輞川集
『輞川集』(もうせんしゅう)は、盛唐の詩人である王維とその親友の裴迪が二十首ずつ五言絶句を唱和して編んだ、計四十首からなる詩集[1]。中でも王維の「鹿柴」と「竹里館」が傑作として名高い[1]。
内容
二十組の詩はそれぞれ、長安近郊にあった王維の別荘である輞川荘の以下の「遊止[† 1]」、いわゆる「輞川二十景」を順に詠んでいる[3]。掲載順は以下の通り。なお山景区・湖景区・花木区は詩集にはない、便宜的な区分である[4]。
| 山 景 区[4] |
1 | 孟城坳 | もうじょうおう | 古い城跡があった場所[5]。宋の武帝が築いた思郷城の跡とも[5]。 |
| 2 | 華子岡 | かしこう | 岡[4]。謝霊運が詠んだ、今の江西省南城県にある「華子岡」からとったと考えられる[6]。 | |
| 3 | 文杏館 | ぶんきょうかん | 建物[4]。文杏は杏の一種[7]。 | |
| 4 | 斤竹嶺 | きんちくれい | 竹の生えた山[8]。 | |
| 5 | 鹿柴 | ろくさい | 鹿を囲う/防ぐための柵[9][10]。 | |
| 6 | 木蘭柴 | もくらんさい | 木蘭(辛夷に似た落葉樹)で囲った柵[11]。『輞川図』では斤竹嶺の隣に見える[11]。 | |
| 7 | 茱萸沜 | しゅゆはん | 茱萸(カワハジカミ)が生えた水辺[12]。 | |
| 8 | 宮槐陌 | きゅうかいはく | 宮槐(エンジュの一種)の小径[13] | |
| 湖 景 区[4] |
9 | 臨湖亭 | りんこてい | 欹湖に臨むあずまや[14]。 |
| 10 | 南垞 | なんだ | 欹湖の南にある丘、ないし建物[15]。 | |
| 11 | 欹湖 | いこ | 輞水が途中で狭くなりせき止められてできた天然湖[16]。 | |
| 12 | 柳浪 | りゅうろう | 欹湖の傍らにある土手の柳並木[17][4]。 | |
| 13 | 欒家瀨 | らんからい | 早瀬[18]。 | |
| 14 | 金屑泉 | きんせつせん | 泉[19]。 | |
| 15 | 白石灘 | はくせきたん | 水底に白石がある浅瀬[20]。 | |
| 16 | 北垞 | ほくだ | 欹湖の北にある丘、ないし建物[21]。 | |
| 花 木 区[4] |
17 | 竹里館 | ちくりかん | 竹林の中にある館[22]。 |
| 18 | 辛夷塢 | しんいう | モクレンが咲く土手[4]。 | |
| 19 | 漆園 | しつえん | 漆を植えた庭園[23]ないし畑[4]。 | |
| 20 | 椒園 | しょうえん | 椒を植えた庭園[24]ないし畑[4]。 |
それぞれの遊止について、王維の詩に続き裴迪が唱和するという形で進行し、五言絶句という制約から、風景を子細に描写するというより、風景がかもす情趣を効果的に印象づけることに重点が置かれている[25]。
王維の詩について言えば、俗世を遠ざけ山水の自然の清雅を詠ずる点で、安史の乱以前の彼の作風としては最も円熟したものといえる[26][† 2]。また少し後の詩人に見られる、公私を対置して官としての自分を規定するような表現が少ないのも特徴的である[27]。
裴迪の詩について言えば、全般的に散文的で情感に乏しい[2]。これは年長者に対する儀礼か、技量差を自覚して遠慮し[28]引き立て役に徹しようとしているのか分からないが[2]、結果として詩集全編にわたる強・弱・強・弱のリズムを生み出している[2]。
制作
制作時期について明確な記録は無いが[28]、王維の詠風や裴迪の年齢と照らし合わせると[28]、天宝年間(742年 - 756年)の中後期に編まれたと考えられる[4][28]。『輞川集』は王維の集の一部として扱われることも多いが、当初から王維と裴迪が唱和した四十首の独立した集という体裁を持っていたとみられる[28]。
脚注
注釈
出典
- 1 2 井波律子『中国名詩集』岩波書店、2010年、254-255頁。ISBN 978-4000238687。
- 1 2 3 4 5 齋藤希史『漢詩の扉』KADOKAWA〈角川選書〉、2013年、33-48頁。ISBN 978-4047035348。
- ↑ 大川忠三 著、宇野精一 編『唐詩三百首』明徳出版社〈中国古典新書〉、1984年、151-153頁。ISBN 978-4896192995。
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 植木久行, 宇野直人, 松原朗 著、松浦友久 編『漢詩の事典』大修館書店、1999年、337-340頁。ISBN 9784469032093。
- 1 2 二宮, 好川 (2020) p.167
- ↑ 二宮, 好川 (2020) p.168
- ↑ 二宮, 好川 (2020) p.169
- ↑ 二宮, 好川 (2020) p.170
- ↑ 松浦友久 編『唐詩解釈辞典』大修館書店、1987年、69-71頁。ISBN 978-4469032024。
- ↑ 前野直彬 編『唐詩鑑賞辞典』東京堂出版、1970年、409-410頁。ISBN 978-4490100624。
- 1 2 二宮, 好川 (2020) p.172
- ↑ 二宮, 好川 (2020) p.173
- ↑ 二宮, 好川 (2020) p.174
- ↑ 二宮, 好川 (2020) p.175
- ↑ 二宮, 好川 (2020) p.176
- ↑ 二宮, 好川 (2020) p.177
- ↑ 二宮, 好川 (2020) p.178
- ↑ 二宮, 好川 (2020) p.179
- ↑ 二宮, 好川 (2020) p.180
- ↑ 二宮, 好川 (2020) p.181
- ↑ 二宮, 好川 (2020) p.182
- ↑ 二宮, 好川 (2020) p.183
- ↑ 二宮, 好川 (2020) p.185
- ↑ 二宮, 好川 (2020) p.187
- ↑ 伊藤正文 編『王維 ― 審美詩人』集英社〈中国の詩人 ― その詩と生涯 5〉、1983年、205-206頁。ISBN 978-4081270057。
- 1 2 小林太市郎, 原田憲雄『王維』 10巻、集英社〈漢詩大系〉、1964年、304-310頁。
- ↑ 二宮, 好川 (2020) p.164
- 1 2 3 4 5 田部井文雄『中国自然詩の系譜: 詩経から唐詩まで』大修館書店、1995年、483-502頁。ISBN 978-4469231229。
- ↑ 二宮, 好川 (2020) p.166
参考文献
- 二宮美那子, 好川聡『王維・孟浩然』明治書院〈新釈漢文大系 詩人編3〉、2020年。ISBN 9784625673283。