ハクビシン
ハクビシン
ハクビシン Paguma larvata
保全状況評価[1]
LEAST CONCERN
(IUCN Red List Ver.3.1 (2001))
分類
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
界 : 動物界 Animalia
門 : 脊索動物門 Chordata
亜門 : 脊椎動物亜門 Vertebrata
綱 : 哺乳綱 Mammalia
目 : 食肉目 Carnivora
科 : ジャコウネコ科 Viverridae
亜科 : パームシベット亜科 Paradoxurinae
属 : ハクビシン属
Paguma Gray, 1831[2]
種 : ハクビシン P. larvata
学名
Paguma larvata
(C. E. H. Smith, 1827)[2][3][4]
シノニム

Gulo larvatus C. E. H. Smith, 1827[2]

和名
ハクビシン[4]
英名
Masked musang
Masked palm civet
[3]

分布域

ハクビシン(白鼻芯、白鼻心:Paguma larvata)は、ジャコウネコ科ハクビシン属に分類される食肉類。本種のみでハクビシン属を構成する[3]。その名の通り、額から鼻にかけて白い線があることが特徴である。

日本に生息する唯一のジャコウネコ科の哺乳類で、外来種であることは分かっているが移入時期については意見が分かれている(後述)。

分布

中国大陸南部を中心に、マレーシアやインドネシアなどの東南アジア、インド、ネパールなどの南アジア、そして台湾、日本に生息している[5]。

形態

体長51 - 76cm[3]。頭胴長約61 - 66cm。尾長40 - 60cm[3]。尾長約40cm。体重3.6 - 6kg[3]。体重2 - 3kg程度。ネコのような体つきで鼻すじが長い。オスとメスで体長の差はない。柔らかく長い体毛で被われる[3]。体色は明褐色や暗褐色で個体変異が大きい[3]。耳介や頸部・四肢は濃色や黒[3]。体は暗い灰褐色で頭、手足、尾が黒い。尾は全体もしくは先端が黒い[3]。一方でボルネオ島など南方系の個体では尾の先端が白い個体もいる[3]。額から鼻鏡にかけて白い筋模様が入る個体が多いが[3]、不明瞭な個体もいる[4]。和名(漢字表記では白鼻心)はこの筋模様に由来し、種小名 larvata や英名 Masked は「仮面をつけた」の意で顔の斑紋に由来する[3]。頬も白い。

歯式は、3/3・1/1・4/4・2/2=40[3][5]。足指の数は前後共に5本である。これによって、足指の数が4本のタヌキなどと足跡を見分けることが出来る。オス、メス共に性器のそばにウズラの卵よりひと回り大きな「会陰腺」を持っている。

分類

属名 Paguma は記載者による造語で、ピューマをもじったと考えられている[3]。

亜種は顔の斑紋などによって区別され、顔全体がほぼ白いものもいる[3]。亜種の分類には諸説あり、例としてCorbet & Hill (1992)は6亜種を認めている[1]。以下の分類はMSW3(Wozencraft,2005)に従う[2]。

生態

主に低地に生息するが、スマトラ島では標高2,400m以上、ネパールでは標高2,500m以上、インド北東部では標高2,700m以上でも報告例がある[1]。多くは海抜200 - 1000mの低山の山林に生息する。木登りが得意である。樹洞、タヌキなどの動物が使い古した巣穴などを棲みかにする。民家の床下、屋根裏などに棲み着くこともある。夜行性で[3]、昼間は住処に潜んでいる。電線を使って移動することもある[6]。外敵に襲われると肛門腺から臭いのある液を分泌して、威嚇する[3]。

食性は雑食で、イチジク類、カキ、ナシ、バナナ、マンゴー、ミカンなどの果実、小動物、昆虫などを食べる[3]。植物食中心の雑食性で、果実、種子、小動物、鳥、鳥の卵などを食べる。中でも果実を好む。熟した果実や野菜などを見つけると毎夜同じ路を辿って侵入するので、獣道が形成される。

年に1回出産し[7]、出産する季節に決まりはないが[7]、夏から秋にかけて多く産む傾向がある[7]。妊娠期間は2ヶ月で[7]、2-3頭を出産する[7]。子供を産む年齢は生後10ヶ月以降[7]。飼育個体の最高年齢は24歳[7]。

母子を中心とした家族で生活しており、10 - 20頭程度の群れを作ることもある。この群れは複数の家族による共同体と考えられる。

人間との関係

中国語名は果子狸、花面狸、マレー語名は Musang lamri(lamri はサンスクリット語のキツネに由来する)などがある[3]。

中国南部では、広東料理、広西料理、雲南料理、安徽料理などの食材として煮込み料理などに用いられている。独特の臭みがあるため、ニンニク、醤油などを用い、濃厚な味にするのが普通。満漢全席でも中国梨と煮た「梨片果子狸」という料理が出された記録が残っている。日本のハンターによれば、肉はとても美味であるといわれている[8]。食用の他に、毛を毛筆の材料として利用する場合がある。

日本ではトウモロコシ・カキ・ブドウ・ミカンなどの畑作物・果樹などを食害する害獣とみなされることもある[3][4]。住居に侵入し、家具を噛まれる等の被害もある[9]。果樹園に入り込み、ビワ、ミカン、モモ、ナシ、カキなどを食べ荒らすことで、深刻な農業被害を与えることがある。トマト、ウリ類のビニールハウスに侵入することもある。糖度の高い果樹・野菜を好み、ネットの隙間等、頭部が潜れる大きさの隙間ならば侵入できるので、小さな穴も補修する必要がある。一方で熟した果実や野菜を見つけると、同じ路を辿って毎夜訪れるので、畑の隅などの草むらに獣道状の隙間ができる。このほか、民家の屋根裏に棲み着き、足音による騒音や糞尿による悪臭で、生活被害をもたらす事もある一方で、家ネズミを捕食する益獣でもある。また、車に轢かれる事故も増加している[8]。

農地開発などによる生息地の破壊、食用の狩猟などにより、生息数は減少している[1]。香港では野生動物保護法の保護対象となっている。

シンガポールではよく見られるが、在来種であるという確実な生息記録がない[1]。そのため20世紀になってから人為的に移入されたとする説もある[3]。

重症急性呼吸器症候群(SARS)が騒動となった時、ハクビシンがSARSコロナウイルスの自然宿主ではないかと疑われた[10]。そのため、SARS伝染の媒体になりうるとして、中国で流通が禁止された。2006年の報告によれば、SARSとハクビシンの持つウイルスの遺伝子の一部に違いが見られたこともあり、SARSはハクビシンの持つウイルスが突然変異を起こしたものではないかとの見解も生まれた。その後の調査により、SARSの自然宿主はハクビシンではなく、キクガシラコウモリというコウモリの一種であることが判明した[11]。

日本におけるハクビシン

日本では本州から九州にかけて断続的に分布しており、日本での初めての確実な記録は1943年の静岡県浜名郡での狩猟記録で、1952年以降は国の狩猟統計にも登場している[12]。静岡県では1965 - 1966年に急増したとされ[3]、1972年時点での分布に関するアンケート調査がある[13]。関東地方では1958年の神奈川県山北町での記録が初めてとなる[8]。東京都では1980年に八王子市で初めて報告され、現在でも山手線の線路沿い等で、夜間に目撃されることがある[8]。北海道の奥尻島では1985年に捕獲記録があり、2002年になって再び生息が確認されている[14]。長野県では1976年に県の天然記念物に指定されたことがある(1995年に解除)[8]。

これら日本のハクビシンが在来種なのか外来種なのかは確定していない[15][16]。江戸時代に記録された「雷獣」とされる動物の特徴がハクビシンに似ているため、江戸時代には既に少数が日本に生息していたとする説や[17][7][18]、明治時代に毛皮用として中国などから持ち込まれた一部が野生化したとの説が有力である[19]。根拠としては、国内においてジャコウネコ科の化石記録が存在しないこと[5]、中国地方や九州に連続的に分布していないこと[19]が挙げられる。ただし、導入個体群の原産地や詳細な導入時期に関しては不明である[5]。

日本産と東南アジア産の個体のミトコンドリアDNAシトクロムbの分子系統解析では、日本産の個体はそのいずれもが東南アジア集団のものとは一致しないが、2つが台湾集団に見いだされる6つの遺伝子型のうちの2つと同一であること、西日本で優占する遺伝子型が台湾東部に、東日本で優占する遺伝子型が台湾西部に由来することが示されている[16]。

環境省は、「移入時期がはっきりとしない」として、明治以降に移入した動植物を対象とする外来生物法に基づく特定外来生物に指定していない。このため、アライグマと異なりハクビシンは駆除対象とはならないが、鳥獣保護法により、狩猟獣に指定されている。

住宅被害などのために、神奈川県川崎市では2009年(平成21年)度に市民からの相談を受け46頭を捕獲するなどの例はあるものの、捕獲には民家に巣を作ったり果樹園を荒らすなどの実害を理由とした、鳥獣保護法に基づく都道府県知事などの許可(「有害鳥獣」認定)が必要で、「住宅街をうろついている」など民間人の予防的捕獲は許されていない[20]。

画像

出典

[脚注の使い方]
  1. 1 2 3 4 5 Duckworth, J.W., Timmins, R.J., Chutipong, W., Choudhury, A., Mathai, J., Willcox, D.H.A., Ghimirey, Y., Chan, B. & Ross, J. 2016. Paguma larvata. The IUCN Red List of Threatened Species 2016: e.T41692A45217601. doi:10.2305/IUCN.UK.2016-1.RLTS.T41692A45217601.en. Downloaded on 20 May 2017.
  2. 1 2 3 4 W. Christopher Wozencraft, "genus Paguma," Mammal Species of the World, (3rd ed.), Don E. Wilson & DeeAnn M. Reeder (ed.), Volume 1, Johns Hopkins University Press, 2005, Page 540.
  3. 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 祖谷勝紀・伊東員義 「ハクビシン属」『世界の動物 分類と飼育2 (食肉目)』今泉吉典監修、東京動物園協会、1991年、96-97頁。
  4. 1 2 3 4 米田政明 「ハクビシン」『日本の哺乳類 改訂2版』阿部永監修、東海大学出版会、2008年、90頁
  5. 1 2 3 4 S. D. Ohdachi, Y. Ishibashi, M. A. Iwasa, and T. Saitoh (2009-07). The Wild Mammals of Japan. SHOUKADOH. ISBN 978-4-87974-626-9
  6. ↑ 出典(電線) : 電線をわたるハクビシン
  7. 1 2 3 4 5 6 7 8 出典 : ハクビシンの基礎知識 (PDF) - 農林水産省
  8. 1 2 3 4 5 鈴木欣司『日本外来哺乳類フィールド図鑑』旺文社、2005年7月20日。ISBN 4-01-071867-6。
  9. ↑ “ハクビシン駆除に有効な6つの方法” (日本語). タスクル | 暮らしのお悩み解決サイト 2018年10月3日閲覧。
  10. ↑ 種生物学会『外来生物の生態学 進化する脅威とその対策』文一総合出版、2010年3月31日。ISBN 978-4-8299-1080-1。
  11. ↑ “コロナウイルスとは”. 国立感染症研究所 (2020年1月10日). 2020年2月2日閲覧。
  12. ↑ 田口洋美「狩猟・市場経済・国家―帝国戦時体制下における軍部の毛皮市場介入」赤坂憲雄編『現代民俗学の地平2 権力』朝倉書店、2004年
  13. ↑ 古屋義男、静岡県のハクビシン 1.県内の分布、哺乳動物学雑誌,1973年 5巻 6号 p.199-205, doi:10.11238/jmammsocjapan1952.5.199
  14. ↑ 北海道ブルーリスト A3 ハクビシン
  15. ↑ 平成25年度 第2回狩猟鳥獣のモニタリングのあり方検討会(哺乳類)議事概要
  16. 1 2 増田隆一「ハクビシンの多様性科学」(PDF)『哺乳類科学』第51巻第1号、2011年、188-191頁、2011年10月2日閲覧。
  17. ↑ 千石正一 「千石正一 十二支動物を食べる 世界の生態文化誌 〜「寅」を食べる〜食う虎 食わぬ虎」 ダイヤモンド・オンライン、2008年2月15日、宮本拓海Vol. 367(2007/7/1)〔今日の動物探偵!〕 本所七不思議の謎を解く! その2 いきもの通信
  18. ↑ 宮本拓海は、ハクビシンが江戸時代には日本にいたことを示す例として、民話『分福茶釜』に登場する「綱渡り芸をするタヌキ」が、ハクビシンではないかと指摘している(タヌキには綱渡りは不可能なため)『ハクビシンに出会ったならば』(東京タヌキ探検隊!)。
  19. 1 2 村上興正・鷲谷いづみ(監修) 日本生態学会(編著)『外来種ハンドブック』地人書館、2002年9月30日。ISBN 4-8052-0706-X。
  20. ↑ 日本経済新聞 2010年4月30日 夕刊3版17面

関連項目

外部リンク

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