白髪

白髪(しらが、はくはつ)は、主にヒトの頭髪の色素量が減少して白く見えるものを指す[1][2]。 医学用語としては、体毛も含む毛全般の白色化について、白毛(はくもう)ないし白毛症(はくもうしょう)という[3]。 白髪には、生理的な加齢によるもののほかに、早期に発現する若白髪、局所的に発現する限局性白毛症などがある[4][5]。
概念・用語
白髪は、主にヒトの頭髪の色素量が減少して白く見えるものを指す[1][2](白色には至らない毛髪色素の淡色化は白髪とは区別される[4])。 頭髪以外の体毛についても白髪とよぶことがある[6]。 英語では、gray/grey hair(white hair)[注 1]と表現し、医学用語としては、canitiesが用いられる(achromotrichiaも同義語として用いられることがある) [7]。 日本語の医学用語としては、白毛、白毛症[3]が毛の白色化の総称として用いられる。
白毛・白毛症
白毛、ないし白毛症(leukotrichia)は、毛幹内のメラニンの減少または消失により毛が白色を呈している状態の総称であり、頭髪以外の毛も含む[4]。 びまん性の頭髪の白毛化は白髪という。体毛も含む限局性の白毛化は限局性白毛と呼ぶ[4][5][8]。
白髪
白髪(canities)は、主に頭髪のびまん性の白毛化である。頭髪内で多少の分布や開始時期の差はありうるが、限局性[注 2]ではなく、経過中は、白い毛は色素の保持された毛と混在する[8]。 原因は、主に、毛根のメラノサイトの機能低下・減少や毛根周囲のメラノサイト幹細胞の機能障害・枯渇によると考えられている。 加齢による生理的な白髪と早発性の若白髪がある。若白髪は、通常は美容上の問題とみなされるが、他疾患の症候である場合や薬剤の副作用などに起因する場合がある[4]。 その他、進行が異常に速くみえるもの(一夜白髪)は、非常に稀ではあるが、疾患・強いストレス・薬剤副作用などに伴って出現した例が報告されている[9][5]。
限局性白毛
限局性白毛(限局性白毛症、poliosis、ないし、poliosis circumscripta)は局所的な白毛の房、または、斑状の白毛を意味する。その領域に限定して、毛包のメラニン産生が低下ないし欠失している状態である。頭髪以外の毛も含む[4]。 限局性白毛症も、形質の一つとみなされる場合と、他疾患の症候や薬剤の副作用として取り扱われる場合がある[4][5]。
毛髪色素の減少
毛髪色素の減少(hair pigment dilution)は、白色には至らない毛髪色素の淡色化(減弱)であり、白髪とは区別される[4]。 加齢による白髪でも、一部の毛では部分的な白色化や淡色化を呈することがある[8]。 フェニルケトン尿症[10]やホモシスチン尿症[11]では皮膚・毛などの色素が薄くなることがある。 その他、眼皮膚白皮症(症候性、および、非症候性)でも毛髪色素の減少がみられることがある[4][12]。
病態
毛の色素の生理学


ヒトの毛の色はメラニンに由来する。 メラニンには黒褐色のユーメラニンと赤黄色のフェオメラニンがある。毛に含まれるユーメラニンの量は、黒、茶、金髪、赤毛の順番に少なくなっていく。フェオメラニンは黒、茶、金髪には微量に含まれるが、赤毛においてはフェオメラニンが多く、ユーメラニンとフェオメラニンがほぼ同じレベルで含まれている。ユーメラニンは紫外線吸収作用が強く、生体を紫外線から保護する機能を果たしているが、フェオメラニンは紫外線吸収能に乏しい [13][14]。
成長期の毛包の最下端の毛球には真皮細胞の集塊である毛乳頭を囲むように、メラノサイト(メラニン細胞、または、色素細胞)、 および、角化して毛となるケラチノサイト(角化細胞)が存在している[15]。
メラノサイトで産生されたメラニンはメラノソームとしてケラチノサイトに樹状様の突起を介して送り込まれる。毛球ではケラチノサイト(角化細胞)5 個に対し1 個の比率でメラノサイト(メラニン細胞)が存在する(表皮では1:36程度でメラノサイトが相対的に毛根より少ない)[5]。
毛髪は、成長期(anagen、頭皮では2〜8年)、成長が止まり毛包が縮小する退行期(catagen、頭皮では2〜3週)、休止期(telogen、頭皮では2〜3ヶ月)からなる毛周期(毛の生え変わり周期)を繰り返している。成長期には毛髪は月に1 cm程度伸びる[14]。毛の脱落は休止期の終盤に起こるが、これを脱落期(exogen)として分けることもある[注 3] 頭皮の毛包はこの周期を一生に10〜30回繰り返している[16]。 メラノサイトがメラニンを産生するのは毛髪の成長期であり、メラニンは主に毛皮質に供給される(毛髄質に移行するメラニンは少なく、クチクラにはほとんど移行しない)[14]。退行期には毛球の分化したメラノサイトはアポトーシスを起こして失われる。 次の成長期にメラノサイトを供給するのは、毛包のバルジ領域(bulge、毛包の立毛筋付着部付近)に存在するメラノサイトの幹細胞だとされている。 メラノサイトは加齢に伴い減少しメラニン量も減少して白髪が生じる[5][15][17][16]。
髪の色の生理機能
毛の生理的機能としては、日光などからの保護や温度調節機能などがあげられている。 毛に含まれるメラニンは紫外線を吸収して頭皮を保護するとともに、髪の色を決定する。 髪の色は、社会的・性的コミュニケーションに重要な役割を果たす[5]。
後天的な白毛化の機序・病因
後天的な白毛化の機序としては、加齢に伴うメラノサイト機能低下やメラノサイト幹細胞の枯渇、自己免疫など免疫的な機序による毛包やメラノサイトの傷害、メラニン合成の抑制、毛包の損傷などがあげられる[4]。
メラノサイト幹細胞の枯渇
毛包におけるメラノサイト幹細胞の消失または機能異常により、新たなメラノサイトが供給されない状態である。 進行性で、長期的には不可逆となりやすい。 これが生理的な白髪に関連しているという説が有力である[4]。
自己免疫によるメラノサイトの傷害
免疫的な機序による皮膚や毛包のメラノサイトの傷害・喪失である。皮膚の白斑にともなう白毛や全身性のメラノサイト傷害性疾患があげられ、代表的なものに、尋常性白斑(vitiligo)や、フォークト・小柳・原田病がある[4]。
免疫特権の破綻
成長期毛包に対する炎症性の攻撃である。瘢痕を伴わない脱毛症に合併したり、脱毛後に再発毛する際に白毛化していることがある。円形脱毛症(alopecia areata)でみられる[4]。
毛包の損傷
瘢痕、熱傷、治療部位などに生える白毛である。毛包の色素産生機構の破壊による。放射線、熱傷、レーザーなどによる損傷などでみられる[4]。
薬剤性
薬剤のまれな副作用として白毛化がみられることがある。 機序としては、メラノサイトのシグナル伝達異常、メラニン合成抑制、免疫性の脱色素などがあげられている[4]。 プロスタグランジン関連薬(プロスタグランジンF2α誘導体のラタノプロストなど)の外用は睫毛の増加とともに稀に白毛化を来すことがあり、機序として毛周期やメラノサイト機能への影響が考えられている[18]。 スニチニブによる毛の色素低下の機序としてはc-KITシグナル伝達抑制が提唱されている。 イミキモド外用による皮膚・毛の色素低下は免疫反応の増強による可能性が考えられている。 その他、イマチニブ、クロロキン、免疫チェックポイント阻害剤、レチノイド全身投与などさまざまな薬剤で 白毛化が報告されている[4][5][19]。
先天的な白毛化の機序・病因
先天的な白毛の機序としては、メラノサイトの発生過程における欠如やメラニンの合成・輸送などの先天的な異常があげられる[4]。
メラノサイトの発生過程における欠如
先天性の白毛がみられる。経過で変化はしない。疾患としては、まだら症(piebaldism)、ワールデンブルグ(Waardenburg)症候群が該当する[4]。
先天的なメラニン合成、メラノソームの形成・輸送、色素配分の異常
毛髪色素の減弱、または、白毛化がみられる。 メラノソームに限定して異常がある非症候型眼皮膚白皮症(アルビノ)、メラノソームも関わる膜輸送系の異常による症候型眼皮膚白皮症(グリセリ症候群、チェディアック・東症候群、ヘルマンスキー・パドラック(Hermansky–Pudlak)症候群など)などがあげられる[4][12]。 また、結節性硬化症でも局所的な低色素斑や白毛がみられることがある[20]。
白毛の性質
一部の研究では、白毛は色素をもつ毛に比べ、太くて硬く、成長が早い傾向があると報告されている(頭髪[21][22]、髭[23]、動物実験[14])[5]。 頭髪や眉の白毛では毛の成長に関わる遺伝子の発現が増加しているとの報告もある[21]。
- 毛は髄質(medulla)、皮質(cortex)、クチクラ(cuticle)から構成されている。
- ヒトの毛の顕微鏡写真:髄質とクチクラが識別できる(丸いものは気泡)。
- ヒトの白毛の顕微鏡写真:暗色が髄質、色素の少ない皮質は明るく見えており、表面のクチクラは外側に暗色帯状に見えている。
生理的な白髪
白髪は生理的な加齢現象の一つであるが、加齢のみならず、遺伝子、心理的因子、内分泌、栄養・代謝などさまざまな因子の影響を受ける[24]。 加齢に伴い、黒色や褐色の毛が徐々に白色毛に置き換わり、髪全体が灰白色(黒色毛と白色毛の混在、胡麻塩)から、さらに白色に移行する。 灰白色化は側頭部に始まり、次第に他の頭部、さらに髭やその他の体毛にも広がっていく[8]。 通常は不可逆的であるが、初期には、色素が自然に再出現する例や薬剤により再色素化する例がみられることがある[8]。
機序
加齢に伴い、毛球におけるメラノサイトのメラニン産生は徐々に低下していく。最終的には、バルジ部のメラノサイト幹細胞プールも枯渇し、 この段階では、白毛化はほぼ不可逆的と考えられている[24]。 これらの機序の詳細は不明であるが、メラニン産生に伴うフリーラジカル等の有害物質の蓄積によるメラノサイトへの傷害、遺伝子エラーの蓄積によるメラノサイトの死滅、 フリーラジカルによるDNAやミトコンドリアへの損傷の蓄積によるメラノサイト幹細胞の機能異常や枯渇などが考えられている[5][15][25]。
発症年齢
白髪化の開始年齢は遺伝的因子に影響され、また、地理的・民族的差がある。 一般的には、コーカソイドは30歳代半ば、アジア人は30歳代末、アフリカ人は40歳代半ばが白毛化開始の平均年齢とされる[5]。 また、文献的には、50歳時には50 %の人において毛の50 %以上が白色化している(50-50-50ルール)との記載がよくみられるが[5]、 実際には民族・地域・髪の毛の色により差があり、ある報告では50歳時に毛の50 %以上が白色化するのは調査対象集団の6 %から23 %程度としている[26]。
性差
白髪化には性差があり、女性は遅いとの報告もある。たとえば、日本人男性では30歳代前半、女性では30歳代後半に白髪化が進むとされている[14]。
頭髪の白髪
日本人の頭髪については、5から9歳でも男性9.8 %、女性5.2 %に白毛がみられ、男性では30〜34歳で白毛保有率(僅かでも白毛があれば保有者とする)が急増し50〜54歳で100 %、女性では35〜39歳で白毛保有率が急増し55〜59歳で100 %と報告されている[27][注 4]。
頭髪の中でも白毛化の部位差は存在する。 白毛化は側頭部に始まり、徐々に頭皮全般に広がっていく傾向があるとされる[5]。 性差を認める文献もあり、男性では側頭部・もみあげに始まって頭頂部に広がり、最後に後頭部に達する一方で、 女性では、ヘアライン・中心部にはじまる傾向があるとしている[28]。 日本人については、1955年調査の歴史的資料ではあるが、日本人頭髪の部位別白毛保有率の調査がある(下表)[27]。 なお、この報告では、男性では、側頭部⇒後頭部⇒頭頂部⇒前頭部⇒項部の順に白毛化が進み、 女性では、 白毛の出現でみると、頭頂部⇒側頭部⇒後頭部⇒前頭部⇒項部、 白毛化の程度では、側頭部⇒前頭部⇒頭頂部⇒後頭部⇒項部の順としている(横断的観察からの推定値であり、経時的観察によるものではない)[27]。
| 部位 | 白毛が出現する年代 | 白毛保有者率が急増する年代 | 全例で白毛の存在が認められる年代 |
|---|---|---|---|
| 側頭部 | 5から9歳でも男性1.0 %、 女性0.5 %が白毛保有 | 男性:30〜34歳、 女性:35〜39歳 | 男女とも65〜69歳 |
| 後頭部 | 5から9歳でも男性3.4 %、 女性2.1 %が白毛保有 | 男女とも40〜44歳 | 男女とも70〜74歳 |
| 頭頂部 | 5から9歳でも男性4.4 %、 女性3.1 %が白毛保有 | 男性:45〜49歳、 女性:35〜39歳 | 男性:80〜84歳、 女性:70〜74歳 |
| 前頭部 | 5から9歳でも男性1.0 %、 女性は10〜14歳で出現 | 男女とも45〜49歳 | 男性:80〜84歳、 女性:70〜74歳 |
| 項部 (こうぶ、うなじ) |
男性:20〜24歳、 女性:30〜34歳 | 男性:50〜54歳、 女性:55〜59歳 | 男女とも80〜84歳 |
頭髪以外の白髪
頭髪以外の体毛にも生理的な白毛化はみられるが、頭髪より時期は遅れる[5]。 全身の毛のなかで最も頭髪の白毛化が早い理由の一つは、頭髪の成長期が長く、その間に活発なメラニン産生の負荷や酸化ストレスなどにさらされてメラノサイトが枯渇しやすいためと考えられている[14]。 また、頭髪以外の体毛では、頭髪に比べ、脱色素の程度が軽いのが一般的であり、 頭髪以外の体毛が完全に白色化することは少ない。 陰毛・脇毛・胸部の毛などは頭髪が白色化しても、白毛化の比率が低いことがしばしばある[14]。
スリランカの剖検例では、頭髪に遅れて口髭、顎髭、陰毛、胸毛の白毛が出現し、腋毛、眉毛、睫毛の白毛化はさらに遅れると報告されている(下表参照)。また、年齢と相関が強いのは、男性では頭髪、髭、陰毛、女性では頭髪と陰毛であるとしている[29]。(ただし、白髪化には民族・地域による差があり、この結果を他の地域に適用するには検証が必要である。)
| 部位 | 2〜50 %の白毛化がみられる最低年齢 | |
|---|---|---|
| 男性 | 女性 | |
| 頭髪 | 20歳 | 28歳 |
| 眉毛 | 44歳 | 63歳 |
| 睫毛 | 52歳 | 64歳 |
| 腋毛 | 50歳 | 62歳 |
| 陰毛 | 38歳 | 44歳 |
| 口髭 | 38歳 | |
| 顎髭 | 34歳 | |
| 胸毛 | 40歳 | |
白毛保有者率および平均白毛率推定値を総合すると、 白毛化の順番は、 日本人の男性では、頭部⇒鼻前庭(鼻毛)⇒眉⇒睫毛、 女性では、頭部⇒鼻前庭⇒睫毛⇒眉と報告されている(横断的観察による推定であり、経時的観察ではない)。 詳細は下表を参照[27]。
| 部位 | 白毛保有者が出現する年代 | 白毛保有者率が急増する年代 | 白毛保有者率が最大となる年代[注 5] |
|---|---|---|---|
| 頭髪 | 5から9歳でも男性9.8 %、 女性5.2 %が白毛保有 | 男性:30〜34歳、 女性:35〜39歳 | 男性:50〜54歳で100 %、 女性:55〜59歳で100 % |
| 鼻毛 | 男性:20〜24歳、 女性:40〜44歳 | 男性:40〜44歳、 女性:50〜54歳 | 男性:65〜69歳で100 %、 女性:85〜92歳で100 % |
| 眉毛 | 男性・女性:45〜49歳 | 男性:65〜69歳、 女性:漸増 | 男性:85〜88歳で100 %、 女性:85〜92歳で50 % |
| 睫毛 | 男性:50〜54歳、 女性:55〜59歳 | 男性:75〜79歳、 女性:漸増 | 男性:85〜88歳で100 %、 女性:80〜84歳で50 % |
身体の各部位の毛に含まれる白毛の比率を厳密に算出するのは容易ではないが、 日本人の頭髪・鼻毛・眉毛・睫毛に関する推定値の報告を下表に示す[27]。
| 部位 | 推定白毛率が急増、または、白毛が出現する年代 | 高齢での平均推定白毛率 |
|---|---|---|
| 頭髪 | 男性:60〜64歳、 女性:55〜59歳 | 男性:80〜88歳で平均55.5 %、 女性:85〜92歳で平均69.7 % |
| 鼻毛 | 男性:60〜64歳で急増、 女性:漸増 | 男性:80〜88歳で平均46.1 %、 女性:85〜92歳で平均21.5 % |
| 眉毛 | 男女とも45〜49歳で出現 | 男性:80〜88歳で平均29.6 %、 女性:85〜92歳で平均3.9 % |
| 睫毛 | 男性は50〜54歳、女性は55〜59歳で出現 | 男性:80〜88歳で平均8.2 %、 女性:85〜92歳で平均7.8 % |
- 頭髪の白毛化の画像
- 白髪の女性(胡麻塩頭)
- ラオスの高齢女性
- ガーナ人の白髪(コフィー・アナン)
- 白髪混じりのブロンド
- 白皮症の男性
- 頭髪以外の体毛の白毛化の画像
- ネパールのサドゥー:眉、髭の白髪
- 白毛の混じる鼻毛
- 白毛の混じる胸毛
若年性白髪(若白髪)
若年性白髪[30](若白髪、若年性白毛症[31]、premature canities / canities praecox/ premature graying) とは、一般的な白髪化年齢より早く白髪化が始まるものを指す。家族性早期白髪と呼ばれることもある[8]。 白髪化年齢には地理的・民族的差がある。 コーカソイドでは20歳前、アジア人では25歳前、アフリカ人では30歳前の白髪化が若年性白髪とされる[5]。 なお、若年性白髪の頻度に明らかな性差はないようである[32]。
遺伝的要因・家族歴
疾患に伴わない若年性白髪
疾患に伴わない若年性白髪は、遺伝的素因と環境因子の組み合わせで発症すると考えられている[32][33][4]。 遺伝的素因については十分には解明されていない[34]。 若年性白髪は常染色体顕性(優性)の遺伝形式をとるように見える場合もあるが[5]、 通常は、単一遺伝子変異によるものではなく、複雑な多因子性の遺伝形質と考えられている[34]。
若年性白髪の家族歴の存在は若年性白髪の危険因子であり、 男性の場合、オッズ比は12.8との報告がある(自己申告による)[33]。 別の報告では、母親が若年性白髪の場合のオッズ比は3.2、父親:5.2、母方・父方祖父母:2.4、兄弟姉妹:3.1 としている[35]。
遺伝性疾患に伴う若年性白髪
ウェルナー(Werner)症候群などの早老症候群の症候の一環として早期から白髪や禿頭が出現することもある[5][36][37]。
なお、通常、若白髪には含めないが、皮膚・毛・眼球などのメラニンが消失ないし低下する眼皮膚白皮症(非症候型の眼皮膚白皮症、および、症候型のチェディアック・東症候群、グリセリ(Griscelli)症候群、ヘルマンスキー・パドラック(Hermansky–Pudlak)症候群なども含む)では、出生時より広範な皮膚や毛の色素低下がみられる[4][38]。
後天性の原因
栄養欠乏症
若白髪はビタミンB12欠乏症(悪性貧血など)、ビオチン、亜鉛、銅、セレン、鉄などの栄養欠乏症との関連が報告されている[5][39]。
ホルモンの異常
薬剤
薬剤では、クロロキン、イマチニブ[注 6]、インターフェロンα、パゾパニブ、プロスタグランジン類似薬、免疫チェックポイント阻害剤、イミキモド外用、レチノイド全身投与など、多数の薬剤で毛髪の白毛化や低色素化が報告されている[5][4]。
環境・生活習慣
紫外線暴露や、肥満、喫煙、アルコール摂取、心理的ストレス(たとえば知覚されたストレス尺度 (PSS)高値) などが若白髪に関連すると報告されている[4][5]。 肥満のオッズ比は2.6、喫煙のオッズ比は1.6との報告がある[33]。
その他、アトピー、慢性疾患の存在、高い教育水準、抜け毛、血液中の酸化ストレス指標高値(マロンアルデヒド高値など)などと若白髪が関連するとする報告もある[5]。
他疾患との関連
若白髪と骨粗鬆症や心血管疾患(冠動脈疾患)リスクとの関連を示唆する報告があるが確立はされていない[5]。 なお、若白髪に限らず、白髪が皮膚以外の疾患(心血管疾患、パーキンソン病など) に関連するとの報告もあるが確立はされていない[24]。
一夜白髪
一夜白髪 (いちやはくはつ、canities subita)[40][7]は頭髪や体毛の急激な白色化を意味する[注 7]。 処刑前に白毛化したと伝えられる歴史上の人物にちなみ、マリー・アントワネット症候群( Marie Antoinette syndrome)、トマス・モア症候群( Thomas More syndrome)と呼ばれることがある[7]。
頻度と経過
一夜白髪はまれな病態であり、その存在自体疑問視されたこともあるが[41]、 2013年の文献によれば、1800年以来、196件の医学的な症例報告があり、そのうち44例は報告者である医師が白毛化の前後を直接観察しているとされる[9]。 報告例は頭髪が多いが、眉毛、睫毛、顎髭などについても報告があり、きっかけとして報告されているものには、感情的なストレス、強い疼痛や身体疾患、精神疾患などがある[9]。 白毛化に要したとされる時間は、数時間から数日、数週にまでわたっている[9]。
機序
白毛以外の頭髪の脱毛
一夜白髪の有力な説明の一つが、一夜白髪は既存の白毛以外の頭髪に起こる急激で広範な円形脱毛症とする説である。 すなわち、メラニンを産生している毛包が自己免疫などにより障害されて脱毛にいたる一方で、 白髪の毛包は保持される傾向があり、残存した白髪のために、 あたかも髪全体が急激に白色化したように錯覚されるものと考えられている[42][9][41][43]。 たとえば、自己免疫性の自律神経障害で免疫グロブリン投与開始後に24〜48時間で全ての黒色の毛髪が抜けて白髪が残存した例[44]が報告されている。
脱毛を伴う白色化
脱毛に関連して白毛が新たに出現した例も報告されており、17ヶ月女児が敗血症の経過中に広汎な円形脱毛症と一過性の頭髪の白色化を呈した症例[45]や、 COVID-19感染とワクチン接種に時間的に関連して広汎な脱毛がおき、再発毛時は白毛化していたとする症例が報告されている[46]。
成長中の毛の白毛化
脱毛に関係なく成長中の毛が急激に白毛化する機序として、 ストレス下で交感神経系の活性化が毛包のメラノサイト幹細胞を消耗させ白毛症を来しうるとする説(マウスの実験)[47]がある。 また、ヒトにおいて、心理的ストレスと一過性の毛の色素化低下の関連(同一の毛の中の色素化の変動)の報告もある[48]。 しかし、これらは毛の新たに生育してくる部分の白色化の説明であり、既に生えている毛の白色化ではない。 成長期の頭髪の成長速度は月に1 cm程度であることを考慮すると、新たに形成される部分の白色化のみで頭髪全体の急速な白色化を説明することは難しい[49][14][48]。
既存の頭髪の白毛化
一夜白髪の多数の報告の中には脱毛が明らかでない症例もあるとの指摘がある[9]。 円形脱毛症治療中に、あきらかな脱毛なく数週間以内に頭部全体が白髪化したとする症例も報告されている[注 8][42]。 しかし、既存の毛幹の脱色が実際に起こるという十分な証拠はなく、 もし事実であったとしても、それを既知の生理学的機序で説明することは困難である[41]。 毛の皮質内への空気の侵入で白っぽく見えるという説も提唱されているが、十分な証拠はない[9]。
染毛の中断
何らかの理由で染毛が中断され、当時使用されていた染毛料は毛髪内には浸透せず持ちが悪かったため、白髪化したように見えたとの説がある[41]。 マリー・アントワネットについては、実際には処刑の9ヶ月前には既に白髪化しており[注 9]、処刑前に急に白髪化したように見えたのは獄中で染毛料が入手できなかったためともされる[41][50]。
伝承
歴史上の一夜白髪は、前述のマリー・アントワネット、トマス・モア、第二次大戦中の爆撃の生存者など、多数のエピソードが知られているが、それらの信憑性は乏しい[42][41]。東洋でも、南朝・梁の武帝の命で周興嗣が千字文を一夜で完成させたが白髪となったとの伝承があるが、比喩的表現と考えられている[51]。
限局性白毛症
限局性白毛症[52]は、頭部、眉、睫毛、髭、その他の被毛部の一部の毛が色素を失っている状態である。 英語では、医学用語としてはpoliosis、ないし、poliosis circumscriptaと呼び、日常的には、頭髪に限定して、white forelock、ないし、Mallen streak(英国の小説家Catherine Cooksonの小説シリーズ「The Mallen Trilogy」[注 10]に由来するとされる)と呼ばれる[53]。
疾患としての限局性白毛症は、遺伝性疾患(まだら症、ワールデンブルグ症候群)や、尋常性白斑 (Vitiligo)、皮膚感染症など局所の病態に伴ってみられる[4][54]。
病因
先天性・遺伝性
限局性白毛症を特徴とする遺伝性疾患の代表的なものとして、まだら症とワールデンブルグ症候群があげられる[4][54]。 いずれも胎生期のメラノブラスト(メラノサイトの前駆細胞)の細胞移動の障害によるとされる[54]。
まだら症(piebaldism)は、主に前頭部や前額部における白毛と白色斑を呈する、常染色体顕性(優性)のまれな遺伝性疾患である。 頻度は20,000人に1人程度と見積もられており[55]、主にKIT遺伝子の変異によるとされる[55][4]。 患者の約90 %にみられる特徴的な症状として、額の生え際付近に現れる白い毛束(白毛巣)がある。眉毛・睫毛の一部の白色化や皮膚の白色斑もみられることがある。 白色斑は頭部以外に四肢や躯幹にもみられることがあり、同部位にはメラノサイトはほとんどみられない。なお、通常は皮膚以外の症候はない[4][56]。
ワールデンブルグ症候群(Waardenburg syndrome)では難聴、虹彩異色症とともに、限局性白毛症がみられることがある[4][54]。
自己免疫性
メラノサイトを標的とする自己免疫疾患の代表的なものに原田病(フォークト・小柳・原田病)があり、ぶどう膜炎に伴う眉毛・睫毛・髭の白毛化がしばしばみられる。サルコイドーシスでも稀に同様の症状がみられることがある[4][54]。 また、原田病に類似した、片側性の白斑・限局性白毛症・網膜変性・難聴などを呈し自己免疫性と考えられている稀な疾患にアレザンドリーニ症候群(Alezzandrini)がある[4][54]。 眼周囲の限局性白毛症や白斑に眼痛、羞明などの眼症状が伴う場合は、もし原田病であれば視力障害を来す可能性があるため、眼科医による至急の精査を勧める文献もある[4]。
尋常性白斑もメラノサイトの喪失を特徴とする自己免疫性の疾患であり、罹患部位の毛の白毛化がみられる。また、白毛化を主徴とする亜型(follicular vitiligo)も稀に存在する[4]。
円形脱毛症は毛包の免疫学的特権の崩壊により起こる自己免疫性の脱毛症であり、その際に白毛は抜けにくい傾向がある。また、円形脱毛症が発現する前や、回復期に、局所の毛が白色化することがある[4][54]。
母斑・悪性黒色腫関連
色素性母斑(ほくろ、黒あざ)や悪性黒色腫に関連して周辺に低色素化(サットン母斑、halo nevus)や白毛化がみられることがあるが、これもメラノサイトが免疫学的に攻撃されることによると考えられている。限局性白毛が色素性母斑周囲に新規に出現した場合は、悪性黒色腫が鑑別診断にあげられうる[4][57][58]。 なお、上記と逆に、悪性黒色腫の周囲の白毛が局所的に再色素化する場合も報告されている[59]。
皮膚感染症
組織障害
乾癬、熱傷、放射線療法、レーザーなどによる組織障害で白毛化がみられることがある[4]。 また、まれに、顎髭を抜き続けて白毛化した症例も報告されている[60]。
特発性
限局性白毛には、あきらかな原因の認められないものもある[54]。
文化
あきらかな疾患を伴わない限局性白毛症は、個性的な形質の一つとしてファッショナブルとみなされる場合がある[53][61]。 また、映画などで、限局性白毛が登場人物の性格や背景の演出に利用されることがある[注 11][53]。
- 限局性白毛症(まだら症)
- ワールデンブルグ症候群:虹彩異色症と限局性白毛症
- ワールデンブルグ症候群:虹彩異色症と限局性白毛症
- フォークト・小柳・原田病:左眉毛・睫毛の白毛化と皮膚の白斑がみられる。
- フォークト・小柳・原田病:ぶどう膜炎 と睫毛の限局性白毛化。
- 尋常性白斑と限局性白毛症。
- サットン母斑:母斑周囲に色素脱失がみられる。この領域の毛が白毛化することがある。
白髪の予防と治療

加齢による白髪は、通常は病気とはみなされないが、 加齢の徴候のうち、白髪は、比較的若年から出現し、かつ、目につきやすい変化であるので、心理的・社会的インパクトが大きく、 予防や治療が求められることがある。
予防
若白髪に関連する因子の対策として、適切な食習慣を含む生活習慣の改善、ストレスへの対処、 髪を傷める化学薬品や紫外線の回避、禁煙、過量のアルコール摂取を避けること、 ビタミンなどのサプリメントなどがあげられているが、 それらの予防効果は確立されていない[7] [5]。
治療
一般的には、対症的に、染毛剤による染髪が広く行われている[5]。
ビタミンB12欠乏症などの可逆性の病因による白毛化については、病因に対する治療が有効な場合があるが、 加齢による白髪については、有効性が確立された治療は存在しない[4]。 さまざまな薬剤で白髪の再色素化の報告があり、再生医療なども研究されているが、 現在のところ、広く実用化されたものはない[62][7][4]。
白髪のみを抜くことは、白髪の率が低い場合しか現実的ではない[7]。 なお、白髪を抜くと周りの毛が白毛化して白髪が増えるという俗信は根拠がないとされる[7]が、 稀に、同じ毛根の毛を抜き続けてその毛根の毛が不可逆的に白毛化した症例[4]や、 髭を抜き続けて局所的に白毛化した症例も報告されている[60] (なお、動物実験では単回の抜毛ではむしろ再生する毛の色素が増加した例も報告されており[63]、毛を抜くと必ず白毛化するというわけではない)。
脚注
注釈
- ↑ 英語では、髪全体が真っ白な場合以外はgray/grey(灰色)と呼ぶのが通常である。なお、grayとgreyはどちらも許容される綴であり、米国英語ではgray、英国系の英語ではgreyを使う傾向がある。“grey adjective less common spelling of gray”. Merriam-Webster. 2026年10月9日閲覧。
- ↑ ある部位に限局して白毛のみがみられるのは限局性白毛であり、白髪とは異なる。
- ↑ 頭皮には約10万本の毛髪があり、100〜150本/日の抜け毛は正常にみられる。
- ↑ 寺田による日本人の毛髪の研究は1955年に実施されており、現代の状況とは異なる可能性が完全には否定はできない。
- ↑ 少しでも白毛がある人の割合が最大になる年代であり、頭全体が白くなる年代という意味ではない。
- ↑ イマチニブについては、白毛化と白髪の再着色の両方が報告されている。
- ↑ 日本語では「一夜」と表現するが、英語のsubitaは「急激な」という意味である。ただし、英語でも、overnight graying phenomenonと表現する場合はある。"White hair in alopecia areata: Clinical forms and proposed physiopathologic mechanisms"参照。
- ↑ マリー・アントワネットの白髪化の時期については、処刑の2年前に国王一家が逃亡を試みてヴァレンヌで捕らえられたとき(ヴァレンヌ事件)に白髪化したとの説もある。“A la recherche du syndrome de Marie-Antoinette”. ル・モンド. 2026年10月23日閲覧。
- ↑ 「The Mallen Trilogy」は、ビクトリア時代の英国を舞台に、左側頭部の白い毛の房「Mallen streak」を遺伝的特徴とするマレン一族を描いた小説シリーズである。(架空の遺伝的特徴であり、実際の疾患の描写ではない。)“The Mallen Trilogy by Catherine Cookson”. goodreads. 2026年10月22日閲覧。
- ↑ 限局性白毛を映画で利用した例としては、フランケンシュタインの花嫁、スウィーニー・トッド フリート街の悪魔の理髪師などがあげられる。"Striking White Hair" by Rosales Santillan, M.参照。
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外部リンク
関連項目
- ヒトの髪の色
- メラニン、ユーメラニン
- Premature greying of hair(英語版 若白髪)
- Canities subita(英語版 一夜白髪)
- 皮膚
- 毛 (動物)・毛根・毛包
- メラノサイト・メラノソーム
- ケラチノサイト
- 毛皮質・毛髄質・クチクラ
- 白皮症
- 早老症
- ワールデンブルグ症候群
- Piebaldism(英語版 まだら症)
- 尋常性白斑
- 円形脱毛症
- フォークト・小柳・原田病