レフォスコ (Refosco) は、イタリア北東部からスロベニア、クロアチア (とくにヴェネト州、フリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州、イストリア半島、クラス (カルソ) 地方) を中心に古くから[1] 栽培され、土着品種と考えられてきた黒ブドウ品種群の総称である[2]。

品種

スロヴェニアのレフォスコ (レフォシュク) の果房

長年イタリア、スロベニア、クロアチアでは「レフォスコ (refosco) 」や「レフォシュク (refošk) 」という名称が、実際には類縁関係にないさまざまな品種に用いられてきたため、「レフォスコ」の名をもつブドウ品種や、それらと同一品種とされるブドウ区別し、系統立てることは困難を極める。21世紀に入ってからDNA型鑑定を用いた研究が進められた結果、一部の品種および名称については以下のように峻別・分類されている。

他品種との類縁関係の検証

レフォスコの系列品種の歴史は古く、その初期の状態については明らかになっていない。レフォスコ・ダル・ペドゥンコロ・ロッソをDNA分析にかけてみたところ、同じくイタリア北部に古くから栽培されているマルツェミーノ(英語版)は親種にあたり、コルヴィーナ(英語版)は子種、ロンディネッラ(英語版)は孫種にあたることが判明した。また、レフォスコ・ダル・ペドゥンコロ・ロッソはトレンティーノ=アルト・アディジェ州の土着品種、テロルデゴ(英語版)の孫種にあたることから、イタリア北東部の固有種の系統図において重要なピースのひとつと考えられる[12][13]。

かつては、フランス東部のサヴォア地方を中心に見かけられるモンデュース・ノワール(英語版)が、ワインの特徴の類似性から、レフォスコ・ダル・ペドゥンコロ・ロッソと同一種ではないかと唱える専門家もいた。DNA型鑑定によって、この説は否定され、両品種は類縁関係にないことが判明した[14]。

一部の専門家は、フリウリの土着品種であるピクリット・ネーリ (Piculit Neri) がレフォスコ・ダル・ペドゥンコロ・ロッソもしくはレフォスコ・ノストラーノと同一品種であるという仮説を長年唱えていたが (興味深いことに、地元ブドウ農家にはピクリット・ネーリを「レフォスコ」と呼ぶ習慣はなかった) 、DNA型鑑定の結果、ピクリット・ネーリはいずれの品種とも異なることが判明した[15]。

起源と歴史

ブドウ品種学者のなかには、古代ローマのプッキヌム (puccinum) がレフォスコから作られたワインであったと考える者もいる。古代においてこのブドウはよく知られており、1世紀にローマの博物学者大プリニウスは、レフォスコ系列種のどれかのワインのことを質が高いと賞賛している。著作『博物誌』において彼は、プッキウムがアドリア海沿岸北部、典型的なカルスト地形の河川であるティマヴォ川の湧泉付近で栽培されるブドウで作られている、と述べている。

これはカルニ族の地域で、その隣りにイアプデス族の地域がある。ティマウス河 [ティマヴォ川] 、ブドウ酒で名高いプキヌムの堡塁……[16]
(プリニウス『博物誌』第3巻、第13章、「ウェネティア」)

俗説では、プッキヌムはアウグストゥスの妻リウィア・ドルシッラの好物であったという[17]。

プッキヌムはプロセッコ (グレラ(英語版)) の甘口白ワインであったかもしれないという正反対の説も存在する。この説を唱えたのはイタリアのジャンニ・ダルマッソ (Gianni Dalmasso) 教授で、彼によると、リウィアがレフォスコのワインの苦味を好んでいたわけはなく、彼女が好んだ可能性のある唯一のワインはトリエステ地方で栽培されていた甘いプロセッコ種なのだという[18]。 また、中世の地図にグレゴリオ・アマーセオ (1464年-1541年) が記した注解文には "Prosecho ol:Pucinum, hinc vina a Plinio | tantopere laudata" (プロセコ、かつてプキヌムと呼ばれた。プリニウスによって高く評価されたワインはここのものである) とも述べられている[19]。

ジャコモ・カサノヴァもレフォスコのワインを好んだひとりであり、自伝『我が生涯の物語』 (『カサノヴァ回想録』) のなかで次のように評している。

それにここのレフォスコは、女信徒のところのものよりさらに味がよく、わたしの不幸を忘れさせてくれた[20]。
(ジャコモ・カサノヴァ『我が生涯の物語』第1巻、第8章)

20世紀の後半 (おそらく1966年より前) に、カリフォルニア大学デーヴィス校のオースティン・ゴヒーンがカリフォルニア州アマドール郡のジャクソン実験農園 (1880年代設立) 採取した「レフォスコ」とされるブドウ樹標本が、1990年代にヨーロッパのブドウ品種学者によるDNA型鑑定でモンデュース・ノワールと判明したことから、「レフォスコ=モンデュース・ノワール」という誤解と混乱が広まった (品種節およびワイン生産地域節参照) 。しかし21世紀初頭に、DNA型鑑定によってモンデュース・ノワールはいかなるレフォスコ系列種とも一致しないことが判明し、実験農園のブドウ樹が導入時から間違った名称をつけられていたことが原因であると結論づけられた。

ワイン生産地域

イタリアにおいては、「レフォスコ」に含まれる各品種のほとんどがフリウリ=ヴェネツィア・ジュリア州東部に集中している。ただしレフォスコ・ダル・ペドゥンコロ・ロッソは、同州の他の地域やヴェネト州東部でもワインに使用されている。また、エミリア=ロマーニャ州ではレフォスコ・ディストリア (テッラーノ) がカニーナ (Cagnina) という現地名で栽培されている。おもなD.O.C.認定地区は以下の通り:

ファエーディスおよびその近隣地区では、10前後のワイン生産者がAssociazione Volontaria Viticoltori del Refosco di Faedisという任意団体を設立し、みずからが生産したレフォスコ・ディ・ファエーディスのワインの品質管理およびマーケティング・販売を共同で行なっている。どの生産者のワインも白 (若飲み用のカジュアルなタイプ) および黒 (各生産者のフラグシップとなる熟成タイプ) 2種類の同一デザインのラベルに統一されている[27]。

スロベニアでは、イタリアのトリエステ県と隣接し、石灰岩のカルスト地形を赤い鉄分の多い土壌が覆うクラス地区で、レフォスコ・ディストリア (現地名テラン) が栽培されている。また、イストリア半島北側沿岸部のコペルでもテランが栽培されている[28]。

イストリア半島のクロアチア側 (フルバツカ・イストリア) でも「テラン」というブドウ品種が栽培されているが、その扱いをめぐっては意見の一致をみていない (品種節を参照) 。

アメリカ合衆国 (とくにカリフォルニア州) で「レフォスコ」として栽培されていたブドウ品種は、イタリアで栽培されるどの「レフォスコ」にもDNA型が一致せず、モンデュース・ノワールと同一であることが判明した[10]。1990年代後半からは、カリフォルニア州でもレフォスコ・ダル・ペドゥンコロ・ロッソの苗が多数植えられ、単純に「レフォスコ」と呼ばれている。ニューメキシコ州でもレフォスコ・ダル・ペドゥンコロ・ロッソの栽培が盛んである。南米ではアルゼンチンのメンドーサおよびチリのコルチャグアで栽培されている[29]。

関連項目

脚注

  1. ↑ 1390年の記録においてレフォスコのワインが言及されている。Ian D'Agata, Native Wine Grapes of Italy (University of California Press, 2014), p. 129. ISBN 9780520272262
  2. 1 2 Jancis Robinson, ed (2015). “Refosco dal Peduncolo Rosso”. The Oxford Companion to Wine (4th ed.). Oxford University Press. p. 600. ISBN 978-0-19-870538-3
  3. ↑ http://www.chalmersnurseries.com/www/varieties/refoscodalpeduncolo/refoscodalpeduncolo.htm Chalmers Nurseries - Refosco dal Peduncolo Rosso, accessed 2011-06-22
  4. 1 2 Ian D'Agata (2014). Native Wine Grapes of Italy. University of California Press. p. 130. ISBN 9780520272262
  5. ↑ Jancis Robinson, ed (2015). “Teran”. The Oxford Companion to Wine (4th ed.). Oxford University Press. p. 736. ISBN 978-0-19-870538-3
  6. ↑ こうした見解の齟齬や対立は、ウィキペディアのテッラーノ (英語)やテラン (スロベニア語) 、テラン (クロアチア語) といった各言語記事にも見られる。
  7. 1 2 3 Ian D’Agata (2019). Italy's Native Wine Grape Terroirs. University of California Press. p. 247. ISBN 9780520290754
  8. ↑ Ian D'Agata (2014). Native Wine Grapes of Italy. University of California Press. p. 133. ISBN 9780520272262
  9. ↑ Ian D'Agata (2014). Native Wine Grapes of Italy. University of California Press. pp. 133-134. ISBN 9780520272262
  10. 1 2 Ian D'Agata (2014). Native Wine Grapes of Italy. University of California Press. p. 131. ISBN 9780520272262
  11. ↑ J. Robinson, J. Harding and J. Vouillamoz Wine Grapes - A complete guide to 1,368 vine varieties, including their origins and flavours pg 1084-1085 Allen Lane 2012 ISBN 978-1-846-14446-2
  12. ↑ Jancis Robinson, ed. (2006). "Refosco dal Pedunculo Rosso". Oxford Companion to Wine (3rd ed.). Oxford University Press. pp. 564–565. ISBN 0-19-860990-6。
  13. ↑ “Refosco”. Wine Grapes: A complete guide to 1,368 vine varieties, including their origins and flavours. Penguin. (2013). ISBN 9780141968827
  14. ↑ Jancis Robinson, ed. (2006). "Mondeuse". Oxford Companion to Wine (3rd ed.). Oxford University Press. p. 448. ISBN 0-19-860990-6。
  15. ↑ Ian D'Agata (2014). Native Wine Grapes of Italy. University of California Press. pp. 130,132. ISBN 9780520272262
  16. ↑ 中野定雄他 訳『プリニウスの博物誌』 1巻、雄山閣出版、1986年、167頁。ISBN 4-639-00571-7。
  17. ↑ ItalianMade Vinotizie Volume 10, Number 3 pg 6 December 2004
  18. ↑ 中川原まゆみ『土着品種で知るイタリアワイン』(ハードバック改訂版)ガイアブックス、2014年、78頁。ISBN 978-4-88282-908-9。
  19. ↑ Cartographica Neerlandica Background for Ortelius Map No. 129
  20. ↑ 窪田般彌 訳『カザノヴァ回想録第1巻 少女たちの誘惑』河出書房新社、1995年、268頁。ISBN 4309465315。
  21. ↑ “Friuli Colli Orientali DOC”. Italian Wine Central. 2019年8月10日閲覧。
  22. ↑ “DISCIPLINARE DI PRODUZIONE DELLA DENOMINAZIONE DI ORIGINE CONTROLLATA DEI VINI «FRIULI COLLI ORIENTALI»” (PDF). Città del Vino. 2019年8月10日閲覧。
  23. ↑ “Carso / Carso-Kras DOC”. Italian Wine Central. 2019年8月10日閲覧。
  24. ↑ “DISCIPLINARE DI PRODUZIONE DELLA DENOMINAZIONE DI ORIIGINE CONTROLLATA DEI VINI “CARSO” o “CARSO – KRAS”” (PDF). Città del Vino. 2019年8月10日閲覧。
  25. ↑ “Romagna DOC”. Italian Wine Central. 2019年8月10日閲覧。
  26. ↑ “DISCIPLINARE DI PRODUZIONE DEI VINI A DENOMINAZIONE DI ORIGINE CONTROLLATA “ROMAGNA”” (PDF). Città del Vino. 2019年8月10日閲覧。
  27. ↑ Ian D'Agata (2019). Italy's Native Wine Grape Terroirs. University of California Press. p. 246. ISBN 9780520290754
  28. ↑ ヒュー・ジョンソン、ジャンシス・ロビンソン 著、腰高信子、寺尾佐樹子、藤沢邦子、安田まり 訳『世界のワイン図鑑』(第7版)ガイアブックス、2014年、264-265頁。ISBN 978-4-88282-914-0。
  29. ↑ Ian D'Agata (2014). Native Wine Grapes of Italy. University of California Press. pp. 132-133. ISBN 9780520272262
⌬ Phoenix Mesh CID: 未登録 IPFS未登録 📡 0ピア N=1 CRITICAL PQS B62