中性子経済

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中性子経済(ちゅうせいしけいざい)は、過剰な中性子の生成量と核分裂率との比として定義される中性子収支をあらわす値[1][2]。この数値は、主に中性子のエネルギーに基づいて算出された加重平均値である。

概要

核分裂とは原子核が分裂する過程のことで、この過程で放出される様々な粒子の中には、幅広いエネルギー分布(中性子スペクトル)を持つ高エネルギーの中性子が含まれている。こうした中性子は他の原子核を核分裂させる可能性があり、連鎖反応を引き起こすことがある。ただし、中性子が核分裂を引き起こせるかどうかは、そのエネルギーに依存する特定の条件下に限られる。エネルギーが非常に高い中性子(いわゆる相対論的な中性子)は、他の原子核に衝突しても核分裂を起こさず、そのまま通り抜けてしまうことが多い。中性子が原子核に捕獲される確率は、そのエネルギーが標的となる原子核のエネルギーと同程度になったときに著しく高まり、このような中性子を熱中性子という。高速炉を除く原子炉内で連鎖反応を維持するためには、中性子減速材を用いて中性子の速度を低下させる必要がある。減速材は、核分裂によって発生したエネルギーを取り出すための冷却材を兼ねることが多く、最も一般的に用いられる減速材は水である。また原子炉内では、燃料やその他の物質との弾性衝突や非弾性衝突によっても、中性子の速度は低下する。

核分裂炉は臨界を維持するという考え方に根差している。臨界とは、核分裂反応が次々と連鎖し、その反応の数が過不足なく一定に保たれる状態を指す。ウランの核分裂では2〜3個の中性子が放出されるため、全体としてバランスを保つには、その一部の中性子を系外へ取り除く必要がある。中性子が失われる要因には、幾何学的なものがある。例えば、燃料棒の外縁から外側に向かって放出された中性子は、他の原子核と衝突して核分裂を引き起こす機会を持たないまま系外へ出てしまう。また、燃料内部でさまざまな過程を経て吸収される中性子もある。さらに、制御棒やそれに類する装置で意図的に中性子を吸収させ、全体的なバランスを適切に維持することもある[3]。中性子の減速過程においても、その一部が吸収されてしまうのが一般的である。

中性子経済とは、核分裂を引き起こし得る中性子の放出数と、連鎖反応を維持するために必要な中性子の数とを比較した指標である[4]。これは単に中性子の総数を計算するのではなく、中性子のエネルギーを考慮した重み付けがなされている。したがって、連鎖反応の維持に寄与しない高エネルギーの中性子は、全体的な中性子経済においては大きな要素とはならない。中性子経済のバランスがどの程度崩れているかを示す量は反応度と呼ばれる。原子炉がちょうど臨界状態にある場合、すなわち中性子の生成量と消失量が完全に釣り合っている場合、反応度はゼロとなる。反応度が正であれば原子炉は臨界超過状態にあり、反応度が負であれば未臨界状態にある。

中性子経済という語は、原子炉の瞬間的な反応度だけでなく原子炉設計全体の効率を表す際にも用いられる。冷却材および減速材として一般的な水を使用する原子炉設計では、水が熱中性子の一部を吸収してしまうため、核反応の維持に利用できる中性子の数が減り、結果として中性子経済は相対的に悪くなる。これに対し、重水はあらかじめ余分な中性子を含んでおり、同様の反応によってその中性子が放出される。そのため、重水を減速材として用いる原子炉では中性子が吸収されず、中性子経済がより良好となる[5][6]。中性子経済が優れた原子炉には余剰中性子が多く存在し、これらを他の目的に利用することができる。例えば新たな燃料の生成や放射性廃棄物に対して未臨界核分裂を起こさせ、強力な放射能を持つ核種の消滅処理などである。

関連項目

脚注

  1. ↑ “DOE Fundamentals handbook Vol1”. h1019v1. US Department of Energy. 2014年3月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年10月17日閲覧。
  2. ↑ “DOE Fundamentals handbook Vol2”. h1019v2. US Department of Energy. 2013年12月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年10月17日閲覧。
  3. ↑ “Engineering Physics 4D3/6D3 - Nuclear Reactor Analysis”. 2013年1月25日閲覧。
  4. ↑ “中性子経済”. ATOMICA. 日本原子力研究開発機構 (1998年2月). 2026年10月19日閲覧。
  5. ↑ Meneley, A.R. Dastur. Synertistic Fuel Cycles of the Future (PDF) (Technical report).
  6. ↑ “CANDU Reactors”. 2012年2月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年1月25日閲覧。