アン・カーソン
Anne Carson アン・カーソン | |
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アン・カーソン(2024) | |
| 生誕 |
1950年6月21日(76歳) |
| 国籍 |
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| 最終学歴 |
トロント大学 セント・アンドルーズ大学 |
| 活動期間 | 1979年 - 現在 |
| ジャンル | 詩、エッセイ |
| 代表作 | 『赤の自伝』 |
| 主な受賞歴 | ノーベル文学賞(2026) |
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アン・カーソン(Anne Carson, 1950年6月21日 - )は、カナダの詩人、西洋古典学者、エッセイスト、翻訳家、大学教授。トロント出身。古代ギリシア・ローマ文学の研究を基盤としながら、詩、散文、エッセイ、翻訳、戯曲、オペラ、評論などのジャンルを横断する作品を発表している。古典文学の翻案と現代的な主題を組み合わせた独自の文体で知られ、代表作に『Autobiography of Red』(赤の自伝)、The Beauty of the Husband(夫の美しさ)、Nox(ノックス)、Float(フロート)、Wrong Norma(かみあわないノーマ)などがある。2026年、ノーベル文学賞を受賞した[2][3]。
経歴
生い立ちと学問
アン・カーソンは1950年6月21日、オンタリオ州トロントに生まれた。高校時代、ラテン語教師の助けを得て古代ギリシア語を学び始め、古代ギリシア文学・文化への関心を深めた。後年の創作と研究はこの古典学の素養に強く基づいている[4]。
トロント大学のセント・マイケルズ・カレッジで学び、途中で2度大学を離れたものの、1974年に学士号、1975年に修士号を取得し、1981年に博士号を取得した。博士論文はOdi et Amo Ergo Sumで、古代ギリシアの詩人サッフォーを中心とする研究であった[5]。
また、スコットランドのセント・アンドルーズ大学で古代ギリシア語の韻律を学んだ。古典語・古典文学に対する専門的な訓練は、後の詩作、翻訳、評論のいずれにも大きな影響を与えている[6]。2022年にはアイスランド国籍を取得し、現在はカナダとアイスランドの二重国籍となっている[1]。
大学教員として
カーソンは古典学者として大学で教鞭を執り、プリンストン大学では1980年から1987年まで教えた。その後、マギル大学で古典学の大学院課程に携わり、ミシガン大学、カリフォルニア大学バークレー校、エモリー大学などでも古典語・古典文学を教えた[5]。
古典学の研究者としての経歴は、カーソンの文学作品の大きな特徴でもある。彼女の作品では、古代ギリシアの詩人や劇作家、神話、哲学、古典的な物語が、現代の恋愛、喪失、欲望、身体、記憶などの問題と組み合わされている[4]。
文学活動
初期作品
1986年、古代ギリシア文学における欲望と愛を論じたEros the Bittersweet: An Essay(エロス、苦い味――エッセイ)を刊行した。同書は古典学の研究と文学的エッセイを融合させた作品であり、学術研究と創作の境界を横断するカーソンの方法を早くから示している[7]。
その後、Short Talks(ショート・トーク、1992年)、Glass, Irony, and God(ガラス、アイロニー、そして神、1995年)、Plainwater: Essays and Poetry(プレーンウォーター――エッセイと詩、1995年)などを発表した。これらの作品では、詩、散文、エッセイ、短い断章などの形式を横断し、通常のジャンル区分に収まりにくい文学形式を展開している[4]。
『赤の自伝』
1998年に発表したAutobiography of Red(赤の自伝)は、カーソンの国際的な評価を大きく高めた作品である。古代ギリシアの詩人ステシコロスが伝えるヘラクレスと怪物ゲリュオンの物語を現代的な物語へと再構成し、少年ゲリュオンとヘラクレスの関係を中心に、欲望、恋愛、喪失、自己認識などを描いた長編の詩的作品である[4]。
同作は詩と小説の境界に位置する作品として読まれ、カーソンのジャンル横断的な文学性を代表する作品となった。全米批評家協会賞の候補にもなり、北米を中心として広く注目を集めた[4]。
『Men in the Off Hours』とグリフィン詩賞
2000年にMen in the Off Hours(余暇の男たち)を刊行した。同作は短詩、詩的エッセイ、墓碑銘的な作品、散文、翻訳などを組み合わせた作品集であり、時間、死、愛、芸術、歴史などを多様な形式によって扱っている[4]。
同作は2001年にグリフィン詩賞のカナダ部門を受賞した。グリフィン詩賞の公式資料では、カーソンの作品が詩、詩的エッセイ、古典学的研究などを横断し、「詩集とは何であり得るか」を再定義する作品として評価されている[8]。
『The Beauty of the Husband』とT・S・エリオット賞
2001年にはThe Beauty of the Husband: A Fictional Essay in 29 Tangos(夫の美しさ――29のタンゴによる架空のエッセイ)を発表した。結婚生活の崩壊を題材としながら、詩、散文、物語、エッセイを融合させた作品であり、カーソンのジャンル横断的な方法をさらに推し進めた。[4]
同作により2001年、T・S・エリオット賞を受賞した。カーソンは同賞で初めて受賞した女性となった[9]。
また2000年にはマッカーサー・フェローに選出され、いわゆる「天才賞」として知られる同制度のフェローシップを受けた[10]。
古典文学の翻訳
カーソンは創作活動と並行して、古代ギリシア文学の翻訳にも取り組んできた。主な翻訳には、ソフォクレスの『エレクトラ』、サッフォーの断片を扱ったIf Not, Winter: Fragments of Sappho(もし冬でなければ――サッフォー断片集)、アイスキュロス、ソフォクレス、エウリピデスの作品を組み合わせたAn Oresteia(あるオレステイア)などがある[7]。
カーソンの翻訳は、単なる逐語的な翻訳ではなく、原典の断片性や余白、現代的な読者への効果を意識した文学的翻訳として知られている。特にサッフォーの断片を扱ったIf Not, Winterでは、現存しない部分を角括弧によって示すなど、古典テクストが断片としてしか伝わっていないことそのものを作品の構造に取り込んでいる[11]。
作風
カーソンの作品は、詩と散文、文学と学術、翻訳と創作、古代と現代といった境界を横断する点に特徴がある。古代ギリシア文学の研究者としての知識を文学作品の内部に持ち込み、神話や古典作品を現代的な人物関係や心理、社会的状況と組み合わせることで、既存のジャンルに分類しにくい作品を生み出している[4]。
特に、古典文学の断片や神話を現代の文脈へ移し替える手法は、Autobiography of Red(赤の自伝)やNorma Jeane Baker of Troy(トロイのノーマ・ジーン・ベイカー)などに顕著である。後者では、エウリピデスの悲劇『ヘレネ』とマリリン・モンローのイメージを重ね合わせることで、古代神話と現代文化の関係を扱っている[12]。
カーソンは詩だけでなく、エッセイ、散文詩、翻訳、評論、戯曲、オペラ関連作品などにも取り組んでおり、作品ごとに形式そのものを変化させることでも知られている。Poetry Foundationは、彼女の作品について、詩、エッセイ、台本、散文による評論、詩的な小説などを横断する「分類しにくい」出版活動として紹介している[4]。
近年の作品
2010年にはNox(ノックス)、2013年にはRed Doc>(レッド・ドック>)、2016年にはFloat(フロート)を発表した。Red Doc>はAutobiography of Red(赤の自伝)に登場した人物を再び扱う作品であり、カーソンが古典的物語と現代的な物語を長期にわたって変形させながら展開していることを示す作品の一つである[5]。
2019年にはNorma Jeane Baker of Troy(トロイのノーマ・ジーン・ベイカー)を発表した。同作はエウリピデスのHelen(ヘレネ)をもとに、トロイア戦争をめぐる古代ギリシアの物語とマリリン・モンローのイメージを重ね合わせた作品である。詩、演劇、古典翻案の境界を横断するカーソンの方法を代表する作品の一つとなった[12]。
2024年にはWrong Norma(かみあわないノーマ)を刊行した。同作は25編の詩的散文を収めた作品集で、ザ・ニューヨーカーやThe Paris Reviewなどに発表された作品も含まれている[13]。
Wrong Normaは2024年の全米図書賞詩部門の最終候補となった[14]。また、2025年3月に発表された2024年刊行作品を対象とする全米批評家協会賞では、詩部門の受賞作となった[15]。
ノーベル文学賞
2026年10月8日、カーソンがノーベル文学賞を受賞することが発表された[2][16]。授賞理由は「古典的伝統との遊び心あふれる対話を通じ、現代文学に新たな形式を創り出した、大胆かつ独創的な作品に対して」である[2][16]。
ノーベル文学賞の受賞に際して、カーソンの文学における古典との対話、詩・散文・翻訳などの形式を横断する創作、古代ギリシア・ローマ文学を現代的な文学表現へ変換する手法が改めて注目された。AP通信も、カーソンの作品が詩、エッセイ、フィクションを組み合わせ、古代ギリシア・ローマ文学の主題を現代的な文脈へ取り込んでいることを紹介している[12]。
カーソンは2019年にもノーベル文学賞の有力候補として報じられていた。当時、英国のブックメーカーNicer Oddsによる予想ではカーソンが首位に位置していた。ただし、これは受賞前の予想であり、実際の受賞とは区別する必要がある[17]。
主な作品
- Eros the Bittersweet: An Essay(エロス、苦い味――エッセイ、1986年)
- Short Talks(ショート・トーク、1992年)
- Glass, Irony, and God(ガラス、アイロニー、そして神、1995年)
- Plainwater(プレーンウォーター――エッセイと詩、1995年)
- Autobiography of Red(赤の自伝、1998年)
- Economy of the Unlost: Reading Simonides of Ceos with Paul Celan(失われなかったものの経済――ケオスのシモニデスをパウル・ツェランと読む、1999年)
- Men in the Off Hours(余暇の男たち、2000年)
- The Beauty of the Husband: A Fictional Essay in 29 Tangos(夫の美しさ――29のタンゴによる架空のエッセイ、2001年)
- If Not, Winter: Fragments of Sappho(もし冬でなければ――サッフォー断片集、2002年)
- Decreation: Poetry, Essays, Opera(デクリエーション――詩、エッセイ、オペラ、2005年)
- Nox(ノックス、2010年)
- Antigonick(アンティゴニック、2012年)
- Red Doc>(レッド・ドック>、2013年)
- The Albertine Workout(アルベルティーヌ・ワークアウト、2014年)
- Float(フロート、2016年)
- Norma Jeane Baker of Troy(トロイのノーマ・ジーン・ベイカー、2019年)
- The Trojan Women: A Comic(トロイアの女たち――コミック、2021年)
- H of H Playbook(HのH――プレイブック、2021年)
- Wrong Norma(かみあわないノーマ、2024年)
主な受賞・栄誉
- マッカーサー・フェロー(2000年)[18]
- グリフィン詩賞(2001年、2014年) — 2001年はカナダ部門でMen in the Off Hours(余暇の男たち)、2014年はカナダ部門でRed Doc>(レッド・ドック>)により受賞した[19][20]。
- T・S・エリオット賞(2001年) — The Beauty of the Husband(夫の美しさ)により受賞。女性として初の受賞者となった。[21]
- アストゥリアス皇太子賞文学部門(2020年) — 古典世界の研究を基盤として、古典的伝統と現代文学を結びつける革新的な詩学を構築したことなどが評価された[22]。
- カナダ総督文学賞英語詩部門(2020年) — Norma Jeane Baker of Troy(トロイのノーマ・ジーン・ベイカー)により受賞。2020年刊行作品を対象とする英語詩部門の受賞作となった[23]。
- PEN/ナボコフ賞(2021年) — 国際文学における生涯にわたる業績を対象とする賞であり、ジャンルや形式の境界を越え、古典と前衛を結びつける独創的な文学活動が評価された[24]。
- 全米図書賞詩部門最終候補(2024年、Wrong Norma(かみあわないノーマ))[14]
- 全米批評家協会賞詩部門(2024年度) — Wrong Norma(かみあわないノーマ)により受賞。2024年刊行作品を対象とし、2025年3月に受賞が発表された[15]。
- ズビグニェフ・ヘルベルト国際文学賞(2025年) — 古典的伝統との対話を基盤としながら、現代的な言語と形式によって文学の可能性を広げた業績が評価された[25]。
- ノーベル文学賞(2026年) — 「古典的伝統との遊び心あふれる対話を通じ、現代文学に新たな形式を創り出した、大胆かつ独創的な作品に対して」受賞した[2]。
日本語訳作品
脚注
- 1 2 “Lög um veitingu ríkisborgararéttar”. althingi.is. 2022年11月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年11月20日閲覧。
- 1 2 3 4 “Canadian writer Anne Carson wins 2026 Nobel Prize in Literature”. Reuters. 2026年10月8日. 2026年10月8日閲覧.
- ↑ 荒ちひろ (2026年10月8日). “ノーベル文学賞が決まる カナダの詩人アン・カーソンさん”. 朝日新聞. 2026年10月8日閲覧。
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 “Anne Carson”. Poetry Foundation. 2026年10月8日閲覧。
- 1 2 3 “Anne Carson”. Lannan Center for Poetics and Social Practice, Georgetown University. 2026年10月8日閲覧。
- ↑ “About Anne Carson”. Academy of American Poets. 2026年10月8日閲覧。
- 1 2 “About Anne Carson”. Academy of American Poets. 2026年10月8日閲覧。
- ↑ “Finalists & Winners: 2001”. Griffin Poetry Prize. 2026年10月8日閲覧。
- ↑ “Verse-novel on the death of a marriage wins T S Eliot poetry prize”. The Independent. 2002年1月21日. 2026年10月8日閲覧.
- ↑ “Anne Carson, Poet and Classicist, Class of 2000”. MacArthur Foundation. 2026年10月8日閲覧。
- ↑ “Avoid Having a Self: On Anne Carson’s “Wrong Norma””. Los Angeles Review of Books (2024年2月7日). 2026年10月8日閲覧。
- 1 2 3 “Canadian poet and essayist Anne Carson wins Nobel Prize in literature”. Associated Press. 2026年10月8日. 2026年10月8日閲覧.
- ↑ “Wrong Norma”. New Directions. 2026年10月8日閲覧。
- 1 2 “Wrong Norma”. National Book Foundation. 2026年10月8日閲覧。
- 1 2 “NATIONAL BOOK CRITICS CIRCLE ANNOUNCES WINNERS FOR PUBLISHING YEAR 2024”. National Book Critics Circle (2025年3月20日). 2026年10月8日閲覧。
- 1 2 野波健祐「ノーベル文学賞が決まる カナダの詩人アン・カーソンさん」『朝日新聞』朝日新聞社、2026年10月8日。2026年10月8日閲覧。
- ↑ “Here are the bookies’ odds for the 2019 Nobel Prize for Literature”. Literary Hub (2019年9月30日). 2026年10月8日閲覧。
- ↑ “Anne Carson, Poet and Classicist, Class of 2000”. MacArthur Foundation. 2026年10月8日閲覧。
- ↑ “Finalists & Winners: 2001”. Griffin Poetry Prize. 2026年10月8日閲覧。
- ↑ “Finalists & Winners: 2014”. Griffin Poetry Prize. 2026年10月8日閲覧。
- ↑ “Verse-novel on the death of a marriage wins T S Eliot poetry prize”. The Independent. 2002年1月21日. 2026年10月8日閲覧.
- ↑ “Anne Carson - Princess of Asturias Awards 2020”. Princess of Asturias Foundation. 2026年10月8日閲覧。
- ↑ “2020 Governor General's Literary Awards winners announced”. Canada Council for the Arts (2021年5月18日). 2026年10月8日閲覧。
- ↑ “2021 PEN America Literary Awards Career Achievement Winners”. PEN America (2021年4月8日). 2026年10月8日閲覧。
- ↑ “Anne Carson receives the 2025 Zbigniew Herbert International Literary Award”. National Library of Poland (2025年5月15日). 2026年10月8日閲覧。
外部リンク
- Poems by Anne Carson PoetryFoundation.org
- Anne Carson Facts the Nobel Foundation