No Means No型刑法

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No Means No型刑法(ノー・ミーンズ・ノーモデル)とは性行為が本人の意思に反して行われたことの立証を求める性犯罪に関する刑法モデルである。被害者が言語または非言語によって反対の意思を示したかが重視される[1]。消極的同意モデルと言われることもある[2]。

明示的な拒絶や身体的な抵抗がない場合、沈黙や無抵抗から同意が推認され得ると論じられている[3]。ドイツの刑法では、原則として外部から認識可能な拒絶意思に反する性的行為が処罰対象とされており、法定の例外事情がなければ、本人が内心では性行為を望んでいなかったとしても、沈黙や受動的態度によって有罪とならない場合がある[4]。

なお、性行為を望むことと同意することは同義ではなく、望まない性行為に自由意思で同意する現象が研究されている[5]。

概要

No Means No型では、被害者が言葉または態度によって不同意を表明した場合に性交がレイプとされる。このモデルでは、被害者には自己の意思、すなわち拒絶を伝達することが求められ、相手方には不同意の表明を尊重する義務が生じる[6]。

批評

タチアナ・ヘルンレは、「Only yes means yes」は道徳上の規則として妥当であり、教育上も、意思が不明確な場合には相手に確認し、相手が沈黙して意思を伝えない場合には性的行為を行うべきではないとする。一方、こうした道徳的要請をそのまま刑事政策に移すことには批判的であり、刑法は「最終手段」として、必要不可欠な行為規範の中核を超えて拡張すべきではないと論じている。そのため、性的行為直前の状況が曖昧な場合に反対意思の表明を求める「No means no」を、刑法上の基本的な行為規範として正当化している[7]。

各国の状況

欧州評議会議員会議はドイツやスイスをNo Means No型の法律を採用している国に分類している[8]。また日本の改正刑法(不同意性交・不同意わいせつ)について、被害者が単に同意していない場合ではなく、不同意の意思を形成・表明・全うすることが困難な状態にさせることなどを要求しており、Yes Means Yesではなく「No Means No」という消極的同意モデルを採用したと評価されている[2]。

ドイツ

ヴァイゲントは、ドイツ法(No Means No)について、性行為に対する内心の反対だけでは足りず、拒絶は言語または非言語によって表明される必要があり、単に受動的である場合には反対意思は「認識可能」とはされない。このため、ヴァイゲントは「抗議がないことは、したがって同意に等しい」と述べている[9]。

日本

法務省によれば本改正は、旧法(暴行・脅迫、心神喪失・抗拒不能)から処罰範囲は拡大はしていないが、より明確で、判断にばらつきが生じない規定となったとしている[10]。

橋爪隆は改正法(不同意性交等罪・不同意わいせつ罪)では被害者の内心において性的行為が「意に反すること」を要件とするわけではなく、意思決定が「困難な状態」であるかどうかを問題にするものである。自由な意思決定を妨げるような事情を問題にする方が、処罰すべき行為をより正確に捉えることができるためである[11]。筆者はしたがって被害者の内心に性的行為に応じたくない意思があったとしても、同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態にはなく、性的行為に応じたと評価される場合には、性犯罪の成立は認められないとする。そのような事例については、自由な意思決定が阻害されておらず、最終的に自らの意思で性的行為を受け入れたと評価できる場合など、当罰性に乏しいケースがほとんどであると述べている[11]。

木村光江は不同意性交等罪では「同意の不存在」それ自体ではなく、被害者が不同意の意思を形成・表明・全うすることが困難な「状態」に陥っていることが必要であると説明している。そのため、外形上は意思に反した性的行為とは認められないように見える場合に、被害者が後から「同意していなかった」と述べたとしても、その主張のみで処罰の可否が決まるものではなく、客観的に不同意の意思表明等が困難となる事情が必要となるとしている。また、「不同意性交等罪」は、形式的に同意がなければ直ちに処罰される規定でも、表面的な同意があれば直ちに処罰されない規定でもないと述べている[12]。

なお、法的な位置づけとして、同意があった場合は本罪は成立せず、同意は明示のみならず黙示でも良く、また同意を誤信していた場合は故意がかける。黙示の消極的な同意(沈黙の同意)やその誤信が認められたこともあるが、田中は特段の事情がない限り認めるべきでないとしている[13]。

関連項目

出典

  1. ↑ GREVIO (2023年9月). “4th General Report on GREVIO’s Activities” (英語). Council of Europe. p. 34. 2026年8月20日閲覧。
  2. 1 2 Chang, Eung-Hyeok (2024). “Examination of amendment of sex offense regulation (Non-Consensual Adultery) in Japanese penal code” (朝鮮語). 경찰법연구 22 (1): 131–156. doi:10.22826/jpl.2024.22.1.131.
  3. ↑ Rebecca Whisnant (2026年10月15日). “Feminist Perspectives on Rape”. Stanford Encyclopedia of Philosophy. 2026年10月23日閲覧。
  4. ↑ Hörnle, Tatjana (2024). “The Challenges of Designing Sexual Assault Law”. Current Legal Problems 77 (1): 49–80. doi:10.1093/clp/cuae002 2026年10月23日閲覧。.
  5. ↑ Brewer, Gayle; Forrest-Redfern, Anna (2022). “Attachment Anxiety, Rape Myth Acceptance, and Sexual Compliance”. Journal of Interpersonal Violence 37 (7–8): NP4626–NP4639. doi:10.1177/0886260520948526.
  6. ↑ Keiler, Johannes (2023). “From coercion to consent: Dutch rape law reform and the complexities of consent”. Maastricht Journal of European and Comparative Law 30 (6): 760–782. doi:10.1177/1023263X241232627.
  7. ↑ Hörnle, Tatjana (2024). “The Challenges of Designing Sexual Assault Law” (英語). Current Legal Problems 77 (1): 49–80. doi:10.1093/clp/cuae002.
  8. ↑ Gurmai, Zita (2026年3月25日). Paving the way for a culture of consent (Report) (英語). Parliamentary Assembly of the Council of Europe. paras. 20–24. Doc. 16370.
  9. ↑ Weigend, Thomas (2022). “Germany”. Consent and Sexual Offenses: Comparative Perspectives. Nomos. pp. 183–196. doi:10.5771/9783748930242-183
  10. ↑ “法務省:性犯罪関係の法改正等 Q&A”. www.moj.go.jp. 2026年9月9日閲覧。
  11. 1 2 橋爪隆『性犯罪に対する処罰規定の改正等について』立花書房、2025年。
  12. ↑ 木村光江 (2024). “「「性的自由に対する罪」再考」”. 法曹時報 (法曹会) 76巻 (1号(2024年1月号)): 11.
  13. ↑ 田中, 嘉寿子 (2026). 性犯罪・児童虐待捜査ハンドブック〔第2版〕(上)―被害者心理から捜査・公判まで―. 立花書房. ISBN 978-4-8037-0730-4