呪いの塔

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呪いの塔
著者 横溝正史
イラスト 竹中英太郎
装幀 山六郎
発行日 1932年8月27日[1]
発行元 新潮社
ジャンル 推理小説
国 日本の旗 日本
言語 日本語
形態 上製本
ページ数 448
コード NCID BB01393395
ISBN 978-4-19-892519-2(文庫本〈徳間文庫〉)
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『呪いの塔』(のろいのとう)は、横溝正史の長編推理小説である。1932年(昭和7年)、新潮社より書き下ろし長編『新作探偵小説全集』[注 1]の第10巻『呪ひの塔』として刊行された[3]。

金田一耕助や由利麟太郎のような名探偵は登場しない。

概要と解説

本作は、軽井沢高原に聳えるバベルの塔が舞台の「第一部・霧の高原」と、関係者一同が帰京して東京に舞台を移した「第二部・魔の都」の二部構成の長編推理小説である。終戦前の横溝作品では、1回約1400字、4百字詰め原稿用紙で約800枚の分量の『雪割草』や、『北海タイムス』夕刊1929年5月21日 - 12月28日、全176回連載の『覆面ヴエールの佳人』に匹敵して、最長の部類に属する作品である[4]。

江戸川乱歩の『陰獣』へのリスペクト作品で、登場人物の探偵作家・大江黒潮の名前は『陰獣』で乱歩自身をモデルにした「大江春泥」、大江黒潮が書いた小説名『恐ろしき復讐』も『陰獣』の発表前のタイトル『恐ろしき勝利』のパロディである[5]。

大江黒潮は推理作家・江戸川乱歩のパロディであり、また、黒潮の友人の白井三郎も乱歩のキャラクターやプロフィールと重なり合う部分が多く、名前は乱歩の本名・平井太郎の捩りである[6]。さらに、本作の狂言回しを務める雑誌社の編集者・由比耕作には横溝自身が投影されている[6][注 2]。

なお、乱歩は『探偵小説四十年』で、新潮社の『新作探偵小説全集』は結果としてたいした成果をあげることができなかったと回想する中で、甲賀三郎の「姿なき怪盗」を「通俗的ながらもプロットがよく考えてあり、甲賀君の長篇の代表作となったものである」とし、「そのほか、浜尾四郎君の「鉄鎖殺人事件」がやはり力作で、「殺人鬼」とならび称せられる彼の代表作となったし、大下君の「奇蹟の扉」横溝君の「呪ひの塔」なども悪い出来ではなかった」と評価している[8]。

あらすじ

雑誌社の編集者である由比耕作は、猟奇的作風で著名な探偵作家の大江黒潮に軽井沢の別荘に招かれる。黒潮の別荘には、近くで映画撮影に来ている俳優・女優や監督など、様々な男女が出入りしており、それぞれ愛憎模様が入り組んでいるようであった。彼らはお芝居で、後から到着する黒潮の友人の白井三郎を探偵役、黒潮自身を被害者役にして、別荘の近くに立つ通称「バベルの塔」での探偵劇を企画する。塔の外側には放射線状に迷路のように伸びた互いの姿が見えない7つの階段があり、容疑者(作中では「嫌疑者」)役の7人はそれぞれ別々の階段を登り、犯人役だけが塔頂の展望台まで登ってそこに控えている黒潮を殺害し、その犯人を白井が推理するというものであった。

ところが、探偵劇の実演で容疑者役の7人が別々に塔の階段を登り、犯人役の耕作が展望台で果物ナイフで黒潮を刺し殺す振りをして塔の階段を下りる途中で黒潮の悲鳴が聞こえ、たまたま合流したキネマ女優の伊達京子と展望台に戻ると、黒潮が果物ナイフで刺されて血を流して死んでいた。しかも、何者かの気配を感じて物陰に隠れた2人が見ている前に4本指の怪人が現れ、黒潮の死体の上着から何かを持ち去っていった。さらに、容疑者役の7人のうちのひとりで黒潮の別荘の近くの別荘に住む山添道子が行方不明となり、警察の捜索でもその行方は見つけられなかった。

後日、警察の実地検証で道子を除いた容疑者役の6人が、事件当時の場所まで塔の階段を登り、友人である新聞記者の南条を伴って展望台まで登った耕作が階段を降りてくる途中、黒潮の妻の折江の悲鳴と、彼女を追うキネマ監督の篠崎宏の声が聞こえてきた。耕作と南条が2人の行く先を先回りして挟み撃ちにしようとしたところ、2人の目の前で折江が階段を転げ落ち、その直後に階段の上で篠崎のうめき声が聞こえ、耕作が駆け付けると篠崎は黒潮殺害と同じ型の果物ナイフで刺し殺されていた。しかし、犯人の姿はどこにも見当たらなかった。

さらに、4本指の怪人が京子を階段の踊り場の際に追い詰め、塔の管理人の権九郎が怪人を止めようとしたところ、逆に絞め殺されてしまう。そして、京子に躍りかかった怪人は、はずみで塔から落ちて即死する。

怪人の正体は権九郎の甥の弥吉で、前科数犯の殺人強盗犯で刑務所を脱獄して逃亡中の身であった。事件解決に困っていた警察は、すべて弥吉の犯行になすり付けて解決したことにしてしまう。そして、容疑者一同が帰京し、物語の舞台は東京へと移り、新たな事件が発生する。

登場人物

由比耕作
雑誌社「郁文社」の探偵小説雑誌編集者。30歳。
大江黒潮
猟奇的な作風の探偵作家。38歳。軽井沢の別荘に耕作を招く。「バベルの塔」で殺害される。
大江折江
黒潮の妻。34歳。美人で素人ながら撮影中の映画に出演する。探偵劇の容疑者役の1人。
篠崎宏
日東キネマの映画監督。34歳。折江に執心の様子。探偵劇の容疑者役の1人。
岡田稔
活動写真役者。32歳。山添道子と懇ろの様子。探偵劇の容疑者役の1人。
伊達京子
日東キネマ女優。22、3歳。黒潮に執心の様子。探偵劇の容疑者役の1人。
山添道子
黒潮の別荘の近くの別荘に住む女性。27、8歳。探偵劇の容疑者役の1人。黒潮が殺された直後、「バベルの塔」から姿を消す。
中西信之助
K大学の予科生。22歳。伊達京子に恋している。探偵劇の容疑者役の1人。
白井三郎
黒潮の古くからの友人。齢は黒潮とほとんど同じくらい。黒潮の死の真相を調べる。
権九郎
「バベルの塔」の管理人の老人。60代。
四本指の男
黒潮が殺害された直後、耕作と伊達京子が目撃した怪人。正体は権九郎の甥の弥吉。
南条
東都新聞記者。耕作の友人。
峰岸健彦
軽井沢に向かう列車の中で耕作が出会った男。
麻耶子
峰岸健彦の妻。もと瓜生子爵令嬢。
田村時雄
9年前に殺害された男。犯人は検挙されていない。

書誌情報

脚注

注釈

  1. ↑ 『新作探偵小説全集』は、探偵小説界で初めての書き下ろし探偵小説全集である[2]。
  2. ↑ 氏の「由比」は、本作の後、間もなく誕生する名探偵・由利麟太郎に通じ、名の「耕作」は、横溝の小説「山名耕作の不思議な生活」(『大衆文芸』誌1927年1月号)のほか、バーリイ・ペイン(英語版)の短編小説からの翻訳作品「屍体の顔(原題 The Face of the Corpse)」「緑の紙片(原題 On green paper)」(共に『新青年』誌1927年1月増刊号)の筆名「山名耕作」で既にお馴染みであり、のちの金田一耕助へ発展する著者好みの名前である[7]。

出典

  1. ↑ NDLJP:1259847/228 奥付を参照。
  2. ↑ “探偵クラブ ユニークな探偵小説全集の付録雑誌”. ミステリー文学資料館. 光文文化財団 (2024年4月23日). 2026年10月10日閲覧。
  3. ↑ “特別展示室「全集」第1回 「新作探偵小説全集」新潮社”. ミステリー文学資料館. 光文文化財団 (2024年4月23日). 2026年10月10日閲覧。
  4. ↑ 山口直孝 (2021年5月11日). “銃後の芸術家小説――『雪割草』【文庫巻末解説】”. カドブン. KADOKAWA. 2026年10月20日閲覧。
  5. ↑ 中川右介「呪いの塔」『江戸川乱歩と横溝正史』集英社〈集英社文庫〉、2020年12月25日、162-168頁。
  6. 1 2 細谷正充「解説」『呪いの塔』徳間書店〈徳間文庫〉、2006年11月15日、437-442頁。
  7. ↑ 中島河太郎「解説」『呪いの塔』角川書店〈角川文庫〉、1977年3月15日、394-398頁。
  8. ↑ 江戸川乱歩「昭和七年 新潮社「新作探偵小説全集」」『探偵小説四十年 覆刻』(新装版)沖積舎、1994年7月20日、184-186頁。

関連項目