不同意性交等罪

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不同意性交等罪
法律・条文 刑法177条
保護法益 性的自由・性的自己決定権
主体 人間
客体 人間
実行行為 不同意性交等
主観 故意犯
結果 結果犯、侵害犯
実行の着手 不同意意思形成表明全う困難状態の人間に対して
既遂時期 性器、肛門又は口腔への一部挿入時点
法定刑 5年以上の有期拘禁刑。有期拘禁刑の上限は20年、加重により30年[1]。
未遂・予備 未遂罪(180条)
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不同意性交等罪(ふどういせいこうとうざい)は、刑法177条に規定される性犯罪であり、強制性交等罪・準強制性交等罪を統合して新設された犯罪類型である。暴行・脅迫、心身の障害、アルコール・薬物などの行為・事由により、同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ、又はその状態に乗じて性交等を行う行為などを処罰する。また、わいせつな行為ではないと誤信させ、若しくは人違いをさせ、又はその誤信に乗じて性交等を行う場合や、16歳未満の者に対して性交等を行う場合も対象となる。

条文

概要

不同意性交等罪

以下3つで構成されている[2]

第一項と第二項は、2023年の刑法改正により、従来の177条(強制性交等罪、暴行・脅迫)と178条(準強制性交等罪、心神喪失・抗拒不能)が統合され、処罰範囲の明確化を図るため、要件が具体化・細分化されたものである。改正の検討過程では、これまで当罰的と評価されていた行為の範囲から拡大する趣旨ではないと説明されており、また旧法の抗拒不能に関して処罰対象とされていた類型は、改正後の1項各号や誤信・人違いを定める二項などに整理された[2][3]。

第一項では「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」に該当することが決定的に重要である[4]。なお「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」は、性犯罪の本質的要素である「自由な意思決定が困難な状態」を表すものであり、またその要件該当性の判断を容易にし、安定的な運用を確保するため、原因となり得る8類型が列挙されており、両要件を満たして初めて性犯罪が構成する。構成要件は「不同意」ではなく「不同意困難状態」とされ、被害者の内心において性的行為が意思に反することそれ自体を要件とせず、立証すべき対象は「状態」という客観状況であるとされる[4][5]。また政府は、「同意していないことそのものを要件として規定するものではございません」と説明している[6]。

第二項は、行為がわいせつなものではないとの誤信をさせた場合、行為者について人違いをさせた場合、又はそれらの誤信若しくは人違いに乗じて性的行為をした場合を処罰する規定である。性的行為の際の錯誤には多様なものがあり、その中には性犯罪として処罰すべきではないものも含まれることから、処罰対象となる錯誤はこれら二類型に限定されている[7]。行為者の同一性ではなくその属性についての錯誤、例えば既婚者を未婚者であると誤信した場合は「人違い」には該当せず、また、避妊具の装着について誤信させるいわゆるステルシングも第二項の処罰対象とはされていない[7]。

第三項は、16歳未満の者に対する性的行為を一定の場合に処罰する、いわゆる性的同意年齢に関する規定である。2023年改正により対象年齢は13歳未満から16歳未満に引き上げられた。ただし、13歳以上16歳未満については、同年代間の性的行為を一律に処罰することを避けるため、行為者が5歳以上年長の場合に限って処罰対象となる[2]。

本罪は、「いわゆるノー・ミーンズ・ノー」の考え方を踏まえたものとされ、不同意を中心に構成するNo Means No型(消極的同意モデル)の刑法と評価されている[8][9]。なお、積極的同意を要件とするいわゆるYes Means Yes型については、法制審議会等でも議論されたものの、2023年改正では採用されず、必要な検討を行うとしている[6]。

監護者性交等罪

18歳未満の者に対し、その者を現に監護する者であることによる影響力があることに乗じて性交等をした場合に成立する[10]。

結果的過重犯

人の死傷を伴う場合は、結果的加重犯として刑がより重くなる。不同意性交等罪若しくは監護者性交等罪又はこれらの罪の未遂罪を犯しよって人を死傷させた時は、無期又は6年以上の拘禁刑となる。

性交等の定義

「性交等」には、性交、肛門性交、口腔性交のほか体の一部や物を膣または肛門に挿入する行為が該当する[11][12][13]。性交、肛門性交、口腔性交の定義については強制性交等罪を参照。

2023年の刑法改正により、わいせつな行為として強制わいせつ罪などによって処罰されていた、身体の一部や物を肛門や膣に挿入する行為が性交等に含められている[14]。

成立要件と解釈

不同意性交等罪

第一項 同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ、又乗じて性交等を行うこと

成立要件

本罪が成立するには

  1. 前条第1項各号に掲げる行為又は事由その他これらに類する行為又は事由により
  2. 同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態にさせ又はその状態にあることに乗じて
  3. 性交等をすること

の3つの要件を満たすことが必要であり、それぞれの要件について該当性を検討する必要がある。また、故意についても、これらの各事実を認識、認容していることが必要となる[15]。

処罰範囲

改正以前は、性犯罪の本質である「自由な意思決定が困難な状態で行われた性的行為」を暴行・脅迫、抗拒不能・心神喪失といった要件により判断していたが、これらを統合し、本罪では性犯罪の本質を「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」といった要件を用いた表現に変更された[2]。性犯罪の本質についての考え方に変更はなく、また旧法(暴行・脅迫、心神喪失・抗拒不能)から処罰範囲は拡大はしていないが、より明確で、的確に処罰されるものと考えられている[16]。また誤信類型は旧法では抗拒不能に含められていたが、二項で処罰されることになった[17]。

旧法では事案ごとの当てはめにばらつきがあったため、本改正はその判断を容易にし、安定的に行われるよう確保するものである[18]。井田は、2023年改正について、旧規定の下でも適切な解釈を施せば処罰可能であった行為を対象として、その処罰範囲を明確化する趣旨の規定であると述べている。また、同改正によって初めて処罰可能となり、旧規定の下では処罰し得なかった事例を挙げることは極めて困難であると指摘している[18]。

斎藤は、今回の改正について、改正前の暴行・脅迫、心神喪失・抗拒不能要件を明文化したものにとどまり、刑事弁護上の留意点も改正前と大きく変わらない可能性があると指摘している[19]。

なお、性交同意年齢の引き上げや、わいせつに該当していた陰茎以外の挿入行為が性交等に含まれるようになったため、実質的には拡大している側面がある[20]。

本体部分(中核要件)

本罪では被害者が性的行為時に、被害者の自由な意思決定が阻害された状態を3段階に区分して規定された中核要件である「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」に基づいて性的行為が行われる必要がある[4]。安定的な判断を行うため、原因となり得る行為・事由が列挙されている[4]。なお、政府は、明示的な同意がない場合に内心では同意していた者まで処罰対象となるおそれがあるとの指摘を踏まえ、積極的な同意を必要とする制度(YES型)までは採用していないとしている[21]。

  • 「同意しない意思を形成することが困難な状態」とは、性的行為をするかどうかを判断・選択する契機や能力が不足し、性的行為をしないという発想や決断をすること自体が困難な状態をいう。例えば、アルコールの影響により意識がない場合などがこれに当たり得る[4]。
  • 「同意しない意思を表明することが困難な状態」とは、性的行為をしたくないという意思を形成することはできるものの、その意思を外部に表示することが困難な状態をいう。例えば、アルコールの影響により内心では性的行為をしたくないという意思があっても、それを外部に表示できない場合などがこれに当たり得る[4]。
  • 「同意しない意思を全うすることが困難な状態」とは、性的行為をしたくないという意思を形成し、又はその意思を外部に表明したものの、その意思を貫徹することが困難な状態をいう。例えば、アルコールの影響により自由に身体を制御することが困難で、抵抗できない場合などが想定される[4]。

また「同意がないこと」ではなく、客観的にそのような「状態」に陥ることが要求されている[22]。人の内心そのものを問うと明確性や安定的な運用に懸念があるため、内心ではなく状態を客観的外形的な事情から判断する[23]。橋爪は「状態」を要件としていることを理由に、性的行為を内心にて「応じたくない」という意思があった場合でも、「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」に陥っておらず性的行為に応じた場合は、犯罪の成立は認めることができず、そもそも当罰性が乏しいとしている[4]。

井田は「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」は、「選択肢が事実上一つに収束するような状態(任意とは言えない)」で、恐喝罪と同等レベルに重大な瑕疵(単なる困惑を超える心理的プレッシャー)を生じさせることを手段とすると説明している[24]。また嶋矢は「困難」については「応じない」性的自己決定権の重大な侵害と評価できることが必要であると述べている[25]。

なお、試案では「拒絶困難」という要件が検討されたが、被害者に抵抗・拒絶を要求するように読めるなどの理由から採用されなかった[3]。また「その意思に反して」という文言は内心を想起させることから処罰範囲の不明確さが残り、「自由な意思を妨げ」という文言は「妨げ」が、例えばアルコールの影響で気が大きくなったり、冷静な判断を欠いた状態で性交に応じた場合にも、意思決定に妨げは生じているが、そのような不同意とはいえない場合までが処罰対象に含まれ、処罰範囲が広がりすぎるとの問題点が挙げられていた[5][26]。

本体部分と8つの行為・事由の関係

本罪が成立するには(1)8つの行為・事由に該当のみならず、加えて(2)「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」まで陥っていたことが必要である[4][27][28]。8つの行為・事由は単なる手段や契機であるため、該当するからといって直ちに「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」が認められるわけでない[4]。

また、8つの行為・事由は、それらに該当するだけで性犯罪が成立することを意味するものではなく、嘉門は、例えば、飲酒後の性行為は社会一般に行われており、すべてを処罰するのは行き過ぎであって、もし性行為をする際は飲酒を完全に控えるべきであり、飲酒の影響で開放的になる、また少しでも飲酒により眠気を感じて面倒になっている相手と性行為をしたことで処罰対象とすれば、性的自己決定に対する過度な介入となり得るとの指摘している[29]。

なお、1項1号の暴行・脅迫については、それらが認められれば事実上「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」にあるとして、困難性要件を別途要求する意義は乏しいとの批判もあるが、嘉門は「暴行」には広く有形力の行使が含まれ、暴行が認められても「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」に至らない場合は想定でき、アルコール・薬物の影響や意識が明瞭でない状態にも程度差があることから、困難性要件には処罰範囲を限定する意義があり、両要件を満たす必要があるとの見解を示している[29]。

8つの行為・事由など(不同意わいせつ罪より準用)

各号についてはいずれもその程度は問わないが、不同意わいせつ罪・不同意性交等罪が成立するためには、これらの行為・事由により、被害者が「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」に陥っている必要がある[2]。また、複数の事情が相まって「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」が形成されることもあるが、その状態の惹起と関連しない行為・事由を訴因として掲げることは認められない。例として暴行の程度が極めて強く、他の複数の事情があった場合でも、暴行のみで「困難な状態」が生じたと評価できる場合には、その原因となる行為として暴行(第1号)のみを挙げるべきとしている[4]。

その他類する行為とあるように、各号は例示に過ぎない[18]。

一 暴行・脅迫

旧法では暴行・脅迫の程度が問題となることがあった。本罪では暴行・脅迫の程度は「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」をもたらす必要があればよく、本号ではその程度を問わない。しかし程度を問わないということと困難な状態の認定に影響を及ぼすかは別問題であると指摘されている[25]。

橋爪は、重大な暴行・脅迫が加えられた場合には、それによって「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」が生じたことを認定しやすい一方、暴行・脅迫が軽微な場合には、行為態様だけでなく、行為当時の諸事情を総合的に考慮する必要があるとされ、そもそも他号が問題に成ることが多いと指摘している。また、性的行為に随伴する程度の暴行・脅迫が1号に該当する余地があるとしても、本罪の成立には、それによって被害者の「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」が生じたことを示す特段の事情を明示する必要であるとされる[4]。

なお、性交に随伴する程度の有形力の行使を暴行と認めることについては、問題が指摘されている[25][30]。また嶋矢は、もし顔につばを吐くなど軽微な暴行が付随すれば直ちに成立するのは問題であるが、一方軽微ゆえに常に成立しないことは適切でないとしている[30]。

有形力の行使によって気絶させられる行為は「形成困難」に、口を塞がれて身動きができなくするのは「表明困難」に、嫌といっても動きが抑制されるのは「全う困難」に該当するが、以上のような暴行に該当してSM行為は同意があったものとされる[30]。

処罰範囲の拡大ではなく明確化という議論からは、旧法の暴行・脅迫に該当する[20]。

二 心身の障害

身体障害、知的障害、発達障害、精神障害やその一時的なものを含む[2]。なお、身体障害は形成が困難な状態の原因とはなり得ない[20]。本号の内容・程度は他号同じく問わないが、本罪の成立が認められるためには、その障害が「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」を惹起したと評価される関係が要求される[4]。

知的障害を原因として困難性要件が該当するような事案でも、構成要件阻却などによって知的障害者の性的自由への配慮を行うことが必須という指摘がある[30]。また、知的障害者であっても自由恋愛の権利があるため、故意の認定や、障害に乗じているか、通常の恋愛関係であるかについて検討が必要である[20]。

法務省は、心身の障害があることのみをもって、直ちに「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」に該当するものではないとしている。犯罪の成立には、心身の障害に該当するだけでなく、その障害が原因となって、「同意しない意思の形成・表明・全うが困難な状態」にあったことが必要とされる[6]。

処罰範囲の拡大ではなく明確化という議論からは、旧法の心神喪失・(身体的)抗拒不能に該当する[20]。

三 アルコール・薬物

アルコールや薬物で酩酊状態の場合、その酩酊の程度によっては、意思の形成や表明などが困難となる[31]。なお本罪では、アルコールの影響だけでは足りず、加えて「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」に陥っている必要があり、酩酊の程度は後者の要件で考慮される[23]。また、アルコールにより気が大きくなって性行為に応じた場合に直ちに犯罪を構成するのではなく、更に「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」に陥っていることを認定する必要がある[31]。

アルコールや薬物の影響の程度には、意識を喪失する場合から判断能力がある程度低下する場合まで幅があり、3号への該当自体にはその程度を問わないが、これにより「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」に陥ったとして本罪の成立を認めるには、実際には意識や身体能力が相当程度減退・喪失していることが必要となる[4]。

意識を失った場合は本罪が成立し、意思決定に重大な瑕疵が生じた場合も成立する可能性が高く、反対に判断能力を失なっているとはいえず、なお意思決定が可能であったと評価できる場合には、「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」であるとは言えず、犯罪は成立しないとされる[4]。橋爪は両者の限界は困難であるとしている。また「飲酒していなければ同意しなかっただろう」だけでは本罪の成立を認めることは難しいとしている[4]。樋口は飲酒がなければ性交に応じなかったという事案で常に本罪の構成を認めることは過処罰であるため、困難要件は広めにとりつつ、構成要件阻却を認めるか、飲酒によって判断能力・行動能力が低下した状態での行為は日常的に見られる以上、困難要件の段階で一定除外し、同意による構成要件阻却を認めるという議論が必要であるとしている[30]。

法務省側は国会審議で、「自宅で通常どおり飲酒し、気分が良くなっているものの、積極的な同意でも不同意でもないような状況」は性犯罪を構成するのか、という質疑に対して、「アルコールの影響があったとしても、お酒に酔ったことで気分が開放的になったとしても」性的行為を選択しやすくなっただけである場合には、性的行為をするかどうかの判断・選択能力があり、同意しないという発想もできることから、「同意しない意思を形成することが困難な状態」には当たらないと答弁している。また、自らの判断でその意思を外部に表すことをやめた場合には「表明困難」にも、自らの判断で応じることを選択した場合には「全う困難」にも当たらず、このような場合には罪は成立しないと考えると答弁している[6]。

また、「お酒に酔ったことで例えば気分が開放的になったとしても、性的行為を選択しやすくなったにすぎず、同意しないという発想ができるのであれば、「同意しない意思を形成することが困難な状態」には当たらないとの答弁からすると、ほろ酔いで気分が良い、深く考えるのが面倒になったことは含まれないという理解でよいか。」という質疑に対しては、いわゆる「ほろ酔い」状態で気分が良くなったり、深く考えるのが面倒になったりして性的行為を選択しやすくなったにすぎない場合には、判断・選択の契機や能力があり、同意しないという発想もできるため、「形成困難」には該当しないと答弁している[32]。また、また、このようなほろ酔い状態で、自らの判断で同意しない意思を表さなかった場合は「表明困難」に、自らの判断で性的行為に応じた場合は「全う困難」にも該当しないと答弁している[32]。

処罰範囲の拡大ではなく明確化という議論からは、旧法の心神喪失・(身体的)抗拒不能に該当する[20]。

四 睡眠その他の意識が明瞭でない状態

心身の障害や、薬物・アルコールの影響があれば3号に該当するが、それらに基づくことが不明瞭な場合でも、現にその状態にあれば本号に該当する[20]。

性的関係も含めて良好な間である場合に、泥酔や熟睡中に行われる一定の性的行為ついにては、事前の同意や包括的なものも検討する必要がある[30]。

処罰範囲の拡大ではなく明確化という議論からは、旧法の心神喪失・(身体的)抗拒不能に該当する[20]。

五 同意しない意思を形成し・表明・全うするいとまがないこと

いわゆる唐突型である[25]。すれ違いざまにいきなり胸を触られたりする行為等が該当する[4]。

処罰範囲の拡大ではなく明確化という議論からは、旧法の暴行に該当する[20]。

六 予想と異なる事態による恐怖・驚愕

いわゆるフリーズ状態が該当する[30]。性的行為を全く想定していない可能性がない被害者に対して、突然、密室などで性的行為を迫り恐怖・驚愕させることなどが該当する[4]。

処罰範囲の拡大ではなく明確化という議論からは、旧法の(心理的)抗拒不能に該当する[20]。

七 虐待に起因する心理的反応

身体的な加害行為だけではなく、心理的虐待、性的虐待もこれに含まれる[4]。行為者が監護者であって被害者が18歳未満の場合は、監護者性交等罪が適応される[20]。

処罰範囲の拡大ではなく明確化という議論からは、旧法の脅迫・(心理的)抗拒不能に該当する[20]。

八 経済的又は社会的関係上の地位に基づく影響力によって受ける不利益の憂慮

経済的又は社会的関係上の地位とは、幅広い関係性が該当する[27]。また本号は、その地位格差が濫用される場合を対象とする規定である[33]。教師やコーチ、上司などその立場にあるだけでなく、その地位を利用して、不利益を憂慮などさせる必要がある[28]。性的行為に応じる意思がないにもかかわらず、相手の影響力による不利益を恐れるあまり、性的行為に応じざるを得ない状態に陥った場合には、本号に加え「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」に陥っており、自由な意思決定が阻害されているとして性犯罪の成立が認められる[4]。

なお、一定の不利益を憂慮していても被害者の自由な意思決定の可能性を失わせる程度のものでなければ「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」に陥っていたとは言えず本罪は成立しない。また不利益を避けるため、利害得失を考慮した上で性的行為に応じたと評価できる場合には、その行為が本意でなかったとしても、「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」には当たらないとされる[4]。被害者の主観において性的行為に応じることが唯一の選択肢であったのかが、「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」の判断において重要であるとされる[4]。

行為者が上位者で、被害者が下位者である場合に限って関係性の要件を満たすとする見解もある。しかし行為者が上位者で、被害者が下位者である場合は「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」が生じやすい事情ではあるものの、関係性の要件それ自体に行為者が上位者で、被害者が下位者であることが要求されるわけではなく、上位者であっても不利益を憂慮する場合があり得るとの指摘もある[4][33]。

ここでいう憂慮については漠然とした不安感ではなく、現実味が必要である[34]。また通常の恋愛も経済的、社会的関係と無縁ではないため、不利益の憂慮や困難要件による限定が重要であり、また不利益も特定される必要がある[34]。成人同士の関係で相手の不機嫌を回避するために性交に応じた事案についてまで本号が適応されることには、疑義が示されており、「不利益」については本来受けることのない損失といった限定が妥当であり、また同棲関係の解消や離婚に至る不安を補足することについては、疑問があるとする見解がある[30][35]。一方井田は、「不利益の憂慮が不明確」という指摘に対して本体部分があり、またその原因となり得るものであるから、問題はないとしている[24]。

利益誘導に基づいた場合は、不利益の憂慮に該当しない。しかし利益・不利益のいずれかが与えられる認識にがあった場合、同時に不利益を憂慮していた場合は該当する可能性がある[4]。「不利益」には、例えば、本来出場できたはずの試合に出られなくなることや、本来可能であった昇進の機会を失うことが含まれる。他方、性行為に応じなければ芸能の仕事を得られないという場合、その仕事が性行為とは無関係に本来得られたはずのものでない限り、「不利益」には該当しないと解される[30]。

なお、一定の地位や関係性にある者が性的行為をしたというだけで処罰対象とするための明確かつ限定的な要件を設けることは困難であるとして、「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」に陥っていない場合を対象とする別個の処罰規定は設けられていない。また、この状態に陥っていないのに、力に差のある関係の者が性的行為をしただけで処罰対象とする要件を設けることは困難としている[36]。橋爪は審議会で、地位・関係性を利用した性行為について、上司と部下、スポーツのコーチと選手などの関係性があればすべての性行為を罰するということは「当然これはあり得ない」とし、個別の事案ごとに判断する必要があるとの指摘している。その上で、地位・関係性に基づく性行為のうち性犯罪として処罰すべき類型は、試案の類型に基本的に収れんするとして、別個の処罰規定を設ける実益は乏しいとの見解が示している[37]。

処罰範囲の拡大ではなく明確化という議論からは、(心理的)抗拒不能に該当する[20]。

類する行為又は事由

利益誘導の場合、不利益を肯定することは困難であるが、様々な事情により不利益憂慮と同価値性が認められる場合は本要件に該当する可能性がある[30]。

アルコール薬物以外の物質であっても、同様の効果を有するのであれば評価可能である[4]。

またアレルギー保有者にアレルギー物質を摂取させることが該当するとの見解がある[38]。

井田は類推規定については、他罪、他国でも適用されれているため、問題にはならないとしている[24]。

性的同意・承諾の位置づけ

同意があれば構成要件に該当せず本罪が成立しない[4][39][20][40]。また同意を誤信していた場合は故意が欠けることになる[20][41]。

刑法上の性的行為への同意(性的同意)とは、(同意能力があるものによる)自由な意思に基づく真意の承諾を言う[20][42]。更なる暴行・脅迫をやめさせるための発言である場合は、真意に基づく承諾とは言えない[43][44]。同意は明示のみならず、黙示でもよい[20]。また錯誤に基づく瑕疵があって同意した場合、要件が認定されないと性犯罪とはならない[39]。

なお、刑法上の被害者の同意(真意の承諾)については積極的な意欲や願望までは必要とされず、「消極的認容(認容的な甘受)」があれば同意の存在を認め得る。性的行為に対する同意についても、他と同様に、性的関係を結ぶことへの「消極的認容」が認められる限り、同意の存在を肯定すべきとしている[45][46][47]。黙示の消極的な同意(沈黙の同意)が認められることがあるが、これについて田中は否定的な意見を示し、また別段の事情がない限りは認められるべきでないとしている[20]。

「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」に陥っているが同意があれば阻却事由となるとされている。「同意しない意思」とは同意があることを前提としているからである[40]。橋爪はアルコールの影響により「同意しない意思を表明することが困難な状態」であるが内心にて性的行為を承諾している場合は酩酊していても自律的な判断ができるため、性犯罪の成立を否定する必要があると解している。また同様にまた、押さえつけられたり、縛り上げられたり、その他抵抗できない場合でもその状態の性交に内心同意している場合は「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」には該当しないとしている[4]。樋口は困難性要件や同意による構成要件阻却により処罰範囲の限定が必要であるとしている[30]。

一方、本罪は構成要件から鑑みて、被害者の承諾は別途問題となるものではないとする見解がある[27]。

木村は被害者が後から「同意していなかった」と述べたとしても、その主張のみで処罰の可否が決まるものではなく、客観的に不同意の意思表明等が困難となる事情が必要となるとしている。また、「不同意性交等罪」は、形式的に同意がなければ直ちに処罰される規定でも、表面的な同意があれば直ちに処罰されない規定でもないと述べている[22]。

井田は、裁判所が有効な同意があった可能性があるとの心証をもった場合は、旧法と同じく犯罪の成立は認められないとしている[18]。

婚姻との関係

以前から処罰されていたが、改正により婚姻の有無を問わないことが明記された[4]。法的な婚姻関係は、性交要求件、性交受諾義務がある。婚姻関係は性的同意が推定される関係性に過ぎず、推定的同意がありえない事情があれば本罪が成立し得る[20]。

婚姻関係はもちろん、外でも安定的なパートナーシップを築いている場合などには包括的な同意などの検討について慎重な判断が必要とされている[25]。

その他

性交等やわいせつな行為自体には有害性や違法性はない。性的行為を不同意なものに対して行う所に性的自由の侵害があり処罰されることになる[48]。

各号に加えて「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」であった場合、1号は旧強制性交等罪の暴行・脅迫要件で、2~7号は旧準強制性交等罪の心神喪失・抗拒不能要件で、8号は旧準強制性交等罪の抗拒不能要件で処罰がなされていたものである[49]。

立証責任は今まで通り検察官にある。また「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」であったかどうかは、ビデオ、当事者間の関係性、性交後の行動などの間接事実を含めて総合的に判断される。そのため、同意があったとされる事案で後に不同意が主張された場合でも、直ちに事件化されるわけではないと説明されている[50]。

法制審議会では、同意が問題になるのは性的行為を行う時点であり、一旦拒む意思が表明された場合であっても、その後気持ちが変わり、自由な意思決定として性的行為に同意して応じるということも十分あり得る。加えて事前の反対意思の表明があった場合でも、反対意思が実行行為段階においても内心において継続していることを認定する必要がある。よって要証事実は「性的行為の時点」における被害者側の心理状態だと確認された。また性的行為を求めて、そして説得に応じた場合は同意なのではないかと推測についての懸念があったが、説得を行って性的行為に至った場合に、直ちに全て処罰するというのは行き過ぎであり、その場合には、説得の手段や程度、状況を考えて、それが限度を超えていたかということを見検討する必要があると議論されていた[15]。

助産師で性教育YouTuberのシオリーヌによると4つの原則(非強制性・対等性・非継続性・明確性)というのが法律に含まれているわけではないと解説されていた[51]。

故意について

故意犯であるため、客観的構成要件に該当する事実の認識が必要である。(1)一定の原因となる行為・事由が存在すること、(2)それによって被害者が「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」に陥っていること、(3)当該状態に基づいて性交等をしたこと、いずれについても認識が必要になる[4]。なお法律上の要件に該当するとの規範的な認識までは必要とされない[32]。

突然、性的行為を迫ったことから、被害者が恐怖・驚愕し、いわゆるフリーズの状態に陥った場合(6号類型)であっても、被害者のフリーズ状態を全く認識せず、内心では性的行為を受け入れていると誤信している場合には、本罪の故意を認めることは困難であるとする[4]。

相手がアルコールを摂取していたことを認識していても、その影響により「困難な状態」にあることを認識していなかった場合が問題となるとされる。また、不利益の憂慮についても、被害者が内心で不利益を憂慮していたものの、その「困難な状態」を外形上認識できない場合には、故意の認定が問題となると指摘されている[29]。

第二項 わいせつな行為ではないと誤信もしくは人違いをさせ、又乗じて性交等を行うこと

わいせつな行為であるのに医療行為だと誤信することや、配偶者だと思っていたけど実は別の人だった場合が典型例である[4]。

職業、資格の有無、既婚・未婚など、誤信を生じさせる場合や、「結婚するから」「金銭を提供するから」などと偽った場合、ステルシングなどは処罰の対象とならない[18]。

処罰範囲の拡大ではなく明確化という議論からは、(心理的)抗拒不能に該当する[20]。

第三項 16歳未満の者に対し性交等を行うこと

相手が13歳未満の子どもである場合や、13歳以上16歳未満の子どもでかつ行為者が5歳以上歳上である場合には、相手の同意の有無を問わず成立する。また同年代同士の性交を処罰しないために、5歳差要件が付されている[4]。

また子ども同士の場合でも「同意しない意思を形成・表明・全うすることが困難な状態」に乗じた場合は処罰される[2]。

16歳未満ものが5歳差以上の年齢差があっても直ちに非対等は言えず、処罰すべきでない場合が想定されている。性的同意年齢が引き上げられたこの規定は、一種の「割り切り」であって、政策的な側面があると言われている。このような場合は違法性阻却や責任阻却、または検察官の裁量による不起訴が期待される[4]。

監護者性交等罪

18歳未満の者に対して、その者を現に監護する者(監護者)であることによる影響力があることに乗じて性交等をした場合には、監護者性交等罪(第179条第2項)に当たる。性交等の定義と法定刑は不同意性交等罪と同一である。

監護者

本条項の主体は、(18歳未満の者を)「現に監護する者」であり、真正身分犯である。「現に監護する者」の範囲に関しては、次の衆議院法務委員会での政府参考人の答弁(抄)によれば、以下の場合が想定されている。

2017年(平成29年)6月7日衆議院法務委員会での林眞琴政府参考人の答弁[52]

…監護するというのは、民法八百二十条に親権の効力と定められているところと同様に監督し、保護することをいいまして、十八歳未満の者を現に監護する者とは、十八歳未満の者を現に監督し、保護している者をいいます。

本罪の現に監護する者に当たるか否かは個別の事案における具体的な事実関係によって判断されることとなりますが、民法における監護の概念に照らしまして、現にその者の生活全般にわたって、衣食住などの経済的な観点でありますとか生活上の指導監督などの精神的な観点、このようなものから依存、被依存ないし保護、被保護の関係が認められ、かつ、その関係に継続性が認められるということが必要であると考えております。

(中略)例えばスポーツのコーチでありますとかあるいは教師など、こういった者についてはやはり通常は、生徒等との間に生活全般にわたる依存、被依存ないし保護、被保護の関係が認められないことから、現に監護する者に当たらない場合が多いと考えております。

最高裁判所は、2025年(令和7年)1月27日付の決定にて、交際中の母親(監護者)に娘を説得させて被告との性交に応じさせた内縁の夫に関して、被告人は、本件児童の監護者ではないと判ずる一方で、「監護者の身分のない者が、監護者と共謀して、監護者であることによる影響力があることに乗じて当該18歳未満の者に対し性交等をした場合、監護者性交等罪の共同正犯が成立する」旨の判断をし、本罪の身分犯の共犯を認めた[53][54]。

影響力

「影響力があることに乗じて」については、前記と同じの答弁(抄)によれば、以下の場合が想定されている。

2017年(平成29年)6月7日衆議院法務委員会での林眞琴政府参考人の答弁[52]

乗じてとの用語でございますが、...現に監護する者であることによる影響力が一般的に存在し、当該行為時においても、その影響力を及ぼしている状態で性的行為を行うということを意味します。...性的行為を行う特定の場面におきまして、監護者からこの影響力を利用する具体的な行為がない場合でありましても、このような一般的かつ継続的な影響力を及ぼしている状態であれば、被監護者にとっては監護者の存在を離れて自由な意思決定ができない状態であると言えます。

その上で、被監護者である十八歳未満の者を現に監護し、保護している立場にある者がこのような影響力を及ぼしている状態で当該十八歳未満の者に対して性的行為をすることは、それ自体が被監護者にとって当該影響力により被監護者が監護者の存在を離れて自由な意思決定ができない状態に乗じていることにほかならないと言えます。 よって、乗じてと言えるためには、性的行為に及ぶ特定の場面において影響力を利用するための具体的な行為は必要なく、影響力を及ぼしている状態で行ったということで足りると考えております。

結果的過重犯

統計

不同意性交等の認知件数など[55][56][57]
年 認知件数 検挙件数 検挙率 検挙人員 身柄率 起訴数 起訴率 起訴猶予率 一審全部執行猶予
全体 20歳未満
2020 1,332 43.4% 1,297 97.4% 1,177 55.8% 502 37.0% 14.1% 56
2021 1,388 44.9% 1,330 95.8% 1,251 57.6% 455 32.4% 19.7% 34
2022 1,655 41.6% 1,401 84.7% 1,339 57.0% 481 32.1% 16.5% 29
2023 2,711 41.3% 2,073 76.5% 1,875 56.7% 653 33.4% 20.2% 37
2024 3,936 49.4% 3,376 85.8% 3,086 58.0% 1,165 35.5% 24.4% 165

※なお、警察統計では、同一人が複数の罪を犯した場合、原則として法定刑が最も重い罪について1人として計上される[58]。検察統計では、同一の被疑者について複数の罪に関する事件を異なる時期に受理した場合、受理ごとに1人として計上される[59]。

2023年7月13日に改正刑法が施行され、強制性交等罪等の構成要件が改められ、不同意性交等罪等となった。警察庁の統計では、2023年7月12日以前に発生した事件については強制性交等に係る数値を計上している。警察庁は、構成要件の変更や被害申告・相談をしやすい環境の整備など様々な要素があるため、単純な経年比較はできないとしている[60]。

その他、既遂・未遂別、年次別・都道府県別、認知の端緒別、発生時間帯別、発生曜日別、発生場所別、犯罪供用物・犯行手段別などの統計については、警察庁の犯罪統計資料を参照。

過去の類型

ここでは、過去に規定されていた犯罪類型の法的観点からのそれぞれの罪の概要について述べる。改正の経緯については、後述の節を参照のこと。

強姦罪と強制性交等罪、不同意性交等罪の違い
罪 適用期間 構成要件 公訴時効 親告罪 有期懲役 廃止 新設
(a)
罪名:手段・状況
(b)
性行為
(c)
被害者
(d)
性交同意年齢
強姦罪
(第177条)

準強姦罪
(第178条)
1908年-
2017年
強姦罪:「暴行・脅迫」を用いる

準強姦罪:「心神喪失・抗拒不能(抵抗ができない状態)」にする/乗じる[61][62]
男性器の挿入が条件[63]
姦淫(男性器を女性器に挿入する)[61]
被害者は女性、加害者は男性のみ[61] 13歳
13歳未満は、
(a)の要件なし、
相手が同意していても処罰の対象
10年 親告罪
(被害者が告訴しなければ、検察は事件を起訴できない)[61]
2-15年(1908-2004年)

3-20年(2005-2017年)
強制性交等罪(第177条)

準強制性交等罪(第178条第2項)
2017年-
2023年
強制性交等罪:「暴行・脅迫」を用いる

準強制性交等罪:「心神喪失・抗拒不能(抵抗ができない状態)」にする/乗じる[61][50]
男性器の挿入が条件[63]
性交、肛門性交または口腔性交(男性器を女性器や肛門、口腔内に挿入する/させる)[61][64]
性別を問わない(女性以外も被害者に、男性以外も加害者に)[61] 13歳
(〃)
10年 非親告罪
(事件の認定をもって、検察は事件を起訴できる)[61]
5-20年 法定刑の引き上げに伴い「集団強姦罪」「集団強姦致死傷罪」を廃止[61] 「監護者性交等罪」「監護者わいせつ罪」
18歳未満の子どもを監護(生活全般を支える)する親や児童養護施設職員など、その影響力に乗じて性交・わいせつ行為をした者を処罰できる[61]
不同意性交等罪(第177条) 2023年- 不同意性交等罪:「8つの行為や状況」または「わいせつな行為ではないと勘違いさせたり、人違いさせる/していること」により「被害者が同意しない意思を表すことが難しい状態にする/乗じる[61] 性交、肛門性交または口腔性交に加えて、体の一部(指など)や物を、膣や肛門に挿入する行為も「性交」扱いに[12] 性別を問わない[2] 16歳
13未満は、(a)の要件なし;
13-15歳は、5歳以上年上の加害者は(a)の要件なし、
相手が同意していても処罰の対象[2]
15年 非親告罪 5-20年 〔強制性交等罪と準強制性交等を統合〕[2] 「性的面会要求罪」「性的姿態撮影罪」[2]

2017年までの類型

強姦罪

暴行又は脅迫を用いて13歳以上の女子を姦淫、または、13歳未満の女子を姦淫することを内容とする犯罪である。法定刑は3年以上20年以下(2004年改正以前は2年以上15年以下)の懲役。

姦淫とは、男性生殖器を女性生殖器に挿入すること、つまり性交であり、現在の性交等よりも範囲が限られていた。

強姦罪は真正身分犯(構成的身分犯)である(最判昭和40年3月30日刑集19巻2号125頁)ので、原則として加害者は男性であり、女性は強姦罪の加害者になりえない(女性は単独で直接正犯となりえない)。一方、刑法65条1項により、女性が加害男性と共謀した場合には強姦罪の共犯となりうる(最高裁判所昭和40年3月30日判決[65])。

強姦罪の客体(被害者)は女性に限定されていた。この点に関して、刑法177条の規定が憲法14条1項の法の下の平等に反しないか争われた裁判では、最高裁判例は違憲ではないとしている(最高裁判所昭和28年6月24日判決[66])。

強姦に着手し、これを遂げない間に相手を殺害した直後、引き続き姦淫を遂げたときは、相手が既に死亡していても、強姦については既遂罪が成立する(大阪高等裁判所昭和42年5月29日判決[67])。

強姦罪の暴行・脅迫については「相手方の反抗を著しく困難にする程度のものであれば足りる」として、強盗罪の場合のような、相手方の反抗を不能にする程度までの暴行・脅迫でなくともよいとする(最高裁判所昭和24年5月10日判決[68])。相手方が13歳未満の女子の場合は、脅迫・暴行がなく、または同意があったとしても強姦罪を構成する(刑法177条後段)。判断能力の未熟な青少年を法的に保護する趣旨である[69]。

準強姦罪

暴行・脅迫によらない場合も、女性の心神喪失・抗拒不能に乗じ、又は女性を心神喪失・抗拒不能にさせて姦淫した場合は、準強姦罪が成立した(刑法178条2項)。法定刑は強姦罪と同様。

心神喪失とは、精神的な障害によって正常な判断力を失った状態をいい、抗拒不能とは、心理的・物理的に抵抗ができない状態をいう。睡眠・飲酒酩酊のほか、著しい精神障害や、知的障害にある女性に対して姦淫を行うことも準強姦罪に該当する(福岡高裁昭和41年8月31日判決[70])。

集団強姦罪

2人以上の者が共同して強姦(準強姦含む)した場合、集団強姦罪として法定刑が加重される。なお、集団強姦罪の場合は、実際に性行為に参加していなくても、その場にいれば成立する。法定刑は4年以上20年以下の懲役。2004年に新設、2017年廃止。

結果的加重犯(2017年までの類型)

上記の罪又はその未遂罪を犯し、よって人を死傷させた場合には結果的加重犯として刑が加重される。強姦致死傷罪、準強姦致死傷罪は無期又は5年以上20年以下の懲役(平成16年改正以前は無期又は3年以上15年以下の懲役)、集団強姦致死傷罪は無期又は6年以上の懲役であった。

2017年から2023年までの類型

強制性交等罪

13歳以上の者に対し暴行又は脅迫を用いて人に性交等を強い、また暴行・脅迫の有無を問わず13歳未満の者と性交等をすることを内容とする犯罪である。法定刑は5年以上20年以下の懲役。旧強姦罪。

被害者、加害者ともに性別不問である。

性交等とは「性交、肛門性交又は口腔性交」である。本罪での「性交、肛門性交又は口腔性交」のそれぞれについては文理上定義はなく、判例も2018年(平成30年)時点で不明であるが、次の衆議院法務委員会での政府参考人の答弁(抄)によれば、以下の場合が想定されている。

2017年(平成29年)6月7日衆議院法務委員会での林眞琴政府参考人の答弁[52]

まず、性交とは、膣内に陰茎を入れる行為をいいます。肛門性交とは、肛門内に陰茎を入れる行為をいいます。また、口腔性交とは、口腔内に陰茎を入れる行為をいいます。

本条におきましては、誰の陰茎を誰の膣内、肛門内、口腔内に入れるかについては文言上限定しておりませんので、自己の膣内等に被害者の陰茎を入れる行為を含むと解することができると考えて用いておるところでございます。

したがいまして、今回の法案における性交、肛門性交または口腔性交とは、相手方の膣内、肛門内もしくは口腔内に自己の陰茎を入れる行為のほかに、自己の膣内、肛門内もしくは口腔内に相手方の陰茎を入れる行為を含むものであると考えております。

判例が不明のため構成要件該当性は不明であるが、この答弁の定義によった場合には、加害・被害側を問わず、行為者が男女間、または男性同士で、陰茎を膣、肛門もしくは口腔に入れ、または陰茎を膣、肛門もしくは口腔に入れさせた場合が対象となる。よって、オーラルセックス行為の内、フェラチオ行為でも加害・被害側を問わず対象となるが、クンニリングス行為の構成要件該当性、行為者が女性同士の場合の構成要件該当性、またフェラチオ行為についても、口腔内に陰茎を没入させず、舌で舐める等の行為に留まる場合の構成要件該当性については、この答弁においては明言されておらず、議論がある[71]。

また、法制審議会第175回会議「性犯罪の罰則に関する検討会」における解釈では、「入れさせた」場合につき「陰茎を自己もしくは第三者の膣、肛門もしくは口腔に入れさせた」としている[72][73]。

被害者が13歳未満の者の場合は、脅迫・暴行がなく、または双方の同意があったとしても強制性交等罪を構成する。

準強制性交等罪

暴行・脅迫によらない場合も、心神喪失・抗拒不能に乗じ、又は心神喪失・抗拒不能にさせて性交等をした場合には、準強制性交等罪に当たる(刑法178条2項)。被害者が酒や薬物等で抵抗できない状態にされている際に課される[74]。課される法定刑は強制性交等罪と同様。旧準強姦罪。

結果的加重犯(2017年から2023年までの類型)

上記の罪又はその未遂罪を犯し、よって人を死傷させた場合には結果的加重犯として刑が加重される。強制性交等致死傷罪、準強制性交等致死傷罪ともに無期又は6年以上20年以下の懲役であった。

性犯罪に関する刑法改正の経緯

法務省

明治時代に定められた性犯罪に関する刑法は、性被害当事者が声を上げ、その声を各方面に働きかけた専門家や議員によって改正が実現されてきた[61][75][76]。

年表

  • 1880年(明治13年)、旧刑法に強姦罪(第348条・349条)が制定された[77][78]。
  • 1907年(明治40年)、現行の刑法が制定され、強姦罪が規定された(性犯罪処罰規定の基本的な構成要件は2017年まで維持)[79][50][77]。
  • 2004年(平成16年)、懲役の下限を2年から3年に引き上げた[80]。衆参両院の法務委員会の附帯決議で、性犯罪の在り方についてさらなる検討が求められた[81]。
  • 2010年(平成22年)、第3次男女共同参画基本計画で女性に関するあらゆる暴力の根絶が掲げられ、2015年末までに強姦罪などの「非親告罪化」「性交同意年齢引き上げ」「暴行・強迫を要する構成要件の見直しが提案された[81][82]。
  • 2017年(平成29年)、1907年の制定以来110年ぶりに大幅改正され、強姦罪から強制性交罪に改称された[79][64]。この改正刑法には、多くの課題が残されたとして、施行後3年を目途に実態に即して見直しを行うという附則が付いた[79][83][84]。
  • 2019年3月(平成31年)、性犯罪に関する無罪判決が1ヶ月に4件相次ぎ、各地で性暴力に抗議する「フラワーデモ」が始まった[85][86][87]。
  • 2020年(令和2年)、2017年改正法附則の3年後の見直しに従い、「性犯罪に関する刑事法検討会」が法務省内に設けられ、性被害当事者団体『一般社団法人Spring』の山本潤理事も委員になった[88][89][50]。
  • 2021年(令和3年)、性暴力被害者の支援などに携わる13団体による「刑法改正市民プロジェクト」が、同意のない性行為を犯罪とする「不同意性交等罪」の創設を求める約6万1千人の署名を法務省に提出した[90][91]。
  • 2023年(令和5年)、強制性交等罪と準強制性交等罪を統合して不同意性交等罪に改称した[92][93]。この改正刑法については、5年後に性被害の実態や社会の意識、特に性的同意についての意識も踏まえて見直しを検討することや、「不同意性交罪」の公訴時効の延長について、被害申告の困難さに関する調査をするという附則が付いた[94][95][11][96]。

2023年改正概要

不同意性交等罪では、条文に「有効な同意」ができない8つの典型的な場面を例示した[97][75]。8つの類型には、「暴力・脅迫」だけでなく、「心身の障害がある場合」「アルコール・薬物を摂取している場合」「睡眠・意識不明瞭な場合」「拒絶する隙を与えない不意打ち」「恐怖・驚愕させた場合」「虐待による心理的反応がある場合」「地位・関係性が対等でない場合」が明記され[97][75][98]、それに類する行為により「同意しない意思の形成、表明、全う」のいずれかが難しい状態にさせたり、そうした状態に乗じたりして、性行為をした」場合は処罰される[99][95]。 「不同意性交等罪」という名称は、内心(不同意であったこと)のみを成立要件とはしていないが、「同意がない性行為は性犯罪になる」という性犯罪処罰規定の本質をメッセージとして伝えている[77][97][75]。被害者が性行為に不同意である客観的な状況を条文の中で明確に規定しているため、法の明確性を守りつつ、これまでは処罰ができなかった加害者に対して適切な処罰が出来るようになる可能性がある[77][100][75]。

不同意性交等罪では、男性器だけでなく、体の一部(指など)や物を膣や肛門に挿入することも「性交」扱いになった[11][12][13]。配偶者(夫婦)間の不同意性交等の罪が成立することも明文化された[101]。性的部位や下着などを盗撮したり拡散することを取り締まる「性的姿態撮影罪」(撮影罪)も新設された[95][102][103]。公訴時効は10年から15年に延長され、被害者が未成年の場合は被害だと認識できるまでに時間がかかることなどから、公訴時効の起点を18歳とする[104][105][106]。

大人から子どもへの、地位や信頼を利用した性暴力への対策も強める[104][105]。性的行為の意味を理解し同意ができるとみなす「性交同意年齢」を13歳から16歳に引き上げ、16歳未満と性的行為を行った場合は、同意の有無に関わらず処罰の対象になる[104][105][107]。ただし、13 - 15歳の場合は、5歳以上年上の者が処罰の対象になる[104][105]。16歳未満をわいせつ目的で金銭提供を約束するなどして手なずけ、会うように仕向けたり、性的な自撮り画像などを送らせることを取り締まる「性的面会要求罪」も新設された[95][102][103][105]。強制わいせつ罪(刑法第176条)と準強制わいせつ罪(刑法第178条)も統合し、罪名を「不同意わいせつ罪」(刑法第176条)に改めた[104]。

1907年の制定(強姦罪)

1907年の強姦罪制定時は、加害者は男性に限られ、被害者は女性とされていた[79][64]。女性は結婚相手以外の人と性交をしてはいけない「姦通」といった概念があり、家制度を守るために、「貞操」に対する罪として捉えられていた[注釈 1][79][77][109]。性は、長らく「権利の問題」ではなく、家父長制や家族といった「あるべき規範」に縛られ、性暴力は「あってはならないことがおこってしまった」という観点から、被害者が責められ、告発しにくい状況があった[79][77]。戦後は、「性的自由」の問題とするのが一般的となったが、「強姦」被害者の対象を女性のみにし、男性を含めないのは、女性の貞操への意識を残した差別的取り扱いではないかなどの批判もあった[注釈 2][79]。

2004年の改正

  1. 強姦罪の法定刑の下限を、懲役2年以上から3年以上に引き上げた[80]。
  2. 集団強姦罪が新設された[111][61][112]。単独犯の強姦罪は親告罪で法定刑は3年以上であるのに対し、集団強姦罪は被害者の訴えがなくても検察官が起訴できる非親告罪であり、4年以上の懲役とした[111][61][112]。
  • 衆参両議会の法務委員会の附帯決議で、性犯罪の在り方についてさらなる検討が求められた[81][50]。

集団強姦等罪(2004年創設、2017年廃止)

2004年の改正の際に、強姦罪等よりも重い刑を科すために創設されたが、2017年の改正で、強制・準強制性交等罪が非親告罪になり法定刑が5年以上に引き上げられて、集団強姦罪(旧刑法178条の2)の法定刑の4年以上を超えたため、廃止された[81][111][61]。集団強姦等致死傷罪(旧刑法181条3項。無期または6年以上の懲役)も廃止され、強制性交等致死傷罪(刑法181条。無期または6年以上の懲役)に含められた[81][113]。

集団強姦等罪は、2003年5月18日のインカレサークルの集団強姦事件であるスーパーフリー事件を受けて、2004年の刑法改正で創設された[114][112]。2人以上の者が共同して強姦(準強姦含む)した場合に適用され、性別不問で実際に性行為に参加していなくても、その場に居れば刑罰が成立していた[115]。

2010年の第3次男女共同参画基本計画における見直し

2010年、第3次男女共同参画基本計画で女性に関するあらゆる暴力の根絶が掲げられ、2015年末までに強姦罪などの「非親告罪化」「性交同意年齢引き上げ」「『暴行・強迫』を要する構成要件の見直し」が提案された[81][82]。

  1. 強姦罪の非親告罪化(告訴するかどうかの選択を迫られているように感じる被害者の心理的負担。被害者が低年齢の場合、告訴ができるかという懸念の存在)。
  2. 性交同意年齢の引き上げ(13歳以上であれば性交がどのような行為か理解し、同意を自分で判断できるかが不明。性犯罪は10 -20歳の若年層が最も被害にあいやすい[61])。
  3. 「暴行・脅迫」を用いることを要件とする強姦罪の構成要件の見直し(被害者が恐怖や加害者の社会的地位への配慮により抵抗しないこともあるため)。

国際的観点からの問題点

性暴力について、日本は国連自由権規約委員会を始め、多くの国際的な条約機関から法改正の勧告を受けている[116][117]。

  • 2008年11月、国連自由権規約委員会は、「男女間の性交渉のみをの強姦罪の対象としていること」「攻撃に対する被害者の抵抗が犯罪の要件にされていること」「裁判官が被害者に抵抗したことの証拠を求めること」「被害者が13歳未満である場合以外は告訴が必要なこと」「加害者が公正な処罰を免れること」「被害者の支援が実行されていないこと」「性暴力の専門的な研修を受けた医療者が不足していること」等に懸念を示した[118] [119] 。委員会は、刑法第177条の強姦罪の定義を拡大し、「男性に対する強姦」と共に「近親相姦」「性交渉以外の性的虐待」も重大な犯罪とし、「被害者が攻撃に対して抵抗したことを立証しなければいけない負担を取り除くこと」「被害者の告訴がなくても起訴できるようにすること」「裁判官や警察官などに対する性暴力についてのジェンダーに配慮した研修を行うこと」を求めた[119]。
  • 2014年、国連自由権規約委員会は、数ある問題点のうち「強姦罪の構成要件(攻撃に対する被害者の抵抗)の見直し」「性交同意年齢の引き上げ」「性犯罪の非親告罪化」について勧告した[116][117]。

2017年の改正(強制性交等罪に改称)

強姦罪から「強制性交等罪」、準強姦罪から「準強制性交等罪」に変更された。強制と準強制性交等罪の刑の重さ(量刑)は同じで、5年以上20年以下の有期懲役である[120][121][74]。

強制性交等罪(刑法第177条旧規定)は、「暴行・脅迫」を用いた13歳以上の者への性交や肛門性交、口腔性交(以下「性交等」)、13歳未満の者への性交等に対する罪である[120][121][74]。

準強制性交等(刑法第178条旧規定)は、被害者の「心神喪失」や「抗拒不能」な状況に乗じ、またはそのような状態にさせて性交等を行った場合に、「暴行・脅迫」がなくても罪に問えるものである[120][121][74]。準強制性交等の適用範囲は広く、「心神喪失」とは、アルコールや薬物・精神障害・失神・睡眠・泥酔などから、自身の性行為について正常な判断ができない状態にある場合をいい、「抗拒不能」とは、手足を縛られたり、催眠術・錯誤・畏怖の状態など、物理的・心理的に抵抗ができない状態にあった場合をいう[77][注釈 3]。準強制性交等罪は、強制性交等罪(177条旧規定、強姦罪)よりも「意思に反する性行為」を処罰する際に、広く適用できる条文だが、実際には強制性交等罪の適用が中心で、準強制性交等罪(準強姦罪)の適用は少数にとどまっている[77]。

強姦罪からの変更点

2017年、性犯罪に関する刑法が1907年の制定以来110年ぶりに大幅改正され、強姦を罰する強姦罪から、より包括的な強制性交等罪へと改正された[79]。この改正では、「女性以外の被害も対象にする」「懲役の下限を3年から5年に上げる」「被害者の告訴がなくても起訴できる(非親告罪化)」「監護者(親や養親)との性交同意年齢引き上げ」といった見直しが行われた[79][92][122]。なお、この改正刑法には「『暴行・脅迫』の要件が据え置かれた」「公訴時効が短い」「性交同意年齢が13歳で明治時代の刑法のまま」など、多くの課題が残されたとして、施行後3年を目途に実態に即して見直しを行うという附則が付いた[79][83][84]。

改正の要点は以下の通りであった[79][84][52][123]。

  1. 女性以外も被害者として認められるようになった[79][84][64]。強姦罪では「加害は男性、被害は女性」に限定されていたが[124]、強制性交等罪では、性別を問わず、他人に対して「男性器を膣や肛門、口腔内に挿入する/させる行為」をした場合は処罰されることになった[125][79][84]。強姦罪では、肛門性交や口腔性交に強姦罪は適用されず、刑が軽い強制わいせつ罪が適用されてきた[64][81][126]。これにより性差が撤廃されたとされ、附帯決議でも「被害の相談、捜査、公判のあらゆる過程において、男性や性的マイノリティに対して偏見に基づく不当な取扱いをしないことを研修等を通じて徹底する」という内容が明記された[63]。一方で、膣や肛門、口腔への「男性器の挿入」が犯罪の成立要件となっているため、指や器具など男性器以外の物を使った場合は、強制性交等罪は適用されない[127]。
  2. 厳罰化し、 法定刑の下限を懲役3年以上から5年以上に引き上げ、5年以上20年以下の有期懲役になった[61]。
  3. 非親告罪化し、被害者が告訴しなくても検察が事件を起訴できるようにした[79][113]。性犯罪を親告罪化していた理由は、被害者の名誉やプライバシーを保護することにあった[64]。しかし、被害者みずからが被害を訴えなければ加害者を処罰できないため、逆恨みなどを恐れ、訴えることが難しい状況が続いていた[63][64][61]。法改正で非親告罪に変わり、強盗などと同じく、被害者が意思を示しているかどうかにかかわらず、事件の認定をもって処罰ができるようになった[63][64][61]。
  4. 強姦罪の法定刑引き上げ及び非親告罪化により、「集団強姦等罪」を廃止した[111][61]。
  5. 「監護者性交等罪」「監護者わいせつ罪」を新設し、18歳未満の子どもを監護(生活全般を支える)する親や児童養護施設職員などが、その影響力に乗じて性交・わいせつ行為を行った場合は、暴行や脅迫がなくても処罰されるようになった[79][64]。
  6. 罪名が強姦罪から強制性交等罪に改定されたことに伴い、刑法178条2項の「準強姦罪」(3年以上の懲役)は「準強制性交罪」(5年以上の懲役)に、刑法181条の「強姦致死傷罪」(無期または5年以上の懲役)は「強制性交等致死傷罪」(無期または6年以上の懲役)に、刑法241条の「強盗強姦罪」(無期または7年以上の懲役)は「強盗・強制性交等罪」(無期または7年以上の懲役)に、「強盗強姦致死傷罪」(死刑または無期懲役)は「強盗・強制性交等致死傷罪」(死刑または無期懲役)へと変更された[113][81]。

監護者性交等罪(2017年創設)

性虐待の実情を鑑み、関係性を利用した強姦の中でも特に被害者の拒否が難しいと考えられることや、その後の人生に与える影響の深刻さから、「監護者性交等罪(刑法179条2項)」「監護者わいせつ罪(刑法176条)」が新設された[129][79][130]。「監護者」とは、親などの生活や生計を共にし、保護・被保護、依存・被依存の関係にある者を監護する者のことである[79]。これにより、監護者(実親や養親、養護施設の職員など子どもを監護する立場の人)が、18歳未満の子どもが自分の言葉を信じていることを利用したり、生活の面倒をみているという立場を利用して性交やわいせつな行為をした場合は、「暴行・脅迫」がなく、子どもの同意がある場合も罪に問われることになった[129][79][130]。刑法改正前は、親子などの監護者と被監護者の間では、「暴行・脅迫」がない場合は強姦罪等よりも量刑が軽い児童福祉法違反(淫行、10年以下の懲役または300万円以下の罰金)で処分される例が多かったが、この法改正により強制性交等罪と同じく5年以上20年以下の有期懲役という重い罰則を科すことが可能となった[81][131][132]。ただし、「監護者」は、同居して子どもの身の回りの世話をしている者に限定されており、その範囲が非常に狭いことが指摘されている[81][130]。部会における議論では、被害者に対して強い影響力を持つ教師、スポーツ指導者、雇用主等も対象に含めるべきとの意見が出たが、具体的な事情を考慮すると規定が曖昧化しかえって抜け道が生じかねない等の理由から、改正法案には含まれなかった[81]。被害者団体や支援者らは、そもそも「『暴行・脅迫要件』の立証が課せられる『性交同意年齢(13歳、性行為への同意を自分で判断できるとみなす年齢)』が他国と比べても低すぎること」「監護者以外であっても、地位・関係性を利用した性加害をした場合には、『暴行・脅迫』が無くても罪に問えるように法改正すること」などを求めている[130]。2019年のフラワーデモのきっかけとなった事案では、父親が精神的支配下に置いていた娘(19歳)の意思に反して性交し、「暴行・強迫要件」による「抗拒不能」にあたらないとして1審で無罪判決になっている[87][133]。

この監護者性交等罪の創設にあたっては、日本弁護士連合会(日弁連)が、「親子間で真摯な性交(子どもがその意味を理解し同意する性交)がないとは言えない」として反対し、被害者支援57団体は「子どもは保護して育ててもらっている親にノーと言えるのだとさえ思っていない」「何をしているのかを理解できず、怖さのあまり、抵抗することも拒否を示すこともできなかった」と抗議を行った[129][61][134]。

2017年の改正の課題

  • 強制性交等罪の「暴行・脅迫」の要件が据え置かれた[83][121][135]。強制性交等罪は、13歳未満の場合は、「暴行・脅迫」がなくても、その事実が立証できれば犯罪となるが[83][121][135]、13歳以上の場合には、「同意していないこと」に加え、加害者が「暴行や脅迫」して犯行に及んだことや、「抵抗できない状態(抗拒不能)につけ込んだ」ことを証明しなくてはならない[75][135][83]。また、犯罪が成立するには、加害者が「被害者の同意がないことや、抗拒不能を認識していること」が必要であり、この認識がなければ、故意が否定されて無罪となることがある[77][121][83][120]。この刑法では、どのような行動が犯罪となり、どのような行動なら犯罪とならないのかの基準が明確ではなく、裁判所は証拠から「経験則」に基づいて事実認定をするため、裁判官の「経験則」が異なると、同じ証拠でも異なる判決になっていた[136][137][138][121][120][139]。裁判官の判断が予測できないため、監視カメラや録音、病院の診察内容や診断書等の客観的な「暴行・脅迫」の強い証拠が無い場合、検察は起訴に消極的で、警察は被害届を受けることに消極的である[140][121][83][141][137][142][143][144][145]。性被害者の当事者団体「一般社団法人Spring」の調査では、事件を警察に相談した208人のうち、被害届が受理されたのは約半数の104人で、うち14人が検察で不起訴になり、裁判で有罪になったのは8人だった[146]。性暴力救援センター「SARC」の調査ではセンターに相談した人のうち、警察へ被害届を出したり相談したのは半数以下であり、SARCが警察へ同行支援したケースでは、被害届の不受理が25%、不起訴5.5%、有罪判決2.7%で、被害届を受理しない理由では「暴行・脅迫要件の壁」が目立っていた[142][143]。法務省の調査では、不起訴処分(嫌疑不十分)になった548件のうち、強制性交罪の不起訴が380件で、内訳は「暴行・脅迫があったと認めるに足りる証拠がない(134件)」「暴行・脅迫が被害者の反抗を著しく困難にさせる程度であったと認めるに足りる証拠がない(54件)」などとなっていて、強制性交罪の不起訴のうち52%が「暴行・脅迫要件」を満たさずに不起訴になっていた[144][147][100]。
  • 公訴時効が短い。強制性交等罪の時効は10年だが、被害者が自分の経験を人に伝えられるまでには長い時間がかかる[79]。
  • 監護者の範囲が狭い[79][148]。日本には教師と生徒、上司と部下、医者と患者、宗教指導者と信者などの「地位・関係性を利用した性加害」を裁ける類型がないため、対等な関係性でない2者間の力関係が考慮されずに裁かれている[79][61][63]。「地位・関係性を利用した性加害」は、「居場所・仕事を失うかもしれない」などの不安から抵抗することが困難であり、暴行や脅迫がなくても性暴力を行えるという実態を踏まえる必要がある[79][61][63]。
  • 性交同意年齢(性行為の意味を理解し、同意を自分で判断できるとみなす年齢)が、明治時代の刑法のまま13歳で据え置かれた[135]。
  • 配偶者(夫婦)等間の「強制性交等罪」について明文化されていない[149][130]。
  • 「男性器の挿入」が条件で、指や器具、異物の挿入による性暴力が対象にならない[63][127]。実際に起きている性被害は、男性器を挿入されることだけではなく、特に性的マイノリティーの被害は、男性器が介在しないこともある[63]。当事者などは、「性器規定」を撤廃し、「指や器具等による性暴力」を規定することを求めている[63][127][150][151][63]。
  • 「障害に乗じた性暴力」を防ぐ規定がなく、準強制性交等罪の構成要件である「心神喪失・抗拒不能」に乗じたと解釈して、処罰されている[152]。しかし、障害によっては性暴力自体を認識できなかったり、立証することが難しく、施設関係者や指導的な立場の人との力関係が背景にあることもある[152]。発達障害や知的障害などのある人は性暴力に遭いやすく、障害のある人は、ない人の約2 - 3倍、性暴力を経験している[153][154]。性暴力被害者の支援団体は、「地位・関係性に基づく性犯罪として『被害者としての障害児/障害者』の概念を刑法に入れるよう」せめて「『準強制性交等罪』の『抗拒不能』の要件に『被害者が障害児/障害者であること』を盛り込むよう」求めている[155][152]。
  • 刑法改正にあたり、検討会の委員からは「性犯罪に対する対応としては刑法の規定の改正以外にもいろいろある、というより、むしろそちらの方が中心であるべき」「犯罪への対策、その最善のものは社会の在り方のほうを変えること」という発言があり、刑法改正に加え、性暴力防止のための教育、被害者支援のためのワンストップ支援センターの拡充や刑事裁判における被害者支援の充実等、社会の様々な場面での性犯罪対策が求められた[81]。

夫婦間の性的DV

ドメスティックバイオレンスの認識を広げるためのパープルリボン

2017年の法改正では刑法に明文化されなかったが、現状では夫婦間であっても、ドメスティックバイオレンス(DV、家庭内暴力)に該当する強制性交の罪が問われるという考え方が有力であり、内閣府は「『嫌がっているのに性的行為を強要する』『中絶を強要する』『避妊に協力しない』といったものは、夫婦間の性交であっても、刑法第177条の強制性交等罪に当たる場合があります(夫婦だからといって、暴行・脅迫を用いた性交が許されるわけではありません)」と説明している[156][157][140][158]。

戦前は「夫婦間で強姦罪は成立しない」とする否定説が通説であり、その後も家父長制よる女性差別的な価値観やプライベートな問題であることなどから、夫婦間の強制性交の問題が語られることは少なかった[140]。そのような中で、徐々に「強姦罪が夫婦間で成立するか」という議論がされ、裁判でも争われるようになった[140][注釈 4]。

2023年の法改正で、配偶者(夫婦)間の不同意性交等の罪が成立することが、刑法に明文化された[101]。

2019年3月の無罪判決

フラワーデモ東京の参加者が作ったメッセージボード

2019年3月、性犯罪に関する無罪判決が4件相次ぎ、刑法の要件が厳しすぎるため加害者が罪を免れているとして、各地で被害の実態を訴える「フラワーデモ」が始まるきっかけとなった[85][87][161]。特に、19歳の実娘への性的暴行罪が問われた判決では、娘の同意がないと認めながら無罪としたことから大きな波紋を呼んだ[87][83][120]。この4件のうち1件は検察官が控訴せず無罪が確定したが、3件は控訴により逆転有罪となった[120][138][83][162]。

  • 3月12日、テキーラなどを大量に飲まされ、酩酊状態で性交をされた準強姦罪が、「女性は『抗拒不能』であったが、被告人は女性が抗拒不能であったことの認識がなく、性交について承諾ありと誤信した」として、故意が否定されて無罪判決になった[121]。2020年2月5日、控訴審が行われ、前回と同じ証拠で逆転有罪判決となった[121]。
  • 3月19日、静岡地方裁判所の裁判員裁判で審議された強制性交等致傷罪が、「被告人の暴行が女性を抵抗困難にした」と認定されたものの、「被告は女性が抵抗困難であったことの認識がなく、故意が認められない」として無罪判決になった[163][138][77]。この裁判では検察官が控訴せず、無罪が確定した[120][138][77]。
  • 3月26日、事件当時19歳の実娘が父親に性交をされた準強制性交等罪が、「娘の同意がなく長年の虐待で父親の精神的支配下に置かれていた」と認定されたものの「抗拒不能だったとはいえない」として無罪判決になった[87][83][120]。長女は、中学2年生の頃から性交を含む性的虐待を受け続け、殴る蹴るなどの暴行の存在も認定されていた[87][83]。2020年3月12日、控訴審が行われ、「娘は性的虐待を受け続けたうえ父親から学費や生活費の返済を迫られるなど、要求を拒否できない心理状態だった。性欲のはけ口にした卑劣な犯行で被害者が受けた苦痛は極めて重大で深刻だ」として逆転有罪判決となった[87][83][120]。父親は上告したが、棄却され有罪が確定した[87]。
  • 3月28日、事件当時12歳の実娘が父親に性交をされた強姦罪が、「被害者の証言は信用できない」として、行為があったこと自体が認められず、無罪判決になった[163][162]。2020年12月21日、控訴審が行われ、「1審は証拠の評価を誤り、不合理な認定をした」「卑劣で悪質な犯行で常習性も認められる」として逆転有罪判決となった[139][163][164]。父親は上告したが、棄却され有罪が確定した[139][163][77]。

「凍りつき」についての指摘

強制性交等罪の「暴行・脅迫要件」は、「性行為を犯罪として処罰するには、『相手が同意していないこと』に加えて、加害者が被害者に暴行や脅迫を加えるなどして、『抵抗できない状態につけこんだ』ことが立証されなくてはならない」とあり、司法の場では「被害者が抵抗できたはず」という考えが前提になっている[165]。しかし、実際に性暴力被害を受けたとき、「声が出せない」「体が動かない」「頭の中が真っ白になる」「記憶がない」という『凍りつき(フリーズ)』の反応がおこることが少なくない[165][84][141]。スウェーデンの緊急レイプセンターによると、被害者の7割の人は、恐怖で体が硬直するという調査がある[166]。また、被害を最小限に抑えるための防衛反応として、速やかに、あるいは積極的に行為に応じてしまう「迎合反応」が起こることや、身体から意識が切り離される「解離」が起こることもある[84][167][168]。戦うか逃げるか、凍りつくか、迎合、解離するかは、体の無意識の反応であり、理性や意志でコントロールできるものではないとされる[165][169][167][170][注釈 5]。

不同意性交等罪を求める動き

"イエス・ミーンズ・イエス"キャンペーンのロゴ
世界の法律における性的同意
  性犯罪の成否は「同意の有無」、夫婦間の強姦が違法
  性犯罪の成否は「暴行・脅迫の有無」、夫婦間の強姦が違法
  性犯罪の成否は「同意の有無」、夫婦間の強姦が合法
  性犯罪の成否は「暴行・脅迫の有無」、夫婦間の強姦が合法

法理論において、レイプおよびその他の性的暴力に対する立法には、主に以下の二つのモデルが存在する。

  1. 強制モデル このモデルでは、性的行為がレイプに該当するためには、強制、暴力、物理的な力、または暴力や物理的力による脅迫によって行われたことが必要とされる[171]。
  2. 同意モデル このモデルでは、性的行為がレイプに該当するためには、相手方がその行為に同意していなかったことが必要とされる。

強制モデルの主な利点は、虚偽のレイプまたは性的暴行の告発がなされにくい点にあり、その結果として、無実の被疑者の法的地位および社会的評価に対して一定の保護を与える点にある[172]。一方、同意モデルは、被害者の法的保護をより強化する代替案として提唱されており、性的行為を開始しようとする側に対して、相手が実際に同意しているかどうかを積極的に確認または否定する責任をより強く課し、同意が確認されない限り性的行為を控えることを求めるものである[173]。

2020年、日本学術会議は、「刑法改正にあたっては、国際人権基準に則り、諸外国の刑法改正を参考にして、少なくとも『同意の有無』を中核に置く規定(『No means No』型)に刑法を改める必要がある。その上で、「性的自己決定権』の尊重という観点から、可能な限り『Yes means Yes』型(スウェーデン刑法)をモデルとして刑法改正を目指すことが望ましい」と提言した[174]。

2021年2月10日、性暴力被害者の支援などに携わる13団体による「刑法改正市民プロジェクト」は、同意のない性行為を犯罪とする「不同意性交等罪」の創設を求める約6万1千人の署名を法務省に提出した[90][91]。現行の刑法では、「暴行・脅迫」や「心神喪失・抗拒不能」な状態がないと罪が成立しないため、被害者側は、「地位・関係性を利用した性犯罪」や「心身が硬直して動けなくなる」などの実態が理解されていないと批判し、「意思に反して」という点だけを構成要件とした「不同意性交罪」を求めている[175][176]。

2023年2月24日、法務省は改正案に関し、「強制性交罪」を「不同意性交罪」に罪名変更する方針を示した[177][178]。「意思に反して」という点だけで処罰する成立要件は「内心のみを要件にすると処罰範囲が曖昧になる」として見送ったが、要綱でまとめられた条文には「同意しない意思」との文言が使われ、被害者の意思も重視していることが示された[177][178]。このため、被害者側は実質的に同罪を具体化した条文にあたるとして罪名変更を要請し、法務省が検討を重ねていた[177]。

2023年の改正(不同意性交等罪に改称)

2023年2月3日、法制審議会の部会で、性犯罪の実態に合わせた刑法改正の要綱案がまとまった[179]。
2月24日、法務省は、「強制性交等罪」と「準強制性交等罪」を統合して「不同意性交等罪」に罪名変更する案を示した[177][180][181][182]。
3月14日、内閣は刑法改正案を閣議決定し、国会に提出した[183][77][184][185]。
6月16日、国会で法案が可決・成立し、6月23日に公布、7月13日に施行された[95][186][102]。

強制性交等罪・準強制性交等からの変更点
  • 罪が成立する8つの行為や状況を具体化し、自由な意思決定が困難な状態で行われた性的行為を処罰対象とすることを明確にした。この8つの行為や状況は、今までの「抗拒不能」要件の解釈として、それぞれの裁判例でゆるやかに解釈して処罰されていた事案を類型化し、判断基準となるよう明確な文言に書き出したものである[75][50][77][100]。「抗拒不能」の解釈は、裁判官や警察官によって大きな幅があったため、判決や被害届の受理などの対応がバラついていた[100][50]。処罰される範囲が広がったのではないが、条文の中で明文化することにより、警察官の被害届の受理、検察官の起訴、裁判官の有罪にする確率に影響を与え、処罰されるべきものが適切に処罰されるようになる可能性がある[100][50][77][75]。
  • 公訴時効の延長。被害にあってからすぐに訴え出るのが難しいという性被害の特徴を踏まえ、不同意性交等罪について、公訴時効が10年から15年に延長された[179][11]。被害者が未成年の場合は、被害だと認識できるまでにより時間がかかることなどから、時効の起点を18歳とする(例えば15歳で被害を受けた場合は、18歳+15年=33歳まで公訴が可能)[104][105][11][106]。
Map of the world's countries, with countries colored by age of consent
世界の性交同意年齢
  13   14   15   16   17   18   結婚しなければならない   州や行政区によって異なる/曖昧
  • 性交同意年齢の引き上げ。「性交同意年齢」(性行為を断る方法や、性行為のリスクに関する正しい知識を持っていると見なされる年齢)を、現在の「13歳以上」から「16歳以上」に引き上げた[179][187][184]。これにより、16歳未満の子どもと性的行為をすると、相手が同意していても処罰の対象になる[188]。ただし、13 - 15歳については同世代間の行為は罪に問わず、5歳以上年上の人が対象になる[184][179][11]。13歳未満に対して性的行為を行った場合は、以前と同様に、同意の有無に関わらず罪に問われる[179]。性交同意年齢の変更は、1907年に性犯罪の法律が定められてから初めてである[189]。
  • 体の一部(指など)や物の挿入も「性交」扱いになった[11][12][13]。強制性交等罪は、男性器を膣や肛門、口腔内に挿入する/させる行為を処罰対象としていたが、改正刑法では、「膣または肛門に身体の一部または物を挿入する行為」も性交と同じ扱いにすると定めている[11][13]。これにより、電車内の痴漢行為などで、相手の膣に指を入れた場合も不同意性交等の罪になり、5年以上の拘禁刑となる[134][89]。
  • 配偶者(夫婦)間の不同意性交等の罪が成立することが明文化された[101]。
  • 被害の聴取結果を録音・録画した記録媒体を、証拠として出せる特則がついた[134][77]。
  • 「性的面会要求罪」が新設された[75][134][190]。16歳未満の子どもに対してわいせつ目的で、「だましたり誘惑したり、お金を渡す約束などをして会うことを要求した場合や実際に会った場合」「性的な自撮り画像などを撮らせてSNSやメールなどで送るよう求めた場合」は罪に問われる[75][134][190]。面会や画像の「要求」で1年以下の拘禁刑か50万以下、実際に会ったり送らせた場合は2年以下の拘禁刑か100万以下の罰金刑になる[75][191]。ただし、被害者が13 - 15歳の場合は、5歳以上の年齢差を適用の条件としている[75]。
  • 性器や下着、性交の様子などを盗撮したり、拡散することを取り締まる「性的姿態撮影罪(撮影罪)」が新設された[95][103][105]。これまでは、各都道府県の迷惑防止条例違反で規制していたため、客室乗務員の航空機内での盗撮は、場所が特定できなければ取り締まることができなかった[192][193]。全国一律の法律になったことで摘発が容易になる[192][193][194]。罰則も3年以下の拘禁刑か300万円以下の罰金に統一され、盗撮画像などの提供や拡散も処罰の対象となる[194]。
  • 5年後に性被害の実態や社会の意識、特に性的同意についての意識も踏まえて見直しを検討することや、「不同意性交罪」の時効の延長について、被害申告の困難さに関する調査をするという附則が付いた[94][95][11][96]。

2023年の改正の課題

性犯罪の被害者などは、改正を評価する一方、性暴力のない社会にするために、「何をしたら加害となり、何をされたら被害なのかについての教育の推進」「加害者への再犯防止のための支援」や、被害者に適切な支援を提供するための「相談窓口の周知」などの必要性も指摘している[195][189][105][196]

  • 公訴時効が10年から15年に延長されたが、被害者が自分の経験を認めたり、人に伝えられるまでには長い時間がかかるため、公訴時効を撤廃するか、より長くするべきと訴えている[179][104][93]。海外には性犯罪の一部について公訴時効を撤廃した国もあり、日本でも殺人罪には公訴時効がない[134][61]。
  • 性交同意年齢を「16歳以上」に引き上げる一方、13 - 15歳の場合は「5歳以上の年長者」を要件としていることについて、「5歳差は大きすぎる」という指摘や、「同年代でも、スクールカーストによる性的いじめがあり、こうした現状を考慮する必要があるのではないか」という指摘がある[197][179][50][198]。ただし、附帯決議では「5歳差は両者に対等な関係がありえないと考える年齢差であり、5歳差未満であれば対等な関係であるとするわけではない」としており、5歳差未満であっても8類型のどれかに当てはまる場合がある[94]。被害者団体は、5歳差要件の運用で当罰性のある行為が全て処罰されるかを調査し、必要であれば見直しを行うよう求めている[197]。なお法制審議会では形式的な要件ではなく、「未熟さを利用して」といった実質的な要件も出ていた。またより厳しくすることについて、1%でも対等な関係が仮にあった場合、それを刑法を使って罰せるかという問題だと思うと述べられていた[199]。
  • 8類型の1つに留まった「地位・関係性を利用した性犯罪」については、「教師と生徒」「障害者と介護者」「施設の職員と入所者」「宗教指導者と信者」など、明らかに対等性を欠く状況につけこんで性行為をする人について、対象となる関係性を明記した処罰類型の新設を求めている[134][50][197]。
  • 障がいがある人への性犯罪規定は、それぞれの障がい特性を踏まえた法設計が必要であるため、その創設に向けた議論の継続を求めている[197][200]。
  • 「被害者が同意しない意思を表すことが難しい状態」にさせた場合は罪に問えるとしたことについては、積極的な同意を要件とする「Yes means Yes」型の刑法を目指して、さらなる見直しを求めている[179][197]。
  • 構成要件が変わっても、証拠がなければ有罪にならないことは変わらないため、客観的な証拠を残すための検査キットや24時間証拠採取ができる医療機関、ワンストップ支援センターにおける証拠保全体制の強化など、被害者支援の拡充を求めている[50][201]。また、立証責任が検察官にあることも変わらないため、検察官が丁寧で慎重な捜査・審議を行い、冤罪を防ぐための取締りの可視化や弁護人の立会権、勾留期間の短縮などが求められている[50]。
  • 刑事弁護士は、新たに設けられた8項目には、要件が明確なものと曖昧なものが混ざっているとして、「処罰される対象が事実上広がり、えん罪を生むおそれがある」と懸念を示している[179][202]。

被害の実態

強制性交等の認知件数[203]
年度認知件数被疑者被害者
男女男女
2021年1,3881,2447581,330
2020年1,3321,1734721,260
2019年1,4051,1726501,355
2018年1,3071,0844561,251
2017年1,1099064151,094
2016年98987140989
国連薬物犯罪事務所(UNODC): 人口10万人あたりのレイプ報告件数(2011年)。左から2番目が日本

スウェーデンでは2018年の法改正により、暴行・脅迫要件に加えて、任意(自発的)に参加していない者に対する性的行為が犯罪とされた[204][205]。この改正は、「イエス」なき性交を犯罪とするものとして報じられている[206][86]。また、被害届を出しやすい環境も整っている[207]。ストックホルムのレイプ救急センターは365日24時間体制で被害者を受け入れ、被害から10日後までレイプキットによる検査ができる[207]。検査結果や治療、カウンセリングを受け、一連の処置が終わった後に警察へ届け出を出すかどうかを考えることができる[207]。男性被害者専門のカウンセラーが対応する男性のレイプ救急センターも併設され、トランスジェンダーの被害者も受け入れている[207]。子どもへの性教育も義務化され、危険から身を守る知識を学校で得られるよう、幼稚園の頃から、胸や性器といった他者が触れてはいけない部分があると教えている[86][208]。国際的に性教育は基本的人権の1つとされ、性行為や避妊方法、性暴力、性感染症、ジェンダー論など、包括的な性教育をおこなう国は少なくない[209][132]。

被害者になった場合

レイプキット
緊急避妊薬「ノルレボ錠」

脚注

注釈

  1. ↑ 他人ノ妻ヲ強姦シタル行為ハ、其ノ貞操ニ対スル本夫ノ権利ヲ侵害スルモノナレハ、本夫モ亦被害者トシテ告訴ヲ為スノ権ヲ有ス。(大審院判決 大正 5.7.1 刑録 22.1194 )[108]
  2. ↑ 「(強姦罪の)『客体』は、何故、女性だけなのか。男性の性的自由は強制わいせつ罪 (176条)で保護していると説明されるが、女性は176条と177条の双方で客体となる。何故、差を設けるのか」「保護法益を『女性の貞操』と考えれば、以下のとおり説明は容易である」「『客体』及び『実行行為』については、保護法益は『将来男性に嫁ぐ無垢な女性の処女性、夫に従属する貞淑な妻』の保護であり、処女性を失わせる又は妊娠の可能性のある性器結合は、それ以外の性的侵害行為よりも強い非難に値する。これに対し、男性被害や同性間被害は強制わいせつ罪で処罰すれば足りる」[110]。
  3. ↑ 加害者が自分は医師であると偽り、病気の治療のためには加害者と性交を行う他はないと説明し、心理的に追い込んだ上で性交を行った事件や、牧師が信者の少女らに対して、従わなければ地獄に堕ちると説教し、畏怖させた上で性交を行った事件が、準強姦罪として認められている[77]
  4. ↑ 1986年、鳥取地方裁判所判決は、夫婦間における強姦について「婚姻が破綻して夫婦たる実質を失い、名ばかりの夫婦にすぎない場合にはもとより、夫婦間に所論の関係はなく、夫が暴行又は脅迫をもって妻を姦淫したときは強姦罪が成立する」と認定した[159][160]。2007年に東京高等裁判所は、「暴行・脅迫を伴う場合には、適法な権利行使とは認められず、強姦罪が成立する」と判決した[140]
  5. ↑ 2021年12月に出版された『なぜ私は凍りついたのか ポリヴェーガル理論で読み解く性暴力と癒し』の著者は、「被害に遭ったときに抵抗できたかどうかは、人間の生理的反応であり、それを理解してもらうことが、性暴力についての刑法改正の突破口にもなりうる」と述べている[165]

出典

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関連項目

参考文献

外部リンク

被害者になった場合
性犯罪