衡平理論

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衡平理論(こうへいりろん、英: equity theory)は、経営学および社会政策において、資源の分配が公平であるか否かを判定することに焦点を当てる理論である。衡平は、組織的または社会的文脈の中にいる各人について、貢献(またはコスト)と便益(または報酬)の比率を比較することによって測定される[1]。公正理論の一つとされる[要説明]衡平理論は、1960年代に職場および行動心理学の研究者であるジョン・ステイシー・アダムス(John Stacey Adams)によって初めて構築されたものであり、彼は、従業員が仕事にもたらす投入(インプット)とそこから受け取る成果(アウトカム)との間の衡平を、他者の知覚された投入および成果と対比しつつ維持しようとすると主張した[2]。衡平理論によれば、個人の報酬を最大化するために、人は集団の成員間で資源を公平に分配しうる仕組みを作り出す傾向がある。関係における不平等は、その関係の中にいる者を、不平等の程度に比例した度合いで不満足にする[3]。人々は公平な扱いを重視し、それゆえに同僚や組織との関係の中で公平さが維持されるよう動機づけられる、と考えられている。職場における衡平の構造は、投入と成果の比率に基づいている。投入とは、従業員が組織のために行う貢献である。この理論は、より広い社会的文脈においても適用することができる。

背景

衡平理論は社会的交換理論に由来する[4]。この理論は、自らが過少報酬あるいは過大報酬の状態にあると知覚した個人は苦痛を経験し、その苦痛が関係における衡平を回復しようとする努力につながると提唱する。[要出典]衡平は、その関係の中にいる各人の貢献と便益の比率を比較することによって測定される。[要出典]当事者どうしは、等しい便益(同じ量の愛情、配慮、経済的安定を受け取ることなど)を受け取る必要も、等しい貢献(同じ量の努力、時間、経済的資源を投じることなど)を行う必要もなく、[要出典]これらの便益と貢献の比率が同程度でありさえすればよい。マズローの欲求段階説のような他の広く知られたモチベーション(動機づけ)理論と同様に、衡平理論は、微妙で変わりやすい個人的要因が、関係の相手に対する各人の評価と知覚に影響を及ぼすことを認めている[5]。アダムス(Adams, 1965)によれば、[3]怒りは過少報酬の不衡平によって引き起こされ、罪悪感は過大報酬の不衡平によって引き起こされる[6]。時間給であれ固定給であれ、報酬が主たる関心事であり、それゆえ大半の場合において衡平または不衡平の原因となる。[要出典]

いかなる職位においても、従業員は自らの貢献と職務遂行が給与によって報われていると感じたいと望む。従業員が過少報酬であると感じれば、その結果としてその従業員は組織に対して、そしておそらくは同僚に対しても敵意を抱くことになり、それによってその従業員はもはや職場で十分に働かなくなる可能性がある[7]。微妙な変数もまた、衡平の感覚において重要な役割を果たす。職務遂行が認められるという考えだけでも、また従業員に感謝を伝えるという行為だけでも、満足感を生じさせ、それによって従業員が自らを価値ある存在と感じ、より良い成果を得ることを助ける。[要出典]従業員は正の不衡平を感じることもあり、それによって労働者は罪悪感を抱き、その罪悪感を埋め合わせようと試みることがある[8]。

衡平の定義

個人は自らの職務上の投入と成果を他者のそれと比較し、そのうえで知覚された不衡平を解消するように反応する。[要出典] 比較対象(referent)と比べられる事柄には、報酬と福利厚生(英語版)、昇進、どれだけ懸命にあるいはどれだけ長く働くかが含まれうる。

投入と成果

投入

投入とは、関係的交換に対する各参加者の貢献と定義され、参加者に報酬またはコストを受ける資格を与えるものとみなされる。[要出典]参加者が関係に対して提供する投入は、報酬を受ける資格を与える資産であることも、コストを負わせる負債であることもある。[要出典]各投入に帰せられる報酬またはコストへの資格は、関係の場面に応じて異なる。[要出典]産業的な場面では、資本や肉体労働といった資産は「関連する投入」、すなわち貢献者に正当に報酬を受ける資格を与える投入とみなされる。社会的な場面では、容姿の美しさや優しさといった資産は、一般にその保有者に社会的報酬を受ける資格を与える資産とみなされる。[要出典]粗野さや残酷さといった個人の特性は、その保有者にコストを負わせる負債とみなされる[9]。投入には、通常、以下のいずれかが含まれる。

  • 時間
  • 教育
  • 経験
  • 努力
  • 忠誠心
  • 勤勉
  • コミットメント
  • 能力
  • 適応力
  • 寛容
  • 決意
  • 熱意
  • 個人的な犠牲
  • 上司への信頼
  • 同僚や仲間からの支援
  • 技能

成果

成果とは、他者との関係の結果として参加者が被ったとある個人が知覚する、肯定的および否定的な帰結と定義される。投入と成果の比率が釣り合っていれば、従業員は自らの職務に大きな満足を得るはずである。[要出典]成果は有形のものにも無形のものにもなりうる[10]。典型的な成果には、以下のいずれかが含まれる。

命題

衡平理論は四つの命題から成る。

  • self-inside: 個人は自らの成果(ここで成果とは報酬からコストを差し引いたものと定義される)を最大化しようとする。[要出典]
  • self-outside: 集団は、成員間で報酬とコストを衡平に配分するための、受け入れられた仕組みを構築することによって、集合的な報酬を最大化することができる。衡平の仕組みは集団内で発展し、成員は他の成員にその仕組みを受け入れ遵守するよう促そうとする。集団が成員に衡平にふるまわせることのできる唯一の方法は、不衡平にふるまうよりも衡平にふるまう方が有利になるようにすることである。したがって集団は、一般に他者を衡平に扱う成員に報い、他者を不衡平に扱う成員を罰する(その者のコストを高める)。[要出典]
  • others-inside: 個人が自らを不衡平な関係に参加していると認めるとき、その個人は苦痛を感じる。関係が不衡平であるほど、個人が感じる苦痛は大きくなる。衡平理論によれば、「多すぎる」ものを得る者も「少なすぎる」ものを得る者も、ともに苦痛を感じる。多すぎるものを得る者は罪悪感や恥を感じることがある。少なすぎるものを得る者は怒りや屈辱を感じることがある。[要出典]
  • other-outside: 自らが不衡平な関係にあると知覚した個人は、衡平を回復することによって自らの苦痛を解消しようと試みる。不衡平が大きいほど、人はより大きな苦痛を感じ、より強く衡平を回復しようとする[9]。

実践への応用

ビジネス

衡平理論は、産業心理学者たちによってビジネスの場面に広く適用され、従業員のモチベーション(動機づけ)と、衡平なあるいは不衡平な処遇についての従業員の知覚との関係を記述するために用いられてきた。[要出典]ビジネスの場面において、関連する二者間(dyadic)(英語版)関係とは、従業員と雇用主との関係である。[要出典]結婚やその他の契約的な二者関係におけると同様に、衡平理論は、従業員が関係にもたらす投入(インプット)と、その関係から受け取る成果(アウトカム)との間の衡平な比率を維持しようとすることを前提とする[3]。ただし、ビジネスにおける衡平理論は社会的比較という概念を導入しており、そこでは従業員は他の従業員の投入/成果比率との比較に基づいて自らの投入/成果比率を評価する[11]。この文脈における投入には、従業員の時間、専門知識、資格、経験、意欲や野心といった無形の個人的資質、および対人技能が含まれる。成果には、金銭的報酬、役得(perks)、福利厚生、および労働者のモチベーション、業績、満足に影響を与える柔軟な勤務形態が含まれる。[要出典]不衡平を知覚した従業員は、自らの心の中で投入や成果を歪めること(「認知的歪曲」)、投入や成果を直接に変更すること、あるいは組織を去ることのいずれかによって、その不衡平を低減しようとする[11]。労働者は、自らが知覚する報酬に基づいて仕事の質を変化させる[12]。こうした不衡平の知覚は、組織的公正の知覚、より具体的にはその不公正の知覚である。[要出典]その結果、この理論は従業員の士気、効率、生産性、離職に対して広範な含意を有する。[要出典]

衡平理論のビジネスへの応用の大半に適用される三つの主要な前提は、次のように要約できる。

  1. 従業員は、自らが仕事に対して貢献したものに見合う公平な見返りを期待する。これは「衡平規範」と呼ばれる概念である。[要出典]
  2. 従業員は、自らの投入と成果を同僚のそれらと比較したうえで、自らの衡平な見返りがどれだけであるべきかを決定する。この概念は「社会的比較」と呼ばれる。[要出典]
  3. 自らが不衡平な状況にあると知覚した従業員は、自らの心の中で投入や成果を歪めること(「認知的歪曲」)、投入や成果を直接に変更すること、あるいは組織を去ることのいずれかによって、その不衡平を低減しようとする[11]。

個人的関係

衡平理論は親密な関係にも適用されてきた。カート(Kurt)は、「この理論はより広い社会的重要性をもつ。というのも、それは対人的な相互作用や関係における公平さと正義を促進するための枠組みを提供するからである。そうすることで、この理論は組織的な成果と社会正義の双方の調整を導くことを目指している」と述べている[7]。

研究者たちは、親密な関係もまた衡平理論が働いている例であるという考えを論じている。というのも、パートナーは自らの投入と成果の公平さを評価するからである[13]。研究者たちによれば、衡平理論は個人がどのようにパートナーを選択するか、また関係がどのように機能するかを説明しうる[14]。この概念は、搾取的な関係、互恵的な関係、および利他的な関係に適用されてきた[15]。さらに研究者たちは、衡平理論は関係における不平等が苦悩や抑うつの感情につながりうることを説明すると述べている[16]。

管理者への含意

衡平理論は、企業の管理者に対していくつかの含意をもつ。

  • 人々は自らの投入(インプット)と成果(アウトカム)の総体を測る。このことは、働く母親がより柔軟な勤務時間と引き換えにより低い金銭的報酬を受け入れる場合があることを意味する[17]。
  • 従業員によって、投入と成果に付与する個人的な価値は異なる。したがって、同等の経験と資格をもち、同じ賃金で同じ仕事をしている二人の従業員が、その取引の公平さについてまったく異なる知覚(英語版)をもつことがありうる。[要出典]
  • 従業員は購買力や地域の市場条件に応じて調整することができる。したがって、アルバータ州の教師は、生活費が異なるならばトロントの同僚より低い報酬を受け入れるかもしれないし、アフリカの辺境の村の教師はまったく異なる賃金体系を受け入れるかもしれない。[要出典]
  • より上位の職員がより高い報酬を受け取ることは受け入れられうるとしても、衡平の天秤の釣り合いには限度があり、従業員は過大な役員報酬をモチベーションを損なうものと感じることがある。[要出典]
  • 自分自身および他者の投入と成果についての職員の知覚は正しくない場合があり、知覚は効果的に管理される必要がある。[要出典]
  • 自分が過大に報酬を得ていると考える従業員は、努力を増やすかもしれない。しかしその一方で、自らの個人的な投入に付与する価値を調整することもありうる。すなわち、優越感を内面化して、実際には努力を減らすということもありうるのである。[要出典]

批判と関連理論

衡平理論に対しては、その前提と実践的応用の双方に批判が向けられてきた。たとえばレヴェンタール(Leventhal)のような論者は、衡平理論はあまりに一次元的であり、手続きを無視しており、社会的相互作用において公平さという概念がどれほど重要であるかを過大評価していると主張している[18]。研究者たちはこのモデルの単純さに疑問を呈し、多くの人口統計学的変数および心理学的変数が、公平さについての人々の知覚や他者との相互作用に影響を与えると論じてきた。[誰?]さらに、衡平理論の基本的な命題を支持する研究の多くは実験室環境で行われており、それゆえ現実世界の状況への適用可能性には疑問がある[19]。批判者たちはまた、人々は関係における特定の投入と成果という観点からだけでなく、それらの投入と成果を決定する包括的な制度という観点からも、衡平/不衡平を知覚しうると論じてきた。[誰?]したがって、ビジネスの場面において、人は自らの報酬が他の従業員の報酬と衡平であると感じつつも、報酬制度全体を不公平であると見なすことがありうる[11]。

研究者たちは、衡平理論を拡張する視点や、これと競合する多くの視点を提示してきた。

衡平感受性構成概念

衡平感受性構成概念は、個人が衡平に対して異なる選好をもち、それゆえ知覚された衡平および不衡平に対して異なる仕方で反応すると提唱する。[要出典]選好は、極端な過少便益への選好から極端な過大便益への選好にいたる連続体の上に表すことができる。三つの原型的な類型は次のとおりである。

  • 寛容者(benevolents)とは、自らの成果/投入比率が関係のパートナーのそれよりも小さいことを好む個人である。言い換えれば、寛容者は過少に便益を得ることを好む。[要出典]
  • 衡平感受者(equity sensitives)とは、自らの投入/成果比率が関係のパートナーのそれと等しいことを好む個人である。[要出典]
  • 権利主張者(entitleds)とは、自らの成果/投入比率が関係のパートナーのそれを上回ることを好む個人である。言い換えれば、権利主張者は過大に便益を得ることを好む[19]。

公平さモデル

公平さモデルは、標準的な衡平理論における関係のパートナーすなわち「比較対象者(comparison person)」に代わる、衡平/不衡平の測定基準を提唱する。[要出典]公平さモデルによれば、個人は自らの投入と成果を内的に導き出された基準と比較することによって、関係の全体的な「公平さ」を判断する。[要出典]したがって公平さモデルは、包括的な制度について知覚された衡平/不衡平を、個人による自らの関係の評価に組み込むことを可能にする[11]。

ゲーム理論

行動経済学は近年、衡平理論の研究にゲーム理論を適用し始めている。たとえばギル(Gill)とストーン(Stone)は2010年に、人々が競争する戦略的状況において衡平への考慮がどのように行動に影響するかを分析し、最適な労働契約に対する含意を展開している[20]。

脚注

  1. ↑ Guerrero, Laura K.; Peter A. Andersen & Walid A. Afifi (2014). Close Encounters: Communication in Relationships, 4th Edition. Los Angeles, CA: Sage Publications Inc. p. 263. ISBN 978-1-4522-1710-9
  2. ↑ Adams (1963).
  3. 1 2 3 Adams (1965).
  4. ↑ Littlejohn, S.W.; Foss, K.A.; Oetzel, J.G. (2021). Theories of Human Communication. Waveland Press. pp. 239–240
  5. ↑ Guerrero, Andersen & Afifi (2010).
  6. ↑ Spector (2008).
  7. 1 2 Kurt, Serhat (2023年11月7日). “Equity Theory: Definition, Origins, Components and Examples” (英語). Education Library. 2023年11月7日閲覧。
  8. ↑ Brockner, J; Greenberg, J.; Brockner, A.; Bortz, J.; Davy, J.; Carter, C. (1986). “Layoffs, equity theory, and work performance: Further evidence of the impact of survivor guilt”. The Academy of Management Journal 29: 373–384.
  9. 1 2 Walster, Traupmann & Walster (1978).
  10. ↑ Cook, Mark; Wilson, Glenn, eds (1979). Love and attraction: an international conference (1 ed.). Oxford [u. a.]: Pergamon Press. pp. 309–323. ISBN 008022234X
  11. 1 2 3 4 5 Carrell & Dittrich (1978).
  12. ↑ Andrews, A (1967). “Wage inequity and job performance: An experimental study”. Journal of Applied Psychology 51 (1): 39–45. doi:10.1037/h0024242. PMID 6038479.
  13. ↑ Hatfield, E.; Traupmann, J. (1980). “Intimate relationships: A perspective from equity theory”. In Duck, S.. Personal relationships I: Studying personal relationships. Academic Press. pp. 165–178
  14. ↑ Hatfield, E.; Utne, M; Traupmann, J (1979). “Equity theory and intimate relationships”. In Burgess, R.L.. Social exchange in developing relationships. Academic Press. pp. 99–117
  15. ↑ Hatfield, E; Traupmann, J; Sprecher, S; Utne, M; Hay, J. (1985). “Equity and Intimate Relations: Recent Research”. In Ickes, W.. Compatible and Incompatible Relationships. New York: Springer
  16. ↑ Schafer, R.B.; Keith, P.M. (1980). “Equity and depression among married couples”. Social Psychology Quarterly 43 (4): 430–435. doi:10.2307/3033963. JSTOR 3033963. PMID 7209589.
  17. ↑ “Adams' Equity Theory of Motivation” (英語). BusinessBalls: Leadership, Compliance, Soft Skills Training. 2025年9月24日閲覧。
  18. ↑ Leventhal, G.S. National Science Foundation. (1977). What Should Be Done with Equity Theory? New Approaches to the Study of Fairness in Social Relationships (SO 010 146).
  19. 1 2 Huseman, Hatfield & Miles (1987).
  20. ↑ Gill & Stone (2010).

参考文献

関連項目