血清ナトリウム
血清ナトリウム

血清ナトリウム(けっせいナトリウム、英語: serum sodium)とは、血清中のナトリウムの濃度である。 臨床検査としての血中ナトリウム濃度は血漿を用いて測定することもあり、単にナトリウムと呼ばれることも多い。 血清ナトリウムは、主に、水・電解質代謝異常のスクリーニング、および、高ナトリウム血症・低ナトリウム血症の病態の評価に使用される[1]。
概念
[編集]検査の目的
[編集]臨床検査としての血清ナトリウムは、基本的な生化学検査項目の一つであり、水・電解質代謝状態のスクリーニングに頻用される[注 1]他、水・電解質代謝の異常、特に高ナトリウム血症および低ナトリウム血症の病態の評価に使用される。 また、アニオンギャップを計算して代謝性アシドーシスの評価を行うために、重炭酸およびクロール(塩化物イオン)とともに測定されることがある[2][3][1]。
なお、血液ガス検査などではヘパリン加血を用いて血漿ナトリウム濃度が測定されるが、血清と血漿には通常臨床的に有意な差はなく [注 2]、 本記事での血清ナトリウムに関する記述は、特記しないかぎり、血漿ナトリウムにも適用される。検査項目名としては単にナトリウムと呼ばれることも多い。
生理的意義
[編集]人体のナトリウムは主に細胞外液に存在し、細胞外液の主要な陽イオンである。 ナトリウムの生理機能には、浸透圧維持や細胞外液量の調整・循環動態の維持、酸塩基平衡の調整、神経細胞や筋肉細胞の細胞膜の活動電位の生成(脱分極)などがあり、生命活動の維持に重要な役割を果たしている [1]。
ナトリウムは細胞外液量の維持に重要な役割を果たす。また、細胞外液の浸透圧は主にナトリウム(と随伴する陰イオン)により規定されている。細胞外液のナトリウムが増加し浸透圧が増加すると、ナトリウムイオンは細胞膜を通過しないため、細胞内の水が細胞外に移動し、細胞は収縮する。逆にナトリウムが減少し浸透圧が低下すると、細胞外の水が細胞内に移動して細胞は膨張する[1][4]。 なお、血液脳関門のため、脳組織には血液中のナトリウムは急速には移行しにくい。 そのため、血清ナトリウムが低下すると浸透圧により血中の水分が脳組織に移動して腫脹を来し、逆に血清ナトリウムが上昇すると脳組織の水分が血中に移行する。 脳は硬い頭蓋骨で囲まれているため、ナトリウム濃度の異常による脳の容量の変化は致命的になることがある[5]。
一方、カリウムは主に細胞内液に存在し細胞内液の主要な陽イオンであり、細胞内外のナトリウムとカリウムの濃度差は細胞膜のナトリウム-カリウムポンプにより維持されている。神経細胞や筋肉細胞の活動(脱分極)の際は、細胞膜のナトリウムチャンネルが開き、細胞外のナトリウムが細胞内に流入して活動電位が発生する[6][1]。
体内分布と体内の存在量
[編集]ナトリウムは、体内には、1.3から1.5 g/kg体重(60 mmol/kg前後)程度存在している[7](およそ1 g/kg体重[8]とする文献もある)。
体内分布は、およそ、細胞外液に55 %、細胞内液に2 %、骨などに43 %程度である。骨・軟骨や結合組織のナトリウムはプロテオグリカンに固定されて代謝的には活性が低く、交換可能なイオン化ナトリウムはほとんどが細胞外液に存在している[1][5]。
恒常性維持
[編集]血清ナトリウム濃度は、体内の交換可能なナトリウム量と水の量の相対的な関係で規定されている。 血清ナトリウムの異常は体液量の異常と密接な関連があり、 異常値は、食塩(NaCl)の過不足ではなく水代謝の異常を反映することが多い(ナトリウム値の上昇や低下があったとしてもナトリウムの絶対量の過不足が存在するとは必ずしも言えない)。 また、ナトリウムの過不足は、通常、浮腫・脱水など細胞外液量の異常としてあらわれる[1]。
血清ナトリウム値は、主に、生体内の水分保持に関わる浸透圧系(バソプレッシン)と、ナトリウムの保持と有効循環血液量の維持に関わる容量調節系(レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系とナトリウム利尿ペプチド)によりコントロールされており、腎臓での水やナトリウムの再吸収の調整により、非常に狭い範囲に維持されている[9][10]。
摂取量との関係
[編集]食塩の摂取量が血清ナトリウム濃度に与える影響は僅かであり、一ヶ月の減塩食(170 mmol/日前後から100 mmol/日前後、食塩にして10 g/日前後から6 g/日前後)で0.4 mmol/L前後の低下と報告されている[11]。これは日常臨床的には無視できる程度の値ではあるが、生理学的には細胞外液量の増加を通じて血圧の上昇に寄与すると推測されている[12]。(なお、日本人成人の食塩摂取量は、食事記録からは中央値10.1 g/日(ナトリウムにして約170 mmol/日)と推定されている[13][14]。)摂取されたナトリウムはほぼ全てが吸収され、その大部分が尿に排泄される[3][注 3]。
検体
[編集]通常、血清で測定するが[注 4]、ヘパリンで抗凝固した全血を用いる血液ガス検査時は同じ検体で血漿ナトリウム濃度を測定することも多い。ただし、血中のタンパク質やグルコースの濃度が異常高値の場合は、血液ガス検査装置に比べ、通常の生化学自動分析装置では低値となる場合がある[注 5][1][3]。
検査の方法
[編集]通常、イオン選択電極法で測定される(歴史的には、炎光光度計が用いられた)[3]。
結果の解釈
[編集]基準値
[編集]基準値としては、135〜145 mmol/Lがよく用いられる[3]。
- 診断基準
通常、135 mmol/L未満を低ナトリウム血症、145 mmol/Lを超えるものを高ナトリウム血症、とする[4]。
- 基準範囲
日本人の基準範囲(健康とみなされる基準集団の中央の95 %の範囲)は138〜145 mmol/Lである(JCCLSの共有基準範囲[15])。 (135〜137 mmol/Lは基準範囲外であるが、低ナトリウム血症には該当しない境界域である。)
- 単位
通常、国際単位系(SI)に準じて、ミリモル毎リットル(mmol/L)で表示するが、ミリ当量(mEq、メック)毎リットル(mEq/L)が用いられることがある。 ミリ当量はミリモルにイオンの価数を乗じて計算するが、ナトリウムは一価のイオンであるので、mmol/LとmEq/Lは同じ値になる。
- 生理的変動
食事による変動は僅かであり、通常は問題とされない(食塩6 gを含む食事摂取で血清ナトリウムは一過性に 3 mmol/L前後上昇との報告がある[16])。 血清ナトリウムに臨床的に意味のある性差や年齢差はないが、妊娠中は 3–6 mmol/L 低下する。これは視床下部の浸透圧受容体の閾値が低下するためである[17]。
高ナトリウム血症
[編集]診断基準
[編集]基準値上限145 mmol/Lを超えた高値は高ナトリウム血症とされる。 155 mmol/L以上の高値は重度の高ナトリウム血症とみなされることがある(施設によってはパニック値として扱う場合がある)[3][18]。
疫学
[編集]救急患者の1〜2 %程度に高ナトリウム血症がみられるとされる[4][19]。 乳児(胃腸炎、哺乳不十分など)と高齢者(特に自力で飲水困難な場合)でよくみられる。経口摂取が正常にできる状態では口渇のため飲水するので、高ナトリウム血症にはなりにくい[20][21]。
症状
[編集]口渇、皮膚・粘膜の乾燥、頻脈、易刺激性、興奮などが見られる。重度になると脱力感、高熱、傾眠、昏睡、痙攣などが出現することがある。重篤な合併症として、くも膜下出血や硬膜下出血がある(脳細胞の脱水により脳が収縮して脳表と硬膜を繋ぐ橋静脈の断裂が起きやすくなるため)[20][21]。
原因
[編集]高ナトリウム血症は高張性高浸透圧状態であり、通常、体内の水分(自由水)の相対的な欠乏により起こる。ナトリウムの過剰負荷によることはまれである。 水分欠乏の原因としては、水摂取不足(飲水不十分、口渇中枢障害)、腎からの水分喪失(尿崩症、尿糖やマンニトール投与による浸透圧利尿など)、腎外の水分喪失(下痢、嘔吐、発汗など)などがあげられる[3]。
- 水摂取不足
経口摂取の低下、または、口渇感の低下により水分摂取不足が起こりうる。 前者は、食欲低下、食事制限、消化管疾患・口腔咽頭疾患、高齢者・小児等で自分で適切に水分摂取できない場合などが該当する。 後者は、高齢者・精神障害における口渇認知の低下、視床下部口渇中枢の機能異常などでみられる。
- 腎からの水分排泄過多
原因としては、尿崩症(中枢性・腎性)、浸透圧利尿(コントロール不良の糖尿病、マンニトール投与、等)、利尿剤投与、高カルシウム血症、低カリウム血症などがあげられる。
- 腎外からの喪失
消化管(下痢・嘔吐[注 6]・ストーマなど)、皮膚(発熱、高温環境、発汗過多、熱傷、など)、 術後ドレーンなどがあげられる。(いずれにおいても、ナトリウムの喪失も伴っているが、水の喪失がより高度であれば、高ナトリウム血症に至る)。
- ナトリウム摂取過剰
ナトリウム摂取過剰による高ナトリウム血症は、医源性(高濃度のナトリウムを含む薬剤投与)や食塩中毒(自殺企図など)、海水での溺水などで起こりうるが、稀である。
- その他
原発性アルドステロン症などのアルドステロン過剰状態でナトリウム再吸収が亢進してナトリウム貯留がおきるが、まれに軽度の高ナトリウム血症がみられることがある(機序として浸透圧受容体の閾値の変化も示唆されている)[22]。
治療
[編集]原疾患への対策、有効循環血液量の維持、水分補給(可能なら経口的に)を行う。 急速な血清ナトリウム値の補正は、脳浮腫をきたすリスクがある[20][21]。
低ナトリウム血症
[編集]診断基準
[編集]通常、血清ナトリウム濃度が基準値下限の 135 mmol/Lを下回るものを低ナトリウム血症とする[23][4] [注 7]。 一般に、130〜134 mmol/Lは軽度、125〜129 mmol/Lは中等度、124 mmol/L以下は高度の低ナトリウム血症とみなされる[4]。
低ナトリウム血症の重篤度には時間経過も関係し、 通常、経過が48時間以内にものを急性、48時間を超えるか、または期間が不明のものを慢性とする[4]。
なお、高ナトリウム血症は、通常、高張性であるが、低ナトリウム血症は低張性とは限らず、 等張性ないし高張性の場合があり、後述の#偽性低ナトリウム血症、#移行性低ナトリウム血症を参照されたい。 以下、基本的に低張性の低ナトリウム血症について述べる[注 8]。
疫学
[編集]低ナトリウム血症はもっとも高頻度にみられる電解質異常である。 外来患者の約 7 %に低ナトリウム血症がみられ、全死亡リスク、悪性腫瘍、歩行不安定、骨粗鬆症、転倒転落に関連するとされる[4]。 また、入院患者の約 28 %[4]から35 %[23]に低ナトリウム血症がみられ[注 9]、死亡リスク(約2倍)や長期の入院に関連するとされる[4]。
症状
[編集]軽度の低ナトリウム血症では、症状に乏しいことが多い(原疾患によるものを除く)。中等度以上の低ナトリウム血症では、悪心や倦怠感が最初に出現することが多い。高度の低ナトリウム血症では、頭痛、傾眠、不穏、見当識障害などがみられる。高度の低ナトリウム血症が急速に発症した場合は、痙攣、昏睡、脳ヘルニアが出現して呼吸停止、死亡や永続的な神経学的後遺症に至ることがある[24]。
なお、低ナトリウム血症の症状の重篤度はナトリウムの低下速度にも依存し、慢性の低ナトリウム血症では高度の低ナトリウム血症でも症状に乏しいことがある[25]。
原因
[編集]低ナトリウム血症は、まず血漿浸透圧を確認して低張性かどうかを確認する場合がある。 低張性でなければ、後述の偽性低ナトリウム血症ないし移行性低ナトリウム血症である。 以下、低張性の低ナトリウム血症について述べる。
低ナトリウム血症は、ナトリウム喪失、水の貯留、またはその両者の組み合わせにより生じるが、多くの低ナトリウム血症は腎からの水排泄の低下による。 人体はナトリウムを体内に保持する能力が高く、ナトリウム摂取不足は、それ単独では、低ナトリウム血症の原因にならないのが通常である。
低ナトリウム血症のよくみられる原因としては、水過剰状態(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群(SIADH)、心因性多飲、水中毒)、 浮腫性疾患(ネフローゼ症候群、心不全、肝硬変など)、 腎からのナトリウム喪失(利尿剤、塩類喪失性腎症(腎臓のナトリウム再吸収障害)、鉱質コルチコイド作用不足・副腎不全など)、 腎外性のナトリウム喪失[注 6](嘔吐、下痢、ドレーン、熱傷、重症膵炎など)などがあげられる[3]。
低ナトリウム血症は、細胞外液量により分類されることが多く、以下、細胞外液量別に述べる。
細胞外液量増加を伴う低ナトリウム血症
[編集]ナトリウムと水の過剰である。頻度が多い。
- 浮腫性疾患
肝硬変、心不全、ネフローゼなどでは、 有効循環血液量が減っているため、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系が亢進して腎臓でのナトリウム再吸収が増加し、 尿中ナトリウムは低値(20 mmol/L未満)となるのが通常である[1]。
- 腎不全(急性、慢性)
腎臓でのナトリウム再吸収能が低下し、尿中ナトリウムは、通常、20 mmol/L以上である[1]。
細胞外液量の大きな変化を伴わない低ナトリウム血症
[編集]多くの場合、水過剰状態である。高齢者で顕性化しやすい。
- SIADH(ADH分泌異常症候群)
不適切に増加したADHにより循環血液量が増えると、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン系が抑制され、ナトリウム利尿ペプチドが分泌されるので、尿量と尿中ナトリウム排泄が増加する。尿中ナトリウム濃度は不適切に高く、20 mmol/L以上である(SIADH診断基準[26])[25]。
結果的に、循環血液量は正常ないし軽度増加に留まるがナトリウムが尿中に失われ低ナトリウム血症をきたすことになる[1]。 SIADHの原因としては、肺小細胞癌をはじめとする悪性腫瘍、中枢神経疾患、肺疾患、薬剤(カルバマゼピン、抗うつ剤、フェノチアジン、ビンクリスチンなど)をはじめ、様々なものが知られている[4][25]。
- 浸透圧閾値の再設定(reset osmostat)
浸透圧受容体の閾値が正常より低い値になっている。血漿浸透圧が下がればADHが抑制されるのがSIADHとの差である。妊娠時には浸透圧閾値の低下のため、血清ナトリウムが軽度低下する。
- 水中毒
運動中の水摂取(運動関連性低ナトリウム血症)、ビール多飲、心因性多飲症などによる。 尿中ナトリウム濃度は低下し、尿浸透圧は通常 100 mOsm/kg H2O 未満に低下する[27][1]。
- 甲状腺機能低下症
高度の甲状腺機能低下症でみられることがある[1]。
細胞外液量減少を伴う低ナトリウム血症
[編集]ナトリウムと水の両方が欠乏しており、ナトリウム喪失が水喪失を上回る状態と考えられる。
- 腎性のナトリウム喪失
原因としては、利尿剤(サイアザイド、ループ利尿剤)、浸透圧利尿、副腎不全、鉱質コルチコイド作用不足、塩類喪失性腎症、中枢性塩喪失症候群[注 10]、などがあげられる。 一般に尿中ナトリウム濃度は低下していない(20 mmol/L以上)[1][4]。
- 腎外性のナトリウム喪失
原因としては、嘔吐、下痢、腸閉塞などによる消化液吸引、高度の熱傷、重症膵炎(間質・サードスペースへの体液喪失)などがあげられる。 腎不全がない限り、尿中ナトリウム濃度は低下している(< 20 mmol/L)[1]。
低張性でない低ナトリウム血症
[編集]低ナトリウム血症は、通常、血漿浸透圧の低下を伴う(低張性)が、 等張性ないし高張性の低ナトリウム血症も存在することに留意する必要がある。
偽性低ナトリウム血症
[編集]著しい高脂血症・高タンパク血症等では、血漿中に水以外の物質が占める容積が増える(血漿中の水の比率が減少する)。 日常頻用される生化学自動分析装置では検体を希釈して測定するため(間接法によるイオン選択電極法)、 検査上は血中のナトリウムが低下したようにみえることがあるが真の低ナトリウム血症ではなく、偽性低ナトリウム血症とよばれる。 希釈せずに測定する方法(血液ガス分析装置など)では、偽性低ナトリウム血症は生じない。 血漿浸透圧は、通常、基準値内である(等張性低ナトリウム血症、偽性低ナトリウム血症)[3][1]。
移行性低ナトリウム血症
[編集]高血糖・マンニトールなどにより血漿浸透圧が上昇している場合、 細胞外への水の移動により血漿中のナトリウムが希釈されて低ナトリウム血症を呈することがある(移行性低ナトリウム血症)。 高張性の低ナトリウム血症である。 たとえば、グルコース100 mg/dL上昇につきナトリウムは1.6 mmol/L減少(400 mg/dL以上の著しい高血糖では2.4 mmol/L)とされる(このため、糖尿病性ケトアシドーシスなどにおいては、脱水があっても著しい高血糖のため、血清ナトリウムはそれほど高くならないことがあるので注意を要する)[28][29][4]。
治療
[編集]原因となる疾患の治療や病態への対策を行う。 体液量が減少している低ナトリウム血症では、生理食塩水補液を行うことがある。 体液量が正常または増加している低ナトリウム血症では水分制限と食塩の経口投与、トルバプタン(V2受容体拮抗薬)などが用いられることがある(海外では尿素の経口投与が行われることもある)[4]。
重篤な症状を伴う高度の低ナトリウム血症では 3 %高張食塩水を投与することがある[4]。
慢性の低ナトリウム血症で急速に血清ナトリウムを上昇させた場合の重篤な副作用として、中枢神経系の脱髄病変があり、浸透圧性脱髄症候群(ODS)と呼ばれる[注 11]。 ODSの危険因子がある場合は一日の血清ナトリウム上昇を 8 mmol/L未満に抑える緩徐な補正が推奨されている[26][23]。
関連する検査
[編集]血漿浸透圧
[編集]血漿浸透圧の大部分はナトリウムとそれに対応する陰イオンが担っているため、浸透圧はナトリウム濃度に並行して変化することが多いが、中毒物質(メタノールなど)や外因性浸透圧物質(エタノール、マンニトール、グリセロールなど)が血中に存在する場合は、ナトリウム濃度に見合わない高浸透圧が見られることがある。血漿浸透圧は偽性低ナトリウム血症(血漿浸透圧は通常正常)や移行性低ナトリウム血症(高浸透圧)の診断に有用である [30]。詳細は血漿浸透圧、浸透圧ギャップ参照。
尿浸透圧
[編集]尿浸透圧は血漿浸透圧の恒常性を維持するために広い範囲で動く。 血清ナトリウム濃度や血漿浸透圧に対し腎臓が適切な応答をしているかどうかで高ナトリウム血症や低ナトリウム血症の病態を推測することができる[3][30]。 詳細は尿浸透圧参照。
尿中ナトリウム
[編集]尿中ナトリウムは、血清ナトリウムと異なり、血清ナトリウムや有効循環血液量の恒常性を維持するために広い範囲の濃度を取る。 低ナトリウム血症・高ナトリウム血症がある場合、腎からの水またはナトリウムの喪失があるかどうかの判断に有用である。 一般に、尿中ナトリウムが20 mmol/L以下であれば、細胞外液量の減少や有効循環血液量の低下に対する適応反応としての腎でのナトリウム再吸収の亢進の可能性が考えられる[3][1]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ↑ 米国で頻用される生化学検査セットである包括的代謝パネルにもナトリウムが含まれている。
- ↑ 検査方法の項で述べるが、血清は通常希釈してからナトリウム濃度を測定するのに対し、血液ガス検査で血漿ナトリウムを測定する場合は希釈せずに測定するため、重度の脂質異常症や高タンパク血症では、結果が僅かに解離することがある。
- ↑ 食塩相当量(g)は、( ナトリウム(g) × 2.54 )である。ナトリウムの原子量は約23であるので、 ナトリウム(g)は、( ナトリウム(mmol) × 23 × 10-3 )である。
- ↑ 緊急検査の場合は、血清分離に要する時間を節約するため、ヘパリンで抗凝固した血漿を用いてナトリウムをはじめとする電解質などの生化学的検査を実施する場合もある。
- ↑ 血液ガス分析装置では直接に電極法で血漿ナトリウムを測定するため、タンパク質濃度等には影響されない。生化学自動分析装置では希釈して測定した結果から計算するため、結果は偽低値となる。偽低値がみられるのは血漿を用いて生化学自動分析装置で測定する場合でも同様である。
- 1 2 下痢・嘔吐などでは水分とナトリウムの双方の喪失がおきるが、経口摂取状況等により、ナトリウムの喪失に比べて水の喪失が多ければ高ナトリウム血症、ナトリウムの喪失が相対的に多ければ低ナトリウム血症が生じることもある。
- ↑ 血清ナトリウム範囲がJCCLS基準範囲を下回るが基準値下限を上回る領域である、135〜137 mmol/Lの領域の取り扱いは定まっていないが、入院心不全患者で血清ナトリウム 135〜137 mmol/Lの群は 139〜141 mmol/Lの群に比較し死亡リスクが大きいとの報告はある。Zhao, L., Zhao, X., Zhuang, X., Zhai, M., Wang, Y., Huang, Y., Zhou, Q., Tian, P., Liang, L., Huang, B., Huang, L., Feng, J., Zhang, Y., Zhang, J. (16 March 2023). “Hyponatremia and lower normal serum sodium levels are associated with an increased risk of all‐cause death in heart failure patients”. Nursing Open 10 (6): 3799–3809. doi:10.1002/nop2.1638. ISSN 2054-1058.
- ↑ 低張性低ナトリウム血症は低浸透圧性であることが多いが、厳密には、低張性と低浸透圧性は異なる。高尿素窒素血症を伴う低張性低ナトリウム血症では浸透圧は必ずしも低くないが、尿素は有効浸透圧物質ではないため、低張性と分類される。張度も参照。
- ↑ 原因は不明であるが、浸透圧調節機構の異常ともいわれる。
- ↑ 中枢性塩喪失症候群とは、頭部外傷、クモ膜下出血などの中枢神経疾患に関連して、ADHの不適切分泌によらずに尿へのナトリウム喪失と低ナトリウム血症が生じる病態である。交感神経系の機能障害やナトリウム利尿ペプチドが関連しているともされるが、詳細は解明されていない。
- ↑ 浸透圧性脱髄症候群は、かつては橋中心髄鞘崩壊症(CPM)と呼ばれたが、橋以外にも病変がみられることがある。
出典
[編集]- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 高木康, 山田俊幸, 大西宏明 編『標準臨床検査医学』(第5版)医学書院、2023年。ISBN 978-4260049672。
- ↑ 櫻林郁之介 編『今日の臨床検査2021-2022』南江堂、2021年5月15日、190-194頁。ISBN 978-4-524-22803-4。
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 黒川清, 春日雅人, 北村聖, 大西宏明, 高久史麿『臨床検査データブック』医学書院、2021年、200-202頁。ISBN 9784260042871。 NCID BC05045707。
- 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 Miller, N. E., Rushlow, D., Stacey, S. K. (15 November 2023). “Diagnosis and Management of Sodium Disorders: Hyponatremia and Hypernatremia”. American Family Physician. 108 (5): 476–486. ISSN 1532-0650.
{{cite journal2}}: CS1メンテナンス: authors引数 (カテゴリ) - 1 2 Sterns, R. H. (2015). “Disorders of Plasma Sodium — Causes, Consequences, and Correction”. New England Journal of Medicine 372 (1): 55-65. doi:10.1056/NEJMra1404489.
- ↑ 酒井正樹 (2012). “その2:細胞はいかにして興奮するか”. 比較生理生化学 29 (2): 76–86. doi:10.3330/hikakuseiriseika.29.76.
- ↑ 嶋田昌司「電解質異常をみる検査 (特集 日常頻用される検査値を読み解く!) -- (病気・病態と検査)」『月刊薬事』第58巻第9号、じほう、2016年7月、2093-2102頁、ISSN 0016-5980、NAID 40020896821。 (
要購読契約) - ↑ Mole, R. H. (November 1984). “Sodium in man and the assessment of radiation dose after criticality accidents”. Physics in Medicine and Biology 29 (11): 1307–1327. doi:10.1088/0031-9155/29/11/001. ISSN 0031-9155.
- ↑ 玉置清志, 奥田誠也 (2003). “2.ナトリウム代謝調節障害”. 日本内科学会雑誌 92 (5): 720–727. doi:10.2169/naika.92.720.
- ↑ 太田樹, 内田俊也 (2015). “I.水・ナトリウム代謝異常”. 日本内科学会雑誌 104 (5): 906–916. doi:10.2169/naika.104.906.
- ↑ He, F. J., Markandu, N. D., Sagnella, G. A., Wardener, H. E. de, MacGregor, G. A. (January 2005). “Plasma sodium: ignored and underestimated”. Hypertension 45 (1): 98–102. doi:10.1161/01.HYP.0000149431.79450.a2. ISSN 1524-4563.
- ↑ He, F. J., Tan, M., Ma, Y., MacGregor, G. A. (18 February 2020). “Salt Reduction to Prevent Hypertension and Cardiovascular Disease”. JACC (American College of Cardiology Foundation) 75 (6): 632–647. doi:10.1016/j.jacc.2019.11.055.
- ↑ “「日本人の食事摂取基準(2025年版)」 ミネラル(多量ミネラル)”. 厚生労働省. 2026年6月21日閲覧。
- ↑ “日本人の食事摂取基準(2025年版)の策定ポイント”. 厚生労働省. 2026年6月21日閲覧。
- ↑ 「日本における主要な臨床検査項目の共用基準範囲 ー解説と利用の手引きー 2022/10/01 版」.日本臨床検査標準協議会 基準範囲共用化委員会 編. (PDF)
- ↑ Suckling, R. J., He, F. J., Markandu, N. D., MacGregor, G. A. (February 2012). “Dietary salt influences postprandial plasma sodium concentration and systolic blood pressure”. Kidney International 81 (4): 407–411. doi:10.1038/ki.2011.369. ISSN 1523-1755.
- ↑ Morton, A., Teasdale, S. (2022). “Physiological changes in pregnancy and their influence on the endocrine investigation”. Clinical Endocrinology. 96 (1): 3–11. doi:10.1111/cen.14624. ISSN 1365-2265. 2026年5月31日閲覧.
{{cite journal2}}: CS1メンテナンス: authors引数 (カテゴリ) - ↑ Kathpal, E., Boehm, E., Nguyen, C. S., Vogrin, S., Hamblin, P. S. (April 2024). “Systemic and iatrogenic factors contribute to the development of severe hypernatraemia in vulnerable inpatients”. Clinical Endocrinology 100 (4): 350–357. doi:10.1111/cen.14978. ISSN 1365-2265.
- ↑ Imai, N., Shibagaki, Y. (1 March 2019). “The prevalence of dysnatremia in the elderly patients without CKD”. The American Journal of Emergency Medicine 37 (3): 499–501. doi:10.1016/j.ajem.2018.12.004. ISSN 0735-6757.
- 1 2 3 Sonani, B., Al-Dhahir, M. A. (2023). Hypernatremia. StatPearls Publishing
- 1 2 3 土井研人 (2022). “Ii.高ナトリウム血症”. 日本内科学会雑誌. 111 (5): 912–916. doi:10.2169/naika.111.912.
{{cite journal2}}: CS1メンテナンス: authors引数 (カテゴリ) - ↑ Ganguly, A. (1998). “Primary Aldosteronism”. New England Journal of Medicine. doi:10.1056/NEJM199812173392507.
- 1 2 3 Adrogué, H. J., Tucker, B. M., Madias, N. E. (19 July 2022). “Diagnosis and Management of Hyponatremia: A Review”. JAMA 328 (3): 280. doi:10.1001/jama.2022.11176. ISSN 0098-7484.
- ↑ Reynolds, R. M., Seckl, J. R. (2005). “Hyponatraemia for the clinical endocrinologist”. Clinical Endocrinology 63 (4): 366–374. doi:10.1111/j.1365-2265.2005.02318.x. ISSN 1365-2265.
- 1 2 3 Yasir, M., Mechanic, O. J. (2023). Syndrome of Inappropriate Antidiuretic Hormone Secretion. StatPearls Publishing
- 1 2 “間脳下垂体機能障害と先天性腎性尿崩症および関連疾患の診療ガイドライン2023年版”. 日本内分泌学会雑誌 99 (S.July): 1–171. (2023). doi:10.1507/endocrine.99.S.July_1.
- ↑ 角浩史, 冨永直人 (2022). “I.低ナトリウム血症~その病態に基づいた鑑別診断~”. 日本内科学会雑誌 111 (5): 902–911. doi:10.2169/naika.111.902.
- ↑ Hillier, T. A., Abbott, R. D., Barrett, E. J. (April 1999). “Hyponatremia: evaluating the correction factor for hyperglycemia”. The American Journal of Medicine 106 (4): 399–403. doi:10.1016/s0002-9343(99)00055-8. ISSN 0002-9343.
- ↑ Raimann, J. G., Tzamaloukas, A. H., Levin, N. W., Ing, T. S. (2016). “Osmotic Pressure in Clinical Medicine with an Emphasis on Dialysis”. Seminars in Dialysis. doi:10.1111/sdi.12537.
- 1 2 Berend, K., De Vries, A. P. J., Gans, R. O. B. (9 October 2014). Ingelfinger, J. R.. ed. “Physiological Approach to Assessment of Acid–Base Disturbances”. New England Journal of Medicine 371 (15): 1434–1445. doi:10.1056/NEJMra1003327. ISSN 0028-4793 2025年12月23日閲覧。.