この記事はその主題が日本に置かれた記述になっており、世界的観点から説明されていない可能性があります。 (2023年2月) |
降着制度(こうちゃくせいど)とは、競馬の競走に出走した競走馬が、競走中にほかの出走馬の走行を妨害したり、何らかの不利を与えた場合に、加害馬の着順を被害馬の次に繰り下げる制度のことをいう。
以下では、主に日本競馬(特に中央競馬)について述べる。
降着制度は1953年に西ドイツで初めて導入され、1950年代のうちにイギリス、アメリカ、フランスなどの欧米諸国が相次いで導入した。
日本での導入は、中央競馬においては1991年1月1日から[1](ただし実質的には1月5日から)、地方競馬においては1991年4月1日からである。降着制度導入の表向きの理由は、「国際化への対応」であった[2]。
それまでは進路妨害などの不正行為があった場合は、競走中止につながらなくとも加害馬は一律に失格となったため、とくに馬券を購入した者にとっては、的中がふいになるケースもあった。しかし、走行妨害があった時にいつも失格を適用していたのでは失格事例があまりに多くなってしまい、馬券売上にも響いてしまうので、主催者は失格を積極的には適用せず、騎手への制裁だけにとどめていたことが多かった[注釈 1]一方で、1987年の天皇賞・春においてはミホシンザンの2着となったニシノライデンが斜行によりアサヒエンペラーの進路を妨害した為、JRA開催GIレース史上初の2位馬失格となる事態も起こっていた。これによって日本競馬ではラフプレーが横行してしまうという弊害があった[注釈 2]ため、それを改善しようという目的もあった。
この制度では加害馬が被害馬の次の着順に繰り下がったとしても馬券対象の着順になる可能性が生じるため、主催者は躊躇なく加害馬への適切な制裁を加えることができるようになった。結果として、日本競馬はそれまでとは打って変わって、激しい接触の少ない落ち着いたレースが多くなっていく。
日本が最初に導入した制度ではなく、日本国外においては「加害馬はその被害馬に対して責任を負うのがより合理的で、進路妨害の処置は加害馬・被害馬の関係のみで考えるべき」、また「どの馬もその競走で示した能力を可能な限り尊重すべき」としてこれを導入している。[3]
2013年より、中央競馬は1月1日(厳密には競馬開催がスタートする1月5日)から、地方競馬も年度が変わる4月からルールが大幅に変更となり、JRAの説明では「各馬がレースで見せたパフォーマンスを尊重するシンプルで分かりやすいもの」となる[4]。この変更によって降着・失格となる事例が大幅に減少することになっても、加害馬の騎手に対する制裁(騎乗停止、過怠金など)は厳正に科すとしている(詳細は後述)。
降着・失格に関する現行のルールは、以下のとおりである。
日本の中央競馬における降着制度は、農林省(現・農林水産省)省令である競馬法施行規則(昭和二十九年九月十三日農林省令第五十五号)第八条[5]をもとにした、日本中央競馬会競馬施行規程第8章第124条、第125条[6]を根拠としている。
競馬法の条文には言及されていない。
競走中に進路妨害などの不正行為の疑いがある場合には審議を行う。
ある馬が競走中に他馬への走行妨害を行い、なおかつその走行妨害がなければ被害馬が加害馬に先着していたと判断された場合、その加害馬の着順は被害馬の着順の下に繰り下げられる。加害馬の入線順位が別の馬と同じ(同着)であった場合、降着によってそれぞれが単独の着順となる。
(詳細は次節を参照)
なお、2012年までの日本競馬では「その走行妨害がなければ被害馬が加害馬に先着していたか」ではなく「その走行妨害によって被害馬の競走能力の発揮に重大な影響を及ぼしたか」が判断の基準であったため、走行妨害と判断された場合は加害馬は必ず降着もしくは失格となった(被害馬先着の場合を除く)。また、現在とは異なる以下のような運用がなされていた。
JRAは、降着・失格制度の見直しに関して、「競馬の国際化が進展するなか、降着・失格をはじめとした競走に関するルール全般について、国際間における統一的なルールの必要性から数年前より国際会議で議論されるようになった」ことを理由とし、「海外の競馬主要国におけるルールを参考にした」ことも認めつつ、新しい降着・失格のルールを、「各馬がレースで見せたパフォーマンスを尊重する、シンプルで分かりやすいもの」であるとしている[4]。
日本では競馬、とりわけ中央競馬において上位入線馬の降着・失格が起こると批判が噴出することもある[注釈 3]が、JRAの裁決に対しては国内のみならず海外からも厳しすぎると指摘されている。裁決委員の国際会議では、各国の裁決委員が同じレース映像を見せられたとき、各国間で大きなバラツキがあった中でも日本の裁決委員は諸外国に比べてかなり厳しい判断を下したという[2]。こうした(日本も含む)各国の裁決基準のズレが、競馬の国際化の牆壁になっているとして、国際競馬統括機関連盟などは各国の裁決基準のすり合わせを進めた。今回のJRA裁決基準の変更も、こういった海外からの一種の干渉が背景にあったことが窺える。
注意すべきなのは、「不利がなければ被害馬が明らかに先着していたと判断できない限り降着とはならない」ということである。先着していた可能性があるというだけでは、降着とはならない。[7]なお、海外では、被害馬が落馬などによる競走中止にいたらなくても加害馬が失格となるケースが存在するが、日本の中央競馬でそのようなことが起こりうるのかについては、JRAは明らかにしていない。
審議ランプの運用見直しに関しては、JRAは「観客に対し、勝馬投票券を捨てないよう注意を促すために審議ランプを点灯する」こととし、「これによって、すみやかなレースの確定と円滑な競馬の施行を目指す」としているが、海外の競馬場でも審議ランプの運用はおよそ似たようなもので[8]、降着制度の見直しをする上で審議ランプの運用についても国際基準に合わせることとなった。
2013年の新ルール施行直後に行われた重賞AJCCにおいて、競走中に斜行した勝ち馬が降着とされなかったこと、被害馬からの走行妨害申し立てがあるまで審議ランプがつかなかった[注釈 4]ことについて2日間で60件の苦情がJRAに殺到した。[10]これについてJRAは、これらの苦情を、新ルールがファンの間に浸透していないことによるものだとして、「今後、ファンの方に浸透するように努めていきたい」とコメントした。[10]これを受けてマスコミ各社は、「新ルールを理解しつつも釈然としないファンは多かった」[11]とJRAとは異なる見解を示し、また当事者でない他の騎手の声として「あれがセーフなら何でもありになる」[11]、「GIだったら“2週間くらい”と思って(危険な騎乗を)やるヤツが出てくる」[7]、「短期免許ですぐに帰ってしまう外国人騎手からすれば“やり得”ということになる」[9]との意見を紹介したうえで、騎手制裁の甘さ[7]や審議の不透明性[7][12]などの課題を指摘した。被害馬の騎手は「直線のあの時点で下げて、差を詰めるのは厳しい」と、新ルールの運用に疑問を投げかけ、調教師は「新ルールの意味は理解できるが、あれがなければ勝っていた可能性が高いと確信したので、異議を申し立てた。斜行の程度も大きかった。」と、新ルールへの理解も見せつつ無念を語った[9]。
新ルール施行以降初の降着事例となったのは2013年7月10日にホッカイドウ競馬で施行された「ルビー特別」だった[13]。
この競走で2位入線したグライス(佐々木国明騎乗)は、最後の直線コースでフレンドファミリア(五十嵐冬樹騎乗)の走行を妨害したとして3着に降着。佐々木国明はホッカイドウ競馬開催4日間の騎乗停止処分を受け、これが中央・地方合わせて初の走行妨害による降着事例となった。
中央競馬における新ルール施行以降初の降着は、2013年11月3日の東京競馬第10競走ユートピアステークスで発生した。8位入線のアイムヒアー(熊沢重文騎乗)は、最後の直線コースで急に内側に斜行し、ダンスファンタジア(柴田善臣騎乗)の走行を妨害したとして9着に降着となった。熊沢重文は9日間(中央競馬開催日にして4日間)の騎乗停止となった[14][15]。
審議により走行妨害が認められた場合、加害馬の騎手に対しては、降着・失格の有無にかかわらずその騎乗ぶり・違反行為に応じた日数の騎乗停止処分を科される。過失が軽微な事案に対しては騎乗停止は科されず過怠金や戒告となることもある。危険・悪質な騎乗やスポーツマンシップに欠ける騎乗を行った騎手に対しては過怠金ではなく騎乗停止処分を科される場合もある。
降着制度が導入された1991年以降、騎乗停止処分と降着・失格処分はセットで科されるのが通常であった。過失の程度に応じた制裁制度は中央競馬において2005年1月1日より実施されており、2009年1月に制裁基準が一部改定された[16]。
なお、騎乗停止期間は世界共通であるため、中央競馬での騎乗停止期間中は地方競馬や海外競馬での騎乗も禁止される(地方競馬や海外競馬の所属騎手も同様)。
2009年 - 2012年まで行われていた制裁の一つである過怠金(1万円 - 10万円)とは「走行妨害」ではなく「進路影響」に対する制裁であり、「進路影響」は降着・失格の理由とはならない。「進路影響」の場合、騎手への最大の制裁は「騎乗停止2日以上」である。
JRAは2013年からの裁決基準改定により降着・失格の裁決が減ることについて、騎手に対して「厳正に制裁を科すことによってラフプレーを防止し、公正で安全なレースをこれからも維持する」としている。
2012年までは、上述の通りどのような過失・妨害行為がどの程度の制裁に値するかの目安が公式に示されていたが、2013年からは騎乗停止処分のとりうる日数が示されているのみである。
1980年度から[18]、騎手に対する制裁は点に換算され、制裁点として加点される。
なお、制裁点数が30点を超えると再教育となる[18](競馬学校での指導、レポートの提出など)。短期免許で騎乗している騎手の場合は再教育を受ける必要はないが、その代わり翌年の短期免許発給が拒否される(詳細は短期騎手免許#発給制限を参照)。再教育後点数はリセットされる。中央競馬開催終了時(基本的に12月28日)もリセットされる[18]。
フェアプレー賞は制裁点数10点以下の騎手が受賞できる[19]。また、東西のいずれかで勝利数、勝率、獲得賞金額の各部門で5位以内に入り、制裁点が0点の騎手は特別模範騎手賞を受賞できる。しかし、好成績を残しつつ、フェアプレーを行わなければならず、また調整ルームへの正当な理由および許可なき遅刻も制裁の対象となるなど、行動面でも模範を示す必要があるため、これまでの受賞者は5名(藤田伸二が2回)のみである。
騎手ごとの得点状況については原則非公開である[20]。
競馬施行規程第10章第150条、151条[6]に基づき、中央競馬では加害馬の関係者(馬主・調教師・騎手)は失格・降着の裁決について、被害馬の関係者は審議の棄却の裁決について、それぞれ、必要書類と保証金(原則10万円、ただし走行妨害申し立て[注釈 5]の棄却の裁決に対する不服申し立ては、7万円)を添えて裁定委員会に対して不服申立てをすることができる[21]。裁決委員が出す「裁決」に対して、裁定委員会が出す最終決定のことを「裁定」という。
不服申立ては中央競馬でも過去に何度か行われているが、すべて棄却されている(1991年までは「異議申立て」という制度だった)。
2013年よりJRAでは、レース後に走行妨害があったとして、被害馬関係者が着順の確定前に限り、当該加害馬の失格または降着を求める申立て制度が設けられている(日本中央競馬会競馬施行規程第127条)。申立てが可能な関係者は馬主、調教師、騎手および調教師業務の代行を命ぜられた調教助手もしくは厩務員であり、保証金30,000円を添えて書面により申し立てることが可能である。
JRAで過去に申し立てられた事例は2025年3月までに2例存在するが、いずれも棄却されている。
日本国外では被害馬の騎手や関係者による申立てが受理される場合も少なくなく、例えば第145回ケンタッキーダービーでは被害馬の騎手が申し立てを行い受理されて審議の末に着順が変わり、そのことが大きな議論となっている。
2019年のケンタッキーダービーは19頭立てで行われ、レースはマキシマムセキュリティが逃げて馬群を引っ張る形となったが、最終コーナーで外に膨らんで後続のカントリーハウス以下数頭の馬の進路に影響を与えた[27][28][29]。マキシマムセキュリティはそのまま逃げ切り1位入線を果たしたが、2位に入線したカントリーハウス騎乗のフラビアン・プラ騎手が異議を申し立てたことによって審議となり、20数分に至る審議の末にマキシマムセキュリティは被害を受けた馬の中で最後着だったロングレンジトディより後ろの着順となる17着に降着、代わって2位入線のカントリーハウスが1着に繰り上がって優勝馬となる裁定となった[27][28][29]。ケンタッキーダービー史上初めてとなる1着馬降着という裁定[30]に至った事態に対しファンからは「誤審だ」「マキシマムセキュリティこそが真の勝者だ」などの批判が相次ぎ[31]、ドナルド・トランプ米大統領も自身のTwitterアカウントで裁定に対して私見をツイートするなど[32]、大きな波紋となった。競馬ライターの島田明宏は、この一件はアメリカ合衆国の競馬での降着制度がカテゴリー2を採用しているがゆえに起こったこととして、カテゴリー1の基準なら騎手に処分があっても馬はセーフだったのではないかとしている[注釈 6][33]。
マキシマムセキュリティ陣営は降着の裁定に対して異議を申し立てたものの却下され、今後はマキシマムセキュリティの尊厳を回復するために法的手段に出ることも示唆した[30]。
降着制度導入以前の失格処分はのぞく。
1993年2月27日の中山競馬第7競走(新馬戦)でこの競走を最後に引退することとなっていた徳吉一己はセントバルカンに騎乗して1位で入線したが、審議の結果6着降着となり、騎手生活の最後が降着と言う初の事例となった。なお徳吉は同年2月いっぱいで騎手免許を返上して競馬学校教官に就任することが決まっていたので、騎乗停止は翌日28日の1日のみの適用と発表された。
この節の加筆が望まれています。 |
降着制度は本来ドイツ語圏で生まれたものであるが、英語では、日本語の「降着」に対応する名詞としてはdemotionが一般的である。しかし多くの場合は「○○を(が)×位から△着に降着とする(される)」と動詞の形で表現されることが多い。
以下は、英語における「降着」の代表的な表現。
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