積層欠陥

積層欠陥とは、結晶中に発生する面欠陥の一種である[1]。 結晶中では、原子層が繰り返し構造を形成しているが、この原子層が重なる順番に乱れが生じる場合があり、これを積層欠陥と呼んでいる。積層欠陥は、結晶成長過程や塑性変形によって生じうる。積層欠陥があるとエネルギーが高くなり、このエネルギー増分は単位面積あたりの生成エンタルピー(積層欠陥エネルギー)として定義される。積層欠陥エネルギーの低い材料においては、転位は一般的に拡張転位(部分転位に挟まれた積層欠陥)へと解離する[2]。

積層欠陥は、典型的には最密充填構造でみられる。例えば、最密充填構造である面心立方格子(fcc)と六方最密構造(hcp)は、原子層の積層順序が異なるだけであり、いずれの構造も6回対称性をもつ最密原子面(原子が正三角形を形成する配列)を有する。fccとhcpにおいて、ある原子層を別の原子層の上に乗せることを考えた時、上の原子が下の原子の真上に直接乗るわけではない。fccとhcpの最初の二層は同一であり、ここでは一層目の原子位置をA、二層目をBとし、二層の並びを「AB」と表すことにしよう。三層目をABの上に乗せる時の配置には、一層目の真上(位置A)に乗せて積層を「ABA」とする配置の仕方と、一層目とも二層目とも異なる位置Cに載せて積層を「ABC」とする配置の仕方がある。ここで、前者の積層を続けたもの(ABABABAB…)がhcp、後者の積層を続けたもの(ABCABCABC…)がfcc構造である。このとき、例えばfccの積層順序が「ABCABABCABC…」のように、原子層の並びに乱れが生じることがあり、このように本来の積層順序の中に別の最密積層順序が局所的に入り込むことを積層欠陥と呼んでいる[3]。通常、1~3層の積層順序乱れを積層欠陥と呼ぶ。
FCC結晶における積層欠陥の形成
積層欠陥は、結晶においてあらわれる二次元面欠陥である。その形成機構には、結晶成長によるもの、塑性変形中に完全転位が解離し部分転位が移動することによるもの、高速塑性変形中に点欠陥が凝集することによるものがある[4]。積層欠陥の始端と終端には、部分刃状転位などの部分転位がある。そもそも転位は最密充填面の最密充填方向に形成されやすい。fcc結晶においては、最密充填面(すべり面)は(111)面であり、最密充填方向は[110]方向である。したがって、fccにおける完全転位は並進ベクトルであるバーガースベクトル1/2<110>を持つ[5]。
転位のエネルギーはバーガースベクトルの大きさの二乗に比例するため、転位は2つの部分転位に解離したほうがエネルギー的に有利である。例えば、刃状転位はバーガースベクトル1/6<112>のショックレー部分転位2つに解離する[5]。こうなるともはや、部分転位の方向は最密充填方向ではない。そしてこのとき、2つのバーガースベクトルは互いに60°の角度をなすため、2つの部分転位は互いに反発する。この斥力は、それぞれの部分転位の周囲にある応力場が他方の部分転位に作用するために発生し、剛性率、バーガースベクトル、ポアソン比、転位間距離などに依存する[5]。
部分転位同士が反発するため、部分転位間に積層欠陥が形成される。そして積層欠陥は欠陥であり、完全結晶に比べて大きいエネルギーを持つため、部分転位を引き寄せる。この引力と斥力が等しくなった時、積層欠陥は平衡状態となる[5]。
積層欠陥エネルギーは、転位の解離幅を用いて以下のように求められる[5]。
ここで、, はバーガースベクトル、は解離した部分転位のバーガースベクトルの大きさ、は剛性率、は部分転位間の距離である。
積層欠陥は、バーガースベクトル1/3<111>のフランク部分転位によっても形成されうる[5]。フランク部分転位によって形成される積層欠陥には、内因性と外因性の2種類がある。内因性積層欠陥は原子空孔の凝集によって形成され、1枚の原子層が欠落して「ABCABABC…」のように並ぶ。ここでBAの部分が積層欠陥である[6]。外因性積層欠陥は格子間原子の凝集によって形成され、原子層が1枚追加されて「ABCABACABC…」のように並ぶ[6]。
電子顕微鏡による積層欠陥の可視化
積層欠陥は、電子顕微鏡で可視化することができる[7]。よく用いられる手法としては、透過型電子顕微鏡(TEM)を使う手法と、走査型電子顕微鏡(SEM)で電子チャネリングコントラストイメージングを用いる手法がある。
TEMにおいては、積層欠陥の位置を特定するために明視野像が使われる。積層欠陥は一般的に、小角粒界の近傍において明るい干渉縞を伴う暗い像としてみられ、積層欠陥両端は転位に挟まれている。この干渉縞は、積層欠陥が観察面に対して傾いているために生じる[4]。
SEMにおいては、欠陥があって結晶がひずんでいる領域では反射電子放出率が異なるため、画像にコントラストが生まれ、表面近傍の欠陥を検出することができる。積層欠陥のある領域はブラッグの条件を満たさないため、反射電子放出率が高く、明るい像として観察される。一方、欠陥のない領域からの反射電子はほとんど検出されずに暗く見える。コントラストを反転すれば、明るい母相中に暗い積層欠陥が像として得られる[8]。測定の際には、あらかじめ母相の特定の格子面に関するブラッグの条件を正確に把握しておくことが重要である。
半導体における積層欠陥
多くの化合物半導体、例えば周期表上のIII族元素とV族元素の化合物やII族とVI族の化合物は、fcc閃亜鉛鉱型構造やhcpウルツ鉱型構造の結晶構造をとる。半導体結晶中では、同一材料であっても、fcc構造とhcp構造では通常異なるバンドギャップエネルギーを持つ。その結果、積層欠陥がある結晶のバンドギャップが周囲に比べて小さい場合、量子井戸を形成して、フォトルミネセンス実験ではバルク結晶より低いエネルギー(長い波長)の光が放出される[9]。 逆に、積層欠陥のバンドギャップが周囲より大きい場合、結晶のバンド構造の中にエネルギー障壁が生まれ、半導体デバイスの電流輸送に影響を与えうる。
出典
- ↑ Hirth, J. P. & Lothe, J. (1992). Theory of dislocations (2 ed.). Krieger Pub Co. ISBN 0-89464-617-6
- ↑ Meyer, R.; Lewis, L. J. (2002-07-12). “Stacking-fault energies for Ag, Cu, and Ni from empirical tight-binding potentials”. Physical Review B 66 (5). arXiv:cond-mat/0207312. Bibcode:2002PhRvB..66e2106M. doi:10.1103/PhysRevB.66.052106.
- ↑ Tawfik, Sherif; Olexandr, Isayev; Stampfl, Catherine; Ford, Michael (2018-10-31). “Efficient Prediction of Structural and Electronic Properties of Hybrid 2D Materials Using Complementary DFT and Machine Learning Approaches”. Advanced Theory and Simulations 2. doi:10.1002/adts.201800128.
- 1 2 Li, B.; Yan, P.F.; Sui, M.L.; Ma, E. (2010). “Transmission electron microscopy study of stacking faults and their interaction with pyramidal dislocations in deformed Mg”. Acta Materialia 58 (1): 173–179. Bibcode:2010AcMat..58..173L. doi:10.1016/j.actamat.2009.08.066.
- 1 2 3 4 5 6 Hull, D.; Bacon, D. Chapter 5. Dislocations in Face-Centered Cubic Metals. In Introduction to Dislocations; 2011; pp 85–107.
- 1 2 5.4.1 Partial Dislocations and Stacking Faults http://dtrinkle.matse.illinois.edu/MatSE584/kap_5/backbone/r5_4_1.html .
- ↑ Spence, J. C. H. (2006). “Imaging dislocation cores - the way forward”. Philos. Mag. 86 (29–31): 4781. Bibcode:2006PMag...86.4781S. doi:10.1080/14786430600776322etal
- ↑ Weidner, Anja; Glage, Alexander; Sperling, Lutz; Biermann, Horst (2011). “Observation of stacking faults in a scanning electron microscope by electron channelling contrast imaging”. International Journal of Materials Research 102 (1): 3–5. Bibcode:2011IJMR..102....3W. doi:10.3139/146.110448.
- ↑ Lähnemann, J.; Jahn, U.; Brandt, O.; Flissikowski, T.; Dogan, P.; Grahn, H.T. (2014). “Luminescence associated with stacking faults in GaN”. J. Phys. D: Appl. Phys. 47 (42). arXiv:1405.1261. Bibcode:2014JPhD...47P3001L. doi:10.1088/0022-3727/47/42/423001.