オノレ・ドーミエ「L'Ouie」(1839 年)

夜泣き(よなき、古表現:夜泣[1]、夜哭[1]、ほか)とは、乳幼児(赤ん坊と幼児)が、夜間に泣き出し、眠らないでぐずり続ける状態をいう[2][1]。

概要

新生児

定義の詳細は国・地域・研究者によって様々で[3]、統一的見解は無い。日本国内に限っても、「生まれて間もなく始まる症状[3]」「生後4か月から1歳半くらいまでの症状[3]」「生後6か月から[要出典]1歳半くらいまでの症状」など、様々な見解がある[3]。

日本語「よなき」は多義語であり[1]、声の主が何者であるかに関わらず、それこそ赤子であろうが、夜鳴蕎麦屋や夜鷹の客引きであろうが、幽霊のすすり泣きであろうが鵺の啼き声であろうが、なきごえやそれに似た叫びなどが夜間に聞こえる状態を指す。近世以前の史料では用字が統一されておらず、「夜啼」と書いて「乳幼児のよなき」を意味しているようなことがよくある[* 1][4]。乳幼児の“よなき”を表す語の日本における初出(※記録上は最初)は『万葉集』巻12・2942に所収の歌「わが背子に 恋ふとにしあらし 緑児の 夜哭よなきをしつつ 寝いねかてなくは」に見られる「夜哭」である可能性が高い[1]。「哭」は「大声で泣く」の意。

中国語および中国医学では「(乳幼児の)夜泣き」を「夜啼(拼音:yètí〈イエティー〉)」というが[5]、より正確には「嬰兒哭鬧(拼音:yīngérkūnào〈インアークゥーナァォ〉)」という。英語では「(乳幼児の)夜泣き」全般を "baby colic" といい、病状に原因する乳児疝痛(にゅうじせんつう)は "infantile colic" という。

症状

新生児は夜中も空腹を訴えて泣くが、満腹になれば泣き止むため、通常これを「夜泣き」とは見なさない。新生児期が過ぎると、徐々に夜中に起きて泣くことは少なくなる。しかし、お腹が空いた、おむつが濡れている、部屋が暑すぎる・寒すぎるなどといった、明確な原因が見当たらないにもかかわらず、機嫌よく寝付いてよく眠っていたはずの赤ん坊が夜中に起きて激しく泣く場合があり、こういった状態を指して「夜泣き」という。一晩に2度3度と泣き出す、抱いていないと泣き止まないなどといった状況が続くと、親は深く悩まされることになる。

同様の反応を夕方に起こす場合もあり、これは、「三箇月コリック(さんかげつコリック)」「コリック」「夕暮れ泣き(ゆうぐれなき)」「黄昏泣き(たそがれなき)」と呼ばれる[6][7][8][9][10]。

原因

日中の刺激や興奮で夜中に夢を見るのではないかとか、睡眠のリズムが掴めず、体内時計が狂ってしまうのではないかなどの説があり、はっきり分からないことが多いが、発達の一段階であると考えられている。数か月続いた夜泣きが、歩けるようになった途端に直るというケースもある。ただし、それまで夜泣きをしなかった赤ん坊で、ある夜、急に夜泣きが始まった場合、突発性発疹の疑いがあり、注意が必要である。また、ある日突然泣き出し間歇的に泣く(数分毎に激しく泣き、その間は静かにしている)場合、腸重積の疑いがあり、早めに受診するべき症状といえる。

対処

伝承・風習

日本では古くから赤ん坊の夜泣きは体内にいる「疳の虫(かんのむし)」という(架空の)虫が原因だと信じられてきた[11]。このため、疳の虫を取る・疳の虫を切るといった風習があり[12][13]、寺社に参詣して神仏に祈願する[14]、祭神名や呪言・文字などを唱える[14]、祈祷師・神主・修験者・僧侶などに祈祷してもらう[14]、寺社の呪符や守札を家の出入口や神棚に貼り付けておく[14]、灸を据えるなど動植物を使った民間療法をする[14]、などといった方法で対処していた。これらを「虫封/虫封じ(むしふうじ)」[12][13]といい、略して「封じ(ふうじ)」[15]ともいう。

長野県佐久地域(江戸時代以前における信濃国佐久郡)では、古くから夜泣きを防ぐというまじないなどが行われてきた[16]。逆さ屏風を立てたり、白紙に朱で「撥火撥火杖差作神将提差 夜啼鬼打殺莫要散急急如律令」と書いて子供の手のひらに貼ったり、「お池のはたの古狐、わればか(り)鳴いて、この子泣かすな」というまじない歌もある[16]。

夜泣きを鎮めたといわれる「夜泣き地蔵尊」(練馬区)
夜泣き避けの護符 大津絵「鬼の寒念仏[17]」

欧米では赤ん坊の夜泣きはことさら問題にされないことが多い。これは育児に対する考え方の違いや住宅事情の違いが影響しているものと思われる。

脚注

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注釈

  1. ↑ 「啼」の字義の第一は「涙を流して泣く」であるから、「乳幼児のよなき」の意で用いる「夜啼」も決して間違いではないが、近世においてもやはり「夜泣」と書くのが普通である。

出典

  1. 1 2 3 4 5 小学館『精選版 日本国語大辞典』. “夜鳴・夜泣・夜啼”. コトバンク. 2019年8月4日閲覧。
  2. ↑ 『ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典』、小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』、ほか. “夜泣き”. コトバンク. 2019年7月30日閲覧。
  3. 1 2 3 4 flavia Indrio(フラビア・インドリオ。バーリ大学、小児科医、新生児小児胃腸科上級〈上席〉顧問)と取材記者 (2015年1月26日). “赤ちゃんの「夜泣き」はママが我慢するしかないのか? イタリアでは、乳児疝痛の治療にサプリメントを利用する親が8割を超える”. 日経DUAL(公式ウェブサイト). 株式会社 日経BP. 2019年8月4日閲覧。
  4. ↑ 小学館『デジタル大辞泉』. “啼”. コトバンク. 2019年8月4日閲覧。
  5. ↑ “夜啼”. 中医名词辞典. 911查询. 2019年8月4日閲覧。 “夜啼 是小儿夜晚啼哭不止的病症。”
  6. ↑ 小学館『デジタル大辞泉』. “三箇月コリック”. コトバンク. 2019年7月30日閲覧。
  7. ↑ 小学館『プログレッシブ英和中辞典』第4版. “colic”. コトバンク. 2019年7月30日閲覧。
  8. ↑ 三省堂『大辞林』第3版、小学館『デジタル大辞泉』. “コリック”. コトバンク. 2019年7月30日閲覧。
  9. ↑ 小学館『デジタル大辞泉』. “夕暮れ泣き”. コトバンク. 2019年7月30日閲覧。
  10. ↑ 小学館『デジタル大辞泉』. “黄昏泣き”. コトバンク. 2019年7月30日閲覧。
  11. ↑ 小学館『精選版 日本国語大辞典』、ほか. “疳の虫”. コトバンク. 2019年7月30日閲覧。
  12. 1 2 小学館『精選版 日本国語大辞典』. “虫封”. コトバンク. 2019年7月30日閲覧。
  13. 1 2 小学館『日本大百科全書(ニッポニカ)』、ほか. “虫封じ”. コトバンク. 2019年7月30日閲覧。
  14. 1 2 3 4 5 平凡社『世界大百科事典』. “疳の虫”. コトバンク. 2019年7月30日閲覧。
  15. ↑ “封じ”. コトバンク. 2019年7月30日閲覧。
  16. 1 2 佐久市志編纂委員会編纂 編『佐久市志 民俗編 上』佐久市志刊行会、1990年、714頁。
  17. ↑ 『鬼の念仏』 - コトバンク

参考文献

外部リンク

関連項目

治療に使われるもの
名称が似ているもの


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