中華人民共和国
| 中華人民共和国 | |
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| 中华人民共和国 | |
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国歌:义勇军进行曲 義勇軍進行曲 | |
| 公用語 | 標準中国語(普通話)[注釈 1] |
| 首都 | 北京 |
| 最大の都市 |
上海(都市部人口) 重慶(行政区域人口) |
| 政府 | |
| 中国共産党総書記[注釈 2] | 習近平 |
| 国家主席 | 習近平 |
| 国務院総理 | 李強 |
| 全人代常務委員会委員長 | 趙楽際 |
| 国務院筆頭副総理 | 丁薛祥 |
| 国家副主席 | 韓正 |
| 面積 | |
| 統計 | 9,596,961km2(3–4位)[注釈 3] |
| 水面積率 | 2.8% |
| 人口 | |
| 統計(2025年) | 1,404,890,000人(2位)[1][注釈 4] |
| 人口密度 | 146人/km2 |
| GDP(自国通貨表示) | |
| 合計(2025年) | 140兆1879億[1]人民元(元) |
| GDP(MER) | |
| 合計(2026年) | 20兆8520億[2]ドル(2位) |
| 1人あたり | 14,874[2]ドル |
| GDP(PPP) | |
| 合計(2026年) | 44兆2950億[2]ドル(1位) |
| 1人あたり | 31,596[2]ドル |
| 成立 | |
| 建国宣言 | 1949年10月1日 |
| 現行憲法制定 | 1982年12月4日 |
| 通貨 | 人民元(元)(CNY) |
| 時間帯 | UTC+8(DST:なし) |
| ISO 3166-1 | CN / CHN |
| ccTLD | .cn、.中国 |
| 国際電話番号 | 86 |
中華人民共和国(ちゅうかじんみんきょうわこく、中国語: 中华人民共和国; 拼音: Zhōnghuá Rénmín Gònghéguó)は、東アジアに位置する共和制国家である。通称は中国(ちゅうごく)。首都は北京。2025年末の人口は14億489万人でインドに次ぐ世界第2位であり[1]、国土面積は約960万平方キロメートルである[3]。中国共産党が国家を指導する単一国家で、憲法上は「人民民主独裁の社会主義国家」と規定されている[4]。国際連合安全保障理事会の常任理事国であり、核兵器保有国でもある。
1949年、国共内戦で優勢となった中国共産党が建国を宣言し、中華民国政府は台湾に移った。中華人民共和国は台湾を自国領の一部と位置づけているが、台湾は中華民国政府が統治しており、中華人民共和国の実効支配は及んでいない(台湾問題)。毛沢東時代には大躍進政策や文化大革命に伴う大規模な飢饉と社会的混乱を経験した。1978年に始まる改革開放以降は、社会主義市場経済のもとで急速な経済成長を遂げ、名目GDPでは世界第2位、購買力平価換算では世界第1位となっている[2]。
国際社会では経済・外交・安全保障の各分野で大きな影響力を持つ一方、人権や報道の自由をめぐって国際的な批判を受けている[5][6]。日本とは1972年に国交を正常化し、経済や人的交流を深めてきたが、歴史認識、尖閣諸島、安全保障などをめぐる対立も抱えている。
国名
正式名称は中华人民共和国(拼音:Zhōnghuá Rénmín Gònghéguó)である。「中国」(Zhōngguó)は本来「中央の地」を意味し、西周時代には王の直轄地を指した。その後、華夏の文化圏を指す語として用いられ、清代末期から国家の名称として定着した[7]。英語の China は、サンスクリットの Cīna がペルシア語やマレー語を経てポルトガル語に入ったものとされ、語源を秦に求める説が有力である[7]。
日本語では「中華人民共和国」「中国」のほか、台湾(中華民国)と区別する場合に「中国大陸」とも呼ばれる。歴史的には「唐土(もろこし)」「漢土」などの呼称も用いられた。第二次世界大戦前に広く用いられた「支那」は、中国側が蔑称として強く反発してきた経緯から、現在では公的な場ではほとんど用いられない。
歴史
前史
中国大陸では新石器時代から黄河・長江流域を中心に農耕社会が発達し、殷代には現存最古の漢字資料である甲骨文字が用いられた。紀元前221年に秦が統一王朝を樹立してから1912年に清が滅亡するまで、統一と分裂を繰り返しながら皇帝による支配が約2000年続いた[8]。
隋・唐の都長安は国際都市として栄え、日本からは遣隋使・遣唐使が派遣されて、律令や都城制、仏教の経典や教学などが伝えられた。宋代には木版印刷や商業が発達し、明・清代には周辺諸国との間で冊封と朝貢を軸とする国際秩序が形成された[8]。
19世紀にはアヘン戦争をはじめとする欧米列強との戦争や日清戦争での敗北を経て、不平等条約による権益の喪失が進んだ。1911年の辛亥革命により翌1912年に中華民国が成立したが、軍閥割拠の時代が続いた。1921年に結成された中国共産党は中国国民党と協力と対立を繰り返し、1937年からの日中戦争では第二次国共合作のもとで日本と戦った。日本の敗戦後に国共内戦が再開された[8][9]。
- 西周の青銅器・何尊の銘文。「宅茲中國」の句を含む
- 文字が刻まれた殷代の甲骨(牛の肩甲骨)
建国と毛沢東時代(1949年–1976年)

1949年10月1日、毛沢東は北京の天安門で中華人民共和国の成立を宣言した。蔣介石率いる中華民国政府は同年末に台湾へ移転した[9]。翌1950年にはチベットに人民解放軍が進攻し、1951年の「十七か条協定」によって中華人民共和国の統治下に置かれた。同年には朝鮮戦争に中国人民志願軍を派遣した。
建国初期には土地改革が実施され、地主階級の打倒の過程で多数の死者が出た[9]。1953年からはソビエト連邦型の五カ年計画による重工業化と農業の集団化が進められた。1957年の反右派闘争では多くの知識人が「右派」として迫害された。
1958年に始まった大躍進政策は、非現実的な生産目標と人民公社化の強行により大飢饉を引き起こした。餓死者を含む超過死亡の推計は研究者によって大きく異なり、1500万人から4500万人以上に及ぶ[10][11][注釈 5]。1960年前後には中ソ対立が表面化し、中国は東西両陣営から孤立した。1964年には初の核実験に成功した。
1966年、毛沢東は文化大革命を発動した。紅衛兵運動、党・政府幹部の大規模な粛清、文化財の破壊などにより社会は10年にわたって混乱し、多数の死者と被害者が出た[9]。中国共産党は1981年の「建国以来の党の若干の歴史問題に関する決議」で、文化大革命を「党と国家と人民に建国以来最大の挫折と損失をもたらした」内乱と公式に評価している[12]。
対外的には、1971年のアルバニア決議により国連における中国代表権を中華民国から引き継ぎ、1972年にはニクソン米大統領の訪中と日中国交正常化が実現した。
改革開放と経済成長(1978年–2012年)

1976年の毛沢東の死去と四人組の逮捕を経て、鄧小平が次第に指導的地位を確立した。1978年12月の第11期3中全会では、経済建設を重視する方針が打ち出され、改革開放が本格的に始まった。農村では生産責任制が導入され、沿海部には経済特区が設置された。外国資本や技術の導入も進み、従来の計画経済体制に市場原理を取り入れる改革が段階的に実施された[8]。
1980年代には経済改革が進展する一方、政治改革や民主化を求める動きも見られた。1989年4月の胡耀邦の死去を契機として、北京の天安門広場を中心に学生や市民による抗議運動が広がった。政府は戒厳令を布告し、同年6月3日夜から4日にかけて中国人民解放軍が武力によって運動を鎮圧した(六四天安門事件)。死者数については、中国政府の発表とその他の推計に大きな隔たりがあり、正確な人数は明らかになっていない[9][注釈 6]。中国政府はこの対応を秩序回復のための措置として位置づけているが、事件に関する報道や公的な議論は中国国内で厳しく制限されている。
1992年、鄧小平の南巡講話を契機に経済改革が再び加速した。同年の中国共産党第14回全国代表大会では、社会主義市場経済体制の確立が改革目標として掲げられ、翌1993年には関連する規定が憲法に盛り込まれた。江沢民政権から胡錦濤政権にかけて、国有企業改革、対外貿易の拡大、都市化、インフラ整備などが進められた[8]。
対外関係では、1997年に香港がイギリスから、1999年にマカオがポルトガルから中国に返還され、両地域に一国二制度が適用された。2001年には世界貿易機関(WTO)に加盟し、国際経済との結びつきを一層強めた。2008年には北京オリンピックが開催され、2010年には名目GDPで日本を上回り、世界第2位の経済規模となった。
改革開放以降の経済成長によって、国民の生活水準は全体として向上し、都市部を中心に産業構造や社会生活も大きく変化した。一方、都市と農村、沿海部と内陸部の経済格差、環境汚染、汚職などが重要な社会問題となった[8]。
- 1989年7月、北京市内に配置された人民解放軍の戦車
- 2008年北京オリンピックの開会式
- 深圳市のスカイライン
習近平政権(2012年–)

2012年に習近平が党総書記に就任し、翌年国家主席を兼ねた。習政権は大規模な反腐敗運動を展開し、一帯一路構想を通じて対外経済進出を拡大した[13]。2017年の中国共産党第19回全国代表大会では、「習近平による新時代の中国の特色ある社会主義思想」が党の行動指針として党章に盛り込まれた[14]。2018年の憲法改正で国家主席の任期制限が撤廃され、2022年には党総書記として3期目に入り[15]、翌2023年には国家主席としても異例の3期目に入った。研究者の間では、習政権下で党と最高指導者への権力集中が進んだとの見方が一般的である[13]。
2019年から2020年にかけての香港の大規模な抗議運動の後、2020年に香港国家安全維持法が施行された。2019年末に武漢で最初に確認された新型コロナウイルス感染症に対しては、厳格な「ゼロコロナ政策」が2022年末まで続けられた。
経済・社会面では、総人口が2022年以降減少しており[1]、少子高齢化、不動産市場の低迷、地方政府債務が経済上の課題となっている。2026年3月には、2026年から2030年までを対象とする第15次五カ年計画綱要が全国人民代表大会で承認された[16]。
- 一帯一路国際協力サミットフォーラムの首脳円卓会議(2017年5月)
- 香港で行われた逃亡犯条例改正案に反対するデモ(2019年6月16日)
- 新型コロナウイルス感染症対策で封鎖された武漢の住宅地区(2020年)
地理
国土は東西約5200キロメートル、南北約5500キロメートルに及ぶ。西部にはヒマラヤ山脈、チベット高原、タクラマカン砂漠などの高山・乾燥地帯が広がり、東部には華北平原や長江中下流域の平野がある。地形は西から東へ階段状に低くなっている。世界最高峰のエベレスト(チョモランマ、8848メートル)はネパールとの国境に位置する。長江(約6300キロメートル)と黄河(約5464キロメートル)はいずれもチベット高原に源を発し、それぞれ東シナ海と渤海に注ぐ[3]。
気候はモンスーンの影響を強く受け、北部の亜寒帯から南部の熱帯まで多様である。降水量は南東部で多く、北西部で少ない。人口の大部分は、黒竜江省黒河と雲南省騰衝を結ぶ「胡煥庸線」の東側に集中している。
陸上では14か国と国境を接し、陸上国境の総延長は約2万2000キロメートル、海岸線は約1万4500キロメートルである[3]。インドとはアクサイチンやアルナーチャル・プラデーシュ州をめぐって、東南アジア諸国とは南シナ海の南沙諸島・西沙諸島をめぐって領有権を争っている。日本が実効支配する尖閣諸島(中国名:釣魚島)についても領有権を主張している(後述)。
- 中華人民共和国の地図
- 中国の衛星写真
- 中国の地域区分
生物多様性
国土には熱帯雨林から高山草原、湿地、砂漠までの多様な生態系があり、中国は世界で最も生物多様性に富む国の一つとされる[17]。生態環境部と中国科学院が2023年に公表した『中国生物多様性紅色名録』(2020年版)は、高等植物3万9330種(亜種などを含む)と脊椎動物4767種を評価し、高等植物の10.39%、脊椎動物の22.02%を絶滅のおそれのある種と判定した[18]。
1956年に最初の自然保護区が設けられて以来、各種の自然保護地は約1万か所、陸域面積の約18%に達している[17]。2021年10月には、中国が議長国を務めた生物多様性条約第15回締約国会議(COP15)の首脳級会合で、三江源、ジャイアントパンダ、東北虎豹(アムールトラ・アムールヒョウ)、海南熱帯雨林、武夷山の5か所を最初の国家公園とすることが発表された。保護面積は計23万平方キロメートルで、陸域の国家重点保護野生動植物の3割近くを含む[19]。長江では2021年から10年間の全面禁漁が実施されている[17]。
保護の成果として、野生のジャイアントパンダは1980年代の1114頭から2015年の第4次全国調査で1864頭に増え、絶滅危険度は国際自然保護連合(IUCN)が2016年に、中国政府が2021年に、それぞれ「危機(EN)」から「危急(VU)」に引き下げた[20][17]。アジアゾウの野生個体群も1980年代の180頭から約300頭に回復したとされる[17]。一方、世界で最も絶滅が危惧される霊長類の一つであるカイナンテナガザルは、海南島に6群37頭が残るのみである[21]。
トキ(学名 Nipponia nippon)は、1981年に陝西省洋県で野生の7羽が再発見されたのち、生息地の保全と人工繁殖によって数を増やし、陝西省林業局によれば2025年末の世界の個体数は1万2000羽を超えた[22]。日本では野生個体が絶滅したのち、中国から贈られた個体を起点に人工繁殖が進められ、新潟県佐渡島で野生復帰の取り組みが続いている(後述)[23]。
環境

急速な工業化により、大気汚染、水質汚染、土壌汚染などの環境問題が深刻化した。2010年代前半には北京など北部の都市でPM2.5による深刻な大気汚染が続き、北京の年平均濃度は2013年に1立方メートルあたり89.5マイクログラムに達した。その後、石炭使用の抑制などの対策によって大気質は改善し、2025年には北京の年平均濃度は27マイクログラムに低下した。全国の地級以上の都市の平均濃度は28.0マイクログラム、大気質が「優良」の日の割合は89.3%で、いずれも観測開始以来最良の水準となった[24]。ただし、濃度は世界保健機関(WHO)の指針値を依然として大きく上回っている。
二酸化炭素の排出量は国別で世界最大であるが、一人当たり排出量は多くの先進国を下回る[25]。政府は2020年9月の国連総会で、2030年までに排出量を減少に転じさせ、2060年までにカーボンニュートラルを達成する目標を表明した[17]。2025年9月にはパリ協定に基づく2035年の国別削減目標(NDC)を発表し、温室効果ガスの純排出量をピーク時から7–10%削減すること、エネルギー消費に占める非化石エネルギーの割合を30%以上にすること、風力・太陽光発電の設備容量を36億キロワットに引き上げることなどを掲げた。中国が排出量の絶対量の削減目標を示したのはこれが初めてである[26][27]。
再生可能エネルギーへの投資額は世界最大である[25]。2025年末の発電設備容量は38億9000万キロワットで、うち太陽光発電が12億キロワット、風力発電が6億4000万キロワットを占める。風力・太陽光の合計は18億4000万キロワット(47.3%)となり、初めて火力発電を上回った[28]。また、森林面積と森林蓄積量は30年にわたって増加を続け、2000年から2017年までに世界で増えた緑地面積の約4分の1を中国が占めるとされる[17]。
政治
政治体制

憲法は、中国共産党の指導を「中国の特色ある社会主義の最も本質的な特徴」と規定している[4]。党はマルクス・レーニン主義、毛沢東思想、鄧小平理論、「三つの代表」重要思想、科学的発展観、習近平新時代中国特色社会主義思想を指導思想とする。中国政府は自国の制度を「全過程人民民主」と説明している。これに対し、欧米の多くの研究者は中国を権威主義体制に分類しているが、この評価に異を唱える研究者もいる[29]。
実際の政治権力は中国共産党が握り、党の最高指導機関である中央政治局常務委員会が国政の重要事項を決定する(党の指導性)。党の最高指導者である総書記が慣例として国家主席を兼任しており、国家主席の職務自体は主に儀礼的なものである[30]。
憲法上の最高国家権力機関は全国人民代表大会(全人代)であり、毎年3月に開かれる。閉会中は常務委員会が立法権を行使する。全人代代表は下級の人民代表大会による間接選挙で選ばれ、候補者の指名は党が実質的に管理している[29]。全人代は中華人民共和国主席、副主席、国家中央軍事委員会主席、最高人民法院院長、最高人民検察院検察長などを選出し、国家主席の指名に基づいて国務院総理を決定する。行政は総理が率いる国務院が担う。
中国人民政治協商会議(政協)は、共産党と8つの「民主党派」、無党派人士、各界団体の代表で構成される政治諮問機関であり、共産党の統一戦線工作の中核に位置づけられる。
中国共産党

党の最高機関は5年ごとに開かれる全国代表大会で、ここで選出される中央委員会が中央政治局と政治局常務委員会、総書記を選出する。実際には、既存の指導部が作成した候補者名簿を承認する形をとる[29]。総書記は党・国家・軍の最高指導者を兼ねるのが慣例で、現職は2012年に就任した習近平である。
2017年の第19回党大会では、「党・政・軍・民・学、東・西・南・北・中、党は一切を指導する」という原則が党規約に書き込まれた[31]。現指導部は2022年の第20回党大会で選出され、次の党大会は2027年に開かれる予定である[32]。2025年10月の第20期中央委員会第4回全体会議(4中全会)は、第15次五カ年計画の策定に関する党中央の建議を採択するとともに、中央委員・同候補14人の党籍剥奪を追認した[33]。
党と国家機関は人事面で一体化しており、政府の幹部や主要国有企業の経営陣の人事は党の中央組織部が管理する[29]。中央組織部によれば、2025年末の党員数は1億128万6000人で、前年末より101万5000人増えた。女性は31.5%、少数民族は7.8%、短大以上の学歴を持つ者は59.0%を占め、61歳以上の党員が約2991万人いる。2025年に新たに入党した208万6000人のうち84.0%は35歳以下であった。党の末端組織は543万1000あり、都市の街道、郷鎮、社区、行政村での党組織の設置率はいずれも99.9%を超える。企業内の党組織も169万2000に上り、民間企業や社会組織にも党組織の設置が進められている[34]。
党員の規律違反は中央紀律検査委員会が調査し、国家機関の公職者を監督する国家監察委員会と一体で運営されている。2025年に全国の規律検査・監察機関が立件した案件は101万2000件、処分を受けた者は98万3000人で、うち省・部級以上の幹部は69人であった[35]。研究者の間では、習政権の反腐敗運動は汚職の抑制とともに、最高指導者への権力集中を進める手段としても機能したとの見方がある[13]。
行政区分
地方行政区分は、省級・地級・県級・郷級の4階層を基本とする[36]。2022年末時点で、省級34、地級333、県級2,843、郷級38,602の行政区が置かれている[37]。省級行政区は省23、自治区5、直轄市4、特別行政区2からなる[38]。ただし23省には、中華人民共和国が領有権を主張しているものの実効支配していない台湾省も含まれる。
| 行政区分図 | 種別 | 番号・名称(略称・省都/区都) |
|---|---|---|
省(23)
自治区(5)
直轄市(4)
特別行政区(2)
実効支配下にあるが、係争中の地域
領有権を主張するが、実効支配していない地域 |
省 |
1. 河北省(冀・石家荘市) |
| 自治区 |
24. 内モンゴル自治区(内蒙古・フフホト市) | |
| 直轄市 | ||
| 特別行政区 |
1997年にイギリスから返還された香港と、1999年にポルトガルから返還されたマカオは、一国二制度のもとで特別行政区とされている。両地域はそれぞれの基本法に基づいて独自の行政・立法・司法制度、通貨、関税区域を持ち、本土の法律は基本法の附属文書に列挙されたものを除いて適用されない。また、主権国家に限定されない国際機関や国際会議には単独で参加できる。香港では2020年の国家安全維持法の施行と2021年の選挙制度の変更以降、中央政府の関与が強まった(人権の節を参照)。
- 香港の夜景
- マカオの街並み
人権
憲法は言論・出版・集会・結社・信教の自由を規定しているが、これらの権利を司法の場で実現する仕組みは乏しく、党の指導に反すると見なされる活動は厳しく制限されている[6]。国際人権団体や国連機関は政治的弾圧、拷問、恣意的拘束、少数民族への抑圧などを指摘しており、ヒューマン・ライツ・ウォッチ(HRW)は2025年に弾圧が一層強まり国外にも及んだと評価している[39]。フリーダム・ハウスの『世界の自由』2026年版では100点満点中9点で「自由でない」に分類されている[40]。死刑の執行数は国家機密とされているが、アムネスティ・インターナショナルは毎年数千人が執行されていると推計している[41]。
言論・市民的自由

報道機関は党の宣伝部門の指導下にあり、インターネットは「グレート・ファイアウォール」によって検閲され、Google、YouTube、Facebook、Xなど多くの海外サービスが遮断されている。国境なき記者団の世界報道自由度ランキング2026年版では180か国・地域中178位で、収監中のジャーナリスト・メディア関係者は121人と世界最多である[5][42]。武漢から新型コロナウイルス感染症の状況を伝えた市民記者の張展は、2020年に続き2025年にも懲役4年を言い渡された[43]。2022年11月にはウルムチの集合住宅火災を機にゼロコロナ政策への怒りが広がり、上海や北京などで白紙を掲げる抗議が起きた。天安門事件以来最大の全国的な抗議となったが、参加者の一部は拘束・投獄された(白紙運動)[44]。
2015年7月以降の「709事件」では人権派弁護士や活動家ら300人以上が拘束・尋問され[45]、「国家政権転覆扇動罪」などの曖昧な罪名による訴追や、外部との連絡を断つ「指定居所監視居住」は事実上の強制失踪に当たると批判されている[43]。2010年にノーベル平和賞を受賞した作家劉暁波は服役中で授賞式に出席できず、2017年に拘束下のまま死去した[46]。宗教では「宗教の中国化」の下で未登録のプロテスタント「家庭教会」や法輪功への取り締まりが続き、独立した労働組合の結成も認められていない[39][43]。国外の反体制派や在外少数民族への監視や家族への圧力(越境弾圧)も指摘されている[39]。
新疆・チベット・香港

新疆では、ウイグル人などのテュルク系ムスリムに対する大規模な監視や宗教活動の制限、「職業技能教育訓練センター」と称する施設への収容が報告されている(新疆ウイグル再教育キャンプ)。アメリカ合衆国国務省は2021年1月にこれを「ジェノサイド」と認定し[47]、国際連合人権高等弁務官事務所(OHCHR)は2022年8月、恣意的かつ差別的な拘束が「人道に対する罪を含む国際犯罪を構成する可能性がある」と指摘した[48]。一方、同年10月に国際連合人権理事会で新疆問題を討議する案は否決された[49]。中国政府は、施設はテロと過激主義の防止を目的とする職業訓練施設で、2019年12月までに受講者は全員修了したとして、ジェノサイドの指摘を否定している[50][51][47]。
チベットでは、チベット仏教の宗教活動やダライ・ラマ14世への崇敬に対する規制、チベット語教育の縮小などが報告され[6]、国連の特別報告者らは2023年、約100万人のチベット人の子どもが家族から引き離されて寄宿学校で同化を強いられていると懸念を示した[52]。2025年7月にダライ・ラマが転生者の認定権は自身の財団のみにあると表明すると、中国政府は金瓶掣籤と中央政府の承認が必要だと反論した[53]。
香港では、2020年の香港国家安全維持法施行後、民主派の政治家・活動家の逮捕・起訴や民主派メディアの廃刊が相次いだ[6]。2021年6月に『蘋果日報』が資産凍結を受けて廃刊し[54]、2024年11月には「民主派47人」事件で45人に懲役4年2か月から10年の判決が下された[55]。2025年には主要民主派政党の民主党と社会民主連線が解散し[43]、2026年2月には蘋果日報の創業者黎智英が同法に基づく最も重い懲役20年を言い渡された[56]。
中国政府の主張と批判
中国政府は、人権は各国の国情に応じて実現されるべきだとし、「生存権と発展権」を第一の基本的人権と位置づけている[57]。その根拠として貧困削減を挙げ、2021年2月には農村の貧困人口9899万人がすべて貧困から脱却したと宣言した[58]。チベットについては経済発展と生活水準の向上を挙げ[59]、香港については国家安全維持法が秩序を回復させ、黎智英の裁判も公正だったと主張している[60]。欧米諸国や人権団体の批判に対しては、政治的意図に基づく虚偽や内政干渉だとして反発している[59]。
こうした主張には異論も多い。中国は2017年以降、発展が人権の享受に寄与するとする決議を国際連合人権理事会に提出しているが、欧州連合(EU)は2019年、これは発展を人権より上位に置こうとするものだと懸念を示した。そのうえで、ウィーン宣言及び行動計画が定めるとおり、発展の欠如は人権の制約を正当化する理由にならないと反論している[61]。貧困脱却の宣言についても、中国の貧困線は世界銀行の極度の貧困線を上回るものの、世界銀行が高中所得国向けに示す1日5.50ドルの基準では、2018年時点で人口の17%(約2億3700万人)が貧困状態にあったとされる[62]。2020年には李克強首相自身が、約6億人の月収は1000元程度にとどまると述べている。中国の公式経済統計の正確性にも広く疑問が持たれている[63]。黎智英への判決には、アメリカ、イギリス、オーストラリア、EUが批判の声明を出し、米英とEUは釈放を求めた[64]。
国際関係

中華人民共和国は国連安全保障理事会の常任理事国であり、G20、BRICS、上海協力機構、APECなどに参加している。外交の基本原則として「平和五原則」と内政不干渉を掲げ、北朝鮮との中朝友好協力相互援助条約を除いて軍事同盟を結んでいない。ロシア、パキスタンとは緊密な関係にある。2013年に提唱した一帯一路構想を通じて、アジア、アフリカ、中南米の発展途上国でインフラ投資や融資を拡大してきた。これについては、受け入れ国の債務問題を指摘する声もある。2026年11月には深圳でAPEC首脳会議を開催する予定である[65]。
台湾について中華人民共和国は「一つの中国」原則を掲げ、台湾を自国の不可分の領土と位置づけ、外国と中華民国の公式関係に反対している。武力行使の選択肢も放棄していない。中華民国と外交関係を持つ国は少数にとどまる。
対米関係

建国当初、アメリカ合衆国は台湾に移った中華民国政府を中国の正統政府として承認し、両国は朝鮮戦争で直接交戦した。その後も米国は中華人民共和国を封じ込める政策をとったが、中ソ対立を背景に関係改善が模索された。1971年のキッシンジャー大統領補佐官の極秘訪中を経て、1972年2月にニクソン大統領が訪中し、上海コミュニケを発表した[9]。1979年1月1日に両国は国交を樹立し、米国は中華民国と断交した。米華相互防衛条約は1980年に失効したが、米議会は同年の台湾関係法によって台湾との実務関係と防衛用武器の供与を継続する枠組みを定めた[9][66]。1989年の天安門事件の際には、米国は武器輸出の停止などの制裁を科した[9]。
両国は相互に最大級の貿易相手国だが、2018年以降の貿易摩擦、先端技術の輸出規制、台湾問題、南シナ海問題、人権問題などをめぐって対立が続いている。2025年1月に発足した第2次トランプ政権は、2月に合成麻薬フェンタニルの流入対策を理由とする追加関税を課し、4月の「相互関税」をめぐる応酬の結果、米国の対中追加関税は145%、中国の対米追加関税は125%に達した。同年5月にスイスのジュネーブで開かれた閣僚級協議で、双方は追加関税をそれぞれ30%と10%に引き下げることで合意した[67]。同年10月30日には韓国・釜山でトランプ大統領と習近平が会談し、米国がフェンタニル関税を20%から10%に引き下げる一方、中国はレアアースの輸出規制強化の実施を1年間延期し、米国産大豆などを購入することで合意した[68]。ただし、合意の多くは双方の報復措置を1年間停止するにとどまるとの指摘もある[69]。関税の影響で、2025年1月から10月までの米国の対中輸入額は前年同期比26.7%減の2663億ドルに落ち込んだ[70]。

2026年5月13日から15日にはトランプが国賓として訪中し、両首脳は二国間関係を安定させる方向で一致した。ただし、共同声明は出されず、台湾問題をめぐる立場の違いも残った[71]。同年9月23日から25日には習近平が国賓として訪米し、24日にホワイトハウスでトランプと会談した。両国は「尊重、公平、互恵」を基盤とする「建設的戦略安定関係」の構築で一致し、米側の発表によれば、双方が非機微品目の関税をそれぞれ300億ドル分引き下げることでも合意した。また、ベッセント財務長官は釜山合意に基づく関税休戦を2027年1月10日まで延長すると述べた。一方で、レアアースの輸出規制、先端半導体、台湾への武器売却といった懸案はいずれも先送りされ、米側のファクトシートは台湾に言及しなかった[72]。両首脳は、年内にさらに2回会談する方針を確認した[73]。
日本との関係
交流の歴史

日本と中国大陸の交流は2000年以上に及ぶ。7世紀から9世紀にかけては遣隋使・遣唐使が派遣され、律令制度や都城の制度、仏教の経典、学問などが日本にもたらされた[8]。
| 百人一首かるたに描かれた阿倍仲麻呂 | 西安・興慶宮公園の阿倍仲麻呂記念碑 |
遣唐留学生の阿倍仲麻呂は唐の朝廷に仕え、帰国を果たせないまま唐で没した。帰国の船出に際して詠んだと伝えられる「天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かも」は『古今和歌集』に収められており[74]、帰国の船が遭難したとの報を聞いた李白は、仲麻呂を悼む詩「哭晁卿衡」を作った[75]。西安の興慶宮公園には仲麻呂の記念碑が建てられている。
唐の高僧鑑真は、742年に日本の留学僧栄叡・普照から戒律を授ける師として招かれ、渡日を決意した。12年間に5回の渡航に失敗し、その間に視力を失ったが、753年に6回目の航海で日本に到着し、のちに唐招提寺を開いた[76]。鑑真の伝記『唐大和上東征伝』は、長屋王が唐の僧侶に贈った袈裟に「山川異域、風月同天、寄諸仏子、共結来縁」(山川、域を異にすれども、風月、天を同じうす)と刺繍されていたことが、鑑真の渡日の背景にあったと伝えている[77]。1980年には唐招提寺の国宝・鑑真和上坐像が鑑真の故郷揚州に「里帰り」し、大明寺で公開された。大明寺の鑑真記念堂は、建築史家の梁思成が唐招提寺金堂を手本に設計したものである[78]。
平安時代初期の804年には、最澄と空海が遣唐使の一行として唐に渡った。空海は長安の青龍寺で恵果に密教を学び、経典や曼荼羅、法具などを授けられた。唐で学んだ両者は、帰国後にそれぞれ日本の天台宗と真言宗の基礎を築いた[79]。
中世には、室町幕府の足利義満が明に使節を送り、1404年から勘合を携えた遣明船による貿易(勘合貿易)が始まった。日本が明の皇帝に朝貢する形式をとり、日本からは刀剣、硫黄、銅、扇などが、明からは銅銭、生糸、絹織物、書籍、陶磁器などがもたらされた。遣明船は1547年まで派遣された[80][81]。
近世には、1635年以降、中国船との貿易は長崎一港に限られた。幕府は密貿易を防ぐため、1689年に長崎に唐人屋敷を完成させ、それまで市中に住んでいた中国人をここに集めて居住させた。屋敷は約9400坪の敷地に一度に2000人前後を収容できたとされ、跡地には現在も土神堂や天后堂などが残る[82]。福建省出身の禅僧隠元隆琦が1654年に来日し、1661年に宇治に黄檗山萬福寺を開いて黄檗宗を伝えた。インゲンマメの名は隠元にちなむとされる[83]。明の遺臣朱舜水は日本に亡命して永住し、のちに水戸藩主徳川光圀に招かれた[84]。
近代には、孫文が日本で支援者を得て、1905年に東京で中国同盟会を結成した。清末から中華民国期にかけては多くの中国人留学生が日本で学んだ[9]。魯迅は1904年に仙台医学専門学校に入学し、解剖学を担当した藤野厳九郎から講義ノートの添削などの指導を受けた。在学中に文学の道を志して退学したが、仙台での経験はその後の創作にも影響を与えた[85]。藤野に学んだ経験を随筆「藤野先生」に記しており[86]、魯迅の小説「故郷」は日本でも国語教科書を通じてなじみのある作品とされる[87]。周恩来も青年期に日本に留学し、1919年に京都で詠んだ詩「雨中嵐山」は嵐山の詩碑に刻まれている[88]。
国交正常化以後

1972年9月、田中角栄首相が訪中して周恩来首相と日中共同声明に署名し、国交が正常化した[89]。同年10月には国交正常化を記念してジャイアントパンダの「カンカン」と「ランラン」が上野動物園に贈られた[90]。1978年には日中平和友好条約が締結され、同年10月に批准書交換のため来日した鄧小平は、新幹線に乗車し、日本の工場を視察した[66]。日本は1979年から政府開発援助(ODA)を供与し、改革開放期の経済発展を支えたが、対中ODAの新規採択は2018年度に終了し、継続案件を含むすべての事業も2022年3月までに終了した[91]。援助は交通などのインフラ整備に加え、環境対策、保健・医療、人材育成にも及んだ。日本の外務省は、こうした支援が日本企業の投資環境の改善や民間経済関係の進展にも寄与したと評価している[91]。中国は日本にとって最大級の貿易相手国である[89]。
戦後の両国の間では、戦争に起因する問題への取り組みも続けられてきた。敗戦の混乱の中で中国東北部に取り残された中国残留日本人孤児には、中国人の養父母に引き取られて育った人が多い[92]。1981年には日本政府による肉親捜しの訪日調査が始まり、第1回の調査では47人が来日して30人の身元が判明した[93]。山崎豊子の小説『大地の子』は、中国人の養父に育てられた残留孤児を主人公としている[94]。

自然保護の分野でも協力が続いている。日本では1981年に野生のトキの最後の5羽が保護され、自然界から姿を消した。2003年には日本の野生生まれの最後の個体「キン」が死亡したが、中国から贈られた個体をもとに保護増殖が進められた[23]。1999年に中国から日本に贈られたトキ「友友(ヨウヨウ)」と「洋洋(ヤンヤン)」のつがいからは、同年、日本で初めて人工孵化によるひな「優優(ユウユウ)」が誕生した(優優は2025年11月に26歳で死亡)[95]。こうして増えた個体をもとに、佐渡では2008年から放鳥が行われ[23]、2024年6月には贈呈25周年を記念した第30回放鳥が実施された[96]。
災害や疫病の際には相互の支援も行われてきた。2008年の四川大地震では、日本は国際緊急援助隊の救助チームと医療チームを派遣し、緊急援助物資も供与した[97]。2011年の東日本大震災では、中国から日本に緊急援助隊が派遣された[98]。
2020年1月、新型コロナウイルス感染症が拡大する中、日本の中国語検定試験(HSK)事務局は湖北省にマスク2万枚などを寄贈し、物資の箱に長屋王の故事にちなむ「山川異域、風月同天」の8文字を記した。この言葉は中国のSNSで大きな反響を呼び、中国国営メディアも取り上げた[99]。
人的交流は現在も大規模である。日本に在留する中国籍者は2025年末時点で93万428人で、在留外国人全体(412万5395人)の22.6%を占め、国籍別で最多である[100][101]。
懸案と対立

両国間には、歴史認識をめぐる問題(靖国神社問題、歴史教科書問題など)、東シナ海の境界画定とガス田開発、尖閣諸島の領有権などの懸案がある。尖閣諸島について日本政府は「固有の領土であり、解決すべき領有権の問題は存在しない」との立場をとっている[102]。中華人民共和国は1970年代以降に領有権を主張している。
歴史認識をめぐっては、2001年に就任した小泉純一郎首相が同年8月に靖国神社を参拝したことに中国政府が反発し、小泉政権期には首脳の相互訪問が滞った[103]。2005年4月には中国各地で反日デモが起きた[104]。2006年10月に安倍晋三首相が訪中して胡錦濤国家主席と会談し、両国は「戦略的互恵関係」の構築に向けて関係改善を進めることになった[103]。2008年5月には胡錦濤が国賓として来日し、「戦略的互恵関係」の包括的推進に関する日中共同声明が発表された[105]。中国側は、この声明を含む「四つの政治文書」の順守を日本側に求めている[106]。
東シナ海では、排他的経済水域と大陸棚の境界がいまだ画定していない。両国は2008年6月、境界画定までの過渡的期間に双方の法的立場を損なわずに協力することで一致し、共同開発区域の設定などについて了解した[107]。しかし、この合意を実施するための国際約束の締結交渉は進んでいない。日本政府は日中の地理的中間線の西側で中国による構造物を計22基確認しており、中国の一方的な資源開発に抗議を続けている[108][109]。
尖閣諸島周辺では、2010年9月に中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突する事件が起き、その後、中国によるレアアースの対日輸出制限が問題となった[110]。2012年9月に日本政府が魚釣島など3島を民間の所有者から取得すると[111]、中国では100を超える都市・地域で抗議デモが広がった[112]。国有化以降、中国公船による周辺海域への進入が常態化しており、中国海警局の船舶はほぼ毎日接続水域で確認されている。2024年には接続水域での年間確認日数が過去最多を更新し、2025年3月には領海侵入の時間が過去最長となった[113]。
経済や在留邦人の安全をめぐる問題も生じている。2023年8月に東京電力福島第一原子力発電所のALPS処理水の海洋放出が始まると、中国は日本産水産物の輸入を全面的に停止した。2025年6月には福島県など10都県を除いて条件付きで輸入を再開した[114]。2024年9月には広東省深圳で日本人学校に通う10歳の男子児童が登校中に刃物で襲われて死亡した。柳条湖事件の記念日にあたる日に起きた事件として、日本社会に衝撃を与えた[115]。

2025年10月31日、高市早苗首相と習近平は韓国・慶州で初の首脳会談を行い、「戦略的互恵関係」を包括的に推進するという方向性を確認した[116]。しかし、同年11月7日に高市首相が衆議院予算委員会で台湾有事が「存立危機事態」になりうると答弁すると、中国政府は強く反発した。自国民への訪日自粛の呼びかけ、日本産水産物の輸入停止、学術・文化交流の停止などの対抗措置をとり[117]、2026年1月には軍民両用品目の対日輸出管理の強化を発表した[118]。同年2月24日には三菱造船やSUBARUなどを軍民両用品目の輸出規制リストと監視リストに掲載した。6月29日には防衛省防衛研究所などを追加し、輸出規制リストへの掲載は計40の企業・団体となった[119]。日本政府は、答弁は従来の政府見解を変更するものではないとしている。
この間、上野動物園の双子のパンダ「シャオシャオ」と「レイレイ」は貸与期限に伴って2026年1月下旬に中国へ返還された。2025年6月にはアドベンチャーワールドの4頭も返還されており、日本国内でパンダが飼育されていない状態は1972年以来、約半世紀ぶりとなった[90][120]。一方で、2026年9月から10月に開かれた愛知・名古屋アジア競技大会には中国も選手団を派遣した[121]。同年夏以降は超党派の国会議員団の訪中が相次ぎ、関係改善の糸口が探られた[122][123]。しかし中国外交部の報道官は同年10月、関係悪化の責任は日本側にあるとして、台湾や歴史などの問題で日本側に再考を求める立場を示した[106]。
軍事

中国人民解放軍は国家の軍隊であると同時に、党が直接指揮する「党の軍隊」と位置づけられている。2024年の改編以降、陸軍、海軍、空軍、ロケット軍の4軍種と、軍事航天部隊、サイバー空間部隊、情報支援部隊、統合兵站支援部隊の4兵種からなり、現役兵力は約200万人とされる。最高指揮機関は党と国家の中央軍事委員会で、主席は習近平が務める。このほか人民武装警察部隊と民兵がある。
2026年の国防予算は前年比7%増の約1兆9100億元(約2770億ドル)である[124]。ストックホルム国際平和研究所(SIPRI)は、2025年の軍事支出を世界全体の12%にあたる3360億ドルと推計しており、米国に次ぐ世界第2位で、31年連続の増加となった[125]。核弾頭保有数は2026年1月時点で約620発と推計されている[126]。米国防総省は、中国海軍を370隻超の戦闘艦艇を擁する世界最大の海軍と評価している[127]。
装備の近代化も急速に進んでいる。2025年11月には、電磁式カタパルトを備えた3隻目の空母「福建」が就役し、中国は米国に次いで電磁式カタパルトを運用する2番目の国となった[128]。同年9月の抗日戦争勝利80周年の軍事パレードでは、陸・海・空の核戦力が初めてそろって公開され、新型の大陸間弾道ミサイル「東風61」などが披露された[129]。
台湾周辺での軍事的圧力も強まっており、2025年12月末には演習「正義使命-2025」で実弾射撃や主要港の封鎖訓練が行われた[130]。
習政権下では軍高官の摘発が相次いでいる。2023年のロケット軍幹部の解任に続き、2025年10月には何衛東中央軍事委員会副主席らの党籍剥奪が公表された[131]。2026年1月には張又侠副主席と劉振立連合参謀部参謀長も「重大な規律違反・法律違反」の疑いで調査対象となり[132][133]、防衛研究所は中央軍事委員会の構成員が主席と副主席1名のみになったと指摘している[132]。
経済
経済の現状

中国政府は自国の経済体制を、市場が資源配分で決定的な役割を果たしつつ国家がマクロ経済の調整を行う「社会主義市場経済」と定義しているが、研究者からは「国家資本主義」とも評される。国有企業は金融、エネルギー、通信、運輸などの基幹産業で支配的な地位を占める一方、雇用や輸出では民間部門が大きな比重を占める。経済運営は五カ年計画に基づいて行われ、2026年3月12日には第15次五カ年計画(2026年–2030年)の綱要が承認された[16]。

2025年の国内総生産(GDP)は140兆1879億元(前年比5.0%増)、一人当たりGDPは9万9665元であった[1]。国際通貨基金(IMF)の2026年4月の推計では、2026年の名目GDPは約20.9兆ドルで米国に次ぐ世界第2位、購買力平価ベースでは世界第1位である[2]。同年10月の見通しでは、実質成長率は2026年が4.5%、2027年が4.0%と予測されている[134][135][注釈 7]。1978年の改革開放以降、実質成長率は2010年代初めまでおおむね年10%前後で推移したが、その後は段階的に鈍化している[136]。

世界銀行と国務院発展研究センターの共同報告書によれば、1978年以降、国際貧困ライン未満で暮らす人は8億人近く減少し、同期間における世界全体の貧困削減の4分の3近くを占めた[137]。「世界の工場」と呼ばれる中国は、鉄鋼、自動車、船舶、レアアース、太陽光パネル、電気自動車などで世界最大の生産国となっている。2025年の自動車輸出は832万台(前年比30.0%増)にのぼり[138]、電気自動車・リチウムイオン電池・太陽電池が輸出をけん引している(後述)。
2025年の物品貿易総額は45兆4685億元(前年比3.8%増)で、貿易黒字は前年比20.4%増の8兆5094億元に達し[138]、ドル建てでは過去最大の約1.2兆ドルとなった。米国の追加関税により対米輸出は20%減少したが、他地域への輸出増加がこれを補った[139]。一人当たり可処分所得は4万3377元、都市化率は67.89%で、消費者物価指数(CPI)の上昇率は0.0%にとどまった[138]。
経済上の課題としては、不動産市場の低迷、地方政府の債務問題、若年層の失業、少子高齢化、国内消費の弱さなどが挙げられる。IMFは、輸出の底堅さだけでは国内需要の弱さを補いきれなくなっていると指摘している[135]。また、戸籍制度(戸口)によって社会保障や公共サービスの利用に差があることも、農村から都市への出稼ぎ労働者(農民工)の待遇格差の一因とされる。
2025年の不動産開発投資は前年比17.2%減となった[138]。2024年1月には、約3000億ドルの負債を抱えていた不動産大手の中国恒大集団(エバーグランデ)に対し、香港の裁判所が清算を命じた[140]。都市部調査失業率は2025年平均で5.2%であったが[138]、学生を除く16–24歳の失業率は2026年8月に18.9%に達した[141]。
税制
主要な税目は、企業所得税、増値税、消費税、個人所得税、関税などである。2008年1月1日から、企業所得税の基本税率は国内企業と外資企業で25%に統一された。中央と地方の税収配分は、1994年の分税制改革によって定められた。
かつてはモノに増値税、サービスに営業税と、性格の似た二つの税が並立していた。2012年から増値税の課税対象が段階的に広げられ、2016年5月1日に不動産・建設・金融・生活サービスにも増値税が適用されたことで、営業税は廃止された[142]。営業税は取引の各段階で売上高に課税されるため、取引回数が多いほど負担が重くなり、外部調達より社内調達が有利になっていた。仕入れ段階の税額を控除できる増値税への一本化は実質的な減税となり、分業化や専門化を促すことが期待された[142]。
増値税はそれまで国務院の暫定条例に基づいて課されてきたが、2024年12月25日に全人代常務委員会で増値税法が成立し、2026年1月1日に施行された。税率は従来の制度を引き継ぎ、標準税率13%、軽減税率9%および6%、小規模納税者向けの簡易課税の徴収率3%、輸出等の0%となっている[143][144]。消費税は酒類、たばこ、自動車、高級品など特定の品目に課される。
香港とマカオは一国二制度のもとで本土とは別の税制を持つ。
経済統計の正確性
中国の公式経済統計については、国内外で正確性を疑問視する声がある[145]。2007年、当時遼寧省党委員会書記だった李克強は、GDP統計は参考にすぎず、電力消費量、鉄道貨物輸送量、銀行融資の3指標で景気を判断していると述べたとされる[146]。2012年には国家統計局の馬建堂局長が、省級行政区が発表したGDPの合計は全国のGDPを約10%上回ると述べた[147]。
実際の成長率の推計は研究者によって異なる。ブルッキングス研究所が2019年に公表した論文は、2008年から2016年までの実質成長率が年平均で2ポイント近く過大に計上されていたと推計した[148]。調査会社ロジウム・グループは、公式発表で約5%とされた2024年の成長率を2.4–2.8%[149]、2025年を2.5–3%と推計している[150]。2024年12月には、公式の成長率は実態より高いとの見方を示したエコノミストの高善文が[151]、その後当局から処分を受けたと『ウォール・ストリート・ジャーナル』が報じた[152]。中国政府は統計の信頼性向上を掲げ、2024年に統計法の改正に着手した[145]。
科学技術
製紙法、印刷術、羅針盤、火薬は古代中国の「四大発明」として知られる[8]。現代の中国は科学技術を国力の中核と位置づけ、人工知能、5G、量子技術、宇宙開発、新エネルギーなどの分野で研究開発を急速に進めている。
研究開発

2025年の研究開発(R&D)費は3兆9262億元(前年比8.1%増)で、GDP比は2.80%に達した。このうち基礎研究費は2778億元で、R&D費全体の7.08%を占める[138]。2024年時点の研究開発人員は1079万7000人であった[153]。2025年末時点の有効な発明特許は631万8000件、5G基地局は484万か所にのぼり、同年の産業用ロボットの生産量は77万3000台(前年比28.0%増)であった[138]。
世界知的所有権機関(WIPO)の「グローバル・イノベーション・インデックス」2025年版では初めて上位10か国に入り(10位)、世界の上位100の科学技術クラスターのうち24を擁して3年連続で最多となった。クラスター別では深圳・香港・広州が世界1位となっている[154]。一方、米国などによる先端半導体の輸出規制を受け、半導体をはじめとする中核技術の国産化を重点政策としている。
人工知能

2020年代には大規模言語モデルの開発が活発化し、アメリカ合衆国との技術競争が激しくなっている。2025年1月20日にDeepSeek(深度求索)が公開した推論モデル「DeepSeek-R1」は、数学やプログラミングなどでOpenAIの「o1」に匹敵する性能を示したうえ、オープンソース(MITライセンス)で公開された。同社は学習費用を約560万ドルと説明したが、専門家からはその額を疑問視する声も出た。1月27日には、低コストで高性能なAIが実現すれば高性能半導体の需要が減るとの懸念からエヌビディアの株価が17%下落し、時価総額が1日で約5400億ドル失われた[155]。同年7月には、月之暗面(Moonshot AI)が総パラメータ数約1兆の大規模言語モデル「Kimi K2」をオープンウェイトで公開した[156]。
スタンフォード大学の「AI Index」2026年版によれば、米中の最先端モデルの性能差は事実上解消し、2025年以降は首位が何度も入れ替わっている。2025年に開発された主要なAIモデルは米国50件、中国30件で、民間AI投資額は米国が2859億ドルと中国の公表額の20倍以上に達した一方、2024年に世界で付与されたAI関連特許の74.2%を中国が占めた[157]。
宇宙開発
中華人民共和国は1970年に初の人工衛星「東方紅1号」を打ち上げ、2003年には神舟5号でソ連・米国に次ぐ3か国目の有人宇宙飛行に成功した。2020年7月31日には、米国のGPSに対抗する独自の衛星測位システム「北斗」の完成が宣言された[158]。2021年からは独自の宇宙ステーション「天宮」を運用している。
月探査計画では、2019年に嫦娥4号が世界で初めて月の裏側に着陸し、2024年6月には嫦娥6号が月の裏側の試料を初めて地球に持ち帰った[159]。2030年頃までに有人月面着陸を実現する計画で、2025年8月には有人月着陸機「攬月」の着陸・離陸試験が河北省で行われた[160]。
惑星探査では、2021年5月に天問1号の探査車「祝融号」が火星のユートピア平原に着陸し、中国は米国に次いで火星に探査車を着陸させた2番目の国となった[161]。2025年5月には小惑星探査機「天問2号」が打ち上げられ、地球近傍小惑星カモオアレワで試料を採取して2027年11月に地球へ届けたのち、2035年に彗星311Pに到達する計画である[162]。
新エネルギー

中国は電気自動車(EV)、車載電池、太陽光発電の分野で世界最大の生産国・市場となっている。2025年の新エネルギー車(EV・プラグインハイブリッド車など)の生産台数は1652万4000台(前年比25.1%増)であった[138]。中国汽車工業協会によれば、同年の新車販売台数3440万台のうち新エネルギー車は1600万台を超え、国内新車販売の半分以上を占めた。新エネルギー車の輸出は261万5000台であった[163]。メーカー別では、比亜迪(BYD)が2025年に電気自動車(BEV)225万台余りを販売し、テスラを抜いて世界最大のEVメーカーとなった[164]。
車載電池でも中国企業が優位に立っており、韓国の調査会社SNEリサーチによれば、2025年の世界のEV用電池搭載量で寧徳時代(CATL)が39.2%、比亜迪が16.4%のシェアを占めた。上位10社のうち6社が中国企業で、その合計シェアは70.4%に達する[165]。一方、中国製EVの輸出拡大は貿易摩擦も生んでおり、欧州連合(EU)は中国政府の補助金が域内産業に損害を与えているとして、2024年10月30日から中国製BEVに5年間の相殺関税を課した。税率は比亜迪17.0%、吉利18.8%、上汽集団35.3%などである[166]。
太陽光発電では、2025年に新たに315GWを導入して過去最高を更新し、年末の累計設備容量は約1.2TW(前年比35.4%増)に達した。風力発電も同年に119GWを新設し、累計は約640GWとなった[167]。2025年の太陽電池の生産量は8億3274万kWにのぼる[138]。国際エネルギー機関(IEA)によれば、ポリシリコンからモジュールまで太陽光パネル製造の全工程で中国が世界の生産能力の8割以上を占めている[168]。一方で過剰生産による価格競争も激しく、2025年の設備稼働率は40–50%程度にとどまり、上場企業の損失は合計500億元を超えたとされる[169]。
交通
2025年末の鉄道営業距離は16.5万キロメートルで、うち高速鉄道は5.0万キロメートル、高速道路は19.94万キロメートルである[170]。高速鉄道網と高速道路網の総延長はいずれも世界最長である。都市間の主要な移動手段は1990年代以降、鉄道から自動車へ移った。世界のコンテナ取扱量上位の港湾の多くが中国にあり、上海港の2025年のコンテナ取扱量は5506万TEUを超え、16年連続で世界第1位となった[171]。
国民
人口
2020年の第7回全国人口調査では、総人口は14億1177万8724人であった[172]。総人口は2022年から減少しており、2025年末の人口は前年末より339万人少ない14億489万人であった。2025年の出生数は792万人(出生率5.63‰)、死亡数は1131万人(死亡率8.04‰)で、自然増加率は−2.41‰である[1]。60歳以上の人口は3億2338万人で総人口の23.0%、65歳以上は15.9%を占め、高齢化が進んでいる[153]。
1979年から2015年まで実施された一人っ子政策は人口増加を抑制した一方、強制的な不妊手術や中絶、男女比の不均衡などの問題を生んだ。2016年に二人っ子政策、2021年に三人っ子政策へ移行し、同年には出産数の制限と罰則が事実上撤廃された。政府はその後、育児補助金制度の導入や託児サービスの拡充などの出産支援策を進めている[153]。2025年末の都市化率は67.89%である[1]。
- 中国の人口と自然増加率の推移
- 2020年人口調査時点の男女・年齢別人口
民族

政府は漢民族と55の少数民族からなる計56の民族を公認している。2020年の第7回全国人口センサスによると、漢民族は約12億8631万人で総人口の91.11%、少数民族は約1億2547万人で8.89%を占める。2010年からの10年間の人口増加率は漢民族の4.93%に対し少数民族は10.26%で、少数民族の人口比率は0.40ポイント上昇した[173]。
少数民族で最大のチワン族は約1957万人で、ウイグル族(約1177万人)、回族(約1138万人)、ミャオ族、満洲族も1000万人を超える。これにイ族、トゥチャ族、チベット族、モンゴル族などが続く一方、ロシア族のように1万数千人規模の民族もある[174]。
2009年の政府白書によると、少数民族は西南部と西北部に最も集中しており、西部の12省・自治区・直轄市に少数民族人口の約7割、国境に接する9省・自治区に約6割が居住している。一方で、各民族の分布は「大散居、小聚居、交錯雑居」と表現され、漢民族の地域にも少数民族の集住地があり、民族地域にも漢民族が住むなど、複数の民族が入り混じって暮らしている[175]。
各民族は独自の言語、宗教、伝統行事や生活文化を持つ。回族と満洲族を除く53の少数民族が独自の言語を持ち、22の民族が計27種類の文字を使用している[176]。チベット語、ウイグル語、モンゴル語などがその例である。伝統行事では、モンゴル族の祭典ナーダムや、チワン族が決まった時期に集まって歌を掛け合う「歌圩」などが、国家級の無形文化遺産に指定されている[177][178]。
民族区域自治制度のもとで5つの自治区、30の自治州、120の自治県(旗)が設けられ、小規模な少数民族居住地域には民族郷が置かれている[179]。一方で、少数民族の多い西部地域と沿海部との経済格差は依然として課題とされている[180]。また2022年には国際連合人権高等弁務官事務所(OHCHR)が、新疆ウイグル自治区でウイグル族などの宗教的・文化的・言語的アイデンティティの表現が制限されているとする報告書を公表した[48]。中国政府はこの報告書を「違法かつ無効」として否定している[181]。
- チワン族の女性たち(広西・竜州)
- ウイグル族の子どもたち(新疆)
- 回族の人々(甘粛省臨夏市、2002年)
言語

国家通用言語は、北京音を標準音とし北方方言を基礎とする普通話である。文字は簡体字、ローマ字表記には拼音が用いられる。2001年に施行された国家通用言語文字法は、普通話と規範漢字を「国家通用言語文字」と定め、国家機関の公務、学校教育、ラジオ・テレビ放送などでこれらを基本的に用いることを規定している[182]。建国当初は成人の約8割が非識字者であったことから、漢字の簡略化、普通話の普及、漢語拼音方案の制定が言語政策の三大任務とされ[183]、1956年に「漢字簡化方案」、1958年に「漢語拼音方案」が公布された。
教育部によれば、普通話の普及率は2000年の53.06%から2020年には80.72%に上昇した[184]。ただし地域差は大きく、普及率が85%を超える省が16ある一方で、80%未満の省が9つあり、最も低い省では50%に満たないとされる[185]。政府は2025年までに普及率を85%に引き上げる目標を掲げた[186]。
漢語には大きな方言差がある。『中国語言地図集』(第2版、2012年)は、漢語の方言を官話、晋語、呉語、徽語、贛語、湘語、閩語、粤語(広東語)、平話・土話、客家語の10区に分類している[187]。方言間では相互の意思疎通が困難な場合が多く、言語学的には別個の言語とする見方もある。
少数民族の多くは独自の言語を持ち、中国国内で話される言語の数は130前後とされる。孫宏開らが編纂した『中国的語言』(2007年)は129の言語を挙げており、それらはシナ・チベット語族、アルタイ諸語、オーストロアジア語族、オーストロネシア語族、インド・ヨーロッパ語族にまたがる[188]。チベット語、ウイグル語、モンゴル語、朝鮮語、チワン語などは独自の文字を持ち、民族自治地方で漢語と併用されている。
近年は少数民族地域の学校教育でも国家通用言語の使用が強化されている。内モンゴル自治区では2020年9月の新学期から、民族学校の「語文」が国家統一教材を用いた漢語の授業に切り替えられ、その後「政治(道徳と法治)」「歴史」も順次切り替える方針が示された[189]。これに対してモンゴル人の保護者や生徒が授業のボイコットや抗議活動を行い、当局は参加者を拘束した[190][189]。自治区の教育当局は、変更は党と国家の意思を反映したものだと説明した[191]。
宗教

憲法第36条は公民の信教の自由を定め、国家は「正常な宗教活動」を保護すると規定している。一方で、宗教を利用して社会秩序を乱すことや国家の教育制度を妨げることを禁じ、宗教団体と宗教事務は「外国勢力の支配を受けない」としている[4][192]。共産党員には無神論が求められ、宗教を信仰することは公式に禁じられている[193]。
政府は仏教、道教、イスラム教、カトリック、プロテスタントの5宗教を公認し、中国仏教協会、中国道教協会、中国イスラム教協会、中国天主教愛国会、中国天主教主教団、中国基督教三自愛国運動委員会、中国基督教協会の7つの全国的な「愛国宗教団体」を通じて管理している。国務院新聞弁公室が2018年に発表した白書によれば、信者は約2億人、宗教教職者は38万人余り、宗教団体は約5500、登録された宗教活動場所は14万4000か所である[192]。
| 宗教 | 信者数 | 教職者数 | 宗教活動場所 |
|---|---|---|---|
| 仏教 | —[注釈 8] | 約22万2000人 | 寺院約3万3500(漢伝仏教2万8000余、チベット仏教3800余、上座部仏教1700余) |
| 道教 | —[注釈 8] | 4万人余り | 宮観9000余 |
| イスラム教 | 2000万人余り[注釈 9] | 5万7000人余り | モスク3万5000余 |
| カトリック | 約600万人 | 約8000人 | 教区98、教会・集会所6000余 |
| プロテスタント | 3800万人余り | 約5万7000人 | 教会・集会所約6万 |
もっとも、中国語の「宗教」は組織化された宗教を指すことが多く、信仰の実態は統計に表れにくい。米国のピュー・リサーチ・センターが中国国内の学術調査を分析した2023年の報告書によれば、2018年の中国総合社会調査(CGSS)で特定の宗教を信仰していると答えた成人は約1割にとどまり、宗教が生活の中で「とても重要」とする人は3%と、調査対象の57の国・地域で最も低かった。その一方で、2016年の中国家庭追跡調査(CFPS)では成人の33%が仏や菩薩を、18%が道教の神々を信じると答え、2018年の調査では約4分の3が過去1年間に墓参りをし、47%が風水を信じると回答している[193][194]。伝統的な民間信仰や儒教の祖先崇拝は、こうした慣習の形で広く根づいている。
2017年に改正された宗教事務条例は、宗教活動場所の設立、宗教院校の運営、インターネット上の宗教情報などについて定めている。同年の党第19回全国代表大会は「宗教の中国化の方向を堅持する」方針を掲げ、各宗教に対して教義を社会主義核心価値観や中国の伝統文化と融合させることを求めている。外国人が中国国内で宗教組織を設立することや、中国人に布教することは禁じられている[192]。
カトリックについては、中国とローマ教皇庁(バチカン)は1951年から国交がなく、司教の任命権をめぐって対立してきた。中国では政府公認の中国天主教愛国会と、教皇に忠誠を保つ非公認の「地下教会」が並存している。両者は2018年に司教任命に関する暫定合意を結び、合意は2020年と2022年にそれぞれ2年間延長された[195][196]。
未登録の家庭教会や法輪功などは取り締まりの対象となっている[6]。2018年には、宗教白書の発表と同じ時期に、国内の主要なネット通販サイトで聖書の販売が停止されたと報じられた[197]。
教育
学制は小学校6年、初級中学3年、高級中学3年、大学4年を基本とし、1986年に制定された義務教育法により、小学校と初級中学の9年間が義務教育とされている。建国当初は人口の約8割が非識字者であったが[198]、2020年の非識字率は2.67%まで低下した[199]。
教育部の統計によれば、2025年の学校数は44万700校、学歴教育の在学者数は2億8040万人、専任教員数は1870万人である。就学前教育の総就園率は92.90%、9年制義務教育の定着率は96.10%、高校段階の総就学率は92.00%、高等教育の総就学率は61.30%であった[200]。高等教育の総就学率は1999年からの大学定員拡大を経て2019年に50%を超えた[201]。2025年の高等教育機関は3167校、各種形態の高等教育の在学者総数は4872万人である[202]。
一方、少子化の影響で就学前教育の規模は縮小している。2025年の幼稚園数は23万1900園、在園児数は3226万人で、前年の25万3300園、3584万人からそれぞれ大きく減少した[200][203]。
大学入学には全国統一入試「高考」が課される。高考は文化大革命中に停止され、1977年に再開された。2026年の出願者数は1290万人であった[204]。受験競争の過熱と家計の教育費負担を背景に、2021年7月には中共中央弁公庁と国務院弁公庁が通称「双減」と呼ばれる意見を発表した。これは義務教育段階の宿題の量を制限するとともに、教科系の学習塾について新規認可の停止、非営利団体としての再登録、株式上場による資金調達の禁止などを定めたものである[205]。
就学前教育については、2025年6月に学前教育法が施行され[206]、同年秋学期からは公立幼稚園の最終学年(年長組)の保育教育費が免除された[207]。2025年1月に発表された「教育強国建設規劃綱要(2024–2035年)」は、無償教育の範囲を段階的に拡大する方針を示している[208]。2025年の16歳から59歳までの人口の平均就学年数は11.3年である[153]。
文化
中国文化は数千年の歴史を持ち、漢字、儒教、仏教、律令制度などを通じて、日本、朝鮮、ベトナムなど周辺地域に大きな影響を与えた(漢字文化圏)[8]。日本の喫茶、禅、囲碁、豆腐なども中国大陸から伝わった文化に起源を持つ。
世界遺産の登録数は、2026年7月に韓国・釜山で開かれた第48回世界遺産委員会で「景徳鎮の手工業製磁遺産」が登録されたことにより61件となった。内訳は文化遺産42件、自然遺産15件、複合遺産4件で、万里の長城、故宮、兵馬俑、莫高窟、京杭大運河、北京中軸線などが含まれる[209][210]。
- 文学 - 古典には『詩経』『論語』や唐詩、明清期の四大奇書・『紅楼夢』などがある。近代文学は魯迅に代表される。2012年には莫言がノーベル文学賞を受賞した。
- 食文化 - 中国料理は地域ごとに多様で、魯菜、川菜、粤菜、蘇菜などの「八大菜系」に分類される。北部は小麦、南部は米が主食である。
- 芸能 - 京劇、昆曲などの伝統劇があり、改革開放以降はポップスやロックが普及した。映画市場の規模は世界最大級である。
- メディア - 主要メディアには中国中央電視台(CCTV)、人民日報、新華社などがある。いずれも国営または党営である。
祝祭日
全国共通の法定休日は以下の通りである[211]。振替出勤日と週末を組み合わせるため、春節と国慶節は例年7~8日程度の連休となる。
| 日付 | 名称 | 法定休日 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 1月1日 | 元旦 | 1日 | |
| 旧暦12月末日~1月3日 | 春節 | 4日 | 旧暦の新年。除夕(大晦日)を含む |
| 4月4日~6日頃 | 清明節 | 1日 | 墓参り |
| 5月1日~2日 | 労働節(メーデー) | 2日 | |
| 旧暦5月5日 | 端午節 | 1日 | 粽を食べ、ドラゴンボート競漕を行う |
| 旧暦8月15日 | 中秋節 | 1日 | 月見をし、月餅を食べる |
| 10月1日~3日 | 国慶節 | 3日 | 建国記念日 |
このほか、婦女節(3月8日)、青年節(5月4日)、児童節(6月1日)、建軍節(8月1日)には対象者のみ休日が与えられる[211]。元宵節、七夕、重陽、冬至などの伝統行事も広く祝われ、少数民族の祝日は各地方政府が定めている。
スポーツ

卓球、バドミントン、飛込、体操、重量挙げなどで国際的に高い実績を持つ。2008年北京オリンピックと2022年北京オリンピック(冬季)を開催し、北京は夏季・冬季の両大会を開催した初の都市となった。2014年には南京で夏季ユースオリンピックも開催された。2026年9月19日から10月4日まで開かれた愛知・名古屋アジア競技大会では、金メダル169個、銀メダル89個、銅メダル83個の計341個を獲得し、12大会連続で金メダル獲得数1位となった[121]。伝統的な武術(中国武術)や太極拳、囲碁、象棋も広く親しまれている。バスケットボールの人気も高く、姚明は2002年から2011年までNBAで活躍した。
サッカー

2004年にプロリーグの中国サッカー・スーパーリーグが発足した。広州FC(旧・広州恒大)はリーグ最多8回の優勝を重ね、AFCチャンピオンズリーグでも2013年と2015年に優勝したが、親会社恒大集団の経営危機によりプロリーグへの参加資格を得られず、2025年に解散した[212]。男子代表のFIFAワールドカップ出場は2002年大会の1回のみである。女子代表はAFC女子アジアカップで最多9回の優勝を誇り、1999年女子ワールドカップと1996年アトランタオリンピックで準優勝した。
脚注
注釈
- ↑ 国家通用言語文字法により普通話と簡体字が国家通用言語文字と定められている。少数民族の言語は民族自治地方で併用され、香港では中国語(広東語)と英語、マカオでは中国語とポルトガル語が公用語である。
- ↑ 中国共産党が国家を指導する体制のもとで、党総書記と党中央軍事委員会主席を兼ねる人物が事実上の最高指導者となる。国家主席は国家元首にあたるが、その職務は主に儀礼的なもので、慣例として党総書記が兼任する。国務院総理は政府の長、全人代常務委員会委員長は立法機関の長、国務院筆頭副総理は副首相に相当する職である。
- ↑ 面積はアメリカ中央情報局(CIA)の『ザ・ワールド・ファクトブック』に基づく。中国政府は陸地面積を約960万平方キロメートルとしている。領有権係争地や水域面積の扱い、内水面の算入基準などが資料によって異なるため、米国との比較において世界第3位または第4位とされる。
- ↑ 中国大陸の31省・自治区・直轄市および現役軍人を対象とする人口統計であり、香港・マカオ・台湾の住民ならびに外国籍者は含まれない。
- ↑ 推計値の差は、基準とする平常時の死亡率や、出生減少分を含めるかどうかといった方法論の違いによる。
- ↑ 死者数の推計は、中国政府の発表による200人余りから、数千人規模とするものまで幅がある。
- ↑ 名目GDPのドル換算値は為替相場により変動する。IMFの数値は推計・予測値を含む。中国の公式統計の正確性については後述。
- 1 2 白書は、仏教と道教の一般信者には厳格な入信手続きがなく、人数の正確な把握は難しいとしている[192]。
- ↑ 主にイスラム教を信仰する10の少数民族の総人口。
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- Spence, Jonathan D. (2013) (英語). The Search for Modern China (3rd ed.). W. W. Norton. ISBN 978-0-393-93451-9
- Joseph, William A., ed (2024) (英語). Politics in China: An Introduction (4th ed.). Oxford University Press
