指示対象

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指示対象

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

指示対象(しじたいしょう、英: referent)とは、名前——言語的表現ないし他の記号——が指示する存在者である。たとえば、「メアリーは私を見た」という文において、メアリーという語の指示対象は、語られている特定のメアリーと呼ばれる人物であり、私という語の指示対象は、その文を発話している人物である。

同じ指示対象をもつ二つの表現は共指示的(英: co-referential)であるといわれる。たとえば、「ジョンは自分の犬を彼とともに連れていた」という文では、名詞ジョンと代名詞彼は共指示的である。両者ともに同じ人物(ジョン)を指示するからである。

語源と意味

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referentという語は、通時的には、ラテン語referentem——動詞referre(「持ち帰る」、指示(reference)の語源も参照)の現在分詞(対格形)——に由来するとみなしうる。あるいは共時的には、その接尾辞をもつ他の英語の語をモデルに、動詞referに接尾辞-entが付加されたものと分析しうる。これはメリアム=ウェブスター辞典で「指示するもの、ないし指示されるもの。とくに、記号(語ないし符号など)が表すもの」と定義されている[1]。

『オックスフォード英語辞典』に記録されるreferentの最も古い意味は「指示ないし諮問される人」であり、1844年に遡る。後続の意味は「他を指示する語」である。OED はこの用法に対し1899年の引用一つのみを与える(「関係を表現する指示する語ないし指示するもの(referent words or referents)」について語っている)。次の意味は、前の意味およびその語源によって含意される意味と対立して立つように見えるが、それでもなお優勢になったものである。すなわち、「何か(とくに語ないし表現)が指示するもの」である。この意味は最初、オグデンとリチャーズの『意味の意味』(1923年、後述参照)に記録されている。OED はこの用法のその後の多くの例も挙げる。

論理学においては、referentという語は時に、関係に参加する二つの対象のうちの一方を表すために用いられ、もう一方は関係項(英: relatum)と呼ばれる[2]。

意味論と哲学において

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意味の三角形。オグデンとリチャーズ『意味の意味』より。

意味論、記号論、指示の理論(英: theory of reference)のような分野では、指示対象と指示(英: reference)が区別される。指示とは、記号ないし符号(たとえば語)が何かを表す関係である。指示対象とは表されるものである。指示対象は実際の人物や対象でありうるし、行為の集合のような、より抽象的なものでもありうる[3][4]。

指示と指示対象は、ケンブリッジの学者C・K・オグデンとI・A・リチャーズの1923年の著書『意味の意味』において詳しく検討された。オグデンは、指示は心理的過程であり、指示対象自体が心理的でありうる——指示者の想像のうちに存在し、必ずしも現実世界に存在しない——と指摘している[5]。この観察に関連するさらなる考えについては、指示失敗(英語版)(英: failure to refer)を参照のこと。

統語論において

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共指示的でありうる——同じ指示対象をもつ——表現の可能な配置の検討は、統語論の研究に従事する言語学者、とくに1980年代にノーム・チョムスキーが統率束縛理論(英: Government and Binding Theory、GBT)を進展させて以来、行われてきた。束縛(英: binding)の主題は、主として共指示的な名詞句と代名詞の可能な統語的位置に関わる。以下の対の文によって例示されるような現象を説明する試みがなされている。

  • 彼女が乾かす前に、メアリーは濡れていた。
  • メアリーが濡れていたので、彼女は乾かした。

第一の文では、彼女とメアリーは同じ指示対象をもちうる(彼女はメアリーを指示しうる)が、第二の文では通常そうはなりえない。これらの考察のより詳しい点については、上記のリンク先である GBT と束縛に関する記事を参照のこと。

計算機科学において

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参照とその指示対象の検討は時に計算機とプログラミングにおいて重要となる[6]。参照はたとえばPerlプログラミング言語において役割を果たし、ref関数はオブジェクトの指示対象の型を取得するために用いられる[7]。

関連項目

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脚注

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  1. ↑ “Referent – Definition and More from the Free Merriam-Webster Dictionary”. merriam-webster.com. 2012年8月17日閲覧。
  2. ↑ Oxford English Dictionary, Second Edition (1989), entry for referent.
  3. ↑ Hildegard E. Peplau, Interpersonal Relations in Nursing: A Conceptual Frame ... (2004), p. 289: "Each concept or word has both a referent and a reference. The word is the symbol; the reference is its meaning held in the mind of its user; and the referent is the actions or object the symbol signified."
  4. ↑ David M. Miller, The net of Hephaestus: A study of modern criticism (1971): "... then, the general quality of 'dogness' suggested by the recurrence of similar sense perceptions is abstracted and stored in the memory. We now have a Referent and a Reference. Next, a symbol is constructed: visual and linguistic."
  5. ↑ Correspondence from C. K. Ogden to Whately Carington, quoted in C. K. Ogden and Linguistics, Psychology Press, 1994, vol. 1, p. xxiii: "A 'reference' and a 'referent' are parts of a sign or symbol situation [...] 'Visualizing', as such, is not relevant. References are always 'psychological' in a sign or symbol situation; referents may be psychological, i.e., in the order of the referrer's imaginings; ..."
  6. ↑ Ėduard Viktorovich Popov Talking with computers in natural language - 1986 - 305 pages - The problem of correspondence between a referent and a reference can also be expressed using descriptions. This can be done as follows: When entities are encountered in a text, an understanding system (either human being or computer) ...
  7. ↑ ref, perldoc.perl.org

外部リンク

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  • ウィクショナリーには、referentの項目があります。
  • SIL Glossary of Linguistic Terms: referent