金調達額(百万米ドル)
1アレス・マネジメントロサンゼルス117,997
2ブラックストーンニューヨーク111,529
3HPSインベストメント・パートナーズニューヨーク107,495
4ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントニューヨーク91,211
5BNPパリバ・アセット・マネジメント・アルツピュトー73,711
6ICGロンドン63,783
7アポロ・グローバル・マネジメントニューヨーク61,434
8カーライル・グループワシントンD.C.50,466
9オークツリー・キャピタル・マネジメントロサンゼルス47,881
10ブラックロックニューヨーク46,783

同ランキングの集計対象には、シニア・デット、メザニン、ディストレスト・デットなどの戦略が含まれる。一方、事業開発会社(BDC)、ローン担保証券(CLO)ファンド、プライベート・デットのファンド・オブ・ファンズやセカンダリー投資ビークルなどは除外される[17]。

事業開発会社の役割

プライベートファンドに加え、プライベート・デットへの資本の多くは事業開発会社(Business Development Company、BDC)から調達されている。BDCは、中小企業や成長企業に資金調達手段を提供し、プライベート・エクイティ・ファンドが公募資本市場にアクセスできるようにすることを目的として、1980年に連邦議会によって創設された。BDCは1940年投資会社法に基づき規制されるクローズドエンド型ファンドである。同法に基づき、BDCは資産の少なくとも70%を、時価総額が2億5,000万ドル未満の非公開米国企業に投資しなければならない。さらに、REITと同様に、BDCの収益の90%以上が投資家に分配される限り、BDCは法人レベルで課税されない[18]。BDCは資本構成のどの部分にも投資することが認められているが、投資の大部分は負債となっている。これは、BDCが通常、自己資本に対して負債をレバレッジ(自己資本の最大2倍[19])しており、固定利回り投資が債務の履行を支えているためである。市場規模に関しては、2021年6月時点で、79のファンドによるBDCの資産総額は1,560億ドルに達している[20]。

プライベート・クレジットへの公募投資

プライベート・クレジットへの投資資金の70%以上は、機関投資家によるものである[21]。

プライベート・キャピタルへの投資を検討している個人投資家にとって、選択肢はほとんどない。その理由は、投資商品のほとんどが私募であり、適格投資家(流動資産500万ドル以上)に限定されているからだ。2021年6月時点で、BDC市場の57%は、個人投資家も投資できる上場BDCであった[22]。

日本での投資

日本では、日本国内を対象とする場合BDCに似た、ベンチャーファンドという投資法人の制度はあるが、制度としても未公開株等に投資対象が限られているほか現在上場しているものは無く、プライベート・クレジット市場は限定的でLBOファンドや投資型クラウドファンディング等となる。

日本からアメリカのプライベート・クレジットへの投資を行う方法としては、アメリカで設定された制限があるものの解約請求可能な非上場BDC等へ投資する投資信託がある。ただ、そういう投資信託は、最低投資額が大きく、また投資先のファンドの制限を反映して設定・解約日が月ごとや四半期ごとに限られていることが多い。

懸念事項

2024年12月の書簡で、米国のシェロッド・ブラウン上院議員とジャック・リード(英語版)上院議員は、同業界における監督体制と透明性の欠如について懸念を表明した[23]。

2025年、自動車部品サプライヤーのファースト・ブランズ・グループ(英語版)とサブプライム自動車ローン業者のトリコロール・ホールディングスが9月に相次いで破綻したことで、民間金融業界は厳しい監視の目にさらされた。

破綻とそれに続くプライベート・クレジットのエクスポージャーに関する報道を受け、2025年の最後の数ヶ月間、業界の大手各社は償還請求(投資家による資金の返還要求)の急増に直面した[24]。一部のプライベート・クレジット業界の幹部は、ファースト・ブランズの破綻とプライベート・クレジットとの関連性を批判し、ファースト・ブランズの120億ドルのバランスシートのうち、プライベート・クレジットに関連する部分はわずか2%に過ぎないと主張した[25]。

2025年11月、UBSの会長は、保険会社が民間信用資産についてより高い信用格付けを求めて駆け引きを行う傾向が、2008年の金融危機を招いた状況に似た「差し迫ったシステミック・リスク」を生み出していると警告した[26]。

欧州のプライベート・クレジット市場の成長は厳しい監視にさらされてきたが、2026年にロンドンを拠点とする貸し手マーケット・ファイナンシャル・ソリューションズ(英語版)が破綻し、機関投資家が巨額のエクスポージャーを抱える事態となったことを受け、その監視はさらに強まっている。

米国で取り付け騒ぎに近い混乱が生じていて、2008年のリーマン・ショックの引き金となったサブプライムローン問題のように金融危機の火種になりかねないと懸念する声を受けて、日本の金融庁はファンドの実態把握に乗り出した[27][28]。

出典

  1. ↑ Saunders, Tom (2026-03-02). “I smell a crash coming, says former Goldman Sachs boss: Ex-chief believes there are parallels to global financial crisis amid shadow banking concerns”. The Telegraph 2026年3月2日閲覧。.
  2. ↑ “The Banking Crises of the 1980s and Early 1990s: Summary and Implications”. www.fdic.gov. 2020年7月30日閲覧。
  3. ↑ “Are There Competitive Concerns in "Middle Market" Lending?”. Fed Notes. (10 August 2020).
  4. ↑ Chernenko, Sergey; Erel, Isil (7 September 2018). Nonbank Lending (PDF). FDIC Center for Financial Research.
  5. ↑ “Risky loans spell trouble for the future - Private Equity News”. www.penews.com. 2020年7月30日閲覧。
  6. ↑ Becker, Bo; Ivashina, Victoria (1 March 2016). Covenant-Light Contracts and Creditor Coordination. Swedish House of Finance, Institute for Financial Research.
  7. ↑ Nesbitt (2022年11月29日). “Private Credit”. 2026年3月18日閲覧。
  8. ↑ Flanagan (2018年). “Private Debt: The Rise of an Asset Class”. BNY Mellon. 2026年3月18日閲覧。
  9. ↑ “Private debt's share of buyout financing hits decade high” (英語). S&P Global Market Intelligence. 2025年8月14日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年9月23日閲覧。
  10. ↑ Munday (2018年5月7日). “Performance of Private Credit Funds: A First Look”. University of North Carolina Institute for Private Capital. 2019年10月9日閲覧。
  11. ↑ “Breakingviews - Buyout firms’ equity-debt double act is creaking”. Reuters (英語). 2025年2月14日. 2025年9月23日閲覧.
  12. ↑ George, Hannah (March 6, 2019). “Who Needs a Bank? Why Direct Lending is Surging”. The Washington Post. 2019年3月6日時点のオリジナルよりアーカイブ.
  13. ↑ Elisei (2023年2月22日). “Private credit investments surged 89% in 2022”. Reuters. 2023年12月31日閲覧。
  14. ↑ Cohen, Charles (2024年4月8日). “Fast-Growing $2 Trillion Private Credit Market Warrants Closer Watch” (英語). IMF. 2024年4月18日閲覧。
  15. ↑ Wigglesworth (2024年4月17日). “Private credit is even larger than you think”. Financial Times. 2024年4月18日閲覧。
  16. ↑ Brown, Silas (February 22, 2026). “Blue Owl Anxiety Rattles $1.8 Trillion Private Credit Market”. Bloomberg. 2026年2月23日閲覧.
  17. 1 2 “PEI Private Credit 200 – the largest private credit fund managers”. PEI Private Credit (2026年9月1日). 2026年10月20日閲覧。
  18. ↑ “SEC Investor Bulletin: Publicly Traded Business Development Companies (BDCs)” (2020年9月25日). 2026年3月18日閲覧。
  19. ↑ “BDCs win leverage cap increase after US $1.3T budget signed”. Reuters. 23 March 2018.
  20. ↑ Nesbitt, Stephen (1 October 2021). “Where is the BDC market headed?”. Private Debt Investor.
  21. ↑ "Financing the Economy 2018" Alternative Credit Council. https://www.aima.org/educate/aima-research/fte-2018.html
  22. ↑ “New BDC Structure Adds to Competitive U.S. Middle-Market Landscape”. Fitch Ratings (2022年6月8日). 2026年3月18日閲覧。
  23. ↑ “Brown, Reed Raise Concerns on the Growing Risks of the Private Credit Market” (Press release) (英語).
  24. ↑ Platt. “Private credit investors pull $7bn from Wall Street’s biggest funds”. www.ft.com. 2026年1月18日閲覧。
  25. ↑ “Private credit bosses hit back at 'misinformation' over First Brands collapse”. reuters.com. 2026年3月18日閲覧。
  26. ↑ Alim. “UBS chair warns of ‘looming systemic risk’ from private credit ratings”. ft.com. 2026年3月18日閲覧。
  27. ↑ 共同通信 (2026年4月9日). “高利回りファンドの実態把握 米で急拡大、危機の火種か”. NEWSjp. 共同通信. 2026年4月10日閲覧。
  28. ↑ 和田崇彦、山崎牧子「金融庁、プライベートクレジット問題で実態把握 大手金融機関が対象=関係筋」『Reuters』2026年4月9日。2026年4月10日閲覧。

関連項目