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台湾地区

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
台湾地区の位置を示す地図

台湾地区(たいわんちく、繁: 臺灣地區)とは、中華民国政府の実効支配が及んでいる地域(台湾・澎湖・金門・馬祖及びその他島嶼)を指す呼称であり、中華民国の現行法律においては、対義語として「大陸地区」(実効支配が及んでいない地域を指す)がある[1][2]。自由地区(じゆうちく、繁: 自由地區)、台閩地区(たいびんちく、繁: 臺閩地區)、台澎金馬(たいほうきんば、繁: 臺澎金馬)などとも呼ばれる。一方、中華人民共和国政府も「中華民国の国家としての地位を承認しない」という立場から、中華民国に対し「台湾地区」の呼称を使用している[3]。

沿革

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動員戡乱時期

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1949年(民国38年)12月、第二次国共内戦に敗れた中華民国政府は台湾省台北市へ移転した。中華民国政府は自身の実効支配が及ぶ地域を「自由地区」、そうでない地域(中華人民共和国の実効支配地域)を「淪陷区」などと表現するようになった。1950年代に入っても支配地域の減少(海南島戦役・万山群島戦役(中国語版)など)が続いたが、1955年(民国44年)の大陳島撤退以降は、自由地区の範囲が「台湾・澎湖諸島・金門島・烏坵嶼・馬祖列島・東沙諸島・太平島・中洲礁」に固定化された。

政府の台湾移転後、実効支配領域が縮小し、両岸の分断状態が長期化したことにより、中華民国憲法の多くの規定をそのまま実施することが困難となった。このため、1966年(民国55年)に憲法の付加条項として改正された動員戡乱時期臨時条款において、初めて「自由地区」の語が条文上に盛り込まれた。また、政府は台湾・澎湖・金門・馬祖を拠点として中国大陸への復帰を図るという意味で「復興基地」の語も使用し、1987年(民国76年)の「復興基地居民赴大陸淪陷区探親弁法」などにその用例がみられる。

この時期に中華民国政府が使用した「台湾地区」は、台湾本島・澎湖諸島およびその附属島嶼のみを指し、「自由地区」とは同義ではなかった。例えば1987年に公布された「台湾地区解厳令」がこれに当たる。福建省の金門と馬祖では、中華人民共和国との軍事対峙の最前線に位置したことから戦地政務(中国語版)が実施され、政策上も「台湾地区」と区別して「金馬地区」と呼ばれることが多かった[4][5]。

中華民国政府における憲法増修前後の用語定義の相違
用語憲法増修前憲法増修後
自由地区 政府の実効支配地域。台湾・澎湖・金門・馬祖などを含む。 政府の実効支配地域。台湾・澎湖・金門・馬祖などを含む。
台湾地区 台湾および澎湖

動員戡乱時期の終了後

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中華民国で台湾地区の戒厳令が解除され、中華人民共和国でも改革開放が進展すると、1990年代以降、人的・経済的な往来の増加に伴って両岸関係は次第に緩和した。

中華民国は中華民国憲法増修条文、台湾地区と大陸地区の人民関係条例(中国語版)、香港澳門関係条例(中国語版)など、両岸関係を規律する新たな法律を制定し、「自由地区」「台湾地区」を中華人民共和国が統治する「大陸地区」と対置するようになった。現行法令・政府文書で中華民国政府の実効支配地域を示す主な用語は次の通りである。

  • 自由地区 - 『中華民国憲法増修条文』が『動員戡乱時期臨時条款』の用語を継承したもので、中華人民共和国の統治地域を「大陸地区」として対置する[6]。
  • 台湾地区 - 主として『台湾地区と大陸地区の人民関係条例』や『香港澳門関係条例』など両岸関係に関する法律で用いられる。前者では「台湾、澎湖、金門、馬祖及び政府の統治権が及ぶその他の地区」と明文で定義されている。
  • 台澎金馬(地区) - 一部の政府文書で、中華民国政府の実効支配範囲を示す際に使用される[7]。
  • 台閩地区 - 主として政府の統計資料で使用され、「台澎金馬」とほぼ同様の意味を持つ。ただし統計資料では、「台湾地区」は憲法増修条文や両岸人民関係条例制定以前の定義を踏襲し、台湾本島と澎湖諸島のみを指す場合がある[8]。

中華人民共和国では「中国公民往来台湾地区管理弁法」の制定後、「台湾地区」の語が法律上でも使用されるようになり、中華人民共和国政府は中華民国政府の実効支配地域を指す呼称として「台湾地区」を使用している。

各方面における認識の差異

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「台湾地区」という語に対する認識は、各当事者の政治的立場や法的解釈によって異なる。

主体 認識・立場 制度・運用
中華民国の旗 中華民国
  • 中華民国の国民の認識は一様ではなく、「台湾地区」を中華民国の一部とみなす立場と、「台湾」を中華民国の通称とみなす立場が存在する。主要な政治勢力である民主進歩党を中心とする泛緑陣営と、中国国民党を中心とする泛藍陣営でも、「中華民国」と「台湾地区」の関係について異なる解釈がみられる。
  • 泛緑陣営は、現在の中華民国と中華人民共和国は「互いに隷属しない」関係にあるとし、自国を「台湾」または「中華民国台湾」と称することが多い。また、総統と立法院がいずれも台湾地区の有権者によって選出されていることなどを理由に、「地区」の語を付すことを中華民国・台湾を矮小化する表現とみなす見解がある。
  • 泛藍陣営は「中華民国」の正式名称を用いることが多く、両岸問題については「大陸地区」「港澳地区」「自由地区」など現行法上の用語を使用し、『中華民国憲法』および『中華民国憲法増修条文』に基づいて両岸の関係を捉える傾向がある。「自由地区」は台澎金馬を指す。
  • 中華民国法制の下で両岸関係は単純な外交または内政として処理されておらず、特殊な国と国の関係(中国語版)(二国論)や一中各表(中国語版)など、両岸関係の性格をめぐる異なる解釈が存在する。
  • 中華民国政府は、1991年(民国80年)以降に整備された『中華民国憲法増修条文』『台湾地区と大陸地区の人民関係条例』『香港澳門関係条例』などを法源として、中華人民共和国が統治する中国大陸や香港・マカオとの関係を処理している。これらの法律に基づき、大陸委員会や海峡交流基金会が設置されている。
  • 中華民国政府は現在中国大陸に常設の駐在機関を置いていないが、香港・マカオには別名義で事務所を設置してきた[9]。2011年(民国100年)以降、それぞれ台北経済文化弁事処(香港)、台北経済文化弁事処(澳門)(中国語版)の名称を使用している。2021年(民国110年)7月には香港駐在の中華民国職員が全員撤収し、香港現地採用職員による運営へ移行した一方、澳門の事務所では中華民国職員の一部が引き続き勤務している。
中華人民共和国の旗 中華人民共和国
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
  • アメリカ連邦政府は『台湾関係法』、三つの共同コミュニケ、六つの保証などからなる政策に基づいて台湾との関係を処理しており、中華人民共和国の「一つの中国原則」とは異なる政策であるとしている[14]。
  • アメリカ政府は台湾を主権独立国家として承認しておらず、中華人民共和国の台湾に対する主権も承認していない。アメリカの政策上、台湾の地位は未決定(unsettled)とされる一方、台湾を政治的実体として扱い、条件が適合する国際機関への加盟や有意義な参加を支持している[15]。
  • アメリカは中華人民共和国政府を「中国」を代表する唯一の合法政府として承認し、中華人民共和国側が台湾は中国の一部であると主張していることを「認知」(acknowledge)している。
  • アメリカは中華人民共和国・中華民国のいずれかによる一方的な台湾海峡の現状変更に反対している。
  • 『台湾関係法』に基づき、米国在台湾協会が米台間の実務関係を担当している。同協会は台湾におけるアメリカの事実上の大使館として機能し、本部をワシントン都市圏に置き、台北と高雄に事務所を設置している。
  • アメリカ連邦政府が中華民国国民に発給する一部の身分証明文書では国籍・出生地等の表示に「Taiwan」が使用され、「Republic of China」を用いていない[16]。
  • アメリカ議会は、行政部門が台湾を中国の一部として描く地図を表示することを禁じる修正案を可決したと報じられている[17]。
日本の旗 日本
  • 日本国政府は『サンフランシスコ平和条約』で台湾・澎湖諸島に対する全ての権利・権原・請求権を放棄したが、その帰属先は規定されなかった。
  • 『日中共同声明』では、中華人民共和国政府を中国の唯一の合法政府として承認し、中華人民共和国側の「台湾が中華人民共和国領土の不可分の一部である」とする立場を十分理解・尊重し、「ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する」と表明した。当時の大平正芳外務大臣は台湾の地位について「サン・フランシスコ平和条約により台湾を放棄したわが国といたしましては,台湾の法的地位について独自の認定を行なう立場にない」としつつも、「カイロ宣言、ポツダム宣言の経緯に照らせば、台湾は、これらの両宣言が意図したところに従い中国に返還されるべきものであるというのが、ポツダム宣言を受諾した政府の変らざる見解であります。共同声明に明らかにされている『ポツダム宣言第八項に基づく立場を堅持する』との政府の立場は、このような見解を表わしたものであります」と、日中共同声明の条文の意図を説明した[18]。
国際連合の旗 国際連合

1971年、国際連合総会は賛成76、反対35、棄権17、無投票3で国際連合総会決議2758(アルバニア決議)を採択し、「中華人民共和国政府の国際連合におけるすべての合法的権利を回復する」と決議した。これ以降、中華人民共和国政府が国際連合において「中国」を代表しているが、同決議本文には台湾の地位についての記述はない[20]。

  • 中華人民共和国は国際連合加盟国であり、国際連合憲章に基づく安全保障理事会常任理事国である。中華民国は国際連合に加盟していない。
  • 一部の国際連合加盟国が、中華民国の「台湾」名義での国際連合加盟問題を総会議題に加えるよう提案したことがあるが、正式議題には採択されなかった。
  • 2016年、国際連合事務総長報道官のステファン・ドゥジャリクは、台湾南部地震に関する事務総長声明で用いられた「中国台湾省」という呼称について、国際連合が用いる正式呼称であると説明した[21]。
  • 2024年5月23日、ドゥジャリクは台湾海峡情勢に関する質問に対し、国際連合の立場として「台湾は中国の一省」であると述べた[22]。
  • ニューヨークにある国際連合本部では、中華民国旅券のみを身分証明書として入館することは認められていない。

脚注

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注釈

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出典

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  1. ↑ “臺灣地區與大陸地區人民關係條例” (中国語). 大陸委員會. 2015年6月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年6月19日閲覧。
  2. ↑ “入出國及移民法” (中国語). 移民署法規查詢系統. 2015年6月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年6月19日閲覧。
  3. ↑ “日本の外相が台湾地区の選挙に祝意を示したことに対し 駐日大使館報道官が談話を発表”. 駐日中華人民共和国大使館 (2024年1月16日). 2025年4月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年4月30日閲覧。
  4. ↑ “掀黑布、揭秘辛! 資深媒體人陳永富出書還原金馬民主發展史” (中国語). 自由時報. 2023年3月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年3月5日閲覧。
  5. ↑ “金門戰地政務時期『禁令』知多少?” (中国語). 2023年3月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2023年3月5日閲覧。
  6. ↑ “中華民國總統府 中華民國憲法增修條文” (中国語). 中華民国総統府. 2014年9月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年10月10日閲覧。
  7. ↑ “中華民國政府再次重申對臺澎金馬的主權地位” (中国語). 中華民国外交部. 2021年5月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2026年8月30日閲覧。
  8. ↑ “臺閩地區各縣市最近五年營利事業家數增長情形統計表” (中国語). 財政部財政資訊中心. 2020年5月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2026年8月30日閲覧。
  9. ↑ “駐港澳機構服務事項 行政院大陸委員會” (中国語). 行政院大陸委員會. 2007年11月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年8月23日閲覧。
  10. ↑ “《一個中國的原則與台灣問題》白皮書” (中国語). 国務院台湾事務弁公室 (2000年2月21日). 2017年6月12日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年6月18日閲覧。
  11. ↑ “錢其琛箝制兩國論港報反應不一” (中国語). 聯合報. 1999年8月21日. 2019年8月23日閲覧.
  12. ↑ “錢其琛警告香港不得宣傳或支持「兩國論」” (中国語). 行政院大陸委員會海峽兩岸關係紀要. 1999年8月. 2007年9月27日時点のオリジナルよりアーカイブ. 2019年8月23日閲覧.
  13. ↑ “政府就中華旅行社問題發表聲明” (中国語). 香港特區政府新聞公報. 2000年4月22日. 2015年9月24日時点のオリジナルよりアーカイブ. 2019年8月23日閲覧.
  14. ↑ Mark Lander (2016年12月12日). “川普宣稱美國不受「一個中國」原則約束”. ニューヨーク・タイムズ中文網 (中国語). 2021年5月7日時点のオリジナルよりアーカイブ. 2019年4月14日閲覧.
  15. ↑ “U.S.-Taiwan Relations” (英語). 米国在台湾協会. 2026年1月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2026年2月6日閲覧。
  16. ↑ “美聯邦政府網站:台灣人「國籍就是Taiwan」文件拒寫ROC” (中国語). ETtoday新聞雲 (2017年10月26日). 2021年2月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年6月18日閲覧。
  17. ↑ “美众议院通过修正案阻止中国地图包含台湾” (中国語). ドイチェ・ヴェレ. 2021年7月29日.
  18. ↑ “(2) 第70回国会における大平外務大臣の外交演説”. 外務省. 2025年6月4日時点のオリジナルよりアーカイブ。2025年12月9日閲覧。
  19. ↑ “日本戶籍國籍欄可填台灣正式上路 須加讀音、限制「閃亮名」” (中国語). 中央通訊社. 2025年5月26日. 2025年11月4日時点のオリジナルよりアーカイブ. 2026年2月6日閲覧.
  20. ↑ “UNBISnet: Voting Record Search: A/RES/2758(XXVI)”. 2016年9月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年6月18日閲覧。
  21. ↑ “潘基文對中國台灣省地震表示關切” (中国語). 国際連合ニュースセンター (2016年2月9日). 2016年2月20日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年2月10日閲覧。
  22. ↑ “Daily Press Briefing by the Office of the Spokesperson for the Secretary-General” (英語). United Nations (2024年5月23日). 2024年5月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年6月6日閲覧。

関連項目

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