科学的目的
Einstein@home稼働中に任意で表示できるスクリーンセーバー画面。解析中の天体の情報が星図上に表示される。
Einstein@Homeはもともと、アメリカのワシントン州 ・ルイジアナ州 にあるレーザー干渉計重力波天文台(LIGO) のデータから、それまで知られていなかった連続重力波(CW)源の全天捜索を行うために開発された[17] 。CW源の可能性がある天体で最もよく知られていたは高速で回転する中性子星(パルサー含む)で、それらは回転軸の軸対称から外れるとCWを放出すると予想されていた。この観測によってアインシュタインによる一般相対性理論 の検証ができるほか、重力波の直接検出という重要で新しい天文学のツールを確立させることができると期待された。
ほとんどの中性子星は可視光はじめ電波やガンマ線などのあらゆる電磁波では見えないので、電磁波ではない重力波の観測によってこれまで全く知られていなかった新しい中性子星の存在が明らかになるかもしれないという期待もあった。CWの検出は中性子星の天体物理学 の解明に役立ち、また物質の剛体運動の様子を調べる手掛かりとなるのでその内部の非常に高密度な状態の物質についての特有の知見を得ることにもつながる[18] 。
2009年 3月 から、Einstein@Homeの計算能力の一部はプエルトリコ のアレシボ天文台 にあるPALFAサーベイ (英語版 ) によって得られたデータの解析にも使われている[19] 。この観測サーベイは、特に近接した連星系 を持つ電波パルサーを発見できるように設計されている[20] 。地球から検出可能な範囲に、1時間未満の公転周期を持つ連星電波パルサーが1個程度あるとの予想がされているからである[21] 。同様の解析による捜索はパークス多波長パルサーサーベイ で得られた2つのアーカイブデータからも行われている[22] 。これらのEinstein@Homeによる電波パルサー探索は、重力波検出用に開発された数学的手法を採用して行われている[21] 。
2011年 7月 以降Einstein@Homeは、回転する中性子星から放出されたガンマ線 のパルス(ガンマ線パルサー)の捜索のためフェルミガンマ線宇宙望遠鏡 の主要観測装置であるLATからのデータも解析している[23] 。中性子星の中には、それらが周期的に発するガンマ線を捉えることでのみ検出可能なものがあり、それらのガンマ線は電波を発する領域とは別の中性子星の磁気圏 領域から発せられる。中性子星が数十億回自転する間に発せられるガンマ線のうち、LATが検出できるのはせいぜい光子 数千個にすぎないので、この観測から中性子星の自転周期を決定することは難しい[24] 。
Einstein@HomeのLATデータ解析では、CW検出のため初期に開発された手法を用いる。
プロジェクトへの参加方法
Einstein@Homeに参加するには、Einstein@Homeでのアカウント登録をプロジェクトのウェブページ から行うことと、BOIACに属するプロジェクトをコンピューターで動作させるための総合ソフトウェアであるBOIACマネージャーをBOINCのウェブページ からインストールすることが必要である。
BOINCマネージャーのインストール後に起動し、参加するプロジェクトを選択する画面でEinstein@Homeを選択し作成したアカウントでログインすると、解析用のアプリケーションと解析対象のデータ(タスクと呼ばれる)がダウンロードされる。以後、BOINCマネージャーさえ起動すれば自動でこれらのアプリケーションが動作し解析を行ってくれる。
解析の細かな設定はプレファレンスを設定することで調整でき、計算を行うタイミングやコンピューターに貯めておけるタスク量などを調整できる。PCのスクリーンセーバー的な空き時間を解析に費やすという名目で始まったプロジェクトであるため、例えば「PCの操作が任意の一定時間以上行われなかった際にCPUの任意の割合を解析に充てる、再びキー操作するとCPUの使用割合を任意の割合にまで落とす、または解析をやめる」といったように、本来のコンピューターでの作業に支障をきたさないようにしつつコンピューターの空いた能力を効率よく使えるように設定を調整できる。
解析が終わった結果は自動でプロジェクトに返され、同時に新しいタスクをダウンロードする。結果は仕事量(クレジット)というスコアに換算され、プロジェクトのウェブページでこのスコアをユーザー同士・ユーザー間で結成したチームで競うこともできる[25] 。
重力波データの解析と結果
初期の解析
ハンフォードにあるLIGOの干渉計
Einstein@HomeはLIGOのデータを用いて数多くの解析を行ってきた。最初の解析が始まった2005年以降、LIGOの検出感度は何段階かのアップグレードにより改善された。この改良は現在のアドバンストLIGO になっても続けられている。同時にEinstein@Homeの解析アルゴリズムも改良されており、両方の向上により検出感度は開始から数桁も改善された。
Einstein@Homeの最初の解析[26] はLIGOの第3回科学運用(S3)で得られたデータを用いた。S3データの処理は2005年 2月22日 から同年8月2日 まで行われた。解析に用いられたデータはLIGOのうちワシントン州 のハンフォード・サイト にある4km検出器がそれぞれ10時間観測したセグメントデータを60セグメント集めたものだった。各10時間のセグメントについて、ボランティアのコンピューターによる整合フィルター (英語版 ) と呼ばれる手法でCWシグナルが探された。すべての整合結果がプロジェクトに返ってきた際に、異なるセグメントの結果がEinstein@Homeサーバー上での後処理ステップの中で一致スキームにより結合され、さらに検出効率が良くなった。結果はEinstein@Homeのウェブページで公開された[27] 。
ボランティアによるコード改良
S3データの解析が行われている間に、次の科学運用であるS4が始まり2006年 7月 に終了した。この観測ではハンフォードの4km検出器でそれぞれ30時間ずつのセグメントが計10セグメント分と、ルイジアナ州リビングストン にある4km検出器でそれぞれ30時間ずつのセグメントが7つ分が得られた。
S4データの感度がより高いことに加えて、解析の際の後処理ではより感度の高い一致スキームによって行われた。この結果は物理学の専門誌フィジカル・レビュー Dに、Einstein@Homeからの初めて論文出版される科学的成果として発表された[28] 。
Einstein@Homeは2006年3月にS4データ解析用に適用された解析アプリケーションが、プロジェクトのボランティアであるハンガリー 人プログラマーのAkos Feketeによって開発・公開された際に国際的な分散コンピューティングのコミュニティーにおいて注目を集めた[29] 。Feketeは公式のS4用アプリケーションを改良し、ストリーミングSIMD拡張命令 と3DNow! を導入して、コードをSSE3 に最適化させたため、アプリケーションの性能は8倍も向上した[30] 。Feketeのこの功績が認められ、以降のEinstein@Homeでの新しいS5用アプリケーションの開発チームに彼は正式に加わった[31] 。2006年 7月 下旬時点で新しいS4公式アプリケーションがEinstein@Homeユーザーに広く配布された。この新しいアプリケーションの普及によってEinstein@Homeプロジェクト全体の計算能力が向上し、FLOPS ベースでは適用前のS4アプリと比べて50%も向上した[32] 。
LIGO S5によるデータの解析
LIGOの検出感度が設計感度に初めて到達した、初期のS5データセット解析は2006年 6月15日 から始まった。この捜索ではハンフォードの4km検出器がそれぞれ30時間ずつ観測したセグメントが22セグメントと、リビングストンの4km検出器でそれぞれ30時間ずつ観測されたセグメントが6セグメントが用いられた。S5R1と呼ばれたこのEinstein@Homeによる解析はS4での解析手法ととてもよく似ていたが、S4よりも高品質なデータを使っているためS4より高感度になった。フィジカル・レビュー Dにも再び発表されたS5R1の結果は多くの捜索パラメータ空間において、それまでで最も網羅的な捜索となった[33] 。
S5R3と呼ばれる、S5データを用いた2回目の解析は検出感度についてさらに大きな改善があった[34] 。以前までの解析とは違い、出力された結果はサーバーでの結合処理を経ることなく、既にボランティアのコンピューター同士でハフ変換 技術によって結合されているようになった。この手法は、リビングストンとハンフォードの4km検出器がそれぞれ25時間ずつ観測したセグメントが84セグメント分から成るデータの整合フィルター結果に使われた。
2010年 5月7日 にS5GC1と呼ばれる、大幅に改善された解析方法を用いる新しい捜索が始まった。この解析には両4km検出器が25時間ずつ観測したセグメントが205セグメント分用いられた。この解析方法は、グローバルなパラメーター空間の相関関係を用いて異なるセグメントの整合フィルターによる結果を効率的に組み合わせることができる[18] [35] 。
Einstein@Homeによる、LIGO S5データからのCWの全天捜索の結果は2013年 2月13日 に発表された[36] 。
この結果では、有意な信号が検出されなかったことから、最も検出感度の高い波長帯(152.5ヘルツ の半ヘルツ帯)の捜索で、相対ひずみの振幅が7.6×10−25 より大きい周期的な重力波は存在しないと90%の信頼区間 をもって言えるとの結論が得られた[注釈 1] 。全体としては、それまでのLIGOS5データより3倍感度の良い捜索となった。この研究で用いられた、信号候補を2段階で処理する方法の詳細は2014年 6月25日 に公開された[37] 。
Einstein@HomeによるLIGO S5データからの1249ヘルツから1499ヘルツにかけての高周波なCWの捜索結果は2016年 9月26日 に公開された。LIGOデータからこのような高周波数帯での捜索を行ったのは現在まででこれが唯一の例である。信号候補は検出されず、この結果から地球から100パーセク 以内に、回転周期が1.3msから1.6msの間で楕円率が2.8×10−7 より大きい中性子星は存在しないと90%の信頼区間 をもって言えるとの結論が得られた[38] 。
LIGO S6によるデータの解析
LIGOの6回目の科学運用(S6)によるデータもEinstein@Homeによって解析され、結果は2016年 11月18日 に公開された[39] 。信号は検出されなかったので、公開時点でCWの全天捜索において最も厳密な上限が更新された。170.5ヘルツ から171ヘルツの周波数域で、振幅が5.5×10−25 より大きいCWは存在しないと90%の信頼区間 をもって言えるとの結論が得られた。また230ヘルツにおいて、地球から100パーセク以内に楕円率が10−6 より大きい中性子星が存在しないとも同様の信頼区間で結論付けられた。
Einstein@Homeでは超新星残骸 のカシオペヤ座A の中心天体からの重力波を直接検出することも試みられた[40] 。LIGO S6のデータを用いて、この天体の自転周期が未知であるため50ヘルツから1000ヘルツまでの広い周波数域で捜索されたが、信号は見つからなかった。この結果からカシオペア座Aからの重力波強度の上限がこれまでで最も厳密に決められ、その値は従来のものよりも2倍も小さいものだった。
2016年 12月28日 には、LIGO S6データからの全天のCW捜索のフォローアップ結果が公開された[41] 。それまでの捜索で得られた3.8×1010 個もの信号候補から、特に有望な1600万個の候補が4段階の階層処理を用いて、CWの候補といえるかが検証されたが、天体物理学的なCW源と同定できる候補は無かった。170.5ヘルツ から171ヘルツの周波数域での振幅の上限はフォローアップ前よりもさらに1.3倍厳密になり、4.3×10−25 に更新された。
計算手法改善とアドバンストLIGO O1のデータ解析
アドバンストLIGOのノイズ量。黒い線が総合のノイズ量で、検出器の感度を示し、100ヘルツを少し上回る周波数で最も低ノイズ=高感度となる
CWの捜索は利用できるコンピューターの計算能力によって限度があり、プロジェクトでは新しい効率の良い計算方法により検出感度を向上させる試みがなされた。2017年 終わりに、階層的検索において候補をクラスタリングする方法の改善手法と、天体物理学的なCWとそれらによく似た検出器による人工的なノイズ信号を区別し排除する新しい手法の2つが公開された[42] [43] 。
この2つの新手法は、機器がアップデートされ感度が10倍向上したアドバンストLIGO検出器 による最初の観測である「O1」での全天CW探索から初めて用いられ、結果は2017年 12月8日 に公表された.[44] 。この最初の捜索で、周波数が20ヘルツから100ヘルツの間での信号は見つからず、振幅の上限は100ヘルツにおいてこれまでで最も厳しい1.8×10−25 まで更新された。
ターゲット天体を絞った重力波捜索
一方でこの頃から、Einstein@Homeの限られた計算リソースを、全天からの無指向な探索ではなく限られたターゲット天体からの重力波に絞って探すことに最適化するための研究が並行して進められ、その計画内容は2018年 1月31日 に公表された.[45] 。この方法は重力波源となる天体の位置があらかじめ事前情報として分かっているときに有効で、この研究では重力波源となる可能性のある天体として、ほ座超新星残骸 ・カシオペヤ座A ・さそり座にあるSN 393 (G347.3)の3つの超新星残骸 (のそれぞれの中心天体である中性子星)を定めた。
そしてこの捜索方法による3天体からの重力波捜索の最初の結果は2019年 7月29日 に発表された[46] 。アドバンストLIGOのO1データを用いて、20ヘルツから1500ヘルツの幅広い周波数帯において探しても信号が検出されなかったことから、これまでより2倍厳しい上限値が新たに更新された。
追って、この3天体からの重力波捜索のフォローアップ結果が2020年 6月29日 に公表された[47] 。信号の候補として特に有望な10000件を、以前のO1データに加えAdvanced LIGOの2回目の観測運用であるO2のデータの一部も用いて精査したところ、SN 393からの信号の1つが最後まで重力波の可能性がある候補として残ったが、確実に重力波だと決定できるほどのものではなかった。この天体付近の過去のX線観測データから、重力波源として信号から予想される周期とその整数倍でX線パルスを発する天体が探されたが見つからず、この信号が重力波かどうかは明らかにならなかった。この潜在的な候補については、3回目の科学運用O3のデータによって決着がつくと見られている。
アドバンストLIGO O2のデータ解析
O2のデータすべてを用いた全天捜索の結果は2021年3月8日に公表された[48] 。この解析には8段階のフォローアッププロセスが用いられ、20ヘルツから585ヘルツまでの周波数帯をカバーしており、特に500ヘルツ未満では現在世界最高の感度を持つ捜索となった。フォローアップ段階で6個の信号候補が検出されたが、これはLIGO検出器の装置由来のノイズと分かり、有意な信号は見つからなかった。振幅の上限は163ヘルツの半ヘルツ帯において1.3×10−25 に達した。また200ヘルツにおいて、地球から100パーセク以内に楕円率が10−7 より大きい中性子星が存在しないとも同様の信頼区間で結論付けられた。
続いてO2データによるG347.3の中心天体からの重力波捜索の結果が2021年 8月5日 に公表された.[49] 。20ヘルツから400ヘルツの間ではっきりと重力波だといえる信号は見つからず、導出された楕円率の上限は10−6 となった[注釈 2] 。最も検出効率の高い166ヘルツでの振幅上限は7.0×10−26 となった。
電波での捜索データ解析と結果
アレシボ天文台の口径305メートル電波望遠鏡
2009年 3月24日 に、Einstein@Homeプロジェクトがプエルトリコ のアレシボ天文台 にある電波観測プロジェクトであるPALFAサーベイ (英語版 ) のコンソーシアムから受け取った、電波望遠鏡の観測データの解析を開始するとアナウンスした。データの提供にはのちにパークス天文台 のパークスマルチビームサーベイも加わった[注釈 3] 。
同年11月29日 、このアレシボ連星パルサーサーチと題された捜索用に、並列コンピューティングアーキテクチャのCUDA に最適化されたアプリケーションがEinstein@Homeの公式ウェブサイトにて詳細発表となった。このアプリケーションはコンピューターの通常のCPU とNVIDIA 製のGPU の両方を用いることで、片方での計算よりも最大50%速い解析が可能となっている[50] 。
この解析でのパルサーの最初の発見は2010年 8月12日 にプロジェクトにより発表された。disrupted binary pulsar (英語版 ) と呼ばれるタイプのこのパルサーはPSR J2007+2722 (英語版 ) と命名され[8] 、それまで発見された中でもっとも高速で回転するパルサーだった。[7] Einstein@HomeのボランティアであるChris、Helen Colvin、Daniel Gebhardtのコンピューターが、 PSR 2007+2722からの最も安定した信号を検出した。
2番目の発見は2011年 3月1日 に発表された連星パルサー PSR J1952+2630 (英語版 ) [51] で、ロシア とイギリス 在住のボランティアのコンピューターがこのパルサーからの最も安定した信号を検出した。
2012年 5月15日 に、ATI/AMD 製のグラフィックカード で動作する新しい解析アプリケーションが公開され、OpenCL を使うことで新しいアプリケーションによる計算速度はそれまでのCPUによる速度の10倍も高速になった。さらに2013年 7月22日 には、アレシボ天文台のデータを解析するためのAndroid 版アプリケーションが発表され[52] 、スマートフォンからでも解析にボランティアで参加することができるようになった。
パークス天文台の口径64メートル電波望遠鏡
2013年 8月20日 には、パークスマルチビームサーベイのデータから24個の新しいパルサーを発見したと発表された[53] 。これらのパルサーは、サーベイの観測プロジェクト自身が以前行っていた自前の解析では見逃されており、Einstein@Homeによる高い計算能力でないと見つけられないものだった。24個のうち6個は連星パルサーだった。
2016年 11月4日 にはPALFAのデータから、2個の中性子星からなる二重パルサー連星 の発見が公表された[54] 。これまでEinstein@Homeによって見つかった連星パルサーは、連星系 を形成する天体のうち片方が中性子星でもう片方が通常の恒星であったが、この PSR J1913+1102は4.95時間の公転周期で中性子星がもう1つの中性子星の周りを公転する二重パルサー連星である。相対論 の効果による中性子星の軌道変化 の観測から、この2個の中性子星の質量の合計は2.88太陽質量 であると分かり、これはそれまで発見された最も重い二重パルサー連星であるPSR B1913+16 に匹敵する。
Einstein@Homeが発見した電波パルサーのタイミング観測(自転周期の精密な観測)結果はPALFAコンソーシアムによって2021年 8月 に公開された[55] 。
2021年6月 までにEinstein@Homeプロジェクトによって合計55個の電波パルサーが発見されている。うち24個はパークスマルチビームサーベイのデータによるもので、残りの31個はアレシボ天文台のデータによるものである。さらにアレシボ天文台からの31個発見のうち、2個はアレシボ連星電波パルサーサーチによるもので、残りの29個はPALFAのスペクトロメーターによる観測データである[56] [57] [58] 。
ガンマ線での捜索データ解析と結果
2011年 7月1日 に、フェルミガンマ線宇宙望遠鏡 に搭載されたLAT(Large Area Telescope)検出器のデータからパルサーを探すための新しいアプリケーションが公開された[59] 。
打ち上げ前のフェルミガンマ線宇宙望遠鏡
2013年 11月26日 に、初めての成果としてLATデータからの4個の若いガンマ線パルサーの発見が発表された[12] 。4つとも我々の銀河系 の銀河円盤 部分に存在し、パルスの周波数(自転周期に相当)は10ヘルツ未満だった。また4つとも年齢は3.5万年から5.6万年と推定され、電波を放出していなかった。
2015年 8月4日 にはガンマ線パルサーPSR J1906+0722の発見が発表された[60] [61] 。
この発見により、LATによるガンマ線光子のエネルギー分布によって2012年 以降存在が疑われていたパルサーの性質が確認された。このパルサーは若く活動が活発で、2009年 8月 にLATは、ガンマ線パルサーによる最大級のグリッチ に見舞われていた。電波によるフォローアップ観測で何も検出されなかったことから、このパルサーは電波では静穏であることが分かった。このパルサーの天体物理量の推定を改善するため、ガンマ線パルスの到着タイミングを用いた先進的な手法が用いられた。
2016年 11月16日 には、それまで既知の電波では静穏なガンマ線パルサーの中で最も若いPSR J1208−6238の発見とタイミング解析結果が発表された[62] 。推定年齢は2700歳と形成間もないにもかかわらず、関連する超新星残骸 やパルサー星雲 は発見されなかった。
2017年 1月11日 には、フェルミのLATデータから検出された、118個のパルサー状の未確認天体のカタログが公表された[63] 。そのうち13個が新しいパルサーだった。これらのほとんどが若く、数万年から数十万年前の超新星爆発 によって形成されたと考えられている。天体の発見や検出方法は、この発表時に出た関連する2論文のうち1本目に掲載され、2本目の論文では、見つかった13個のガンマ線パルサーのうち2個で微弱な電波パルスも検出されたこと、異なる幾何学的輻射モデルを用いてガンマ線と電波のパルスのプロファイルをモデリングした結果が掲載された[64] 。
2018年 2月28日 にはEinstein@Homeが2つのガンマ線ミリ秒パルサーを発見したことが発表された[65] [66] 。2つのうちPSR J1035−6720は348ヘルツで自転し、その後のフォローアップ観測で微弱な電波パルスが検出された。一方でもう1つのPSR J1744−7619は電波が観測されず、初めて見つかった電波で静穏なガンマ線ミリ秒パルサーとなった。Einstein@Homeプロジェクトはこの論文の中で、軌道要素 のパラメーターが増えるため発見がより難しいとされているガンマ線連星パルサーの捜索を行っていることも明かした[66] 。
2020年 10月22日 に最初のガンマ線連星パルサーの発見が発表された[67] [68] 。発見されたPSR J1653-0158は、2太陽質量程度の中性子星で、508ヘルツという既知のパルサーでも特に高速で自転しており、太陽質量の1%しかない軽い伴星との共通重心を公転している。公転周期は75分で、同様の連星パルサーよりも短い。フォローアップ観測で電波は検出されず、重力波も検出されなかった。このようなパルサーはブラックウインドウパルサーとして分類されている。こうした天体はパルサーがその活発な放射とパルサー風によって、伴星を蒸発させてしまっている。はぎ取られた物質は、連星系周囲をプラズマ雲として覆い隠し、この雲は電波を吸収しガンマ線も発さない。
2021年 2月2日 に2例目のガンマ線連星パルサーの発見が発表された[69] [70] 。この系は“redback”ミリ秒パルサー系と呼ばれる特異な天体であると考えられていたが、中性子星からのパルスが観測されていなかった。パルサーの伴星の光学観測によりこの連星系の軌道要素が絞り込まれ、そうしてターゲットを絞ったEinstein@Homeによる捜索により377ヘルツで自転する低質量のパルサーが0.2太陽質量の伴星の周りを5.5時間周期で公転していることが発見された。さらにタイミング解析で、軌道周期にして10ミリ秒以内の予測できないパルス変動が観測され、これらは伴星の磁場活動による質量分布の変化に起因していると考えられており、質量分布の変化が外部重力場を変動させることで変動が起こるとされている。
2021年 6月15日 には、LATデータから新たに14個の未知のガンマ線パルサーを発見したと発表された[71] 。
2021年6月までに、Einstein@Homeによって合計39個のガンマ線パルサーがフェルミ衛星のLATデータから発見されている[11] 。
解析アプリケーション
これらは上述の方法でBOIACからEinstein@Homeに参加登録した際に、自動でコンピューターにインストールされる。ボランティアユーザーが個別のアプリケーションに対して特に操作するような必要はない[72] 。中にはGPUで動作するためCPUしか搭載していないコンピューターでは稼働しないものもあり、そういったコンピューターのユーザーはCPUで稼働する解析にのみ参加する。
Gravitational Wave search O3 All-Sky #1 (O3AS) - アドバンストLIGOの3回目の科学的運用データ(O3)で得られたデータから、全天あらゆる方向を想定し重力波を探す解析アプリケーション
Gravitational Wave search O2 Multi-Directional (O2MD1) - アドバンストLIGOの2回目の科学的運用データ(O2)で得られたデータから、複数の絞り込まれたターゲット天体からの重力波を探す解析アプリケーション
Gamma-ray pulsar search #5 (FGRP5) - フェルミのLATのデータからガンマ線パルサーを探す解析アプリケーション
Gamma-ray pulsar binary search #1 on GPUs (FGRPB1G) - フェルミのLATのデータからガンマ線連星パルサーを探す解析アプリケーション
Binary Radio Pulsar Search (Arecibo) (BRP4) - アレシボ天文台の電波望遠鏡データから、電波を発する連星パルサーをCPUで解析するアプリケーション
Binary Radio Pulsar Search (Arecibo, GPU) (BRP4G) - アレシボ天文台の電波望遠鏡データから、電波を発する連星パルサーをGPUで解析するアプリケーション
これまで出版された主な論文成果
Clark, C. J. (2016). “The Braking Index of a Radio-quiet Gamma-ray Pulsar”. The Astrophysical Journal 832 (1): L15. arXiv :1611.01292 . Bibcode : 2016ApJ...832L..15C . doi :10.3847/2041-8205/832/1/L15 . ISSN 2041-8213 .
Clark, Colin J. (2016). “The Einstein@Home Gamma-ray Pulsar Survey I: Search Methods, Sensitivity and Discovery of New Young Gamma-ray Pulsars”. The Astrophysical Journal 834 (2): 106. arXiv :1611.01015 . Bibcode : 2017ApJ...834..106C . doi :10.3847/1538-4357/834/2/106 .
Lyne, A. G.; Stappers, B. W.; Bogdanov, S.; Freire, P. C. C.; Kaspi, V. M. (2016). “Timing of 29 Pulsars Discovered in the PALFA Survey”. The Astrophysical Journal 834 (2): 137. arXiv :1608.09007 . Bibcode : 2017ApJ...834..137L . doi :10.3847/1538-4357/834/2/137 .
Papa, M. A.; Eggenstein, H.-B.; Walsh, S.; Di Palma, I.; Allen, B. (2016). “Hierarchical follow-up of sub-threshold candidates of an all-sky Einstein@Home search for continuous gravitational waves on LIGO sixth science run data”. Physical Review D 94 (12): 122006. arXiv :1608.08928 . Bibcode : 2016PhRvD..94l2006P . doi :10.1103/PhysRevD.94.122006 .
Lazarus, P. (2016). “Einstein@Home discovery of a Double-Neutron Star Binary in the PALFA Survey”. The Astrophysical Journal 831 (2): 150. arXiv :1608.08211 . Bibcode : 2016ApJ...831..150L . doi :10.3847/0004-637X/831/2/150 . ISSN 1538-4357 .
Zhu, Sylvia J. (2016). “Einstein@Home search for continuous gravitational waves from Cassiopeia A”. Physical Review D 94 (8): 082008. arXiv :1608.07589 . Bibcode : 2016PhRvD..94h2008Z . doi :10.1103/PhysRevD.94.082008 . ISSN 2470-0010 .
Singh, Avneet (2016). “Results of an all-sky high-frequency Einstein@Home search for continuous gravitational waves in LIGO's fifth science run”. Physical Review D 94 (6): 064061. arXiv :1607.00745 . Bibcode : 2016PhRvD..94f4061S . doi :10.1103/PhysRevD.94.064061 . ISSN 2470-0010 .
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脚注
注釈
↑ 重力波は空間のゆがみのことであり、この振幅は空間がゆがんだ比率を表している。ゆがみの小ささの目安としてしばしば、『地球と太陽との距離(天文単位 、1.5×1011 m)に対して、水素原子の直径(1.1×10−11 m)程度空間がゆがんだ際のひずみが1.0×10−21 』と例えられる。7.6×10−25 はさらにその1000分の1以下の大きさのひずみに相当する。
↑ 天体源までの距離を仮定できないので、表す際の目安として100pc以内という基準を設けてその距離に換算して楕円率を出す全天捜索の場合と違い、超新星残骸までの距離は決まっているので楕円率の上限は一意に決まる
↑ 天文学におけるサーベイとは、特定の天体の観測を目的とせず広範囲を網羅的に観測することで大量のデータを集め、そこから天体や現象の検出やそれらの特性の統計を調べることを指す。掃天観測 も参照。
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↑ “14 new Einstein@Home pulsar discoveries in Fermi-LAT data | Einstein@Home ”. einsteinathome.org . 2021年6月16日 閲覧。
↑ Applications
関連項目
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