貸金庫
目次
貸金庫
貸金庫(かしきんこ)は、銀行等の建物内の金庫室の側面等に固定設置されている金庫であり[1]、この一部を個人ごとに専用キャビネットとして有料で貸し出すサービス[2][3]。個室そのものを利用するタイプもある[2]。有価証券、宝石、貴金属など貴重品の保管に利用される[1]。金融機関の有する耐火・耐水・耐震といった安全で堅牢な金庫室に格納する安全性と貸金庫の開閉や格納物の出し入れに金融機関が直接関知しないという秘匿性を有する[4]。
歴史的には17世紀のイングランドで金や貴重品の保管を金匠(Goldsmith)に委せる商習慣が成立し、一部の者が保管業として貸金庫業を営むようになった[5]。
概要
[編集]アメリカの貸金庫
[編集]アメリカ合衆国では銀行や連邦預金保険公社は預託物を保証しておらず[6]、個人が金庫に対し保険をかける必要があり、貸金庫に特化した保険商品が販売されている[7]。
一般的な契約では利用者は料金を払い、銀行が用意した鍵や署名、符号の並べ替えにより開錠する[8]。一部の銀行は生体認証を導入している[9]。多くのホテル、リゾート、クルーズ客船も滞在者用に受付や個室内に設置している[10]。
日本の貸金庫
[編集]貸金業取引は銀行、信託銀行、信用金庫等の付随業務または併営業務として認められている保護預かり取引の一種である(銀行法10条2項10号、信用金庫法53条3項9号等)[1][4]。なお、保護預かりには貸金庫のほかに開封預り(披封預り、開封保護預り)、封かん預りがある[1][4]。
銀行等の保護預かりは他人のために物品を保管する点で倉庫営業と共通するが、銀行法等では付随業務として規定され、容積の小さい貴重品のみを目的としており、これを主たる業務として大規模に行うことはできない点で倉庫営業とは異なる[4]。
貸金庫契約の法的性質については、賃貸借契約説(通説)、寄託契約説、複合的契約説がある[4]。
貸金庫は開閉方法と手順により以下のようなタイプがある[1][2]。
- 手動型
- 職員が立ち会ってロッカー型の引き出しを開閉して利用するタイプ[2]。金庫室に個々に独立して施錠できるようにしたキャビネット(貸渡保護函、貸金庫保護函などという)を設けて利用に供する[4]。正鍵(利用者が所持)、副鍵(万が一のときに使用するための鍵で、利用者と銀行等が立ち会いの上で鍵保管袋に封印して銀行等が保管)、マスターキー(銀行等が所持)の3本の鍵が存在する[4]。「従来型」とも呼ばれ、利用者またはその代理人が開庫依頼書を提出して本人確認を受け、金融機関側はマスターキーで保護函の施錠を解き、利用者またはその代理人が自らが管理する正鍵で保護函を開庫する[1]。
- 半自動型
- 貸金庫室への入退室を専用のカードで行い、顧客はその室内でロッカーを利用するタイプ[2]。
- 全自動型
- 暗証番号とカードによって顧客が個室を利用するタイプ[1][2]。
かつては通貨(現金)を預けることも可能だったが、後述の窃盗事件が都市銀行各行で相次いだことを受けて、全国銀行協会は2025年6月に運用指針を改正し、現金の預け入れを禁止した[11][12]。
- 日本の銀行の貸金庫室
- 収納ユニットの例
- スイス銀行の貸金庫
貸金庫窃盗
[編集]アメリカや日本などの銀行では、貸金庫サービスでは安全を提供できないとしてサービスを提供しないケースが見られる[13]。
1990年代には、アメリカで貸金庫窃盗が頻発していたが、銀行側は捜査に協力的ではなく、また政府は銀行口座のみ保証する法律となっているため貸金庫内の物の保証はできないとされた[14][15]。
2023年にトロント・ドミニオン銀行にて、貸金庫内の物が紛失していたが、セキュリティの不備や貸金庫内の出入りに関する証拠を提出すること、中身に関する目録などもないため対策が取れなかった[16]。
2024年11月、三菱UFJ銀行の練馬支店(旧江古田支店を含む)と玉川支店において、支店の店頭業務責任者が貸金庫から十数億円相当の資産を窃盗していたことが発覚した[17]。元行員(懲戒解雇)は、支店の貸金庫の管理責任を担う立場を利用し、2020年4月から2024年10月までの約4年半にかけて窃盗を行っていた。2024年12月16日、金融庁は本件について三菱UFJ銀行に対して報告徴求命令を出した[18]。2025年1月14日、警視庁は貸金庫から顧客の金塊2億6千万円相当を盗んだとして元行員を窃盗容疑で逮捕した[19]。
2025年2月、みずほ銀行は2019年に元行員が同行の貸金庫から数千万円の現金を窃盗していたと発表した[20]。元行員は発覚後速やかに懲戒解雇処分された。
脚注
[編集]- 1 2 3 4 5 6 7 宮川不可止「貸金庫内容物と商事留置権の成否」『京都学園法学』2・3、京都先端科学大学、2009年、23-53頁。
- 1 2 3 4 5 6 大石正人「本来業務における潜在リスクへの目配りの重要性~銀行の店舗政策と貸金庫問題の発生を契機に考える」『日本システム監査人協会 会報 2025年3月号』、日本システム監査人協会、2025年、4-7頁。
- ↑ 「貸金庫」は身近で便利なサービス! - 全国銀行協会
- 1 2 3 4 5 6 7 村上憲雄「貸金庫の内容物に対する滞納処分」 税務大学校 2025年10月7日閲覧。
- ↑ 齋藤一朗. “歴史の中の金融ビジネス革新”. 信金中央金庫地域・中小企業研究所. 2025年9月27日閲覧。
- ↑ "Storing Gold Externally".
- ↑ "Valuables & Documents | Safe Deposit Box Insurance Company". safedepositboxinsurance.com.
- ↑ FDIC Consumer News.
- ↑ Thinking outside the safe deposit box: Florida Credit Union members use biometric HandReaders.
- ↑ Payne, Kirby D. Safety Deposit Boxes and In-Room Safes.
- ↑ “貸金庫で現金は預かりません…相次ぐ行員の窃盗事件受け全銀協が指針改定、事業廃止の動きも”. 読売新聞 (2025年6月19日). 2025年6月23日閲覧。
- ↑ 福富智、山口智、秋丸生帆 (2025年6月19日). “「現金預かれない」 貸金庫の運用指針見直し 全銀協、窃盗事件受け”. 毎日新聞. 2025年6月23日閲覧。
- ↑ Cowley, Stacy (2019年7月19日). “Safe Deposit Boxes Aren’t Safe” (英語). The New York Times. 2025年2月19日閲覧。
- ↑ Lee, Patrick (1996年10月23日). “Between a Box and a Hard Case : Safe Deposit Theft Claims on Rise” (英語). Los Angeles Times. 2025年2月19日閲覧。
- ↑ Johnson, Carolyn (2019年11月10日). “Families Search for Answers After Jewelry Disappears From Safe Deposit Boxes” (英語). NBC Los Angeles. 2025年2月19日閲覧。
- ↑ “How safe are safety deposit boxes? They're not as protected as you may think” (英語). CBC. 2025年2月19日閲覧。
- ↑ 「元行員の不祥事について」【三菱UFJ銀行】2024年11月22日付
- ↑ “金融庁 三菱UFJ銀行に報告徴求命令”. NHK. 2024年12月16日.
- ↑ “三菱UFJ元行員を逮捕 貸金庫から金塊2.6億円窃盗容疑―十数億円被害、投資に流用か・警視庁”. 時事通信. 2025年1月15日. 2025年1月16日閲覧.
- ↑ 元行員による不祥事案に関する一部報道について
関連項目
[編集]- Bank vault - 銀行などにある建物据付の巨大な金庫室。
- タンス預金
- 貸倉庫
- 銀行強盗 - 銀行強盗の際に、貸金庫内の物も荒らされる可能性がある。