水素爆発

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水素爆発は、気体の水素(水素分子 H2)によるガス爆発。一般的に酸素濃度が5%以上、水素濃度が4%以上混ざった気体に点火すると起こる爆発の事を言う。また、温度が500℃よりも高くなると自然に発火し、爆発が起きてしまう現象の事もいう。

水素爆弾における反応は原子核融合を参照。水素爆発と水素爆弾は異なる。

原子力発電所における水素爆発事故

旧ソ連のチェルノブイリ原子力発電所事故や福島第一原子力発電所事故など、核分裂反応を利用する原子力発電所の事故(冷却機能の喪失)により起きる爆発は上記1である[1]。燃料被覆管のジルカロイが高温の水蒸気と反応して水素が発生し、次いで水素が酸素と反応して爆発する。

原子力事故におけるこのような爆発はしばしば2の核爆発と混同されるが、全く別の現象である[2][3]。

この反応は900 ℃で顕著になるが、それ以下でも水が急速に沸騰することで水蒸気爆発が起こる。

これらのほか、廃棄物系バイオマス施設(バイオガス生成設備)において嫌気性生物の産生するガス中に含まれる非意図的な水素 (H2)[4][5]が大気中の酸素と急速に反応し爆発を生じた事例が報告されている[5]。

高濃度水素ガス吸入機の爆発事故

 従来水素は空気中において4 %以上75 %以下であると爆発する[6][7]とされていたが、慶應義塾大学等は水素ガスは10 %以下であれば爆発することはないことを明らかとした[8][9]。同論文では、水素ガスは生体内において抗酸化作用を示すことから[10][11]、水素ガス吸入機が市場に出ているが、これらの多くは66 % - 99 %以上の水素を生成しているため爆発の危険性があると警鐘を鳴らしている。高濃度の水素を吸入する限り水素の爆発事故は防止し切れない。

 したがって、水素ガス吸入機と高濃度水素吸入による水素爆発を防止するためには、水素を吸入する以前に水素を爆発濃度以下に希釈する必要があり、爆発濃度以下の希釈された水素を吸入する必要がある[12][13]。実際に消費者庁の事故情報データバンクによれば、水素濃度が99.99%や67%の高濃度の水素を生成する水素ガス吸入機の爆発によって顔面内骨折、聴力低下、耳鳴りなどの重大事故事例が複数報告されている[14]。

 また、水素ガス吸入器の着火実験では、比較的水素の発生量が少ない60ml/min (水素濃度100%) の水の電気分解式の吸入機でも、爆音を伴い、鼻カニューラと吸入機本体が破裂を伴い爆発することが確認されていることから、水素発生量が低くても、100%濃度水素であっても、人体に傷害を引き起こす可能性がある水素爆発は起き得る[12]。

 高濃度水素ガス吸入機の水素爆発は、爆発の引き金となる着火源と事故の発生が同時刻に起こる瞬間型の爆発・破裂事故というだけでなく、事故現場と人の距離が接近していることからも、人的被害が生じやすく危険性が極めて高い[15]。

高濃度水素ガス吸入機の使用に伴う人体内水素爆発事故[16]

 2024年以降、高濃度水素ガス吸入機の単独使用により、肺内部や鼻腔内で水素爆発が起きる事故が相次いだ[17][18]。2024年1月に高濃度水素・酸素吸入器を自宅玄関で使用中、鼻に挿していた器具が爆発により顔面内骨折した事例が報告された[19]。

 さらに、2024年9月30日には、熊本県内の医師の勧めにより抗がん治療のために、水素と酸素を2:1で混合した高濃度水素ガス (水素発生量1200ml/min) を用いて吸入を行っていたところ、パンという音と共に口から大量出血を起こし救命救急センターに搬送された。この事故で、患者は呼吸器系内水素爆発により内臓破裂と気管が裂傷し、心肺停止状態になった[20]。この事故は2025年5月30日に消費者庁によって「消費生活用製品の重大製品事故」として公開された[21]。 この公開によれば、事故を起こした水素ガス吸入機のメーカーは、消費者庁に提出すべき事故報告書の提出を怠り、消費者庁より厳重注意を受けている。さらに、当該メーカーは、事故を起こした吸入機について公開していた東京消防庁と共同で行ったとされる安全性試験について、実際には東京消防庁と共同で行ったものではなく、さらに安全性試験そのものも水素爆発の安全性を保障するものではなかったことから、東京消防庁より行政指導を受けた。

 2025年2月にはエステサロンで水素吸入中に水素爆発が起き顔面複雑骨折をした事故が報告された[22]。

 2024年、高濃度水素ガス吸入機と電磁波を照射する温熱療法機を併用して乳癌の治療を試みた際、患者の胸部内部で水素爆発が発生し、その後、喀血する事態が起きた。CT検査の結果、肺胞中心に肺挫傷が認められ、吸入性燃焼肺障害と診断されて入院に至った[23]。この事故は、高濃度水素ガスを吸入することで、肺内でも水素濃度が爆発限界に達し体内で水素爆発が起きる可能性があることを示唆するものである。

 水素と酸素が2:1の混合気体(水素爆鳴気)の水素爆発の爆轟速度は秒速2800kmである[24]。ヒトが水素爆鳴気を吸入し、人体内で爆発が起きた場合の破壊力は想像に難くなく、死亡事故さえ起きかねない状況にあると慶應義塾大学等の研究チームは警鐘を鳴らしている。

 医師をはじめとする医療従事者には、無危害原則に基づき、患者に対する危害を防止、または最小化するよう努める義務がある[25]。高濃度水素の吸入を患者に勧めることは、患者を水素爆発による重大な危険にさらすことを意味する。

 以上の事故を鑑みると、そもそも爆発の危険性があり高濃度水素をヒトに吸入させる高濃度水素吸入器そのものに、PL法上の「製品の欠陥」が内在している可能性が示唆される。家庭や医療機関における高濃度水素ガス吸入による人体内水素爆発事故を防止するためには、水素ガスの水素濃度が爆発濃度以下(10%以下)の水素ガスを生成する吸入機を使用する必要がある[17]。

高濃度水素ガス吸入機を取扱っているメーカー

 高濃度水素ガス吸入機を取り扱っているメーカーの一覧は、慶應義塾大学、カリフォルニア大学バークレー校等の論文のTable 2に掲載されている[26]。

脚注

  1. ↑ (PDF) Nuclear Fuel Behaviour in Loss-of-coolant Accident (LOCA) Conditions. Nuclear Energy Agency, OECD. (2009). ISBN 978-92-64-99091-3
  2. ↑ 今中哲二「水素爆発か核爆発か?--チェルノブイリ原発4号炉爆発の正体」『技術と人間』第31巻第6号、2002年、78-91頁、NAID 40005419420。 今中はチェルノブイリ原発事故で起きた爆発を即発臨界で大量のエネルギーが放出されたことによる爆発であると解釈し、その現象を「一種の『核爆発』」と表現したが、それも核兵器による核爆発とは異なるものである。
  3. ↑ 福島第一原子力発電所の事故についての Q and A - 北海道大学大学院工学研究院
  4. ↑ 水野修, 大原健史, 野池達也、「嫌気性細菌による食品加工廃棄物からの水素生成」『土木学会論文集』 1997年 1997巻 573号 p.111-117, doi:10.2208/jscej.1997.573_111, 土木学会
  5. 1 2 堆洋平, 李玉友、「廃棄物系バイオマスからの非意図的水素生成ポテンシャルとその安全管理」 『廃棄物学会論文誌』 2007年 18巻 5号 p.335-343, doi:10.3985/jswme.18.335, 廃棄物資源循環学会
  6. ↑ 産業安全研究所 編『工場電気設備防爆指針(ガス蒸気防爆 2006)』(pdf)労働安全衛生総合研究所、228頁。ISSN 0911-8063。2022年5月31日閲覧。
  7. ↑ 三宅淳巳「水素の爆発と安全性」(pdf)『水素エネルギーシステム』第22巻第2号、水素エネルギー協会、1997年、11頁、2022年5月31日閲覧。
  8. ↑ Kurokawa, Ryosuke; Hirano, Shin-Ichi; Ichikawa, Yusuke; Matsuo, Goh; Takefuji, Yoshiyasu (2019-07). “Preventing explosions of hydrogen gas inhalers”. Medical Gas Research 9 (3): 160–162. doi:10.4103/2045-9912.266996. ISSN 2045-9912. PMC 6779006. PMID 31552881.
  9. ↑ “世界唯一の爆発しない水素ガス吸入機の開発”. プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES. 2021年10月20日閲覧。
  10. ↑ Hirano, Shin-Ichi; Ichikawa, Yusuke; Kurokawa, Ryosuke; Takefuji, Yoshiyasu; Satoh, Fumitake (2020-01). “A "philosophical molecule," hydrogen may overcome senescence and intractable diseases”. Medical Gas Research 10 (1): 47–49. doi:10.4103/2045-9912.279983. ISSN 2045-9912. PMID 32189669.
  11. ↑ “次世代の医療とは?”. プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES. 2021年10月8日閲覧。
  12. 1 2 Ichikawa, Yusuke; Hirano, Shin-ichi; Sato, Bunpei; Yamamoto, Haru; Takefuji, Yoshiyasu; Satoh, Fumitake (2022-05-12). “Guidelines for the selection of hydrogen gas inhalers based on hydrogen explosion accidents”. Medical Gas Research 13 (2): 43–48. doi:10.4103/2045-9912.344972. ISSN 2045-9912. PMC 9555030. PMID 36204781.
  13. ↑ “安全な水素ガス吸入機選択の世界基準 爆水素爆発事故に基づく安全な水素ガス吸入機の選択のガイドライン”. 2024年7月12日閲覧。
  14. ↑ “事故情報データバンクシステム”. www.jikojoho.caa.go.jp. 2024年7月12日閲覧。
  15. ↑ “国内水素ガス事故事例の要因分析に学ぶ安全対策”. 2025年1月23日閲覧。
  16. ↑ “高濃度水素吸入で人体内爆発のリスク。慶大らが警告する衝撃の事故実態 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)”. forbesjapan.com (2026年7月20日). 2026年7月22日閲覧。
  17. 1 2 Ichikawa, Yusuke; Sato, Bunpei; Takefuji, Yoshiyasu; Satoh, Fumitake (2026-01-05). “Preventable in-body hydrogen explosions from high-concentration H2 inhalers in Japan—Switch to safe, low-concentration hydrogen therapy” (英語). International Journal of Risk & Safety in Medicine: 09246479251414573. doi:10.1177/09246479251414573. ISSN 0924-6479.
  18. ↑ Ichikawa, Yusuke; Sato, Bunpei; Takefuji, Yoshiyasu; Satoh, Fumitake (2026-01-05). “Preventable in-body hydrogen explosions from high-concentration H2 inhalers in Japan-Switch to safe, low-concentration hydrogen therapy”. The International Journal of Risk & Safety in Medicine: 9246479251414573. doi:10.1177/09246479251414573. ISSN 1878-6847. PMID 41489350.
  19. ↑ “消費者庁 事故データバンク 高濃度水素ガス吸入機爆発 顔面内骨折”. 2025年3月26日閲覧。
  20. ↑ “消費者庁 事故データバンク”. 2025年1月25日閲覧。
  21. ↑ “消費者庁「消費生活用製品の重大製品事故に係る公表について 」令和7年5月30日”. 消費者庁. 2025年6月18日閲覧。
  22. ↑ “消費者庁事故データバンク 水素爆発事故”. 2025年3月26日閲覧。
  23. ↑ “A case of lung injury due to a hydrogen explosion caused by the simultaneous use of two home folk remedies devices”. 2025年1月21日閲覧。
  24. ↑ 『燃えるとは何か』集英社インターナショナル、2026年6月10日、115頁。
  25. ↑ “世界医師会医の国際倫理綱領|世界医師会|国際活動|医師のみなさまへ|日本医師会”. www.med.or.jp. 2026年10月29日閲覧。
  26. ↑ Y Ichikawa et al. (2022-09-30). “Guidelines for the selection of hydrogen gas inhalers based on hydrogen explosion accidents 「水素爆発事故に基づく水素ガス吸入器の選定指針」”. Medical Gas Research 13 (2): 43-48.

関連項目