新奇性恐怖

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新奇性恐怖
発音 [niːəˈfoʊbiə]
概要
診療科 精神医学、臨床心理学
症状 身体的、心理的、行動的
分類および外部参照情報

新奇性恐怖(しんきせいきょうふ)、またはネオフォビア(英語: neophobia)とは、新しいものに対する恐怖である。軽度の場合、新しいことを試したがらない、あるいは日常の決まった習慣から外れることを嫌がるという形で現れることがある。ヒトの子供について用いられる場合、この語は一般に、未知または新奇な食物を拒絶する傾向を指す[1]。

食物新奇性恐怖と呼ばれるこの現象は、小児心理学における重要な関心事である[2][3]。

生物医学研究では、新奇性恐怖はしばしば味覚の研究と関連しており、脳のどの部位が関与するか、また動物が新しい食物を味わおうとする意欲に影響を与える細胞的および分子的要因について研究されている[4][5] 。 生態学研究では、新奇性恐怖は有益にも有害にもなり得る形質とみなされている。新奇性恐怖は野生動物を未知の危険から守る一方で、新たな資源を利用することを妨げることもある[6][7]。

用語

neophobia という語は、「新しい、若い」を意味するギリシア語の νέος, neos と[8]、「恐怖」を意味する φόβος, phobos に由来する[9]。

Cainophobia は、「新しい、新鮮な」を意味するギリシア語の καινός, kainos に由来する[10][11]。新奇性恐怖の別称には、metathesiophobia, prosophobia, cainotophobia(または cainophobia)、kainophobia(または kainolophobia)がある[12]。

例

ドブネズミとハツカネズミでは、ヒトとの片利共生的な生活をするようになるにつれて、新奇性恐怖の程度が高まるよう進化したと考えられている。これは、ヒトがこれらを駆除するために、ねずみ捕りなどの新しい方法を繰り返し考案してきたためである[13]。

新奇性恐怖は老化した動物でも一般的にみられるが、アパシーもまた、老化に伴って系統的に観察される探索意欲の低下を説明する、あるいはその一因となる可能性がある。研究者らは、この探索意欲の欠如は、老化時に観察される前頭前皮質とつながる神経経路の機能障害による可能性が高いと主張している[14]。

ロバート・アントン・ウィルソンは著書『プロメテウス・ライジング(英語版)』の中で、人は子育てを始めると新奇性恐怖が本能的に生じると理論化した。ウィルソンの新奇性恐怖に対する見方は概して否定的であり、人間の文化や思想の進歩が技術の進歩ほど速くない理由は新奇性恐怖にあると考えた。彼のモデルには、トーマス・クーンの『科学革命の構造』に由来する考えが含まれている。それは、どれほど十分に証明され明白な新しい考えであっても、それを「新しい」とみなす世代が死に、その考えを受け入れられた古いものとみなす世代に置き換わって初めて実施される、というものである。

食物新奇性恐怖

ヒトにおける食物新奇性恐怖は、新しい、または馴染みのない食物を食べることへの恐怖と説明されている。これは回避・制限性食物摂取症(英語版)にしばしばみられる症状であるが、それ自体が障害というわけではない。食物新奇性恐怖は、特に幼児や低年齢の子供に多い。これはしばしば、その人の刺激欲求の程度、すなわち新しいことを試したり危険を冒したりしようとする意欲と関係している。食物新奇性恐怖の強い人は、新しい食物を試すことに抵抗するだけでなく、実際に試した新しい食物についても、新奇嗜好の強い人より低く評価する[15]。

偏食は、幼い子供を持つ多くの親にとって懸念の原因となっている。このため親は苛立ちを感じ、親自身の不安がさらに強まるおそれがある。親は子供の成長や栄養不足を心配する傾向がある。小児科医や家庭医は、子供に効果的に食事を与えるさまざまな方法を親や養育者に提案することで支援できる場合がある。

一般に、人が新しいものにある程度の恐怖を抱き、馴染みのある一般的なものを好むことはごく普通である。多くの人が食物新奇性恐怖をある程度経験するが、その程度には個人差がある。食物新奇性恐怖の個人差を測定する尺度として Food Neophobia Scale(FNS)があり、7段階のリッカート尺度による自己申告式の10項目の質問票で構成される[16]。

また、子供向けに Food Neophobia Scale for Children(FNSC)という別の尺度もあり、こちらでは実際の質問票への回答を親が行う[17]。

動物では、食物新奇性恐怖は新奇なものに対する恐怖であり、その持続時間は短く、長くても数分程度であることが示されている。これは、新しい食物を食餌に加えることを長期間拒否し、数日から数年にわたって続くこともある食餌保守性(英語版)とは異なる[18][19]。食餌保守性はこれまでヒトでは実証されていないが、子供の遺伝的影響を受ける「食べ物の好き嫌い」の行動[20][21]は、動物でみられる行動に似ている。

食物新奇性恐怖は雑食動物のジレンマ(英語版)と関係している。これは、雑食動物、特にヒトが、新しい食物を食べて危険を冒すか、それを避けて価値ある食物源を逃す可能性を受け入れるかという選択を説明する現象である。少なくともある程度の食物新奇性恐怖を持つことは、潜在的に有毒な食物を避けるのに役立つため、進化上有利であると指摘されている[22]。

原因

遺伝は、食物新奇性恐怖と一般的な新奇性恐怖の双方に関与していると考えられている。研究によれば、食物新奇性恐怖のばらつきのおよそ3分の2は遺伝による。双生児の組を対象にした研究では、さらに高い相関が示され、遺伝が食物新奇性恐怖に関与していることが示唆されている[17]。

心理社会的要因も、子供が食物新奇性恐怖を発達させる可能性を高めることがある。幼い子供は親の食物の好みを注意深く観察しており、親が一部の食物を避ける傾向にある場合、食事に関する新奇性恐怖的傾向が生じる可能性がある[23]。

別の原因として、平均よりも苦味に敏感であることが挙げられる。これは、中耳炎をかなり経験してきたことや、スーパーテイスター(英語版)と呼ばれる、苦味を強く知覚する性質と関連している可能性がある[23]。

治療

嫌いな食物を食べるよう子供に圧力をかけたり、食べないことに対して罰を与えると脅したりするなど、この状況に対処しようとする一部の方法は、問題を悪化させる傾向がある[23]。

効果的な方法には、新しい食物や嫌いな食物を味見したことに対して小さなステッカーなど食物以外の報酬を与えることや、親が子供に望む行動の手本を示すために、子供の前で新しい食物や嫌いな食物を楽しそうに食べることなどがある[23]。

新しい食物に接することは、その食物を好きになる可能性を高める。しかし、新しい食物をただ見るだけでは十分ではない。食べることへの好みを高めるには、新しい食物を繰り返し味わう必要がある。[15] 子供が新しい食物を受け入れるまでには、15回もの試行が必要になることがある。また、離乳の過程には、子供が後に示す食物新奇性恐怖を低下させるための重要な時期があるとみられている。最初に子供に与えられる固形食の種類が多いほど、後の食物拒否が少なくなる可能性がある。一部の研究者は、授乳中の母親が食べる食物の種類が多く、その結果として母乳に含まれる風味の種類が増えることさえも、後の人生で新しい食物を受け入れやすくする可能性があると考えている。食物新奇性恐怖は、年齢を重ねるにつれて自然に低下する傾向がある[22]。

関連項目

脚注

  1. ↑ Shim, Jae Eun; Kim, Juhee; Mathai, Rose Ann; STRONG Kids Research, Team. (September 2011). “Associations of Infant Feeding Practices and Picky Eating Behaviors of Preschool Children”. Journal of the American Dietetic Association 111 (9): 1363-1368. doi:10.1016/j.jada.2011.06.410. PMID 21872699.
  2. ↑ Dovey, Terence M.; Staples, Paul A.; Gibson, E. Leigh; Halford, Jason C.G. (March 2008). “Food neophobia and 'picky/fussy' eating in children: A review”. Appetite 50 (2-3): 181-193. doi:10.1016/j.appet.2007.09.009. PMID 17997196.
  3. ↑ Perry, Rebecca A; Mallan, Kimberley M; Koo, Jasly; Mauch, Chelsea E; Daniels, Lynne A; Magarey, Anthea M (2015). “Food neophobia and its association with diet quality and weight in children aged 24 months: a cross sectional study”. International Journal of Behavioral Nutrition and Physical Activity 12 (1): 13. doi:10.1186/s12966-015-0184-6. PMC 4335451. PMID 25889280.
  4. ↑ Mason, S; Roberts, D; Fibiger, H (September 1978). “Noradrenaline and neophobia” (英語). Physiology & Behavior 21 (3): 353-361. doi:10.1016/0031-9384(78)90094-X. PMID 570276.
  5. ↑ Lin, Jian-You; Arthurs, Joe; Reilly, Steve (November 2018). “The effects of amygdala and cortical inactivation on taste neophobia” (英語). Neurobiology of Learning and Memory 155: 322-329. doi:10.1016/j.nlm.2018.08.021. PMC 6463875. PMID 30172953.
  6. ↑ Greenberg, Russell (1990-01-01). “Ecological Plasticity, Neophobia, and Resource Use in Birds”. Studies in Avian Biology 13 (1).
  7. ↑ Project, ManyBirds; Miller, Rachael; Šlipogor, Vedrana; Caspar, Kai R.; Lois-Milevicich, Jimena; Soulsbury, Carl; Reber, Stephan A.; Mettke-Hofmann, Claudia et al. (2025-10-14). “A large-scale study across the avian clade identifies ecological drivers of neophobia” (英語). PLOS Biology 23 (10). doi:10.1371/journal.pbio.3003394. ISSN 1545-7885. PMC 12520376. PMID 41086223.
  8. ↑ νέος, Henry George Liddell, Robert Scott, A Greek-English Lexicon, on Perseus
  9. ↑ φόβος, Henry George Liddell, Robert Scott, A Greek-English Lexicon, on Perseus
  10. ↑ καινός, Henry George Liddell, Robert Scott, A Greek-English Lexicon, on Perseus
  11. ↑ Cainophobia, Dictionary.com
  12. ↑ “The Phobia List”. 2026年9月25日閲覧。
  13. ↑ “Neophobia in wild and laboratory mice”. Psychonomic Science 12 (5): 223. (May 1968). doi:10.3758/BF03331280. ISSN 0033-3131.
  14. ↑ “Exploratory drive, frontal lobe function and adipsia in aging”. Gerontology 41 (3): 134-44. (1995). doi:10.1159/000213674. PMID 7601365.
  15. 1 2 Logue, A.W. (2004). The Psychology of Eating and Drinking. New York: Brunner-Routledge. p. 90
  16. ↑ Pliner, P.; K. Hobden (1992). “Development of a scale to measure the trait of food neophobia in humans”. Appetite 19 (2): 105-120. doi:10.1016/0195-6663(92)90014-w. PMID 1489209.
  17. 1 2 “Food Neophobia and Sensation Seeking”. Handbook of Behavior, Food and Nutrition. Springer. (2011). pp. 707-724
  18. ↑ Marples, Nicola M.; Kelly, David J.; Thomas, Robert J. (2005). “Perspective: The Evolution of Warning Coloration is Not Paradoxical” (英語). Evolution 59 (5): 933-940. doi:10.1111/j.0014-3820.2005.tb01032.x. ISSN 0014-3820. PMID 16136793.
  19. ↑ Marples, N.M.; Kelly, D.J. (1999). “Neophobia and Dietary Conservatism:Two Distinct Processes?”. Evolutionary Ecology 13 (7-8): 641-653. Bibcode:1999EvEco..13..641M. doi:10.1023/A:1011077731153. ISSN 0269-7653.
  20. ↑ “Maternal feeding practices and fussy eating in toddlerhood: a discordant twin analysis”. Int J Behav Nutr Phys Act 13. (July 2016). doi:10.1186/s12966-016-0408-4. PMC 4944306. PMID 27412445.
  21. ↑ “Food fussiness and food neophobia share a common etiology in early childhood”. J Child Psychol Psychiatry 58 (2): 189-196. (February 2017). doi:10.1111/jcpp.12647. PMC 5298015. PMID 27739065.
  22. 1 2 Dovey, Terence M. (2010). Eating Behaviour. England: Open University Press. pp. 47, 48, 55
  23. 1 2 3 4 Moyer, Melinda Wenner (19 December 2012). “Picky eater kids: Their eating habits might be your fault, but they'll survive”. Slate.