マンデラ効果
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マンデラ効果(マンデラこうか、英: Mandela effect)とは、多数の人が同じ、あるいはよく似た事実と異なる記憶を共有する現象を指す呼称である[2][3]。インターネット上で広まった名称であり[4]、ポピュラー文化の画像や台詞、人物の生死、地理などに関する記憶違いが事例として挙げられてきた[5]。
名称は、実際には1990年に釈放され、その後南アフリカの大統領を務めたネルソン・マンデラについて、「1980年代に獄中死し、その葬儀や追悼報道を見た」という記憶を持つ人々がいるという話から生まれた[1][6]。
心理学では、人間の記憶が想起のたびに再構成され、他者から得た情報や既存の知識によって変化し得ることが知られている[7]。2022年には、著名なキャラクターやロゴについて多数の人が同じ特定の誤りを示す「視覚的マンデラ効果」が実験的に確認された[2]。2026年には、誤情報への接触によって複数人に同一の誤った出来事の細部が記憶される過程も実験的に示されている[3]。
一方、インターネット上では、原因をパラレルワールド、時間軸の変化、シミュレーションの不具合などに求める超常的な説明も流通しており、都市伝説や陰謀論、インターネット・ミームの文脈でも扱われてきた[4][8]。ただし、こうした超常的説明を支持する科学的証拠が示されているわけではない[5]。
定義
「マンデラ効果」という語はもともと、作家で超常現象について執筆していたフィオナ・ブルームが、自身と他者の間で共有されていたマンデラ獄中死の記憶を説明するために広めたものである[6]。ブルームのサイトでは、現実の記録と食い違うにもかかわらず、互いに面識のない複数人がよく似た具体的な記憶を持つ事例が収集された[1]。
ブルーム自身はマンデラ効果について、単純な物忘れや個人的な思い違いだけではなく、同じような記憶が複数人から独立して報告される場合を特に重視している[9]。もっとも、これはブルーム自身による用法であり、心理学研究ではより一般的に、複数人に共有される一貫した虚偽記憶という観点から研究されている[2][3]。
個人に生じる記憶違いそのものは珍しいものではない。マンデラ効果で特徴的なのは、異なる人々が単に「間違える」だけでなく、同一の対象について似通った特定の誤りを示す点にある[2]。ただし、現在の研究では、すべての事例を一つの認知機構だけで説明できるとはされていない[10]。
発祥と普及
発祥の経緯
「マンデラ効果」という名称の起源として一般に挙げられるのがフィオナ・ブルームである。ブルーム自身の説明によると、2009年にドラゴン・コンへ参加した際、ネルソン・マンデラが1980年代に獄中死したという記憶について別の参加者と話したことがきっかけになった[6]。
ブルームもそれ以前から、マンデラの訃報だけでなく葬儀のテレビ報道や南アフリカでの混乱を見たという記憶を持っていたとしている。ところが他者からもよく似た記憶を聞いたことで、この種の記憶について調べ始めたという[6][1]。
ブルームは2010年8月にMandelaEffect.comを正式に開設し[6]、同年9月には「Nelson Mandela Died in Prison?」と題する記事を公開した[1]。本人は現在、自身について「the person who popularized the phrase」と表現しており、この呼称を広めた人物であるとしている[6]。
当初のサイトでは、マンデラ獄中死以外の記憶違いも収集され、原因について通常の記憶違いだけでなく、パラレルワールドや別の歴史といった仮説も議論された[9]。ブルームは後年、記憶違いの一部は単純な誤解や誤った報道などによって生じ得る一方、原因となった混乱や誤りを特定できるものは自身のいうマンデラ効果とは区別している[9]。
普及の過程
ブルームのウェブサイトにはマンデラ以外にも、存命中だった伝道師ビリー・グラハムの葬儀をテレビで見たという記憶などが寄せられた[11]。
2013年12月にはRedditにマンデラ効果を扱うサブレディット「r/MandelaEffect」が開設され、その後オンライン上で多数の事例や原因についての議論が行われるようになった[12]。
2015年には児童書シリーズ『バーンスタインベアーズ(英: Berenstain Bears)』の綴りを「Berenstain」ではなく「Berenstein」と記憶しているという話が広まり、パラレルワールド説と結び付けた議論も注目を集めた[13]。
2010年代後半にはマンデラ効果はインターネット・ミームとしても定着し[12][4]、2018年にはテレビドラマ『X-ファイル』シーズン11の「The Lost Art of Forehead Sweat」で物語の題材として用いられた[14]。
日本における普及
2011年には2ちゃんねるのオカルト板に「宮尾すすむがもっと昔に亡くなっていた記憶」と題するスレッドが立てられ、後には有名人の死亡時期だけでなく、商品、作品、地理など現実と異なる記憶を投稿するスレッドへと発展した[注釈 1]。その後の同系統のスレッドでは「マンデラ効果」の語も使用されるようになった[15]。
日本語メディアでは2017年にTOCANAがマンデラ効果とブルームの説を紹介している[16]。その後も「マンデラ効果」「マンデラエフェクト」の両表記が日本のメディアやネット上で用いられている[17]。
原因の解釈
学術的な研究

マンデラ効果という名称そのものはインターネット上で生まれたものだが、複数人に共有される虚偽記憶は認知心理学や記憶研究の対象となっている[2][19]。
2009年、Stefania de Vito、Roberto Cubelli、Sergio Della Salaは、ボローニャ駅爆破テロ事件の象徴となったボローニャ中央駅の時計について、集合的な虚偽記憶を調査した[18]。
時計は1980年8月2日の爆発で停止したものの、その後修理され、1996年に故障するまで約16年間動いていた。しかし調査では、現在時計が止まっていることを知っていた173人のうち160人(92%)が、時計は爆破事件以来ずっと止まったままだったと回答した。毎年の追悼行事に参加していた56人に限っても、時計が過去に動いていたことを正しく記憶していたのは6人(11%)だった[18]。研究者らは、事件と「10時25分で止まった時計」という象徴的な表象が個人の記憶に影響した可能性を論じている[18]。
また、人間の記憶は他者の証言によっても変化し得る。Edelsonらは2011年、他者が示した誤った回答に接した参加者に長期的な記憶の変化が生じる「memory conformity(記憶の同調)」を実験で示した[20]。小集団で生じた誤情報や虚偽記憶が、より大きな社会的ネットワークを通じて伝播する過程についても研究されている[19]。
視覚的マンデラ効果
2022年、Deepasri PrasadとWilma Bainbridgeは、マンデラ効果そのものを実験的に扱い、ポピュラー文化の画像について同じ特定の誤りが複数人に生じる現象を「visual Mandela effect(視覚的マンデラ効果)」として検討した[2]。
第1実験では成人100人に著名なロゴやキャラクターの正しい画像と加工画像を提示した。その結果、特定の画像では正しい画像よりも同じ誤った画像が選ばれる傾向が確認された。続く実験では、単純な視線や注意の向け方ではこの傾向を十分に説明できず、画像を記憶から描かせた場合にも同様の特徴が自発的に付け加えられることがあった[2]。
研究でマンデラ効果が確認された対象には、C-3PO、ピカチュウ、Curious George、モノポリーのキャラクター、フォルクスワーゲンのロゴ、Fruit of the Loomのロゴ、Where's Waldoが含まれていた[21]。
一方で、すべての画像に共通する単一の原因は確認されなかった。誤った画像への過去の接触が関与し得る例がある一方、インターネット上で誤画像がほとんど確認されない対象についても同じ誤記憶が生じている[10]。
誤情報による共有された虚偽記憶
2026年、Xuhao Shaoらは100人を対象に、同じ出来事について細部の異なる映像を提示した後、誤情報を読ませ、その前後で記憶と脳活動を調べた[3]。
誤情報への接触後には、複数の参加者が同じ誤った出来事の細部を自由再生する「共有された虚偽記憶」が増加した。また、同じ誤情報を虚偽記憶として取り込んだ参加者間では、誤情報を読んでいる際の背内側前頭前野の活動パターンにも共通性が認められた[3]。
著者らはこの結果について、誤情報への接触後に個人間で共有された虚偽記憶が形成されるという意味で、「マンデラ効果」の実証的証拠を提供するものとしている[3]。ただし、既存のマンデラ効果と呼ばれる事例すべてが誤情報によって生じたことを示すものではない。
記憶研究からの説明
マンデラ効果として挙げられる事例は、一般には虚偽記憶、記憶の再構成、既存の知識やスキーマ、情報源の取り違え、他者からの情報による影響など、記憶研究で知られている複数の機構との関連から説明されている[5][7]。
例えば、実際には尻尾のないCurious Georgeに尻尾があると記憶する例については、「サルには尻尾がある」という一般的知識が記憶の再構成に影響する可能性が考えられる。ただしPrasadとBainbridgeの実験では、こうした意味的な予測だけでは説明しにくい事例も確認されている[2][5]。
また、繰り返し耳にした誤った引用や画像は、正しい情報よりも親しみを感じるようになり、正しい記憶と取り違えられる可能性がある[5]。さらに、他者の誤った記憶に触れることで本人の記憶自体が変化する社会的影響も実験的に確認されている[20][19]。
このため、現在の研究からは「マンデラ効果には一つの原因がある」と結論付けることはできず、対象ごとに異なる認知的・社会的要因が関係している可能性がある[10]。
都市伝説・オカルトとしての解釈
マンデラ効果はインターネット上で、記憶研究とは別に超常現象や陰謀論の文脈でも発展した[4]。
特に知られているのが、この世界とは異なるパラレルワールドの歴史を一部の人が記憶しているという解釈である。ブルームのサイトでも、パラレルワールドや別の時間軸は初期から仮説の一つとして語られていた[9]。また、現実がコンピューター・シミュレーションであるとする説や、過去の改変と結び付ける説明などもオンライン上で流通している[8][4]。
こうした説明は、多元宇宙論や量子力学など実在する科学用語と結び付けて語られる場合がある。一方、心理学者Michael E. W. Varnumは、マンデラ効果を平行宇宙の証拠とはみなさず、人間の記憶の性質から説明する方が妥当だとしている[5]。
ブルーム自身も、パラレルワールド説を好んで取り上げてきた一方、それを唯一の説明とみなしてはいない。現在のFAQでは、一部の事例は単純な誤解によって生じる可能性があるとし、すべてに当てはまる一つの説明はないとの立場を示している[9]。
文化研究の側からは、Aaron Frenchが2018年、マンデラ効果がインターネット・ミームや陰謀論として普及した背景を、現代のテクノサイエンス文化や記憶、情報技術との関係から論じている[4]。
事例

マンデラ効果として語られてきた事例には、学術研究で実験対象となったものから、インターネット上の体験談として流通しているものまで幅がある。以下は代表的な例であり、各事例が同じ認知機構によって生じていることを意味するものではない[2][10]。
有名人の生死に関するもの
地理に関するもの
作品の内容やキャラクターに関するもの
- 『羊たちの沈黙』でハンニバル・レクターが「Hello, Clarice」と発言したという記憶。この台詞は同作中には存在しないものの、代表的な誤引用として広く流通している[5]。
- ディズニー映画『白雪姫』で女王が鏡に「Mirror, mirror on the wall」と呼びかけたという記憶。映画では「Magic mirror on the wall」と発言している[12][5]。
- ピカチュウの尻尾の先端が黒かったという記憶。2022年の視覚的マンデラ効果の研究でも対象となり、特定の誤った画像が多数の参加者に選ばれた[2][21]。
- Curious Georgeに尻尾があったという記憶。実際のキャラクターには尻尾がなく、視覚的マンデラ効果の研究でも共有された誤りが確認された[2][21]。
- C-3POが全身金色だったという記憶。映画シリーズ初期の姿では片脚の一部が銀色であり、これも視覚的マンデラ効果として実験対象となった[2][21]。
- モノポリーのキャラクターが片眼鏡を着用していたという記憶。実際のキャラクターには片眼鏡がなく、実験でも共有された誤記憶が確認されている[2][21]。
事件に関するもの
作品名や商標に関するもの
日本で語られている事例
日本のインターネット上では、海外で知られる事例とは別に、日本のテレビ番組や商品、著名人などを題材とした記憶違いも「マンデラ効果」と呼ばれてきた。
- 宮尾すすむなど、著名人が実際より早い時期に死亡していたという記憶。宮尾については2011年から2ちゃんねるに専用スレッドが存在し、その後日本におけるマンデラ効果の話題を扱うスレッドへ発展した[注釈 2][23]。
- 1970年代に「ファンタ ゴールデンアップル」という商品が販売されていたという記憶。2002年にまとめられた国内ファンタの製品史では、1974年に「アップル」、1975年に「ゴールデングレープ」が記録されている一方、同年10月には「ゴールデンアップル」が発売された。記事の筆者は、それ以前に同名の商品が販売されていたかどうかについては「いまだに謎」としている[24]。1970年代の「ゴールデンアップル」をめぐる記憶は、後にマンデラ効果の例として紹介されている[25]。
- 『天空の城ラピュタ』には、パズーが後にシータの故郷を訪れる場面を含む別のエンディングがテレビ放送されたという記憶が、マンデラ効果と関連付けて紹介されている[26]。スタジオジブリは2002年、「天空の城ラピュタ」に別のエンディングが存在するとの噂を明確に否定している[27]。同社は、小説版に短い後日談があることや、宮崎駿が映画公開後に描いた後日談を連想させるイラストなどが噂の背景になった可能性を挙げている[27]。
- 「東京都大田区は過去に『太田区』と表記されていた」という記憶。Sirabeeが2023年に全国1000人を対象に行った調査では半数以上が誤った「太田区」の表記を選び、大田区立郷土博物館も過去に「太田区」であった時期はないと回答している[28]。
脚注
注釈
- ↑ “宮尾すすむがもっと昔に亡くなっていた記憶”. 2ちゃんねる (2011年7月18日).
- ↑ “宮尾すすむがもっと昔に亡くなっていた記憶”. 2ちゃんねる (2011年7月18日).
出典
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関連項目
記憶に関するもの
その他
外部リンク
- Mandela Effect - フィオナ・ブルームによる旧MandelaEffect.comのアーカイブ