鎌倉彫


鎌倉彫(かまくらぼり)は、神奈川県鎌倉市とその周辺で生産される、木地に文様を彫刻し、漆を塗って仕上げる工芸品である。盆、皿、椀、茶道具、箱など、日用品や装飾品が製作されている。1979年(昭和54年)に国の伝統的工芸品に指定された。[1]
歴史
起源と中世
鎌倉彫の起源は、鎌倉時代に仏師が製作した仏具に求められている。13世紀半ばには、宋から伝来した工芸品の中に、漆を厚く塗り重ねて文様を彫り出す彫漆の技法があり、その一種である堆朱などが知られていた。鎌倉彫は、こうした中国の工芸品の影響を受けたものと説明されている。[2]
起源に関する伝承では、仏師の康運(こううん。康円とも)が、宋から伝わった彫漆の器物を参考に仏具を製作したことが始まりとされる。[3]
中世の鎌倉彫の作例として、円覚寺に伝わる屈輪文彫木朱漆大香合や、獅子牡丹文硯台などが知られる。屈輪文彫木朱漆大香合は、木に屈輪文を彫り、漆を施した作品で、神奈川県指定重要文化財となっている。[4][5]
室町時代の公家である三条西実隆の日記『実隆公記』には「鎌倉物」という語が見られる。古川元也は、この語が記された文脈を検討し、中世の贈答や文化交流との関係を論じている。ただし、「鎌倉物」という語が、現在の工芸品としての鎌倉彫を直接指すと確定しているわけではない。[6]
江戸時代
江戸時代の文献にも鎌倉彫の名称が見られる。鎌倉市の解説によれば、1694年(元禄7年)刊行の『萬寶全書』に「鎌倉雕」の記載がある。[2]
近代以降
明治維新後、神仏分離政策と廃仏毀釈の影響で、寺院や仏像制作に関わっていた仏師の仕事は変化した。鎌倉では、仏師の技術を生かし、日用品などの製作に取り組む動きが進んだ。後藤齋宮(ごとういつき)や三橋鎌山らは、近代の鎌倉彫の形成に関わった人物として挙げられている。[7][2]
1889年(明治22年)の横須賀線開通後、鎌倉は東京方面から訪れる人々の別荘地・観光地として発展した。鎌倉彫は、仏具などに加えて、訪問者向けの土産物や生活用品としても製作されるようになった。近代以降の鎌倉彫は、中世の作品や技術を参照しながら、製品の用途や生産・販売の形態を変化させてきた。[7]
1979年(昭和54年)、鎌倉彫は国の伝統的工芸品に指定された。現在は、伝統鎌倉彫事業協同組合などが、技術の継承や製品の製作に取り組んでいる。[1][3]
製法
木地と彫刻
鎌倉彫には、カツラやイチョウなどの木材が用いられる。木材を器物の形に加工して木地を作り、表面に文様を彫刻する。木地の準備には乾燥などの工程があり、材料の状態に応じた処置が行われる。[2]
文様の彫刻では、下絵を木地に写し、彫刻刀などで文様を彫り出す。工程には、輪郭や文様の形を整える作業、面を彫り下げる作業などが含まれる。彫刻の仕方によって文様に凹凸が生じ、仕上げ後の表面に陰影が現れる。[2]
漆塗りと仕上げ
彫刻後の木地には、漆を塗り重ねる。下地を整え、中塗りや上塗りを行い、乾燥と研ぎを組み合わせて表面を仕上げる。鎌倉彫では、朱漆を用いた仕上げが知られる。工程や材料は製品によって異なり、漆を塗る作業と研ぎなどの仕上げ作業を繰り返して完成させる。[2]
鎌倉市の解説では、彫刻から塗り、仕上げまでの工程を含め、直径約30センチメートルの盆の製作におよそ1か月から1か月半を要する例が紹介されている。所要時間は材料や作品、製作工程によって異なる。[2]
製品と文様
鎌倉彫の製品には、盆、膳、皿、椀、重箱、箸、スプーン、茶道具、文箱、宝石箱などがある。伝統鎌倉彫事業協同組合が登録した地域団体商標の指定商品にも、これらの生活用品や装飾品が含まれている。[8]
文様には、植物や動物などを題材としたものがある。中世の作例として知られる屈輪文彫木朱漆大香合や獅子牡丹文硯台にも、彫刻による文様が施されている。[4][5]
指定・登録
鎌倉彫は、1979年(昭和54年)に国の伝統的工芸品に指定された。伝統的工芸品は、伝統的工芸品産業の振興に関する法律に基づいて指定される。指定にあたっては、製造工程や原材料、技術・技法などに関する要件が定められている。[1][9]
また、「鎌倉彫」は地域団体商標として登録されている。特許庁の登録情報では、鎌倉地方に由来する木彫刻および漆塗りの技法により、鎌倉市とその周辺で生産された製品が指定商品として記載されている。[8]
関連項目
脚注
- 1 2 3 “伝統的工芸品「鎌倉彫」”. 鎌倉市. 2026年10月19日閲覧。
- 1 2 3 4 5 6 7 “鎌倉彫とは”. 鎌倉市. 2026年10月19日閲覧。
- 1 2 “鎌倉彫について”. 伝統鎌倉彫事業協同組合. 2026年10月19日閲覧。
- 1 2 “屈輪文彫木朱漆大香合”. 文化遺産オンライン. 2026年10月19日閲覧。
- 1 2 “県指定重要文化財(工芸)”. 神奈川県. 2026年10月19日閲覧。
- ↑ 古川元也「鎌倉彫と鎌倉物―三条西実隆の意識から―」『神奈川県立博物館研究報告―人文科学―』第27巻、2001年、21-41頁、2026年10月19日閲覧。
- 1 2 “4 近代の鎌倉彫”. 神奈川県立歴史博物館. 2026年10月19日閲覧。
- 1 2 “商標登録第5276777号 鎌倉彫(かまくらぼり)”. 特許庁. 2026年10月19日閲覧。
- ↑ “伝統的工芸品に関する法律について”. 経済産業省. 2026年10月19日閲覧。
参考文献
- 古川元也「鎌倉彫と鎌倉物―三条西実隆の意識から―」『神奈川県立博物館研究報告―人文科学―』第27号、2001年、21–41頁。