
栄光の手(えいこうのて、英語: Hand of Glory)は、吊された男の手を乾燥させ酢漬けにしたものであり、しばしば左手もしくは殺人罪で絞首刑となった場合は犯行を行った手を使用する。ラテン語で左を意味する "sinister" は「邪悪な、不吉な」という意味も持つ[1]。
かつてのヨーロッパでは栄光の手と同じ死体の脂肪から作られた蝋燭を組合わせると大いなる力を持つと信じられていた。そのように作られた蝋燭に点火し、(燭台のように)栄光の手に設置すると、提示されたすべての人々を動けなくしたという。手と蝋燭を準備する手順は18世紀の文書に記載されているが、当時の語句を適切に翻訳することが困難であるため、一部の手順については議論されている。この概念は、19世紀の短編小説や詩に影響を与えている。
語源学者のウォルター・スキートは、民間伝承は長い間神秘的な力の源泉を死者の手に帰してきたが、「栄光の手」という言葉は実際には民間語源であると報告しており、フランス語の "main de gloire"、すなわちマンドラゴラの転訛であるマンドレイクからだとしている[2]。スキートは、「栄光の手がマンドレークにほかならないことは、マンドレイクが『夜はまるでランプのように輝く』というオズワルド・コケインの "Leechdoms, i. 245"[3]の記述が決め手となる」と書いている。コケインはサクソン語に翻訳された "Herbarium" の写本に、『偽アプレイウスの本草書』を引用している[2]。

ヨーロッパの古い信仰では、絞首台で死んだ悪人の脂肪で作られた蝋燭に火を灯し、蝋燭の脂肪と同じ人間から作られた栄光の手に設置すると、それが提示されたすべての人々を動けないようにしたという。ろうそくの持ち方は『小アルベール』にスケッチされている[4]。ろうそくは牛乳でしか消すことができない[5]。別のバージョンでは、死んだ男の髪の毛が芯として使用され、ろうそくは持ち手にのみ光をもたらすという。

栄光の手はまた、扉の鍵を解除する力を持つと言われている[6]。栄光の手の作成法は、『小アルベール』[7][8]および『悪行要論』に記載されている[9]。

1722年の『小アルベール』に栄光の手の作成法が詳細に記されており、エミール・グリヨ・ド・ジヴリが引用している[10]
街道のさらし台に吊るされている重罪人の右手または左手を取り、葬儀用の覆いで包み、良く絞る。それをZimat、硝石、塩、ヒハツと一緒に容器に入れ全体によくまぶす。容器に2週間入れておいた後に取り出し、ドッグデイズに日光に当てて完全に乾燥させる。太陽光では不十分な場合は、シダやバーベナと一緒にオーブンへ入れる。次に絞首刑にされた重罪人の脂肪、バージンワックス、胡麻、ポニー (ponie) よりろうそくを作り、栄光の手を燭台としてろうそくに火を灯すと、この禁忌の道具を持って入った場所の全ての者は動けなくなるだろう。
ド・ジブリは、「ポニー (ponie)」は馬の糞を意味する可能性が高いと言って、"zimat" と "ponie" という言葉の意味の難しさを指摘している。ド・ジブリはジョン・リビングストン・ロウズの1722年版のフレーズ "du Sisame et de la Ponie" を引用し、「馬の糞」としての「ポニー」の意味は「私たちには」まったく知られていないが、バス=ノルマンディー地方の方言ではその意味を持っていると述べている。この解釈を「確かだ」と見なす彼の理由は、馬の糞が「乾燥すると非常に可燃性」であるためである[10] [11]。
フランス語の1752年版(Nouvelle Éditionと呼ばれる修正と拡張された新版)では、"..du sisame de Laponie.."と読め、フランシス・グロースの1787年の翻訳では、"sisame of Lapland(ラップランドの胡麻)" と英訳された。この解釈は、インターネット上の多くの場所や、さらには大学が出版した本にも見られる[12] [13]。モンタギュー・サマーズの著書やコーラ・ダニエルズの2冊の本がラップランド・セサミの神話を永続化させているが、zimatが緑青を意味するのかアラビアの硫酸鉄を意味するのかは不明である[14][15]。
『小アルベール』はまた、栄光の手の影響から家を守る方法を提供している[10]:
黒猫の胆汁・白い牝鶏の脂肪・コノハズクの血を配合した軟膏を家の敷居および他の場所に塗りつけることで、栄光の手は効果を失い、盗賊が利用できなくなる。 この物質はドッグデイズの間に配合する必要がある。
イギリスのノース・ヨークシャーにあるウィットビー博物館には実際に「栄光の手」が1823年に出版された本の記述とともに保管されている[16]。この写本には栄光の手の作り方が次のように書かれている[17]:
絞首刑とされた罪人の死体を切り取る。塩漬けとし、さらに男と女と犬と牡馬と牝馬の尿につける。ハーブと干し草を用いて一月のあいだ燻す。樫の木に三夜吊るし、その後十字路に置き、更に教会の扉に一晩吊るし、その間作成者は玄関ポーチで見張らなければならない。もし恐れず玄関ポーチから逃げ出さなかったならば、その手は真の意味であなたのものとなる。
『ヘルボーイ』の "Box Full of Evil" と "Being Human" では、栄光の手が持ち主以外のすべての人を麻痺させるために使用される。
グラント・モリソンの『インビジブルズ』では、プロットの大部分が、インビジブルとアウターチャーチの双方が栄光の手の制御方法を見出そうとする試みで占めている。この漫画では栄光の手は時空の扉を開く、即ち別の時空や時代への扉を開く力がある。
グレッグ・ルッカの "Black Magick" では、強姦殺人犯ブルース・ダンリッジの死体から作成された。その死体は不吉な手(左手)を失った状態で海岸に打ち上げられた。
マーベル・コミックでは、栄光の手は、死の女神ヘラが神秘的なエネルギーで彼女の強さを高め、拳で誰かを殺すために使用する技巧である。
栄光の手は戦時下のイギリスで1941年半ばから終わりにかけて起きた、未解決殺人事件の動機であると提唱されている。この事件は、後に "Who put Bella in the Wych Elm?"(ベラをセイヨウハルニレに入れたのは誰だ?)という、木の中から発見された女性の死体を指す落書きが多数出現し、より神秘的となった[18]。
ヘロドトスの『ランプシニトス王の物語(ii, 121)』には切断された手がオカルト文脈で早くも登場し、賢い盗賊が捕獲を避けるために死者の手を置いていく。それらは、アンリ・ボゲの『妖術師論 (Discours execrable des sorciers)』などのライカンスロピーの初期の物語にも登場する[19]。
1832年にジェラール・ド・ネルヴァルは短編小説 "La Main de gloire, histoire macaronique " を書いている。同年、アロイジウス・ベルトランは "L'heure du Sabbat" を出版している[20]。ギ・ド・モーパッサンは1875年にLorraine Almanac Pont-à-Moussonに『剥製の手』を書き、ジョセフ・プルニエというペンネームでデビューしている。マルセル・シュウォッブはそれについて未収集の短編小説 "La Main de gloire" を1893年3月11日のエコー・ド・パリ上で書いている[21] [22]。
インゴールズビーの伝説の第2弾、"The Hand of Glory, or, The Nurse's Story" では、栄光の手の作成と使用について説明している[23]。最初の行は次のとおり。
Now open, lock′!
To the Dead Man's knock!
Fly, bolt, and bar, and band!
Nor move, nor swerve,
Joint, muscle, or nerve,
At the spell of the Dead Man's hand!
Sleep, all who sleep! -- Wake, all who wake!
But be as the dead for the Dead Man's sake!
テオフィル・ゴーティエは処刑された詩人ラスネールの手を題材に "Étude De Mains" (手の研究) という題の誌を書いている。彼は重罪で処刑後に栄光の手として使用するために切断されたと思われている[24]。
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