あかりからのまちづくり

ウィキペディアから、無料の百科事典

あかりからのまちづくりは、地域の夜間環境を手がかりとして、住民、事業者、行政、専門家などが地域の課題や資源を検討する取り組みである。照明の社会実験や環境整備を通じて、夜間の光を地域づくりに生かす。照明器具の設置や夜景の演出に限らず、地域の安全、交流、商業、歴史、生活環境などを検討する契機とする点に特徴がある。照明学会誌では、照明社会実験から整備計画につなげる取り組みが「まちのあかり」として報告されている。[1]

概要

地域の夜間環境を検討する際には、実際にまちを歩き、暗さや見通し、人の気配、建物や空地の使われ方などを確認する方法がある。住民や商店などが参加する照明社会実験を行い、その結果をもとに、地域に必要な光や場所の使い方を検討する。実験を一時的な催しで終わらせず、整備計画や合意形成、維持管理・運営の体制につなげる取り組みも報告されている。[2]

道路や公共施設だけでなく、民有地、店舗、住宅、空地などを含めて地域の夜間環境を検討する事例もある。行政と民間の関係者が夜の環境について話し合い、整備や維持管理の役割を検討することは、地域参加の一つの形である。特定非営利活動法人まちあかり景観協会は、地域住民の意識向上や地域景観の再認識、防犯性の向上を目的とする活動や、官民への啓発を目的とした社会実験を紹介している。[3]

一戸一灯運動と地域参加

一戸一灯運動は、夜間に各家庭や事業所の門灯・玄関灯を点灯し、地域の防犯に役立てることを目的とする運動である。自治体は、各家庭の点灯を、自宅の防犯だけでなく住民が地域の防犯に参加する取り組みとして紹介している。個々の灯りによって地域の暗がりを減らすことに加え、防犯活動への参加を呼びかける意味もある。[4][5]

一戸一灯運動は、家庭や事業所が日常の灯りを通じて地域の環境に関わる方法の一つである。警察庁が紹介する地域活動の事例では、一戸一灯運動が住民や事業者の参加する自主防犯活動として取り上げられている。[6]

事例

岩手県大野村

岩手県大野村(現・洋野町)では、まちづくりの一環として光環境整備が行われた。照明学会の発表では、道路だけを照らすのではなく、民有地を含む街路周辺の不安感を軽減し、街全体を明るく感じさせることを基本とした計画が報告されている。光の役割は、空間を認識するための光、生活の光、歴史の光に整理された。[7]

ぼんぼり光環境計画による事例紹介では、住民参加型の照明実験後に街路灯設置委員会が発足し、その後、空地や空家の活用なども扱うまちづくり委員会へ移行したとされる。[8]

横浜市元町仲通り

横浜市の元町仲通りでは、街路照明計画に向けた検討が行われた。照明学会誌には、街路の光環境を通りのあり方と関連づけて考える事例として報告されている。[9]ぼんぼり光環境計画による事例紹介では、住民参加の実験や住宅前の光を通りの環境に生かす取り組みも説明されている。[10]

仙台市長町地区

仙台市長町地区では、あすと長町エリアと長町商店街エリアの回遊を促すため、2023年12月にイルミネーションと連携した光の実験が行われた。JR長町駅北側の高架下歩道にLEDキャンドルを設置して「光の小径」とし、旧国道4号沿道の店舗に設置した「光のツリー」を巡る企画などを実施した。仙台市は、この取り組みを長町商店街エリア内の回遊促進を検証する実験として、街並みの将来像にまとめている。[11]

気仙沼市内湾地区

宮城県気仙沼市の内湾地区では、東日本大震災からの復興に際して、内湾地区復興まちづくり協議会が設立された。復興庁の事例紹介によると、住民、事業者、行政、専門家などが防潮堤の計画やデザイン、海への眺望と安全性の両立について協議し、住民側からも計画案を提案する過程を通じて合意形成が進められた。[12]

内湾地区では2016年から2017年にかけて、夜間の避難誘導と地域の景観を両立させることを目的とした照明社会実験が行われた。東京都市大学小林研究室による報告では、仮設照明を用いて夜間の光環境を示し、避難路の認識や沿岸部の見え方を検証したとされる。[13]

ぼんぼり光環境計画が公開するガイドラインは、「官民共同」「みんなで造る内湾の景観」を掲げ、公共・民間の管理区域をまたいで夜間環境の目標を共有する方針を示している。[14]

気仙沼市八日町

気仙沼市八日町では、地域のまちづくり関係者、大学、照明計画の専門家などが関わる住民参加型の照明社会実験と環境整備が行われた。ぼんぼり光環境計画による事例紹介では、民家や民有地に照明を設置し、周辺環境や防犯性の向上を目指した取り組みとされている。各戸の光を地域の夜間環境に生かす点で、一戸一灯運動と共通する面がある。[15]

関連項目

脚注

  1. ↑ 小林茂雄、角舘政英、若山香保、西森陸雄「高台避難誘導を促進する「まちのあかり」―照明社会実験から始める整備計画」『照明学会誌』第98巻第4号、2014年、176–180頁、doi:10.2150/jieij.98.176。
  2. ↑ 小林茂雄、角舘政英、若山香保、西森陸雄「高台避難誘導を促進する「まちのあかり」―照明社会実験から始める整備計画」『照明学会誌』第98巻第4号、2014年、176–180頁、doi:10.2150/jieij.98.176。
  3. ↑ “特定非営利活動法人 まちあかり景観協会”. まちあかり景観協会. 2026年10月16日閲覧。
  4. ↑ “一戸一灯運動の実施をお願いします”. 宇都宮市. 2026年10月16日閲覧。
  5. ↑ “「一戸一灯運動」で地域を安全に!”. 橿原市. 2026年10月16日閲覧。
  6. ↑ “地域安全安心ステーション事業・南大通二丁目防犯防災安全部”. 警察庁. 2026年10月16日閲覧。
  7. ↑ 角舘政英、鈴木清久、関口克明、小林憲治、川島勇、野中太郎、堀江正浩、村井聡子「岩手県大野村のまちづくりにおける光環境整備」『平成14年度(第35回)照明学会全国大会講演論文集』2002年、76頁、doi:10.11515/ieijac.35.0.76.0。
  8. ↑ “あかりからのまちづくり”. ぼんぼり光環境計画. 2026年10月16日閲覧。
  9. ↑ 川島勇、下坪武史、永井俊介、本村洋、関口克明、角舘政英「元町の街路照明計画に向けた一考察」『照明学会誌』第87巻Appendix、2003年、94–95頁、doi:10.2150/jieij1980.87.Appendix_94。
  10. ↑ “元町仲通りの照明環境整備”. ぼんぼり光環境計画. 2026年10月16日閲覧。
  11. ↑ “長町・歩いて楽しい街並みの将来像(ビジョン)”. 仙台市. 2026年10月16日閲覧。
  12. ↑ “まちづくりの合意形成プロセス―海の見える港町の復興に向けた合意形成”. 復興庁. 2026年10月16日閲覧。
  13. ↑ “気仙沼照明社会実験”. 東京都市大学小林研究室. 2026年10月16日閲覧。
  14. ↑ “気仙沼「あかり物語」景観整備―内湾あかりのガイドライン”. ぼんぼり光環境計画. 2026年10月16日閲覧。
  15. ↑ “気仙沼市あかり物語・八日町民参加照明環境整備”. ぼんぼり光環境計画. 2026年10月16日閲覧。