まちあかり
まちあかり(まちのあかり)は、街路や広場などの個別の場所に限らず、建物、公共空間、地形、水辺などを含む地域全体の夜間景観を対象とした照明計画・整備を指す表現である。照明学会誌では、地域の照明環境整備を扱う論文の題名に「まちのあかり」が用いられている。[1]
意味と特徴
まちあかりでは、照明器具や道路を個別に明るくするだけでなく、それらが地域の中でどのように見え、互いにつながるかを考える。建物や店舗から漏れる光、街路や広場の光、地形や植栽を示す光などを組み合わせ、夜間の街並みに連続性や奥行きを生み出す。地域の歴史や日々の営みを夜間にも感じられるようにし、その場所らしい景観を表すことも、まちあかりの役割の一つである。[2]
この考え方には、道路や広場などの公的空間と、沿道の建物や敷地を別々に扱わず、街の光環境として一体的に計画するボーダレス照明(ボーダレス・ライティング)がある。光を道路、敷地、建物などの境界を越えて連続させることで、夜間の街並みや空間のつながりを表す。[3]
また、街路に面した建物の脇や路地、駐車場の奥など、周囲から見えにくい空間にも着目する。こうした凹部や奥まった空間を光によって認識しやすくする照明はボイド照明と呼ばれ、街路面だけでなく周辺部の見え方を整え、空間の特徴や奥行きを示す役割を持つ。[4]
まちあかりは、景観形成に加え、夜間の空間認知や歩行時の安心感、防犯性、災害時の避難誘導にも関わる。照明学会の研究では、場所ごとに必要な光を検討し、地域景観を夜間にも認識できるようにすることと、避難経路を把握しやすくすることの両立が扱われている。[5]
各家庭や事業所が門灯・玄関灯を点灯し、個々の小さな光を地域の夜間環境につなげる取り組みは一戸一灯運動と呼ばれる。犯罪が起きにくい環境づくりを目的とする防犯活動であるとともに、住宅や店舗の光を街の景観の一部として生かす方法でもある。[6]
事例
大野村
岩手県大野村(現・洋野町)では、まちづくりの一環として、街路だけでなく民有地を含む街路周辺部を対象とした光環境整備が行われた。照明学会の研究では、周辺部の不安感を軽減し、街全体を明るく感じさせることを基本概念とし、「空間認知の光」「生活の光」「歴史の光」を組み合わせた計画が報告されている。[7]街路周辺の奥まった空間を含む照明実験・研究も行われ、ボイド照明を含む夜間街路の光環境が検討された。[8]
元町仲通り
横浜市の元町仲通りでは、2000年に光環境実験が行われた。約500メートルの通りに設置されていた防犯灯を消灯し、家々の前に置いた行灯によって街路空間を照らす方法が試された。[9]道路面だけでなく、沿道の建物や敷地、路地などを含む周辺部の光を検討対象とし、ボイド照明や夜間の街路景観に関する研究も行われた。[10]道路と沿道の光を分けずに扱うこのような計画は、ボーダレス照明またはボーダレス・ライティングの事例として位置づけられる。[11]
気仙沼市八日町
宮城県気仙沼市八日町では、八日町復興まちづくりの会が中心となり、震災後に生じた空地を含む街並みの夜間景観と、高台への避難経路の認識を改善する照明社会実験が行われた。建物、空地、避難経路に光源を分散して配置し、八日町らしい街並みの形成と避難誘導を図った。実験では、光源数を増やしながらも小出力の光源を用い、既存の街路灯・防犯灯を消灯した結果、消費電力と光束が通常時より約70%減少したと報告されている。[12]
八日町の実践では、住民や商店、住宅の光を地域の夜間景観に生かす一戸一灯運動の考え方が取り入れられている。気仙沼市も、八日町の住民・商業者による復興まちづくりの活動として、夜間の暗がりを減らすため商店街の複数箇所で小さな照明を灯す実証実験を紹介している。[13]
気仙沼内湾
宮城県気仙沼市の内湾地区では、東日本大震災後の復興まちづくりの一環として、魚町・南町・港町地区を含むウォーターフロントの照明環境が整備された。照明学会は、公共施設を含む地区全体で光環境を統一し、建物や街灯の光が水面に映ることで内湾の地形や存在を認識しやすくしている点を評価した。また、建物周辺の照明が空間の認知を助け、防犯性や災害時の避難誘導にも寄与することが期待されている。[14]
上州富岡駅・駅前周辺
群馬県富岡市の上州富岡駅及び駅前周辺では、駅、広場、道路、公共施設を一体の空間として捉えた照明計画が行われた。同施設は平成27年照明普及賞の受賞施設に選ばれている。[15]富岡市は、駅及び駅前周辺の改修整備における照明計画を、地域の景観資源を生かす「あかりからのまちづくり」の事例として紹介している。[16]
脚注
- ↑ 小林茂雄・角舘政英・若山香保・西森陸雄「高台避難誘導を促進する「まちのあかり」-照明社会実験から始める整備計画-」『照明学会誌』第98巻第4号、2014年4月、176-180頁。
- ↑ 角舘政英・鈴木清久・関口克明・小林憲治・川島勇・野中太郎・堀江正浩・村井聡子「岩手県大野村のまちづくりにおける光環境整備」『平成14年度(第35回)照明学会全国大会講演論文集』2002年、76頁、doi:10.11515/ieijac.35.0.76.0。
- ↑ “ライティング・アーバニズム/照明性能設計”. ぼんぼり光環境計画. 2026年10月16日閲覧。
- ↑ 角舘政英・川島勇・下坪武史・永井俊介・本村洋・関口克明「周辺部を考慮した夜間街路の光環境に関する研究―岩手県大野村まちづくり整備」『照明学会誌』第87巻Appendix、2003年、100-101頁、doi:10.2150/jieij1980.87.Appendix_100。
- ↑ 小林茂雄・角舘政英「地域の景観固有性を活かした避難誘導照明の実践」『住総研研究論文集・実践研究報告集』第44巻、2018年、233-241頁、doi:10.20803/jusokenronbunjisen.44.0_233。
- ↑ “一戸一灯運動”. 川口市. 2026年10月16日閲覧。
- ↑ 角舘政英ほか「岩手県大野村のまちづくりにおける光環境整備」『平成14年度(第35回)照明学会全国大会講演論文集』2002年、76頁、doi:10.11515/ieijac.35.0.76.0。
- ↑ 角舘政英・川島勇・下坪武史・永井俊介・本村洋・関口克明「周辺部を考慮した夜間街路の光環境に関する研究―岩手県大野村まちづくり整備」『照明学会誌』第87巻Appendix、2003年、100-101頁、doi:10.2150/jieij1980.87.Appendix_100。
- ↑ “元町仲通り光環境実験”. ぼんぼり光環境計画. 2026年10月16日閲覧。
- ↑ 川島勇・下坪武史・永井俊介・本村洋・関口克明・角舘政英「元町の街路照明計画に向けた一考察」『照明学会誌』第87巻Appendix、2003年、94-95頁、doi:10.2150/jieij1980.87.Appendix_94。
- ↑ “ライティング・アーバニズム/照明性能設計”. ぼんぼり光環境計画. 2026年10月16日閲覧。
- ↑ 小林茂雄・角舘政英・阿部俊彦「宮城県気仙沼市八日町の街並み特有性と高台避難の向上を目指した光環境整備の提案」『日本建築学会技術報告集』第24巻第58号、2018年10月、1097-1100頁、doi:10.3130/aijt.24.1097。
- ↑ “八日町復興まちづくりの会”. 気仙沼市. 2026年10月16日閲覧。
- ↑ “2023年照明施設賞[No.07/東北3]気仙沼内湾ウォーターフロント”. 一般社団法人照明学会. 2026年10月16日閲覧。
- ↑ “平成27年照明普及賞 東京地区一覧”. 一般社団法人照明学会東京支部. 2026年10月16日閲覧。
- ↑ “令和7年度富岡市景観まちづくり講演会”. 富岡市. 2026年10月16日閲覧。