一戸一灯運動

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一戸一灯運動(いっこいっとううんどう)は、各家庭や事業所が夜間に門灯・玄関灯などを点灯させることで、地域の暗がりを減らし、犯罪の起こりにくい環境をつくることを目的とした自主防犯活動(防犯ボランティア運動)である。[1][2]

地域によっては、「玄関灯ピカッと運動」「門灯一斉点灯運動」などの名称でも展開されている。[3][4]

概要

一戸一灯運動は、自治体などが設置する防犯灯や街路灯だけでは十分な明るさを確保できない住宅街の路地や生活道路を、各家庭の屋外照明によって補完する取り組みである。

夜間に門灯や玄関灯を点灯させ、住宅の周辺や道路を明るくすることで、空き巣などの侵入盗やひったくりなどの街頭犯罪を抑止し、地域住民が安心して通行できる環境をつくることを目的としている。[2]

防犯灯や道路照明灯の増設には、設置場所の確保、住民の合意形成、財源などの課題がある。一戸一灯運動は、既存の家庭用照明を利用して道路の明るさを補う方法として提案されている。[2]

実施方法は、各家庭の玄関灯や門灯を就寝時まで、あるいは翌朝まで点灯することを基本とする。道路に面した部屋の照明を遅い時間まで点灯する方法もある。[1]

地域によっては、町内会・自治会が中心となって点灯への協力を呼びかけたり、LED電球への交換や啓発用ステッカーの配布などを行ったりしている。[5][6]

歴史

背景と発端

1990年代後半から2000年代初頭

日本国内では、1990年代後半から2000年代初頭にかけて刑法犯の認知件数が増加し、2002年(平成14年)には約285万件に達した。[7]

この時期には、街路を道路面だけでなく、道路に面する建物や民地を含む空間として捉える照明実験も行われた。横浜市の元町仲通りでは、2000年に行灯を用いた光環境実験が実施され、実験を基にした「元町光の街路」は、2001年にJCDデザイン賞およびディスプレイデザイン賞を受賞した。[8][9]

横浜元町仲通りでの照明社会実験とその後。一戸一灯の考え方で、ボイド照明を考慮している。


岩手県大野村では、2001年の「夢市」期間中に、家々の門灯や玄関灯を用いて街の明るさ感を高める照明実験が行われた。大野村の光環境整備は2002年に照明学会全国大会で報告され、「大野村・夢あかり」は同年のJCDデザイン賞優秀賞およびディスプレイデザイン賞を受賞した。[10][11][12]

大野村(現:洋野町)における照明社会実験とその後。一戸の周辺へのボイド照明を実現している。ここでは照明器具として主に庭園灯を使用している。



こうした取り組みでは、道路面の照度だけでなく、建物や民地を含む周辺空間の見え方や、住民の生活に伴う光も夜間環境の要素として扱われた。一方、各家庭の門灯を利用して街を明るくする活動は、2000年代初頭には地域の自主防犯活動としても実施されていた。 こうした犯罪情勢を背景に、警察や行政による対策に加え、地域住民が主体となって犯罪の起こりにくい環境を整備する取り組みが行われるようになった。 警察庁は、2003年(平成15年)の警察白書において、道路や公園などの公共空間について、防犯灯や街路灯による夜間の照度確保、周囲からの見通しの確保などを含む防犯環境設計の推進を取り上げている。[13]

京都府京都市の桂東自治連合会では、街灯の大幅な増設が予算面などから困難であったため、2003年(平成15年)6月から各家庭の門灯を朝まで点灯する運動を開始した。[14]

普及と定着

2000年代以降

2000年代には、地方自治体や地域の防犯団体が、一戸一灯運動を自主防犯活動の一つとして推進する事例がみられるようになった。

京都市の桂東自治連合会では、門灯の点灯を各家庭に呼びかけるとともに、桂警察署と連名で「門灯をつけ 明るい街づくり推進地区」の標章を作成し、地域住民に配布した。2003年10月には、桂東小学校において標章の授与式が行われた。[14]

埼玉県川口市では、2008年(平成20年)2月発行の市広報誌において、一戸一灯運動と省エネルギーを両立させるため、白熱電球から電球形蛍光灯への交換を提案している。[15]

大阪府松原市では、地域の犯罪防止対策として、住宅の外灯を点灯する一戸一灯運動を推進し、モデル地域を選定して啓発用チラシやステッカーを配布する取り組みを実施している。[6]

LED照明の活用

一戸一灯運動では、夜間に照明を継続して点灯することから、電気料金や消費電力への配慮が必要となる。

このため、自治体などは消費電力の少ないLED照明や太陽光発電を利用する照明器具の活用を呼びかけている。[16]

埼玉県上尾市の陣屋町内会では、各家庭の門灯や玄関灯を白熱灯や蛍光灯からLED灯に無償で交換し、電気料金を抑えながら終夜点灯への協力を呼びかける事業を実施している。[5]

また、埼玉県八潮市では、一戸一灯運動の普及を目的として、公共空間のフェンスにソーラーライトを設置する取り組みも行われている。[17]

推進主体と実施例

一戸一灯運動は、特定の単一組織が全国を一括管理するものではなく、地方自治体、警察、自治会、町内会、地域防犯団体などによって、地域の実情に応じた活動が行われている。

警察・地方自治体

警察や地方自治体は、犯罪被害の防止や防犯環境の整備を目的として、門灯や玄関灯の夜間点灯を呼びかけている。

埼玉県川口市では、防犯灯や道路照明灯の増設には住民合意や財源の面で課題があるとして、各家庭や事業所の玄関灯・門灯を点灯することによって道路を明るくする取り組みを提案している。[2]

神奈川県平塚市では、防犯街路灯のLED化を進める一方、周囲の状況などにより防犯街路灯の設置が困難な場所もあるとして、各家庭の門灯や玄関灯の点灯を呼びかけている。[18]

地域住民組織・ボランティア

町内会や自治会などが中心となり、各家庭に門灯や玄関灯の点灯を呼びかける活動が行われている。

京都市の桂東自治連合会では、門灯の点灯を促進する標章を作成・配布し、自治会への加入促進と併せて運動への協力を依頼した。[14]

埼玉県上尾市の陣屋町内会では、大学と連携して地域の照明環境の調査を行い、道路照明灯の整備や各家庭の門灯点灯を推進している。[5]

具体的な自治体・団体の事例

埼玉県上尾市(陣屋町内会)

埼玉県上尾市の陣屋町内会では、地域の住環境改善と防犯対策の一環として、一戸一灯運動を推進している。 町内会は大学と連携して地域の照明灯の照度測定や住民アンケートを実施し、その結果を踏まえて道路照明灯の新設・修繕や清掃、各家庭の門灯点灯などの取り組みを進めている。 また、町内の各家庭の門灯や玄関灯をLED灯に無償で交換し、対象世帯に終夜点灯への協力を呼びかけている。[5]

埼玉県八潮市

埼玉県八潮市では、家庭の玄関灯や門灯を就寝時または翌朝まで点灯させることで、街灯の不足を補い、街を明るくする一戸一灯運動への参加を呼びかけている。[16] 2022年(令和4年)には、一戸一灯運動を各家庭で簡単に実践できることを示すため、大原小学校西側の葛西用水沿いのフェンスに、実験的にソーラーライトを設置した。[17] また、八幡中学校の協力を得て、同校北側歩道沿いのフェンスにもソーラーライトを設置している。[19]

埼玉県白岡市

埼玉県白岡市では、防犯施策の一環として、「一戸一灯運動に御協力を」と題する案内を市の公式ウェブサイトに掲載し、住民に運動への協力を呼びかけている。[20]

埼玉県川口市

埼玉県川口市では、地域住民が協力して夜間に自宅の門灯や玄関灯を一晩中点灯する一戸一灯運動を推進している。 市は、自宅や事業所への侵入盗防止、ひったくりなどの街頭犯罪の防止、地域住民が安心して歩ける道路環境の整備などを運動の目的として挙げている。[2]

埼玉県川越市(並木自治会)

埼玉県川越市の並木自治会では、駅からの帰宅時に住宅地の路地が暗く、住民が犯罪に対する不安を抱えていたことから、各家庭が深夜まで門灯を点灯し、路地を明るくする「夜間の門灯一斉点灯運動」を開始した。 この取り組みは、埼玉県の『防犯のまちづくり実践事例集』に、地域の防犯環境を改善する活動の一例として紹介されている。[4]

京都府京都市(桂東自治連合会)

京都府京都市の桂東自治連合会では、街灯の増設だけでは十分な明るさの確保が難しいことから、2003年(平成15年)6月、市ノ前地区を手始めに各家庭の門灯を朝まで点灯する運動を開始した。 同自治連合会は、桂警察署と連名で「門灯をつけ 明るい街づくり推進地区」の標章を作成・配布し、地域全体での門灯点灯を呼びかけた。 2003年10月には桂東小学校において標章の授与式を開催し、活動を地域住民に広報した。[14]

滋賀県大津市

滋賀県大津市では、夜間の路上犯罪を防止するため、「玄関灯ピカッと運動」を展開した。 「指一本からはじめよう!安心のまちづくり」をキャッチフレーズとして、市民に門灯や玄関灯の終夜点灯を呼びかけ、各家庭が協力して地域全体を明るくする取り組みを推進した。[3]

大阪府松原市

大阪府松原市では、セーフコミュニティ活動における犯罪防止対策の一つとして、一戸一灯運動を実施している。 夜間に住宅の外灯を点灯することで自宅の防犯と夜間の環境改善を図るとともに、重点地域を設定し、啓発用チラシやステッカーを配布している。また、駐車場や空き地など、住宅がなく一戸一灯運動を実施することが難しい場所には、センサーライトを設置する取り組みも行っている。[6]

宮城県気仙沼市(八日町)

宮城県気仙沼市八日町では、2022年に住民参加による照明環境整備に向けた照明社会実験が行われ、2023年には各民家や民地に照明を設置する環境照明整備が実施された。周辺環境や防犯性の向上を目指した取り組みであり、住民や地域団体が個々の敷地のあかりを地域の夜間環境に生かす事例である。[21]

気仙沼八日町

宮城県気仙沼市(駅前商店街・商和会)

気仙沼駅前商店街の商和会では、県・市の補助金を活用した街あかり整備が行われた。既存の商店街灯を改修し、建物際や駐車場の奥などにも照明を設置することで、暗がりを減らし、安全性の向上や幅広い世代が利用しやすい商店街づくりを目指した。この整備は、照明学会の2019年照明普及賞を受賞した事例として紹介されている。なお、各家庭の門灯・玄関灯を点灯する一戸一灯運動とは方式が異なるが、地域団体が夜間環境の改善に取り組んだ関連事例である。[22]

気仙沼駅前商店街商和会

主な実施場所

一戸一灯運動は、主に次のような場所での点灯を想定している。[2][6]

  • 各家庭の玄関口、門扉、ガレージ、敷地内のアプローチ
  • 住宅街の生活道路や路地に面した門灯・玄関灯
  • 小中学校や塾などからの帰宅経路に面した住宅
  • 防犯灯や街路灯の光が届きにくい道路沿いの住宅
  • 住宅や事業所の敷地に設置された屋外照明
  • 夜間に人が通行する場所に面した建物の外灯

また、住宅がない駐車場や空き地などについては、センサーライトなどの照明設備を活用して夜間の明るさを確保する取り組みも行われている。[6]

効果・影響

犯罪の抑止

一戸一灯運動は、夜間の道路や住宅周辺を明るくすることによって、犯罪の起こりにくい環境を整備することを目的としている。

川口市は、運動によって自宅や事業所への侵入盗、ひったくりなどの街頭犯罪や性犯罪の防止につながることを期待している。[2]

また、警察庁が示す防犯環境設計の考え方では、道路や公園などについて、周囲からの見通しを確保し、夜間に人の行動を視認できる程度の照度を確保することが防犯上の対策として挙げられている。[13]

ただし、一戸一灯運動による実際の犯罪件数の減少については、街路灯の整備、防犯パトロール、地域の人口や犯罪情勢など、ほかの要因の影響も考慮する必要があり、照明の点灯だけによる効果と区別して評価することが求められる。

夜間歩行の安全確保

門灯や玄関灯の点灯によって生活道路の明るさを補うことは、夜間に通行する住民の視認性や安心感の向上につながると期待されている。

神奈川県平塚市では、防犯街路灯の設置が困難な場所を補うため、各家庭の門灯や玄関灯を点灯することが夜間の安心感の向上に寄与するとしている。[18]

埼玉県八潮市では、八幡中学校北側歩道沿いにソーラーライトを設置した際、近隣住民から、明るくなったことで安心して通行できるようになったとの声が寄せられたと報告している。[19]

地域の防犯意識の向上

各家庭が協力して門灯や玄関灯を点灯する活動は、地域住民が共同で防犯に取り組んでいることを示す取り組みでもある。

京都市の桂東自治連合会では、門灯点灯運動の標章を配布し、自治会への加入促進と併せて住民に参加を呼びかけることで、地域ぐるみの防犯意識の向上を図っている。[14]

また、埼玉県の『防犯のまちづくり実践事例集』では、門灯の一斉点灯が、地域住民の連帯感や防犯への取り組みを示すことにつながると説明している。[4]

実施上の課題

電気料金と環境への配慮

一戸一灯運動では、各家庭や事業所が照明を長時間点灯するため、消費電力や電気料金の負担が課題となる。

八潮市は、電気料金は契約形態、照明の消費電力、点灯時間などによって異なるとしたうえで、消費電力の少ないLED照明や太陽光発電を利用した照明器具の活用を呼びかけている。[16]

また、上尾市の陣屋町内会では、従来の門灯や玄関灯をLED灯に無償交換し、電気料金を抑えながら終夜点灯への協力を求めている。[5]

地域住民の参加

一戸一灯運動は、各家庭や事業所の自主的な協力によって成り立つため、参加世帯の確保と活動の継続が課題となる。

京都市の桂東自治連合会では、自治会に加入していない世帯などで門灯が点灯されていない場合があることから、自治会への加入促進とともに運動への協力を依頼している。[14]

照明だけでは対応できない場所

住宅がない空き地や駐車場などでは、各家庭の門灯や玄関灯によって道路を明るくすることが難しい場合がある。

大阪府松原市では、一戸一灯運動を実施することが難しい駐車場や畑、空き地などにセンサーライトを設置する取り組みを行っている。[6]

脚注

  1. 1 2 “一戸一灯運動”. 半田市 (2023年12月25日). 2026年9月23日閲覧。
  2. 1 2 3 4 5 6 7 “一戸一灯運動”. 川口市 (2018年12月4日). 2026年9月23日閲覧。
  3. 1 2 “防犯のまちづくり実践事例集「夜間の照明に関する実践事例」” (PDF). 埼玉県. p. 43. 2026年9月23日閲覧。
  4. 1 2 3 “防犯のまちづくり実践事例集「夜間の照明に関する実践事例」” (PDF). 埼玉県. p. 39. 2026年9月23日閲覧。
  5. 1 2 3 4 5 “陣屋町内会自主防犯ボランティア”. 上尾市. 2026年9月23日閲覧。
  6. 1 2 3 4 5 6 “犯罪の防止対策委員会”. 松原市. 2026年9月23日閲覧。
  7. ↑ “平成21年警察白書 第1章第1節 犯罪情勢とその対策”. 警察庁. 2026年9月23日閲覧。
  8. ↑ 川島勇ほか「元町の街路照明計画に向けた一考察」『照明学会誌』第87巻Appendix、2003年、94–95頁。
  9. ↑ “「600メートルクラフトマンストリート」下町情緒薫る元町仲通りの街づくり”. ヨコハマ経済新聞 (2004年5月20日). 2026年10月21日閲覧。
  10. ↑ “大野村街並み形成照明整備”. ぼんぼり光環境計画. 2026年10月21日閲覧。
  11. ↑ “岩手県大野村のまちづくりにおける光環境整備”. J-STAGE. 照明学会 (2002年). 2026年10月21日閲覧。
  12. ↑ “遠藤新(建築学部 まちづくり学科)研究者データベース”. 工学院大学. 2026年10月21日閲覧。
  13. 1 2 “街頭犯罪及び侵入犯罪の発生を抑止するための防犯対策”. 警察庁. 2026年9月23日閲覧。
  14. 1 2 3 4 5 6 “自主防犯活動事例 京都府 桂東自治連合会”. 警察庁. 2026年9月23日閲覧。
  15. ↑ “広報かわぐち 2008年2月号” (PDF). 川口市 (2008年2月). 2026年9月23日閲覧。
  16. 1 2 3 “一戸一灯運動にご協力ください”. 八潮市 (2026年5月25日). 2026年9月23日閲覧。
  17. 1 2 “一戸一灯運動を促進するため、葛西用水沿いのフェンスにソーラーライトを設置”. 八潮市 (2022年10月6日). 2026年9月23日閲覧。
  18. 1 2 “一戸一灯運動にご協力をお願いします”. 平塚市 (2026年2月13日). 2026年9月23日閲覧。
  19. 1 2 “一戸一灯運動を促進するため、八幡中学校北側歩道沿いのフェンスにソーラーライトを設置”. 八潮市 (2024年2月26日). 2026年9月23日閲覧。
  20. ↑ “防犯”. 白岡市. 2026年9月23日閲覧。
  21. ↑ “気仙沼市あかり物語WS”. ぼんぼり光環境計画. 2026年10月21日閲覧。
  22. ↑ “2019年照明普及賞[No.07/東北2]商和会(気仙沼駅前商店街)”. 照明学会. 2026年10月21日閲覧。

関連項目

主要関連
/環境照明史 /レジリエント照明 /ライティング・アーバニズム /まちあかり /あかりからのまちづくり
都市建築系
/都市環境 /まちづくり
照明系
/照明 /街路灯 /防犯灯 /環境照明 /一戸一灯運動 /LED照明
/ボイド照明 /窓あかり(防犯・機能的な視点) /あかり観光クラスター /あかり拠点 /ボーダレス・ライティング(敷地境界を無くすあかり) /あかり拠点
環境心理系
/主観的空間輪郭 /主観的輪郭 /ガエタノ・カニッツァ /環境心理 /環境心理学
防災系
/防災照明 /非常灯 /非常口 /フェーズフリー /レジリエンス /防犯環境設計 /避難経路 /避難誘導 /防犯適応照明(防犯性に合わせたあかりの調整)
関連
/照明学会 /避難誘導 /避難経路 /防災計画

外部リンク